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カーボンフットプリントから、ネイチャーフットプリントへ

 環境問題に対する第一歩は、簡単明瞭、見える化です。環境コスト部分をみえる化する、つまり、「意識できるようにする」ことで対策が動き始まります。事業や製品のエネルギー効率をある単位あたりのCO2排出量という物差しでみれば、だいたい、どれくらい努力して挑戦してきたかがわかります。自社が調達したなど直接ではないSCOPE3の部分は、カーボンフットプリントで測ることで「みなし」を行います。
 一方で、自然関連はどうでしょうか?地球環境問題のすべてが入ってくるので、また、自然は地理的な場所情報も重要になってくるので、ちょっと難しい、というか、どうやって計算するんでしょうね? え?難しくないですか?
 さて、これに挑戦しているのが、本日ご紹介する、ネイチャーフットプリントです。従来と比べて格段に計算が可能になっていることに驚くとともに、一方で制約や課題も残っています。今日は、早稲田大学伊坪先生の「【BRIDGE】金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業」のYutubeを情報ソースとして、このあたりの最前線を見てまいります。今日も楽しんでいってくださいね!


動画解説(9分)

わかりやすい解説
音声ガイド:詳細解説(16分30秒)


非財務開示は、TCFDからTNFDへ

 企業の情報開示を巡る潮流は、今、大きな転換点を迎えています。気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)によって確立された情報開示の枠組みは、そのスコープを生物多様性や自然資本へと急速に拡大させています。本レポートでは、新たな評価の「物差し」として開発が進む「ネイチャーフットプリント」に焦点を当てます。

 カーボンフットプリントとは、製品・サービスや企業活動によって排出される温室効果ガス(GHG)排出量を、原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体で算定し、CO₂量に換算して示したものです。例えば自動車1台のカーボンフットプリントを求めるには、部品の素材採掘・加工、組立時のエネルギー使用、走行時の燃料消費や電力使用、最終的な廃車・リサイクルまで、全工程のGHG排出を合計します。このようなライフサイクルアセスメント(LCA)による算定により、製品ごとの排出量を「見える化」し、企業は排出源を特定して削減策を講じたり、消費者は排出量の少ない製品を選択したりできるようになります。カーボンフットプリントの算定・報告には、GHGプロトコルやISO 14044/14067などの国際標準が用いられます。GHGプロトコルは企業のスコープ1・2・3排出量を一貫した方法で算定・分類する枠組みで、多くの企業や制度(SBTiやTCFDなど)の基盤となっています。ISO規格はGHGプロトコルの概念に基づき、測定・報告・検証の実務手順を定めた技術基準です。これら国際基準に沿って算定されたデータは、企業間で比較可能で信頼性の高いものとなり、カーボンニュートラルに向けた科学的根拠となっています。

 一方、ネイチャーフットプリントとは、企業活動や製品のライフサイクルが自然環境・生態系に与える総合的な影響を指します。具体的には、土地利用による生態系改変、資源の大量消費、生物多様性の損失、水資源の枯渇、汚染物質の排出など、炭素以外の環境負荷全般を含む概念です。いわば「自然資本への足跡」であり、生態系サービスへの依存と影響の度合いを測る指標とも言えます。カーボンフットプリントが単一指標(CO₂量)で表されるのに対し、ネイチャーフットプリントは多次元の指標から成ります。

1. 気候変動開示対応における日本の先進性

 気候変動対策で先行した情報開示の枠組みは、現在の自然関連情報開示の議論における重要な土台を築きました。企業活動が環境に与える影響を定量化し、それを開示するという一連のプロセスは、投資家や金融機関が企業を評価する際の基準に根本的な変化をもたらしました。

 気候変動分野では、「TCFD」による開示提言、「SBT(Science Based Targets)」による科学的根拠に基づく目標設定、そしてサプライチェーン全体の排出量を算定する「スコープ3」といった枠組みがグローバルスタンダードとして定着しました。これらのツールは、企業の脱炭素に向けた取り組みを客観的に評価し、比較可能にするための共通言語として機能しています。特筆すべきは、この分野における日本の先進性です。

  • TCFD賛同機関数: 世界4,800超の賛同機関のうち日本が約1,400を占め、世界第1位の座を堅持しています。

  • SBT認定企業数: 全世界の認定企業3,000社超に対し、日本企業は600社以上に達し、これもまた世界第1位です。

 これらの数値は、日本企業が気候変動問題に対する情報開示に極めて積極的であり、世界をリードする立場にあることを明確に示しています。

2. 新たなフロンティア:自然関連財務情報開示(TNFD)の登場

 気候変動に次ぐ新たなフロンティアとして、世界の関心は生物多様性や自然資本へと移行しています。この動きを決定的に加速させたのが、2023年に最終版ガイダンスが発行されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。TNFDは、企業が自然にどのように依存し、どのような影響を与えているかを評価し、開示するための枠組みを提供します。この新しい潮流においても、日本企業の積極的な姿勢は際立っています。TNFDへの賛同企業は、全世界の400社超のうち100社以上を日本企業が占め、これもまた世界第1位となっています。これは、日本企業が気候変動分野で培った経験を活かし、自然関連という新たな領域でも主導的な役割を担おうとする強い意志の表れと言えるでしょう。

 気候変動分野で培われた情報開示の経験とインフラが、より複雑な自然関連分野へと応用されつつある現在、企業は新たな課題に直面しています。それは、自然との関わりをいかにして客観的かつ定量的に評価するか、という根源的な問いです。次章では、この課題解決の必要性を、既存の評価手法の限界から紐解いていきます。

3. 既存の自然関連評価手法とその限界

 TNFDなどの枠組みが整備され、情報開示への要請が高まる一方で、多くの企業は具体的な評価手法の不在という壁に直面しています。自然への影響や依存度を、CO2排出量のように誰もが納得する単一の指標で定量化することが極めて困難だからです。

 現在主流となっている評価アプローチは、特定の事業拠点が抱える生態系リスクを地図情報で可視化する「ENCORE」に代表され、これらのツールは、地域ごとのリスクを把握する上で有用な示唆を与えてくれます。しかし、得られる情報が本質的に「定性的」です。例えば、「この拠点は生態系リスクが高い地域にある」という情報は得られても、その影響が具体的にどの程度なのか、他の拠点や他の環境問題(例:水利用や汚染)による影響と比べてどれほど深刻なのかを、具体的な数値で比較・集計することはできません。

 また、生態系への影響は、単一の要因で決まるものではありません。気候変動、土地利用の変化、森林伐採、水利用、化学物質による汚染など、多様な要因が複雑に絡み合った結果として生じます。したがって、真に有効な評価を行うためには、これらの異なる要因を横断的に捉え、統合的に評価するアプローチが不可欠です。金融機関がESG投資の判断を下す際や、事業会社が経営戦略を策定する際に本当に必要なのは、「どの環境問題が、どの程度重要なのか」を客観的な数値で示すことができる新しい評価軸(物差し)です。


ネイチャーフットプリント

1.LCA手法を拡張するネイチャーフットプリント

 ネイチャーフットプリントは、長年のLCA研究の蓄積と、自然関連の社会ニーズを融合させるという背景の上に構築されています。

 ネイチャーフットプリントの信頼性を支える根幹は、ライフサイクルアセスメント(LCA)という確立された科学的手法です。LCAは、製品やサービスが原料調達から製造、使用、廃棄に至るまでの全段階(ライフサイクル)における環境影響を定量的に評価する学問分野であり、1990年代から研究が進められてきました。現在では年間5万件もの学術論文が発表されるほど成熟しており、その科学的妥当性は広く認められています。

 ネイチャーフットプリントは、従来のLCA研究をさらに発展させ、次の特徴を備えています。

  • 生態系サービスの評価: 人間が自然から受ける便益(例:水の浄化、食料供給など)を指す「生態系サービス(自然がもたらす便益の量)」という、LCA分野ではほぼ未開拓であった領域の評価手法を構築します。

  • 陸域から水域への拡張: 陸域に限定されがちであった従来の生物多様性評価を、極めて重要な水域生態系へと拡張します。

 これにより、「自然の質」としての生物多様性と、「自然の量」としての生態系サービスの両側面から、統合的な評価が可能になります。自然への影響は、場所によってその深刻度が大きく異なります。同じ量の水を利用しても、水資源が豊富な地域と乾燥地域とでは生態系へのインパクトは全く違います。この「地域性」の考慮は、自然関連評価において極めて重要です。

 従来のLCAでは、評価の解像度が国レベルの平均データに留まることが一般的でした。これに対し、ネイチャーフットプリントは、25kmメッシュ単位のグリッドレベルで評価係数を構築するという技術的ブレークスルーを実現しました。これにより、サプライチェーン上のどの地域で、どのような影響が起きているのかを、より実情に即した高い解像度で分析することが可能になります。

2. ネイチャーフットプリントの仕様

 ネイチャーフットプリントは、自然への影響を科学的かつ定量的に評価するための「物差し」であり、従来の気候変動(CO2排出量)評価を超えて、自然資本や生物多様性への影響を包括的に捉える仕組みです。仕様を以下の5つのポイントで説明します。

1. 評価の両輪:生物多様性と生態系サービス

 ネイチャーフットプリントは、自然を「質」と「量」の2つの側面から評価します。

生物多様性の分析(質): 1万種に及ぶ生物種を対象に、気候変動や土地利用の変化がその生存にどのような影響(絶滅リスクや寿命の短縮など)を与えるかを分析します。これまでの陸域中心の評価に加え、本事業では水域の評価も新たに追加されています。

生態系サービスの分析(量): 人間が自然から受ける恵みである「生態系サービス」を評価します。これは従来のライフサイクルアセスメント(LCA)研究ではほとんど進んでいなかった分野であり、本プロジェクトで新たに評価指標が策定されています。

2. ライフサイクルアセスメント(LCA)の適用

 単一の拠点だけでなく、製品やサービスのライフサイクル全体を評価対象とします。
• 資源や素材の調達
• 自社の製造・活動拠点
• 製品の使用場所
• 最終的な処分場所 これら全てのプロセスにおける自然への影響を統合的に分析します。

3. 高解像度な地域性の反映(25kmメッシュ)

 自然環境は場所によって状況が異なるため、「地域性」の考慮が極めて重要です。
• 従来のLCA研究では「国レベル」での評価が限界でしたが、本手法では0.25度(約25km)グリッドという非常に細かいメッシュレベルでの評価係数リストを整備しています。 これにより、どこで素材を採掘し、どこで木材を伐採したかといった場所ごとの実情(水のリスクや生態系の豊かさの違い)を精密に分析結果へ反映できます。

4. 評価対象とする環境影響の網羅性

 ネイチャーフットプリントは、以下の多角的な要因が生態系に与える影響を包括的に評価します。
• 気候変動
• 土地利用・開発・森林伐採
• 水利用
• 大気汚染・汚染物質
• 廃棄物
 れらをバラバラに扱うのではなく、1つの包括的な手法で比較・評価できる点が強みです。

5. 最終的なアウトプット:経済価値(金額)での評価

 多様な環境影響を分かりやすく統合するため、最終的な評価結果を「金額(経済価値)」で表現する仕様となっています。 気候変動、土地利用、水利用、汚染など、異なる性質の環境問題を「お金」という共通の指標に換算します。 これにより、自然科学の分析結果を社会科学(経済)の視点と融合させ、金融機関と事業者が対話するための「共通言語」として機能させることが可能になります。
 ネイチャーフットプリントの最大の強みの一つは、異なる種類の環境インパクトを、単一の評価手法の中で比較可能にすることです。例えば、「気候変動による1万種の生物種への影響」と「土地利用の変化による影響」を同じ土俵で比較し、どちらがより深刻なインパクトをもたらすかを定量的に評価できます。さらに、このプロジェクトは最終的に、これらの生態系への影響評価の結果を「金額(経済価値)」で表現することを目指しています。これは、自然資本を企業の評判リスクといった周辺的な課題から、資産評価や資本コストに直接影響を及ぼす中核的な財務マターへと変革させる、決定的に重要な架け橋となります。これらの革新的な特徴は、ネイチャーフットプリントを単なる環境指標から、企業のサプライチェーン全体にわたる自然資本リスクと機会を管理するための、不可欠な戦略的ツールへと昇華させるものです。

 ネイチャーフットプリントの仕様を例えるなら、「自然界の健康診断書兼、家計簿」のようなものです。これまでの評価が「体温(CO2)」だけを測っていたのに対し、この手法は全身の臓器の健康状態(生物多様性)や、その人が社会に提供している価値(生態系サービス)を、場所ごとの特性(地域性)を考慮しながら精密に検査します。そして最終的に、その健康状態が経済的にどれだけの価値があるのかを「円」や「ドル」という数字で弾き出すことで、投資家という「スポンサー」がその企業の価値を正しく判断できるようにしているのです。


挑戦

1.取り組んでいる課題

 ネイチャーフットプリントは、これまで「見えざる価値」とされてきた自然資本を科学的に可視化し、経済活動の根幹である意思決定に組み込むための画期的な試みです。その核心は、LCAという科学的基盤の上に、自然の質(生物多様性)と量(生態系サービス)の両側面評価、高解像度な地理空間分析、そして経済価値への換算という革新的な特徴を統合した点にあります。そして、それを社会に実装するためのエンジンとして、産学金が連携する強力なエコシステムが構築されています。国際標準化や人材育成といった重要な課題を乗り越えた先には、大きな可能性があります。ネイチャーフットプリントという共通言語は、企業、投資家、そして最終的には消費者の行動変容を促し、社会全体の規範や倫理観をも変革するポテンシャルを秘めています。

 ネイチャーフットプリントは、日本国内での活用に留まらず、グローバルなデファクトスタンダードとして受け入れられる必要があります。そのためには、技術的な優位性を確立するだけでなく、国際社会からの信頼を獲得するための戦略的なロードマップと、乗り越えるべき課題への的確な対応が求められます。過去を振り返ると、LCAやカーボンフットプリントが手法開発から国際標準として確立されるまでには、約30年という長い歳月を要しました。しかし、気候変動や生物多様性の損失といった危機が目前に迫る中、同じ時間をかける猶予はありません。ネイチャーフットプリントのプロジェクトは、これまでのLCA分野で蓄積された30年分の経験と知見を最大限に活用することで、このプロセスを大幅に短縮し、2030年頃の国際規格発行を目指すという野心的な目標を掲げています。

 また、新しい評価手法が社会に真に浸透するためには、それを正しく理解し、使いこなせる人材の育成が不可欠です。ネイチャーフットプリントの普及には、専門家の創出が課題となります。すなわち、事業会社のサステナビリティ担当者や金融機関のアナリストが、自らネイチャーフットプリントを活用して分析を行い、その結果を基に事業者間で対話し、具体的な経営判断や投資決定に繋げる能力の獲得が必要です。

2.ネイチャーフットプリントが直面する「実務の壁」

 この野心的な試みが真に世界を変えるインフラとなるためには、直視しなければならない厳しい現実も存在します。ここでは、光の当たる側面の裏にある、乗り越えるべき「壁」について解説します。

 すなわち、概念としては素晴らしいネイチャーフットプリントですが、いざ企業が導入しようとすると、実務レベルでは極めて高いハードルが待ち受けています。

  • サプライチェーンの「場所」が特定できない: 自然への影響評価で最も重要なのは「どこで(位置情報)」活動が行われたかです。しかし、多くの企業にとって、2次、3次サプライヤーが世界の「どこ」から原材料を調達しているかを正確に把握することは至難の業です。トレーサビリティ(追跡可能性)の欠如は、高精細な分析を行う上での致命的な欠落となります。

  • 一次データ収集の莫大なコスト: LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づく詳細な評価を行うには、標準的な平均値データではなく、サプライヤーからの実測データ(一次データ)が必要です。これを全サプライチェーンに求めた場合、その集計コストと労力は、従来のカーボンフットプリント算定の比ではありません。

  • トレードオフのジレンマ: 分析の結果、「CO2削減には良いが、生物多様性にはマイナス(例:ある種のバイオマス燃料や、生態系を分断するメガソーラー)」というトレードオフが可視化されることがあります。この不都合な真実が明らかになった際、企業が短期的な経済合理性を超えて、本当に「自然ポジティブ」な意思決定を下せるかどうかが問われます。

 また、カーボンLCAでも発生していた、インベントリーデータベースと購買データの紐づけも一筋縄でいかない課題です。日本の場合は、インベントリーデータベースに、産総研のIDEAを使うケースが主流ですが、購買データとIDEAをつなぐ作業は、見た目より論点が多いです。典型的には次の4つが同時に起きます。

・購買明細は「自由記述の短文」になりがちで、表記揺れと略称が多い
 例:ステン、SUS、SUS304、ステンレス、304…のように同じ物でも表現が割れます。
・調達システム側の分類(品目グループ、勘定科目、購買カテゴリなど)と、IDEA側の分類(産業分類・商品分類ベース)の粒度が合わない。つまり、片方が細かくて片方が粗い、あるいは軸が違う、が普通に起きます。
・単位が合わない:購買は「個」「箱」「式」「月額」などが混ざります。一方でインベントリは「kgあたり」「m2あたり」など、前提単位が固定されていることが多いです。
・説明責任(監査・第三者保証・社内統制)が必要:「なぜこの排出原単位を当てたのか」を、後から再現できる形で残す必要があります。

3.リアリティを持った楽観主義へ

 これらの課題は、ネイチャーフットプリントの価値を否定するものではなく、むしろ実用化に向けて解決すべき具体的な「ToDoリスト」と言えます。重要なのは、完璧なデータが揃うのを待つのではなく、「解像度は粗くても、まずはホットスポット(重大な影響箇所)を特定する」という現実的なスモールスタートを切ることです。そして、その試行錯誤のプロセス自体を開示し、国際的なルール形成の場にフィードバックしていく姿勢こそが、ネイチャーフットプリントが世界標準の一翼を担うための最短ルートとなるでしょう。
 ネイチャーフットプリント開発プロジェクトでは、「開発」と「活用」を同時に推進するための戦略的な産学金連携体制を構築しています。本プロジェクトは、以下の3つの異なる役割を担うプレイヤーが密接に連携する構造を持っています。

  • 開発側(学): 早稲田大学をはじめとする研究機関が、科学的知見に基づきネイチャーフットプリントの評価手法を開発・改良します。

  • 活用側(産): トヨタ自動車、パナソニック、住友林業、太平洋セメント、資生堂など、多様な業界を代表する10社の事業会社が参加。開発された手法を自社の事業活動に適用し、その有効性や課題を実務レベルで検証します。

  • 評価側(金): 農林中央金庫などの金融機関が参加。事業会社から開示されたネイチャーフットプリントの評価結果を、ESG投資の判断材料としてどのように活用できるかを検討します。

 既に、資生堂や農林中央金庫は、この枠組みを活用した情報開示を始めています。世界経済フォーラムの報告書によれば、自然資本への影響という観点では、従来のカーボンフットプリントで注目されてきたセクターとは異なる産業領域が重要となります。ネイチャーフットプリントが特に注目するのは、以下のようなセクターです。

  • 農業・食品

  • 開発

  • 社会インフラ・建築

  • エネルギー

 これらのセクターは、土地利用の変化や資源採取などを通じて、生態系に大きな影響を及ぼす潜在性が高いと指摘されています。ネイチャーフットプリントは、これらの企業が自らの事業活動に潜む新たなリスクと機会を特定するための羅針盤となります。


おわりに

 気候変動への対応に世界が本腰を入れる中、「自然なくして経済活動なし」との認識が急速に広まっています。企業はもはやGHG排出削減だけを目指すのではなく、自社の事業が生態系へ与える影響を把握・削減し、可能ならば再生に寄与することまで求められる時代です。「カーボンフットプリントからネイチャーフットプリントへ」という潮流は、企業経営に新たな視座と機会をもたらします。気候変動対策で培ったデータ志向のマネジメントを土台に、さらに広い環境コンテクストで自社のパフォーマンスを捉え直すことは、長期的なレジリエンス確保にもつながります。地球規模での課題解決と企業価値向上を両立させるために、今まさに多くの企業・機関が脱炭素と自然共生をセットにした「地球環境対応の経営」へとかじを切ろうとしています。これからの持続可能な経済社会において、カーボンとネイチャーの両フットプリントを的確に把握・管理し、ステークホルダーに伝えていくことがスタンダードとなるでしょう。その実践こそが、企業にとって環境リスク由来で事業がダメージを受けないための重要戦略であるといえます。


(ご参考) 【BRIDGE】金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業

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