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IUCNの「Applying the IUCN GlobalStandard for Nature-basedSolutions」を読む

 IUCNがWCC2025に向けて、Nature Base Solutionsに関する報告書をリリースしました。
 この報告書では、NbS世界基準の実施段階をサポートするため、IUCN生態系管理委員会(CEM)は、NbSの優良事例を分析に向け21のケーススタディを選択し、NbSのIUCN世界基準をさまざまな状況でどのように適用できるかを調査しています。ケーススタディが8つの基準と28の指標をどの程度満たしているかを評価しました。21のケーススタディは、世界中のさまざまな状況とさまざまな地域の、同様に多様なタイプのバイオーム(海洋および沿岸、淡水、陸生(極地高山バイオーム、森林、森林地、草原バイオームを含む)、集約的土地利用バイオーム(3つの都市を含む))と、NbSが都市やビジネスの状況でもどのように実施できるかを示すための2つのビジネス関連のケースで実施されました。
 今日は、この報告書をNotebookLMの力を借りて、皆さんと一緒に読んでまいりましょう。今日も楽しんでいってくださいね!

自然の設計図:NbSで課題解決 動画ビデオ

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実際のレポートにこちらからリンクを貼っています。



1.自然の力は万能薬ではない?世界21の事例が明かす「自然を基盤とした解決策」の意外な真実

期待の解決策「NbS」のリアルな姿

 気候変動、生物多様性の損失、食糧・水不足——。私たちが直面する地球規模の課題は、ますます複雑化しています。そんな中、希望に満ちたアプローチとして世界的に注目を集めているのが「自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions, NbS)」です。NbSとは、国際自然保護連合(IUCN)によれば、「自然または改変された生態系を保護、持続的に管理、回復する活動であり、社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福と生物多様性の両方に恩恵をもたらすもの」と定義されています。簡単に言えば、自然の力を借りて社会の様々な問題を解決しよう、という賢いアプローチです。マングローブ林を再生して高潮から沿岸地域を守ったり、都市に緑地を増やしてヒートアイランド現象を緩和したりする活動がこれにあたります。

 しかし、この理想的なコンセプトが、現場で本当に機能するためには何が必要なのでしょうか?ただ木を植えたり、湿地を復元したりするだけで、全てがうまくいくわけではありません。この章では、世界21カ所の先進的なNbS事例を徹底的に分析したIUCNの最新レポートに基づき、その成功の鍵と、多くの人が見過ごしがちな意外な課題を解き明かしていきます。自然の力を本当に活かすためのヒントが、ここにあるかもしれません。

発見1:成功の鍵は、自然だけでなく「人」にある

 世界中の先進事例を分析した結果、最も高く評価された基準は「生物多様性と生態系の健全性への純増(C3)」でした。多くのプロジェクトが元々、生態系保全を主眼としていたため、これはある意味当然の結果かもしれません。しかし、本当に注目すべきは、それに次いで「社会課題への対処(C1)」が2番目に高く評価されたという事実です。これは、NbSの成功が、自然そのものの回復だけでなく、いかに地域の人々の悩みに寄り添えているかに深く関わっていることを示しています。

 その背景には、プロジェクトの計画段階から、地域社会や先住民(IPLCs)を深く巻き込み、彼らが直面する課題を明確に特定し、優先順位付けしたことがあります。IUCNのレポートは、先住民や地域コミュニティとの関わりが、単なる知識の共有にとどまらず、NbSの共同設計、意思決定、そして実践そのものにまで及んでいたことを強調しています。

 これは、NbSが単なる環境技術的な介入ではなく、人々との対話を通じて進められる、深く社会的なプロセスであることを示しています。自然を動かす前に、まず人の心を動かすこと。それが成功への第一歩なのです。

発見2:最大の課題は科学ではなく「経済性」だった

 では逆に、最も評価が低かった、つまり最大の壁となったのは何だったのでしょうか。それは生態学的なデータ不足や科学的な不確実性ではありませんでした。レポートが指摘した最も意外な事実は、21の事例全体で最も評価が低かったのが「経済的な実行可能性(C4)」だったことです。

 多くのプロジェクトで、費用便益分析や包括的な経済的実現可能性の調査が不足していました。その背景には、「限られた外部資金」「ボランティア労働への依存」「政策的支援の不足」といった現実的な問題があります。自然を守る活動は尊いものですが、それを持続させるための経済的な基盤を確立することが、現場では最大のハードルとなっているのです。

 この発見は、NbSが直面する根深い課題を明らかにしています。私たちはNbSを「環境にも経済にも良い」万能薬として期待しがちですが、現実にはその経済的側面をいかに設計し、持続可能なものにするかという課題が横たわっています。これは、私たちの現在の経済モデルが、健全な生態系がもたらす長期的な利益を適切に評価するのに苦労しているという構造的な問題を浮き彫りにします。善意や情熱だけでは、長期的な成功は難しいのかもしれません。

発見3:完璧な「ウィンウィン」は存在しない

 NbSはしばしば、環境保全と人間の利益が両立する「ウィンウィン」の解決策として語られます。しかし、レポートはそれほど単純ではない現実を明らかにしました。「トレードオフの公平な調整(C6)」、つまり何かを得るために何かを諦めなければならない状況を、いかに公平に調整するかが、経済性に次いで評価の低い基準だったのです。

 例えば、ある地域の生態系を回復させることで水質は改善されるかもしれませんが、その土地をこれまで利用してきた農家の収入源が失われるかもしれません。また、ある種の生物を保護することが、別の種の生息環境に影響を与える可能性もあります。

 NbSを実践する現場では、様々な目標や利害関係者の間で、こうした難しい選択(トレードオフ)が常に発生します。レポートによれば、その調整がうまくいかない要因として、「データ不足」「社会ニーズの複雑さ」「トレードオフを評価する能力の欠如」などが挙げられています。完璧な解決策というものは存在しません。NbSを理想論で終わらせず、現実的な選択肢として社会に根付かせるためには、関係者間での正直な対話と、痛みを伴う選択に対する合意形成のプロセスが不可欠なのです。

発見4:想像を超える「自然を基盤とした解決策」の世界

 NbSと聞くと、植林や湿地の保全といった活動を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、レポートで紹介されている事例は、私たちの想像をはるかに超える多様性と創造性に満ちています。NbSは、決まった型にはまるものではなく、その土地の課題に合わせて柔軟に形を変えることができるアプローチなのです。

以下に、ユニークな事例をいくつか紹介します。

  • 送電線の下で羊を放牧(スペイン) 送電線の下のエリアは、植生が伸びすぎると火災のリスクや送電トラブルの原因になります。この事例では、機械で草を刈る代わりにヒツジなどの家畜を放牧。コストを抑えながら植生を管理し、森林火災のリスクを低減させています。

  • 「生きた護岸」で海の生き物を呼び戻す(オーストラリア・シドニー) 都市の港にあるコンクリートの護岸は、のっぺりとしていて生物が住み着きにくい構造です。そこで、岩場の潮だまりや岩の隙間を模した複雑な表面を持つタイル「リビング・シーウォール」を設置。これにより、海洋生物の住処を創出し、都市の生物多様性を高めています。

  • 渡り鳥を守るコーヒー農園(コロンビア、ペルー) コーヒー農園に日陰を作るための多様な樹木を植えることで、渡り鳥の貴重な生息地を保全しています。この「バードフレンドリー®」認証を受けたコーヒーは付加価値がつき、農家の収入向上にもつながるという、まさに自然と経済が連携したモデルです。

 これらの事例は、NbSが単なる環境保護活動にとどまらず、防災、都市計画、農業といった、私たちの暮らしに密接に関わる様々な社会課題に応用できる、無限の可能性を秘めていることを示しています。自然は解決策を与えてくれますが、それを活かすも殺すも私たち次第です。私たちの社会は、自然の力を本当に活かすために必要な「人」と「仕組み」への投資を、今から始める準備ができているでしょうか?この問いこそが、NbSの未来を左右する鍵となるでしょう。


2.自然と社会を豊かにするNbSの8つのルール

 国際自然保護連合(IUCN)は、NbSを次のように定義しています。

「社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福と生物多様性の両方に恩恵をもたらす、自然の、あるいは人為的に改変された生態系を保護し、持続的に管理し、回復させるための行動」 — IUCN, Executive Summary

簡単に言えば、森や川、湿地などの生態系が持つ力を賢く利用して、私たちの暮らしをより安全で豊かにしながら、自然そのものも元気にしていく取り組みのことです。

 しかし、「自然に基づく」と名がつけば、どんなプロジェクトでも良いわけではありません。中には、環境に配慮しているように見せかけて実態が伴わない「グリーンウォッシング」に陥る危険性もあります。そこでIUCNは、世界中の誰もが「質の高いNbSとは何か」を理解し、優れたプロジェクトを設計・実行・評価できるよう、世界共通の物差しとして「NbSグローバルスタンダード」を開発しました。このスタンダードは、NbSについての共通理解を深め、質の高い取り組みを世界中に広げるための、堅牢な枠組みを提供することを目的としています。

 この8つの基準は、優れたプロジェクトを設計するための、論理的な「物語」や「ライフサイクル」として捉えることができます。まず「なぜ(基準1)」行動するのか目的を定め、次にそのプロジェクトがより大きな「文脈(基準2)」の中でどこに位置するのかを理解します。そして、自然から何かを得る以上に「自然に貢献する(基準3)」方法を考え、「経済的な現実(基準4)」の中でどう持続させるかを設計します。関わるべき「人々とプロセス(基準5)」を巻き込み、避けられない妥協点を「公平に調整(基準6)」し、常に「学び、適応し(基準7)」ながら進めます。そして最後に、一つのプロジェクトがどうすれば「永続的な変化(基準8)」を生み出せるのかを考えます。それでは、このプロジェクト成功への道のりを、世界中の具体的な事例と共に一つずつ見ていきましょう。

IUCNグローバルスタンダード:8つの基準の解説

C1. 基準1:社会課題に効果的に対処する

 すべてのNbSプロジェクトは、一つの問いから始まります。「私たちは、誰の、どのような社会課題を解決したいのか?」。この基準はNbSの定義そのものの中核を成すため、8つの基準の中でも特に重要視されています。解決すべき社会課題を明確に特定することが、成功への第一歩です。

【事例】インド、西ヒマラヤにおける飼料バンクモデル(Case study 11)

  • 課題: この地域では、家畜の餌を得るための森林伐採が深刻でした。それは土壌侵食地滑りリスクを招き、さらに女性たちは飼料を集めるために森の奥深くへ危険な道のりを長時間歩くという過酷な労働を強いられていました。複数の問題が複雑に絡み合っていたのです。

  • 解決策: 村の近くの荒れ地に、栄養価の高い飼料となる樹木や草を植える「飼料バンク」を設置。これにより、女性たちが危険を冒して遠くまで行く必要がなくなり、労働時間が大幅に短縮されました。

  • 成果: むき出しだった土地が緑で覆われることで土壌侵食が防がれ、地滑りのリスクも軽減されました。一つの行動が、複数の社会課題に同時に、かつ効果的に対処した素晴らしい物語です。

専門家の視点: この事例は、NbSが単一の環境問題だけでなく、ジェンダー、労働、防災といった人間社会の根深い課題に直接アプローチできる強力なツールであることを示しています。

社会課題を特定した次は、その解決策をどのような空間的文脈で考えるかが重要になります。プロジェクトの「規模」に関する次の基準を見ていきましょう。

2. 基準2:規模に基づいた設計

 優れたNbSプロジェクトは、一点の活動で完結しません。より広いランドスケープ(単なる場所ではなく、生態系や人間社会が相互作用する広がり全体のこと)との繋がりの中で設計されます。森、川、農地、都市といった様々な要素が互いにどう影響し合っているかを理解し、生態系、社会、経済の相互作用を考慮した広い視野での計画が求められます。

【事例】フランス、カマルグ旧塩田の適応的管理(Case study 3)

  • 課題: 塩の生産が停止された広大な塩田跡地。これを放置するのではなく、どうすれば地域の生態系に再統合し、気候変動による海面上昇への適応力を高められるでしょうか?

  • 解決策: プロジェクトは塩田跡地という限られたエリアだけでなく、周囲に広がる**「ヴァカレス潟」「地中海」「ローヌ川」という巨大な水循環システム全体**との繋がりを再設計しました。堤防の一部を意図的に開け、水の流れをより自然な状態に戻したのです。

  • 成果: 塩田跡地は再び広域の生態系ネットワークの一部となり、自然の回復力を最大限に引き出すことに成功しました。まさにプロジェクトの敷地を超えたランドスケープ規模での設計が鍵となった事例です。

専門家の視点: 特定の「点」だけを管理するのではなく、生態系の「流れ」を理解し、それに寄り添う設計こそが、真にレジリエントな解決策を生み出すのです。

 広い視野で設計されたプロジェクトは、次に自然そのものにどのようなプラスの効果をもたらすべきでしょうか。生物多様性に関する基準を見てみましょう。

C3. 基準3:生物多様性と生態系の健全性に純増益をもたらす

 NbSは、単に自然を利用するだけでなく、その活動を通じて生物多様性を「以前よりも豊かにする(純増益/ネット・ゲイン)」ことを目指します。ソースレポートによれば、多くのプロジェクトが元々生物多様性の保全を主目的としていたため、この基準の評価が高くなる傾向にありました。つまり、NbSの原点とも言える重要な要素です。

【事例】オーストラリア、シドニーにおけるリビング・シーウォール(Case study 5)

  • 課題: 都市の護岸壁は、生命を拒絶する平坦な「海の砂漠」になりがちでした。しかし、もしこの人工の壁を、生き物たちが集う垂直な岩礁に変えることができたら?

  • 解決策: コンクリートの護岸壁に、自然の岩場にある潮だまりや隙間を模した複雑な凹凸を持つパネルを取り付け、海の生き物たちに隠れ家や住処を提供しました。

  • 成果: 結果は驚くべきものでした。設置からわずか2年間で115種以上の生物が定着し、何もしていない護岸壁に比べて生物の種数が3倍以上に増加。人工インフラでさえ、生物多様性に純増益をもたらすことができると示したのです。

専門家の視点: これは、都市のインフラ整備においてさえ、自然を『排除』するのではなく『招き入れる』設計が可能であることを見事に示しています。

 自然に良い影響を与えるだけでなく、プロジェクトが経済的に成り立つことも不可欠です。次の基準ではその厳しい現実について考えます。

C4. 基準4:経済的に実行可能である

 プロジェクトが長期的に継続するためには、経済的な裏付けが不可欠です。しかし、ソースレポートでは、この基準は21の事例全体で最も弱い評価でした。これは、環境プロジェクトが助成金に依存しがちで、長期的な経済モデルの構築や費用便益分析を行う専門知識やリソースが不足しているという、世界共通の課題を浮き彫りにしています。

【事例】ギリシャにおける社会的協同組合企業(Case study 20)

  • 課題: プラスチックごみ問題と、経済危機に直面する地域での雇用機会の不足。この二つの課題を同時に解決するビジネスは可能でしょうか?

  • 解決策: 小麦栽培の副産物として捨てられていた麦わらを、環境に優しいプラスチックストローの代替品として商品化するビジネスモデルを構築しました。これにより、ごみ削減に貢献しつつ、地域に公正な雇用を生み出しています。

  • 成果: 事業として経済的に自立することを目指していますが、この事例でも資金調達の難しさ費用便益分析の不足が弱点として挙げられています。これは経済的実行可能性を確保することの現実的な難しさを示す正直な報告です。

専門家の視点: 「良いこと」をするだけでは続きません。「良いこと」が経済的にも成り立つ仕組みをどう作るか。この問いこそが、NbSを絵空事で終わらせないための試金石です。

 経済的な持続性に加え、プロジェクトの運営方法、つまり「誰がどう決めるか」というガバナンスのあり方も成功の鍵を握ります。

C5. 基準5:包括的で透明性のある、エンパワーメントを促すガバナンスに基づく

 NbSプロジェクトは、一部の専門家や行政だけで進めるものではありません。計画の立案から意思決定、実行に至るまで、地域住民、先住民族、女性など、プロジェクトに関わるすべての人が公平に参加できる仕組み(ガバナンス)が不可欠です。この基準は、次に解説する「トレードオフの調整(基準6)」を成功させるための土台となります。

【事例】オーストリア、ドナウ川における25年以上の回復努力(Case study 6)

  • 課題: 航路確保の河川改修で失われた、巨大なドナウ川の生態系と治水機能。この大規模プロジェクトを、どうすれば多様な関係者の合意のもと進められるでしょうか?

  • 解決策: 計画の初期段階から**「ステークホルダー諮問委員会」**を設置。NGO、関連省庁、地域社会の代表者、科学者などが参加し、共同で意思決定を行うプラットフォームとして機能させました。

  • 成果: 多様な関係者が対等な立場で対話し、合意形成を図るプロセスを通じて、プロジェクトへの幅広い理解と協力を得ることに成功。25年以上続く長期的な成功の基盤を築きました。

専門家の視点: 時間はかかっても、最初に関係者全員をテーブルにつかせることが、結局はプロジェクトを円滑に進める一番の近道なのです。

 多くの人が関わると、意見の対立や不利益を被る人が出てくる可能性があります。それをどう乗り越えるかが次の基準のテーマです。

C6. 基準6:トレードオフを公平に調整する

 どんなプロジェクトにも、利益と不利益(何かを得るために、何かを諦めなければならない状況)が存在します。これを**「トレードオフ」**と呼びます。NbSでは、こうしたトレードオフの存在を正直に認め、特定のグループだけが不利益を被ることがないよう、すべての関係者にとって公平なバランスを取ることが求められます。

【事例】インドネシアにおける持続可能な開発による沿岸漁業の回復(Case study 2)

  • 課題(トレードオフ): 荒廃した沿岸生態系を回復させるため、エビの養殖池をマングローブ林に戻す計画が立てられました。しかし、これにより一部の住民は養殖池という収入源を失うという不利益を被ります。

  • 解決策: プロジェクトは、トレードオフを乗り越えるための明確な利益を示しました。マングローブ林が回復すると、カニなどの漁獲対象となる生物が劇的に増加したのです。

  • 成果: 漁業による収入が月平均80ドルから260ドルへと3倍以上に増加しました。この目に見える経済的利益が、養殖池を失うというトレードオフを受け入れ、地域全体としてより大きな利益を享受する原動力となりました。

専門家の視点: トレードオフは隠すものではなく、オープンに議論し、それを上回るメリットを全員で共有できる設計を考えることが重要です。

 計画通りにいかないこともあります。状況の変化に柔軟に対応する仕組みについて、次の基準で学びましょう。

C7. 基準7:証拠に基づき、適応的に管理される

 NbSは「やって終わり」のプロジェクトではありません。計画が本当に効果を上げているか、予期せぬ問題は起きていないかを継続的にモニタリング(監視)「証拠(エビデンス)」に基づいて計画を柔軟に見直していく必要があります。この「学びながら改善していく」アプローチを「適応的管理」と呼びます。

【事例】チュニジア、ガール・エル・メルの沿岸湿地の保全(Case study 1)

  • 課題: 漁業、農業、観光などによる複合的な圧力で劣化が進む沿岸湿地。どこから手をつけるべきか?

  • 解決策: プロジェクトは当初、漁業や農業、観光など幅広い分野に同時に取り組む計画でした。しかし、定期的なモニタリングを通じて、水質汚染が生態系劣化の最も根本的な原因であることが科学的な証拠として明らかになりました。

  • 成果: この結果に基づき、プロジェクトチームは計画を修正し、活動の焦点を水質改善へとシフトさせました。これが、証拠に基づいて戦略を柔軟に見直す「適応的管理」の優れた実践例です。

専門家の視点: 「計画通りに進める」ことよりも、「学びながら軌道修正する」ことこそが、複雑な生態系を相手にする上での成功の鍵なのです。ここで得られた「証拠」こそが、プロジェクトを一過性の成功で終わらせず、より大きな政策(基準8)へと繋げるための説得力になります。

 最後の基準は、一つのプロジェクトの成功を、より大きな変化へと繋げていくための考え方です。

C8. 基準8:持続可能で、適切な管轄区域の文脈に主流化される

 一つのプロジェクトの成功を一過性のものにせず、その成果や教訓を**地域の法律、政策、開発計画などに正式に組み込む(主流化する)**ことが、持続可能でより大きなインパクトを生み出すために不可欠です。プロジェクトで得られた知見が、より広い範囲のルールや仕組みを変えることで、社会全体のレジリエンス向上に繋がります。

【事例】コロンビア、チンガサ-スマパス-ゲレロ地域における水供給への適応(Case study 9)

  • 課題: 首都ボゴタの水源地帯である高山生態系(パラモ)を、気候変動による水供給リスクからどう守るか?

  • 解決策: このプロジェクトを通じて、気候変動リスクを考慮した土地利用計画の手法や知見が開発されました。

  • 成果: その成果はプロジェクト内だけで留まりませんでした。関係する21の自治体の「土地利用計画」や、クンディナマルカ県の「地域開発計画」に正式に採用されたのです。さらに、コロンビア政府が国連に提出する気候変動に関する「国別報告書」にも貢献し、一つのプロジェクトの学びが、地方から国の政策へと「主流化」されました。

専門家の視点: 真の成功とは、プロジェクトが終わった後もその考え方が地域の「当たり前」になることです。主流化は、そのための最も確実な道筋です。


3.21のグローバルケーススタディに基づくNbSの比較分析

分析の枠組み:ケーススタディの選定と評価方法

 IUCNが採用した体系的なケーススタディの収集・分析プロセスは、本報告書で提示される洞察の質と実践的価値を高める上で極めて重要な役割を果たしました。このプロセスは、多様な地理的・生態学的文脈におけるNbSの実践から、横断的で普遍的な教訓を抽出するための基盤となっています。

  1. フェーズ1:ケーススタディの公募と選定 IUCN生態系管理委員会(CEM)のコミュニティを通じてケーススタディの公募が行われ、世界中から42件の応募がありました。これらの応募の中から、最終的に21件のケーススタディが選定されました。選定にあたっては、以下の4つの基本要件が基準となりました。

    • NbSとしての可能性:介入がNbSの定義と原則に合致する可能性が高いこと。

    • データ利用可能性:評価に必要なデータや情報が十分に利用可能であること。

    • 地域的バランス:地理的な偏りを避け、世界各地域から多様な事例を網羅すること。

    • 実施段階:介入が計画段階ではなく、進行中または完了段階にあり、評価可能な成果が存在すること。

  2. フェーズ2:ケーススタディの評価 選定された21のケーススタディの著者には、IUCNグローバルスタンダードの自己評価ツール(NbS-SAT)が提供されました。各著者はこのツールを用いて、自身のプロジェクトが8つの基準とそれに対応する28の指標をどの程度満たしているかを評価しました。評価は「強い」「適切」「部分的」「不十分」の4段階で行われ、評価の根拠となる理由と、それを裏付ける文書や資料(検証手段)を詳細に記述することが求められました。このプロセスにより、主観性を排し、客観的なデータに基づいた評価が担保されました。

  3. フェーズ3:データ分析 全21ケーススタディから収集された自己評価結果と関連情報を統合し、横断的な比較分析が行われました。分析は、生態系タイプ(海洋、淡水、陸域、都市など)、対処した社会的課題、関与したステークホルダー、実施されたNbS介入の種類といった多様な切り口から実施されました。これにより、個々の事例を超えた共通のパターン、成功要因、そして課題を特定することが可能となりました。

 この体系的な枠組みは、次章で展開される生態系タイプ別の詳細な比較分析の確固たる土台となり、本報告書の結論と教訓の信頼性を支えています。

生態系タイプ別NbS適用の比較分析

 ここでは、海洋・沿岸、淡水、陸域、そして都市などの集約的土地利用生態系という4つの主要な生態系タイプ別に、NbSがどのように適用されているかを比較検討します。それぞれの生態系は、海面上昇や土地劣化、都市部のヒートアイランド現象といった固有の課題に直面しています。これらの課題に対し、NbSがどのような介入を通じて、いかなる成果をもたらしているのかを明らかにすることは、今後のNbSの実践をより効果的に展開する上で不可欠です。

海洋・沿岸生態系:海洋・沿岸生態系における5つのケーススタディ(CS1〜CS5)を分析します。これらの生態系は、気候変動に起因する海面上昇、沿岸侵食、過剰漁獲による資源の枯渇、そして沿岸開発による生息地の喪失といった、深刻かつ複合的な課題に直面しています。

ケーススタディ(場所)/主要な社会的課題/実施されたNbS介入の種類/主要な成果

CS1 チュニジア、ガール・エル・メルフ/気候変動、社会経済開発/生態系回復(ER)、統合的沿岸域管理(ICZM)/湿地の水循環改善、ガバナンス強化、グリーン雇用の創出

CS2 インドネシア、クブラヤ/食料安全保障、生物多様性損失/生態系回復(ER)、生態系を基盤とした管理(EbMgt)/マングローブ林の保護・回復、漁業収入の向上(月収80ドル→260ドル)

CS3 フランス、カマルグ/災害リスク削減、生物多様性損失/生態系回復(ER)、生態系を基盤とした適応(EbA)/自然な砂州の形成、ラグーンの生態学的状態の改善

CS4 ニュージーランド/気候変動、災害リスク削減/沿岸植生の回復(ER)、緑のインフラ(GI)/砂丘生態系の回復、地域コミュニティの防災意識向上

CS5 オーストラリア、シドニー/生物多様性損失、気候変動適応/生態学的エンジニアリング(EE)/護岸の生物多様性が最大3倍以上に増加、水質浄化に貢献

 海洋・沿岸生態系におけるNbS介入は、その有効性を明確に示しています。チュニジア(CS1)、インドネシア(CS2)、フランス(CS3)では、湿地、マングローブ、ラグーンといった重要な生態系の回復(ER)が中心的な介入となっています。これらのプロジェクトは、生物多様性の保全だけでなく、地域社会の生計向上(CS2の漁業収入増)や災害リスク削減(CS3の自然な砂州形成による緩衝機能)といった具体的な便益をもたらしました。特に、インドネシアの事例では、コミュニティ主導の管理がマングローブ林の保護と持続可能な漁業を両立させ、地域住民の経済的レジリエンスを大幅に向上させた点が注目されます。一方で、オーストラリア(CS5)の「リビング・シーウォール」は、都市部の硬質な護岸に生物の生息場所を模したパネルを設置するという、革新的な生態学的エンジニアリング(EE)の好例です。この介入は、都市インフラに生態学的機能を付加することで、生物多様性を最大3倍以上に高めると同時に、水質浄化にも貢献しており、都市化が進む沿岸域におけるNbSの新たな可能性を示唆しています。これらの事例は、比較的開発が進んでいない地域での自然プロセスの回復(CS1-3)から、高度に改変された都市インフラへの生態学的機能の統合(CS5)まで、沿岸域におけるNbSの適用が幅広いスペクトルを持つことを示しています。続いて、内陸の水循環の要である淡水生態系での適用事例を見ていきます。

淡水生態系:河川や湖沼、湿地からなる淡水生態系は、水供給、洪水調節、生物多様性の保全といった重要な機能を担っていますが、水質汚染、ダム建設による生態系の分断、流量の変化といった深刻な課題に直面しています。ここでは、河川とその流域を対象とした2つのケーススタディ(CS6、CS7)を分析します。

ケーススタディ(場所)/主要な社会的課題/実施されたNbS介入の種類/主要な成果

CS6 オーストリア、ドナウ川/生態系劣化、災害リスク削減/生態系回復(ER)、生態系を基盤とした管理(EbMgt)/河床低下の抑制、河岸・氾濫原の生息地保全、ステークホルダー理事会の設立

CS7 ポルトガル、パイヴァ川流域/災害リスク(洪水・火災)、水質安全保障/統合的自然資源管理(INRM)、森林景観回復(FLR)/ステークホルダーフォーラムの設立、参加型アプローチによるグリーン戦略の共同設計

 ドナウ川(CS6)とパイヴァ川流域(CS7)の事例は、淡水生態系におけるNbSの異なるアプローチとその有効性を示しています。オーストリアのドナウ川(CS6)では、25年以上にわたる大規模な生態系回復事業が実施されました。ここでは、河床低下という物理的な課題に対し、堆積物管理や河岸の再自然化といった介入が行われ、生態系の健全性を取り戻すとともに、航行の安全性や洪水リスクの低減にも貢献しました。このプロジェクトの成功の鍵は、科学的モニタリングに基づく長期的な管理と、航行関係者や環境保護団体など多様な利害関係者で構成される理事会の設立による、協調的なガバナンスにありました。一方、ポルトガルのパイヴァ川流域(CS7)では、流域全体を対象とした統合的な資源管理アプローチが取られました。ここでは、特定の介入を行うのではなく、まず多様なステークホルダーが参加する「流域ステークホルダーフォーラム」を設立しました。このフォーラムを通じて、洪水や森林火災といった共通の課題を特定し、共同でマッピングを行い、参加型アプローチによってNbSを含むグリーン戦略を共同で設計しました。このプロセスは、地域社会の当事者意識を高め、より持続可能で文脈に即した解決策の創出を可能にしました。両ケースに共通しているのは、ステークホルダーの深い関与がプロジェクトの成功に不可欠であったという点です。大規模な物理的介入(CS6)であれ、ガバナンスと計画策定プロセス(CS7)であれ、関係者間の対話と合意形成が、長期的で持続可能な成果を生み出すための基盤となっています。次に、より広範な景観を対象とする陸域生態系での事例を分析します。

陸域生態系:陸域生態系は、高山から森林、乾燥地、草原に至るまで、地球上で最も多様な環境を含んでいます。このサブセクションで分析するケーススタディ(CS8〜CS16)も、この多様性を反映しており、気候変動への適応、土地劣化の防止、生物文化多様性の保全、そして伝統的知識の喪失といった幅広い課題に取り組んでいます。

  • 気候変動に脆弱な農業システムの強靭化 多くの陸域NbSは、気候変動の影響を最も受けやすい小規模農家の生計向上と生態系保全の両立を目指しています。例えば、エクアドルの高地(CS8)では、アグロエコロジー(生態系農業)の手法を用いて、気候変動に強い農業生産システムを構築し、小規模農家のレジリエンスを高めました。同様に、インドの西ヒマラヤ(CS11)では、地域の女性たちが直面する飼料収集の労苦を軽減するため、地域固有の飼料用樹木を利用した「飼料バンク」を造成しました。これは、森林破壊や土壌浸食を防ぎつつ、女性の生活の質を向上させる多面的な便益をもたらしました。

  • 森林生態系の回復と保全 森林は、生物多様性の宝庫であると同時に、文化的・経済的にも極めて重要です。ケニアのミジケンダ・カヤ神聖林(CS12)はユネスコ世界遺産にも登録されており、ここでは地域コミュニティの伝統的知識を活用した保全活動が、森林のレジリエンス強化に貢献しています。一方、ニューカレドニア(CS10)では、ニッケル鉱業によって劣化した土地の生態系回復が行われました。このプロジェクトは、自然災害リスクを低減するとともに、生態系サービスを回復させ、地域の持続可能な発展の基盤を再構築しました。

  • 持続可能な土地利用と家畜管理 生産活動と生物多様性保全の統合は、陸域生態系における重要なテーマです。アルゼンチン(CS13)とスペイン(CS14)では、放牧を持続可能な形で管理する手法が導入されました。特にスペインの事例では、高圧電線下の植生管理に家畜の放牧を利用することで、機械による除草コストを削減し、火災リスクを低減させると同時に、生物多様性の高い草地環境を維持することに成功しています。また、米国バージニア州(CS15)では、草原の鳥類の生息地を保全するため、農家と協働し、鳥に配慮した農法(bird-friendly practices)を推進しています。

  • 先住民の知識との協働 オーストラリアのアーネムランド東部(CS16)では、先住民コミュニティが主導する生物文化多様性の共同研究が実施されました。このプロジェクトは、西洋科学と先住民の伝統的知識を融合させ、地域の生態系に関する理解を深めるとともに、先住民自身による土地管理能力を強化しました。これは、文化的な価値と生態学的な価値を不可分なものとして捉え、保全活動を成功に導くNbSの好例です。

 これらの多様な事例は、成功した陸域NbSが、地域の社会経済的な構造に深く組み込まれており、農業生産、伝 統的知識(CS16)、そしてコミュニティ主導の保全(CS12)を統合することでレジリエンスを達成していることを明確に示しています。次に、人間活動の影響が最も顕著な都市環境やビジネスの文脈におけるNbSの適用を見ていきます。

集約的土地利用生態系(都市・ビジネス): 都市環境やビジネス活動は、従来、自然とは対極にあるものと見なされがちでした。しかし、このサブセクションで分析するケーススタディ(CS17〜CS21)は、NbSがこれらの集約的な土地利用生態系においても、気候変動、水管理、市民の健康、持続可能な経済といった多様な社会課題の解決に大きく貢献できることを示しています。

  • 都市の緑化とレジリエンス向上 都市における緑のインフラ(Green Infrastructure: GI)は、NbSの最も代表的な適用例の一つです。英国リバプール(CS17)と米国ポートランド(CS18)の事例は、都市におけるNbSがもたらす多面的な便益を明確に示しています。リバプールでは、緑の回廊や雨水庭園の設置が、都市のヒートアイランド現象を緩和し、生物多様性を向上させ、市民に憩いの場を提供しました。ポートランドのジョンソン川回復計画では、氾濫原を再自然化することで洪水リスクを軽減し、絶滅危惧種のサケの生息地を回復させると同時に、市民のレクリエーション機会を創出しました。これらの事例は、GIが単なる緑化ではなく、気候変動への適応、水循環の健全化、市民の心身の健康増進に貢献する、費用対効果の高い投資であることを証明しています。

  • ビジネスモデルとNbSの統合 NbSは、環境保全と両立する持続可能なビジネスモデルの構築にも貢献します。**ギリシャ(CS20)**では、社会的協同組合が、小麦栽培の副産物である茎をプラスチック製ストローの代替品として商品化しました。この取り組みは、循環型経済の原則を適用し、プラスチック汚染という環境問題に対処すると同時に、地域に公正な雇用機会を創出しています。一方、**コロンビアとペルー(CS21)**で実施されている「バードフレンドリー®」コーヒー認証制度は、市場メカニズムを活用したNbSの好例です。この制度は、渡り鳥の生息地となる豊かな森林環境(シェードツリー)を維持しながらコーヒーを栽培する農家を認証し、付加価値を与えることで、生物多様性の保全と農家の生計向上を両立させています。

 これらの事例から、NbSが都市やビジネスという人間活動の中心地においても、レジリエンスの向上と持続可能な発展を実現するための強力なツールとなり得ることがわかります。生態系別の分析を終え、次に、これらの多様な事例に共通する成功要因と課題を横断的に分析します。

乗り越えるべき課題:資金とトレードオフ

 IUCNグローバルスタンダードによる評価で、21のケーススタディに共通して「最も弱い基準」とされたのが、基準4(経済的実行可能性)と基準6(トレードオフの公平なバランス)でした。これは、NbSの実践において、経済的な側面と利害関係の調整が依然として大きな課題であることを示唆しています。

 多くのケーススタディにおいて、包括的な費用便益分析や経済的実行可能性の調査が不足していました。その背景には、以下のような要因が挙げられます。

  • 限られた資金:プロジェクトの多くが外部からの限定的な資金に依存しており、詳細な経済分析を行うための資源が不足していました。

  • ボランティア労働への依存:特に地域主導のプロジェクトでは、ボランティアの労働力に大きく依存しており、その経済的価値が適切に評価・計上されていないケースが多く見られました。

  • 政策支援の不足:NbSの経済的価値を評価し、それを政策や市場に統合するための支援が不十分な場合がありました。

 同様に、異なる便益や不利益(トレードオフ)を評価し、公平にバランスを取ることも困難な課題でした。その要因としては、信頼できるデータの不足、地域社会の複雑なニーズの多様性、そしてトレードオフを評価するための専門的な能力の欠如などが挙げられます。これにより、誰が便益を受け、誰がコストを負担するのかという分配の公平性が十分に検討されないままプロジェクトが進行するリスクが生じます。

 しかし、この弱みを認識し、改善の機会と捉えた事例も見られました。例えば、アルゼンチン(CS13)のプロジェクトでは、トレードオフの評価が不十分であったことを認め、将来の活動プロトコルにトレードオフ分析を正式に組み込むことを計画しています。これは、実践からの学びを次に活かす順応的なアプローチの好例です。

実践に向けた重要な教訓

 21の多様なケーススタディの比較分析から、自然に基づく解決策(NbS)を成功裏に計画・実施するための、生態系や地域を越えた普遍的な教訓が浮かび上がってきました。これらの教訓は、これからNbSプロジェクトに従事する実務家、政策立案者、研究者にとって、貴重な指針となるものです。

  1. 多様なステークホルダーの関与 プロジェクトの成功は、政府、NGO、学術界、民間、地域社会など、多様な専門知識と視点を持つ関係者を統合的に関与させることで確実なものとなります。建設的で長期的な協働関係を築くことが極めて重要です。

  2. 先住民・地域コミュニティ(IPLCs)の参画 計画の初期段階からIPLCsを深く関与させ、彼らが持つ伝統的・在来知を取り入れることは不可欠です。これにより、介入が地域の文脈に適したものとなり、コミュニティのプロジェクトへの所有感が育まれます。

  3. 包括的で明確なガバナンスモデル 地域コミュニティとの高度な協議を可能にし、誰が何を決定するのかという明確な意思決定スキームを持つガバナンスが成功の鍵です。透明性の高いプロセスは、信頼を醸成し、長期的なコミットメントを確保します。

  4. 長期的な財務計画 プロジェクトの資金調達は、初期投資だけでなく、将来の維持管理や追加投資の必要性を見越して計画されるべきです。計画段階から長期的な資金調達戦略と、それを実行するための能力開発を統合することが重要です。

  5. 技術的スキルと側面 プロジェクトの成功には、適切な技術的専門性が不可欠です。必要な技術的ニーズを特定し、それに応じたスキルを持つ人材の確保、技術サポート、そして継続的なフォローアップを計画に組み込む必要があります。

  6. 順応的管理(アダプティブ・マネジメント) NbSは不確実性を伴う環境で実施されるため、一度計画した通りに進むとは限りません。継続的なモニタリングと、そこから得られる学びを通じて、変化する状況に対応し、介入の成果を柔軟に調整・改善していく順応的な姿勢が求められます。

  7. 土地の利用可能性と所有権 NbS介入を実施するためには、物理的な土地の確保が前提となります。関連する土地の保有権や所有権の問題は複雑であることが多いため、慎重に考慮し、関係者との合意形成を図る必要があります。

 これらの教訓は、NbSが単なる技術的な介入ではなく、社会的なプロセスであることを示しています。今後の展望として、NbSの実践を世界的に拡大(スケールアップ)していくためには、以下の点が不可欠となります。まず、本分析でも活用されたIUCNグローバルスタンダードのような堅牢な枠組みを用い、プロジェクトの品質と説明責任を確保することが重要です。次に、自然資本や生態系サービスの価値を評価する経済的評価手法を改善・普及させ、NbSへの投資が賢明な選択であることを政策立案者や投資家に示す必要があります。そして最終的には、これらの取り組みを通じてNbSを国の開発計画や気候変動戦略、企業のサステナビリティ方針といった政策決定のプロセスに主流化していくことが求められます。


結論:自然の力を本当に活かすために

 IUCNのレポートが明らかにしたのは、NbSが魔法の杖ではないという現実です。プロジェクトは生物多様性の成果を出す点では強力でしたが、その成功と普及の鍵は、地域社会のニーズへの深い関与、堅実な経済計画、そしてトレードオフに関する誠実な対話にあることが示されました。自然の力を借りるということは、それを使う私たち人間の知恵と努力が試されるということでもあります。レポートの序文にあるように、これらの事例は私たちに重要なことを教えてくれます。地域社会から国際協定に至るまで、あらゆるレベルでNbSを政策、計画、実践に統合することの重要性を強調しています。さらに重要なことに、社会課題への対処とは、単に問題を解決することだけではなく、より公平で、強靭で、調和のとれた未来への機会を創造することでもあるのだと、私たちに思い起こさせてくれます。


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