十九日目 漫画
「わかんねぇ」
放課後。
誰もいない教室に一人。
俺は、少女漫画を無造作に机に置くと、大きな伸びをした。すると、ちょうどそのとき教室のドアが開く音がして、俺はそちらに目をやった。
「ひっ」
「あ?」
女が、ひどく小柄な女が、俺のことを見て小動物のように体を震わせていた。
女子生徒は、工業高校において珍しい存在なので、既存の生徒なら知っているはずだが、女は見慣れない顔だった。
「誰だお前?」
「わ、わたし、今日、転校してきた小枝と言います。いちおう、朝に皆さんの前で挨拶をしたのですが」
「朝……たぶん寝てたわ」
「そ、そうですか」
女はプルプルと震えながらも、受け答えは意外としっかりしていた。
「あ、そうだ。ちょうどいいや」
俺は、席から立ち上がると、先ほどの漫画を持って、女の前に差し出した。
「え、えっと」
小枝とか言った女は、戸惑ったようにそわそわとしだした。
「お前、少女漫画読むか?」
「……はい?」
パチクリと瞬きをする小枝は、俺が言ったことが意外らしかったようで、「少女漫画ですか……?」と疑問型で復唱した。
「あぁ、姉ちゃんに借りたんだけどよ、よく分かんないところがあって。ほら、ここ」
俺が聞いたのは、太っていて冴えないことでいじめられていた女子生徒が、クラスでイケている男子に優しくされ恋に落ち、告白するのだが、こっぴどく振られ、見返すためにダイエットをして、復讐をする部分だった。
「王道の展開ですね」
「王道? これが?」
「はい」
「なんでこのイケメンは責められなきゃいけないんだ?」
小枝はこてんと首を傾げた。
「だって主人公に対して優しかったわけだろう? 容姿を理由に告白を断ったからって、その優しさが消えるわけじゃないし、優しくしたら付き合わなきゃいけないなんて決まりはないじゃないか。まして主人公だって人を容姿で評価してる。自分は人を顔で選んでおいて、相手にはそれを許さないって、この主人公、不寛容すぎないか?」
「……そんな風に考えたことはありませんでした」
小枝は、俺をじっと見つめた。彼女の震えはも
う止まっていた。
「なんだよ?」
「面白い人ですね」
彼女の可愛らしい笑い声が、こそばゆく教室の空気を彩った。
俺はなんだか胸がキュッとした。
