環境省「グリーンリスト2026年改訂版」を読み解く
環境省が、2026年4月17日、グリーンボンドガイドライン及びグリーンローンガイドラインの「付属書1 明確な環境改善効果をもたらすグリーンプロジェクトの判断指針」と、その別表である通称「グリーンリスト」を改訂しました。この改訂を追っていくと、日本のサステナブルファイナンスが何に向かおうとしているのかが、輪郭をもって浮かび上がってきます。 今日は、ここをディープダイブします。たとえば、ライフサイクル全体を見るという原則の格上げ。トランジション・ファイナンスとの接続の明示。地域共生への配慮の本文への組み込み。コベネフィットを多面的に評価せよという要請。グリーンイネーブリングプロジェクトという新しい概念の輸入。生物多様性、外来種、絶滅危惧種、都市緑地、木材調達。これらがアップデートされており、ネイチャーポジティブ対応になっています。
日本のネイチャーポジティブを進めてゆく上でグリーンファイナンスは必要不可欠であり、従って、ネイチャーポジティブ経済推進に関わる人たちにとって必読の資料となっています。・・・しかし、分かりづらい!
そこで、本稿では、この改訂を追いながら、変更の全体像を把握した上で、日本のネイチャーポジティブの実装にどのような影響を及ぼすのかを考察します。今日も楽しんでいってくださいね!
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世界のグリーンファイナンスと日本
世界のグリーンファイナンス
世界のサステナブルファイナンス市場は、世界銀行グループの2025年第4四半期市場アップデートによれば、グリーン、ソーシャル、サステナビリティ、サステナビリティ・リンク、トランジションを含むラベル付きサステナブル債券の2025年年間発行額は9,040億米ドルで、2024年比17%減少しました。一方で、累計発行額は2025年12月時点で6.81兆米ドルに達し、2025年もグリーンボンドは発行全体の62%を占める主要な商品であり続けています。
この数字から読み取るべきことは二つあります。一つ目は、サステナブルファイナンスはすでに大きな資本市場になっているということです。累計で数兆ドル規模に達している以上、もはや一部の先進的企業だけの特殊な調達手法ではありません。二つ目は、市場は単純な右肩上がりではなくなっているということです。2025年の発行額が減少したことは、反ESGの政治的環境、金利環境、ラベル付き商品の追加コスト、投資家の目線の厳格化など、複数の要因が重なった結果と考えられます。ただし、発行額の一時的な減少を「市場の終わり」と読むのは早計です。むしろ、ラベルを付ければ資金が集まる段階から、ラベルの中身が問われる段階に入ったと見るべきです。
この流れの中で、世界では三つの変化が進んでいます。

第一に、基準の厳格化です。EUでは欧州グリーンボンド基準が任意基準として導入され、EUタクソノミーとの整合、透明性、外部レビューの監督が重視されています。欧州委員会は、この基準を、EUタクソノミーの詳細な基準に基づいてグリーンな経済活動を定義し、市場実務に沿った透明性を確保し、発行前後のレビューを行う会社を欧州レベルで監督する仕組みと説明しています。
第二に、資金使途特定型の重要性が再確認されています。資金使途特定型とは、調達した資金を特定の環境改善プロジェクトに充てる仕組みです。英語ではUse of Proceedsと呼ばれます。グリーンボンドやグリーンローンは、この考え方に立つ商品です。これに対し、サステナビリティ・リンク型は、資金の使い道を一般目的に使える一方で、借り手や発行体のサステナビリティ目標の達成状況に応じて金利などが変わります。後者は経営全体の変革を促す利点がありますが、KPIや目標水準が甘い場合には、実効性に疑問が生じます。そのため、具体的な環境改善事業に資金をひも付けるグリーンローンの役割は、むしろ再評価されています。
第三に、自然資本と気候の統合です。これまでのグリーンファイナンスは、気候変動緩和、特にCO2削減を中心に発展してきました。しかし、国際的には、自然関連リスク、自然への依存、自然への影響、そして自然関連の機会を金融判断に組み込む動きが急速に進んでいます。昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット15は、大企業や金融機関に対し、生物多様性に関するリスク、依存、影響を定期的に評価し、透明性をもって開示することを促しています。
つまり、世界の流れは、気候だけを見るグリーンファイナンスから、気候、自然、循環、地域、社会的影響を合わせて見るグリーンファイナンスへ移っています。今回の日本のグリーンリスト改訂も、この世界的な流れの中に位置付けるべきです。

世界の「グリーン」の定義
ICMAのグリーンボンド原則は、グリーンファイナンスの世界共通言語として機能してきましました。資金使途、プロジェクト評価・選定プロセス、調達資金管理、レポーティングという四つの核となる要素は、各国・各地域の制度設計のひな型になっています。日本のグリーンボンドガイドライン及びグリーンローンガイドラインも、ICMAの原則を土台に、国内事情に合わせて肉付けする構造になっています。

そのICMAが、近年「グリーンイネーブリングプロジェクト(GEP)」という概念を正式に導入しました。直訳すれば「グリーンを可能にするプロジェクト」となります。それ自体では明確にグリーンとは位置付けられないが、グリーンプロジェクトのバリューチェーンで重要な役割を果たすプロジェクトを指す。たとえば再エネ機器に必要な特殊金属の精錬、EVバッテリーの製造装置、循環経済を支える物流インフラ。最終的なアウトプットがグリーンとは言いきれなくとも、それがなければグリーンプロジェクトが成立・製造・実施・スケールアップできません。そういう支柱を、市場として認識しようという発想です。

GEPは、ある活動がなければ環境改善効果のあるプロジェクトが量産できないという連鎖は無数にある。GEPは、この連鎖に正面から名前をつけ、資金を流す導線を作る試みです。
EUタクソノミーの議論も並走しています。Do No Significant Harm(DNSH)原則やミニマム・ソーシャル・セーフガードの組み込みは、グリーン認定された活動が他の環境目的に深刻な害を及ぼしていないか、社会的最低基準を満たしているかを問う仕組みです。「ネガティブな環境効果」を構造化して評価するという発想は、EUが先行しています。日本のグリーンリストが、ネガティブな環境効果の記載を拡充し、地域共生への配慮を本文に取り込んだのは、この潮流の延長線上にある。
世界のグリーンファイナンスは、気候単独から、自然・循環・社会との統合領域へ。プロジェクト単体評価から、ライフサイクル・バリューチェーン全体評価へ。環境改善効果の量的開示から、ネガティブ効果と相乗効果の多面評価へ。この三つの方向に動いています。今回の日本の改訂は、その世界的な潮流に対する応答あります。
シンガポールのSGSサステナブルファイナンス・タクソノミー、ASEAN共通タクソノミーといった、地域別・国別タクソノミーの整備も進んでいます。各タクソノミーは内容に違いがありますが、共通して採用されているのは、「気候緩和への寄与」「DNSH原則」「ミニマム・ソーシャル・セーフガード」という三層構造です。日本のグリーンリストが、本文に地域共生への配慮、ネガティブ効果のライフサイクル評価、コベネフィット評価を組み込んだことは、この国際的な三層構造との整合を志向する動きとして読み解ける。
中国は、独自の「グリーン産業指導目録」と「グリーンボンド支援プロジェクト目録」を通じて、世界最大級のグリーンボンド市場を構築してきましました。中国の目録は、これまで欧州よりも気候緩和の解釈が広く、石炭火力の高効率化なども含めていた経緯がありますが、2021年改訂で化石燃料関連を整理し、国際基準に近づけています。

これらの動きを通底するのは、「グリーン」という言葉の輪郭が、単なる気候緩和を超えて、自然・社会・地域経済との関係性まで含む形で再定義されつつあるという事実です。日本のグリーンリスト改訂は、この再定義の世界的な動きの中で、日本市場の立ち位置を更新する作業でもあります。
日本のグリーンファイナンス
日本のグリーンファイナンス市場を見ると、グリーンボンドは先行して成長してきました。環境省のグリーンファイナンスポータルによれば、日本のグリーンボンド発行額は増加し、年間発行額は2020年に1兆円を超えました。円建て発行額で見ると、2023年は2兆3,266億円、2024年は1兆4,214億円、2025年は1兆3,169億円と整理されています。
一方、グリーンローンは、国内では2017年に最初の実行があり、資金使途は主に再生可能エネルギーとグリーンビルディングを中心に広がってきました。環境省の同ポータルによれば、国内のグリーンローン額は、2022年に8,704億円、2023年に1兆118億円、2024年に8,593億円、2025年に9,040億円とされています。
ここで重要なのは、日本では企業金融において間接金融、つまり銀行融資の存在感が大きいことです。もちろん大企業や自治体のグリーンボンドも重要です。しかし、地域の再エネ、省エネ改修、農林水産、自然共生サイト、グリーンインフラ、上下水道、気候適応、地域交通、循環型設備などは、必ずしも債券市場で大規模に資金調達する案件ばかりではありません。むしろ、地域金融機関やメガバンク、政府系金融機関、信金・信組、リース会社が関与するローンの方が、現場に近い場合が多いです。
だから、日本でネイチャーポジティブを実装するには、グリーンボンドだけでなく、グリーンローンの質が重要になります。グリーンローンガイドラインは、まさにそのための道具です。環境省のガイドラインでは、グリーンローンは、企業、地方公共団体、その他の組織が国内外のグリーンプロジェクトのために資金を調達するローンであり、資金がグリーンプロジェクトに限定して充当され、信頼できる方法で追跡・管理され、融資後のレポーティングによって透明性が確保されるものと定義されています。この定義から見ると、グリーンローンの本質は、資金の流れを特定の環境改善効果に結び付け、その効果を説明し、管理し、報告することです。金利条件は副次的な論点です。むしろ重要なのは、借り手と貸し手が、環境改善効果、ネガティブな影響、法令遵守、地域共生、長期目標との整合性について、融資前から融資後まで対話することです。今回のグリーンリスト改訂は、この対話の中身を濃くするものです。
環境省による改訂のポイント

グリーンリストは、ICMA(国際資本市場協会)のグリーンボンド原則において示されている資金使途の例示の分類を元に、国内外の知見や発行実績等を踏まえて、グリーンプロジェクトとして整理され得るものを例示したものです。位置づけそのものは変わっていません。資金調達者の潜在的な需要を喚起し、グリーンプロジェクト検討の際の目線を提供することにより質の担保にも貢献する、というのが目的です。

グリーンリストに載っていることは、直ちに適格性を保証するものではありません。逆に、リストに明示されていない事業でも、判断指針に照らして明確な環境改善効果を説明できれば、個別評価の余地があります。
環境省は今回の改訂で、プロジェクトの実施時に地域共生への配慮や、ネガティブな環境効果の例の記載を拡充しています。プロジェクトのライフサイクル全体、社会面のネガティブ効果、地域社会との共生、複数の環境目的にまたがるコベネフィット、バリューチェーン上で間接的に環境改善に貢献するイネーブラーです。こうした目線が今回のアップデートでは重要です。

グリーンイネーブリングプロジェクトが示す新しい論点
今回の改訂で非常に重要なのが、グリーンイネーブリングプロジェクトの追加です。グリーンイネーブリングプロジェクトとは、グリーンプロジェクトのバリューチェーンで重要な役割を果たすものの、それ自体では明確にグリーンとは位置付けられないプロジェクトを指します。たとえば、再生可能エネルギー設備そのものではないけれど、その製造、実施、拡大に不可欠な部材、システム、技術、サプライチェーン上の活動などが考えられます。
ICMAの2025年版グリーンボンド原則では、2024年に公表されたグリーンイネーブリングプロジェクト・ガイダンスへの言及が追加されました。ICMAは、いくつかの活動はそれ自体ではグリーンとは見なされないものの、グリーンプロジェクトの開発、製造、実施、拡大に必要な構成要素であり、グリーンプロジェクトの成功や存在に必要な条件を整えるものだと説明しています。

今回のグリーンリスト改訂は、この国際的な整理を日本のグリーンファイナンス実務へ取り込んだものです。これは、実務上かなり大きな意味があります。
従来のグリーンファイナンスでは、太陽光発電所、風力発電設備、省エネ建築、電動車、下水処理施設など、直接的に環境改善効果を生むプロジェクトが中心でした。しかし、脱炭素、循環経済、ネイチャーポジティブを本気で進めるには、直接的なプロジェクトだけでは足りません。関連するデータシステム、モニタリング技術、トレーサビリティ、維持管理、サプライチェーン管理、測定技術、評価技術が必要になります。
今回の改訂は、こうした「支える事業」を金融の対象として認識する余地を広げました。ただし、ここにはリスクもあります。グリーンイネーブリングプロジェクトは、便利な概念である一方、乱用されると、何でもグリーンと言えてしまう危険があります。だからこそ、今回の改訂では、GEPの資金調達にあたってICMAのガイダンスを参照すること、環境省の「グリーンプロジェクトに寄与する事業の考え方」も補助的資料として参照し得ることが示されています。

今回の改訂の全体像

今回の改訂は、三層で見ると分かりやすいです。
第一層は、付属書1本文の整理です。ここでは、判断指針そのものに、ライフサイクル全体の考慮、トランジションファイナンスとの関係、カーボンロックインへの注意、地域共生、法令遵守、多機能性やコベネフィットの考え方が明記されました。
第二層は、別表、つまりグリーンリストの構造整理です。従来リストの注記に置かれていた重要な考え方の一部が本文側へ移され、リスト側には補足的な留意点を置く形に整理されました。また、グリーンリスト全体に係る注意事項が整理され、絶対量を原則としつつ、原単位や変化量が適切な場合も個別判断するという考え方が示されました。
第三層は、各大分類の中身の改訂です。ここでは、ネガティブな環境効果の例、環境改善効果を算出する際の具体的な指標、小分類の見出しや表現が更新されました。特に、生物多様性、自然資源、循環経済、グリーンビルディングでは、ネイチャーポジティブに直接関わる指標が増えています。

改訂概要では、主な修正として、関係する政府の計画等、現在の市場における発行動向、国際的な議論の進展を踏まえた記載修正、カバーページ注記の整理、地域共生への配慮やネガティブな環境効果の例の拡充、視認性の高いリストの性質を維持するための小分類3-1及び大分類9への小見出し追加が挙げられています。
ここから先は、具体的にどこが変わったのかを見ていきます。

付属書1本文の変更点 1 ライフサイクル全体を見ることが本文に入った
最初の大きな変更は、環境改善効果とネガティブな環境効果について、ライフサイクル全体を考慮して判断することが、本文に移されたことです。ライフサイクル全体とは、事業の運用時だけでなく、原材料調達、製造、建設、運用、維持管理、廃棄、リサイクルまで含めて見るということです。たとえば、発電時にCO2を出さない設備であっても、製造段階で大きな環境負荷がある場合、土地造成で生態系に大きな影響がある場合、廃棄段階で有害物質や大量の埋立が発生する場合があります。

融資審査で「この設備は省エネ型です」「この発電所は再エネです」と説明されても、それだけでは足りません。資材調達、土地利用、廃棄、地域への影響まで確認する必要があります。この考え方が本文に入ったことで、ライフサイクル評価は、単なる補足注記ではなく、グリーンプロジェクト判断の基本姿勢になりました。
付属書1本文の変更点 2 トランジションファイナンスとの関係が明確になった
次に、グリーンボンドやグリーンローンであっても、クライメート・トランジション・ファイナンスの要素を市場から求められる場合があることが本文に整理されました。トランジションファイナンスとは、現時点で排出量が多い産業や企業が、長期的な脱炭素目標に整合する形で排出削減を進めるための金融です。ここで重要なのは、グリーンとトランジションは完全に別物ではないという点です。たとえば、温室効果ガス排出を抑制する設備更新は、短期的には排出削減効果を持つかもしれません。しかし、その設備が長期にわたり化石燃料利用を固定化するなら、2050年カーボンニュートラルとの不整合を生む可能性があります。これがカーボンロックインです。
今回の改訂では、温室効果ガスの排出を抑制するプロジェクトについて、一定期間固定化して温室効果ガスが排出されるリスクを踏まえ、長期目標との明らかな不整合が生じないよう留意が必要であることが本文に整理されました。これは、グリーンローンの審査で「前年比でCO2が減る」だけでは足りないことを意味します。短期的な削減と、長期的な移行経路の両方を見る必要があります。特に、ガス利用設備、水素・アンモニア関連設備、船舶、航空、産業プロセス、廃棄物処理施設などでは、単年度の削減効果だけでなく、2050年に向けた設備寿命、代替可能性、排出固定化リスクを確認する必要があります。


付属書1本文の変更点 3 地域共生と法令遵守が明記された
今回の本文では、資金提供者においても、資金使途となるグリーンプロジェクトが、期待される環境改善効果以外のネガティブな効果をもたらすことがないか、環境関連のみならず各種関係法令の遵守や地域共生への配慮がなされているか留意することが必要であるとされています。日本では、再生可能エネルギー、特に太陽光や風力をめぐって、地域住民との合意形成、景観、土砂災害、森林伐採、生態系影響、騒音、反射光、鳥類への影響などが課題になってきました。グリーンファイナンスが「環境に良い」という名目だけで地域の不信を招けば、市場全体の信頼が低下します。地域共生の明記は、グリーンプロジェクトの社会的受容性を金融判断に組み込むものです。地域の自然条件、土地利用、災害リスク、景観、農林漁業、文化的資源、住民生活との関係を把握し、必要に応じて計画へ反映することです。金融機関にとっては、地域共生が不十分な案件は、将来の工事遅延、訴訟、操業停止、評判リスク、返済リスクにつながる可能性があります。つまり、地域共生は道徳的な配慮であると同時に、信用リスク管理でもあります。

付属書1本文の変更点 4 多機能性とコベネフィットが入った
コベネフィットとは、一つの取組が、本来の目的以外にも複数の良い効果をもたらすことです。今回の本文では、単一のグリーンプロジェクトが複数の社会課題の解決に寄与する可能性や、複数の環境改善効果を創出する可能性がある場合、複数の指標を用いて環境改善効果等を多面的に評価することが望ましいと整理されました。
ネイチャーポジティブの観点から重要です。たとえば、都市の緑地整備は、CO2吸収だけでなく、ヒートアイランド対策、雨水浸透、生物多様性、健康増進、地域の快適性、防災・減災、資産価値向上につながる場合があります。河川や湿地の再生は、水害リスク低減、生物多様性回復、地下水涵養、地域観光、教育機会にもつながり得ます。持続可能な農業は、温室効果ガス削減、土壌炭素貯留、生物多様性保全、水質改善、地域ブランド形成に関係します。これまでのグリーンファイナンスでは、CO2削減量が最も説明しやすい指標でした。しかし、ネイチャーポジティブの領域では、CO2だけでは価値を説明できません。面積、種数、生息・生育状況、水循環、土壌、外来種、景観、地域との関係など、複数の指標を組み合わせる必要があります。今回の改訂は、その方向へ進んでいます。

別表の変更点 環境改善効果の指標は「絶対量が原則、ただし個別判断」へ
別表では、環境改善効果を算出する際の指標に用いる値について、絶対量を原則としつつ、守秘義務契約や競争上の配慮、事業内容に応じて、原単位や変化量等が適切な場合もあるため、個別事例に応じて判断することが必要と整理されました。絶対量とは、たとえばCO2削減量何トン、水使用削減量何立方メートル、廃棄物削減量何トン、保全された緑地面積何平方メートルといった値です。絶対量は、資金の環境効果を市場に説明するうえで分かりやすい指標です。
環境認証・認定・ラベル表示制度の変更点

別表末尾の参考情報「環境認証・認定・ラベル表示制度等について」も、二点の重要な変更が加わりました。
第一は、冒頭注釈の修正あります。改訂前は単に「認証を取得した事業等が絶対的にグリーンであることの証明ではないので、留意が必要」とされていた記述が、「認証制度は、認証を取得した事業等が絶対的にグリーンであることの証明ではない、環境への影響や環境性能以外を評価対象とする場合もあるので、留意が必要」と書き換えられました。
認証は有用です。認証制度の中には、環境性能だけでなく、運営管理体制、ガバナンス、社会的配慮、経済的持続可能性といった要素を評価対象とするものが多い。グリーンファイナンスの判断指針として認証を活用する際には、認証範囲の中で「環境性能項目に関する評価」を切り出して確認する必要があります。これはたとえばDBJ Green Building認証やSEGES認証、SITES認証の利用において、これまでも実務的に注意されてきた論点であり、注釈レベルで明文化されました。
第二は、GAP認証制度の紹介文の追加あります。「GAP認証制度(運営主体:Agraya GmbH、日本GAP協会)農業生産の各工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動であるGAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)に対する認証制度。『GLOBALG.A.P.』、『ASIAGAP』、『JGAP』の3種類が国内で普及している」という説明が、持続可能な農林漁業の認証・認定・ラベル表示等の項目に追加されました。GAP認証は、持続可能な農業の国際的な認証として、特に輸出農産物の取引で重要性を増しています。日本の農産物輸出戦略や、東京2020オリンピック・パラリンピック以降のフードサービス業界の調達基準として、GAP認証の取得は事実上の参入要件になりつつある。グリーンリストにGAP認証が明示されたことで、農業関連グリーンファイナンスの認証材料が拡張されました。
大分類

大分類1 再生可能エネルギーの変更点
再生可能エネルギーに関する事業では、大分類の構造そのものは維持されています。対象は、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱、海洋再生可能エネルギー、送電線、蓄電池、再エネ熱利用、機器製造、再エネ電力利用、ICTソリューションなどです。
今回の主な変更は、バイオマスに関するネガティブな環境効果の記載拡充です。具体的には、施設や搬入用車両からの騒音、排ガスによる大気汚染、施設からの排水による水質汚濁、温排水による海域生態系への悪影響、騒音、燃料保管時の悪臭、食料競合などが明記されました。改訂後の付属書では、これに加えて、バイオマス燃料のライフサイクル全体における温室効果ガス排出量の増加、違法伐採、泥炭地開発、土地利用変化や間接的土地利用変化など、燃料生産地における環境への悪影響も挙げられています。ここから分かるのは、再生可能エネルギーであっても、燃料調達や土地利用を見なければならないということです。バイオマスは、発電時のCO2だけを見れば説明しやすい事業です。しかし、燃料の生産、輸送、保管、燃焼、排水、廃棄物、地域影響まで見ると、環境改善効果の評価は複雑になります。この改訂は、特に木質バイオマスや輸入燃料を使う案件に影響します。金融機関は、持続可能性が確認された燃料か、廃棄物由来か、調達地で森林破壊や土地利用変化が起きていないか、燃料輸送を含むライフサイクル全体の排出量が増えていないかを確認する必要があります。
また、太陽光や風力についても、既に記載されている土地造成、景観、反射光、騒音、バードストライク、海域生態系への影響などは、地域共生の観点からさらに重みを増します。
再エネは引き続きグリーンファイナンスの中心ですが、今回の改訂後は「再エネだから良い」ではなく、「どのような場所で、どのように設置し、どのように調達し、どのように廃棄するか」が問われます。

大分類2 省エネルギーの変更点
省エネルギーに関する事業では、事務所、工場、店舗、住宅等の省エネルギー性能の高い建築物の新築又は改修、機器や設備の導入、エネルギー貯蔵、地域冷暖房、スマートグリッド、ICTソリューションなどが対象です。
今回の変更で目立つのは、建築物に関する環境認証と、データセンター等に関する記載です。環境改善効果の指標として、BELS、ZEH、GX ZEH、GX ZEH-M、ZEB等の環境認証の種類と評価が挙げられました。ここでGX ZEHやGX ZEH-Mが追加的に整理されたことは、住宅・集合住宅の省エネ性能評価が、今後のグリーンローン実務でより参照されることを意味します。
一方で、ネガティブな環境効果として、データセンター等における通信技術等の運用時を含むライフサイクル全体におけるエネルギー使用量の増加、施設の新設・増設に伴う土地造成による生態系への悪影響が明記されました。これは、現在の市場動向を踏まえると非常に重要です。AI、クラウド、デジタル化の進展により、データセンター需要は急速に増えています。データセンターに高効率設備を導入することは省エネに資する一方で、施設全体としての電力需要、冷却水需要、土地利用、送電インフラ、地域の電力需給に影響します。
したがって、データセンター案件でグリーンローンを組成する場合、PUEなどの効率指標だけでなく、再エネ調達、排熱利用、立地、土地造成、生態系影響、水使用、長期的な電力需要増を合わせて確認する必要があります。省エネの世界でも、単体効率からシステム全体の評価へ移っているということです。
大分類3 汚染の防止と管理の変更点
汚染の防止と管理に関する事業では、資源循環、廃棄物の3R、熱回収、有害化学物質の排出抑制、フロン類対策、排水処理、土壌汚染対策、プラスチックごみによる汚染防止、環境モニタリングに関するICTソリューションなどが対象です。
今回の改訂では、小分類3-1に「資源循環、廃棄物の3Rや熱回収に関する事業」という小見出しが追加され、循環経済の実現に向けて、資源確保段階、生産段階、流通段階、使用段階、廃棄段階の各段階で、ライフサイクル全体での最適化を図る事業として整理されました。この修正は、単なる見出しの追加ではありません。循環経済を、廃棄物処理の下流対策だけでなく、資源投入、製品設計、長寿命化、再生材利用、動静脈連携、食品ロス削減、高度な回収・処理まで含むものとして捉える整理です。

環境改善効果の指標では、事業実施により削減される埋立処分量、リサイクル割合、資材等のリサイクル率、廃棄物発生量の削減量、再生可能資源の使用割合、リユース・リペア・リサイクル・再製造などの資源回収・循環割合、収益に対する原材料投入量、CO2削減量などが示されています。
また、有害化学物質等の排出抑制では、水質汚濁物質、COD、BOD、大気汚染物質、VOC、水銀、有害大気汚染物質の削減量など、かなり具体的な指標が追加・整理されています。
プラスチックごみによる汚染防止では、プラスチック材料のリデュース率、リユース率、有効利用率、リサイクル率、再生材利用率、バイオマスプラスチック導入率、マイクロプラスチック放出減少率に加えて、使用されているプラスチックのうち生分解性の割合、又はエンドオブライフにおいてリサイクル循環利用される割合が加えられました。
ここで大事なのは、リサイクルを称するだけでは不十分だという点です。非効率なリサイクルによって、ライフサイクル全体で温室効果ガス排出などの環境負荷が増える可能性も、ネガティブな環境効果として示されています。一部素材のリサイクル率向上が、製品全体では単純焼却や埋立を増やす可能性にも触れています。循環経済のグリーンローンでは、部分最適ではなく全体最適を説明することが求められます。
大分類4 自然資源・土地利用の持続可能な管理の変更点
自然資源・土地利用の持続可能な管理は、今回の改訂でネイチャーポジティブとの接点が強く出た分野です。対象は、持続可能な農業、漁業、水産養殖業、森林経営、自然景観・都市緑地・水辺や水と緑のネットワーク、自然資源への負荷削減、自然資源・土地利用に資するICTソリューションなどです。持続可能な農業では、有機JAS、有機農業推進法、特別栽培農産物の基準等を満たす持続可能な手法によって管理される農地面積や生産量、化学農薬使用量や化学肥料使用量の低減、みどりの食料システム法に基づく環境負荷低減事業活動に取り組む農地面積、農産物収穫量、温室効果ガス排出削減量などが示されています。さらに、家畜排せつ物管理や飼料添加物による家畜由来温室効果ガスの削減、バイオ炭の農地施用による土壌炭素貯留量も指標化されています。これは、農業を単なる食料生産ではなく、気候、土壌、生物多様性、水、地域経済をつなぐ領域として見る整理です。
持続可能な漁業・水産養殖業では、MEL、MSC、ASCなど、生物多様性・生態系にも配慮した認証の取得、認証水産物の取扱量、自然共生サイトの面積が指標として整理されています。
持続可能な森林経営では、森林経営計画の作成面積、森林整備面積、木材生産量、FSCやSGEC/PEFC認証の取得面積、森林によるCO2吸収量、水源涵養量、森林の種多様度、森林蓄積、下層植生の植被率、自然共生サイトの面積などが示されています。
都市緑地・水辺に関する事業では、都市の緑地や親水空間の面積変化、都市開発における地表面被覆や植生改善の面積、事業によって保全された都市緑地面積、優良緑地確保計画認定制度であるTSUNAGの取得面積や取得数、炭素固定量、自然共生サイトの面積が示されています。
一方で、ネガティブな環境効果として、農業や漁業の実施に伴う外来種の導入・拡散、鳥獣被害の増加、エネルギー使用量の増加、騒音、土地造成や土地利用改変による生態系への悪影響が挙げられています。

この領域の実務上のポイントは、自然資源を「使う」ことと「守る」ことの両立です。持続可能な農林水産や森林経営は、自然に近い領域であるからこそ、適切に設計すればネイチャーポジティブに貢献します。しかし、設計を誤れば、外来種、過剰利用、単一化、鳥獣被害、土地改変を通じて自然を損なうこともあります。
グリーンローンでは、認証や制度の取得だけでなく、現場の管理状態、モニタリング、地域関係者との合意、長期的な維持管理まで見る必要があります。
大分類5 生物多様性保全の変更点
生物多様性保全は、今回の改訂で最もネイチャーポジティブとの関係が明確になった領域です。
対象は、保護地域やOECM、自然共生サイト等における生態系の健全性の保全・再生、絶滅危惧種の保全、侵略的外来種による負の影響の防止・削減、野生鳥獣との適切な距離を保つ鳥獣被害の緩和、生物多様性保全に資するICTソリューションです。
まず、小分類5-1では、森林生態系、農地生態系、都市生態系、陸水生態系、沿岸・海洋生態系といった見出しが整理されました。改訂概要では、各生態系の見出しを太字にする修正とされていますが、実質的には、生態系ごとの保全・再生の内容を読みやすくする改訂です。環境改善効果の指標では、保護地域・OECM・自然共生サイト面積、代表的な生態系で適切な保全管理が行われた面積、動植物の種数、多様性、生息・生育状況、森林の種多様度、下層植生の植被率、農地生態系を代表する鳥類・両生類・昆虫類の確認頻度、都市生態系を代表する鳥類・昆虫類の確認頻度、河川・湖沼・湿地の鳥類・魚類等の確認頻度、干潟、藻場、サンゴ礁の構成種数や底生生物・魚類等の確認頻度などが示されています。これは面積だけでなく、質を問う方向です。自然共生サイトの面積が増えることは重要ですが、面積だけでは生物多様性の状態を説明できません。どの生物が戻っているのか、確認頻度はどう変わっているのか、生態系ネットワークはつながっているのか、炭素吸収や遊水機能はどうかを見る必要があります。
小分類5-2では、絶滅危惧種の定義が明確化されました。環境省又は各自治体が作成するレッドリストにおいて絶滅危惧種と評価されている種が対象です。指標としては、絶滅危惧種の回復量、生息・生育状況、生息・生育地点数、生息生育環境の保全・改善を行っている面積や地点数、飼育・栽培・繁殖を行っている絶滅危惧種の種数・個体群数、種子や生殖細胞等の保存がされている種数・個体群数、自然共生サイト面積、種の保存法に基づく保護増殖事業の実施数が挙げられています。一方で、不適切な野生復帰に伴う生態系への悪影響も明記されました。これは重要です。良かれと思って生物を放すことが、生態系、在来種、遺伝的多様性、病原体、寄生生物に悪影響を与える可能性があります。生物多様性保全では、「増やす」ことよりも、「適切な場所で、適切な個体を、適切な方法で、適切に管理する」ことが重要です。
小分類5-3では、侵略的外来種の定義が、環境省及び農林水産省の生態系被害防止外来種リストに基づくものとして整理されました。指標として、外来種に関するCPUE、外来種が占有している面積、被害地域で確認される外来種の個体数、希少種や在来種の種数又は個体数、防除計画の策定数、非意図的侵入への事前対策割合、外来種の野生逸出対策を行う事業所等の割合、新たな外来種確認時に速やかに防除等の措置を講じた件数、自然共生サイトの面積が示されています。ここでも、ネガティブな効果として、外来植物の刈り取り時の種子飛散、捕獲後の外来種の脱走による分布拡大などが挙げられています。
5-4(野生鳥獣との適切な距離・鳥獣被害緩和)、5-5(ICTソリューション)も含めた大分類5全体としては、日本固有の生態系課題(イノシシ・シカ・クマ被害、外来種、希少種保全、海域生態系)への対応を、国際フレームワークと整合した形で金融化する道筋が、はっきりと見えてきます。
生物多様性保全のグリーンローンは、今後大きく伸びる可能性があります。ただし、気候変動分野のCO2削減量ほど単純な単位がありません。だからこそ、今回の改訂のように、面積、種数、確認頻度、個体数、ネットワーク指数、自然共生サイト、TSUNAG、炭素吸収、遊水機能などを組み合わせる必要があります。ここは、ネイチャーポジティブ金融の中核領域になっていくと考えます。ブルーカーボン・ブルーインフラに関する記述も整理されています。「沿岸・海洋生態系:水質浄化・生物多様性の確保及び(又は)ブルーカーボンを活用した吸収源対策等に関わる藻場・干潟・サンゴ礁等の海域環境の保全・再生・創出等(ブルーインフラに関する取組等を含む)」という記述は、Jブルークレジット制度との連動を意識した整理です。

大分類6 クリーンな運輸の変更点
クリーンな運輸では、電動車、鉄道、自転車、ゼロエミッション船、内航海運のハイブリッド船、利用インフラ、物流効率化、エコドライブ支援、パークアンドライド、カーシェアリング、持続可能な海上輸送などが対象です。今回の変更では、環境改善効果の指標として、整備した施設数、施設の収容能力、施設の利用率・稼働率などが追加されました。これは、インフラ整備の「存在」だけでなく、実際に使われているかを問う方向です。たとえば、電動車の充電施設を整備しても、利用率が低ければ環境改善効果は限定的です。パークアンドライド施設も、利用率が低ければ自動車交通量の削減につながりません。物流拠点やモーダルシフトも、実際の輸送量、輸送距離、交通量の変化を見なければ評価できません。
ネガティブな環境効果では、輸送手段の利用に伴う外来種の導入・拡散が挙げられています。改訂後の付属書では、大規模な土地造成に伴う生態系への悪影響、不適切なレアメタル等の金属の採掘・使用・廃棄による環境への悪影響、特定の場所や時間帯に集中することによる騒音・振動・大気汚染の増加、事業拠点付近の騒音・廃棄物なども示されています。クリーンな運輸は、脱炭素に大きく貢献します。しかし、車両や船舶の製造には鉱物資源が必要です。港湾や物流拠点の整備には土地利用の変化があります。交通網の変化は、地域環境や生態系にも影響します。今回の改訂は、運輸分野でも、CO2だけでなく自然資本と資源循環の視点を入れる方向です。

大分類7 持続可能な水資源管理の変更点
持続可能な水資源管理では、水源涵養、雨水の土壌浸透、地下水保全、グリーンインフラ、水害防止施設、上水道、海水淡水化、都市排水システム、下水汚泥管理、水効率技術などが対象です。
今回の変更では、7-1(水循環保全)では、年間排水処理効率、雨水浸透施設整備面積、供給量、供給安定性、水質汚濁物質、COD、BODなどの指標が整理されました。水資源管理は、ネイチャーポジティブと非常に相性の良い分野です。水源涵養、雨水浸透、湿地、河川、都市排水、下水、地下水は、生態系の基盤です。グリーンインフラを通じた水循環の回復は、防災・減災、ヒートアイランド対策、生物多様性、都市環境改善に結び付きます。
一方で、ネガティブな環境効果として、大規模な土地造成に伴う生態系への悪影響、外来種等の不適切な植栽の導入、濃縮水の放流等による生態系への悪影響、エネルギー効率の悪い装置や方法の採用による温暖化への悪影響が示されています。
ここで注目すべきなのは、海水淡水化や高度処理など、水の量や質を改善する技術であっても、エネルギー消費や濃縮水の放流による影響を見なければならないという点です。水資源管理は、技術導入だけでなく、流域全体での水循環、土地利用、生態系、エネルギー消費を合わせて評価する必要があります。

大分類8 気候変動への適応の変更点
気候変動への適応では、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活、気象観測や早期警戒システムなどが対象です。
今回の改訂では、小分類8-1に「農業・林業・水産業」という見出しが整理されました。内容としては、気候変動に対応する作物品種や技術の開発・導入、品目転換、施設栽培・畜産の設備導入、生産地の移動、環境負荷の低い農業、養殖品種や技術の開発・導入、魚種変化に対応した加工設備、藻場の保全等の漁場整備が含まれています。指標として、高温耐性品種の作付面積、気候変動に対応した品種の開発件数、品目転換面積、適応技術の活用面積、草地改良面積、高水温適応株の開発件数、藻場造成面積、造成後のモニタリングや食害生物対策の実施面積などが示されています。
産業・経済活動では、従業員等の熱中症対策コストと罹患件数の減少が追加されました。これは、人の健康と企業活動の継続性を気候適応の指標として扱うものです。
大分類9 循環経済に対応した製品、製造技術・プロセス、環境配慮製品の変更点
大分類9は、改訂概要でも視認性向上の対象として明示された領域です。9-1、9-2の双方に小見出しが追加され、指標例が大幅に拡充されました。
9-1には、「環境に配慮した製品を製造する事業:」という小見出しが追加されました。環境に配慮した製品を製造する事業では、環境配慮型製品やエコラベル・認証を取得した製品の開発・導入、再生材や再生可能資源等の素材による包装、シェアリング、サブスクリプション、リペア・メンテナンスなど、製品の長期利用を促進するツールやサービス、工場・事業場の建設・改修、食料・農林水産業における持続可能な加工・流通システムが含まれます。指標としては、カーボンフットプリントの削減量、温室効果ガス排出の削減貢献量、再生材や再生可能資源の利用量・割合、重要原材料の割合、原材料投入量の削減量、収益に対する原材料投入量、製品寿命の延長、持続可能なサプライチェーンから調達されている原材料の割合、エンドオブライフでのプラスチックの生分解性又はリサイクル割合、製品の廃棄量に対する循環利用量の割合、リユース可能・リサイクル可能・堆肥化可能な容器包装の割合、ツールやサービスにより回避できたCO2排出量や廃棄物量が示されています。ここでのポイントは、製品単体だけでなく、サービスモデルやサプライチェーンまで含むことです。リペア、メンテナンス、サブスクリプション、シェアリングは、物を売り切るモデルから、物を長く使うモデルへの転換です。これは循環経済の本質に近い領域です。

9-2には、「温室効果ガス削減に資する技術や製品の研究開発・実証等に関する事業:」という小見出しが追加されました。温室効果ガス削減に資する技術や製品の研究開発・実証では、水素、アンモニア、CO2の分離・回収・貯留・利活用、次世代航空機、ゼロエミッション船、SAF、バイオ燃料などが例示されています。ただし、関連する大分類の指標を参照することが求められ、ネガティブな環境効果として、自然環境・生態系への影響、水素・アンモニア等の燃料に関するライフサイクル全体の温室効果ガス排出量の増加、アンモニア燃料船で亜酸化窒素が発生した場合の環境悪影響などが示されています。
大分類10 グリーンビルディングの変更点
大分類10では、指標例の拡充とネガティブ効果の追記が行われました。グリーンビルディングでは、建築物の省エネルギー性能だけでなく、ライフサイクルでの温室効果ガス排出削減、環境負荷の低い資材の使用、水使用量、廃棄物管理、生物環境の保全・創出、グリーンインフラなど、幅広い考慮事項に対応している建築物が対象です。大分類10の改訂は、グリーンビルディング認証(BELS、CASBEE、LEED、BREEAM、DBJ Green Building、TSUNAG、ABINC、SEGES、SITES、JHEPなど)を活用しつつ、それらの認証では十分捉えきれない木材調達のサステナビリティと土地造成影響を、金融市場の指標として補強する効果を持ちます。
今回の変更では、指標例の【カーボンパフォーマンス】に「温室効果ガス排出の年間削減量(t-CO2換算/年)、削減貢献量(t-CO2換算/年)」と単位が明確化されました。これまで「t-CO2/年」という曖昧な記載があったところを、「t-CO2換算/年」と書き換えることで、CO2以外の温室効果ガス(メタン、N2O、フロン類など)を含む包括的な指標であることを示しました。環境改善効果の指標として、温室効果ガス排出の年間削減量、削減貢献量、建築物のライフサイクルでの温室効果ガス排出量・削減量、炭素貯蔵量、環境負荷情報を開示している資材の使用、持続可能な森林から産出された木材の調達量や割合、再生材や再生可能資源等の利用量・割合、水資源使用量、雨水の採取量と再利用量、廃棄物の削減量、CASBEE、LEED、TSUNAG等の認証等の種類と評価が示されています。
特に注目すべきは、持続可能な森林から産出された木材の調達量や割合です。【資材】の項目に、「持続可能な森林から産出された木材(森林認証(FSC認証、SGEC/PEFC認証)を取得した森林から産出された木材、又は、クリーンウッド法に基づき合法性が確認でき、かつその木材が産出された森林の伐採後の更新の担保を確認できる木材)の調達量(t)や割合(%)」が追加されました。これは木材調達のサステナビリティを、認証材だけでなくクリーンウッド法準拠材も含めて評価する整理です。クリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)は2017年施行、2025年に改正法施行で要件強化が進んでおり、グリーンビルディングの木材調達における国内法的な根拠が整いつつあります。単に木材を使えばグリーンというわけではなく、どの森林から、どのように調達し、伐採後の更新が担保されているかが問われます。
ネガティブな環境効果の例には、「建築物の新築に伴う土地造成による生態系への悪影響」が追加されました。グリーンビルディングは、運用段階のエネルギー効率は高いとしても、立地選定・土地造成段階で生態系を破壊する可能性があります。グリーンビルディングは、建物の省エネ性能だけでは評価できません。立地、土地利用、緑地、雨水、資材、廃棄物、運用、周辺生態系を含めて見る必要があります。サイト選定の段階から環境影響評価を行うことの必要性が、明示的に位置づけられました。この改訂によって、グリーンビルディングは、省エネ建築から、自然資本と資源循環を含む建築へ一段進んだと読めます。
CASBEE、LEEDの近年改訂(LEED v5への移行、CASBEEの2024年改訂)では、ライフサイクルカーボンや生物多様性、レジリエンス、Well-Beingといった項目の比重が高まっています。グリーンリストの大分類10における指標群が、こうした認証の最新版と整合する方向で書き換えられたことで、認証取得とグリーンファイナンスの整合性が、これまで以上に高くなりました。
参考情報として記載されている認証制度群を改めて並べてみると、グリーンビルディング認証(BELS、LEED、CASBEE、DBJ Green Building、BREEAM)、持続可能な農林漁業の認証(有機JAS、特別栽培農産物表示、みどり認定、特定環境負荷低減事業活動実施計画、みえるらべる、自然共生サイト、GAP認証、MEL、MSC、ASC、FSC、SGEC/PEFC)、生物多様性に配慮したまちづくり・環境創出の認証(TSUNAG、ABINC、SEGES、SITES、JHEP)というように、三つの軸で整理されています。それぞれの認証は、独自の評価項目と運用主体を持ちつつ、グリーンファイナンスの判断材料として活用できます。改訂後のガイドラインは、これらの認証制度の総体を、金融市場のインフラとして取り込む構造になりました。
ネイチャーポジティブに与える影響
1 自然資本が融資審査の中へ入る
今回の改訂がネイチャーポジティブに与える最大の影響は、自然資本が融資審査の中へ入りやすくなったことです。

今回のグリーンリストでは、自然共生サイト、OECM、保護地域、TSUNAG、森林認証、MEL、MSC、ASC、FSC、SGEC/PEFC、都市緑地、親水空間、藻場、干潟、サンゴ礁、外来種、絶滅危惧種、生態系ネットワーク、自然資源への負荷削減などが具体的に扱われています。これにより、金融機関は、自然資本に関わる案件を「環境社会配慮の一部」としてではなく、グリーンローンの資金使途として扱いやすくなります。収益モデル、保全管理の財源、モニタリングコスト、事業主体、責任分担、データの信頼性は引き続き課題です。しかし、少なくとも、金融機関と企業が自然関連プロジェクトを議論するための入口は広がりました。
2 「面積」から「質」へ移る
ネイチャーポジティブの実務では、面積指標が使いやすいです。保全した面積、再生した面積、自然共生サイトの面積、緑地の面積、藻場の造成面積などは、分かりやすく、比較もしやすいです。

しかし、面積だけでは不十分です。今回の改訂では、種数、個体数、確認頻度、種多様度、森林蓄積、下層植生、底生生物、魚類、生態系ネットワーク指数、外来種の占有面積、CPUE、希少種や在来種の変化など、質に関わる指標が多く示されています。自然共生サイトが増えても、外来種が広がっている、在来種が減っている、管理が続いていない、周辺との生態系ネットワークが切れているのであれば、ネイチャーポジティブとは言いにくいです。逆に、面積が大きくなくても、希少種の生息地を適切に保全し、周辺の緑地や水辺とつなげ、長期管理を行っている事業は、質の高い貢献をしている可能性があります。今回の改訂は、質の指標を入れるきっかけになります。
3 地域共生が金融条件になり得る
ネイチャーポジティブは、地域と切り離せません。自然は場所に結び付いています。森林、河川、湿地、農地、藻場、干潟、都市緑地は、すべて地域の生活、産業、文化、災害、土地利用と関係しています。

今回、地域共生への配慮が本文に入ったことにより、自然関連のプロジェクトでは、地域との関係が金融判断の論点になりやすくなります。地域共生を軽視した自然再生は、継続しません。逆に、地域の便益と結び付いた自然再生は、維持管理の担い手が生まれ、資金調達の説明力も高まります。グリーンローンの融資契約やモニタリングでは、将来的に、地域協議の実施、管理計画の公開、モニタリング結果の共有、地域主体との協定、維持管理費の確保などが、より重視される可能性があります。
4 グリーンインフラとブルーインフラが資金調達しやすくなる
今回のリストでは、グリーンインフラに関する記載が複数の大分類に現れます。自然景観、都市緑地、水辺、水と緑のネットワーク、水源涵養、雨水浸透、自然災害・沿岸域、ECO-DRR、生態系を活用した防災・減災などです。沿岸・海洋生態系では、藻場、干潟、サンゴ礁等の海域環境の保全・再生・創出が扱われ、ブルーインフラに関する取組にも触れています。これまで、グリーンインフラは、公共事業、CSR、まちづくり、造園、緑化の文脈で語られることが多く、金融商品としての整理は十分ではありませんでした。今回のリストでは、グリーンインフラが、水資源、気候適応、生物多様性、都市環境、グリーンビルディングとつながる形で位置付けられています。これにより、都市再開発、物流施設、商業施設、工場、住宅団地、自治体インフラ、流域マネジメント、港湾、沿岸保全などで、グリーンローンやグリーンボンドを組成する余地が広がります。ただし、ここでも重要なのは、緑を入れたからグリーンではないということです。在来種か、外来種の拡散リスクはないか、雨水浸透や水循環に寄与しているか、生物の生息・生育環境として機能するか、維持管理が担保されているか、地域住民の利用と安全性が確保されているかを説明する必要があります。
実務で使うための読み方

今回のグリーンリストを実務で使う際は、まず大分類に当てはめるのではなく、プロジェクトの目的から出発するのがよいです。このプロジェクトは、何を改善するのか。CO2か。エネルギーか。水か。資源循環か。生物多様性か。気候適応か。地域の防災か。複数ある場合、主目的と副次効果は何か。次に、BAUと比べて、どの指標が改善するのかを確認します。改善効果は定量化できるか。できない場合、なぜ定量化が難しく、どの代替指標を使うのか。その次に、ネガティブな効果を洗い出します。土地造成、外来種、騒音、排水、廃棄物、燃料調達、レアメタル、地域トラブル、長期目標との不整合はないか。最後に、報告体制を設計します。誰が、いつ、どのデータを集め、誰に報告し、未達や変更があった場合にどう対応するのか。この順番で読めば、グリーンリストは単なる一覧表ではなく、案件形成のチェックリストになります。

今回の改訂を踏まえると、今後、日本でグリーンローンの対象として育ちやすいネイチャーポジティブ関連領域が見えてきます。
第一は、都市のグリーンインフラです。都市緑地、雨庭、雨水浸透、親水空間、緑道、水と緑のネットワーク、都市公園、屋上緑化、壁面緑化、暑熱対策を組み合わせる領域です。これは、大分類4、5、7、8、10を横断します。気候適応、洪水緩和、ヒートアイランド対策、生物多様性、住民の健康、建築物の価値向上を同時に説明しやすい分野です。改訂後は、優良緑地確保計画認定制度、自然共生サイト、都市緑地面積、雨水浸透面積、熱中症対策、グリーンビルディング認証などを組み合わせて、複数の効果を説明できるようになります。
第二は、農林水産業の自然資本投資です。環境負荷低減型農業、有機農業、化学肥料や化学農薬の削減、森林の適正管理、針広混交林への誘導、藻場や干潟の再生、持続可能な水産養殖、トレーサビリティの整備などです。これらは、地域の産業基盤と自然資本が直接つながるため、地方創生との相性が高い分野です。グリーンローンで資金を入れる場合は、単年度の設備導入だけでなく、複数年の管理、認証、モニタリング、販売先との関係、地域金融機関の関与まで設計する必要があります。
第三は、建築と不動産のネイチャーポジティブ化です。従来のグリーンビルディングは、省エネ性能や環境認証が中心でした。今回の改訂では、ライフサイクルでの温室効果ガス削減、環境負荷の低い資材、水使用量、廃棄物管理、生物環境の保全・創出、グリーンインフラ、持続可能な木材調達が明確に入っています。これは、不動産金融にとって重要です。建物単体の省エネから、敷地、資材、周辺環境、自然共生、利用者の健康までを含む評価へ広がるためです。
第四は、循環経済と自然負荷削減を結びつける領域です。再生材、再生可能資源、省資源設計、長寿命化、修理、再使用、再製造、リサイクル、食品ロス削減、バイオマスプラスチック、生分解性素材、循環経済ツールなどです。この分野は、大分類3と9にまたがります。重要なのは、単にリサイクル率を上げることではありません。ライフサイクル全体で温室効果ガスや有害物質、生態系への影響が増えていないかを確認することです。改訂後は、非効率なリサイクルや一部素材だけの改善によって、全体の環境負荷が増える可能性にも注意が向けられています。
第五は、自然関連データとモニタリングです。自然資源・土地利用、生物多様性、気候適応、水資源、循環経済の各分野で、ICTソリューションや観測システムが明記されています。これは、ネイチャーポジティブ金融にとって基盤的な領域です。自然関連の効果を資金提供者に説明するには、現場データ、衛星データ、センサー、画像解析、生物多様性データ、トレーサビリティ、早期警戒システムが必要になります。これらはそれ自体が自然を増やすわけではありませんが、自然を守り、回復させるための意思決定を可能にします。GEPの考え方は、この領域に資金を流すための重要な論理になります。
第六は、地域金融機関が関与する小規模分散型の自然再生です。大規模なグリーンボンドでは対象にしにくい、里山、農地、水路、河川、都市緑地、藻場、地域の水資源管理、地域の循環設備などは、グリーンローンとの相性が高い分野です。地域金融機関は、借り手の実態、地域の合意形成、土地利用の背景を把握しやすい位置にあります。改訂後のグリーンローンガイドラインは、こうした地域密着型のネイチャーポジティブ金融を広げる土台になります。
ただし、これらの領域で市場を広げるには、案件組成の型をつくる必要があります。自然関連事業は一件ごとの個別性が高いため、ゼロから説明すると時間がかかります。そこで、地域金融機関、自治体、事業会社、環境コンサルタント、研究機関が連携し、対象生態系ごとの標準的な指標、モニタリング手法、地域合意の手順、レポーティング様式を整備することが重要になります。

今回の改訂は、その標準化の第一歩です。グリーンリストは包括的な分類ではありませんが、資金調達者と資金提供者が同じ方向を向くための共通言語になります。ネイチャーポジティブの実装は、この共通言語を使い、個別の現場で具体的な案件を積み上げられるかどうかにかかっています。

参考資料
本記事は、環境省「グリーンリストの改訂概要」及び「付属書1 明確な環境改善効果をもたらすグリーンプロジェクトの判断指針」(改訂版)」を一次資料として作成しました。
そのほか、ご参考関連文献はこちら。
環境省「グリーンボンドガイドライン及びグリーンローンガイドライン 付属書1(グリーンリスト)改訂について」
環境省グリーンファイナンスポータル「グリーンボンド発行データ」「グリーンローン実行データ」
ICMA「Green Bond Principles 2025」
ICMA「Green Enabling Projects Guidance」
Loan Market Association「Green Loan Principles, March 2025」
IFRS Foundation「ISSB Update December 2025」
