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70代のスイス人がワインを運んでいた——東南アジアで見た『動く人』と『止まる人』

タイのホアヒンの街角に、一軒のレストランがあった。

スイス人の経営者が営む、欧米料理とタイ料理の融合店。看板も、内装も、ユニフォームも、どこかヨーロッパの香りがする、洒落た雰囲気の店だ。

ふらりと入って、グリーンカレーを頼んだ。

口に運んだ瞬間、思わず顔がほころんだ。

上品で、繊細な味わい。

スパイスの効き具合、ココナッツミルクのまろやかさ、野菜の食感——どれも丁寧に整えられている。これまでアジア各地で食べてきたグリーンカレーの中でも、間違いなく上位に入る一皿だった。

◆ 70代のオーナーが、ワインを運んでいた

店内・木のテーブルとテラス席

店内を見渡すと、白髪の白人の男性が、忙しそうに動き回っていた。

ワイングラスを両手に持ち、テーブルからテーブルへ。客の表情を見ながら、「料理はどうかな?」と笑顔で声をかけていく。

——年齢は、おそらく60代後半から70代。

このレストランのオーナーだ。

スイスから移住してきて、ここで店を始めたのだという。客のほとんどが欧米からの観光客で、夕方になると満席に近くなる。現地のタイスタッフも10人ほどいて、テキパキと動いている。

タイのホアヒンという、東南アジアの一角で、70代のスイス人が、自ら経営するレストランで、客にワインを運んでいる。

その姿を見ながら、不思議な感慨に包まれた。

この人は、人生の後半戦を、ここで「もう一度始めている」

◆ 「もう一度、何かを始める」ことを選んだ人

ホアヒンの街を歩くと、年金暮らしらしき欧米のシニアを、本当によく見かける。彼らの多くは、この地に長期滞在しているという。

日本では、定年後は「自宅で過ごす」「老人ホームに入る」というのが、標準の選択肢だ。

しかし欧米のシニアたちは、もう一つの選択肢——「世界のどこか、好きな場所で暮らす」——を、当たり前のように手に取っている。

そして、スイスから来た70代のオーナーは、その究極の形だった。

老後を「過ごす」のではなく、もう一度、自分の人生を動かすことを選んだ人だった。

◆ シェムリアップにいた、20代の日本人

シェムリアップの街で、見たことを思い出した。

一人で参加していた、大学生らしき日本の青年。

ツアーの集合場所で、彼は黙って立っていた。誰にも話しかけず、誰からも話しかけられず、スマホを見つめている。観光地でも、レストランでも、一人で静かに過ごしていた。

彼を見たとき、ふと、昔の自分を見ているような気がした。

20代の頃、私も海外を一人で旅していたことがある。英語に自信もなく、人見知りもあり、外国人に話しかけることに大きな抵抗があった。同じ場所にいる人々と、心地よく会話することができなかった。

「もったいなかったな」と、今になって思う。

せっかく海外まで来ているのに、自分の殻に閉じこもったままでは、得られるものは半分以下になる。

それでも、踏み出すことができない。動きたいのに、止まっている。

そういう状態だった。

◆ 「年齢」と「行動」の関係

その夜、ホテルに戻りながら、考えていた。

70代のスイス人は、人生の後半戦に、海外で起業し、毎日働いている。
20代の日本人は、海外まで来ていながら、誰とも話さず、スマホの世界の中に閉じこもっている。

——これは、年齢の問題ではない。

「動く」か、「止まる」か——その選択が、年齢とは関係なく、人生の手触りを決めていた。

70代でも、動く人は動いている。
20代でも、止まる人は止まっている。

そして、動く人と止まる人の差は、1日や1週間では見えないが、5年、10年、20年の時間軸で、決定的な違いになっていく。

◆ 「動く」とは、何か


グリーンカレー、サテー、炒め物を頂く。美味しい。

「動く」と言っても、必ずしも、海外移住や起業を意味しない。

  • 新しい人と話すこと

  • 新しい場所に行くこと

  • 新しい本を読むこと

  • 新しいスキルを学ぶこと

  • これまでとは違う発信を始めること

  • 誰かに、自分から声をかけること

これらは、すべて「動く」ことだ。

逆に、

  • 毎日、同じ人としか会わない

  • 毎日、同じルートしか通らない

  • 毎日、同じ情報しか見ない

  • 新しいことを、何も始めない

これらは、すべて「止まっている」ことだ。

そして、ここで重要なのは、「動く」は意志の問題であり、年齢の問題ではないということだ。

70代のスイス人は、意志を持って動いていた。
20代の日本人は、意志を持って動くことが、できなかった。

差は、それだけだった。

◆ 結び

旅の最終日、もう一度、あのレストランの前を通った。

夕暮れのレストラン外観・温かい灯りが灯る

夕暮れの中、70代のオーナーが、店の入り口に立って、客を迎えていた。
相変わらず、忙しそうだが、お客と楽しそうに会話をしながら、接客をしていた。

その姿を見ながら、私は、自分自身に問いかけた。

「自分は、動いている側にいるか?」

「動きを止めていないか?」

40代、50代、60代——どの年齢になっても、この問いは、有効だ。

そして、もし「最近、止まっているかも」と感じたら、今日、何か小さな一歩を踏み出せばいい。

新しい人にメッセージを送る。
読んだことのない本を一冊買う。
行ったことのないカフェに入る。
やったことのない仕事に手を挙げる。

その小さな一歩の積み重ねが、5年後、10年後の自分を、まったく違う場所に運んでくれる。

動いている人は、年齢に関係なく、輝いている。

止まっている人は、年齢に関係なく、しぼんでいる。

そして、私たちは、毎日、その選択を繰り返している。

東南アジアの夕暮れの中で、そんなことを考えていた。


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