世界のごみは「ネイチャーポジティブ」の最大のチャンス──世界銀行『What a Waste 3.0』を読み解く
2026年3月、世界銀行グループから384ページの大著が公表されました。タイトルは "What a Waste 3.0: Global Snapshot of Solid Waste Management toward Circularity until 2050"(世界のごみ3.0:2050年に向けた循環型社会への廃棄物管理のグローバルスナップショット)。217カ国・経済圏、262都市のデータを網羅した、都市固形廃棄物に関する世界最大の公開データベースです。「ごみ」──そう聞くと、ネイチャーポジティブの文脈からは少し遠い話題に感じるかもしれません。しかし、このレポートを丁寧に読み解いていくと、廃棄物管理こそが、生物多様性の喪失、気候変動、海洋プラスチック汚染、土壌・水質汚染という「自然資本の四重危機」のすべてに直結する、ネイチャーポジティブの起点であることが浮かび上がってきます。世界のごみは年間26億トン。2050年には39億トンに達する可能性がある。その30%は今もなお、野積みか未回収のまま放置されている──。 ごみの山の向こうに、ネイチャーポジティブな未来が見えています。その未来は、遠い理想ではなく、私たちの日常の選択──何を買い、何を食べ、何を捨て、どう分別するか──の積み重ねの先にあります。今日は、このレポートの全体像と、ネイチャーポジティブ経済への示唆を読み解いていきます。今日も楽しんでいってくださいね!
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0.なぜ今、廃棄物管理がネイチャーポジティブの最前線なのか
ネイチャーポジティブの議論は、これまで保全と回復──すなわち「守る」と「取り戻す」に力点が置かれてきました。森林を守り、湿地を回復し、海洋保護区を設定する。しかし、いくら生態系を守り回復させても、そのすぐ横で経済生活が回り、廃棄物が排出され、野積みされ、プラスチックが河川から海洋に流出し、埋立地からメタンが大気に放出されていれば、自然資本は回復できません。レポートの序文で、世界銀行のMing Zhang都市開発担当ディレクターは、こう述べています──「ごみは地域で管理される問題だが、その影響はローカルでありグローバルでもある」。街角に捨てられたプラスチックは河川を経て海洋に達し、分解する有機廃棄物からはメタンが大気中に放出され、野焼きは大気汚染を引き起こす。廃棄物は自治体の問題であると同時に、地球規模の問題なのです。

さらに、廃棄物セクターは気候変動の文脈でも極めて重要です。レポートによれば、2022年時点で固形廃棄物管理活動からの温室効果ガス(GHG)排出量は年間約12.8億トンCO₂換算と推計されています。その89%は廃棄物の処分(主に埋立)から発生し、メタンが排出の大部分を占めます。UNEPとCCACの「グローバルメタンアセスメント」は、廃棄物セクターを世界第3位のメタン排出源として特定し、人為的メタン排出の約20%を占めるとしています。つまり、廃棄物管理は、GBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)のTarget 7(汚染の削減)、Target 16(持続可能な消費)、Target 15-A(ビジネスとサプライチェーン)に直結すると同時に、パリ協定のNDC(国が決定する貢献)においても156カ国が廃棄物セクターを気候緩和の対象として含めています。2026年10月のCBD COP17(エレバン)で第一回グローバルストックテイクが議論される中、廃棄物管理の高度化を「ネイチャーポジティブの実装手段」として明確に考えることは、国や自治体や企業にとって戦略的に重要なテーマとなるでしょう。

1.世界のごみの現実
レポートは、2022年を基準年として、世界の都市固形廃棄物の全貌を描き出しています。まず、主要な数字を見ていきましょう。
世界のごみ総量:25.6億トン
2022年の世界の都市固形廃棄物の発生量は約25.6億トンです。これは2018年版(What a Waste 2.0)の予測を上回るペースで増加しています。所得グループ別に見ると、上位中所得国が全体の42%と最も多く、高所得国が25%、下位中所得国が29%、低所得国が4%を占めます。一方、地域別では、東アジア・太平洋地域が全体の33%(8.49億トン)と最大であり、これは中国の人口と廃棄物発生量の圧倒的な大きさを反映しています。中国一国で約5.02億トン、つまり世界のごみの約20%を占める計算です。
一人当たりの廃棄物発生量は、所得水準に応じて大きく異なります。高所得国は一人当たり1日1.62kg、上位中所得国は1.03kg、下位中所得国は0.52kg、低所得国は0.43kgです。最も高いのは北米地域の2.25kg/人/日で、最も低いのは南アジアの0.49kg/人/日──実に4.6倍の開きがあります。ここで重要なのは、都市化率と廃棄物発生量の相関関係です。レポートは、2022年から2050年にかけて、低所得国の都市化率が30%台から40%台へ上昇するにつれ、廃棄物発生量が現在の1.05億トンから2.39億トンへと倍増以上になると予測しています。急速な都市化が進むアフリカと南アジアでは、廃棄物管理インフラの整備が自然資本の保全に直結するのです。

組成──食品廃棄物が38%
世界の都市固形廃棄物で最大のカテゴリーは食品廃棄物で、全体の38.3%を占めます。次いでプラスチック(12.5%)、紙・段ボール(13.9%)、園芸廃棄物(8.0%)と続き、エンジニアリング素材(プラスチック、紙、金属、ガラス)が合計で34%を占めます。食品廃棄物は、埋立地での嫌気性分解によるメタン排出の最大の要因であると同時に、適切にコンポスティングすれば土壌の有機質を回復し、農業生態系のレジリエンスを高める「資源」でもあります。ネイチャーポジティブは「廃棄物」を「資源」に転換する視点の転換そのものなのです。所得水準が上がるにつれて、有機廃棄物(食品+園芸)の割合は低下し、エンジニアリング素材の割合が上昇するという傾向がありますが、上位中所得国は例外的に有機物の割合が高くなっています。これは主に中国の影響で、文化的要因により食品廃棄物の割合が高いためです。中国を除くと、上位中所得国の食品+園芸廃棄物の割合は約46%にまで低下します。
回収されない「30%」
世界全体で、廃棄物の約83%は回収されていますが、残りの約17%は未回収のまま放置されています。回収率は所得水準によって劇的に異なります。高所得国ではほぼ100%ですが、下位中所得国では約61%、低所得国ではわずか約28%にとどまります。地域別では南アジアとサブサハラ・アフリカの回収率が最低水準にあります。未回収の廃棄物はどうなるのか。レポートは、低所得国・下位中所得国・上位中所得国のいずれにおいても、未回収廃棄物の主な処理方法は「野焼き」と「土地への投棄」であると報告しています。これは直接的に大気汚染、土壌汚染、水質汚染を引き起こし、排水路を塞いで洪水リスクを高め、病原体の温床となります。加えて、回収されたものの管理が不十分な(ダンプサイトに投棄される)廃棄物を含めると、世界のごみの約30%が「野積みか未回収」の状態にあります。低所得国では、回収された廃棄物の約90%がダンプサイトに投棄されています。サブサハラ・アフリカでは77%、南アジアでは57%がダンプサイト行きです。この「30%」こそが、プラスチックの海洋流出の最大の経路であり、メタン排出の主要な源泉であり、ネイチャーポジティブの最大の阻害要因です。

処理と処分──「リサイクル21%」の内実
世界の廃棄物処理・処分の内訳を見ると、管理されたランドフィル(管理型・衛生埋立)が29%で最も多く、リサイクル・コンポスティング・嫌気性消化が合計21%、近代的な焼却(エネルギー回収付き)が20%を占めます。残りの約30%は、ダンプサイト投棄(13%)か未回収(17%)のまま放置されています。
レポートはSDG指標11.6.1(「都市固形廃棄物のうち管理された施設で収集・処理される割合」)に照らした各国の進捗も分析しています。高所得国ではほぼ100%がすでに管理された施設で処理されていますが、世界平均は70%にとどまります。低所得国ではわずか3%です。回収されても、その大部分がダンプサイトに投棄されているためです。北米は100%を達成し、欧州・中央アジアもそれに近い水準ですが、サブサハラ・アフリカはわずか7%です。
BAUシナリオでは2050年までに世界全体で10ポイントの改善が見込まれていますが、高野心シナリオなしには、低所得国での根本的な改善は期待できません。これは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念との間に深刻な緊張関係があることを意味しています。
中国──急速な改善の「実証事例」
レポートが繰り返し参照するのが中国の事例です。中国は2022年に約5.02億トンの都市固形廃棄物を発生させていますが、過去10年間で都市部の回収率をほぼ100%に、農村部でも約90%に引き上げました。都市部の廃棄物の約75%は焼却処理されており、大規模な焼却施設の建設を急速に進めた結果です。中国の変化を東アジア・太平洋地域の集計から除くと、同地域の未回収率は10%から19%に跳ね上がり、ダンプサイト投棄の割合も5%から15%に上昇します。つまり、中国は「強いコミットメント、政治的関心、十分な資源」があれば、短期間で劇的な改善が可能であることを示す実証事例です。ただし、中国型の急速な焼却インフラ整備が、ネイチャーポジティブの観点から最適解かどうかは別の問いです。焼却はメタン排出を回避しますが、有機物の物質循環を断ち切るという点では、コンポスティングや嫌気性消化への投資とのバランスが問われます。
コンポスティングの未活用
注目すべきは、コンポスティングと嫌気性消化がわずか6%にとどまっていることです。食品廃棄物が全体の38%を占めるにもかかわらず、その有機物を土壌に還元する処理方法は極めて限定的に使われているのが現状です。高所得国でも回収された廃棄物のうちコンポスティング・嫌気性消化の割合は13%であり、低所得国ではわずか0.04%です。ネイチャーポジティブの観点では、このギャップは巨大な機会でもあります。食品廃棄物の分別回収とコンポスティングを拡大すれば、埋立地からのメタン排出を大幅に削減できるだけでなく、生産されたコンポストは農地の土壌改良に使用でき、化学肥料の代替を通じて水質汚染の軽減にも寄与します。これは自然資本の「回復」に直接結びつくアクションです。
高所得国になると、所得水準の上昇に伴って焼却の割合は一旦上昇(上位中所得国で約33%)した後、マテリアルリカバリーへの転換が進みます。高所得国ではリサイクル・コンポスティングが合計で約40%を占め、焼却は22%に低下します。これは、焼却が「リニアエコノミーの延長」であり、サーキュラーエコノミーの最適解ではないことを示唆しています。
2.プラスチック──3.2億トンの自然資本リスク
レポートは、プラスチック廃棄物についても詳細な分析を行っています。プラスチックは都市固形廃棄物の約12.5%を重量ベースで占め、所得水準別では上位中所得国で最も高く(13.1%)、低所得国では8.1%と低くなっています。2022年の都市固形廃棄物中のプラスチック発生量は約3.2億トンと推計されています。世界のプラスチック廃棄物総量は約4億トン(Plastics Europe 2023)とされており、そのうち都市固形廃棄物が3.2億トンを占めるということです。この3.2億トンのうち、約4,200万トン(13%)は回収されたもののダンプサイトに投棄され(poorly managed)、約5,100万トン(16%)はそもそも回収されていません(unmanaged)。合計すると、都市固形廃棄物中のプラスチックの約29%──9,300万トン──が適切に管理されていないことになります。一人当たりのプラスチック廃棄物発生量を国別に見ると、カナダ、クウェート、オマーン、米国では0.35kg/人/日を超える一方、サブサハラ・アフリカの多くの国では0.05kg/人/日未満です。この7倍以上の格差は、消費パターンの「上流」と廃棄物管理の「下流」の双方に介入する必要性を示しています。

プラスチックとGBFの接続
プラスチック汚染はGBFのTarget 7に直結する課題です。不適切に管理された9,300万トンもの都市固形廃棄物中のプラスチックの多くが、最終的に河川を通じて海洋に流出しています。プラスチックの不適切管理は、非都市起源のプラスチック廃棄物と比べて環境への排出量が重量ベースで大幅に大きくなります。都市廃棄物中のプラスチックは使い捨て包装など製品寿命が短いものが多く含まれるためです。
レポートはまた、使い捨てプラスチック廃棄物の発生量も別途推計しています。多くの自治体が使い捨てプラスチックの禁止措置を導入しており、フィジー、キリバス、パラオ、サモア、トンガ、バヌアツなどの太平洋島嶼国では使い捨てプラスチック禁止、容器保証金制度(DRS)、廃棄物関連課税などが進行中です。これらの取り組みは小さな国々が先行的に進めているケースも多く、ネイチャーポジティブの文脈では「小さな国の大きな挑戦」として注目に値します。
3.気候と廃棄物──メタンが結ぶ二つの危機
食品廃棄物──ネイチャーポジティブの最大のレバレッジポイント
レポート全体を通じて繰り返し強調されるのが、食品廃棄物の問題です。世界の廃棄物の38%を占める食品廃棄物は、ネイチャーポジティブの最大のレバレッジポイントの一つです。
世界で生産される食料の約3分の1が毎年失われるか廃棄されています(FAO推計)。食品ロスはサプライチェーン上で──特にコールドチェーンや物流インフラが不足する地域で──発生し、食品廃棄物は小売・消費段階で発生します。いずれもネイチャーポジティブの複数の次元に関わります。
第一に、気候への影響。食品廃棄物が埋立地で嫌気性分解すると、強力な温室効果ガスであるメタンが発生します。衛生埋立地ではガス回収が可能ですが、ダンプサイト(世界の低所得国の主要な処分方法)では回収はほぼ不可能です。レポートが推計する廃棄物セクターからの12.8億トンCO₂換算のGHG排出のうち、食品廃棄物由来のメタンが最大の寄与を占めています。
第二に、土壌・水質への影響。未管理の有機廃棄物の浸出液は地下水を汚染し、河川の富栄養化を引き起こします。逆に、適切にコンポスティングされた有機物は土壌の構造を改善し、保水力を高め、微生物の多様性を支えます。つまり、食品廃棄物の処理方法の選択は、土壌生態系の劣化と回復の分岐点なのです。
第三に、生物多様性への間接的影響。食品ロスと食品廃棄物の削減は、新規の農地開発圧力を緩和し、結果として生息地の転換(土地利用変化)を抑制します。先日のHot or Cool Instituteのレポートが示したように、食料はライフスタイル生物多様性フットプリントの最大の構成要素(日本では60%)です。消費段階での食品廃棄物削減と生産段階での食品ロス削減は、上流と下流の両面から自然資本への圧力を軽減する、最も費用対効果の高いネイチャーポジティブ・アクションの一つです。
しかし、世界全体でコンポスティング・嫌気性消化に回されている廃棄物はわずか6%にとどまります。高所得国でも13%、低所得国では0.04%です。この巨大なギャップを埋めることは、技術的には十分に可能であり、経済的にも合理的です。嫌気性消化はバイオガスという再生可能エネルギーを産出し、消化液は有機肥料として利用可能です。レポートは、嫌気性消化施設が1トンの廃棄物処理あたり0.4~0.9メガジュールの電力を生産し得るとしています。
12.8億トンのGHG排出の構造
2022年時点で、固形廃棄物管理活動からのGHG排出量は年間約12.8億トンCO₂換算と推計されています。内訳を見ると、メタンが11.5億トンCO₂換算(IPCC AR6のGWP = 27で計算)と圧倒的多数を占め、CO₂が1.15億トン、亜酸化窒素が少量です。排出源の構造を理解することが重要です。排出の89%は「処分」──すなわち埋立地での有機物の嫌気性分解──から発生しています。焼却からの排出は11%にとどまり、コンポスティングや嫌気性消化からの排出はごくわずかです。これは、問題の根源が「有機廃棄物をそのまま埋め立てること」にあることを明確に示しています。所得水準別に見ると、総GHG排出量が最も大きいのは上位中所得国(4.6億トンCO₂換算)で、次いで下位中所得国(4.09億トンCO₂換算)です。しかし一人当たりで見ると、高所得国が最も高くなります。これは高所得国の一人当たり廃棄物発生量が多いことを反映しています。地域別では、東アジア・太平洋が総排出量で最大であり、南アジアが続きます。一人当たりでは北米が最高で、中東・北アフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海が続きます。東アジア・太平洋と欧州・中央アジアは焼却量が多いため、CO₂排出の割合も相対的に高くなっています。
2050年に向けた排出シナリオ
現状維持(BAU)シナリオでは、廃棄物セクターからのGHG排出量は2050年までに18.4億トンCO₂換算に達し、2022年比で43%増加します。低野心シナリオでは2050年に13.3億トンCO₂換算、高野心シナリオでは9.1億トンCO₂換算にまで削減できます。BAUシナリオと高野心シナリオの間の差──約9.3億トンCO₂換算──は、世界のメタン緩和ポテンシャルの中でも最大級の機会です。メタンの大気中寿命はCO₂と比較して短く(約12年)、排出削減の効果が比較的短期間で気温上昇の抑制として現れます。つまり、廃棄物セクターの改善は「すぐに効く気候対策」の代表例であり、パリ協定の1.5℃目標に向けた「2030年までの行動」として極めて有効です。
レポートによれば、156カ国がNDCの中に廃棄物セクターを含めています。優先的な緩和策としてはコンポスティング、メタン回収、リサイクルが挙げられていますが、ほとんどのコミットメントは「国際的な支援に依存する」条件付きです。この「資金と実施のギャップ」を埋めることが、気候とネイチャーポジティブの両方の目標達成の鍵となります。
4.2050年への3つのシナリオ──循環型社会への分岐点
レポートの最大の革新は、2050年までの3つのシナリオを提示し、政策選択が未来をどう変えるかを定量的に示していることです。
現状維持(BAU)シナリオ──39億トンの世界
現在のトレンドが継続した場合、世界の廃棄物発生量は2022年の25.6億トンから2050年には38.6億トンへと50%増加します。最も急速な増加が見込まれるのはサブサハラ・アフリカ(124%増、3.46億トン→6.88億トン)と南アジア(99%増、3.11億トン→5.60億トン)です。北米は17%増にとどまりますが、一人当たり発生量は2.43kg/日と依然として世界最高水準です。
世界の回収率は83%から89%に微増し、リサイクル・コンポスティング率は21%から27%へと6ポイントの増加にとどまります。未回収・野積みの問題は改善されるものの、根本的な解消には至りません。

低野心シナリオ──中間の道
中程度の政策介入が行われた場合、2050年の廃棄物発生量は31.2億トンに抑制されます(BAU比19%減)。上位中所得国・高所得国ではリサイクル率が向上し、低・下位中所得国では野積みの解消と回収率の改善が進みます。GHG排出量は2050年に13.3億トンCO₂換算となります。
高野心シナリオ──デカップリングの達成
最も意欲的な政策介入が行われた場合、2050年の廃棄物発生量は現在とほぼ同じ25.6億トンに抑制されます。人口・経済成長にもかかわらず廃棄物発生量が増えないという、真のデカップリングが達成されるシナリオです。北米は一人当たり2.43kg/日(BAU)から1.03kg/日へと大幅に削減されますが、それでも世界平均の0.73kg/日を上回ります。世界のリサイクル・コンポスティング率は54%に倍増し、回収率は100%を達成、GHG排出量は9.1億トンCO₂換算に減少します。

ネイチャーポジティブの観点から特筆すべきは、高野心シナリオでは野積み・未管理の廃棄物がほぼ解消される点です。これは、プラスチックの海洋流出の大幅な削減、メタン排出の半減、土壌・水質汚染の防止を通じて、自然資本の保全に直接的な効果をもたらします。
5.地域別に見るネイチャーポジティブの「最前線」と「最深部」
レポートは7つの地域について個別のスナップショットを提示しています。ネイチャーポジティブの観点から特に注目すべき3つの地域を掘り下げてみましょう。
サブサハラ・アフリカ──「2.24倍」の衝撃
サブサハラ・アフリカは48カ国からなり、そのうち22カ国が低所得国です。2022年の廃棄物発生量は2.31億トン、一人当たり0.52kg/日と世界でも低い水準ですが、問題はその将来予測にあります。2050年までに廃棄物発生量は2.24倍に増加すると見込まれており、これは全地域で最も急速な伸びです。背景には、人口の倍増(2050年までに都市人口が2023年比で2.5倍の12.6億人に達する見込み)と急速な都市化があります。
回収率はわずか31%で全地域最低です。都市部の中央値でも45%、農村部ではわずか6%にとどまります。回収された廃棄物の77%がダンプサイトに投棄されており、管理された施設で処理される割合はわずか7%です。SDG 11.6.1(管理された施設で処理される廃棄物の割合)の達成度は全地域最下位です。
この地域がネイチャーポジティブの「最深部」たるゆえんは、未管理の廃棄物が引き起こす直接的な生態系への影響です。未回収の69%のごみの多くが水路に投棄されるか野焼きされ、河川を通じてプラスチックが海洋に流出します。同時に、食品廃棄物が組成の44%を占めるにもかかわらず、コンポスティングはほぼ皆無。大量の有機物が未管理のまま分解し、メタンが排出されています。レポートは、この地域の廃棄物管理の改善が、世界のネイチャーポジティブ目標の達成に不可欠であることを強く示唆しています。
南アジア──71%が未回収またはダンプサイト行き
南アジアの状況もまた深刻です。2022年の廃棄物発生量は3.11億トン、一人当たり0.49kg/日と世界最低水準ですが、2050年には99%増の5.60億トンに達する見込みです。回収率は67%ですが、実態はさらに厳しく、廃棄物の71%が未回収かダンプサイト行きです。未回収廃棄物の最も一般的な処理方法は野焼きであり、これは大気汚染のみならず、ブラックカーボン排出を通じて氷河融解にも寄与しています。
インドでは都市部の回収率が95%に改善されつつあり、アーメダバード(98%)、スーラト、インドールなど高パフォーマンス都市が出てきています。しかし、全体としては分別回収やコンポスティングのインフラが決定的に不足しています。パキスタンのカラチやアフガニスタンのカブールでは回収率が60%にとどまっています。
インフォーマルセクターの存在感が特に大きいのもこの地域の特徴です。パキスタンでは約19.6万人が水供給・衛生・廃棄物管理分野に従事しているとされますが、実態はこの数倍に上る可能性があります。インフォーマルリサイクラーの存在が都市人口の0.5%(中央値)に達し、東アジアに次いで世界第2位の普及率です。
太平洋島嶼国──「小さな国の大きな挑戦」
レポートは、太平洋島嶼国やカリブ海の島嶼国が直面する固有の課題についても詳しく取り上げています。遠隔地であるがゆえに輸入品への依存度が高く、包装材の割合が増大します。国内リサイクル市場は規模の制約から成立しにくく、域外輸送コストが高い。さらに、観光業への依存は季節的な廃棄物急増をもたらし、海洋ごみが他地域から漂着してくるという「もらいごみ」の問題もあります。
土地が限られるため適切な廃棄物管理施設の用地確保が困難であり、既存の処分場は海岸沿いに位置していることが多く、高潮や海面上昇のリスクにさらされています。しかし、フィジー、キリバス、パラオ、サモアなどが先進的に使い捨てプラスチック禁止やDRS制度を導入しており、小国ならではのアジリティを活かした政策実験の場ともなっています。
太平洋地域では「Cleaner Pacific 2025」戦略のもと、地域内リサイクルハブの構想──中心国に集約施設を設置し、周辺国からフィーダーシステムで資源を集める──も検討されています。スケールの制約を地域協力で乗り越えるこのアプローチは、ネイチャーポジティブの「空間的スケール」を考える上で示唆的です。
6.費用と財源──GDP 0.3~0.8%の「投資」
投資コストの全体像
2022年から2050年までの累積投資コストは、BAUシナリオで3.44兆ドル、低野心シナリオで3.16兆ドル、高野心シナリオで2.81兆ドルと推計されています。高野心シナリオの投資コストが最も低いのは、廃棄物発生量の削減によって必要な処理能力が減少するためです。
地域別に見ると、東アジア・太平洋がいずれのシナリオでも最大の投資ニーズを持ち(BAUで1.43兆ドル)、次いで欧州・中央アジア(0.62兆ドル)が続きます。一方、南アジアとサブサハラ・アフリカでは、高野心シナリオの投資コストがBAUシナリオより高くなります(両地域合計で0.4~0.5兆ドル)。これは、現在の極めて低いインフラ水準から普遍的なサービスを構築するための初期投資が大きいためです。
低所得国・下位中所得国のBAUシナリオにおける投資ニーズは5,560億ドルと推計されていますが、2003年から2021年までの18年間における公的開発金融のコミットメントは、低所得国で10億ドル、下位中所得国で59億ドル、合計わずか69億ドルにとどまっています。必要な投資規模と現在の資金供給の間には、文字通り「桁違い」のギャップが存在するのです。
年間コスト──高野心は「長期的に安い」
年間コスト(運営費+減価償却費)を見ると、さらに鮮明な絵が浮かび上がります。2022年の約2,530億ドルから、BAUシナリオでは2050年に約4,260億ドルへと68%増加します。低野心シナリオでは2050年に約3,620億ドルで安定し、高野心シナリオでは2030年に3,280億ドルまで上昇した後、2050年には約2,900億ドルに低下します。
つまり、高野心シナリオは初期投資が必要ですが、2050年時点ではBAUシナリオより年間約1,360億ドル低いコストで運営可能です。しかも、高野心シナリオでは廃棄物発生量25.6億トンに対して2,900億ドルの年間コストですが、BAUシナリオでは38.6億トンに対して4,260億ドルが必要です。一トンあたりのコストで見ても、高野心シナリオの方が効率的です。
年間コストの内訳を2050年時点で見ると、BAUシナリオでは残渣廃棄物の回収が37%、焼却が24%を占めます。高野心シナリオではこれらの割合がそれぞれ22%と15%に低下し、代わりにリサイクル回収やコンポスティングの割合が上昇します。これはサーキュラーエコノミーへの移行に伴うコスト構造の転換を反映しています。
対GDP比と「不作為のコスト」
レポートは、基礎的かつ普遍的な廃棄物管理システムの構築に必要な費用を、中所得国でGDPの約0.3%、先進的システムで0.5%、低所得国では0.8%程度と推計しています。しかし、現在の公的支出は低・中所得国の約4分の3でGDPの0.15%未満にとどまっています。廃棄物管理は都市予算の平均6%を吸収していますが、フルコスト回収を利用者手数料で達成しているのは主に高所得国です。利用者手数料は低所得国で年間約10ドル/世帯、高所得国で500ドル超/世帯と大きな開きがあります。
レポートが繰り返し強調するのは、不作為のコストの方がはるかに高いという事実です。未回収廃棄物による洪水被害、汚染に起因する健康被害コスト、土地資産価値の低下、観光収入の喪失、雇用機会の逸失──これらの経済的・社会的コストは、適切な廃棄物管理システムの構築コストを大幅に上回ります。さらに定量化が難しい「地域当局への信頼の毀損」や「コミュニティの尊厳の棄損」といった社会的コストも見逃せません。
カーボンマーケットと廃棄物セクターの親和性
レポートは、廃棄物セクターがカーボンファイナンスとの親和性が極めて高いことを強調しています。廃棄物セクターはCDM(クリーン開発メカニズム)の下で強い実績を持っています。埋立地ガス回収・利用、コンポスティング、廃棄物発電といったプロジェクトは、排出削減量の計測・報告・検証(MRV)が比較的容易であり、ベースラインの設定も明確です。
パリ協定第6条の下での新たなメカニズムが運用段階に入りつつある現在、廃棄物セクターのプロジェクトは再び注目されています。自主的カーボン市場(VCM)においても、2004年以降に廃棄物セクターで発行されたカーボンクレジットの数は増加傾向にあり、2006年から2024年にかけて登録されたプロジェクト数も着実に拡大しています。
ただし、レポートは、カーボンファイナンスの実効性には条件があることも指摘しています。透明なモニタリング・報告システム、国の気候目標との整合性、環境十全性の確保が不可欠です。特に、ネイチャーポジティブの観点からは、カーボンクレジットの生成が生物多様性にも正の効果をもたらす「コベネフィット型」のプロジェクト設計が求められます。例えば、埋立地のメタン回収と跡地の生態系回復を組み合わせたプロジェクトや、コンポスティングによる土壌再生と炭素隔離を同時に達成するプロジェクトは、気候とネイチャーポジティブのダブルインパクトを生み出し得ます。
1,800万人の雇用とインフォーマルセクター
レポートは廃棄物セクターの雇用について重要なデータを提示しています。63都市の報告データに基づき、都市人口10万人あたり平均312人の廃棄物労働者が存在し、世界全体では約1,800万人の都市廃棄物労働者がいると推計しています。ILOのデータはより保守的な推計を示し、世界全体で約690万人(全雇用の約0.2%)としていますが、これは主に一次雇用のみをカウントしており、移民やインフォーマルセクター、廃棄処分場に居住する労働者などは含まれていません。低・中所得国では廃棄物労働者の90%がインフォーマルセクターに属しています。世界のインフォーマルリサイクラーは推計440万人から2,200万人に及び、一人あたり1日20~80kgのリサイクル可能物を回収し、そのうちプラスチックが約30%を占めるとされています。東アジアでの普及率が最も高く(都市人口の中央値0.8%)、次いで南アジア(0.5%)、ラテンアメリカ(0.17%)と続きます。インフォーマル労働者は都市固形廃棄物の10~30%を取り扱っており、公的サービスへの圧力を緩和する役割を担っています。しかし、健康・安全リスクへの曝露、不安定な収入、社会的保護の欠如、社会的スティグマと周縁化に直面しています。
ネイチャーポジティブ経済の実現には、1,800万人の廃棄物労働者を含む「公正な移行(Just Transition)」が不可欠です。レポートは、インフォーマル労働者のフォーマル化、労働条件の改善、社会保障へのアクセス拡大を求めています。さらに、EPR(拡大生産者責任)制度の設計において、インフォーマルリサイクラーを包摂することが制度の実効性を高めるとしています。
サーキュラーエコノミーへの移行は、回収・処理にとどまらず、研究、リデザイン、リマニュファクチャリングといった上流の産業にも雇用を創出します。高所得国では、廃棄物・リサイクルセクターの経済的インパクトの相当部分が、こうした間接的な雇用や賃金、税収として発現しています。TNFD開示において、廃棄物・資源循環セクターでの雇用インパクトを「社会」の指標として定量的に報告することは、統合報告の説得力を大きく高める可能性があります。
7.拡大生産者責任(EPR)──制度設計の国際最前線
レポートの第6章は、EPR制度のグローバルな広がりについても体系的な分析を行っています。これは日本の廃棄物政策を考える上でも極めて重要なセクションです。
145カ国が何らかのEPRを導入
レポートによれば、世界の67%(145カ国)が何らかの形でEPR政策の開発・実施プロセスにあります。欧州・中央アジアが最も進んでおり、EU加盟国の84%がEPRを導入済みです。これは主にEUの廃棄物枠組指令と包装・包装廃棄物指令の影響です。地域別では、北米67%、東アジア・太平洋68%、南アジア63%、サブサハラ・アフリカ60%、中東・北アフリカ57%、ラテンアメリカ・カリブ海55%が何らかのEPR政策を有しています。所得水準が高いほど法的拘束力のある規制を持つ国の割合が高い傾向があります。
レポートが指摘する興味深いトレンドは、EPRが「使用済み製品の管理」という下流のツールから、「持続可能な設計とマテリアル選択のインセンティブ」という上流のツールへと進化しつつあることです。エコモジュレーション(環境性能に応じた料金の傾斜設定)やリサイクル含有率目標の導入がその典型です。
また、一度EPRのガバナンス体制(生産者責任組織=PRO)が確立されると、その組織を基盤として新たな製品カテゴリーや政策目標を効率的に追加できる「制度のプラットフォーム化」の傾向も指摘されています。EUの使い捨てプラスチック指令が、既存のEPRインフラを活用して漁具、たばこ製品、風船、ウェットティッシュなどに拡大した事例がその好例です。
災害廃棄物管理──一つの日本の知的資産
レポートは、東日本大震災における日本の災害廃棄物管理の経験を、世界に示唆を持つ事例として詳細に紹介しています。大規模災害時のアスベスト含有廃棄物の安全な管理手順、がれきのリサイクル推進、国と自治体の連携体制の構築など、日本はこの経験から制度的な学びを体系化し、その後の災害対応に活かしてきました。
興味深いのは、レポートがこの日本の経験とウクライナの戦災瓦礫管理を並置している点です。ウクライナでは建物・インフラへの被害が約1,700億ドルに達し、がれき撤去と処理のニーズは110億ドルと推計されています。日本の災害廃棄物管理のフレームワーク──リスクコミュニケーション、段階的アプローチ、リサイクル目標の設定、ハザード物質の特定と管理──は、紛争後復興の文脈でも応用可能な「テンプレート」として世界銀行に評価されています。

ネイチャーポジティブの観点では、災害廃棄物を単に「処分する」のではなく、コンクリートの路盤材利用、レンガ・骨材の充填材利用、非汚染木材の再加工など、循環型の復興を目指すアプローチが重要です。気候変動に伴う災害の頻発化が予想される中、災害廃棄物のサーキュラーマネジメントは、レジリエンスとネイチャーポジティブの交差点に位置するテーマとして、今後ますます重要性を増すでしょう。
8.ネイチャーポジティブ経済への7つの実装ポイント
レポートの費用分析は、意思決定者にとって極めて強力なメッセージを発しています──「やらないことの方が高くつく」。高野心シナリオは2050年時点でBAUシナリオより年間約1,360億ドル低コストです。不作為のコスト(洪水被害、健康被害、土地価値低下)まで含めると差はさらに広がります。このメッセージは、COP17や国内の政策議論において、最も説得力のある論拠の一つとなるでしょう。
世界の25.6億トンのごみは、自然資本の劣化、気候変動、海洋汚染、公衆衛生の悪化、経済的損失という、相互に結びついた危機の源泉です。しかし同時に、1,800万人の雇用、3兆ドル規模の投資機会、メタン削減による即効的な気候効果、土壌回復を通じた自然再生──これらすべてを実現する可能性を秘めたセクターでもあります。
高野心シナリオが示す未来──廃棄物発生量の安定化、100%回収、54%リサイクル率、GHG排出半減──は、技術的にも経済的にも達成可能な目標です。しかもそれは「長期的に安い」選択肢です。必要なのは、GDP 0.3~0.8%の「投資」と、それを支える政策・制度・ガバナンスの改革です。
分別回収の徹底、食品ロスの削減、コンポスティングの推進、EPR制度の深化、インフォーマル労働者の包摂──これらの一つひとつが、自然資本の回復につながる具体的なアクションです。
日本はこのセクターで世界をリードできるポジションにあります。焼却からコンポスティングへの移行、EPR制度の深化、デジタル技術を活用したスマート廃棄物管理、災害廃棄物の循環型管理、そして何より、市民参加型の分別文化──これらを世界に伝え、実装を支援することは、ネイチャーポジティブ経済における日本の競争力そのものです。
2026年10月のCBD COP17(エレバン)に向けて、日本が発信すべきメッセージの一つは、まさにこの「ごみとネイチャーポジティブの接続」かもしれません。GBFの第一回グローバルストックテイクにおいて、廃棄物管理の改善がTarget 7(汚染削減)、Target 15-A(ビジネスの持続可能性)、Target 16(持続可能な消費)にどれだけ貢献し得るかを、データに基づいて示すこと。そして、日本の成功と課題の両方を率直に共有すること。それがネイチャーポジティブの「実装フェーズ」にふさわしい国際貢献かもしれません。
出典: Cook, Ed; Ionkova, Kremena; Bhada-Tata, Perinaz; Yadav, Sonakshi; van Woerden, Frank. 2026. What a Waste 3.0: Global Snapshot of Solid Waste Management Toward Circularity until 2050. Urban Development Series. Washington, DC: World Bank. DOI: 10.1596/978-1-4648-2309-1.
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