成瀬由紀雄の「とわずがたり」 ずっと単独行だが、それも悪くない
心と言葉の研究をはじめてから50年になるが、このあいだに研究をともにする仲間には出会わなかった。私の研究者としての登山はつねに単独行であった。これからもずっとそうなのかも知れない。
おそらく登ろうとしている山そのものが他の研究者の方々と私とでは違うのだ。ほかの研究者の方々は「学問山」「欧米山」の山頂を目指している。そして先人の拓いたルートをうまく利用してパーティを組んで登ろうとしている。
私の登ろうとしてしている山は「学問山」「欧米山」ではない。それは「人間山」であり「日本山」である。
「人間山」「日本山」としての心と言葉の研究では、先人が残してくれたルートがどこにもない。自分でルートを一歩一歩切り拓くしかない。それをするにはパーティを組むことはあまり役に立たない。
そもそも登ろうとする山が違うので、また山を登る目的も本質的に違うので、ほかの研究者の方々と私とはほとんど話があわない。同じ話題がない。
そのことに若い頃はかなり不安だった。こんなことでいいのだろうかとも、ときどき思った。
だが、いまはもうそんなことはない。それぞれがそれぞれの目標に向けて足を動かせばいい、それだけのことだと思えるようになった。
ようやくだが、人のことなど何も考えず、自分の目の前にある急斜面をいかに登るかだけに集中できるようになった。
これからもそれをずっと続けること、それが70歳を越えた現在の私の変わらぬ目標である。
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