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映画レビュー:「すずめの戸締まり」

結論からいえば、若者よりも、30代以降に向いている内容だったと思う。
当たり前の日常は当たり前ではない。「行ってきます」「行ってらっしゃい」「気をつけてね」。日常のやりとりの価値を再認識する作品でした。

(以下、具体的なネタバレあり)

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主人公は高校生の女の子(すずめ)で大学生の男子(草太)を追う物語。今まで新海誠さんはboy meets girl的な物語が多かったが、本作では完全にヒロイン目線で描かれている。エウレカセブンの男女逆物語の感もあった。
「天気の子」は現実なのかファンタジーなのか、中途半端な世界観が気になったが、本作はわかりやすいファンタジーなので、前作よりも割り切って感情移入することができる。

本作の趣旨は、どんなに辛いことがあっても前を向いて歩いていこう、誰かが見てくれている、ということか。
加えて、一瞬一瞬を大切に生きよう、というメッセージもあるだろう。

本作では明確に東日本大震災の影響を受けており、それが重要な種明かしにもなっている。途中まで本作はいつの時代か描かれていない。すずめは3.11で母親を失くすというシナリオは、「君の名は。」で主人公の入れ替わりに数年のタイムラグがあったこと似たトリックが使われている。

新海誠が得意とする精密な生活描写、風景描写は本作でも発揮されており、私が実際に訪れたことがある場所もたくさん描かれていた。
東日本大震災などの災害はいつ起こるかはわからない。本作で描かれたリアルな風景も1年後に消えている可能性もゼロではない。
その意味では、新海誠の作品は写真のような記憶装置、歴史の年表のような効果を狙っている。何でもない日常は、当たり前のようで当たり前ではない。当たり前の風景、人間関係を見直すきっかけにもなるかもしれない。
大切な人が交通事故で急にいなくなることもある。本作の「戸締り」、それに付随した「行ってきます」「行ってらっしゃい」「気をつけてね」という当たり前のやりとりも、予想外に最後のやりとりになることだってある。

鑑賞者が、東日本大震災を経験しているか否か、子供をもつ親か否か、身近な人を亡くした経験があるか否か、などによっても本作の感想は実感をもって変わるだろう。普段「鬱陶しいなぁ」と思う間柄の人がいたとしても、本作を見た後は1mmでもその感情に変化が起こっているかもしれない。反対に、10代の若者が本作を見ても、「ファンタジーか?映像はきれいで、最後はめでたしで良かったな」というだけで終わるかもしれない。

本作はきっと新海誠が東日本大震災の現場に赴き、そこの人たちと話した経験などから作られたのだろう。今日まで普通に暮らしていた生活が戦争によって次の日には難民になっていることも世界では起きている。
私は、身近な人を亡くしたことがあり、「またいつでも会えるだろう」と思っていたらそれが叶わなくなったことがある。そんな私には、一日一日、人とのつながりを大切にしよう、というメッセージはしっかり伝わった。

なお、世界観が説明不足であること、ヒロインや周りの登場人物の行動が予定基調な感もあった。「君の名は。」→「天気の子」→「すずめの戸締り」という流れは、細田守の「時をかける少女」からの連作で普遍的な世界観になっていき、当初の輝きをなくしていったシナリオと似ている。
「秒速5センチメートル」で引き込まれたファンにとっては本作は期待していたカタルシスやノスタルジーがなく、期待はずれな感もあるだろう。
「天気の子」よりは上だが、「君の名は。」は越えられていない印象だ。
次回があるなら、是非、原点回帰を意識した作品を作っていただきたい。

満足度:★★★★☆

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