見出し画像

君に知ってほしい、魅惑の限定万年筆


①はじめに

 こんばんは、ボクは万年筆好きのミミズクであるナルコスカル。軽く自己紹介すると、ボクの外見はあまりにもハロウィン適性が高すぎて、10月以外は「季節外れになにやってるんだ?」と言われそうな気がして怖い。

これは着ぐるみ工房にお願いした、ボクの着ぐるみのデザイン画(実物の納品は来年秋ごろ)。ドクロの仮面がハロウィン感を強めている。

 それはともかく、君は「限定万年筆」というものを知っているだろうか? 各万年筆メーカー・ブランドは、数量限定や一部店舗・イベント限定で、限定カラー・モデルの万年筆を製造する。万年筆ファンの中では、そういう限定品を好む者が少なくない。かくいうボクも、16本の一軍万年筆のうち10本は限定品だ。

 今回は「君に知ってほしい、魅惑の限定万年筆」と銘打ち、ボクがコレクションとして所有しているそれらの魅力を語っていく。

ボクは生成AIを決して否定しないが、AIはまだ「本物の美しさ」を出せない。

 この記事が、君の「知的好奇心の刺激」「万年筆選びの一助」になれば幸いだ。ボクと一緒に夜の帳のもとで同じ時間を過ごす準備ができたなら、さっそく始めていこう。

②パイロット・カスタム823(フォルカンニブ)

 文具ファンで『パイロット』の名を知らない者はいないだろう。数百円のボールペンから、上位ブランド「Namiki」の名で高級蒔絵万年筆まで製造する、日本を代表する筆記具メーカーだ。

「カスタム」はパイロットのフラグシップモデル。ペン先やボディーの材質、大きさ、搭載された機能などの様々なバリエーションが存在する。

『カスタム823』はカスタム中価格帯モデルの一つ。最大の特徴は「プランジャー式吸入」と呼ばれる、手軽で大容量インクタンクの吸入方式だ。内部ロッドをボディー外へ露出させながら上下させることで、負圧を発生させボディー内のインクタンクへ一気にインクを吸入できる。

 カスタム823のペン先は、同じく中価格帯の「カスタム743」と互換性がある。743は823よりペン先バリエーションが広く、多数の特殊ペン先ニブがラインナップされている。

 東京の「アサヒヤ紙文具店」では、パイロットが例外的に特別製造した、743特殊ニブを搭載した823を販売している。今回紹介するのは、「フォルカンニブ」という超軟調ペン先を搭載した、『カスタム823・フォルカンニブ』だ。

 パイロットの軟調ペン先は、万年筆ファンの間で世界的に人気だ。同じパイロット製軟調ニブでもモデルごとに特徴が異なり、823(743)の「15号フォルカンニブ」は、軟らかさの中にコシがある実用性が高さがウリだ。

フォルカンニブは両サイドがえぐれたような形状と最低限の刻印などにより、超軟調を実現している。

 823は743よりも自重があり、ペン先にかける筆圧を下げられる。823・フォルカンニブの書き心地は、よい意味で思考が筆記に追いつかないほど軽快そのもの。弾力のある清々しい筆記体験ができる。

 ボクはカスタム823・フォルカンニブを、「実用万年筆の最適解」だと認識している。「なんだかんだ言って一番の相棒」とも。君が至上の筆記感を追い求めるなら、是非このペンを手に入れてほしい。

③ヴィスコンティ・オペラマスター『アンタークティカ』

『ヴィスコンティ』は古都フィレンチェに本社を構えるイタリアブランドだ。創業は1988年、ふたりの万年筆コレクターによって始まった。100年越えの歴史を持つメーカー・ブランドが多い文具界の中では、比較的若いブランドと言えるだろう。

 ヴィスコンティの「オペラ」はボディーの多面体カットが美しいステンレス合金製ペン先搭載モデルで、『オペラマスター』は18カラットゴールド製ニブを搭載した上位モデルだ。

 ヴィスコンティの上位モデルはかつて、23カラットのパラジウム製ペン先だったけど、現在はゴールド製に仕様変更している。

 オペラマスターは基本的に限定品で構成されたラインナップで、数量限定かつ個体ごとにシアルナンバーが振られている。今回紹介する『アンタークティカ』は南極をモチーフにしており、半透明の青レジンと不透明の白レジンでボディーが構成されている。まさに青が海で、白が流氷のようだ。

特徴的なアーチ型のクリップ。フィレンチェの名所である「ベッキオ橋」をモチーフにしている。

 この「(半)透明と不透明レジンのマーブル模様」は、なかばヴィスコンティのお家芸となっている象徴的なものだ。同じモデルでも個体ごとに模様の入り方が異なり、シリアルナンバーと相まって無二のペンを体現している。

 マニアが始めたブランドなだけあって、ヴィスコンティ製のペンは個性的な機能・形状を多数搭載している。二層式インクタンクのプランジャー吸入、ネジ山ではなく鉤状の溝にキャップ内部の突起を引っかけて閉めるキャップ。そして、ハート穴(ペン先中央の穴)が三日月型のペン先だ。

余談だけど、イタリア製貴金属製品には、それを示す刻印が入れられている。その中には地域の略称と、事業者ごとの固有番号がある。ヴィスコンティの番号は1425。やはりフィレンチェは金細工の街だ。

 現在のヴィスコンティはニブを自社製造している。「ドリームタッチ」と名づけられたパラジウム製時代よりも劣るが、ゴールド製の現在でも相応の筆圧をかけるとペン先が開き筆致に抑揚が出る軟調仕様を残している。

 君が万年筆に個性を第一に求めるなら、ヴィスコンティは最良の選択肢になるだろう。

④セーラー万年筆・プロフェッショナルギアスリム『ラムネブルー』

 文具店や文具関係の組織は、限定のオリジナル万年筆や万年筆インクを販売することがある。その時によく製造を担うのが、日本三大万年筆メーカーの一角である『セーラー万年筆』だ。

日本三大万年筆メーカー:パイロット、プラチナ万年筆、セーラー万年筆

 『プロフェッショナルギアスリム・ラムネブルー』は、「報画堂」というショップの限定カラーだ。ラムネ瓶をイメージした爽やかで瑞々しいこのカラーリングは当時大好評で、限定万年筆では珍しく一度再販されている(写真に映っているインク吸入機構兼インクタンクである「コンバーター」は、別売りの純正カラバリ品を装着)。

 ラムネブルーは今でも中古市場で人気があり、若干プレミア価格で取引されている。ボクは中古万年筆を扱うショップで、美品状態の個体を定価とほぼ同じ値段で購入した。

 また、ラムネブルーには姉妹品である「ラムネグリーン」というカラーも存在する。こちらも限定品だ。

 ベースとなったセーラーのプロフェッショナルギアスリムは、同社中価格帯の万年筆。セーラーといえば21カラットのゴールド製ニブや、「長刀研ぎ」と呼ばれる特殊ニブが有名だ。しかし、プロギアスリムは14カラットの、セーラーの中では比較的小型のゴールド製通常ペン先を搭載している。

このペンは洗浄のタイミングで撮影した。インクを抜いていると、乾燥を気にしなくていいので撮影難度が低くなる。

 しかし、この14Kニブは癖が極めて少なく、ビギナーでもヘビーユーザーでも扱いやすい。さらに、プロギアスリムは携行性・実用性が高い小柄なボディーだ。ラムネブルー以外にも、セーラー内外の様々な限定品ベースに選ばれているのでカラバリ豊富。これらによってプロギアスリムは、万年筆ファンの間から「隠れた名品」として定評を受けている。

 君が「筆記具で個性を演出したい。だけど、海外製の限定品を選べるほどの予算はないし、実用性の高さは妥協したくない」と考えるなら、ラムネブルーのようなプロギアスリムベースの限定品は、君のステディになり得るだろう。 

⑤モンブラン・マイスターシュテュック『グレイシャー・ドゥエ』

 この章から、一段と装飾性が高い限定品を紹介していく。上昇気流へ乗るように最後まで楽しく続けていこう。

 全ての筆記具ブランドの中で、知名度において『モンブラン』の右に出る者は皆無だろう。「筆記具の王」の異名を持つ、高級志向のブランドだ。始まりは筆記具メーカーだけど、現在は商品展開が多角化していて、バッグやベルトなどのレザー製品、腕時計、ヘッドホンなどのデジタル機器も取り扱っている。

 モンブランの限定品はブランドの格に見合う、個性とデザイン性が魅力だ。今回紹介する『グレイシャー』は、モンブラン山を流れる氷河をモチーフにした限定品シリーズで、『ドゥエ』はモンブランのラインナップにおいて金属キャップ・樹脂ボディー仕様を表す。

 余談だけど、ボディーとキャップが両方とも金属製なのが「ソリテール」、ボディーとキャップが両方とも金属製かつ二者の色が分かれているのが「ソリテール・ドゥエ」だ。

背景として選んだものは、フランスの記念切手。シャネルとジバンシィだけど、どちらも切手販売サイトで1シート1,500円程度で購入した。もちろん日本では切手として使用できない。

 ボクが言葉を並べなくても、モンブランの美しさは上記の写真で一目瞭然だろう。あえて説明するなら、キャップに三角形の凹凸を並べ、さらにプラチナメッキとサテン仕上げまで施している。まさに万年筆のキャップ上で表現された、氷河のきらめきだ。定期的に限定品をリリースするモンブランの製造技術が遺憾なく発揮されている。

 キャップリングはペン先やクリップと並ぶ、メーカー・ブランドの顔だ。各社とも個性を出してくる。モンブラン・マイスターシュテュックの場合は、太さが異なる三連リングだ。グレイシャー・ドゥエでは、リングの間に梨地状のパーツを挟んでいる。これもきらびやかな光沢を放っていて、色彩から察するに雪の表現なのかもしれない。

 多くのメーカー・ブランドでは、限定品でもペン先は定番品と同一であることが多い。しかし、モンブランではペン先刻印も限定だ。この刻印は、氷河をドラゴンに見立てた絵画作品からの引用だ。ベースがフラグシップであるマイスターシュテュックなので、限定刻印でも象徴的な「4810(モンブラン山の標高)」が入っている。

 君が万年筆に品格ある装飾性を求めるなら、モンブランは君にとっての「得物」になるはずだ。

⑥ペリカン・スーべレーンM600アートコレクション『ルディ・ローザ』

 上記の限定万年筆は現在でも生産中か数年前の限定品なので、君は肉眼やネット上で何度か見かけたことがあるかもれしない。

 最後に紹介するのはドイツブランドの『ペリカン』製の限定万年筆で、日本での発売は2025年10月の新作、『スーべレーンM600アートコレクション ルディ・ローザ』だ。

 フラグシップシリーズである「スーべレーン」について、簡単に触れておこう。スーべレーンはゴールド製ペン先搭載で、名前の数字が大きくなるほどペン先とボディーサイズがそれに比例する。ボディーのストライプ模様は、シリーズを越えてペリカン自体のアイコンになっている。

「アートコレクション」は2023年から始まった新シリーズだ。スーべレーンM600をベースにそのボディー上で、ペリカンの歴代ポスターからインスピレーションを受けたデザイン・カラーをまとわせている。

 第2弾であるルディ・ローザは、その名の通りイラストレーターであった故ルディ・ローザ氏が描いたポスター画の、スカートの色彩と柄を万年筆ボディーとして再現している。

 縦線状かつ螺旋状のギョーシェ彫りの上に、絵柄が描かれているボディーの精巧さがたまらなく美しい。ボクはアートコレクションを「ストライプを捨てたペリカン」だと勘違いしていたが、これもまた「ペリカンを構成するストライプの一つ」だった。

螺旋状のギョーシェ彫りにより、角度によっては絵柄が歪んで見えるさまも美しい。

 公式の説明文によると、真鍮製パーツにギョーシェ彫りを施し、そこへラッカーを重ね塗りし磨き上げ、表面を均一にしたところで絵柄を印刷したとのことだ。

ギョーシェ模様:製品の表面に対する細かな溝彫り加工。元々は近世ヨーロッパで生まれ、時計において視認性を高めるために文字盤へ施された。現在では他分野でも取り入れられている。また、現代では職人の手彫りだけではなく、加工機械も存在する。

 正直に言って、ボクはアートコレクションシリーズに対して非常に肯定的だ。今までのスーべレーンベース限定品は基本的に、「ストライプ模様のカラバリ・ヨーロッパ製でよく見かけるマーブル模様」か、「値が張る蒔絵万年筆」という、若干極端なものだった。そこにアートコレクションが加わったことで、蒔絵系と同レベルの装飾性を与えられたものが、蒔絵系よりも安価で手に入ることになった。

 本体のベースとなっている樹脂は定番品カラーとは全く異なる、青緑系なのも好印象だ。ペン先は定番品と同一だけど、元々刻印のデザイン性の高さで定評がある。

このペンに入れるインクはまだ選んでいない。ほぼ衝動買いだったので、新しくインクを買う予算がない。

 また、アートコレクションの外箱は汎用的なものではなく、本体であるペンのほかに、ミニポスターや小冊子が同封された専用ボックスだ。著作権の関係で内容の写真はないが、小冊子にはペリカンポスター画の歴史やルディ・ローザ氏の紹介、ペンの技術的解説などが載っている。「安くはない金額を出してもらうからには、少しでもユーザーに価値を還元したい」というペリカンの良心と矜持がにじみ出ている。

小冊子の巻末が保証書を兼ねていると思われるが、日本では独自の保証書がつくようだ。

 ペリカンサーガの新章であるアートコレクション。ボクと同じように「書く芸術」に心を奪われたなら、是非君のコレクションに加えてほしい。

⑦おわりに

 ここまでお読みくださり本当にありがとうございます。今回はさまざまな限定万年筆を一緒に鑑賞したが、君にはどうだっただろうか?

 もしかして、君は精巧に加工され磨かれた樹脂や金属より、ケモノの毛並みの方が好きだろうか? それなら遠慮はいらない。ボクの自慢のモフモフ胸元に顔をうずめて、思いきりハグしてほしい。

 ……ああ、冗談はこれくらいにしておこう。

 今回紹介した万年筆以外にも、国内外の各メーカー・ブランドで多様な限定品が展開されている。今でも新作が生産されているし、中古市場で盛んに取引されている。

 基本的に定番品よりも高価であることが常だけど、限定品には限定品にしかない魅力が詰まっている。夜のハンターであるミミズクのボクがそうであるように、君が「これだ」と思ったペンに出会ったときには、迷わず掴み取ってほしい。

 今夜はここまでにしておく。ボクの翼がそれを望んだ時に、また君のもとに戻ってこようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!