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ジャズキス#3「学びすぎた人間たちへ 音楽家を縛る“ジャズの呪い”(ゲスト:スエナガタカフミ)」

よく芸事で使われる「守破離」という言葉。しかしAI時代に入り、このなかでも特に「守」の概念が揺れている。

これが必要だと考える人は温故知新の妙を得る代償として、膨大な知識を学ぶことに人生の多くを費やすだろう。不要という考えは自由で制限のない活動ができる反面、ある一定の時期に自分の基礎のなさに落胆するだろう。

現在ジャズ界隈において、前者の立場から強い主張を展開するのが第1回目のゲスト・二見勇気だ。彼は歴史的視座から基礎なきインチキジャズを切っていくわけだが、必ずしも後者が誤りという訳ではない。第3回目となる公開取材「ジャズキス」の内容はそれを考えさせる内容だった。

ゲストはバークリー音楽大学を首席で卒業して帰国したピアニスト・スエナガタカフミ。学べば学ぶほどに陥る「ジャズの呪い」と彼はどのように対峙しているのか。さらにジャズ史における出来事や論争を現代的に紹介する、YouTuberとしての活動についても語ってもらった。

取材&撮影:小池直也
場所:下北沢・No Room For Squares



パトリック・バートリーとの関係

――まずはスエナガさんのキャリアについて聞きたいのですが、出身が東北大学なのですね。

スエナガタカフミ(以下、スエナガ):そうですね。工学部で応用物理を学んでいました。学部を出たというだけで自慢できるような感じでもないんですけどね(笑)。

――当時から演奏活動をされていたのですか。

スエナガ:地元・仙台で音楽活動をしてましたが、やっぱり本場でジャズを深く学びたいという気持ちがあって渡米を決めました。

――その後バークリー音楽大学に入学されますが、その時のことも知りたいです。

スエナガ:色々な評判があるとは思いますが4年間、貴重な経験をさせてもらいました。ギタリストの井上銘さんや寺久保エレナさん、木村紘さん、小田桐和寛さんなど同時期に在学されていた方は多いです。

卒業後はニューヨークで基本的にはギグや個人レッスン、たまにレコーディングなどをしたり、ジャムセッションやライブにもたくさん行きました。日曜日にはチャーチを2件回って演奏したり。音楽に囲まれた豊かな街だと思います。世界中から凄腕が集まるし、現役のレジェンドたちにも会えましたね。

――帰国したのはなぜ?

スエナガ:2018年に帰国しましたが、理由としてはビザが切れるタイミングだったのは大きいです。とはいえ、更新しようと思えばできたと思いますけどね。残っていたとしてもコロナ禍があったので、どうなっていたかは不明です。

――東京に住んでいたパトリック・バートリー(Patrick Bartley)さんとも、バンド「Patrick Bartley's DREAMWEAVER」を結成するなど度々演奏されていましたね。彼との関係は?

スエナガ:もともと2015年頃にパトリックのバンド・J-MUSIC Ensembleに参加していて。彼はエメット・コーエン(Emmet Cohen)のYouTube番組「Live from Emmet's Place」で世界中に知られたと思いますが、以前から素晴らしいサックスプレイヤーでした。

演奏はもちろんのこと、音楽の歴史にも精通していますし、今私がやろうとしていることを体現してくれていた存在のひとりですね。

(上)いまや若手アルトサックス奏者のスターのひとりとなっているパトリック・バートリーは日本音楽の愛好家でもあり、J-MUSIC Ensembleを主催。ここではカウボーイビバップのOP曲「TANK」をカバー。本田雅人のソロをコピーしているのも興味深い。

(中)スエナガ在籍時の映像。
Perfumeの名曲「ポリリズム」のリリース10周年演奏ということになっている。

(下)日本で初掲載されたインタビューは小池が担当した。

ジャズで後回しにされがちな「伝え方」


――歴史といえば、スエナガさんはYouTuberとしてジャズにまつわるエピソードや時事ネタ、過去の論争を掘り起こして現代的に問うような内容の動画を発信されています。なぜYouTubeを始められたのでしょう?

スエナガ:2020年以前は日本語字幕が付いていないジャズのドキュメンタリー動画が多かったんです。YouTubeの翻訳機能も優秀ではなかったので、友人に訳してほしいと頼まれていて。当時はちょうどコロナ禍で余裕もあり、どうせなら多くの人に見てもらおうと翻訳動画を作ってアップしたのが最初でした。

それから英語圏では有名だけど、言語のせいで日本に広まらない動画に字幕を付け始めたんです。プレイヤー向けの内容ではあるのですが、個人的に知ってほしいものから手を付けていった感じで。

――この公開取材を始めたきっかけのひとつとして、「ジャズミュージシャンのインタビューが少ない」という問題がありました。宣伝費がないのと、読まれないから取り上げられないということが主な原因として挙げられると思いますが、スエナガさんの動画はジャズのコンテンツのなかでは再生数が多い。それはなぜだと分析しています?

スエナガ:YouTubeには、あらゆるジャンルの動画が並んでいますから、どこまでいってもジャズはニッチなジャンル。アルゴリズムなども関係すると思いますし。そのなかであえて理由を上げるのであれば、有名なプレイヤーを取り上げているからかなと。

最近はネットで探せる昔のジャズ雑誌『ダウン・ビート』のバックナンバーを見て、目隠して音源を聴く企画「ブラインドフォールド・テスト」のページなど気になったものを取り上げて動画にしています。

(上)スエナガがYouTuberとして最初にアップした翻訳動画。

(中)ジャズ雑誌『ダウンビート』のバックナンバーから発掘した、チャーリー・パーカーのインタビュー。

(下)ピアニストのリッチー・バイラークが語る、チェット・ベイカーとの演奏について。

――AI生成した会話の動画もありますね。興味深かったです。

スエナガ:私のような、おじさんが画面に向かって話すよりかはいいかなと思ったんですよ(笑)。AI音声生成は読み間違いが多いし、細かい調整が効きませんが、工学部出身なので新しいツールには興味があります。特にマスを狙ってはいませんが、なるべく新規の人に伝えたいので常に「どう表現したら視聴者にわかってもらえるか」は考えていますね。

そう考えると日本で人気な「ゆっくり解説」も興味深くて、ああいうものも参考にしながら色々と試しています。同じことを言うにしても別の方法の方が伝わるのであれば、私はそちらを選びますね。やっぱりジャズにおける「伝え方」の問題は大きいと感じます。

――AIといえば、菊地成孔さんの声明が炎上していたことも既に過去のようにも感じますが、スエナガさんは肯定的?

スエナガ:パトリックは画像をスタジオジブリ風の絵に変換する「ジブリフィケーション」が流行った時に「宮崎駿に対するリスペクトがない」と声明を出してました。これに対して私自身も同感する部分はありつつ、もう止められないとも感じます。だから「どう使うか」に舵を切るしかないのかも。もちろん無自覚に使うのはよくないと思いますが。

学ぶ必要があるのに、学ぶほど呪われる


――本企画の第1回目ゲスト・二見勇気(ゆうこりん)さんは「正しいジャズ」について、音から歴史が聴こえてくるものだと定義していました。しかしながら、UK由来のアシッドジャズやクラブジャズ、椎名林檎さんの音楽などをジャズだと感じる人が必ずしも根本のルーツを尋ねる必要はない、という考え方もある気がします。

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