見出し画像

ベテラン設計者と衝突した話①|加工を知っていても、加工屋を知らない設計者

ある日、うちの会社に「ベテラン機械設計者」として、一人の方が入社してきました。

本人いわく、機械設計歴は40年以上。

大手メーカーへ数多くの設備を納めてきたSIerの出身で、社内に機械設計者が不足していたこともあり、経営陣からもかなり期待されていました。

僕も上司から、

「のーてぃ君も、いろいろ学んでほしい」

と言われました。

40年以上も機械設計を続けてきた人です。

設計技術はもちろん、構想の考え方、顧客との折衝、トラブルへの対処など、学べることは山ほどあるだろうと思っていました。

しかし、その期待は早い段階で崩れました。

たしかに、いろいろなことを学びました。

ただし、僕が想像していたような学びではありませんでした。

その方が入社してから、僕は設計以外の部分でかなり苦労することになります。

結論から言うと、その方は一身上の都合により、入社から一年足らずで退職しました。

退職を聞いたとき、正直に言えば、僕はホッとしました。

在籍期間は、わずか一年。

それでも、機械設計者にとって経験年数とは何なのか。

長年設計をしてきた人が、なぜ新しい会社で機能しなかったのか。

その一年間に起きたことを、いくつかのエピソードに分けて書いていきます。

第1回は、ベテラン設計者の図面を見て、僕が最初に感じた違和感についてです。


加工屋が見えていない設計

僕が勤めているのは、それほど規模の大きくない会社です。

機械部品の製作を依頼するときも、商社を挟まず、加工屋さんと直接取引することが多くあります。

一口に加工屋さんといっても、設備も得意分野も会社ごとに違います。

旋盤加工が得意な会社もあれば、フライス加工や製缶を得意とする会社もある。

保有している工作機械の大きさも違えば、普段使っている材料や、対応しやすい数量、納期も違います。

僕も展示会や取引先からの紹介を通じて、少しずつ多くの加工屋さんとつながるようになりました。

そのため、部品を設計するときは、図面を描く段階から、

「この部品は、あの加工屋さんにお願いしよう」

と、製作先をある程度想定しています。

その加工屋さんが普段持っている材料は何か。

どのような機械を持っているか。

どの加工を得意としているか。

現在の仕事量で、希望納期に対応できそうか。

それを踏まえて形状を決めます。

もちろん、設計の自由度は下がります。

理論上作れる形状を、何でも自由に描けるわけではありません。

しかし、その制限の中で設計するからこそ、部品を安く、早く、安定して調達できます。

それが、うちの会社なりのコスト低減にもつながっています。

そんな中、ベテラン設計者に、ある部品の設計をお願いしたことがありました。

完成した図面を見て、僕は頭を抱えました。

設計そのものが、明確に間違っていたわけではありません。

その形状で部品としての機能は成立していますし、一般的な加工方法としても、おかしなものではありませんでした。

問題は、その部品を作れる加工屋さんと、うちの会社には直接の取引がなかったことです。

そこで僕は、形状の変更をお願いしました。

「この作り方に対応できる加工屋さんと、うちは直接取引がありません。商社を通せば作れるかもしれませんが、かなり高くなります」

「同じ機能の部品は、うちでは普段このような形状で作っています。この形に変えてもらえませんか」

すると、ベテラン設計者は言いました。

「なんで、こんな当たり前の形状を作れる加工屋がいないんだ」

「商社を通したとしても、この形状のほうが安いに決まっている」

「俺は変えないぞ」

納期にも余裕がありませんでした。

これ以上、口頭で言い合っていても進まないため、僕は実際に商社を通して見積もりを取りました。

出てきた金額は、やはり高いものでした。

商社を挟めば、そのぶん費用がかかります。

取引実績のない加工屋さんへ、一点物の部品を依頼することにもなるため、安くなる理由がありません。

僕はその見積もりをベテラン設計者に見せました。

あわせて、僕が変更をお願いした形状について、過去の購入実績も提示しました。

金額を比較すれば、どちらが安いかは明らかでした。

それでも、ベテラン設計者は認めませんでした。

「こんなのはインチキだ」

「普通に考えて、あり得ない」

実際の見積金額を見せても、過去の購入実績を見せても、自分の考えを変えることはありませんでした。

この人は加工を知らないわけではないです。

しかし、実際にその部品を作る加工屋さんのことは、ほとんど見えていませんでした。

後から聞くと、前の会社では、加工部品の手配はすべて商社を通していたそうです。

本人が加工屋さんと直接打ち合わせをしたり、工場を見学したりする機会は、ほとんどなかったといいます。

図面を描けば、購買や商社が製作できる会社を探してくれる。

金額が高ければ価格交渉をする。

設計者は、作りたい形状を図面にする。

前の会社では、それで仕事が成立していたのだと思います。

しかし、うちの会社では違います。

設計者自身が、どこで、どのように作るかまで考えなければいけません。

設計として正しいかどうかだけではなく、その会社が持っている取引先、設備、材料、納期、購入実績まで含めて、現実的な形に落とし込む必要があります。

ベテラン設計者の知識から学べることは、たしかにありました。

僕が知らなかった形状や加工方法も、数多く知っていました。

ただ、その知識を、今いる会社の条件に合わせて使うことはありませんでした。

自分の設計に会社の調達方法を合わせようとする。

加工屋さんの現実に合わせて、自分の設計を変えることはしない。

どれだけ加工方法に詳しくても、実際に作る人と会社が見えていなければ、その知識が最適な設計につながるとは限りません。

僕がこの人から最初に学んだのは、加工の知識ではなく、そのことでした。

もちろん、このベテラン設計者の主張も十分に理解をしています

僕も内心では、こういう形状の方が安く作れるんだろうな、とか
こういうことできれば、もっと設計の幅が広がるのにな、とか

今この会社のいわゆる制約に不満がないわけではありません

だからこそ僕は、加工屋さんを探しに行ったり、その工場に出向いたり
打ち合わせを密に行ったりして、少しずつでもこの会社でできる設計の幅を広げようとしてきました

このベテラン設計者も、同じように加工屋さんを探してくれればよかったのですが、そんなのは設計の仕事じゃないと協力をしてもらえませんでした

設計をしている自分が言うのもあれですが
設計者一人では物は作れません。
僕が描いた図面の形を誰かが作ってくれます。
その誰かというのが、僕は、○○株式会社の△△さん、□□鉄工所の☆☆さん
名前で言えます

加工ではなく加工屋さんを意識した設計

改めてこの重要性を学んだエピソードです

僕はベテラン設計者との最初のやり取りを通じて、その違いを改めて認識しました。

そして、これは僕がその人に感じた違和感の、まだ一つ目にすぎませんでした。






この記事が少しでも面白かった、続きも読みたいと思ってもらえたら、支援していただけると嬉しいです。

いただいた支援は、今後も記事を書き続けるための励みにさせていただきます。

このシリーズは、まだ続きます。

いいなと思ったら応援しよう!