平日20時のサイゼリヤで、夫とディアボロ・チキンを噛みしめる夏
「典型的な適応障害です」
夫に付き添って訪れた、心療内科。
ひととおり話を聞いてくれた先生が、そう言った。
――やっぱりなぁ。
ここ数か月、夫の体調がずっと悪かった。
止まらない咳、腹痛、口内炎。
古き良き(?)日系企業に勤めるわたしからすると、外資系企業に勤める夫は、鳥みたいに自由に動き回っている。
日本全国あちこち出張に行き、平日はほとんど不在。
週末も仕事をしていることも多い。
愚痴をこぼす日もあったけど、
「裁量権があるし、頑張った分だけチームの人に感謝されてうれしい」と言う夫を、わたしはあまり心配していなかった。
出張先からの電話で「もう限界」
でも、2週間前の朝。
沖縄に出張中だった夫に電話をすると、様子がおかしい。
「もう限界だから、すぐに病院に行きたい」
出張先なので、そこでかかりつけ医をつくってもね、ということでオンラインの心療内科を受診することに。
幸い、当日にすぐ予約を取ることができた。
そして、診断は「抑うつ状態」。
うつ病ではないけれど、油断できない状態だった。
処方された睡眠薬を使いながら、しばらく様子を見ることに。
夫はすぐに出張を切り上げて帰宅した。
会社の対応は早く、スケジュール調整が行われ、周囲の人たちが仕事を引き受けてくれたという。
夫の希望で、いくつかの仕事は手元に残ったものの、
週に何日かは休みをもらい、仕事のペースをぐっと落とした。
それでも、仕事前日の夜や当日の朝は暗い表情になる。
また、仕事のある日は、スマホが震えるたびに、心が沈むと。
「ベッドから起きられない」とか「感情が爆発する」といったことはないけど、体調は一向に良くならない。
夫によると、オンラインで診療をお願いしたところは、どこか流れ作業のように感じたらしい。
「できれば、対面で診てもらいたい」
そこで、Googleマップで家から通えそうで、評価のよさそうな心療内科を探す。地方在住ということもあり、自宅の近くだと、あまり選択肢がない。
それでも1か所、新しい心療内科で、評価の良いところを見つける。
電話をすると、優しい女性の声で、事情を話すとできるだけ早い日時で予約を取ってくれた。
休職を願うわたし
火曜日の夕方、わたしは仕事を早上がりさせてもらって、病院に向かう。
夫は一足先に到着していた。
木目調の落ち着いた病院で、名前が呼ばれるのを待つ。
夫に、わたしは受付の椅子で待ってるね?と伝えると、一緒に来て欲しいと。
診察室に通されると、優しそうな男性の先生が座っていた。
夫がぽつぽつと症状や気持ちを話すのを穏やかに聞いてくれる。
そして冒頭の通り、適応障害であることを告げられた。
先生は、「2つの選択肢があります」と。
ひとつは、一度仕事から離れてしっかり休む。
もうひとつは、薬の力を使いながら、仕事を続ける。
でも、つぶれちゃうのが、結局まわりにも迷惑になるよ。長い目で考えてね、と。
わたしは、横で話を聴きながら、「どうか、このまま休職になりますように…!」とずっと念じていた。
実は、わたし自身も過去に2度、心身のバランスを崩したことがある。
幸い、診断を受けたり休職したりした経験はないけれど、入り口に立っただけでも、生き地獄だった。
出口の見えないループのような苦しさは、よく覚えている。
適応障害になりやすい人の特長として先生が説明してくれたのは、こんな性格のひと。
・責任感が強い
・人からの評価が気になる
夫、見事に当てはまっている。
たぶん一言「少し休みたい」と言えば、休職できたと思う。
それでもどうしても抜けられない仕事がいくつかあって、働き続けたいという夫。
最後は本人の意思をいったん尊重して、休職はせず、薬を使いながら様子をみることになった。
これでよかったのかな。
無理にでも、休職させた方がよかったのかな。
そんな考えが、ぐるぐると頭をめぐる。
ただ一緒に、笑って食べられること
診察を終えると、19時を過ぎていた。
心療内科の入っているビルを出ると、夜なのにまだ信じられないくらい暑い。むわっとした空気に包まれる。
夫の希望で夜ご飯を食べて帰ろう、ということになった。
向かったのは、私たちが月に1〜2回訪れる、大好きなサイゼリヤ。
いわゆる“サイゼ飲み”が好きだ。
お店に足を踏み入れると、家族連れもいれば、一人でのんびり食事する人、友人と夜ご飯を楽しんでいる人もいる。
そんなにぎやかさに、なんだかほっとする。
まずは、わたしたちの定番、ほうれん草のソテーから。
夫は、次々にメニューを頼んでは、よく食べていた。
なんとなく、顔がすっきりして見える。
「診断がついたことで、気持ちが楽になった」と。
そして体調のこと、これからのこと。少しずつ、改めて話をした。
わたしはこれまでも、「いつでも休んでいいし、仕事を辞めてもいいんだよ」と伝えてきた。
「このまま症状が改善しなかったら、休職しよう?」というと、これまでは断固拒否していた夫が、この日ははじめて、素直に首を縦にふった。
思っていたより、自分の状態が悪かった、と。
「あ、これ食べてみたい」
夫が、カラフルなメニューを指さす。
ディアボロ・チキン。
人気メニューなのに、頼んだことなかったなぁ。
鉄板にのって運ばれてきたそれは、表面は香ばしく、中はしっとりジューシー。「ディアボロ」とは、イタリア語で“悪魔風”という意味らしい。
ガーリックとスパイスがしっかりきいていて、付け合わせの野菜までおいしい。
その名の通り、魅惑的な美味しさに、ふたりではしゃいだ。
わたしたち夫婦は、食べることが好きだ。
美味しい食事とお酒を片手に、とりとめのない話をする時間を、大切にしている。
そして今、そんな時間が、当たり前じゃないことを強く実感している。
きっとこれは、長期戦になる。
でも、今はとりあえず、笑ってごはんが食べられている。
それだけで十分だ、と噛みしめた、ある夏の夜だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
夫は少しずつ元気を取り戻しているように見えますが、良くなったり、しんどくなったりの繰り返しで、まだまだ道の途中です。
なお、この記事は、特定の治療や判断を促すものではありません。
一人ひとりが、健やかに生きて暮らしていけますように。
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