【風まかせ文芸部】二度寝【1000字小説】
「二度寝ってできないんだよね」
と片桐さんは何かのときに言っていたのだ。
なんで片桐さんとそんな話になったのかは、全然思い出せない。
ただ、どうしてそれを思い出したかと言えば、件の片桐さんが、まさに今この瞬間、俺の家で二度寝をしているからだった。
地方公演も入れて約三か月は続いた舞台の仕事が無事千穐楽を迎えて、昨日は全体の打ち上げだった。
大道具の俺と役者の片桐さんは、同じ打ち上げ会場でも、座ったテーブルはバラバラだった。なのになぜか、終電を逃した片桐さんを、打ち上げ会場から近いというだけの理由で、俺の家に泊めることになった。
役者・片桐ツトムを家に泊めるイベント。
人生のバグかなんかだろうか。
朝になってから、冷静になって思った。
ていうか終電逃したからって、スタッフの家に泊めるなんて危ないだろ、だれかタクシー乗せろよ、と今更に思う。
リビングを覗くと、ソファーベッドの上、客用布団にくるまって、片桐さんが寝ている。
俺の家には、裏方仲間が転がり込むこともあって、家で誰かが寝泊まりすること自体は珍しいことじゃない。けれど、それも人間が違うとこうも家の雰囲気が変わるものかと思ってしまう。
片桐さんが寝ているだけで、決して広くない1LDKの乱雑な俺の家のリビングが、映画のセットみたいだ。
「……写真とか撮ったらだめだろうな」
片桐さんと俺は友だちと呼べるほど親しい関係ではない。
だから、きっとこんなことはもう二度とない。
そう思うとなんだか、写真でも撮っておきたいという衝動が生まれた。
せめて誰かにLINEでもして、
『今、家に片桐ツトムいるんだぜ』
って自慢したい。
もちろんしないんだけど。
いくらなんでもミーハーすぎるし、俺にだって職業的倫理感はある。
そんなことを思っていると、片桐さんは唐突にむくっと起き上がった。
きょろきょろとあたりを見回して、俺のことを認めると、不思議そうに首を傾げている。
「お、はようございます」
「笹田君……?」
「です。笹田です」
名前知ってんだな、と地味に感動した。
そんな俺を置き去りに、片桐さんは布団に潜り込もうとしている。
「片桐さん?!」
「ねむい……ねかせて」
「いや、べつにいいけど、仕事とかは?!」
「俺今日やすみだからだいじょうぶ、おやすみ」
「二度寝、してんなー」
とりあえず、コーヒーでも淹れよう。
片桐さんは、いつになったら起きるのか。片桐さんを家に泊めるイベントはもう少し続くみたいだ。
iさんが主宰されている、以前から気になっていた、風まかせ文芸部さん。
初めての参加です。
四回目の企画と知って、
四の数字を持つ四四田としては、なんとか参加せねばと!(ちょっと自分でもよくわからないモチベーションである)
ビジョンを持たないまま、風に任せて「二度寝」とお題を打ち込んだところから、するっと不思議な二人組が生まれました。
愉しい企画をありがとうございます。
また参加させていただきたいです。
※見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
