苦しみを消さない、意味づけをして生きていく【読書記録】
ーー 弱者という人がいるんじゃなくて、みんな弱ってしまうタイミングがある。
『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』という本を読みました。
過去のいじめや父親の暴力といった経験を思い出し、苦しんで生きてきた吉本ユータヌキさん。公認心理士である中山陽平さんとの雑談(対話)を通じて、過去と向き合い、自分の人生を受け入れられるようになるまでの1年間を書いた作品です。
ページをめくるたびに感じるのは、作者の吉本ユータヌキさんは、きっと人一倍気遣い屋さんで、やさしくて、心のやわらかい部分がある方なんだろうなということです。
「弱者という人がいるんじゃなくて、みんな弱ってしまうタイミングがある」
そんな一文にはっとさせられました。
全体を通して、「大丈夫だよ」と、そっとブランケットをかけてくれるようなあたたかさに満ちた一冊です。
「苦しんでよかった」とは言わない
優しい言葉づかいに、かわいらしいキャラクターの漫画も掲載されている一冊ですが、ユータヌキさん自身の痛みや葛藤が、赤裸々に描かれています。ぎゅっと心が苦しくなる場面もたくさんありました。
本の中で、特に印象に残ったのは、必ずしも過去の経験を全肯定していないところです。「苦しんでよかった」とは言わない。
悩みも欠点も、苦しみも悲しみも、決して消化できることはないと思うけど、なにかのタイミングで全部「だからこそ」でひっくり返る可能性があると信じてるので。
ユータヌキさんは、『あした死のうと思ってたのに』など、過去の苦しい経験をまとめたものを本にして出版します。明るい自分でいないといけない、という思い込みがあったけど、SNSにアップしてみると共感や優しい声がたくさん届いたそうです。
苦しい経験をしてきた自分だからこそ書けたものがあり、それが人の心を動かした。
決して、”こんな人生で良かった”にはならないし、消化することもできない。けど、今の自分の手で過去の見え方を変えることができたのかも。そう思えた瞬間でした。
世の中では、困難や辛かった経験に対して、「経験できてよかった」と前向きに言えることが美徳とされているような気がします。
けれど、実際にはそんなふうに簡単に割り切れないことも多い。
無理に肯定しなくても、過去に向き合って、意味づけをして、今の自分を大切にできる。すごく希望をもらいました。
あの頃の自分に、この本を手渡したい
わたしは、学生時代からコンプレックスが多く、自己肯定感の低い人間でした。
親や祖父母が教師で、子どもの頃から「いい子でいなきゃ」と自分に言い聞かせ、「人に認められたい」「結果を出せない自分には価値がない」と思い込んでいました。
不器用で物覚えも悪い自分には、努力しかない――そう思って、どんな環境でもがむしゃらに頑張ってきました。
そんな自分を見つめ直すきっかけになったのが、30歳のとき。
仕事のストレスで、心身のバランスを崩したことでした。
海外駐在中、慣れない環境と苦手な業務に追われるうちに、体調不良や気分の落ち込みが激しくなっていきました。
泣きながら車を運転して帰った夜も、眠れない日も数えきれないほどありました。
いま思えば、心身のバランスを崩したいちばんの原因は、仕事の量や内容よりも、“自分を認められない心”にあったのだと思います。
その後、ストレングスファインダーを通じて「強みを伸ばす」という考え方やコーチングに出会い、少しずつ人生が変わりました。
両親の不仲、容姿のコンプレックス、受験の失敗、心身のバランスを崩したこと――どれも「経験できてよかった」とは言えません。
でも、過去の経験があるからこそ今の自分がいる。5年ほどかけて、やっとそう思えるようになりました。
異国の地で、泣きながらひとり運転していたあの夜に、この本に出会えていたら、どれほど救われただろう。
前を向こうとしても、過去に追いかけられる夜がある。
そんな人に、手元にお守りのように置いてほしい一冊です。
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