建材需要を減らし、自然を守る:IUCN「Circular construction policies for nature」を読み解く
今回は、IUCNが提起する「自然のための循環型建設政策」を取り上げます。読み解くのはIUCNのレポート「Circular construction policies for nature: Regenerative approaches for the built environment through city action」です。建設というと、都市の中で起きる工事、建物、道路、再開発、住宅供給、インフラ整備、そしてその建設現場の環境影響に留まらず、自然への大きな影響は、都市の外側で起きているというものです。石灰石を掘る。砂や砂利を採る。鉄鉱石を採掘する。木材を伐り出す。それらを加工し、運び、製品にし、都市で使い、最後に壊し、埋め立てる。建物は都市の中にありますが、建物の材料は都市の外から来ます。そして、その材料の採掘、加工、輸送、廃棄の過程で、森林、河川、土壌、湿地、海岸、生物の生息地に影響が出ます。都市が自然損失を減らすうえで最も効く政策は、リサイクル率を上げることだけではなく、新しい建設資材の需要そのものを減らすことです。つまり、壊さずに使う。既存建物を改修する。部材を再利用する。新材を使う場合も、再生材や二次利用材を使う。建物を将来分解しやすく設計する。公共調達や建築許認可で、そうした行動を当たり前にしていく。このレポートでは、「建材の循環こそ、ネイチャーポジティブ経済の大きな主戦場である」と主張しています。
早速、見て参りましょう。今日も楽しんでいってくださいね!

なぜ今、建設と自然をつなげて考える必要があるのか
都市には住宅が必要です。インフラも必要です。老朽化した建物の更新も必要です。気候変動への適応のためには、都市の再設計も必要です。問題は、「どう建てるか」です。今ある建物を十分に使わずに壊し、新しい材料を大量に使い、最後に廃棄する。この直線型の建設モデルを続ける限り、都市の成長は、どこか別の場所の自然損失と結びつきます。一方で、既存建物を長く使い、改修し、部材を取り出し、再利用し、都市の中に蓄積された材料を資源として扱うことができれば、建設は自然損失の原因であるだけでなく、自然への圧力を減らす手段にもなります。

自然への影響は、企業や都市の敷地内だけで完結しません。製品や建材の原材料がどこから来たのか。その採掘や加工でどのような生態系影響が出ているのか。廃棄された後に、土壌や水にどのような負荷を与えるのか。こうした上流・下流の影響まで見ないと、自然への本当の影響は見えてきません。IUCNのレポートは、建設業をこの文脈で見ています。建設業は、世界の一次資源消費に大きく関わるセクターです。レポートでは、建設・建築環境が世界の一次資源の40%超を消費しているというデータを示し、都市の政策変更が世界の資源採掘圧力を下げる可能性を強調しています。さらに、IUCNレッドリストに基づき、住宅・商業開発が多くの種に影響し、鉱業・採石も多くの種に影響を与えていることを指摘しています。

循環型経済、英語でサーキュラーエコノミーは、製品や材料をできるだけ長く使い、廃棄物や汚染を設計段階から減らし、自然を再生する経済の考え方です。建設分野に当てはめると、循環型建設とは、建物やインフラのライフサイクル全体で、資材の使用量を減らし、再利用し、再生材を使い、廃棄を減らす取り組みになります。
まず、新築や解体を避けることです。不要な建設をしない。既存建物を使い続ける。解体より改修を優先する。これは、新たな資材採掘を避けるため、自然への効果が最も大きく、しかも比較的すぐに出ます。次に、二次利用材や再生材を使うことです。新しい資材が必要な場合でも、既存の建物やインフラから取り出した部材、再生骨材、再利用可能な鉄骨、木材部材などを使うことで、一次資源の採掘を減らせます。さらに、将来の分解や再利用を前提に設計することです。これはすぐに自然への効果が出るとは限りませんが、将来の廃棄や新材需要を減らすための基盤になります。そして最後に、こうした取り組みを公共調達、建築許認可、都市計画、データ管理、モニタリングに組み込むことです。任意の良い取り組みだけでは市場全体は変わりません。都市がルールと需要をつくることで、建設産業の行動が変わります。
「現場の緑化」だけでは足りない
都市と自然の話になると、屋上緑化、壁面緑化、公園、街路樹、雨庭、ビオトープなどがよく議論されます。これらはもちろん重要です。都市の中に生きもののすみかをつくり、暑熱を和らげ、水循環を改善し、人の健康にも貢献します。しかし、IUCNのレポートは、ここで重要な注意点を示しています。建設分野では、現場で起きる自然への影響よりも、材料の採掘・加工・輸送・廃棄に伴う都市の外側の影響の方が大きい場合が多い、という点です。建設現場で緑を増やしても、その建物に使われたコンクリート、鉄鋼、木材の採掘・加工過程で大きな自然損失が起きていれば、全体としては自然への影響を十分に減らしたことになりません。
この考え方を理解するために、レポートでは「建設現場で起きる影響」と「建材に体化された影響」を分けています。
建設現場で起きる影響とは、工事による騒音、粉じん、土壌の攪乱、水系への流出、既存植生の除去など、その場所で直接生じる影響です。これをサイトベース影響と呼びます。
一方、建材に体化された影響とは、建物に使われる材料が採掘され、加工され、運ばれ、廃棄されるまでの過程で、都市の外側に生じる自然への影響です。これをエンボディド・インパクトと呼びます。要するに「建物の中に見えない形で含まれている自然への影響」です。建物の壁や柱を見ても、そのコンクリートの石灰石がどこの採石場から来たのか、その鉄骨の鉄鉱石がどこの鉱山で掘られたのか、その木材がどの森林から伐り出されたのかは見えません。しかし、自然への影響はそこにあります。だからこそ、自然に配慮した建設政策は、都市の敷地内だけで完結してはいけません。都市の消費が、どこの自然に影響しているのかを見る必要があります。
レポートの分析方法
レポートは、4つの段階で分析を進めています。
第一に、建設が自然に与える影響を整理しています。対象となる代表的な建材は、コンクリート、鉄鋼、木材です。これらについて、採掘、製造、輸送、建設、解体、再利用・廃棄というライフサイクル全体で、どこに自然への影響が出やすいかを見ています。
第二に、循環型建設がどのように自然への影響を減らせるのかを説明しています。材料を高い価値のまま使い続けることが、資源採掘の削減、廃棄の削減、都市内の自然再生にどうつながるかを整理しています。
第三に、欧州の4都市の政策を分析しています。対象は、チューリヒ、ロンドン、ブリュッセル、パリです。いずれも循環型建設で先進的な取り組みを進めている都市です。
第四に、これらの分析を踏まえ、都市がどのような政策を取れば、循環型建設を通じて自然への影響をより効果的に減らせるのかを提言しています。
建材の分析

コンクリートの論点
まず、コンクリートです。コンクリートは都市の基本材料です。住宅、オフィス、道路、橋梁、上下水道、公共施設、あらゆる都市インフラに使われています。量が非常に大きいため、自然への影響も大きくなります。コンクリートの主な自然影響は、上流にあります。セメントの原料となる石灰石、粘土、石膏、骨材となる砂や砂利の採掘は、土地の改変、生息地の攪乱、土壌侵食、水系の変化を引き起こす可能性があります。特に砂の採取や浚渫が適切に管理されない場合、河床や海岸の生態系に影響が出ます。製造段階では、セメント製造における高温焼成、石灰石の化学反応による二酸化炭素排出、水使用、大気汚染などが問題になります。自然影響の議論では炭素だけに注目しがちですが、実際には水、大気、土地、生物多様性への影響も見なければなりません。一方で、コンクリートは地域内で供給されることも多く、輸送距離は鉄鋼などに比べると短くなる場合があります。つまり、コンクリートの自然影響を考えるうえでは、輸送よりも採石・採砂と製造の影響が重要になります。
では、循環型建設では何ができるのでしょうか。第一に、建物を壊さずに使うことです。解体を避けられれば、新しいコンクリート需要を抑えられます。第二に、解体が避けられない場合は、破砕したコンクリートを低い用途に落とすだけでなく、より高い価値で再利用することです。レポートは、現在の実務では回収されたコンクリートが道路下地などにダウンサイクルされることが多いと指摘しています。ダウンサイクルとは、元の用途より価値の低い用途に再利用することです。これは廃棄よりは良いものの、新しいセメント需要を十分には減らせません。第三に、再生骨材を新しい建物に使うことです。品質管理と規制整備が進めば、再生材の利用は採石需要の削減につながります。コンクリートは量が大きいため、都市が公共調達で再生材利用を求めるだけでも、市場に大きな影響を与える可能性があります。
鉄鋼の論点
次に、鉄鋼です。鉄鋼は構造材として重要です。高層建築、橋梁、駅、倉庫、インフラなどに広く使われます。鉄鋼の特徴は、リサイクルしやすいことです。鉄は何度も再利用できる材料であり、スクラップ回収の仕組みも比較的整っています。しかし、鉄鋼の自然影響は小さいわけではありません。
鉄鋼の上流には、鉄鉱石、原料炭、石灰石の採掘があります。露天掘りやストリップマイニングでは、大規模な土地改変、森林伐採、生息地の分断が起こり得ます。また、酸性坑廃水や重金属汚染は、河川や土壌に長期的な影響を残す可能性があります。製造段階では、高温の製鉄プロセスが大量のエネルギーを必要とします。化石燃料を使えば温室効果ガス排出も大きくなります。硫黄酸化物、窒素酸化物、揮発性有機化合物などの大気汚染、水処理、スラグなどの副産物管理も重要です。鉄鋼はリサイクルできるから大丈夫、という単純な話ではありません。リサイクルにもエネルギーが必要です。だからこそ、レポートは「再溶解してリサイクルする」だけでなく、「鉄骨部材をできるだけそのまま再利用する」方向を重視しています。鉄骨を一度スクラップにして溶かし直すより、梁や柱として使える部材を検査し、再利用する方が、材料価値を高く保てます。必要な処理も少なくなります。自然への影響を減らすうえでも、単なるリサイクルより高価値再利用が望ましい場合があります。今後、建物の設計段階で、将来の分解・再利用を考えることが重要になります。ボルト接合、部材情報の記録、材料パスポート、デジタル台帳などが整えば、鉄鋼部材の二次利用は広がります。
木材の論点
木材は、コンクリートや鉄鋼に比べて自然に優しい材料として扱われることが多いです。確かに、適切に管理された森林から調達され、長期間建物に使われる木材は、低炭素建材として重要な選択肢になります。しかし、レポートは木材についても、慎重な見方をしています。木材の自然影響は、森林管理の質に大きく左右されます。持続可能ではない伐採は、森林減少、生息地の喪失、炭素蓄積の減少、土壌の圧縮や侵食、水循環の変化を引き起こします。一方、認証林や選択伐採、再植林などの適切な管理があれば、影響を大きく減らせます。製造段階では、製材、乾燥、接着、保存処理などが行われます。鉄鋼やセメントに比べてエネルギー負荷は低い傾向にありますが、接着剤、防腐剤、仕上げ材、水処理、端材処理などの環境リスクがあります。レポートでは、加工された木材のうち、実際に板材として使える割合が限られ、残りが燃料や低価値用途に回ることにも触れています。ここから見えるのは、木材も高価値利用とカスケード利用が必要だということです。
カスケード利用とは、材料をいきなり燃やすのではなく、まず建材として使い、次に二次製品として使い、最後にエネルギー利用するというように、価値の高い用途から順に使う考え方です。木材は生分解性があるため、廃棄段階でも注意が必要です。埋め立てればメタンが出る可能性があります。処理木材の場合は、保存剤などが環境中に流出する可能性があります。焼却すれば二酸化炭素や汚染物質が出ます。だからこそ、木材もまた、長く使い、部材として再利用し、難しい場合は素材として段階的に使うことが大切です。
循環型建設とは何か
循環型建設は、直線型の建設モデルからの転換です。直線型モデルでは、資源を採り、製品をつくり、建て、使い、壊し、捨てます。これは「取る、つくる、捨てる」という流れです。循環型建設では、まず不要な建設を避けます。必要な場合でも、既存建物を使います。改修します。用途を変えます。どうしても新しく建てる場合は、材料を少なく使い、再利用材や再生材を使い、将来分解できるように設計します。解体時には壊すのではなく、部材を取り出し、次の建設で使います。この考え方で重要なのは、「都市は資源の山である」という見方です。

都市には、建物、道路、橋、地下構造物、配管、舗装、公共施設など、大量の材料が蓄積されています。これを単なる老朽インフラや廃棄物として見るのではなく、次の建設に使える資源として見る。この考え方がアーバンマイニングです。アーバンマイニングとは、都市の中に蓄積された建物や製品から、価値ある材料を回収して再利用する考え方です。鉱山から新しく掘るのではなく、都市の中にある材料を掘り出す、という意味です。これは自然にとって非常に重要です。都市の中の材料を使えば、都市の外で新しく採掘する量を減らせるからです。
さらに、レポートは「グレーインフラをグリーン・ブルーインフラに戻す」可能性にも触れています。舗装された土地をはがし、雨水が染み込む場所や植生のある場所に戻す。道路や駐車場を減らし、緑地や水辺として再生する。そのときに出た材料を再利用する。これができれば、都市内の自然再生と、建設材料の循環が同時に進みます。

どの循環策が自然に効くのか
レポートは、循環型建設の施策を大きく4つの方向で整理しています。
一つ目は、建てない、または建てる量を減らすことです。これは最も効果が大きい考え方です。不要な新築を避ける。既存建物の利用率を上げる。解体を避ける。改修や用途変更で対応する。これにより、採掘、製造、輸送、建設、解体、廃棄の影響をまとめて避けられます。
二つ目は、長く使える建物にすることです。建物の寿命を延ばす。用途変更しやすくする。将来の分解を考えて設計する。美しく、使われ続ける建物にする。これは重要ですが、自然への効果は将来に出るものです。設計時点では効果が確定しません。将来、本当に解体時に分解され、部材が再利用されるかどうかに左右されます。
三つ目は、効率よく建てることです。材料の量を減らす。不要な部材を避ける。過剰設計を減らす。低炭素・低影響の材料を選ぶ。これは確かに有効ですが、都市自治体の権限だけで直接コントロールしにくい場合があります。構造基準や技術基準は国レベルで決まることが多いからです。
四つ目は、正しい材料を使うことです。二次利用材、再生材、再利用部材を使う。危険物質を避ける。将来再利用しやすい材料を選ぶ。これは都市政策で比較的扱いやすい領域です。公共調達、土地売却条件、開発許認可、大規模開発の要件などに組み込めます。
レポートが特に重視するのは、一つ目と四つ目です。つまり、壊さずに使うこと。そして、新しく建てる場合は二次利用材・再生材を使うことです。この2つは、新たな資材採掘を直接減らせるため、自然への効果が大きいと整理されています。

自治体が持つ本当の力
建設の材料選択は、民間企業や設計者の判断に見えます。しかし、都市自治体には大きな影響力があります。
第一に、公共調達です。自治体は学校、庁舎、道路、公園、公共住宅、文化施設、上下水道などを発注します。この調達条件に、再生材利用、部材再利用、分解可能設計、材料情報の記録などを入れれば、市場に需要が生まれます。需要があれば、供給側も投資します。再生材の品質管理、部材保管、検査、認証、流通の仕組みが育ちます。
第二に、都市計画と建築許認可です。大規模開発に対して、循環型経済に関する説明書を求める。解体前に材料の棚卸しを求める。再利用計画を出させる。一定割合の再生材利用を求める。解体より改修を優先する許認可運用にする。こうした仕組みがあれば、民間開発にも影響を与えられます。
第三に、土地利用と公有地の活用です。自治体が持つ土地を民間に貸す、売る、開発させる場合、その条件に循環型建設を入れられます。これは非常に強いレバーです。
第四に、データとモニタリングです。どの材料が、どこから、どれだけ入ってきているのか。どの建物にどんな部材が使われているのか。解体時にどれだけ回収され、どれだけ高価値で再利用されたのか。こうしたデータがなければ、政策効果は測れません。
第五に、産業育成です。解体業者、設計者、施工者、材料メーカー、リユースプラットフォーム、検査機関、認証機関、デジタル台帳事業者などをつなぐことで、循環型建設の市場を育てられます。
このように、自治体は単なる環境啓発の主体ではありません。建設市場のルール、需要、データ、事業機会をつくる主体です。
チューリヒ:公共調達で市場を変える
チューリヒの事例は、公共調達の力です。チューリヒは、2002年に再生コンクリートを使った学校建設を試験的に行いました。その建物では、80%の再生コンクリートが使われたとされています。この成功を受けて、市は2005年までに、公共建築で25%の再生材使用を義務づける方向に進みました。これが重要なのは、単発の実証で終わらなかったことです。
公共調達に組み込まれることで、民間の供給側が動きます。レポートによれば、2000年代後半には、8社から10社の地元企業が再生コンクリートを生産するようになりました。2019年には、建築分野での再生コンクリート利用により、約17,000立方メートルの原材料使用と埋立を削減したとされています。この事例から見えるのは、自治体が需要をつくると、市場が育つということです。
再生材の利用は、供給側だけの問題ではありません。使ってくれる発注者がいなければ、品質管理や設備投資は進みにくい。逆に、公共発注で一定の需要が見えれば、企業は対応できます。チューリヒの政策は、自然への効果という意味でも重要です。再生コンクリートの利用は、砂利や石灰石などの採掘需要を減らす方向に働きます。都市近郊の採石・採砂地への圧力を下げることにもつながります。チューリヒはまた、2022年に欧州Circular Cities Declarationに署名し、気候行動計画にも循環型経済を位置づけ、2023年にCircular Zürich Strategyを始動しました。79施策のうち17施策が建物・インフラに関係し、将来に備えた建物・インフラ、既存部材・材料の再利用、再生的・地域資源の利用などが含まれています。
プロジェクト例としては、Juch-Arealのリサイクルセンターや、Kunsthaus Zürichの拡張プロジェクトが紹介されています。Kunsthaus Zürichでは、低炭素セメントや高い割合の再生骨材を含むコンクリートが使われました。
チューリヒの教訓は、循環型建設を広げるには、まず公共部門が使うことです。公共調達は、単に安く買う仕組みではありません。市場をつくる政策手段です。
ロンドン:開発許認可に循環型経済を組み込む
ロンドンの特徴は、都市計画制度への組み込みです。ロンドンは2017年にCircular Economy Route Mapを公表しました。ここでは、建築環境、食品、繊維、電気電子機器、プラスチックが重点分野として扱われ、建築環境では、適応可能性、モジュール性、分解可能性、建材再利用、大規模再開発への循環原則の導入などが重視されました。その後、2021年に採択されたLondon Planでは、Policy SI7「Circular Economy in the Built Environment」が導入されました。これにより、大規模開発を行う開発事業者は、Circular Economy Statements、つまり循環型経済に関する説明書を提出することが求められます。対象となる大規模開発は、床面積1,000平方メートル以上などの基準で定義されています。この仕組みの意義は、循環型経済を「任意の良い取り組み」から「開発プロセスの正式な期待事項」に変えたことです。
開発事業者は、材料をどう長く使うのか、責任ある調達をどう行うのか、再利用やリサイクルにどう回すのかを、計画段階で示す必要があります。これは、設計者、デベロッパー、施工者、材料供給者に、早い段階から循環性を考えさせる効果があります。
ロンドンの事例として、Wood WharfやOld Oak and Park Royalが紹介されています。Wood Wharfでは、解体廃棄物由来の再生コンクリート骨材を大量に取り入れ、大規模都市再生の中で循環型建設を実装しています。Old Oak and Park Royalは、大規模な住宅供給を予定する再開発地区であり、循環型経済の考え方を大規模に試す場とされています。
ロンドンの教訓は、計画段階で循環性を問うことの重要性です。建物が完成してから再利用を考えるのでは遅い場合があります。どの材料を使うか、どう接合するか、将来どう分解するか、どの情報を残すかは、設計段階で決まります。また、ロンドンの仕組みは、民間開発にも影響を与えられる点が重要です。公共調達だけでは、公共事業の範囲に限られます。しかし、都市計画・開発許認可に組み込めば、民間の大規模開発にも循環性を求められます。ただし、課題もあります。説明書を提出させるだけでは、実際の材料使用や高価値再利用がどこまで進むかは別問題です。目標が定性的なままでは、自然への効果を測りにくい。今後は、再利用率、再生材率、回避された採掘量、廃棄削減量などの指標と結びつけることが重要になります。
ブリュッセル:戦略と事業者エコシステムを育てる
ブリュッセルは、循環型経済を都市の包括的な変革として捉えています。ブリュッセル首都圏地域は、2016年に包括的な循環経済戦略を導入しました。この戦略には111のアクションが含まれ、建設も重点分野になっています。2019年の中間評価では、111施策のうち50施策が実施され、1,200以上の事業者への認知向上、139社への支援、200以上の循環経済関連雇用の創出が報告されています。ブリュッセルの特徴は、制度だけでなく、地域の事業者エコシステムを育てていることです。
レポートでは、Rotor DCとEcobuildが紹介されています。Rotor DCは、建築部材を解体・処理・再販売する協同組合で、ブリュッセルの建設資材再利用を支える重要なプレイヤーです。Ecobuildは、持続可能な建設分野の事業者をつなぎ、研修、認証、マッチングを行う組織です。循環型建設では、政策だけでは足りません。実際に部材を取り外す人、検査する人、保管する人、設計に組み込む人、買う人、保証する人が必要です。ブリュッセルは、こうした現場側の能力形成に力を入れています。
また、ブリュッセルは解体プロトコルにも取り組んでいます。解体前のインベントリ、入札仕様、現場での廃棄物管理計画、選別解体、汚染除去、最終報告などを含む非拘束のガイドです。非拘束であっても、将来の規制や実務標準の土台になります。レポートは、ブリュッセルの強みとして、解体を例外とし、改修を原則にする方向性を評価しています。これは自然への効果が大きい政策です。なぜなら、既存建物を使い続ければ、新しい材料採掘を避けられるからです。
ブリュッセルの教訓は、循環型建設は制度だけではなく、産業の生態系づくりであるということです。部材再利用市場は、政策、品質、物流、設計、発注、認証、技能がそろって初めて動きます。
パリ:改修優先と都市計画で循環を進める
パリは、循環型経済を気候、社会的公正、資源効率、都市の快適性と結びつけて進めています。パリでは、2015年に循環経済に関する最初の白書が出され、その後、2017年から2020年の循環経済計画、2024年から2030年の廃棄物予防計画、2020年から2030年の地域循環経済戦略などが続いています。建設、食品、廃棄物、商業、物流など複数分野で循環性を進めており、建設分野ではモジュール性、再利用、選別解体が重視されています。
パリの特徴は、都市計画と改修優先です。改定されたPLUb、つまり生物気候型の都市計画では、解体より改修と再利用を優先する方向が示されています。新たな土地消費を抑え、既存建物の適応的再利用を進める考え方です。これは、まさに「建てない・壊さない」政策に近いものです。また、パリはBTP Matchのような建設資材の再利用・再生材マッチングのデジタルプラットフォームを推進しています。供給と需要をつなぎ、将来の材料フローを見える化することは、循環型建設に不可欠です。部材があっても、それを使いたい設計者や施工者が見つからなければ、再利用は進みません。
パリのプロジェクト例としては、Médiathèque James BaldwinとRecygénieが紹介されています。Médiathèque James Baldwinは、1970年代のホスピタリティ学校を改修し、プレキャストコンクリートモジュールを残しながら転用したプロジェクトです。解体廃棄物を減らし、木材や版築などの地域素材・バイオベース素材も組み込み、将来の再利用や柔軟性を考慮した設計になっています。Recygénieは、パリ近郊のGennevilliersにある、全て再生コンクリートでつくられた建物として紹介されています。現場での解体材再利用と可逆的な設計を組み合わせた事例です。パリはまた、道路材料の再利用プラットフォームも運営しています。Bonneuil-sur-Marneの拠点では、舗装材や縁石を再利用し、年間最大7,500トンの再生舗装石を生産するとされています。さらに、2050年までにパリの美術館の60%を改修する目標を支えるため、文化施設における循環型経済のガイドも出しています。
パリの教訓は、循環型建設を都市の再生戦略に組み込むことです。単に建材のリサイクル率を上げるのではなく、既存建物を文化施設、公共施設、住宅、コミュニティ拠点として再生する。そこに自然、気候、社会的包摂、地域経済を重ねる。これがパリ型の強みです。
ただし、レポートは課題も指摘しています。建築許認可に循環性が十分に組み込まれているわけではなく、材料トレーサビリティや分解可能設計、高価値再利用を担う人材・産業能力にも制約があります。今後は、規制の明確化、再利用インフラの拡大、技能開発が重要になります。
4都市から見られるステップアップ
4都市の事例を通じて見える本質は、循環型建設政策には段階があるということです。
最初の段階は、実証です。まず、できることを示す。再生コンクリートを使った学校を建てる。既存建物を改修する。部材再利用のパイロットを行う。これは市場の不安を下げる効果があります。
次の段階は、公共調達です。自治体が発注する公共施設やインフラで、再生材や二次利用材の使用を求める。これにより、供給側に安定した需要が生まれます。
その次の段階は、都市計画・建築許認可です。民間の大規模開発にも循環型経済の説明、材料計画、解体前調査、再利用目標などを求める。これにより、市場全体に広がります。
さらに次の段階は、材料別の政策です。コンクリート、鉄鋼、木材など、自然影響の大きい材料に対して、再利用・再生材・高価値利用の具体的な要件を設定する。
最後に、モニタリングです。どれだけ新材採掘を避けたのか。どれだけ廃棄を避けたのか。どの材料がどこから来たのか。自然への影響がどれだけ減ったのか。これを見える化する。
この段階を進めて初めて、循環型建設は「良い取り組み」から「都市の自然政策」になります。
自然政策と循環政策をつなぐ

従来、自然政策は公園、緑地、保護区、生物多様性ネットゲイン、緑化、自然再生として扱われがちでした。一方、循環政策は廃棄物削減、リサイクル、資源効率、産業政策として扱われてきました。しかし、建設分野では、この二つは強く結びついています。新材需要を減らせば、採石場、鉱山、森林への圧力が下がります。廃棄を減らせば、埋立地や汚染の影響が減ります。都市の舗装をはがし、材料を再利用し、土地を緑地や水循環に戻せば、都市内の自然再生にもつながります。つまり、循環型建設は、自然政策の実行手段です。逆に言えば、自然政策が緑化だけにとどまり、材料需要に踏み込まなければ、建設セクターの大きな自然影響には届きません。レポートは、都市の自然政策がまだ循環型建設を十分に駆動していないとも指摘しています。都市は地域内の自然保護には取り組んでいるものの、建設材料の上流影響まで政策で扱うところはまだ限られています。
政策提言1:都市のシステム責任を定義する

レポートの第一の提言は、都市の責任をシステムとして定義することです。これは、都市の境界内だけでなく、都市の消費が引き起こす自然への影響を視野に入れるということです。実務的には、次のような問いから始まります。この都市は、年間どれだけのコンクリート、鉄鋼、木材を使っているのか。それらはどこから来ているのか。採石場、鉱山、森林、加工地でどのような自然影響が起きている可能性があるのか。既存建物の改修で、どれだけ新材需要を避けられるのか。公共事業で再生材を使えば、どれだけ一次資源採掘を減らせるのか。このような問いを政策に組み込むことで、都市は自然への責任をより正確に扱えるようになります。
ここで重要なのは、都市が直接管理できる範囲と、需要側として影響できる範囲を分けて考えることです。直接管理できるのは、公有地、公共施設、公共調達、都市計画、許認可、廃棄物管理などです。間接的に影響できるのは、民間開発、材料市場、サプライヤー、設計慣行などです。まずは直接管理できる領域から始め、徐々に民間市場へ広げるのが現実的です。
政策提言2:公共調達を本気で使う

第二の提言は、公共調達を使うことです。これは、最も実務的で、最もすぐに始めやすい政策手段です。自治体は大きな買い手です。公共建築、道路、橋、公園、上下水道、学校、病院、文化施設、公共住宅など、多くの建設を発注しています。この調達仕様に、次のような条件を入れることができます。再生骨材を一定割合使うこと。二次利用部材の採用可能性を検討すること。解体前に材料棚卸しを行うこと。分解可能な設計を行うこと。材料の由来と再利用可能性を記録すること。埋立ではなく高価値再利用を優先すること。こうした条件があれば、設計者も施工者も材料メーカーも変わります。
特に重要なのは、公共調達が「市場形成」の役割を持つことです。再生材や二次利用材は、需要が安定しなければ供給体制が整いません。公共部門が継続的に使うことで、品質管理、供給量、価格、認証、物流が改善されます。チューリヒの再生コンクリートの事例は、この点をよく示しています。公共調達を通じて、再生コンクリートの供給市場が育ちました。日本でも、公共施設の建替え、学校改修、庁舎整備、道路更新、公共住宅の改修などは多くあります。ここに循環型建設の条件を組み込めば、自然への影響を減らすだけでなく、地域の建設産業の新しい競争力にもつながります。
政策提言3:高影響材料を狙う

第三の提言は、高影響材料を狙うことです。循環型建設を進めるとき、すべての材料を同じように扱うと、政策効果がぼやけます。自然への影響が大きい材料に優先的に取り組むべきです。レポートが特に重視しているのは、セメント・コンクリートのバリューチェーンです。量が大きく、採石・採砂・製造の影響も大きいからです。政策としては、単なる建設廃棄物リサイクル率ではなく、建築物への再生材利用や高価値再利用を求めることが重要です。道路下地への利用だけでは、一定の効果はあっても、建築用材料としての新材需要を十分に置き換えられません。鉄鋼については、スクラップリサイクルだけでなく、構造部材の直接再利用を進める必要があります。木材については、認証材の調達だけでなく、部材再利用、カスケード利用、処理木材の適正管理が重要です。
ここで必要になるのが、材料別の基準、検査、保証、データです。再生材や二次利用部材を使うには、安全性、性能、耐久性を確認しなければなりません。設計者や建築主が安心して使える仕組みが必要です。認証や品質保証の仕組みを整えることは、循環型建設を拡大するうえで欠かせません。
政策提言4:建築許認可に循環性を入れる
第四の提言は、建築許認可や開発手続きに循環性を組み込むことです。公共調達は公共事業には効きますが、都市の建設の多くは民間事業です。民間市場に広げるには、都市計画や建築許認可の仕組みが重要になります。ロンドンのCircular Economy Statementsは、その一つのモデルです。大規模開発に対して、循環型経済の考え方を計画段階で説明させる。材料をどう調達し、どう長く使い、どう再利用・リサイクルするかを示させる。これは、民間開発に循環性を組み込む実務的な方法です。
次の段階では、定量的な要件が必要になります。再生材率、二次利用部材の検討義務、解体前調査、埋立回避率、材料パスポート、将来の分解可能性などを、開発規模や用途に応じて求めることが考えられます。
また、義務だけでなく、インセンティブも重要です。循環型設計を行う開発に対して、許認可の迅速化、容積率上の優遇、補助、技術支援、公開評価などを組み合わせることができます。規制と支援を組み合わせれば、開発事業者にとって実行しやすくなります。
政策提言5:モニタリングをつくる

第五の提言は、モニタリングです。循環型建設が自然に効いているかを示すには、データが必要です。ただし、最初から完璧な自然影響評価を行う必要はありません。まずは、政策効果を追いやすい指標から始めるのが現実的です。
例えば、次のような指標です。改修により回避された解体面積。再利用された部材の量。再生骨材の使用量。一次資源の採掘を避けた推計量。建設廃棄物の埋立回避量。高価値再利用された材料の割合。材料の由来が追跡できる建物の割合。これらは、自然影響そのものを完全に測るものではありません。しかし、自然への圧力である新材採掘や廃棄をどれだけ減らしたかを示す代理指標になります。
レポートは、建設材料の由来や自然影響を把握するデータベース、再利用率、回避された採掘量、埋立回避量などを追跡するモニタリング体制を提案しています。重要なのは、循環型建設を「なんとなく良いこと」で終わらせないことです。数字で追い、改善し、政策を更新する必要があります。
企業にとっての示唆
このレポートは都市政策を中心にしていますが、企業にとっても示唆は大きいです。建設会社、設計事務所、不動産デベロッパー、建材メーカー、インフラ事業者、金融機関は、これから循環型建設と自然への影響を一体で見られるようになります。
建設会社や設計者は、設計段階で材料の自然影響を考える必要があります。低炭素だけでなく、採掘、水、土壌、生物多様性、廃棄まで見る必要があります。
不動産デベロッパーは、解体して新築する発想から、既存建物の価値を最大化する発想へ移る必要があります。改修、用途変更、長寿命化、部材再利用は、自然だけでなく、規制対応、資産価値、地域合意にも関わります。
建材メーカーは、再生材、高価値リサイクル、二次利用部材、材料情報の提供が競争力になります。サーキュラー対応は、単なる環境部門の話ではなく、製品戦略そのものになります。
解体業者は、壊す事業者から、資源を取り出す事業者へ変わる可能性があります。選別解体、部材検査、保管、再販売、デジタル台帳との連携が新しい価値になります。
金融機関は、建設・不動産ポートフォリオの自然リスクを見る必要があります。新材依存、解体依存、規制対応の遅れ、サプライチェーンの自然影響は、今後の移行リスクになり得ます。
つまり、循環型建設は、環境対応であると同時に、事業戦略です。

日本では、人口減少、空き家、老朽インフラ、公共施設の再編、マンション更新、災害復興、都市再開発が同時に進んでいます。新築需要だけでなく、既存ストックをどう使うかが大きなテーマになっています。ここで、循環型建設とネイチャーポジティブをつなげる余地があります。既存建物を改修して使い続けることは、文化的価値や地域の記憶を守るだけでなく、新材需要を減らし、自然への圧力を下げます。公共施設の統廃合や学校の改修では、解体材を地域内で再利用する仕組みをつくれます。道路、橋、公園、上下水道の更新では、再生材利用や舗装材再利用を標準化できます。都市再開発では、解体前に部材・材料の棚卸しを行い、再利用可能なものを地域内の建設に回せます。地方自治体は、公有地活用や公共調達を通じて、循環型建設市場を育てることができます。企業にとっては、ここに新しい事業機会があります。材料パスポート、建材のトレーサビリティ、再利用部材の検査・保証、建物解体前のデジタル調査、再生材マーケットプレイス、改修優先の設計、都市単位の資源フロー分析、自然影響の可視化などです。ネイチャーポジティブは、単に自然保護団体や環境部門だけのテーマではありません。建設、不動産、インフラ、都市政策、金融、データ産業が交わるテーマです。
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