【noteでBL】赤い夕陽のその先に【3000字小説】
※こちらは企画参加作品です。
皆様こんにちは、四四田です。
#noteでBL 11弾!
四四田は6回目の参加、今回もよろしくお願いいたします。
今回のお題は、
「夏祭り」「ゾンビ」「水」でした。
なみさん、今回も参加させていただきありがとうございます!!
お題が好きだなあと余裕こいてたら締め切りになってました。
職場がはちゃめちゃ繁忙期だというのに、調子に乗って参院選にはしゃいで街頭演説に遊びに行ってた四四田がいけない。
さいきんオカルトホラーとかSFとかに心ひかれすぎてまして、BL!?って感じに……。題材としてはかなりあるあるな要素ですが、こういうあるあるも書いてみたかったのです。
気を抜くとスプラッタになりかねない手癖があるので、締め切り当日で時間ないのに、つい今し方までめちゃくちゃリライトしてしまいました……。危なかったぜ……。
これでもかなり全年齢向けにしたつもりなんですが、R18(グロ)になってたら指摘してください直します…。
※見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。
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パシャンという水音がして、目を覚ました。
窓の外の真っ赤な夕陽に、ふと違和感を感じてから、慌てて飛び起きる。違和感の正体は、よくわからない。そのもやもやした感覚に一瞬ぼうっとして、はた、と気がつく。
一体いつのまにこんな時間まで眠っていたのだろう、と。
手元のスマホを引き寄せると、記憶している限りもう出かけていないといけない時間だった。
そうだ、自分はこれから出かけるのだ。
まだ頭が回っていないけれど、約束があるんだ。
それなのにうっかりうたた寝をしてしまって、こんな時間に。
窓の外の色合いに、自分が寝過ごしたことを感じ取っての違和感だったのだろう。
というか、遅刻だ。
慌てて出かける支度をして、バタバタと階段を駆け降りた。
「ねえ、俺出かけるからって言ったじゃん、なん……」
何で誰も起こしてくれないのか。
そう当たり前のように続けるつもりだった言葉が尻すぼみに消えていく。
飛び込んだリビングには誰もいなかった。赤々とした西日が、薄暗いリビングに差し込んでいる。
日曜の夕方。
いつもならバイトに行くのだと、家中をねーちゃんが動き回り、その様子をリビングで両親がくつろぎながら見ている、そんな時間のはず。
けれど今は誰もいない。
べつに、いなくても構わない。日曜なのだから、家族に用事があってもいいだろう。そういう日だってある、それなのに。どうして今日に限ってこんなに居心地が悪いのだろうか。
目が覚めた時の違和感が、また、ふつと湧いてくる。
そんな家から逃げ出すように、外へ出た。
家の近所も妙に静かな気がする。
もしかするとこれは夢の中なんじゃないだろうか、という気配の希薄さに、立ち止まって自分の顔をつねってみた。
「いたい……」
ちゃんと痛い。ということは、これは夢の中ではなく、どうやら現実らしい。
どこか納得のいかない気持ちで、歩いて行くと、待ち合わせ場所にした郵便ポストの前に、クラスメイトの小山が立っていた。
こちらを振り返ると、ホッとしたような顔になった。
どっと、自分の心拍数が上がるのがわかった。心臓が早鐘のよう、とはこういうことを言うのだなと思う。
そうだ。小山と約束をしていたのだ。
一緒に夏祭りに行こうって。
「及川!」
小山が俺の名前を呼びながら駆けてくる。
「ごめん、遅れて。待たせたよな」
「いや、こっちも今来たところだし、べつに」
と言って、小山ははにかんだように笑う。
待ち合わせの定番すぎて気恥ずかしい会話をして、小山は当たり前のように俺の手を取った。冷たい手だ。
自分たちは、こんなふうに気兼ねなく、手を取られるような関係だっただろうか。
小山に手を引かれて歩く夏祭り会場はごった返していて、さっき歩いていた時の人の気配の無さが嘘のようだった。
奇妙なほど赤かった夕日もいつの間にか夜空になって、並んだ提灯が風に揺れている。人の笑い声や、にぎやかな祭囃子、屋台の呼び声、そんなものが溢れている。
むっとした空気が少し息苦しいだけで、とくに問題のない、絵に描いたように楽しいばかりの夏祭りの夜だ。
制服姿ばかりを見て来た小山の私服は、水色の半そでシャツに、ベージュのパンツ。特に目立っておしゃれというわけでもない気がするのに、新鮮で、学校で見るよりも大人びて見える。
それでいて、こちらを見上げる笑顔はいつもと同じだから、どういう態度でいればいいのか。
俺が緊張していることなんか、ちっとも気にした素振りのない小山は、楽しそうに屋台をひやかして歩いている。
焼きそば、たこ焼き、クレープ、射的にわなげ。最近はやりのアニメキャラのお面がならんでいる。綿菓子の袋もお面と代わり映えのないラインナップ。それを、あれは知っているだの、これは懐かしいだのと、指さして歩く。
そうして屋台の行列の一番最後。
神社の本殿に一番近いところに、色とりどりのヨーヨーが浮かんだ屋台があった。
その鮮やかなヨーヨーを見た瞬間、ずきりと頭が痛んだ。
「これやるか」
と、小山が屋台の前でしゃがみ込む。
釣り針を手に、小山が真剣な顔でヨーヨー釣りをしている。視界にノイズが走る。
「取れた!」
朗らかな声を上げて、小山がオレンジ色のヨーヨーを掲げて、こちらを振り返った。その後ろに、出来の悪いB級ホラーゲームの敵キャラみたいなものが、食らいつこうとしているのが見えた。
咄嗟に声を上げる間もなく、小山の腕を思い切り掴んで引き寄せる。
たたらを踏んだ彼を抱きとめて、自分と場所を入れ替えた。そのまま、水色の背中を、参道に向けて強く押し出した。
小山の背中を押し戻しながら、深い満足感が胸の中をよぎった。
視界の端、断末魔の叫び声を上げた屋台のおじいさんが、得体の知れない生き物にのしかかられているのが見えた。かみちぎられた首から吹き上がる赤い色に、家の窓から見た夕陽を思い出す。
ああ、そうだ。
もう、何度もこうやって。同じことが起きていた。
始まりは、小山との夏祭りに出かけた先で、小山が襲われる。
そこから。
どうして現れたのかわからない、ゾンビとしか言いようがない化け物に襲われて、目の前で小山が死んで。
そうして気が付くと、あの家に戻っている。
背中を押した小山が、怯えた、泣きそうな顔でこちらを振り返った。
彼の手の中にあるヨーヨーが、ぽろりとこぼれる。オレンジ色の綺麗なゴム風船が、土の上を転がっていく。
満足だった。
たぶん、これが見たい景色だったんだ。
背後に感じる生ぬるい気配を受け入れようと、ゆっくりと目を閉じた。
「おまえ、ふざけんな!」
バシャン、と破裂音が響いて目を開けると、
小山の足に踏みつけられて、ヨーヨーが割れていた。
そうして、俺の腕をひっつかんだ小山が駆けだした背中が見えた。
ごった返す参道を走り抜ける。ところどころで上がる悲鳴に、走りながら振り返って見れば、神社のほうから湧きだしたゾンビに、夏祭り会場が襲われている。
そんな場所を、小山と二人で、誰のことも助けないで逃げ出した。どこまで走ればいいのかもわからないままで。
「何、人のこと助けておいて、自分は満足そうに死のうとしてんだよ」
小山の叱責を、理不尽だと思った。
自分が死ぬとも知らずに最後に笑顔を見せたキリでこと切れた、たくさんの小山の姿が脳裏に浮かぶ。
「小山だって、死ぬと思ってない顔で死んだくせに」
小山の足が止まった。
「何の冗談」
「冗談じゃない」
街はしんと静まり返っていて、さっきまでいた神社の騒ぎが嘘のようだ。
「俺もはっきりとは覚えてないけど、でもたぶん、何度も繰り返してるんだと、思う」
二人で逃げ出せたのは初めてのはずだ、と思うけれど自信はない。
それに、不思議と逃げ出せた、という高揚感は無い。
俺の腕を掴む小山の手は、相変わらず冷たいままだ。
あんなに走ったのに。
息も、あがっているようには見えなかった。
まるで、もう死んでいるみたいに。
パシャン、と水音がする。
音が聞こえた先には、見覚えのあるゴム風船が転がっていた。
小山が踏みつけたオレンジ色の……。
どろりと景色が歪む。
「小山?!」
気が付くと、元の神社に一人で佇んでいた。
ダメだった、ということだろうか。
一体どうしたら、元の世界のその先。小山が死なない世界に行けるのだろうか。それとも、小山も自分もとっくに死んでいて、これは全部無意味な幻なのだろうか。
答えは無い。
暗闇の中に赤い鳥居がそびえているのが見える。その鳥居の中に、家の窓から見た、真っ赤な夕景色があった。
