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ブルーエコノミー(磯焼け対策と定置網によるネイチャーポジティブ)

 世界中で、ブルーエコノミーや海業といった新しい取り組みが始まっています。今回は、その中でも、磯焼けと定置網について記述します。



1.磯焼け最前線– 消えゆく海の森、再生への挑戦

 かつて豊かな恵みをもたらしてくれた「海の森」が、私たちの目の前から静かに姿を消しつつあります。本章では、注目されている、磯焼け対策と、そこから始まるブルーエコノミー/海業をレポート致します。
こちらから、PodCastを、聞きながらお楽しみください

1.波の下に広がる静かな危機:海の森が消える?「磯焼け」の危機と私たちへの影響

 海岸線のほんのちょっと先で、今、深刻な危機「磯焼け(いそやけ)」が進行しています。この現象は、豊かな海藻で覆い尽くされていた海底から、まるで森が消えるように海藻類が著しく衰退・消失してしまう状況を指します。生命力に溢れた水中景観が、不毛な「海の砂漠」へと変貌してしまう、生態系全体の大きな変化です。日本では千葉県勝浦市の勝浦湾より西がこの現象が起きており、それより東側はまだ進行が食い止められています(この意味で勝浦市は、この意味で勝浦市は磯焼け最前線です)。この問題は日本国内の多くの沿岸域だけでなく、世界各地の海でも確認されており、地球規模の課題として認識され始めています。この影響は計り知れません。
海藻が繁茂する「藻場(もば)」は、海の生態系にとってまさに「海の森」とも呼べる存在です。魚たちの産卵場所や稚魚が育つ保育園となり、多様な生物の餌場や隠れ家を提供することで、豊かな生物多様性を支えています 。この藻場が失われることの影響は、まず第一に水産業に現れます。例えば、神奈川県小田原市では、主要な海藻であったカジメが消失したことにより、アワビの漁獲量が激減しました。これは特定の地域だけの問題ではなく、全国各地で同様の報告がなされており、沿岸漁業の持続可能性を揺るがす大きな要因となっています 。

神奈川県小田原市のアワビ漁獲量

神奈川県小田原市のアワビ漁獲量

2.なぜ海の生態系は脅かされているのか

磯焼けを引き起こす要因は一つではなく、複数の要素が複雑に絡み合っています。

  • 海水温の上昇: 海水温の上昇は、磯焼けの最も主要な原因の一つとされています。水温が上昇すると、海藻自体が直接的なストレスを受けて枯死したり(例えばカジメ)、生育が悪くなったりします。さらに重要なのは、水温上昇が植食性動物の活動を活発化させます。

海水温上昇傾向
  • 植食性動物による過度な摂餌:ウニ類:天敵の減少や環境変化によりウニが異常繁殖すると、その旺盛な食欲によって藻場が食べ尽くされます。

  • 植食性魚類: アイゴ、イスズミ、ブダイといった魚も、特に水温が高い時期や地域で海藻を大量に食べてしまいます。温暖化に伴い、これらの魚の活動期間が長くなったり、生息域が北上したりする傾向が見られます。小田原市の事例では、ブダイが朝、アイゴが夕方に活発に海藻を食べることが明らかになり、これを元に漁獲方法を改善して駆除効果を上げています。

  • 栄養塩バランスの変化: 海水中の栄養塩(窒素やリンなど)のバランスが崩れることも、海藻の生育に影響を与えます。栄養塩が不足すれば生育が悪くなり、逆に富栄養化が進みすぎると植物プランクトンが異常繁殖し、海水の透明度が低下して海藻に光が届かなくなることもあります。北海道では、ダム建設などによる陸からの鉄分供給の減少が磯焼けの一因となった事例も報告されています。

  • 種苗供給不足: 親となる海藻が減少すると、胞子や種苗の供給が途絶え、新たな藻場の再生が困難になります。

これらの要因は単独で作用するだけでなく、相互に関連し合って磯焼けを深刻化させます。例えば、海水温の上昇は海藻を弱らせ、植食性動物による食害を受けやすくします。そして、一度藻場が広範囲に失われてしまうと、胞子の供給源がなくなり、植食性動物による摂餌圧も続くため、自然な回復が非常に難しくなります。このような「負の連鎖」によって、磯焼けは持続し、拡大していく傾向があります。

3. 希望の青写真:「ブルーエコノミー/海業」が守る自然資本

 磯焼けという深刻な問題に直面する中で、私たちは海との関わり方そのものを見直す必要に迫られています。その羅針盤となるのが、「ブルーエコノミー/海業(うみぎょう)」です。これらは、単に海から資源を得るという従来型の発想を超え、海の環境保全と経済社会の持続的な発展を両立させる新たな道筋を示しています。
ブルーエコノミー」は、海洋資源の持続可能な利用を通じて、経済成長、生活の向上、雇用の創出を実現しつつ、海洋生態系の健全性を保全するという考え方です。ブルーエコノミーの視点では、海の価値は、漁獲される魚介類のような直接的な利用価値だけでなく、魚の生育場としての機能や、将来世代が享受できる恵みといった、市場価格がつきにくい非利用価値も含む包括的なものとして捉えられます。これは、海を単なる資源の供給源としてではなく、維持・増進すべき「自然資本(ストック)」として捉える考え方に基づいています。このパラダイムシフトは、資源の搾取から持続可能な価値共創へと、私たちと海の関わり方を進化させるものです。(守った藻場の量や、増えた藻場の藻の量は、乾燥した海藻の重さをベースにブルーカーボンとしてJブルークレジット協議会さんに申請することができます。)
海業(うみぎょう)」は、海や漁村が持つ地域資源の価値や魅力を最大限に活用し、国内外のニーズに応えることで、地域のにぎわいや所得、雇用を生み出すことを目指す事業活動を指します。水産庁も水産基本計画などでその推進を掲げています。海業の具体的な取り組みとしては、新鮮な地魚を提供する漁港レストラン、漁業体験や釣りツアーといった観光サービス、地域の特産品を活かした水産加工品の開発・販売などが挙げられます。漁港を拠点として、多様なビジネスを展開することで、漁村に新たな活気をもたらし、水産業への理解促進や水産物の消費拡大にも繋げようという試みです。磯焼けした海域で海藻を養殖し、植食性動物を捕獲し、それを活用した商品を開発・販売するビジネスは、海業の一例です。これにより、藻場の回復(生態系の改善)と、新たな収入源や雇用の創出(経済的・社会的便益)が同時に達成されます 。
実は、日本では、世界で最も早く、1700年代には磯焼け対策の記録があるそうです。伝統的に人工礁(「つきいそ」)の設置や競合藻類の除去が行われ、ウニ駆除と食用ウニ漁業も早くから発達したそうです。

負の連鎖を断ち切る

負の連鎖を断ち切る

4.海外事例から学ぶ磯焼け対策

 磯焼けは日本だけの問題ではなく、世界の多くの海でケルプ(大型褐藻類)群落の減少が認識され、対策が講じられています。世界各地でケルプ森林の再生プロジェクトが増加しており、多様な手法が試みられています。

  • アメリカ(カリフォルニア州): 1950年代からジャイアントケルプ(Macrocystis pyrifera)の再生が試みられており、ウニ駆除とケルプ移植が主な手法です。駆除したウニの流通も始まっています。

  • オーストラリア(オペレーション・クレイウィード): シドニー都市圏で、水質改善後にクレイウィード(Phyllospora comosa)の成体を移植することで自然な稚苗の加入を促し、自立的に再生する森林の回復に成功しています。

  • 韓国: 政府主導による大規模なケルプ林の造成・再生プログラム(FIRA)が展開されており、ウニ駆除と自然岩礁へのケルプ再生に重点が置かれています。

  • ヨーロッパ(ノルウェー、ポルトガルなど): ノルウェーではウニ駆除(手作業、生石灰散布)やケルプ移植が行われています。ポルトガルでは、「グリーン砂利」手法を用いたコンブ属(Laminaria ochroleuca)の再生試験が進行中です。北極圏ノルウェーにおけるウニ駆除方法の費用対効果分析も研究されています。

  • カナダ(セイリッシュ海): スナネイマック先住民族が主導し、「グリーン砂利」技術を用いつつ、伝統的知識と科学を融合させたケルプ再生プロジェクトが進められています。

 世界で見ても課題としては、費用対効果と対策の規模拡大です。モニタリングに基づく適応的な管理 、そして何よりも、既存の健全なケルプ林を保全することが、多くの場合、再生よりも費用対効果が高いという認識も重要です。国際的な経験は、磯焼け対策に万能薬はなく、地域の状況に応じた多様な戦略の組み合わせと、長期的な視点、そして先住民の知恵を含む地域社会との連携が成功の鍵であることを示しています。ケルプ生態系サービスの経済的価値評価も、再生への投資を正当化する上で重要性を増しています。
また、先進技術は、磯焼けの複雑なメカニズムの解明、効果的な対策の立案・実施、そしてその結果の客観的な評価を大きく前進させています。特にAIとリモートセンシングの融合は、広大な海洋環境を効率的に把握するための有効です。


2.定置網と、ネイチャーポジティブ

 「肉」のフットプリントが課題視されかつ、漁業のサステナビリティにも注目が集まる中、定置網漁業が持つ「乱獲を防ぎ、燃料消費を抑え、魚が自由に網を出入りできる」特性 は、ネイチャーポジティブの根幹をなす生物多様性の保全と回復という目標と合致する可能性があり、積極的に自然環境に「貢献する」産業として改めてデザインできる可能性を示唆しています。

今回は、定置網の歴史と利用と資金調達などをなぞり、ネイチャーポジティブとの関係について整理します。

インタラクティブWeb▽定置網とは?

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1. 定置網漁業の歴史的変遷

 定置網漁業は、日本において古くから営まれてきた漁法であり、日本の沿岸漁業における漁獲量の約4割を占める基幹産業で、その最大の特徴は、魚が網に入るのを「待つ」という受動的な漁法である点にあります。
 古代の日本では、魚捕りは釣針や浅瀬の仕掛けから始まり、次第に網漁が行われるようになり、中世までに漁船の発達とともに様々な網漁法が試みられ、近世には沿岸捕鯨や地引網、一網打尽にしない定置網(沖合に固定した網で回遊魚を待ち受ける漁法)も用いられるようになりました。定置網漁業は、富山県氷見で進化し、日本では足利時代の末期(1336年~1573年)に、現在の定置網漁の原型となる「台網」という仕掛けが登場。富山県氷見では袋状の身網(魚を溜める網)と磯垣網(魚群を誘導する垣網)を組み合わせ、藁縄で編んだ藁網を使用する台網漁が行われていました。初期の定置網は、魚が入りやすい反面、非常に逃げやすいという欠点がありました。明治時代に入ると、専有水面が従来の台網の数十倍(約10,000坪)に及ぶ大型定置網が登場します。大正初期には、網口を小さくして魚群の溜まり場(運動場)を設けた「上野式大謀網」が考案され、網に入った魚が逃げにくくなり漁獲効率が向上しました。大正後期には身網の口に傾斜網(のぼり網)とハの字形の落とし網を備えた「越中式鰤落し網」が完成し、現在の定置網漁業に極めて近い構造が確立しました。こうした改良により定置網漁業は漁獲効率を上げつつ、魚を傷めにくく過剰な漁獲を防ぐ仕組みへと進化しました。

富山県氷見市では2002年に「世界定置網サミット in 氷見」を開催し、日本各地のみならず海外からも漁業者・研究者が集い定置網の知見交換が行われました。氷見の定置網技術は全国各地に伝播し、現在広く操業されている定置網モデルの一つとなっています。定置網漁業の考え方や技術は、日本国外にも広がりつつあります。その背景には、漁業資源管理やコミュニティベースの漁業に世界的な関心が高まっていることがあります。日本の定置網は環境に優しい持続型漁法の一例として、海外で積極的に導入・共有されています。

2. 現代の漁業を支える定置網漁業

 定置網漁業とは、沿岸の魚の回遊経路上にあらかじめ網を固定し、迷路状の網構造によって誘い込まれた魚を獲る「待ちの漁」です。網の入口は常に開いており、魚群の通り道となる地形の湾入部や岬周辺に設置されます。日本各地の沿岸で盛んに行われており、幅広い県で定置網漁が営まれているのが特徴です。網の構造は、魚の進路を遮る垣網、誘導された魚を囲い込む運動場(囲い網)、最終的に魚を捕獲する箱網(身網)などからなり、魚群は一方向にしか進めない迷路に誘い込まれていきます。現代の大型定置網では網の維持に強靱な資材をふんだんに用いるため、長期間海中に設置しても形状を保ち、生簀(いけす)のように機能します。その結果、網の綱や浮子には貝類・海藻が付着し、小魚が群れ、魚やイカが卵を産み付ける人工魚礁の役割も果たすなど、生態系に溶け込む存在となっています。

定置網に入る魚の種類は地域や季節によって多種多様で、全国で100種を優に超える魚介類が漁獲されます。表1に地域別の主な対象魚種の例を示します。例えば北海道ではサケ(鮭)やニシン、タラなど寒海性の魚、北陸では冬のブリ(寒ブリ)やホタルイカ、太平洋側の黒潮沿岸ではイシダイといった具合に、各地の海況・海流に応じた回遊魚が網に入ります。

季節による漁況の変化も大きく、回遊魚の旬と一致しています。例えば富山湾の定置網では「春イワシ、夏マグロ、秋カマス、冬ブリ」と称されるように季節ごとに主力漁獲物が移り変わります。実際、天然の生簀とも呼ばれる富山湾では年間を通じて約300種もの魚が水揚げされ、春にはマイワシ・カタクチイワシなどのイワシ類、夏にはクロマグロ(幼魚のメジマグロを含む)、秋はフクラギ(ブリの若魚)やカマス、冬には脂の乗った寒ブリが代表的です。このように四季折々の多様な魚介を一網で捕らえられる点も定置網漁の特徴と言えます。

漁の作業は主に早朝から午前中にかけて行われます。漁師たちは未明に港を出港し、陸地から2~5km、船で30分前後の場所に設置した定置網のもとへ向かいます。そして夜明け頃に網を引き揚げて(「網起こし」)、箱網に残った魚を船上にすくい取ります。網に入った魚は実際に引き上げてみるまで量も種類もわからないため、毎朝まさに宝箱を開けるような高揚感があります。水揚げ後は直ちに港へ帰り、夜明け〜朝にかけて魚市場での競りに間に合わせます。漁獲量にもよりますが、昼前後には作業を終える日が多く、網の補修などが長引かなければ午後は自由時間に充てられることもあります。このため定置網漁業は通いで従事できる沿岸漁業として新規就業者にも魅力的であり、実際に未経験者でも乗組員として働き始めやすいとされています。北海道から沖縄近くまで各地で設置されている定置網は、地域ごとの魚種や季節変動に合わせた運用がなされ、地元の食文化や水産物流通を支える存在となっています。

3. 定置網漁業における経済と環境の両立の可能性

環境負荷の低さと資源管理・持続可能性

 定置網漁業は環境負荷の低い資源管理型漁業として再評価されています。網に入ってきた魚のうち、実際に漁獲されるのは最も奥の箱網(袋網)に入った2~3割程度に過ぎず、残りの大半は網の開口部から海に戻されます。これは根こそぎ捕り尽くさない仕組みであり、過剰漁獲を防ぐ効果があります。また定置網は網が据え付けられているだけなので、底引き網漁のように海底地形を破壊したり、海藻林を一掃してしまうこともありません。海中に固定された網が魚礁となり稚魚の育成を助けるなど、生物多様性にも寄与すると報告されています。さらに沿岸の近場で操業が完結するため漁船の燃料消費も少なく、CO2排出削減にも繋がります。加えて定置網では狙わない魚や幼魚、希少生物は生きたまま逃がすことが可能です。

所得面と経済効果

 定置網漁業は沿岸漁業の中でも漁獲量が比較的多く収入規模が大きい部類に入ります。一度に大量の魚を捕れる可能性があり、大型定置網では1回の網起こしで数千万円規模の水揚げとなる例もあります。たとえば北海道のある定置網経営体(大型網3基運用)では、直近数年間の平均で年間7,300万円ほどの漁獲金額があり、経費を差し引いた利益は約1,500万円(利益率20%前後)を確保していたという報告があります。もっとも定置網の設置・維持には網や支綱の更新、人件費や船舶の燃料代などコストも大きく、初期投資も含めた長期的視点での経営が必要です。そのため漁期以外に観光客向け体験事業を行ったり、水揚げ魚のブランド化による高単価出荷を図るなど収入源の多角化も図られています。例えば富山県氷見の定置網では、その豊富で高鮮度な魚資源が「ひみ寒ブリ」に代表される地域ブランドとなり、地元の水産加工業や流通業、小売・飲食店の発展を支えるとともに地域雇用を創出しています。氷見市内には加工品店や鮮魚店が軒を連ね「魚のまち」として広く認知されており、国内外から観光客が新鮮な魚を求めて訪れるなど、定置網漁が地域経済を底支えする好循環も生まれています。

4. 定置網漁業における公的資金以外の資金調達

 定置網漁業の経営には多額の資金が必要となるため、その調達方法も多様です。歴史的に見ると、江戸時代には藩から漁業権を与えられた地元有力者が私財を投じて網を設置し、地域住民を使役して漁を行い利潤を上げる構造が一般的でした。この流れは近代まで続き、各地で「網元」と呼ばれる資本家漁師が定置網経営を担いました。一方、日本の漁業法制度上、定置漁業権の免許は「地元漁業者が多数参加し利益を広く分配する」ことを趣旨としており、地元漁民主体の法人経営が優先される仕組みになっています。そのため戦後は各地の漁業協同組合(漁協)が中心となって出資・運営する共同経営体や、複数の漁家が資金を持ち寄る任意組合(網組)形式が広く見られました。2001年の漁業法改正で網組優遇の規定が見直された後、現在では依然として地元出資の共同経営が多いものの、民間企業資本の参入も増えています。例えば静岡県では、従来漁協や地元組合が運営していた定置網を民間漁網会社が引き継ぎ、最新の技術と経営手法を導入して漁業再生に取り組んだ事例が報告されています。また北海道では、大規模定置網を営む複数の漁協が出資し合って新会社を設立し、統合経営で効率化を図る動きもあります。

資金調達手段としては、漁業者自らの自己資金や民間金融機関からの融資が基本となります。そのほかでは、例えば地域の事業会社や投資家が定置網事業に出資するケースがあります。観光業や食品加工業とのシナジーを見込んで、水産業に関心のある企業が漁協と合同で第三セクター的会社を設立する事例も見られます。また、最近ではインターネットを通じたクラウドファンディングで漁船購入資金を募ったり、ふるさと納税の仕組みを活用して漁網更新費用を賄おうとする試みも一部で始まっています(例えば老朽化した網の更新費用を全国の寄付者から募り、返礼品に定置網の鮮魚セットを送る等)。近年は大規模化・高コスト化に対応するため民間企業の参画も進んでいます。今後も公的助成に頼らずとも持続できるよう、地域資本を活かした融資スキームや漁業版クラウドファンディングなど、創意工夫による資金調達事例の蓄積が期待されます。調査によれば、全国の定置網経営体のうち約40%が個人間の共同経営(パートナーシップ)形態で占められており、単独経営よりも複数メンバーで役割と収益をシェアするスタイルが主流となっています。例えば乗組員が出資も兼ねて共同で網を持つ場合、漁獲物の販売収益は出資比率や労務貢献度に応じて配分され、設備維持費も折半されます。こうした仕組みにより、一人あたりの資金負担やリスクを軽減しながら大規模な漁具を運用できるメリットがあります。

5.定置網における「シェア」リング

 定置網の設置海域を季節ごとにシェアするケースがあります。例えば産卵回遊で魚群が来る春~初夏のみ網を入れ、秋~冬は網を撤去して他の漁業者に漁場を開放するといった調整が、地域の話し合いで行われることもあります。このような取り組みはまだ少数ですが、限られた沿岸漁場を有効活用しあうシェアリングの試みとして注目されています。

定置網漁業における「シェア」は、漁業者間だけでなく流通業者・小売業者、そしてエンド消費者との間でも広がりつつあります。すなわちバリューチェーン全体で情報や利益を共有し、ウィンウィンの関係を築く枠組みです。その一例が、漁獲物の直販・共同販売による利益のシェアです。従来、定置網で獲れた魚は市場流通に乗せるのが一般的でしたが、近年は漁協や地域団体が中心となって朝市や直売所を開き、漁師自ら一般消費者に販売する機会を設けています。エンド消費者とのシェアリングの枠組みとしては、体験型観光(ブルーツーリズム)が挙げられます。全国各地の漁村で定置網漁体験ツアーが行われており、一般の人々が漁船に乗り込んで網起こしや魚の選別を漁師と一緒に体験できます。例えば石川県七尾市の鹿渡島定置では、参加者が午前2時台に集合して漁船で沖の定置網まで出向き、水揚げ作業を見学・手伝った後、港に戻って獲れたての魚で朝食を味わうプログラムを通年で提供しています。自ら救い上げた魚をその場で刺身や味噌汁にして食べる体験は好評で、子供から大人までの自然体験として人気を博しています。このような取り組みは、消費者が単に魚を「買う」のではなく、生産の現場に関わり漁業者と時間や感動を共有するものです。結果として消費者は漁業への理解を深め、漁師側は体験料収入やファン獲得といった新たな価値を得ています。

さらに発展的なモデルとして、消費者が漁に出資して収穫を分け合う「シェア漁業」的な試みも注目されています。これは農業の契約栽培やCSA(Community Supported Agriculture)的な発想を漁業に応用したもので、消費者が一定額を漁業者に前払いし、その見返りに定置網の漁獲物(一定量の鮮魚セットなど)を定期的に受け取るという仕組みです。たとえば三浦半島のあるプロジェクトでは、都会の消費者から募集した「定置網オーナー」に年間会費を出してもらい、漁に必要な網修繕費等に充てています。オーナーはシーズン中に何度か漁体験に招待されるほか、その網で獲れた魚の優先購入権や送付サービスを受けられます。漁業者にとっては資金と販売先を確保でき、消費者は鮮魚を得つつ漁業参加の満足感を得られるため、双方に利点があります。このようなバリューチェーン全体を巻き込んだ新しいシェアリングモデルは、漁業の持続可能性と地域活性化にも寄与すると期待されています。

以上のように、日本における定置網漁業は長い歴史と高度な技術、協同組合的運営による多面的な強みを備え、それを国内外で共有・展開する動きが加速しています。歴史的変遷から現状、漁業者への効果、資金面やシェアリングの事例までを総合的に見ると、定置網漁業は単なる伝統漁法に留まらず、持続可能な沿岸漁業のベースモデルとして、もっともっと発展する可能性を秘めていると言えそうです。定置網そのものをIoTマシン化して、ロボットのように運用するアイディアも提案されています。今後、さらに、ネイチャーポジティブな定置網漁法を考えられるかもしれませんね。

もしも、魚や魚の加工品を取り扱う流通や飲食のバリューチェーンでTNFDレポートを記載し、ネイチャーポジティブな移行を考えたとき、実は、定置網をさらにネイチャーポジティブに漁業管理を行うイノベーションに携わることが、環境再生型漁業の第一歩なのかもしれません。ちょっと考えてみると楽しみですね。

インタラクティブWeb▽定置網観光の未来を拓く~成功モデルから学ぶ、持続可能な地方創生の戦略

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