SDGsは何を成し遂げられたのか?〜The Future We Wantから13年の星取表
今週末、法政大学のSDGsコースの修士課程のみなさまに、非常勤講師を行うということで、本稿をまとめました。
2012年、ブラジル リオデジャネイロで開催された、地球サミット(通称:リオ+20)で、SDGsが生まれました。このサミットに向けては、世界中から、「The Future We Want(我々が望む未来)」について世界中からSNSを通して声を集めてその声を当日会場でサイネージで表示するなど様々な工夫を行っていました。日本からもたくさんの市民の声を届けたのがこの活動でもありました。このサミットで一番大きかった転換点は、欧州らUNEPが主張する環境配慮型の「グリーンエコノミー」に対して、途上国が反発しコロンビアが提案した開発アジェンダ「SDGs」が採択されたことにあります。(関連記事:地球サミットとは何か?(ナショナルジオグラフィック)と、その当時の服部のコメント)。SDGsは、The Future We Wantから抽出された、キラキラした望ましい未来へのアジェンダです。20年以内にそれを望むとはなんと、ムーンショットな野心なのだろう、と当時は思いました。
あれから、13年たち、欧州の主張したグリーンエコノミーは、欧州からTCFD/TNFDという形で社会にインストールされつつあり、一方で、地政学的に途上国はますます力をつけており、主要環境締約国会議で主導権を握っています。そして、先進国のセンチメンタルで規制的なネイチャーポジティブエコノミーに対して、途上国は成長につながる実利のあるネイチャーポジティブエコノミーを主導しようとしています。良い意味において、主権が各国にあるグリーン経済である、といえます。ある意味で、驚きです。
13年後の星取表はどうなっているのでしょうか?今日はこの辺りを整理しました。今日も楽しんでいってくださいね!
1.星取表
公式
最初に、国連の2024年時点での公式進捗評価は”こちらのレポートをご覧ください。
すでにこのレポートに追随する各種考察は一通り出ていることから、ここでは、本来なかなか難しい「経済学の市場の失敗」の最適化の過程という視点からの考察を考えることとします。
総括
SDGsの現在地は“望む姿に向けた経路上”と言えそうです。世界のGDPを2012年と2025年で比較すると、総GDPは約1.55倍になりました。一人当たりGDPは約1.35倍になりました。
(1) 危険度が高く対処の便益が明確な領域は素早く集団行動が起きる、(2) 危険度が中程度か、費用や不確実性が大きい領域は段階的に前進する、(3) 目標(ターゲット)は政治的合意から出発している場合は、費用対効果を最適化されておらず、この結果、達成に苦労していると評価することができます。
① 危険度が高く替えが利く領域は、迅速にまとまった
オゾン層はその代表です。1987年のモントリオール議定書は、有害物質の段階的削減に加え、非締約国との貿易制限(第4条)という実効的な外縁を設けました。科学・代替技術・貿易ルールがそろい、参加の“クラブ”を自律的に維持できたのです。結果として回復の道筋が確定し、回復見通しは世界平均で2040年、北極で2045年、南極で2066年。さらにキガリ改正で代替冷媒も段階削減し、今世紀に最大0.4℃の追加温暖化回避が見込まれます。危険度が高く、代替もあり、監視と制裁が効いたので、合理的に速い集団行動が起きたと読めます。(Ozone Portal)
有鉛ガソリンも同様です。2021年に地球規模で供給終了。社会的損失が大きい「明白な有害物」に対し、代替と規制で一気に終息させた代表例です。(UNEP - UN Environment Programme)
ポリオは1988年比で99%以上の減少。常在国はアフガニスタンとパキスタンの2か国に絞られ、ワクチンと監視の反復で「最後の一押し」を継続しています。攻撃的事件など困難は残るものの、高リスク・高確度・実装可能な領域として合理的に資源が配分されてきたと読めます。(World Health Organization)
② 命の土台となる、生活基盤の分野は、着実に改善
同様に、SDGsの背景にあった、生命のセキュリティの論点は徐々に改善に向かっています。
5歳未満死亡は2000年の半減を達成し、2023年に480万人まで低下。長期の資本整備と人的投資が奏功した典型です。(UNICEF DATA)
安全な飲み水は2015年68%→2024年74%へ上昇。21億人が未達という課題は残るものの、改善方向は一貫しています。(UNICEF DATA)
電化は2022年時点で91%。(IRENA)
極度の貧困は17%から2025年9.9%見込みへ低下。景気・債務・紛争の逆風下でも「改善に復帰」は合理的な軌道です。(World Bank Blogs)
飢餓は2024年に約8.2%(約6.73億人)。
③ 危険度が怪しい政治的に決められた領域は、苦戦
一方で、直ちに危険であると言い切れない環境問題などは、あまり芳しくありません。
気候変動で各国は炭素の価格付けなど、参加負担を調整しやすい制度から広げています。2025年時点で炭素価格の対象は世界排出の約28%、2024年の財政歳入は1000億ドル超。完全最適ではないにせよ、少なくとも先進国の対応が進んでいる、と読みとくことができます。監視の強化が協力の土台を固めています。衛星を活用したメタン監視(MARS)や各国の報告制度の高度化は「見られている」前提を作り、信頼性を上げるなど、段階的な前進になっています。
一方で、環境分野は途上国の協力が進んでいません。もともとSDGsに敗れ去った、「グリーンエコノミー」のアジェンダがかなり継承されており、先進国からの途上国への押し付け目線も残っており、2012年来の対立が解消され切れていないと思われ、この結果も納得ができるもの(と言うかやむを得ないもの)となっています。
見解: 公式進捗評価17%だけど・・・
国連の公式進捗評価は“順調は約17%”(UNSD)。しかし、これは合意目標に照らした遅れで、リスク配分上の最適と同義ではありません。相当な「理想的な未来の姿」を描いた未来の6件に1つは十数年で叶えてしまっているということでもあります。むしろよくやってる、といえそうです。
SDGsのターゲットは、国連総会決議A/RES/70/1として各国が合意した政治的アジェンダです。法的拘束力を伴う設計ではなく、「望ましい姿」を掲げた方向付けに近い。したがって、計算された(数理的な費用最小化や危険度順位から機械的に導かれた)目標ではありません。方向は示すが、到達経路は各国の選択に委ねられるものになっています。この前提に立つと、SDGsの現状の成果は「リスクの高低と制度コストで優先順位が織り込まれた」合理的な最適化の結果、という解釈は成り立ちます。監視の進歩は確かな追い風です。森林の衛星アラートは違法伐採の抑制に実際の効果を示し、メタン監視も通報から是正へつなぐ仕組みが整いつつあります。メタン漏えい対応は把握も是正も遅れがちでした。今は衛星が大規模漏えいを検知→通知→是正の流れが稼働。見える化がさらにいつどれだけこのアジェンダを進めるのかをナビゲーションしている、と言えるのかもしれません。
すなわち、「完全達成」ではありませんが、危険度・費用・制度コストに照らし、段階的に最適反応している 「今の世界は、危険度と制度コストを踏まえた合理的な優先順位で“望む姿に向かう過程”にある」と位置づけることができそうです。
2.今後に向け、どう設計すれば「経済もSDGsも」両立できるか
貧困や環境と経済の双方の両立は、環境経済学で繰り返し議論されてきたテーマになります。現在の世界は「二番目の最適(セカンド・ベスト)」の混合に近い配置にあります。(本節は、経済学に馴染みのない方は読み飛ばしてください。当日までに、もうちょい整理します。)
一般均衡論の第一厚生定理は「完全競争・完全情報・外部性なし等の条件下で、競争均衡はパレート効率的になる」と述べます。第二厚生定理は「適切な初期配分(たとえば一括移転)を施せば、どの効率的配分も競争価格で実現できる」と教えます。現実がこの二つの定理の前提から外れると、競争だけでは望ましい結果に行き着きません。(Stanford University)
SDGsの核心には、外部性(ある人の行動が市場を介さず他者に影響)と公共財(排除が難しく、分け合っても減らない便益)が多数含まれます。外部性があると市場価格は社会的費用・便益を映しません。公共財はただ乗り誘因が強く、供給が不足します。教科書的にいえば、最適な「ピグー型の課税・補助」や公共調達、ルール設計がなければ、第一厚生定理の結論は成り立ちません。公共財の必要供給条件(サミュエルソン条件)も、価格メカニズムだけでは満たせません。(Stanford Encyclopedia of Philosophy)
水や保健、教育、電化のように「市場で収益化しやすい、もしくは国家が提供できる準私的財」は前進しやすい。一方で、気候安定、生物多様性、法の支配、紛争の抑止のような地球規模の公共財は、国家間でただ乗りが起きやすく、供給不足な傾向になります。
セカンド・ベスト(第二最適)の理論は、「最適条件の一部が満たせないとき、他の条件も教科書的な最適値から外した方が全体として良い場合がある」と述べます。外部性に対して第一最適のピグー税が打てないなら、補助金・数量規制・基準・貿易措置などの第二善的な組み合わせが相対的に良い結果を生むことはありえます。
GEの定理が成立する背景には凸性や可逆性の前提があります。ところが環境では、生態系のしきい値、気候の転換点、不可逆的な損失が存在します。こうした非凸性・不可逆性が強いと、厚生定理の結論は弱まり、慎重な「待つ価値(オプション価値)」が生じます。政策の遅れが後から取り戻せない局面もあります。(ScienceDirect)。効率と分配は別問題です。第二厚生定理は一括移転(再分配)が可能なら、効率と分配を分けて設計できると教えますが、現実は政治・財政制約で一括移転が難しい。社会的厚生関数で分配の重み付けをどう置くか(例:アトキンソンの不平等回避度)で答えは変わります。さらに、アローの不可能性定理は、個人の選好を公正に集約して一意の社会的順序を作ることが原理的に難しいと示しました。ゆえに「社会が本当に望む形」を市場結果だけで断言することはできません。(UCR Faculty)
この制約下で改善を考えてみましょう。
第一歩:影の価格を作る
外部性には価格付け(税・取引)か基準。気候は不確実性下で価格手段が理論上優位になりやすいことが知られていますが、制度更新を見越しハイブリッド設計が現実的です。国別のカバー率・水準の底上げが優先です。同時に気候変動の怖さのあまり、プライシングが自らの経済的な体力(支払い能力)以上に高く設定しすぎると、単純に実体経済を破壊するだけなことに注意もすべきです。環境のテーマは普段考え慣れていない分だけ、視野狭窄になり、権威に追随しがちですが、本来リスクは自分の頭で考え、判断されるべきものです。過去、科学に権威がちらついたとき、それは、大抵、その当時の説が「間違っている」ときです。カーボンプライシングも、政府や国連の値や規制を「待ち望み始めている」ようであれば、それは、思考停止の始まりです。経営とは言えません。「値決めこそ経営」のはず。
第二歩:セカンド・ベストを自覚して束ねる
ピグー税が入らない領域では、調達、補助、規制、情報、貿易措置(例:炭素国境調整)を一体設計。国際協調では「クラブ型合意」(参加国同士で優遇、非参加国に境界措置)でただ乗りを抑える設計が有力と評価されています(American Economic Association)。マーケットポータル、人工知能、さまざまな能力を有している我々は、セカンドベストのマーケットポータルはアジャイルに容易に構築ができます。問題は、環境やネイチャーというとき総論であるが、実際は、各論が重要であるいうことです。世界の生物多様性の減少については心を痛めていても、うなぎを美味しく食べること(うなぎは絶滅危惧種に指定されており、これが解消されるまでは食用とすることは不適切です)については考えが別であることはよくあることです。環境問題は、各論の集合的な積み上げに名称が与えられているのであってその逆ではありません。セカンドベストを意識した上で、個別論をTNFDの枠組みでしっかりと考えることこそ、重要です。
第三歩:制約付き最適化に切り替える
しきい値や不可逆性が強い領域は、費用便益の積み上げだけでなく、ガードレール(閾値)を先に置いた費用効果アプローチに切り替えます(ScienceDirect)。本来、環境で酷い被害が出る問題は、地域や現場で解決できるはずです。国連や国際的なフォーラムを待たずに、個別に重要な問題なのです。グローバルにエスカレーションしてエンパワーできる機会があるオプションが現場を励ます形になるべきです。
第四歩:分配と手当ての同時設計
炭素税や規制の帰着は家計・産業で偏ります。還元・移転を抱き合わせることで政治的受容性と厚生の両立を図ります(第二厚生定理の実務版)。一方で、一番大事なことは、きちんと国民の意見の反映があることを確認することになります。
ランダムウォークで最適化を探る
実際、価格やリスクを計ろうとすると、環境の未来値や被害が「わからない」、自分の意思決定も「わからない」と言うことが本当だと思います。「わからない」から科学者に頼ったり、もっとMRVを、となるのですが、それだとかえって、解るためにコストをかけてしまい、本来のリスクに相応しくないコストを変えてしまう場合もあります。その場合は、「わからなさ」を「確率分布」として捉えて、ベイズ論的に経験主義的にアプローチしても良いと思われます。
ケーススタディで考える
都市のPM2.5:発生源の一部は把握できるが、完全な価格付けは難しい。ここで(1) ピグー税に近い排出課金を入れ、(2) 監視や測定が難しい中小源には基準や補助を組み合わせ、(3) 低所得層には還付をセットにする。これを毎年試行錯誤しながら正解を探す。これはセカンド・ベストの束ねですが、健康損失を大きく減らしつつ効率を損なわない現実解になります。ポイントは、価格と基準と移転を同時に動かすことです。要するに、完璧を待たずに、近似解を束ね、これをPDCAを回しながら改善するということです。(Stanford University)
3.講義の終わりに
もともと、SDGsの火種は、リオ+20会議に向けて世界で集めた、The Future We Wantと言う願望でした。インターネットがひとしきり普及した2012年に、一つの世界を論じ合い、あるべき論を打ち立てたSDGsはユニークな挑戦だったと思います。
13年間で、世界は、いろいろな経験を世界はしてきましたし、今目下、同時に経験中です。また、今年、最も革新的な技術がAIです。AIは、言葉を超えます。知識を超えます。スキルを超えます。すなわち、さらに世界はフラットになり得ます。一般的な課題解決は、なぞって答えてしまいますし、解決プラットフォームのプログラムコーディングも自ら済ませてしまいます。
AIを使う側の人としては、それは何か?どう進めるのか?この辺りが格段と自動化して楽ができそうです。こうなってくると、人においては「なぜ?」が大切になります。本当に大切な世界のアジェンダは何か?なぜなのか?それを、国連が作ったから、ではなく、自分で考え切ることことこそ、大切です。今度は、Wishではなく、科学的に知性で、何が本当のアジェンダかを、自ら考えることこそ、第一歩となると思えます。したがって、SDGの出口に向かう我々としては、SDGsの残課題に一喜一憂をするだけではなく、SDGsのできたこととできなかったことを冷静に分析して、この原因を解析した上で、より良い実現可能な未来像をより具体的にデザインし創造することが求められていると思います。一緒に、頑張りましょう。
