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7月4日は「梨の日」。語呂合わせの記念日、その裏に隠れた137年の物語

7月4日、カレンダーをめくると「梨の日」と書かれていることに気づいた方はいるでしょうか。

「な(7)し(4)」の語呂合わせ。日付だけ見れば、いかにもよくある語呂合わせ記念日です。ところが由来をたどっていくと、鳥取県の一つの町の願いから始まり、明治時代に千葉県の少年が拾った「一本の苗木」に行き着きます。

そして今、この日を迎える梨の木は、園地の中で夏本番に向けて実を大きく膨らませている最中でもあります。

7月4日という一日をきっかけに、梨という果物の歴史・品種・産地・選び方まで、一度立ち止まって整理してみたいと思います。




7月4日はなぜ「梨の日」なのか

まず由来から。

7月4日を「梨の日」と定めたのは、鳥取県東郷町(現・湯梨浜町)にある「東郷町二十世紀梨を大切にする町づくり委員会」で、制定年は2004年(平成16年)です。「な(7)し(4)」で梨、というシンプルな語呂合わせが日付の理由です。

現在も湯梨浜町ではこの日に合わせて、町のシンボルである二十世紀梨の古木「百年樹」の前で「豊作祈願祭」が行われています。JA鳥取中央東郷果実部と町の委員会が中心になって続けている、20年以上の歴史を持つ地域行事です。

梨の記念日というと消費者向けのPRデーのように聞こえますが、成り立ちを見ると「産地の人たちが、自分たちが大切にしている梨のためにつくった日」という色が濃い。そこがこの記念日のいいところだと感じます。

なお、湯梨浜町という自治体名自体、「湯(温泉)」「梨(二十世紀梨)」「浜(日本海と東郷湖)」の3つを組み合わせて2004年の合併時に誕生した名前で、町の顔として梨がしっかり刻まれています。


梨は弥生時代から食べられていた

7月4日の由来だけで終わらせず、少し歴史をさかのぼってみます。

日本で梨が食べられていた最も古い痕跡は、静岡市の登呂遺跡から出土した種子です。弥生時代、およそ2,000年前にはすでに梨が人々の食生活の中にあったことがわかっています。

もう少し時代が下がって文献に登場するのは『日本書紀』。693年、持統天皇の詔として「桑、苧、梨、栗、蕪菁(かぶ)を植えて五穀を助けよ」という趣旨の内容が記されており、国家的な奨励作物として梨の名前が出てきます。

つまり梨は、日本人が「主食を補うほど大切な食べ物」として、およそ1,300年前から意識的に育ててきた果樹だったということです。7月4日の語呂合わせ記念日の後ろには、これだけの歴史がある。

江戸時代には栽培技術がさらに発達し、1735年に幕府が行った特産品調査ではすでに150を超える品種が記録されています。松平定信が記した『狗日記』にも、現在の千葉県市川市から船橋市にかけての江戸近郊で梨栽培が盛んだった様子が書かれていて、今なお千葉が梨の一大産地であることの源流を感じます。


和梨・洋梨・中国梨、この3タイプの違い

「梨」とひとくくりに呼んでいますが、植物学的にはナシ属の中で大きく3つのグループに分かれます。

和梨(日本梨)

私たちが夏から秋にかけてよく口にする、丸い形の梨です。学名は Pyrus pyrifolia var. culta。日本の山野に自生する「ヤマナシ」を原種として、長い年月をかけて改良された栽培品種群にあたります。

シャリシャリした独特の食感が最大の特徴で、これは「石細胞」と呼ばれる、リグニンやペントサンを蓄積した硬い細胞によるもの。海外では「サンドペア(砂の梨)」と呼ばれることもあります。

洋梨(西洋梨)

ラ・フランス、バートレット、ル・レクチエなど。ひょうたん型で香りが強く、追熟してから食べます。石細胞が和梨より少ないため、食感は「ねっとり」「なめらか」。英語では「バターペア」と呼ばれるほど、舌触りが対照的です。

中国梨

見た目は洋梨に似ていて縦長ですが、食感と味は和梨に近い、和洋の中間のような果物です。日本のスーパーで見かけることは少ないですが、鴨梨(ヤーリー)や慈梨(ツーリー)などの品種があります。

日本語で単に「梨」と言えばほぼ間違いなく和梨を指す。7月4日「梨の日」の主役も、この和梨です。


二十世紀梨誕生秘話|千葉で生まれ、鳥取で花開いた

梨の日を制定した湯梨浜町といえば、真っ先に名前が挙がるのが「二十世紀梨」。

この品種が生まれた背景には、13歳の少年の観察眼と、地道な移植の物語があります。

1888年(明治21年)、千葉県東葛飾郡大橋村(現・松戸市)で、当時13歳だった松戸覚之助という少年が、親類宅のゴミ捨て場に生えていた小さな梨の若木を見つけました。覚之助はそれを持ち帰って自宅の畑に移植し、大切に育てます。

10年後の1898年、その木が実をつけました。それを見た園芸家の渡瀬寅次郎が、「これは間もなく訪れる新世紀(20世紀)の代表的品種になる」との願いを込めて「二十世紀」と命名した、というのが定説です。

その後、1904年に鳥取県で栽培の適地探しをしていた北脇永治が二十世紀の苗を鳥取に持ち帰り、この地で花開くことになります。鳥取の水はけの良い砂丘性の土壌と冷涼な気候が二十世紀に合っていたのでしょう。今では鳥取県産の梨のおよそ8割を二十世紀が占め、その花は県花にも指定されています。倉吉市には専門博物館「鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館」もあります。

一方、生まれ故郷の千葉県では、その後に登場した幸水・豊水の食味人気に押され、二十世紀の栽培はほぼ姿を消しました。松戸市が発祥地であることを示す碑「二十世紀梨誕生の地」が今も松戸市二十世紀が丘に残されています。原木は1935年に国の天然記念物に指定されたものの1947年に枯死しており、その一部が松戸市立博物館に展示されています。

千葉で生まれ、鳥取で愛され、生まれ故郷ではむしろ姿を消してしまった品種。7月4日は、そんな一つの梨をめぐる137年の物語を思い出す日でもあると思うのです。


主な品種と食べ頃カレンダー

現在、日本で栽培されている梨は品種数だけでも80を超えます。ここでは市場でよく見かける主要品種を、収穫時期の早い順に整理しておきます。

幸水(こうすい)|8月中〜下旬

農林水産省の特産果樹生産動態等調査によれば、和梨の生産量の約39%を占める最多品種です。1959年に農研機構(旧園芸試験場)が命名・発表。250〜300g程度の中玉で、酸味が少なく糖度が高いのが特徴。果肉は柔らかく果汁が豊富。日持ちは短めなので、店頭で見かけたら早めに食べたい品種です。

豊水(ほうすい)|9月上〜中旬

生産量2位で、和梨全体の約26%。1972年に命名。300〜400gと幸水よりやや大きめで、甘みと酸味のバランスが濃厚。日持ちも幸水より少し長めです。幸水・豊水の2品種で、和梨生産の実に約65%を占めています。

二十世紀(にじっせいき)|8月下旬〜9月下旬

青梨系の代表格。300g前後の中玉で、皮は黄緑色。甘みと酸味のバランスが良く、果汁も多いすっきりとした味わい。上でも触れた通り、鳥取県産梨の約8割を占めます。

新甘泉(しんかんせん)|8月下旬

鳥取県が育成し、2008年に品種登録された比較的新しい品種。「筑水」と「おさ二十世紀」の交配種で、糖度が高く、酸味は中程度、果汁が多い赤梨系です。二十世紀と並ぶ鳥取の新しい看板になりつつあります。

あきづき|9月頭〜10月上旬

「新高と豊水の交配種」に幸水をかけ合わせた品種で、2001年に品種登録。500g前後の大玉で、糖度は12度程度ながら酸味がほとんどないため強く甘さを感じます。近年、生産量が急増しており、和梨生産の約6%を占め第4位。

南水(なんすい)|9月下旬〜10月上旬

長野県が生み出した赤梨系の中生種で、平成2年に県が品種登録。糖度15度前後と甘みが強く、350〜500gの大玉。長野県での生産が9割ほどを占めます。貯蔵性が非常に高く、冷蔵で3か月、氷蔵で6か月保存できるほど。

新高(にいたか)|10月中〜11月中旬

赤梨系の晩生種で、和梨生産の約9%を占める第3位。500g〜1kgの大型品種で、酸味が薄く甘みが強い。芳香もあります。名前の由来は当時日本一の高さだった台湾の新高山(玉山)から。

にっこり|10月中〜11月中旬

栃木県のオリジナル品種で、1996年品種登録。800g級、時には1.3kgに達する超大玉。甘みが強く酸味は少なく、香港では「Smiling Pear(微笑み梨)」の名で贈答品として人気を集めています。

参考|洋梨のラ・フランス|10〜12月

和梨とは対照的な、ねっとりとした食感の代表格。追熟してから食べます。産地は山形県が圧倒的で、洋梨のトップシェアを持ちます。

こう並べてみると、梨は7月4日の「梨の日」の時点ではまだ本格的な出荷が始まっていない果物であることがわかります。ハウス栽培の一部を除き、露地栽培の梨の主戦場は8月から11月。「梨の日」は、これから本番を迎える梨を思って設定された、季節の前哨戦のような日と言えるかもしれません。


産地マップ|梨どころは関東と鳥取に集中

農林水産省の作物統計調査(令和5年産)によれば、和梨の全国収穫量は約183,400トン。都道府県別のトップ5は次の通りです。

  • 1位|千葉県|22,400トン(シェア12.2%)

  • 2位|茨城県|19,400トン(シェア10.6%)

  • 3位|栃木県|15,800トン(シェア8.6%)

  • 4位|福島県|13,800トン(シェア7.5%)

  • 5位|鳥取県|11,700トン(シェア6.4%)

関東の3県(千葉・茨城・栃木)と福島、それに鳥取が上位を占め、続くのが長野県(5.4%)、大分県(3.9%)、熊本県(3.6%)と、東日本と九州にそれぞれ集中する構図が見えてきます。

千葉県は2004年以降、20年以上にわたって収穫量・栽培面積ともに全国1位を維持しており、市川・船橋・鎌ケ谷・白井などが特に有名です。江戸時代からの伝統に根ざした産地であり、二十世紀梨の発祥地でもあるという点でも、日本の梨文化の中心地の一つです。

一方、鳥取県は青梨(二十世紀・新甘泉・なつひめなど)の中心地。関東の赤梨と鳥取の青梨、この対比が日本の梨産地の骨格をつくっています。

自治体単位で見ると、福島市の収穫量が日本一で、萱場地区は「日本一の梨密集産地」と呼ばれるほどの集積があります。福島県はブランド梨の「萱場梨」「磯部梨」「磐梯熱海梨」「サンシャインいわき梨」など、地域ブランドが層になって存在しているのも特徴です。


おいしい梨の見分け方

「梨の日」ということで、店頭に並んだときに実践できるチェックポイントも整理しておきます。品種によって細かい違いはありますが、ほとんどの和梨に共通するポイントは次の4つ。

①ずっしり重いものを選ぶ

同じ大きさなら、手に持ったときに重さを感じるほうが果汁を多く含んでいます。特に和梨は水分含有率が約88%と非常に高いため、重さは鮮度と直結します。

②お尻の凹みが深いもの

軸の反対側、お尻の部分がしっかりと凹んで丸みを帯びているほうが、甘みがしっかり乗った証拠とされています。梨は果実の中で「お尻に近いほど甘い」という性質があります。

③赤梨は「表面のザラザラ」が少ないもの

幸水・豊水・新高などの赤梨に見られる皮のザラザラは「果点コルク」と呼ばれるもの。もともとは気孔がふさがってコルク化したもので、未熟なうちはザラつきが強く、完熟に近づくにつれて目立たなくなっていきます。よく熟したものを選びたければ、比較的なめらかなものを。

④青梨は「地色の変化」で見る

二十世紀のような青梨は、未熟なうちは緑色。熟すにつれて黄緑色、そしてやや黄色みを帯びていきます。全体的に淡い黄色に近づいてきたら食べ頃です。

補足すると、皮に極端な色ムラや傷、押された跡があるものは避けたほうが無難。また、軸がしっかり残っているかどうかも鮮度の目安になります。


買った梨をおいしく保つ保存のコツ

和梨は洋梨と違って、収穫時点で「食べ頃」になっています。つまり、家庭で追熟させる必要がない果物です。逆に言えば、買ってから時間が経つほど鮮度は落ちていくということでもあります。

基本は「冷蔵庫の野菜室」

保存の基本は野菜室。1個ずつ湿らせすぎない程度に軽く湿らせたキッチンペーパーで包み、ポリ袋やチャック付き保存袋に入れて口を閉じます。この方法で、状態が良ければおよそ1週間はおいしさを保てます。

ヘタは下向きに

意外と見落とされがちなのがこれ。梨はヘタを下、お尻を上に向けて置くと、呼吸が抑制されて鮮度が長持ちします。桃と同じ考え方です。

常温はあくまで一時的に

すぐに食べる予定があるなら常温でもかまいませんが、常温保存の目安は3〜4日程度。特に7月から9月の高温期は冷蔵推奨です。

冷やしすぎには注意

冷えすぎると甘みを感じにくくなるので、食べる30分〜1時間前くらいに野菜室から出しておくと、香りが立ってよりおいしく感じられます。

切ってからの保存

切ったあとは断面が褐変しやすい果物です。これはポリフェノールの酸化によるもので、塩水に軽く浸すか、レモン汁を薄く塗ると変色を抑えられます。


7月上旬、園地の梨は今どうしているか

「梨の日」の主役は梨そのものですが、この日を迎える7月上旬の梨畑は、実は極めて重要な季節を過ごしています。

各地の生育管理暦を見ると、7月上旬の梨は次のような状態です。

  • 開花は4月ごろ。人工受粉と摘蕾、摘花、1次摘果、2次摘果を経て、6月末までに袋かけが済んでいる

  • 果実は肥大の真っ最中で、幸水は8月中旬の収穫に向けて日々サイズを増している

  • 産地では新梢の誘引、仕上げ摘果、こまめなかん水、黒星病やハダニなど病害虫の防除に追われている

つまり7月上旬は、この年の梨の「品質と大きさが決まっていく最終コーナー」。ここでどれだけ水と栄養が果実にきちんと届くかで、8月以降に店頭に並ぶ梨の味と姿が変わってきます。

そしてこの時期に梨にとって一番怖いのが、実は「高温と乾燥」。連日の猛暑と少雨が続くと、果実の肥大が停滞し、果肉に水が回りすぎる「水梨(みず梨)」が発生したり、翌年の花芽形成にも悪影響が出たりすることが、産地の管理暦にもはっきり書かれています。

近年、真夏日・猛暑日の日数は明らかに増えました。気象庁の統計を見ても、直近30年(1995〜2024年)の全国平均猛暑日日数は年3.0日で、統計初期の30年(1910〜1939年)の年0.8日と比べて約3.9倍。梨に限らず、多くの果樹が「これまで前提だった気候」の変化にどう応じるかを問われている時代です。

だから7月4日の梨の日は、店頭に梨がまだほとんど並んでいなくても、産地の農家さんが「今年の梨」を守るために最も集中している瞬間の一つでもあるわけです。パックの梨を思い浮かべる裏側に、真夏の炎天下でスプリンクラーを回し、果実の様子を1個ずつ確認している人たちがいる、というのはたまに思い出しておきたい景色だと思います。


まとめ

7月4日、梨の日。

語呂合わせで軽く扱われがちな一日ですが、たどっていくとそこには、鳥取県湯梨浜町の産地の願い、明治の少年が拾った一本の苗木、弥生時代からの1,300年に及ぶ栽培の歴史、そして今この瞬間も夏の高温と戦っている産地の姿がありました。

店頭で梨を目にするのは、まだ少し先の8月中旬あたりから。ですがそれは、この7月上旬に園地でていねいに育てられた果実です。旬を迎えたら、選ぶときの「ずっしり重く、お尻がしっかり凹んだもの」、そして買ってからの「野菜室でヘタを下」を思い出して、ぜひ夏から秋にかけての梨シーズンをたっぷり楽しんでみてください。

そして今年の8月、幸水を最初に手にしたとき、この記事のことを少しだけ思い出していただけたら、書き手としてこれほどうれしいことはありません。


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