波の音(4)
休暇は、少し焼けたお肌と、この町で笑顔で挨拶できる人との出会いがあった。
収穫あり。
また、新たな気分でお仕事。
その夜、マスターご夫妻は、町の商工会の寄り合いで家を空ける。
「結菜ちゃん。
夜ご飯はデリバリーでよろしくね。
宇宙は好き嫌いないから。
帰りは遅くなるから、寝ててね。」
奥さんは私に、何種類かのデリバリーのメニューを手渡した。
そっか、私、プライベートでは坊っちゃんのベビーシッターのお仕事も兼ねているわけね。
大人ぶっても、まだまだ両親からはオコチャマ扱いされている事を知り、なぜだかホットした。
夜。
「あれ?父さん母さんは?」
そう言って、部屋から出てきた。
寝ていたのかな?気だるい感じ。
「今夜はデリバリーでって。」
そう言って、メニューを渡す。
「先生は?」
ペラペラと紙をめくりながらこちらに目をやる。
「私は宇宙くんと同じものを食べようと思うから、選んでいいよ。」
そう言うと、彼はにっこり笑って。
「じゃ、ピザにしよう。」
そう言って、あどけない顔で電話をかけた。
注文が重なる時間らしく、ピザ屋さんは1時間半かかると言われた。
「困ったね。
それからご飯してだと、今日の学習は遅くなるね。先にやっちゃう?」
すると、宇宙くんは少し考えて、
「だね。
じゃ、俺の部屋だとピンポン聞こえなかったらいけないから
ここでしょうよ。」
そう言って、リビングのソファーで勉強する事になった。
学習をはじめて少しすると、やはりいつもの様に彼は私の横に・・・ ・・・。
いつもの事。
いつもの事。
そう思っていると、宇宙くんが徐ろに私の手を握るように掴んだ。
「何?」
彼の方を見ると、こちらをグッと見つめている。
彼は、握った手をそのまま上に上げて、私を上から下まで見る。
「さっきの格好と違う。どうして?」
着替えた事に気がついたんだ。
お風呂上がりだったから、ラフな部屋着だった。ノースリーブのワンピース姿。
スカートも短めだったから、先日のこともあるから着替えた。
しかし、何というか。どう言うべきか?
私が答えに困り黙っていると、
「あー、なんとなーく、分かったかも。
この前、俺が、先生の下着見たから警戒してね。デニムにTシヤツでって事?」
そんなストレートに言ったら恥ずかしい。真に受けて、着込んで、私、自意過剰みたいじゃない。
と、赤面していると、
「やっぱり先生は可愛いね。」
と、笑うから。恥ずかしくなり、
「大人をからかわないのよ!」
と、強く言うと、
宇宙くんは私を引き寄せ、抱きしめたかと思うと、その場に押し倒し、私を上から見つめる。
あまりにそれが早くて、脳がついて行けていなかったけど、確実に、私は、今。彼に押し倒され身動きを封じられている。
「先生。意識してくれたなかな?俺のこと。
あれ?けっこう日焼けした?」
そう言ってこちらに微笑みかける。
ドキドキは止まらない。
この展開は、想像もしていなかった。
えっ、キスされるの?
まだ子供だよ。
バイト先のご夫婦の息子さんだよ。
頭は思考を続けるけど、答えは導けない。
そんな時、
ピンポ〜ン
彼はインターフォンを睨見つけ、握っていた手を離した。そして、ムクリと立ち上がり、
「はい。」
インターフォンに出ると。
そこにはピザ屋さん。
「△△△ピザでーす。
おまたせしましたー。」
助かった。
彼は小さく舌打ちして、
「1時間半って言ったろ!
なんで30分できてんだよ!」
と、小さな声で言うと、ピザを受け取りに行った。
何だったのだろう。まだ、理解できない。
さっき、宇宙くんは何をしようとしていたのだろうか?
じゃれただけ?
だよね。
スキンシップが多めのお子さんなんだよね。
そう言い聞かせて、
勉強道具をかたし、食卓の準備をする。
数分後、支払いを済ませ、彼がピザ等を持って入ってくる。
その時には、さっきまでの男の顔ではなく、いつもの可愛い子の表情に戻っていた。
「先生、ピザ食べよ!」
満面の笑み。
理解が追いつかなかった。だけど、引きずるのは良くない気がしたので、何事もなかったかな様な顔で、向かい合って座ってピザを食べた。
食は進まない。
宇宙くんは、さっきまでの事がキレイに消え去ったかのように、テレビを見ながらピザを頬張る。
少し手が震えていた。
怖かったわけではない。
極度の緊張と緩和。
私だけ、まだ、ドキドキしていた。
