『第4幕 自律編19』 奪われて痛くねぇモノを賭けるな (後半)
伸悦「なんだこれ?」
京一「っ!!!」

その瞬間、京一の気配が変わる。
京一「返せよっっ!」
ズバッ!
瞬間的に火が着いた京一は、竜二の腕を振りほどき伸悦に飛びかかる。
その写真だけは渡せない! 彼らに汚させてなるものか!
京一の顔には怒りが滲み出ていた。だが、
ドゴンっ!

コートに鈍い音が響く。竜二が京一の腹を蹴り上げたのだ。
京一「ぐふぁっっ! ガハッ!」
両手で腹を抑えてその場に蹲る。みぞおちに綺麗に蹴りが入ったのだ。まったく息ができない。
京一「グッ……ガハッ! ゲホッ! ガッ!」
苦しい。苦しい。強烈な痛みと交じり合って、ひたすらに苦しい。
伸悦「へ~、これおまえの母ちゃんか? きれーじゃん」
芳「え、この女、こいつの母親なの? 若くねぇか?」
二人が写真をのぞき込む。見た目に若い女性の写真であったため、京一の母親だとは思わなかったのだろう。
伸悦「へえ、母ちゃん美人なのに、おまえって不細工だな」
金髪の彼は、写真の母親と京一を見比べながら鼻で笑った。
芳「ハハハ、言えてら。天川、お前の親って実は別人なんじゃねーの?」
3人とも何一つ遠慮することなく、ゲラゲラ笑う。
京一「ハァ、ハァ、ハァ……」
一方、京一はようやく息ができるようになるが、まだ腹の奥がジンジンしている。彼らに酷いことを言われているが、悔しさよりも痛みが勝る。彼らの言葉に対する怒りは湧き起らない。
竜二「こいつ、その写真見た時、いきなりキレたぜ。それがこいつの一番大事なものなんじゃねーか?」
芳「そうだな。母ちゃんの写真が一番ってマザコン野郎だなコイツ」
伸悦「じゃあこれでいいぜ。この写真がお前の賭けるものだ、天川。そんでお前が負けたら、この写真をライターで焼くぜ」
竜二「いいなソレ。千円札2枚よりその写真のほうがずっとオモシレーよ」
望む望まざるに関わらず、京一の対価は母の写真と勝手に決められる。3人は大きく背伸びすると身体をストレッチさせて、関節をバキバキ鳴らし始めた。
京一「クッ……」
母親の写真といえばそれまでだが、京一にとっては特別なものだ。身体の中心から大切なモノを盗み取られた気持ちになってしまう。取り戻すには勝負に勝たねばならない。だが組む仲間は卓球部の二人。
グラリ
目の前が揺らぐ。
母の写真を奪われたまま逃げ出すわけにもいかない。ここで戦うしかない。京一は俯き己の気持ちを整える。
覚悟を決めるためだ。
京一「……」
写真は母親の形見。二人の思い出が詰まっている。
京一「勝ったら返してくださいよ、それ」
感情を殺し、無駄に彼らを刺激しないようお願いする。
伸悦「あぁいいぜ。お前が勝ったらな」
京一は奥歯をギュっと噛み締めた。それから怯えたままの卓球部二人を見る。彼らの身体はまだブルブル震えている。これでは戦力にならない。
京一「(クソ……)」
声に出さずに毒づく。とても大きなビハインドだ。バスケ部でなくとも良いが、せめてもう少し強気の仲間が欲しかった。京一の脳裏に慎二の姿が浮かび上がる。
ブンブン。
頭を振って良くない思考を断ち切る。京一は急ぎベンチに腰かけると、バッシュに履き替えた。その間ずっと試合の流れをイメージする。
3 on 3はストリートバスケだ。明確なルールがあるわけじゃないが、基本的にはバスケと同じルールと思えばいい。フルコートを半分にした片側半面で、ゴールリングは1つしかない。自分達も相手も同じゴールを目指し、シュートを投げ込むことになる。必然、相手のボールをカットすれば、大きなシュートチャンスが訪れる。
トトト……。
卓球部の二人が京一の傍に寄って来る。
同級生1「天川君、ゴメン」
巻き込んでしまったことを謝っているのだろう。先ほどまで脅され、完全にビビりあがっていたのだ。表情は青白いままである。
京一「もういいよ。気にするなって」
京一は改めて二人を見る。
身長は160cm程で体格もショボい。足も腕も細く、瞬発力があるようには到底見えない。相手にぶつかれば吹き飛ばされてしまうだろう。
京一「名前は?」
プレーが始まれば互いに名前を呼び合う必要がある。
「洋一」
「浩之」
二人はそれぞれ名を告げる。
京一「わかった。洋一に、浩之ね」
名前を繰り返して顔と一致させる。これで呼び間違えることは無いだろう。
京一「お前ら、とにかくボールを持ったら僕にパスして。できるだけ長い時間ボールを持たないようにして」
二人「うん。わかった」
二人とも縋りつくような顔で京一を見つめる。頼れる相手が京一だけだからだ。
京一「あと、彼らにビビらないこと。これは難しいかもしれないけれど、大切だから意識して。足の動きが止まったら的(まと)にされる。つねに動き回って相手のシュートが外れたらそのボールを奪って。そして僕にパスして」
二人「うん……わかった」
京一「よし」
二人の目を見て相槌を打つ。だが二人ともまだ身体を震わせている。こんな状態ではまともに動けないだろう。
「よし」とは言ったものの、京一は暗澹たる気持ちになった。
──次回、
先攻、ヒーロー
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