個人の本づくりを750冊以上サポートしてきた印刷所『本が生まれるいちばん側で』【読書記録】
最近、個人で本をつくる「ZINE」が人気ですが、その聖地とも呼ばれる会社があります。長野県松本市にある、藤原印刷さんです。
15年以上にわたり、750冊を超える「個人の本づくり」をサポートしてきた印刷所です。『本が生まれるいちばん側で』は、本づくりの楽しさと可能性を教えてくれます。
終始、熱量が高いのですが、不思議と押し付けがましさはありません。「こっちに来たら楽しいよ!」と明るい方へ旗を振って、手招きしてくれているような温かさを感じました。
「黒子」から「伴走者」へ。心で刷る印刷所
もともと印刷所は、表に出ることのない黒子のような存在。 けれど、藤原印刷さんは本を作りたい人の伴走者として、その活動を広げています。
三代目の兄弟が継いでいるこの会社には、創業者の祖母・静さんの代から大切にされている「心刷」という価値観があります。一文字一文字に心を込める。なんて素敵な言葉だろう、と思わずページをめくる指が止まりました。
藤原印刷では、本をつくりたい人の相談に乗り、完全オーダーメイドで一冊をつくりあげていきます。
それを実現するのは、現場の職人さんたちです。ときには「そんなの無理だよ!」と厳しい言葉が飛び交うこともあるのだとか。
けれど、実はその職人さんたちこそが、誰よりも作り手の想いに寄り添い、実現のために知恵を絞り、試行錯誤を繰り返してくれる。多くの人が関わり、プロの技術が重なって一冊の本が生まれる。そのドラマチックな舞台裏を知るだけで、手元にある本が愛おしくなります。
本づくりはみんなのもの
本づくりは、特別な誰かのものではなく、みんなのものだ、というメッセージが一貫して語られています。
「クリエイターが作品集をつくるのも、お母さんが子どものために絵本をつくるのも、企業が自分たちのスタンスを表明するために本をつくるのも、大学生がただ自分を表現するための本をつくるのも、ぜんぶ等しく素敵な営み。本づくりは、みんなのものだ」
つくる動機に正解はなく、誰の許可もいらない。
本書の中で紹介されているのは、たとえばこんな本たちです。
親子旅行の思い出を忘れないようにまとめたい
『遠野物語』が好きすぎて作った200枚のパワーポイントを本にしたい
40歳の節目に人生をふり返ってまとめたい
「自分の人生なんて、自分の『好き』なんて人と比べたら……」と気が引けるかもしれないけれど、比べる必要なんてないと背中を押してくれます。
「綴じる」は「閉じる」こと
心に残ったエピソードがありすぎるのですが、個人的に最もはっとしたのは、「綴じる」は「閉じる」でもあるという言葉でした。
一冊の本を完成させることは、ある種の「通過儀礼」。そこに言葉を閉じ込めて、形にする。そうして一度「閉じる」からこそ、人はまた次に進めるのだといいます。
わたしは今、35歳。
人の目を気にしてばかりいた20代から、少しずつ自分の心地よさを軸にした生き方へとシフトしている最中です。
この本を読んで「自分のために、何かを一冊にまとめたい」という欲求がむくむくと湧いてきました。
誰に評価されなくてもいい。自分が納得し、次の一歩を踏み出すきっかけにしたい。この本を読み終えた今、まんまと自分だけの本が作りたくなってしまっています。
本をつくる楽しさがつまった一冊です。
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