バツ2のわたしと15年の相棒
猫のフジコが多分、15歳になった。
「多分」というのは、生まれた日を知らないから。逆算誕生日だ。
フジコは元々、捨て猫だった。
心優しい方に拾われ、ある日突然、1人目の夫がもらってきた。
美容師の夫は、サプライズと言わんばかりに、ドヤ顔で子猫を差し出してきた。
そのとき、家には既に2匹の先住猫がいて、関係性も出来上がっていた。何の相談もなく子猫を連れて帰ってきたツーブロックポニーテールの夫に対して、「この子の責任、ちゃんと取れるの?」と、怒りにも似た感情を抱いたのを覚えている。
知ってる?うち、1LDKだよ?
案の定、2匹の間に割って入ろうとする子猫のフジコは、毎日厳しい洗礼の猫パンチをくらっていた。
ほら見たことか。
今なら間に合うぜ、「ごめんなさい!返します」って頭下げてこいよ。
頭の中に、ブラックなわたしがいた。
正直に言うと、当時のわたしは、フジコのことをあんまり可愛いと思えずにいたのだ。
しかし、なぜかフジコはわたしにべったりだった。
毎日、うっとりとした目でわたしを見つめてくる。
そんな2人と3匹の生活はそれから1年半ほど続き、わたしたちは別れることになった。
元夫とのトータル15年のお付き合いが、あっさりと終了した。
バイバイビー!

さて、猫をどうしよう。
実家に3匹は無理がある。母に相談すると「1匹なら……」という空気感。
仲良しの先住猫2匹を引き離すのは可哀想だ。そうなると、消去法で、あとからやってきた一番思い入れの薄いフジコが選ばれた。
なんかごめん、と思いながら実家へ連れ帰った。
子供部屋おばさん爆誕。
実家でのフジコは、自由気ままに過ごしているように見えた。
わたしに特別べったりすることもなくなり、ほんの少し寂しさを感じたりもした。
そんななか、2人目の夫になる人に出会った。
それから6年後、結婚の話が出て、わたしは実家を出ることになった。
子供部屋おばさん卒業だぜぃ!
もちろんフジコも連れて行きたかった。
けれど、すっかり実家の猫になっているし、年齢ももう8歳。
また環境を変えるのは可哀想だと思い、泣く泣く離れることを決めた。
けれど、実家に帰るたび、フジコはわたしの膝から離れなくなった。
帰ろうと立ち上がると、慌てたようについてくる。どこか元気もなくて、見ているのがつらかった。
フジコが「わたしも連れて行って」と訴えているように見えた。
猫は家につく。
そう聞いていた。嘘だった。
少なくとも、フジコは違った。
たまらなくなって新居へ連れて帰った。
すると、驚くほど元気になったのだ。
フジコ、わたしと離れるのがそんなに辛かったの?
おい、昔のわたし。
「返してこいよ」とか言ってる場合じゃないぞ。その猫、お前のことめっちゃ好きやぞ。
動物に好かれへんお前のこと、信じられんくらい真っ直ぐ愛してくれてるで!奇跡やぞ。
出会って8年の年月を経て、わたしたちはようやく、本当の絆を深めていった。
それから少しして、フジコがお腹を激しく舐めるようになった。病院に連れていっても、持病の心臓肥大以外には異常なし。
ストレスだろうか、お腹の毛が禿げてしまって、見ていてかわいそうだった。
その後、わたしは2人目の夫ともお別れを決意することになる。
またかよ。
だけど、フジコのことを考えると、なかなか最後の決断ができずにいた。
また環境が変わったら、この子に本当に申し訳ない。
そうして悩みながら、2人目の夫とのトータル10年のお付き合いが終了した。
金も名誉も子供もないわたしたち、離婚成立までになぜか1年以上かかった。
フジコとわたしは、連動するみたいに一緒に痩せていった。
わたしは36キロになった。
そんな衰弱したおばさんと衰弱したおばあさん猫の新しい生活が始まった。
すると、あんなに禿げるまで舐めていたフジコが、ぴたりとお腹を舐めなくなったのだ。
その頃のわたしは、体調を崩したり、離婚問題で精神的にボロボロだった。
フジコ、わたしのつらい気持ちが全部伝わってたんだ。わたしのせいで、この子にずっとストレスをかけさせていたんだ。
そう気づいたとき、
「もっと早く決断してあげたら良かった」という愛しさと、切なさと、心強さで胸がいっぱいになった。
篠原涼子かよ。
わたしの人生の節目には、いつもこの子がいた。
消去法で選ばれたはずのフジコは、気づけば、わたしの人生を一緒に歩いてくれる唯一無二の相棒になっていた。
まさか歴代の夫たちより、長い付き合いになるとは思わなかった。
フジコを看取る日が来ることを考えると、胸が引きちぎられそうになる。
だから昔は、フジコより先に死にたいとすら思っていた。でも、もうフジコにだけは、絶対に寂しい思いをさせたくない。
わたしの人生、山あり谷ありで結構大変だったけれど、フジコの存在を言い訳にしながら、なんとかここまで生きて来られた。
だから最後くらいは、わたしがちゃんと、きつくてつらい思いをする。
