カチカチの手のひら
5月14日。
「突然泣き出して、行けませんでした」
って、妻からLINEが来ることも想像しましたが、無事、飛行機に乗り込んだようでした。
***
夜、東京のワンルームのドアを開けると、本当に次男がそこにいました。
「現実逃避に来ました」
少し照れくさそうに言った彼の第一声に、思わず笑ってしまいました。よくここまで来ました。
一昨日、札幌で別れを告げたばかりの次男がそこにいる。不思議な感覚でした。
エネルギーのタンクを空っぽにした彼が、自力で飛行機に乗ってここまでたどり着いた。その事実だけで、この旅の目的は半分以上達成されたようなものです。
5月15日。
金曜日。私は仕事のため、彼を一人残して家を出ました。
出るとき、何気なく彼と握手をしました。
そのとき、彼の手のひらがカチカチに硬いことに驚きました。
学校に行けず、ベッドで丸まっている姿を見ていると、まるで赤ちゃんのように想うときがあります。けれど、この掌の硬さは、彼がこれまで野球に打ち込んできた証そのものでした。動けなくなっていても、彼はちゃんと自分の時間を生きてきた青年なんだな、と思い知らされました。
「鍵は閉めて、好きなところに行ってきな」と声をかけ、私は会社へ向かいました。あえて今日の予定は聞きませんでした。
5月16日(土)。
明日は、二人で新宿の「ルミネtheよしもと」へ行く予定です。
ゴールデンウィークにも、札幌でお笑いライブに行きました。大好きな「お笑い」は、今の彼にとって、張り詰めた心を緩めてくれる一番の薬なのだと思います。
その後は、東京で暮らす長男と合流して、三人でランチをします。
ゴールデンウィークに家族4人でドライブをしてから、まだそこまで日は経っていません。それなのに、今度は東京の真ん中で、男三人で集まる。このスピード感とシチュエーションが、なんだか新鮮で少し不思議な気持ちになります。
札幌を離れて踏ん張っている長男と、札幌で今、立ち止まって一休みしている次男。二人の息子との時間は、父親にとって何よりも贅沢な現実です。
次男の「現実逃避」の旅は、少しずつ、家族の新しい記憶になっていきそうです。
【続き】
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