2030年 「風の谷」72時間
安宅和人さんの「風の谷という希望」の書籍の内容は、まさにネイチャーポジティブの内容で、学びがたくさんありました。(ファクトに基づいて、どのように希望のもてるデザインを疎空間に提供できるかを構想した、とても充実したコンテンツなので、ぜひお薦めです!)
さて、ネイチャーポジティブの国際目標を2030年に置いた場合、あと5.5年。2030年時点ではまだ、きっと200年構想の風の谷は、発展途上に違いありません。これから5.5年で手に入れられる、科学とデザインとデジタルの力で、どこまで移行できるのでしょうか?まさに挑戦だと思います。そして、そんな「風の谷」は、2030年時点では、どのような「体験」になるのでしょうか?
「疎空間」の場合は、一人当たりの不確実な自然との接点が大きくなることと思います。今は災害があれば、政府がすぐ復旧しています。しかし、気候変動も激しくなる中で、疎空間は、自力でマーケティングしつつ、災害リスクに向き合うことになります。昨日の「2030年 流域管理 72時間」に続いて、2030年、風の谷に向けて挑戦している、ある「風の谷」を72時間のSFドキュメンタリー風に、シミュレーションしました。
(ご参考) このシリーズのシミュレーション方法は、複数の版画を1つの絵に統合する「木版画」みたいな形で作成しています。
具体的には、以下に個別に1~3をChatGPTで生成
1.2030年の「風の谷」の世界線の設定(AI)
2.ドキュメンタリー「72時間」のタイムライン(できごと)の設定(AI)
3.プレイヤーの役割と設定(大人、子供、他)(AI)
そのあと、
4.プレイヤーごとに72時間のタイムラインに行動や対話を落とし込む(AI)
5.上記を元に、「72時間」の順番にできごとを再編集する(人)
そして、
6.シーンごとの挿絵を描いてもらう(AI)
です。
以下、小説的に読むには、文体のChatGPT臭が強いのですが、もう少し出力の文体を工夫すると、小説としても楽しめる「未来体験ジェネレータ」になりそうです。
プロローグ
ここは風の谷。山の縁を風がなでる。
この土地は、銘茶の産地で、山あいのおいしい水で育った、茶葉は、世界でプレミアムで販売されており、この地の産業の基幹となっている。人々は茶の木と向き合いつつ、農業やネイチャーポジティブツーリズムで経済が成り立っている。この美しい棚田の風景は、多くのファンを魅了して、応援の資金もこの地域の活動の原資になっている。
町の心臓は旧第二中。屋根の太陽光と蓄電池と立ち並ぶガレージラボ。
停電でも灯りは落ちない。避難も炊事もにぎわいもここが核。
移動は三層でつながれている。街とは自動幹線バス、近所は自動予約車、そして、電動アシスト自転車と徒歩。水と電気は一枚の地図に載る範囲だけ提供されている。DAOが手順を固定して、意思決定は記録で残す。
数字が町の調子を示している。
例えば、「到達時間13分。空き家再生214件。一時貯留は昨年比プラス12。自立拠点は四つ。」派手さはない。人は働き、暮らし、リアルとデジタルでつながりあっている。準備された手順と、ゆれる合意形成、意見が重なる。カメラは三日間、この町の速度を追った。
一日目の朝
庁舎の屋上。朝6時。蓄電池のインジケーターが点る。
地域リーダーの海斗が画面に視線を落とす。
ここから72時間が始まる。
初日。庁舎の屋上で蓄電池を点検する海斗。画面に並ぶ数字。到達時間13分。
今朝も蓄電池のインジケーターを確認してから、一階へ降りた。タブレットのダッシュボードに4つの数字が並ぶ。
到達時間13分(医療・買物の中央値)、空き家再生活用214件、停電時自立72h達成4拠点、一時貯留量+12%。3年前に掲げたKPIだ。グラフは鈍く、だが確かに右肩に動いている。
7:02 通学路「13分」
矢印の標識。反射塗料が朝日を拾う。
子どもたちの三人組が歩く。
「今日は十二分いける」
「普通に歩くのが基準」
歩数計が鳴る。QRを読み取り、通過時刻が地図に点る。
7時半、大人たちが旧第二中学校の体育館へ向かう。いまは「インクルーシブスクエア」と呼ぶ複合拠点だ。保健師の相談室、地域食堂、メイカーズスペース、子どもの学習室。冬は木質ボイラーで温まる。トレーニングジムもあり、貸出器具もそろっているシェアリングセンターだ。
また、ここがマイクログリッドの要。屋根のPVと蓄電池、非常用配電、EVの双方向給電がつながっている。停電訓練では、炊き出しと在宅酸素の家庭へ電源を優先ルーティングした。課題は運用人員の平準化。昼は人が足りて夜は薄い。そこで今年から、給食センターや観光案内で働くマルチワーカーが夜間の監視を兼務する。翔太は、そんなマルチワーカーの一人だ。
8:05 旧二中・インクルーシブスクエア
旧二中のインクルーシブスクエアは、いわば、この風の谷の人たちの「城」である。何かがあったら、安心がここにある。
体育館脇のモニター。蓄電池のバーが長い。
一年生が指で数える。
「緑が三つ分、昨日より多い」
保健師の紗英がうなずく。「今日は晴れ、ただ、夜は下り坂。」
9:40 雨庭
腰までの長靴。泥の匂い。
インクルーシブスクエアの隣に陣取る高校の女子美術部員、灯里が透明スケールを差し込む。
「貯留深さ3.2センチ」
隣で別の高校生の男子部員の蒼が落ち葉をすくう。
「ここ、網の目が詰まると水が乗り越える」
ランドスケープアーキテクトになった美術部の先輩が作った雨庭は、代々生徒の管轄だ。先生は口を挟まない。メモだけ取る。
10:25 メイカーズ
机の上に小さな基板。
子どもがにぎる半田ごての先が光る。
「雨庭の水位、低いと青、高いと黄」
試作品が点灯する。
子どもが配線をタイラップで縛る。テープは使わない。
午前、大人たちは、空き家の現地確認。谷の南側、恒常風の通り道に古い農家がある。ここは二階を創業住居、土間を集配のクロスポイントにする計画だ。宅配便、農産の共同配送、処方箋の届けまでを一体にする。家の前で近所の人が言う。「観光よりも、暮らしのドローン物流が先だな」。同意する。観光はもうすでに多くのファンが根付いている。ただ、季節変動と人気の浮き沈みが大きいので、ボーナスのような位置づけだ。生活経済の延長で良い。季節で過不足が出るなら、まずは暮らしを基準に回す。暮らしやすければ、ファンは居ついてくれる。
12:10 地域食堂
食堂の皿が並ぶ。
地域食堂は、家庭の生産性を高めるために納税者に無料で提供されている風の谷でインフラだ。観光客も千円を払えば、OKだ。何しろ、水とお茶とシグニチャー料理は、この地域の味自慢だ。フリーキッチンは、自然に振り回されがちな当地として、各世帯の「時間のゆとり」を創るエンジンでもある。何より美味しい食事をワイワイシェアすることは、人生の肯定感と幸せに直結する。持ち込みもできるよう、新旧様々な自動調理家電や食洗器がずらりと並んでいる。医食同源。健康栄養士がメニューをお皿にアドバイスをいれる。
配膳係の老人が余りを量る。手際が良い。
調理担当の恵が読み上げる「残りは540グラム」。
二人が自転車で一人暮らしの家へ弁当を届ける。
「予約車、呼ぶ?」
「歩ける。十三分!」
「暑いから無理しないでー。」恵の声が追う。

12:30 大人たちが流域の現場会議。田んぼダムとビオトープ、雨庭、透水舗装、ため池の土砂さらい。洪水対策は「線」から「面」に変わった。地権者の合意形成はいつも時間がかかる。合意に疲れが見える前に、一つでも小さく施工して見せる。水が引く速さは、会議室の図面より雄弁だ。去年の豪雨では、内水の苦情件数が目に見えて減った。完全ではない。だが「うちの前だけ早くなった」と言われると、次の合意が進む。
14:20 バス停のベンチ
子どもが時刻表の横の地図を指す。
幹線バスが行き過ぎる。
予約車の到着まで七分。
様々な拠点がおおむね徒歩10分強の場所に配置されている。
「ここから診療所、十三分」。
隣の高齢者が笑う。「急ぐと十二分だ」。
高齢者だけど、体格が良い。毎週パーソナルトレーニングを受けている。
14:30 大人たちは、交通のレビュー。幹線バス、予約型の小型車、電動自転車と徒歩の三層で移動の面を作った。平常時は、十三分以上待たせない仕組みを作った。最初は予約アプリが高齢者に難しかった。電話窓口を常設し、運行と予約を同じチームが握る形に改めた。スクールバスと福祉の送迎はダイヤを一本化した。乗客の顔ぶれが混ざり、乗り継ぎの会話が増えた。数字よりも、その空気の変化が効く。移動は心理のインフラだ。
15:55 校庭の片隅
高校生の蒼が倒木の切り株。年輪を数える。
「三十七」
木のかけらは温室の鉢の名札になる。
太いペンで書く。「苗・二」
16:00 大人たちが、森林の斜面へ。間伐と簡易な土留め。間伐した木は等高線に沿ってならべて水たまりができやすくする。林道の補修は最小限。切った材は公共施設の修繕と薪に回す。林業の収益だけで考えると続かないが、土砂災害のリスク、冬の熱、学校の木育、J-クレジットの収入まで合わせると、ようやく土台に乗る。ここでもロボットがいるが、それでも人手が足りない。特定地域づくりのAI事業協同組合が、季節ごとの仕事を束ねて雇用をつくる。造林、道路補修、学校の用務、交通の運転。単発の仕事を並べるのではなく、年間三百日を一本の雇用で受け止める。ローテーションは体幹作りや筋力トレーニングメニューにもなっている。体を痛めることなく、科学的根拠を持って理想的なアウターとインナーを手に入れるメニューに工夫されている。それで、バイトを兼ねたボディビルディングに訪れる人もいる。基本現場は陽気だ。ロボットが人に伴走して、音楽DJをしながら、作業を支援する。ワークアウト感がある。マルチワーカーの翔太はそれが気にいっている。
16:40 通学路の新しい案内板
ペンキが乾く。
「矢印は太いほうが迷わない」
高校生の美術部員の灯里と蒼、新しく作ったポップカラーの案内板を二人が真っ直ぐに立てる。
風の谷には、留学しに来る子供たちもいる。
自然の中で暮らせば自然を学べるというわけではない、自然を学べる仕組みを取り入れた「風の谷」のうわさを聞きつけて、子供たちが通いたいと思うようである。蒼は、親が「風の谷」に感化され、ここに住みたい派となり、どちらかというと連れてこられた感じだ。「風の谷」中が、日々学園祭をやっている感じで、何かと声がかかり、高校生活にマイペースが全く失われた感がある。ともかく、体を動かす。勉強は、体を動かしつつ、AI相手に解説して学んだり、受験科目は夜に没頭する。
最初の通学班が手を振る。
「走らないで歩いて十三分」
17:30 学習室
学習室の一部は、DAOの運営センタ。壁のモニターにDAOのダイジェスト。
「提案#312 通学路代替」
子どもから投書箱に当初が入っていた。自治会の美智子が取り上げる。
「バス亭用のベンチもう一個」
風の谷の意思決定は、デジタル化、オンライン化しており、重要な意思決定は、民間出資DAOでの予算が中心になっている。これは公共機関が民主主義と公平性の観点でマネジメントを行うのに対して、DAOは密度と生産性の観点でマネジメントを行い、思想が異なるからだ。都市は人類に必要なものを密度高く集めた超効率超生産的超安全な空間だ。暮らしやすい。世界は都市を中心に回っているし進んでいる。一方、疎空間はその真逆である。そこで、風の谷では準効率準生産的準安全は最低キープをした上で、都市で映えられない、空間のぜいたくと、自然との共生のチャレンジに置き換えて、現代文明に体験価値を提供していると自らを位置付けている。都市空間のバックアップ空間であると考えている都市住民がDAOに参加し、出資して、まちづくりにかかわり、そして、時々訪れている。
18:15 温室
水やりの霧。
高校生の蒼が札を差し替える。「今日の気温、38度」。赤い地に白色文字。
「あ、そこはデジタルじゃないんだ。」取材スタッフが話す。
男子生徒は、「アートでしょ。」と笑い、温室のブレーカーを確認して扉を閉める。
夜、海斗が、DAOのオンライン評議。DAOのメンバーは全国に広がっている。今日の議題は三つ。空き家の優先順位の入れ替え、次の分散治水の設計、拠点の夜間開放。提案は地図上の地物IDにひもづき、費用、KPI、担当、撤退基準までがテンプレに入る。賛成か反対かだけでは合意は細くなる。反対の理由を必ず記録し、次回の設計に差し戻す。意思形成の過程を可視化すると、説明の回数が減る。庁内決裁とDAOの記録を一致させるのに一年かかったが、今はもう迷いがない。
自治会の美智子はしばしば問われる。「移住は増えましたか」。率直に言えば、劇的ではない。二拠点の人が増え、季節で出入りがある。空き家の賃貸は埋まりやすくなったが、恒常的な人口純増とは違う。ただ、若い人が戻りやすい条件は整ってきた。仕事、住まい、移動、この三つの同時最適化。どれか一つでも欠けると成立しない。逆に三つがそろうと、数字は静かに効いてくる。空き家は、動物の住処になるので、なるだけ人の気配を出したい。そこで、モジュール式の空き家の改装を進めている。暮らしのコア部分は、改修時に共通化するのだ。これにより、民泊やシェアリング物件としての出資を受け入れやすくなっている。
もう一つの問い。「税基盤は持ちますか」。当地のお茶を直接先物契約してくれる大手飲料メーカーやCSAのおかげで、収入は一定量が確保できている。住民の1/3は、食品メーカーの勤務者でもある。施設の統合と更新計画を、エネルギー、交通、福祉と同時に設計し直した。建て替えを減らし、使い回しを増やす。学校は学ぶ場所であり、働く場所であり、診る場所でもある。施設は減らして機能は減らさない。圧倒的な密な場を1か所、創る。これが疎空間の基本設計だ。派手さはないが、毎年の維持費が目に見えて下がる。また、この風景が美しい場所を目当てに観光客が訪れる。
もちろん、課題は尽きない。所有者不明地はまだ残る。合意形成に時間がかかる地区もある。公共屋根のPPAはうまく回り始めたが、民生の省エネ改修は資金と手間が壁だ。交通の赤字は埋まらない。ただ、五年前と違うのは、各課題がばらばらに見えないことだ。土地、水、電気、人の移動が一枚の地図でつながり、同じKPIで測られる。だから手当ての優先順位が迷子にならない。ただし、「風の谷」なるものを目指すボランタリーな実践ネットワークが出来上がりノウハウやAIサービスを共有しているので、知的な孤立感はない。政府の財務破綻が本格化してまもなく、この動きは各地で真剣味を増した。風の谷のコミュニティに限って言えば、財政破綻した後の方が、新しい活動に対数反対意見が鳴りやみ、どうにしかしなくてはという挑戦心がある人が増えて集まっているのかもしれない。200年の未来を創る、こうした「風の谷」の目指す姿が求心力になっている。自然は自ら共生してくれない。自然との共生をデザインし実行するのはあくまでも人側だ。だから、まだまだ、やることだらけだ。
夜の拠点に、地域食堂の湯気が立つ。子どもが宿題をし、在宅勤務の人がモニターを閉じる。EVがゆっくりと放電を始め、蓄電池のインジケーターが一メモリ減る。自治会の美智子は、明日の議題をメモに書く。
— 空き家の創業住居をもう二件増やす。
— 田んぼダムの下流で雨庭を一つつなぐ。
— 予約型交通の電話受付を一時間延長する。
19:10 避難訓練の確認
夜になり、急に天気が崩れるとの予報。
念のため、避難訓練の確認。
ポータブル電源の差し込みを示す。
「ここに差す。赤が点いたら電気」
祖父母役の人がうなずく。
子どもが復唱する。「順番を守る」
風が谷を抜ける音がする。
20:02 帰り道
矢印が薄明に浮く。
足音が途切れ、虫の音が強くなる。
通学路の終点でカメラを止める。
十三分の距離が、町の尺度になる。
子どもたちはそれを身に着けて帰る。
20時42分、継電器が落ちる音。画面が一瞬暗くなる。
この地域は、落雷やメンテナンスが行き届かない設備から時々停電がおきる。再生可能エネルギーは、基本、お天気任せなので、不安定だ。このエリアは再生可能エネルギー依存度が高いため、時々設備が追い付かない。気候変動すると、かえって不安定になる電源じゃないか、と時々思う。配電線の保護継電器が動いた。系統停電。自動切替で学校拠点と庁舎、診療所、共同配送拠点が島運転に入る。
蓄電池残量は78%。EV三台からの放電を投入。酸素濃縮器と医薬冷蔵を優先。地域食堂は電気釜を止めてガスに切替。ダッシュボードが静かに緑へ戻る。
保健師の紗英がすぐ立ち上がる。「酸素の家、先に回る」
オペレーターの真帆が回線を延長。「電話は開けます。二十二時半まで」
外部からの応援や確認電話が入る可能性があるからだ。AIは、こういうアドリブ対応はまだ苦手で任せてはおけない。
21:05 体育館・臨時避難
受付の机にライト。
自治会の美智子が名簿をめくる。
「ストーブはガス。コンセントはこっち」
幼児を抱えた母親がうなずく。
ミルクは湯煎。冷蔵は拠点の保冷庫へ。マイナス28度まで下がる業務用の冷凍庫は、様々な食材を真空パックに入れてさまざまな食事を事前に冷凍してあるので、こういう時に安心だ。
リゾートに宿泊していた客も、体育館に臨時避難を始めた。地域の大社の例大祭が来週にあるので、観光客が集まりだしていたところだった。
体育館では、スマートフォンに充電ができ、停電時も衛星経由で通信がつながるからだ。ここにはフリーなインターネットがあることは皆知っている。
22:20 雨脚が増す
高校生の灯里が、ひとり、レインコートで高校の雨庭へ向かって、走っている。
センサーのランプは黄色。
雨庭は、からくりで、少しの雨だととてもいい響きを奏でる実用アートだ。
でも、大雨の時は恐ろしい音をたてる。落ち葉を掬って流路を開ける。
「ここが詰まると、水が越える」
カメラに言う。息は上がっている。
田んぼダムの遠隔水位計が警告を出す。下流の雨庭と透水舗装は設計どおりに流量を食い始める。SNSの通報は十数件。道路冠水の写真に位置情報が付く。建設班が土嚢の優先順位を即時確定。翌朝の補修班の動線まで決める。
22:30 在宅巡回
保健師の紗英が玄関で声をかける。
「こんばんはー。起きていらっしゃいますか?電源、ここに差します。赤が点いたらOKです。」
「ご苦労様です。」
高齢女性の手が伸びる。紗英がそっと押さえる。
書類は簡潔。サインは太いペンで。普段はドローンや自動運転車が、巡回するのだが、今日は、出払ってしまった。オンライン越しではないのは、久しぶりだ。外に出ると雨脚が少し弱くなっている。
23時台、避難所の入所が伸びる。雨が豪雨に変わり、危険を感じた人たちが自動バスに乗ってやってくる。自治会の美智子がは、体育館の一角で在宅医療の電源ニーズを再確認。ポータブル蓄電池を一台、退院したばかりの高齢者宅へ持ち込む。マルチワーカーの翔太が夜勤に入り、交通の電話受付を30分延長。電話は7本。アプリ予約は26件。混乱はしない。電力会社がやってきて復旧状況対策を説明を受ける。
23:40 体育館の隅
母親が眠る幼児を毛布で包む。傍らでうつらうつらしている祖母が見守る。
自治会の美智子が小声で呟く。「うちの子供も前はこんなだった」。
「風の谷」では、人づくりをとても大切にする文化がクレドのレベルまで高められているので、子育てがとてもしやすい。子供から見ても、大人が何をしているのかが、見てわかるので、育ちやすいし、顔見知りもすぐ増える。

体育館は、今日のような猛暑の中でも、空調が効いているので、居心地が猛烈に良い。雨の中でもやってくる価値がある。そして、隣が地域拠点のインクルーシブスクエア、そして地域食堂なので、最新情報も、明日の朝ごはんも安心だ。避難用にそれぞれ、自分の好みの硬さのマイマットがある。体育館でピラティスやトレーニングする際に使っているマットだ。カウンセラーもいる。
もともと、体育館は地域のエンタメセンターでもある。夜遅い分だけ、眠う人、会話する人、さまざまで、その意向にそれとなく、合わせてゾーニングされている。甲斐甲斐しく、ロボットが人の間を動き回って用事を足している。
発電機は使わない。
拠点の蓄電が静かに回る。
ライトの影が床で揺れる。
気持ちが興奮してしまった観光客は、離れたトレーニングジムで、汗を流しながら気持ちを落ち着けているようだ。マルチワーカーの翔太も、そちらに向かい、トレーニング機器の調整を始めた。
3:14 雨が弱まる
ダッシュボードの波形が下がる。
苦情は六件で止まる。主に、観光客や、外部の物件オーナーだ。申し訳ない。
まだ起きていた、法務の綾が机に肘をついて条文を読み直す。
「判断権限を明確に。代替案の期限を入れる」
赤ペンが一行を消し、短くなる。
24時からの累計降雨は146mm。浸水の苦情は6件で頭打ち。去年は同規模で18件だった。ため池の越流はゼロ。谷の北側の側溝に土砂詰まりが一箇所。現場写真が上がる。ロボットが作業に向かう。
二日目の朝
二日目朝6時。停電中。自動で島運転。自立9時間51分。酸素と医薬冷蔵を優先。雨は146ミリ。田んぼダムと雨庭が流量を受け持つ。苦情は6件で止まる。夜勤の電話窓口を延長。マルチワーカーが配車を回す。保健師が血圧を測る。風の谷は、AIにより知識や情報は都会とは変わらない。もっとも違うのは、自然に向き合う体験だ。
6:05 地域食堂
女たちの前に段取り表に赤鉛筆。炊飯器は三台。
「停電でもガスでいける」
調理担当の恵が、非常時メニューを淡々と確認する。
味噌汁の具は刻んだ菜っ葉。余りは正午に再配分。
6時33分、系統復電。島運転の自立時間は9時間51分。蓄電池の残量は41%。給水は平常。マルチワーカーの翔太は連絡を入れて、ごみ収集を一時間遅らせてもらう。その旨、全世帯にメール連絡する。朝の見回りで倒木3本。通学路は確保できる。
システム担当の真帆が回線を通常に戻す。
「おはようございます。予約はこのまま」
保健師の紗英は最後の巡回先でドアを閉める。
「大丈夫。また昼に来ます」
7:30 保健師ステーション
保冷庫の温度は2.9℃。
保健師の紗英が在宅酸素のリストを読み上げる。
「夜は巡回を一人増やす。私は遅番」
机の端にポータブル蓄電池。出庫票にサイン。
8時、海斗は、庁内報告。数字だけを流す。
停電:9時間51分自立。優先負荷を全維持。
水:一時貯留率+11%。苦情6件。昨年比▲12件。
交通:予約32件。到達時間中央値18分。
被害:人的ゼロ。物的軽微。土砂1箇所。
意思決定は二つ。雨庭を下流側にもう一つ追加。庁舎の蓄電池を200→320kWhへ増設。予算はPPA更新ではなく包括委託に振る。寿命管理と停電訓練をパッケージ化する。
8:00 朝
地域食堂の鍋から湯気。
体育館で夜を明かした人、通学通勤の普通の朝の人々、いろいろな人たちでごった返す。いつもの朝だ。
調理担当の恵が、撮影スタッフに味噌汁をよそう。
「昨夜は、びっくりしたねぇ。これをどうぞ。今日の力になる」
昨晩は、体育館で泊まった観光客たちも一緒に配膳を手伝う。
反射塗料の矢印が朝日を拾う。地域食堂まで歩いて十三分。

人々は、数字を読み、線を引き、鍋を温め、電話を取り、雨をいなし、眠る子を抱く。派手さはない。だが町は持ちこたえた。
8:40 旧二中・管制室
モニターの日射が上がる。
電力の余剰が蓄電へ回る。
法務の綾が短い文案を書いている。
「緊急時の判断権限。条文を短く」
声は小さい。画面の数字だけがはっきりしている。
10時、海斗は、地銀のLIPと稟議打合せ。SLLのSPTは「到達時間中央値15分」「停電時72h自立拠点6」。昨夜の実績を前倒し達成扱いにしない。継続性を重視。マージンのステップアップ条件を据え置く。J-クレジットは森林の第2登録を夏にずらす。単価の変動が大きい。前受けの比率を落とし、リスクを地場企業と分割する。
10:15 雨庭
長靴の列。
高校生の灯里が透明スケールを差し、数値を読み上げる。
「越水、2.7センチ」
雨庭は、上流の豪雨で、すっかりあふれてしまった。
葉の詰まりを竹箒で払う手つきは、もう慣れている。
先生は頷くだけ。浸水記録は生徒が残す。
正午、DAOのオーナーたちが、空き家の合意形成。優先順位を入れ替える。道路条件の悪い山側一件を棚上げし、学校から徒歩8分の一件を繰り上げる。創業住居+デリバリーハブの組み合わせは回収が見える。相続登記の遅延が残るが、用途変更の設計を先に進める。撤退基準も書き添える。6カ月で入居ゼロなら用途を切替。住宅→簡易宿所へ。地域リーダーの海斗は、タブレットを充電台に戻す。
12:20 地域食堂/配食班
大鍋の残りを量る。
「540グラム。二軒分」
保健師の紗英が自転車のかごに弁当を固定する。
「歩ける距離は歩く、十三分の範囲」
高齢女性の家で血圧を測り、食事の塩分表をテーブルに置く。
雨がやんで日が差してきた。
14:05 予約センター
受話器が鳴る。自治会長の美智子が振り向きざまに受話器を取る。習慣でつい、鳴った電話はとってしまう。
もう3年前には、こうしたことはAIエージェントでできるようになっているので、若者は、ボイスチャットでモビリティを手配する。予約センターの電話を鳴っても、すぐAIが多言語で対応するので、本当は取らなくても良い。
今回は、新規でこの地域に引っ越したばかりの50代の夫婦が初めて予約のため電話をしたようだ。つい取ってしまった電話を、自治会へのご案内とともに、予約ボタンを押すと、AIオペレーターが地図を見ながら配車する。
「病院まで十三分。乗継一回」
美智子が受話器を置くと、次の窓口へAIが回線を取る。

午後、地域リーダーの海斗は、移動しながら、都市・交通の素案修正。幹線バスの一本を廃止。代替の予約型と自転車ポートを増やす。反対意見は強い。DAOに上程。投票は分かれる。最終的に賛成が過半。反対理由はログに残す。乗継点の屋根とベンチを先に整備する条件を付す。ドローン宅配のルートの増加。これによりネットショップの翌日配送が実現できそうだ。
15時、海斗は、森林の現場に到着。この5年で、県と連携して、鹿を駆除して、下草を増やし、森林は、だんだん緑と保水力を取り戻しつつある。土壌がふかふかになった。間伐材の一部を地域の修繕用に確保する。売却比率を下げる判断。斜面の保全優先。土砂災害危険箇所の逓減をKPIに入れてから、迷いが減った。事業協同組合の稼働は本日29名。年間平均稼働日数は292日まで伸びた。賞与の原資は三つ。自治体委託、施設の省エネ差益、J-クレジットの売却益。配分ルールは事前にDAOで可決済み。
16:30 温室
避難から戻ろうとしている、老夫婦のフルーツの苗を温室に二本持ってきた。
このエリアは、フルーツの名産地でもある。
高校生の蒼が札を替えにきていた。「今日 29℃」。青色に白文字。目立つきれいな色だ。今日は昨日と比べて、ぐっと涼しくなった。でもまだ暑い。
法務の綾は、霧吹きで水を打つ。
「条文は明日、委員会にかける」
作業をしながら、独り言のように言い、温室のブレーカーを確かめる。
夕方、地域リーダーの海斗は、自然共生サイトのモニタリング。ここでの生物多様性クレジットは高く売れるのだ。指標種の観察が3件。学校の授業と連動。観光向けの整備は最小限。駐車場を広げない。歩く距離をあえて残す。生活と保全を優先。観光需要は週末に吸収。平日の維持費を膨らませない。
18:10 学習室
DAOのダイジェストが壁に映る。
「提案#311 非常時の配電優先」
インターン大学生の玲奈が「投書箱」に紙を落とす。
「家畜オーナーについての、DAO化の拡大と、獣医ロボットの導入」
風の谷に住む動機の多くは、動物や自然と一緒にのびのび暮らすことにある。しかし、動物も病気やけがをする。そのとき、獣医の不足は深刻だ。
玲奈は、ホストファミリーが自宅で飼っている、牛やヤギや鶏について思いを巡らす。
夜、地域リーダーの海斗は、月次レビュー。グラフが四枚。
空き家活用 214→219。
到達時間 14→13分。
自立拠点 4→4。今月は据え置き。
流域KPI 一時貯留率+11%。
未達は自立拠点の増設。増設先の設計で遅延。設計委託の枠を広げる。地元EPCの育成に固執し過ぎた。次月は外部とJVで埋める。
会議では、自治会長として美智子が、最後に撤退の話をする。山間の二地区は、道路維持費が税収を超える。蝶獣害の閾値も超えがち。合意は重いが、撤退と集約を提案する。住まいは学校拠点近傍へ。時間生産性が物差しだ。数字と現場の手触りで説明する。国の補助金がなくなってから、自立の重さが変わってきた。疎空間では、空間的な密度は実現不可能であうので、時間的な生産性や密度で補い測ることになる。このため、時間密度が悪化する打ち手はむつかしくなる。一定の都市相当のパフォーマンスが何らかの形で持っていないと相対的に衰退するからだ。労働と筋トレ、アルバイトと語学学習、大人と一緒に施設運営しビジネストレーニングなど、1つの行動の中での重ね技で勝負だ。
会議を閉じる。海斗はメモに次の三つを書き足す。
— 庁舎蓄電池の増設と訓練計画の改訂。
— 雨庭の下流側追加と地元施工班の割当。
— 予約型交通の電話受付AIを常時二回線化(フェイルセーフ)。
2030年の風の谷は、派手ではない。移動は混ぜて運ぶ。家は用途で回す。森は守りながら使う。意思決定は地図と数で残す。課題は残り続けるが、順番は見失わない。私は明日も同じ順番で動かす。
三日目 朝
風の谷の住民は、AIコンパニオンがついている。多くのプライベート情報をAIが管理して適宜、AIコンパニオン同士で共有されている。情報の共有が、安心と安全とすばらしい体験を約束するからだ。人数が少ないため、サービスが成立する密度を実現するためには、ある程度AIコンパニオンが同期化を試みないとならないからで、風の谷の人々もそれは心得ている。人間同士だと生まれがちな微妙ないさかいはAIが仲介あるいは回避して、ほとんど事なきに至っている。この結果、驚くほど世代を超えて仲が良く、子育て環境も充実している。
5:42 地すべり警戒アラート。北斜面の地表伸縮計が閾値超え。学校の通学路直下。地域リーダーの海斗は通学便の即時停止と体育館の臨時登校を指示。予約交通に代替ダイヤを発動。到達時間の目標は20分以内。
法務の綾が短く送る。「通学は体育館」
海斗が返す。「承知」
視線は画面。言葉は少ない。呼び方は名前。
6:10 統合地図に赤帯が走る。昨夜の降雨で浸透が深い。土質は砂質シルト。護岸の継手に剪断が入っている。建設班は自動バックホウ2台、土のう800袋、自動排水ポンプ4基、人型ロボット2台を手配。地権者連絡は不通。AI法務が災害応急の代執行条項を確認。DAOへ緊急上程の草案を作る。
7:03 学校開扉。拠点電源は平常。地域食堂が朝食を出す。マルチワーカー5名が屋外誘導と受付。到達時間の実測は中央値17分。KPIはクリア。
インターン大学生の玲奈は、食堂で配膳。
保健師の紗英が名札を確認。
マルチワーカーの翔太がコーンを並べる。
「夜も回る?」
「行く。血圧計は私」
段取りが会話になる。距離が半歩縮む。
8:19 崩落。幅12m、奥行き6m、推定600m³。県道の片側が消える。通学便は既に停止済み。巻き込まれゼロ。用水の小流末が堰き止められ、天然堤体の形成が始まる。私は計画的越流(開口)に切替。下流の雨庭・透水舗装・遊水地の容量合計は4,200m³。計算上、越流幅1.8mで安全に抜ける。
現場に緊張。マルチワーカーの翔太が手袋を一枚渡す。
「足元、滑るから。」
保健師の紗英が頷く。言葉は続かない。
背中だけが同じ方向を見る。翔太は夜勤だったが、これを片付けてからではないと帰る気持ちになれない。
8:32 DAO緊急投票開始。提案#312「開口施工と72時間の一時避難」。投票72分。記録には費用、KPI(内水苦情件数ゼロ、通学路再開24h以内)、撤退基準を添付。並行して地銀LIPにブリッジ資金の打診。目的は仮設道路と仮住まい費用の前払い。
法務の綾が提案文の最終行を削る。
リーダーの海斗が地図を差し出す。
紙コップの水が触れ合う。視線は交わらない。手順は同期する。
9:11 投票可決。可決率87%。海斗は重機進入を許可。バックホウが堆積土を2バケット抜く。水が走る。濁流は雨庭に分散。下流センサーの水位は設計内。SNSの通報は3件で頭打ち。苦情ゼロ。
10:20 人のドラマが来る。山側の老夫婦が避難を拒む。「棚田を見てから」と言う。リーダーの海斗は撤退基準を示す。側溝の越流水位があと5cmで閾値。基準を超えたら必ず出る。それだけを言う。保健師の紗英が血圧を測る。息子にオンライン電話がつながる。
10:37 避難
ドローンを飛ばして、見た様子を共有すると、老夫婦が納得したように、立つ。
「棚田は、後でいい。わかった。」
靴の泥が落ちる音。手は離れない。
老夫婦の体育館への歩幅が揃う。
11:05 片側交互通行
仮設の道路の片側交互通行が開く。救急が通る。徒歩や自転車の通学路の代替経路は、落石が少ないう回路を作るようだ。
高校生の灯里と蒼が仮設の標識にテープを巻いて、割れかかっている板を補強している。
非常時用のサインなどは、高校の倉庫に格納しているから、美術部に所属する二人に、地域リーダーの海斗からお願いを入れたのだ。美術部は、標識のデザインにこだわり、いろいろと中古の標識を集めては着色している。
蒼は、補強テープの色を気にしているが、灯里は、現場にぴったりな標識が倉庫にあったことに喜んでいる。
「地元の人たちだもの。これで、わかるよ。」
昼休みは短い。学校の授業はメイカーズスペースで始まる。急いで戻る。

メイカーズスペースでは、土砂模型に水を流していた。今日の出来事を自分の目で理解する授業。教師が「ここが越流」と示す。わかりやすい。こういうとき3Dプリンタは神だ。蒼が片側通行と通学路の代替経路を説明した。
12:30 地銀の稟議OK。90日ブリッジ2,000万円。用途は仮設道路、避難先の賃貸、施工班の前払い。SLLのSPTは「通学路24h復旧」「苦情ゼロ」。達成できない場合はマージンが0.15%上がる。数字で緊張感を保つ。
電話を切る綾。机に置かれたメモ。「夜、温室」
海斗は頷くだけ。会議の開始時刻を確認する。
14:10 報道が来る。「模範的対応」と言われる。地域リーダーの海斗は否定する。テンプレと訓練の反復だ。意思形成は地図と数で残す。これが説明の全て。
15:40 第二波の雨。越流は安定。上流の田んぼダムが一つ満水。遠隔で段階放流。下流にある高校の雨庭の貯留率は72%。せっかく、水位が下がった雨庭が放流でまた、あふれるかもしれない。工事用で排水用として使っていたポンプを高校に持ち込み、一台追加して余裕を作る。灯里が落ち葉を掬う。
蒼が傘を差し出す。
「あと少し。」
二人の靴が同じ泥を踏む。
「今日のわたしたち、美術部じゃなくて、土木部じゃない?」
水が雨庭の中に一気に吸い込まれて、雨庭の底から大きな音を響かせる。
16:55 通学路の代替経路が完成。導標とソーラー照明を設置。明朝から運行再開。
雨庭から戻った灯里が、高校から実際に歩いて到達時間を試してみる、という。蒼も、教室からカバンをとって、あわててついてゆく。到達7分。
蒼が息を整える。
「走らないで7分か。3分増えた。」
灯里が、そうつぶやくと、午前に設置した標識のテープの上から矢印の色を油性ペイントと太い絵筆で直しはじめる。
「遠回りが入ると、通学、歩いて、13分じゃなくなるね。」
風の谷では、13分以内の徒歩圏を大事にしてきた。「健康にいいから」と言われて、出歩く気持ちになれるぎりぎりの距離である。
「ありがとう。テープに隠れてたとこ、気になってた。」
灯里が笑った。「美術部だもん。」
17:20 空き家の優先順位を入れ替える。崩落帯に近い一件を棚上げ。学校徒歩圏の一件を創業住居+デリバリーハブに繰上げ。撤退基準は「6カ月入居ゼロ→用途変更」。決めてから動く。
18:30 月次ダッシュボード(臨時版)
停電自立:前日実績 9h51m。
一時貯留:+11% → 本日+14%(暫定)。
交通到達:17–19分。
苦情:0件。
被害:人的0、物的小。
— 次の一手:雨庭を下流に1基追加。仮設道路は30日以内に恒久仕様へ移行。
19:03 老夫婦が体育館に来る。苗を抱えている。夫が言う。「棚田は明日でいい」。自治会の美智子はうなずく。うなずく以上のことはしない。
「温室に置かせてください」
受付の灯りが小さく揺れる。夫婦はベンチに座る。マルチワーカーの翔太が出勤してきた。
20:15 DAOレビュー。反対票の理由に目を通す。「仮設の費用が重い」「外部業者に頼り過ぎ」。記録する。次の提案に条件として織り込む。地元業者のJV条件を明文化。コストは競争で落とす。
反対理由が読み上げられる。
法務の綾が根拠を一つ足す。
リーダーの海斗が短くまとめる。
拍手はない。空気が少し軽くなる。明日の朝、海斗はまた到達時間の数字から始める。
21:00 体育館の灯りが落ちる。蓄電池は満充電に戻った。自治会の美智子は、メモを書く。
— 恒久排水路の設計を48時間で。
— 老朽側溝のスクリーニングを全線。
— 通学路の「歩行で13分」ルートを標準に。
21:22 学校の温室
苗が二本。自治会の美智子は、仕事を終えて、帰宅する。霧吹きの音。
プライベートに戻った、綾が言う。
「条文は短く。合鍵は二本」
鍵が手から手へ移る。
海斗が答える。「撤退基準は当事者で決める?」
言葉はそこまで。温室のブレーカーを切る。
22:30 共同配送の帰り道
マルチワーカーの翔太と保健師の紗英が自転車を押す。
「夜の回線、今日も、二本かな。」
「了解。私も遅番」
「おっ。そうなんだ。」
坂の上に雨上がりの満月の星空が広がった。二人は深呼吸をする。

三日目は派手だった。けれど偶然はない。到達時間13分。空き家再生活用219件。自立拠点4。貯留率プラス14。派手さはない。だが順番は揺れない。基準を先に書き現場でチームワークで実行する。疎を守るとは、役割分担等より波状的な対応だ。疎だからこそ、個人の自由時間が明日も明後日も同じとは限らない。チームの自由時間を互いに守り、速やかに意思決定を行い、フォーメーションを切り替えることで、密度を高めている。仕事も暮らしも人生も。
2030年、風の谷、朝。
5:55 夜勤明けの二人が味噌汁を分け合っている。カメラが入ったこの3日間は、普段にはない災害が多い日だった。疎空間は、災害に弱い。都市で暮らすと決してない、緊張が走る。やらなければならないこと、気を配ること、考えなければならないことが多い。デジタルで世界から知恵が集まったとしても、体を動かすことができるのは、住民だ。なぜ、そんなに不利な疎空間に住みたいのか?と問われると、夜勤明けの一人翔太はこう言った。
「これから200年でつくりたい未来がある。」
二人は、配車の地図を同じ画面で見る。今日はロボット重機で道路を復旧する。保健師の紗英は、今夜の住民の無事に安堵する。緊急コールはなかった。
72時間が過ぎた。朝一番で、高校生の灯里は、ポップカラーな案内板に、絵筆で「十七分」と描く。歩いて確かめた時間だ。これは、もしかしたら今日にも「十三分」に戻るだろう。この谷では、人は十三分を歩く。暮らしと仕事と人の気持ちが同じ地図に載る場所だ。ともかくこの谷は、テクノロジーを駆使しつつ多様なチームワークで、時間を本当にうまく使う。未来のために。今日も風が谷を抜ける。カメラはここで置く。
考察
物語プロットを利用した2030年のシミュレーションを行ってみての振り返りですが、思ったよりも、「疎空間」での自律した経済と同時の、自然と共生は、ムーンショットなプロジェクトだなと思ったことです。
都市生活と比べて、ひとりひとりが地域の自然資本に向き合う時間が大量に必要になる一方で、その自然資本が機会だけにフォーカスできず、作中で出てきたようなリスク対応の場合にも(迅速に自分の都合とはかかわらず)対応しなくてはならなくなる、ことでしょうか。そして、その経験や体験は、その場に住み続けるならば有効な知識でも、地域から出た瞬間に、応用性が極端に下がってしまいます。
もしかしたら、すでに、地域で自然と共生する技が継承されている地域のローカルコミュニティに、都市のノマドたちが訪れて自然資本への投融資と財政的な自立をかなえる「風の谷」という交差空間のデザインを行い、地域のネイチャーポジティブ投資の第一弾とするところが、最初の第一歩なのかもしれません。投資する先は、自然だけではなく、自然とコミュニティの双方、これが(従来のネイチャーポジティブ投資と「風の谷」が)一番違うところだと思えます。そういえば、海外のネイチャーポジティブファンド投資は、「人」と「事業」のセットで行っていたことを思い出しました。
案外、世界ではそういう投資が当たり前なのかもしれません。
※ 本投稿は、「「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる」を種本にしており、この世界を体験する目的で企図をしていますが、AIの出力を加え、筆者における理解や推測における2030年の疎空間像で上書きしていますので、齟齬がいくつも発生していると思われます。その点は、筆者の能力の制約の為せる業です。あくまでも、思考実験品として、お楽しみ下さい。
