300ヶ月の刑に処された我が犯罪実録
はい、たしかに私がやりました。
暴力があったのは事実です。
結果的にひとつの命が失われたのもその通りです。
でも、悪気はなかったんです。
むしろ善意しかなかったのですが、
私のやったことは本当に
そんなに悪いことだったのでしょうか?
300ヶ月、25年前にあなたは何をしていましたか?
もしあなたが25年前にすでに社会人として
働いていたのなら、
その時の職場でのちょっとした出来事を
覚えていますか?
出来事の大小にもよるが、ほとんどの人が何も
思い出せないと思う。
ところが、私の事件はそうはいかない。
あれはおよそ四半世紀前のことだった。
季節は夏。
暑い日で私は職場で同僚と話をしていた。
ふと同僚の顔に蚊が止まった。
私の狩猟本能が目覚め、
ほっぺたを叩き見事に蚊を仕留めた。
話をしている最中に前触れもなくビンタされた
同僚はたいへん驚き、
その驚きは彼の心に深く深く刻みこまれた。
言っておくが、私の同僚はたいへん温厚な人で
おそらく生涯で殴ったり殴られたりということが
ないのではないかという人だ。
彼は日頃は非常に物忘れが激しい。
授業を忘れる、仕事を忘れる、
忘れたことさえ忘れる。
しかし、一度深く刻みこまれた記憶だけは
けっして消えることがない。
歳月は流れ、それぞれに転勤した。
さらに歳月は流れ、また元の職場で同僚となった。
その事件から25年、300ヶ月の後、
彼は生徒に嬉々として語る。
「女の人に殴られたことある?
僕はある。
Natty先生に話をしている最中に
突然ビンタされて…。」
いや、そりゃたしかにやりましたよ。
でも女の人に殴られたってのは言い過ぎ。
ほっぺたの蚊をはたいただけですよね…。
いくらなんでも時効では?
だって四半世紀前の話なのに…。
そうとうなことをやったとしても
とうに懲役が終わっている頃だ。
私はそんなにひどいことをしたのだろうか?
夏に人の頬に蚊が止まっているのを見た時に
仕留めたいという本能に従うか、
文明人らしく声をかけるか、
あなたはどちらを選びますか?
その代償は思ったより長く続くこともある。
