二十二日目 幸せ
公園のベンチ。
私は、今後のことを考えて、途方に暮れていた。
「ため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」
上から降ってくる声。
見上げると、そこにはいつものお兄さんがいた。
「……幸せが逃げたから、ため息をついたんです」
私が可愛げのない返答をすると、「それはそれは」と言って、お兄さんは、私の横に腰をかけてきた。
「何かあったんですか?」
優しく尋ねるお兄さんの好意すらも、今の私には受け止める余裕がなかった。
「お兄さんは、私なんかにちょっかいをかけて暇なんですか。私に構っても、何も得しませんよ」
「暇とは、心外ですね。余裕があると言って欲しいものです。それに、私だって興味のない人間の話を聞くほど時間をもてあましてはいませんよ。あなたの話だから聞きたいんです」
「変人……」
私がそう言うと、お兄さんは何故だか嬉しいそうにニコニコとした。
そう、この男は変わっているのだ。
私がはじめてこの男に会ったのも公園だった。
今日みたいに気持ちが落ち込んで、ベンチから動けなくなっている私の前に現れて、彼は「話を聞きますよ」と微笑みかけてきた。
私は宗教の勧誘かと怪しんだ。
けれど追い払う元気もなく、どうせなら話し相手として使うだけ使って、宗教のしゅの字が出たら「結構です」と突っぱねて憂さ晴らしをしてやろう。
……半ば八つ当たりの気持ちで、その人当たりの良さそうな男に、愚痴をぶつけた。
しかし、私の話を聞き終えても、男は宗教の話を持ち出すことがなかった。
そんなことがこれまで3、4回続いた。
そして、また今日、タイミングを見計らったように、落ち込んだ私の前にこの男は現れた。
「リストラされたんです。明日から、働く職場がありません」
「へぇ、それは大変でしたね」
「大変なんてものじゃないです、あたしっ……!」
男の手が私の手に重ねられ、私は驚いて男を見た。
男は薄い笑みの貼り付けた顔をこちらに向けた。
「私のところに来ればいい。ずっと君みたいな人を、待ち望んでいたんです」
あぁ、やめてくれ。
今の私に断る元気は、微塵も残っていないのだから。
