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秋冬野菜は早くまけばいいわけではない|猛暑下の種まき失敗を防ぐ

8月に入ると、園芸店の棚が一気に秋の顔になります。ハクサイ、ダイコン、キャベツ、ホウレンソウ。並んだ袋を見ていると、「早めにまいておいたほうが安心かな」と手が伸びてしまいませんか。

その気持ちには、ちゃんと根拠があります。秋まき野菜は、まき遅れると収穫が一気に遠のく作物だからです。タキイ種苗の解説には、秋まき野菜の発芽が1日遅れると、収穫は1週間から10日遅れる、と書かれています。1日が10日になる。焦るのは当然です。

ただ、だからといって早くまけば早く採れるかというと、そうはなりません。むしろ秋冬野菜は、早すぎるまきどきの失敗のほうが、あとから取り返しがきかない作物です。そしてその「早すぎる」の線引きが、この30年で地味に動いています。



「早めにまいておこう」がいちばん失敗する

タキイ種苗のハクサイの栽培ポイントに、一行でこう書かれています。

早まきだと病害虫が多くなり、遅まきでは温度不足で小玉や不結球となります。

秋冬野菜のまきどきは、「早い」と「遅い」の両方に崖があって、その間の狭い平地を狙う作業だということです。しかも早いほうの崖は、遅いほうと性質が違います。

まき遅れの失敗は「間に合わなかった」という失敗です。小さいけれど、ものは採れます。これに対して早まきの失敗は、発芽しない、トウが立つ、病気で溶ける、といった「そもそも作物にならない」失敗になりやすい。同じ失敗でも、リカバリーの余地がまったく違います。

この違いを頭に入れたうえで、早まきで何が起きるのかを、発芽の段階と発芽したあとの段階に分けて見ていきます。


種は、暑すぎると発芽をやめる

種が発芽するには、温度、水分、酸素の3つが要ります。このうち温度は、種類ごとに「発芽できる範囲」と「いちばんよく揃う範囲」が決まっていて、範囲を外れると発芽率がはっきり落ちます。

主な秋冬野菜の発芽適温は、おおよそ次のとおりです。

ホウレンソウとニンジンは、適温でまけばそれぞれ75〜85%、70%ほど発芽します。それが35℃では10%前後まで落ちる。まいた種の9割が出てこない計算です。

とくに厄介なのがレタスです。レタスの種は高温にあうと二次的な休眠に入ってしまうため、そのあと涼しくなっても、休眠から覚めるまで発芽しません。「暑いけどまいておけば、涼しくなったら出てくるだろう」が通用しない代表格です。

そしてもう一点、見落としやすいことがあります。種が感じているのは気温ではなく地温だということです。日射を受けた畑の土の表面は、日陰の百葉箱で測る気温より高くなります。天気予報の最高気温が32℃の日に、黒マルチを張った畝の表面はそれよりかなり高い。「気温は発芽適温の上限ぎりぎりだから大丈夫」という判断は、種のいる場所の温度としては楽観的すぎます。

ダイコンについては、農研機構が高温期の発芽不良の対策として「まき直す」としています。発芽してしまったあとで手当てできる障害と違い、発芽しなかった種は戻ってきません。まきどきの判断そのものが対策になる、ということです。


芽が出ても、そのあとに3つの失敗が待っている

運よく発芽しても、早まきの代償はここから始まります。

生育適温を超えると、単純に育たない

ハクサイの生育適温は15〜20℃、結球適温は15〜16℃です。ダイコンは生育後期の平均気温17〜21℃で根がよく太り、平均気温が25℃以上になると根の肥大が抑制されます。

つまり、9月にまだ真夏のような気温が続いていると、株は「大きくなれない時間」をただ過ごすことになります。早くまいた分だけ前倒しで育つ、という単純な足し算にはなりません。

高温そのものが生理障害と病気を呼ぶ

ここは数字がはっきりしています。

農研機構の資料では、ハクサイの軟腐病は、土壌水分が多く日平均気温が23℃を超えるような条件で発生が増加するとされています。ダイコンの内部褐変(赤芯症)は、25℃以上の平均気温や30℃以上の最高気温で発生割合が高まるとされています。ダイコンの「ス入り」の要因のひとつには、高温による生育の進みすぎが挙げられています。

タキイのハクサイの栽培マニュアルにも、結球期の平均気温が23℃以上では軟腐病が多発して栽培が難しい、とあります。23℃、25℃という数字が、複数の資料で共通して出てくるのが分かります。

害虫も同じです。コナガは春から秋までに10世代ほど回り、暖かいほど世代交代が速く進みます。まだ暑い時期に柔らかい本葉を並べておくことは、虫にとっては餌場を早めに開店してあげるようなものです。

いちばん取り返しがつかないのがトウ立ち

レタスは高温で花芽ができ、トウが立ちます。タキイの解説の一文が、この記事の趣旨そのものです。

早まきしすぎると、小さいうちに花芽ができてしまい、その後に生育適温になっても株は大きくなりません。

株が小さいうちに花芽ができてしまうと、あとから涼しくなっても、もう挽回できない。これが早まきの失敗が遅まきの失敗と決定的に違うところです。

なお、同じ「トウ立ち」でも、ハクサイやダイコンは低温にあうことで花芽ができるタイプなので、高温でトウが立つわけではありません。ただしハクサイの場合、一般地ではおよそ10月下旬から11月上旬に花芽分化が起こるため、それまでに外葉をどれだけ作れているかで結球するかどうかが決まります。早くまいて高温で足踏みしても、遅くまいて低温で足踏みしても、外葉が間に合わないという同じ結末になります。


夏の暑さが終わる日は、この30年で10日ほど後ろにずれた

ここまでの話は、平年の暦を前提にした栽培の常識です。では、その前提になっている「夏の終わり」自体は、動いていないのでしょうか。

気象庁が公開している日別の観測値を使って、私のほうで集計してみました。指標はひとつだけに絞ります。

日平均気温の5日移動平均が25.0℃以上となる、その年の最後の日。

日平均25℃は、先ほど見たとおり、ダイコンの根の肥大が抑制され、内部褐変の発生割合が高まる水準です。この日を過ぎれば、秋冬野菜が本来の生育適温帯に入っていくと考えられる、ひとつの目安になります。5日移動平均にしているのは、1日だけ暑さがぶり返した日に引っぱられないようにするためです。

対象は全国の主要28地点。8月1日から11月30日の間で探し、1981〜1995年の15年と、2011〜2025年の15年を比べました。両方の期間で15年中12年以上この日が定まった26地点を集計し、本文では代表14地点を掲載します。札幌と青森は、そもそも日平均25℃が続かない年が多くこの指標が定まらないため、対象から外れています。裏を返せば、この2地点では暑さで待つ必要がもともと小さいということです。

結果は、26地点すべてで後ろにずれていました。ずれ幅は4.5日から15.9日、中央値で10.1日です。

(1996〜2025年ではなく、30年前と現在を並べるため前期を1981〜1995年としています。独自算出であり、気象庁の平年値ではありません。また、観測地点の値なので都市化の影響も含みます)

読み取れることは2つあります。

1つは、後ろズレの幅が西日本ほど大きいこと。高松と福岡と熊本では2週間前後、鹿児島では夏の暑さが10月に食い込むところまで来ています。一方で長野と新潟と前橋は5日前後で、内陸や日本海側ではずれが小さい。同じ「秋の遅れ」でも、地域によって深刻さがまるで違います。

もうひとつは、ずれの大きさが、まき遅れの許容範囲と同じオーダーだということです。あとで触れますが、ダイコンは5日のまき遅れで収穫が半月遅れます。10日という数字は、栽培にとって誤差ではありません。

親から譲り受けた菜園のカレンダーや、20年前に読んだ栽培書の日付が、いま同じように使えるとは限らない。地域によっては1週間から2週間、後ろに書き直す必要があるかもしれない、ということです。


「9月は平年並」を、涼しいと読んではいけない

では今年はどうか。2026年8月5日時点で出ている気象庁の予報を確認しておきます。

7月30日発表の一か月予報では、8月の気温は全国的に高い見込みで、とくに北・東・西日本では期間の前半にかなり高くなる見込みとされています。8月1日から7日にかけて、西日本の気温が高い確率は80%です。

7月21日発表の3か月予報では、9月の気温は北・東・西日本でほぼ平年並の見込み、沖縄・奄美で平年並か高い見込み。10月は全国的に平年並か高い見込みとされています。

ここで注意したいのが「平年並」の読み方です。気象庁の平年値は、現在は1991〜2020年の30年平均です。つまり、いま「9月は平年並」と言われているのは、その30年の平均に近いという意味であって、20年前や30年前の9月に戻るという意味ではありません。前の章で見たとおり、30年前と比べれば夏の終わりは10日ほど後ろにずれています。平年並のまま推移しても、昔の9月上旬のような涼しさにはならない、と考えておくのが妥当です。

そして9月の予報は「ほぼ平年並」であって、涼しくなるという予報ではありません。8月がかなり高い側から始まっていることを踏まえると、8月中の種まき判断を「そのうち涼しくなるだろう」に賭けるのは分の悪い賭けだと思います。

種まきの10日ほど前になったら、2週間気温予報と早期天候情報を確認する。これだけで、まき日を数日ずらす判断はできます。


では、いつまけばいいのか

具体的な逆算のしかたを、ハクサイを例に置いておきます。

一般地では10月下旬から11月上旬に花芽分化が起こるので、それまでに外葉を十分に作っておく必要があります。定植の適期はおおむね9月上旬で、これより遅れると結球不良や不結球になります。育苗はセルトレイで15日から20日、本葉3〜4枚で定植します。ここから戻すと、種まきは8月中旬から下旬。「お盆過ぎの、暑さが少し和らいだころ」という昔ながらの目安は、この逆算から出てきたものです。

一方で、まき遅れの代償も具体的です。

  • ホウレンソウは、8月下旬から9月上旬にまけば約1か月で収穫できるのに対し、10月から11月にまくと、収穫できる大きさになるまで2か月以上かかります

  • 三浦ダイコンは、適期の9月から10月上旬にまけば約3か月後に収穫が始まりますが、5日遅れでまくと収穫まで半月余分に、15日遅れでは約2か月余分にかかります

冒頭に書いた「発芽の1日遅れが収穫の10日遅れ」も、この文脈の話です。だからまき遅れは怖い。ただ、発芽しなければ遅れどころか収穫がゼロになる、というのが本題でした。

この2つの崖の間を通るために、種苗会社自身が勧めている方法が2つあります。

ひとつは長期予報を播種計画に使うこと。タキイの解説には、高温多雨が予想されるなら播種を5日から10日ほど遅らせるか、耐病性のある品種や晩生の品種を選ぶ、と明記されています。気象情報は、まいたあとに天気を心配するためのものではなく、まく日を決めるために使うもの、ということです。

もうひとつは、一度に全部まかないこと。予定日に加えてその5日から7日前後を含め、計3回に分けてまけば、気象が読みにくい年でも危険が分散されます。

家庭菜園は、一度に収穫期が来ても食べきれません。分けてまくことが、リスク分散と収穫の分散を同時にこなしてくれる。今年のように8月の入りが暑い年ほど、この方法は効きます。


どうしても早くまきたいときの手当て

畑の都合や前作の片付き具合で、まき日を後ろにずらせないこともあります。その場合の手当てを、効きの大きい順に挙げます。

  • 涼しい場所で芽出ししてからまく。ハクサイは、まいた後に日の当たらない涼しい場所に1日から3日置いて催芽を促す方法が農研機構の資料で紹介されています。レタスは、裸種子なら5〜6時間吸水させ、水を切って10〜15℃で二昼夜置いてから室内に戻し、催芽してからまきます(ペレット種子ではこの処理をしません)

  • 直まきをやめてポット・セルトレイにする。容器なら、いちばん暑い時間帯だけ日陰に移すという操作ができます。ハクサイは本来直まき向きの作物ですが、高温対策として移植栽培も選択肢になります

  • 遮光する。遮光率20〜50%の寒冷紗などが目安です。ただし覆いは日中だけにして、朝夕は外して夜露に当てます。掛けっぱなしは苗を徒長させます

  • 水やりは早朝か夕方に。日中を避けて夕方にやると地温も下がります。まいた直後に土を乾かさないことが、この時期はいちばん効きます

  • マルチはシルバーを選ぶ。地温の上昇を抑えるうえ、アブラムシの飛来を減らせるので、ダイコンのウイルス病対策にもなります

  • 防虫ネットは播種直後から掛ける。ただし目合い0.6ミリではコナガのような小さい虫が入り込むことがあるので、ネットを掛けたから安心とはしないこと

  • 覆土の厚さを種に合わせる。アブラナ科でもダイコンは光があると発芽が抑えられるタイプなので覆土は厚めに、それ以外のアブラナ科やキク科は光で発芽が促されるタイプなので浅めにします

いずれも、暑さのピークを2〜3日ずらすための手当てです。ひと月分の季節を前倒しできるわけではないので、あくまで数日の調整として使ってください。


まとめ

秋冬野菜のまきどきは、カレンダーで決まっているのではなく、気温で決まっています。そして、その気温のほうが動いています。

  • 早まきの失敗は、発芽しない、トウが立つ、病気になる、という「作物にならない」失敗になりやすく、あとから取り返せません

  • 発芽適温を外れると発芽率は一気に落ちます。ホウレンソウとニンジンは35℃で10%前後、レタスは25℃以上で休眠に入ります

  • ハクサイの軟腐病は日平均23℃超、ダイコンの内部褐変は平均25℃以上・最高30℃以上で発生が増えます

  • 日平均気温25℃を超える状態が終わる日は、30年前と比べて全国26地点すべてで後ろにずれ、中央値で10.1日でした。西日本ほど幅が大きく、高松・福岡・熊本では2週間前後です

  • 今年の九月の予報は「ほぼ平年並」。これは涼しくなるという意味ではありません

やることは2つだけです。まく10日ほど前に2週間気温予報を見て、暑さが続きそうなら数日ずらす。そして、一度に全部まかずに5日から7日ずつずらして3回に分ける。

まき遅れが怖いのは事実です。それでも、暑いうちに全部まいてしまうより、2回目、3回目に賭けられる状態を作っておくほうが、秋の食卓は確実に豊かになります。


参考にした資料

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