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【NOVEL】アートマン 第5話

「ふふふ、自我の目覚めとは、やがて統合への架け橋となる」

短気「誰だ?」

「驚かせて済まない。あまりにも隣の部屋が盛り上がっている様だったので、お邪魔させてもらうよ。自己紹介をしたいところだが、ここでは準矛盾が生じてしまうので止めておこう」以下【虚栄】と呼ぶ。

短気「何でも良いが、お前の姿は我々と大いに異なるのはどうしてだ?まるで別人ではないか」

虚栄「ふふ、確かにそうだ。私は君たちよりも美しい、あるいは上等であるという意識の度が過ぎているからね。でも、そう認識しているのはここだけの話さ、傍から見ればアイドル志望の女の子の踵に過ぎない」

短気「ううん、またややこしい奴が出てきた。とても同居人とは思えん」

中道「まぁ、それで【虚栄】とやらの言い分を聞こうじゃないか。」

虚栄「そもそも、私は君たちのように、精神的本性に基づいた、深い所で抑圧されている住人では無い。中学受験を経て、中高一貫校に入学したものの、私の役割は小学校の頃からちっとも変っていない。いや、むしろ年々増長したように見える。周囲の期待に応えるために、勉強し、思うような結果が出なければ、嘘を付く。悪いことをすればごまかし、周囲と馴染むために、自分をも取り繕う。私が言うのも何だが、こうなった引き金を引いたのは間違いなく私であろう」

短気「つまり、分裂の原因はお前だと言うのか。期待に応えるために、見栄を張り続け、結果取り返しがつかなくなった、と」

悲観「ただ、人間の青年期というものは、概して必要以上に自分を良く見せようとする時期でもある」

青春「分かるよ、でも現状、学生社会に適合するにはそうするしか方法はなかった。たとえ窮屈な気持ちであっても、それで周りが受け入れてくれるのであれば、僕は僕らしくいることができたのだから」

一同「…」

中道「うん、若気の至りで片付けるには勿体ない内容かと思われる。だが、【虚栄】と【青春】の言い分は、一般性を持ち得るものであって、特段、君たちの主張によって器の崩壊を招いたとは言い難い。
どうか、自身を責めるのだけは止めていただきたい。なぜなら、二方の主張は、エリクソンの発達段階における、後期青年期の発達課題にも似ており、言うならば特別な感覚ではない。君たちが原因であれば、昨今の青年たちの死亡率は軒並み高いはずだ。そうした傾向は決して見られないわけで…問題は、社会人になるタイミングと成熟の度合いに大きな開きがあった点だと思う」

一同、同意。

悲観「だからこそ、裏目に出たのが私だったのさ。青春の謳歌は正に今の自分を大事にする自尊心の現れ。一方で、誇張した自分を大事にするあまり、この器は己に陶酔してしまい、結果、実社会に通用しなかった」

短気「うん、だからその主張はさっき聞いたではないか。言い回しが違うだけだ」

悲観「…」

短気「大体、さっき成熟というワードがあったが、この言葉も昨今どうも胡散臭い。成熟している大人というのは、一体どれほどの人間が社会人として、俗に言う『一人前』として認知されているのだ。人間の目指すものが、『成熟した社会人』であれば、それがイコール、統合状態になり得るのか」

青春「その点については、僕も甚だ疑問に思っていた。それこそ、目標の無い大人と同じようにね。何をすべきかだけを模索し、時にはそれを自分の子供にまで押し付け、洗脳し、それも教育と銘打ってだ!
彼らには、何を(what)では無く、どう(how)あるべきかというパラダイムシフトが全くない。なぜだかわかるか?ただの流行さ!僕らは人生という旅の道中、一瞬だが自我に目覚めたと言っても良い。知識欲が強い僕らに、今流行りの教育方法で、説明欲の強い教師たちが注入してきた」

悲観「評価…」

虚栄「うん、外的な価値への過度なフォーカスは、偽りの自分をつくり出す引き金となる。要するに、成績における序列によって、我々は人間的にどう(how)あるべきかを彼らに教えて欲しかった。
いや…意図的に教えるとまではいかなくても、無意図的に悟らせることはできないのだろうか」

中道「なるほど、そもそも評価というものは、与えられたタスクに対して数値やアルファベットで標準化しているに過ぎない。それも、少々危うい標準化だ。一方で、人間は成長するので、一つのコミュニティだけに留まることはできない。外部との接触がある際、評価というものは、相互におけるある種の担保のようなものであり、尚且つ本人のアイデンティティにも成り得る。成績や資格、功績などが良い例だ」

短気「待て、その担保という考え自体がおかしい。まるで、当人の人格までも図れる言い方じゃないか」

中道「…人格に関しては、対面による意思疎通を確認すれば良い。それに、そもそも人間というのは『成熟』さえしていれば、本来、外的刺激の影響を受けない。今現在の論点は、この器における『成熟』の度合いについて議論していただき、その後に『統合』について議論してみてはどうか」

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ここまで読んでいただきありがとうございました。第6話は近日投稿するので、よろしくお願いします。

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