💥惑星殲滅ギャル、五千年後の地球へ帰還 第1話

あらすじ(第1部「五千年後のギャルと魔力のない少年」)
星間戦争の任務を終えた、見た目ギャルの惑星殲滅兵器コノハは、脳内サポーターの委員長と共に地球へ帰還する。体感では一か月ぶりだったが、地球では五千年が経過し、学校も都市文明も消え、女神ツクヨミが魔法文明を管理する世界へ変貌していた。
聖女アルテミスに捕らえられたコノハは、科学兵器で神罰を退け、委員長の素体を探すため研究所を目指し旅に出る。
途中、魔力を持たない少年ジンと出会い、虐げられている彼を弟子にするが、アルテミスの策謀により、新兵装ニケが暴走、ジンの故郷を焼き、彼を異形へ変えてしまう。
守りたいという願いが、すべてを壊す力へ反転した時、コノハは日常も少年も失い、壊れた兵器として灰の中に沈黙する。
(第1部はここまで、第2部「記憶喪失と冒険者たち」へ続きます)
タイトル:惑星殲滅ギャル、五千年後の地球へ帰還
サブタイトル:「女神の神罰? あー、衛星軌道兵器ね。それ、ウチのレールガンで落としたから乙w」
キャッチコピー:【最強】魔法文明? はいはい雑魚〜。ギャルが科学で完封すんね〜。
第1話 惑星殲滅ギャルの帰還


「逃しませんよ! 神罰──断罪軌道《オメガ・ジャッジ》!」
『上空から高エネルギー収束反応! コノハ、注意して!』
「は?」
直後、天空が割れた。
人類の生活圏を越えた遥か上空、神々が住む天界から降り注いだのは、
【神威を具現化した聖なる滅光】
視神経を焼き切らんばかりの閃光が神殿を真っ白に塗り潰す。
一瞬の遅れを伴って、大気を爆砕する衝撃波が石畳を激しく叩いた。
──ドーン!
立ち昇る熱気と土煙。
辺りはクレーターと化した。
石碑の前で、聖女は勝利を確信した笑みを浮かべる。
「やった。女神に逆らうからこうなるのよ」
◇ 数刻前:
網膜を焼くような、警告色のクリムゾン・レッド。
視界の隅で、ナノマシン定着度を示すグラフが狂ったように明滅している。
静寂を切り裂くのは、生命維持装置の無機質なビープ音だ。
『コノハ、起きなさい!』
鼓膜ではなく、脳内の神経接続に直接響く高周波の叱咤。
意識の混濁を無理やり引き剥がされ、少女──コノハは、重い瞼を押し上げた。
「うわ、うるさすぎ。委員長、脳内でがなり立てるのガチでやめてくんね?」
亜光速航行の歪みでひび割れたホログラム・ディスプレイが、
狭窄した視界にノイズ混じりの情報を投影する。
酸素濃度、機体外部温度、残存電力。
それら全てが、予測不能なエラー値を叩き出していた。
「殲滅終わったし、ワンチャン寝てていいって話だったじゃん」
計器やスイッチがひしめく狭い帰還ポッド。
壁面を埋め尽くす炭素繊維の骨組み。
剥き出しの光ファイバーが血管のようにのたうっている。
人一人が寝るためのスペースしかない、鋼鉄の棺桶。
コノハは、そこで、おどけたように「一人」目を覚ました。

『着きましたよ。地球です。戻ってきたんですよ』
歪んだノイズの向こう側、委員長の──どこか震えるような声が響く。
「地球! やっと帰還とかエモすぎ。つか一ヶ月ぶりじゃん」
コノハは、期待に胸を膨らませ、か細い傷一つない綺麗な指でハッチを叩いた。
指先に伝わるのは、打ち上げ時と変わらぬ、冷たく滑らかな超合金の質感。
工場出荷時のコーティングすら剥げていないその感触は、彼女にとってこの旅が、
わずか三十日のショートトリップであったことを物語っている。
『五千年ぶりですよ』
心臓が、一つ大きく脈打った。
思考回路がショートを起こしたような、空白の時間。
「は? 委員長何言ってんの?」
コノハは引き攣った笑いを浮かべ、目の前のコンソールを乱暴に叩く。
「バビューンって行って、秒でアルゴン詰ませて、
バビューンで戻っただけだし。普通に一ヶ月でしょ」
『体感的には、そうでしょうけど……』
沈黙。
委員長であるAN《アーティフィシャル・ニューロ》に、耐え難いほどの重圧が沈殿する。
コノハの脳は、まだ、五千年という現実を認識することを拒んでいた。
「青高のメンツ、息してるかな」
コノハが思い返しているのは、青高での「ひと月前」の壮行会の様子。
体育館の蒸せ返るような熱気と、安っぽい拡声器がハウリングを起こしていた。
色とりどりのメガホンを叩き、冗談めかして叫んでいたクラスメイトたちの顔。
『私の推しを連れていくんだから、無事に帰ってこなかったら許さないんだから』
『僕も……コノハさんに負けませんからね』

神経接続している委員長にも、その光景はそのまま流れ込む。
『……』
光速に近い速度で銀河を駆けたコノハたちと、
この惑星では、刻まれる時間の重みが違いすぎた。
それを理解しない──あるいは理解したくないコノハの言葉に、
委員長はただ、電子の溜息を漏らすことしかできない。
「んじゃ、一ヶ月ぶりにシャバの空気吸っちゃいますか」
誤魔化すように、コノハが指先を動かす。
コンソールの中央、真新しい「扉開閉」の物理スイッチを、親指で強く押し込んだ。
──プッシュー。
気密保持用のアクチュエーターが悲鳴を上げ、気圧差で重くなった扉をこじ開けていく。
五千年の間、外界を拒絶し続けてきた重厚なハッチが、ゆっくりとその重い口を開いて……。
ドン!
待ちきれないコノハが、ハッチを蹴破った。

『コノハ!』
「まあ、まあ、どうせもう使わないっしょ」
『それは、そうですが……』
「待って!」
嗅覚が暴力的に刺激され、コノハは言葉を遮った。
フィルターを通さない、生の草の匂いが流れ込んでくる。
それは、むせ返るような「生命」の奔流。
「うあー。どこよここ?」
指先に力を込め、扉の縁を掴んで身を乗り出す。
網膜投影《レティナ・ディスプレイ》の露出調整が追いつかないほどの、眩い緑。
コノハの目に飛び込んできたのは、地平線まで続く鮮烈な草原だった。
ビル群も、軌道エレベーターの影も、地表を覆っていたはずの巨大な都市遺構《メガストラクチャー》も、どこにもない。
ただ、遥か遠くに──石造りの、中世ヨーロッパを思わせる歪なシルエットの建物が、蜃気楼のように揺れている。
コノハが暮らしていた、超高層ビルが空を埋め尽くす高度文明の地球。
そこではとっくに死に絶えていたはずの、原始的な風景が広がっていた。

コノハはポッドから這い出すと、覚束ない足取りでその周囲を一回り歩いた。
ローファーの底が、青々とした草を踏みしめる。
久しぶりに肌で感じる、フィルターを通さない本物の風。
あの地獄のようなアルゴル星の大気のように、
肌にまとわりつく、ねっとりとした粘り気はない。
どこか懐かしい。
だが、記憶の中の都会の「排気ガスとオゾンの匂い」とは、決定的に何かが違う。
その、優しすぎる風の中に。
唐突に、場違いな「鉄」の匂いが混じった。
──ガチャガチャ。
複数の金属がぶつかり合う、原始的で、規則的な不協和音。
コノハは鋭く目を細め、丘の向こうから現れた一団に視線を向けた。
そこには、科学の粋を集めた自分たちの装備とは対極に位置する、
鈍い光を放つ「鎧」を纏った者たちが、コノハを射抜くような視線で包囲していた。

第1話 <了>
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