〜 おへその乱読1000本ノック #0129 ~ カロリー制限は予備腸管幹細胞を守り腸上皮再生を高める
第129回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
前回は、加齢に伴うmTORC1の過剰活性化が腸管幹細胞の機能を低下させ、腸上皮の再生能を損なう仕組みをみてきました。今回は、カロリー制限によるmTORC1制御が腸管幹細胞の組織再生にどう影響するかをみていきます。
Yousefiら(2018)は、カロリー制限によってmTORC1活性が低下した予備腸管幹細胞が、放射線照射による細胞死から保護されることを示しました。放射線で腸上皮が損傷を受けると、生き残った予備腸管幹細胞ではmTORC1が活性化し、細胞増殖を通じて腸上皮再生に寄与します。
本論文は、カロリー制限が予備腸管幹細胞を保護し、その後の腸上皮再生を促進するmTORC1制御を明らかにした研究です。

要旨
カロリー制限(CR)は、加齢に伴う幹細胞機能低下を抑え、損傷後の組織再生を高めることが知られている。本研究では、放射線抵抗性をもつ予備腸管幹細胞に注目し、CRによる腸上皮再生亢進の細胞・分子機構を解析した。CRによりHopx陽性およびBmi1陽性の予備腸管幹細胞プールは拡大したが、細胞増殖はむしろ低下していた。これらの細胞は幹細胞機能を維持し、放射線損傷後の腸上皮再生に機能的に寄与した。
CRでは予備腸管幹細胞のmTORC1活性が低下し、細胞集団はよりmTORC1-lowな状態へ移行した。一方、放射線損傷後にはmTORC1が再活性化し、予備腸管幹細胞の増殖と組織再生を支えた。ロイシン、ラパマイシン、Tsc1欠損、Raptor欠損によるmTORC1操作から、損傷前のmTORC1抑制は予備腸管幹細胞を放射線誘導性アポトーシスから保護する一方、損傷後の再生にはmTORC1活性化が必要であることが示された。
以上より、CRは予備腸管幹細胞におけるmTORC1活性を時間的に制御し、損傷前には細胞を保護し、損傷後には再生へ切り替えることで、腸上皮の損傷耐性と再生能を高めると考えられる。
1.イントロダクション:カロリー制限は腸管幹細胞を介して組織再生を高める
カロリー制限(CR)とは、必須栄養素を保ちながら摂取エネルギーを減らす食事介入であり、多くの生物種で寿命延長や加齢関連疾患の抑制が報告されている。その作用機序の一部には、加齢に伴い機能低下する幹細胞・前駆細胞の維持が関わると考えられており、実際、短期間のCRでも骨格筋や小腸の損傷後回復が高まることが示されている。
腸上皮には、日常的な組織更新を担う活動性腸管幹細胞と、より静止性の高い予備腸管幹細胞が存在する。クリプト底部のLgr5高発現のcrypt base columnar cells(CBCs)は活発に増殖し、恒常的な上皮更新を担う。CRはPaneth細胞からの栄養応答シグナルを介してLgr5高発現CBCを増加させると報告されているが、これらの細胞はWnt活性が高く、DNA損傷への感受性も高い。そのため、CRによる損傷後再生亢進をどの細胞集団が担うのかは明らかでなかった。
一方、クリプトのWnt高活性領域より上方には、Hopx、mTERT、Bmi1などで標識される予備腸管幹細胞が存在する。増殖速度が遅くG0期の細胞が多いため、活動性CBCよりDNA損傷、とくに放射線への抵抗性が高い。通常時の上皮維持への寄与は小さいが、高線量放射線などによる損傷時には増殖し、腸上皮再生に広く寄与する。
本研究ではこの予備腸管幹細胞に着目し、CRによる腸上皮再生亢進への関与を検証した。さらに、予備腸管幹細胞におけるmTORC1の細胞自律的制御が、DNA損傷後の腸上皮再生をどう左右するかを解析した。
2.研究デザイン:カロリー制限から予備腸管幹細胞の再生能までを段階的に検証する
本研究では、カロリー制限が予備腸管幹細胞の数や状態、放射線損傷後の腸上皮再生にどのような影響を与えるかを段階的に検証した。さらに、mTORC1を栄養・薬理・遺伝学的に操作し、予備腸管幹細胞の損傷耐性と再生能との因果関係を解析した。研究全体の流れを参考図1に示す。

8〜12週齢マウスを自由摂食(AL)群とカロリー制限(CR)群に分け、Hopx-CreERやBmi1-CreERで予備腸管幹細胞を標識し、Lgr5陽性CBCと比較した。FACS、EdU、tdTomato系譜追跡、DTAによるHopx陽性細胞除去を用いて、予備腸管幹細胞の数、増殖、再生への寄与を評価した。さらに、12 Gy全身γ線照射による損傷モデルで腸上皮再生とアポトーシスを解析し、ロイシン、ラパマイシン、Tsc1欠損、Raptor欠損によってmTORC1活性を操作した。pS6、RNA-seq/GSEA、オルガノイド形成能を組み合わせ、mTORC1による予備腸管幹細胞制御と細胞自律的作用を段階的に検証した。
2.1 カロリー制限モデルと腸管幹細胞の標識
本研究では8〜12週齢のC57BL/6Nマウスを用い、自由摂食(AL)群とカロリー制限(CR)群を比較した。CR群では対照群の摂食量を事前に1〜2週間測定し、その60%量を4〜6週間与えた。必須栄養素の不足を避けるため、CR群にはビタミン・ミネラル強化飼料を使用した。
予備腸管幹細胞の標識には主にHopx-CreER::R26-LSL-tdTomatoマウスを用い、Bmi1-CreER系でも結果を検証した。活動性CBCとの比較にはLgr5-eGFP-IRES-CreERT2マウスを用いた。タモキシフェン投与でCre依存的にtdTomatoを発現させ、予備腸管幹細胞の数とその後の細胞系譜を追跡した。
2.2 予備腸管幹細胞の数・増殖・再生への寄与を評価する
CRが予備腸管幹細胞に与える影響を調べるため、FACSでHopx陽性またはBmi1陽性細胞の割合を測定した。細胞増殖は組織採取4時間前のEdU投与で評価し、tdTomatoによる系譜追跡で、予備腸管幹細胞からクリプト・絨毛へ広がる細胞集団を解析した。
さらにHopx陽性細胞をジフテリア毒素A(DTA)で選択的に除去し、CRによる腸上皮再生亢進に予備腸管幹細胞がどの程度必要かを検証した。これにより、予備ISC数の変化にとどまらず、実際の組織再生への機能的寄与を評価した。
2.3 放射線損傷モデルで腸上皮再生能を評価する
腸上皮に強いDNA損傷を与えるモデルとして12 Gyの全身γ線照射を行った。照射3日後に空腸を採取し、組織切片上の再生フォーカスを指標に腸上皮の再生効率を評価した。再生フォーカスは、H&E染色で10個以上の隣接好塩基性細胞と管腔をもつ構造として定義した。放射線照射後の予備ISCの生存はcleaved caspase-3でアポトーシスを解析した。これにより、CRやmTORC1操作が損傷時の予備ISC生存とその後の組織再生に与える影響を評価した。
2.4 mTORC1を栄養・薬理・遺伝学的に操作する
mTORC1が予備腸管幹細胞の活性と損傷耐性を直接制御するかを検証するため、複数の方法でmTORC1活性を操作した。栄養学的には飲水中への1.5%ロイシン添加でmTORC1を活性化し、薬理学的にはラパマイシン(1日5 mg/kg腹腔内投与)で阻害した。
さらにHopx陽性予備ISCでTsc1を欠損させてmTORC1を恒常的に活性化し、逆にRaptorを欠損させて抑制した。栄養・薬理・遺伝学という異なる操作を組み合わせ、mTORC1と予備ISC機能との因果関係を検証した。
2.5 mTORC1活性と細胞自律的作用を分子・培養レベルで検証する
mTORC1活性は下流標的S6のリン酸化(pS6)を指標に、免疫蛍光染色および免疫ブロットで評価した。予備ISCはFACSで分取し、AL群とCR群のpS6レベルを直接比較した。また、AL群・CR群からFACS分取した予備ISCとLgr5陽性CBCについてRNA-seqを行い、差次的発現解析とGSEAでCRに伴う転写変化を解析した。
さらに、FACS分取したHopx陽性予備ISCをMatrigel上で培養し、ロイシンまたはラパマイシンを添加してオルガノイド形成能を測定した。これにより、mTORC1による予備ISC活性化が周囲のニッチ細胞を介さず、細胞自律的に起こるかを検証した。
3.カロリー制限は予備腸管幹細胞を増やし、損傷後の再生を高める
3.1 カロリー制限は予備腸管幹細胞プールを拡大する
はじめに、CRが予備腸管幹細胞の数に与える影響を調べた。Hopx-CreER::R26-LSL-tdTomatoマウスに40%のCRを4〜6週間行い、タモキシフェン投与18時間後に標識細胞を解析した。その結果、CR群ではHopx陽性予備ISCの頻度がAL群に比べて514%増加した(図1a、b)。
この増加がHopx標識系に特有の現象ではないことを確認するため、別マーカーであるBmi1-CreERでも解析したところ、Bmi1標識細胞もCRによって165%増加した。したがって、CRは複数の標識系で捉えられる予備ISCプールを拡大すると考えられた。
一方、EdU取り込みで細胞増殖を調べると、CRではHopx陽性・Bmi1陽性予備ISCの増殖はいずれも低下していた(図1c)。腸上皮全体の増殖も低下しており、予備ISC数の増加は単純な細胞分裂亢進によるものではなかった。腸全体の細胞量減少に伴う相対的増加や、分化より自己複製が優先される可能性が考えられた。

図1 カロリー制限は放射線抵抗性をもつ予備腸管幹細胞プールを拡大する
a:AL群とCR群の空腸におけるHopx-CreER標識予備ISCのtdTomato免疫蛍光像。b:Hopx-CreERおよびBmi1-CreERで標識された予備ISCの頻度。CRにより両集団が増加した。c:予備ISCおよび腸上皮細胞のEdU取り込み。CRでは細胞増殖が低下した。d:Hopx陽性予備ISCからの系譜追跡。CRではクリプトから絨毛へ広がる追跡イベントが増加した。e:Hopx陽性予備ISCをDTAで除去した後の放射線損傷後再生。CRによる再生亢進の一部が予備ISC除去によって失われた。
3.2 CRで増えた予備ISCは幹細胞機能を維持している
CRによって予備ISCの増殖は低下したが、増加した細胞が幹細胞として機能するかを調べるため、Hopx陽性細胞の系譜追跡を行った。AL条件では予備ISCの約25%が細胞周期にあり、残りはG0期にあるとされる。CRではHopx陽性細胞の頻度が大きく増える一方で増殖率は低下していたため、系譜追跡イベントは約1.5倍に増加すると予測された。
実際、CR群ではHopx陽性予備ISCからクリプトを経て絨毛へ連続して広がるtdTomato陽性細胞の系譜追跡イベントが約1.6倍に増加した(図1d)。したがって、CRで拡大した予備ISCプールは、増殖率が低い状態でも幹細胞としての機能を保持していることが示された。
3.3 予備ISCはCRによる腸上皮再生亢進に必要である
次に、CRで増加した予備ISCが放射線損傷後の腸上皮再生に実際に寄与するかを検証した。Hopx-CreERマウスにDTA発現系を組み合わせ、タモキシフェン投与でHopx陽性予備ISCを選択的に除去した。その後12 Gyの全身γ線照射を行い、3日後の再生フォーカス数を測定した。
CR群はAL群より再生フォーカスが増加したが、Hopx陽性予備ISCを除去すると、このCRによる再生亢進の約40%が失われた(図1e)。この結果から、CRで増加した予備ISCは単に数が多いだけでなく、放射線損傷後の腸上皮再生を機能的に支える細胞集団であることが示された。
以上より、CRは予備腸管幹細胞の増殖を促進するのではなく、低増殖状態の予備ISCプールを拡大し、損傷時に利用可能な幹細胞集団を増やすことで腸上皮再生を高めると考えられる。
4.カロリー制限は予備腸管幹細胞のmTORC1を抑制する
4.1 CRは予備ISCの翻訳関連遺伝子群を抑制する
CRにより予備ISCの再生能が高まる分子機構を調べるため、AL群とCR群からFACSで分取したHopx陽性予備ISCとLgr5陽性CBCについてRNA-seqを行った。その結果、CRによる遺伝子発現変化は両細胞集団で大きく異なり、共通して変動した遺伝子はごくわずかであった。
予備ISCの遺伝子発現をGSEAで解析したところ、CR群ではリボソームタンパク質や翻訳関連遺伝子群が強く低下していた(図2a)。リボソーム生合成やタンパク質翻訳はmTORC1が制御する主要な細胞機能であることから、CRが予備ISCのmTORC1活性を低下させている可能性が示唆された。

図2 腸上皮再生過程におけるmTORC1活性の動的制御
a:AL群・CR群から分取したHopx陽性予備ISCのRNA-seqデータを用いたGSEA。CR群では翻訳伸長やリボソーム関連遺伝子群が低下した。b:放射線照射前の空腸におけるpS6免疫蛍光像。CR群では基礎状態のmTORC1活性が低下していた。c:放射線照射3日後のpS6免疫蛍光像。CR群でも損傷後はmTORC1が強く活性化した。d:FACS分取した予備ISCのpS6蛍光強度。CRにより予備ISCはよりmTORC1-lowな状態へ移行した。e:FACS分取した予備ISCのpS6免疫ブロット。放射線照射48時間後にpS6が大きく増加した。
4.2 CRは基礎状態の予備ISCでmTORC1活性を低下させる
mTORC1活性の指標として、その下流でS6 kinaseによりリン酸化されるS6(pS6)を用いた。放射線照射前の腸上皮を比較すると、CR群はAL群よりpS6シグナルが低く、基礎状態のmTORC1活性が抑制されていた(図2b)。
さらに、Hopx陽性予備ISCをFACSで分取しpS6を測定したところ、AL群でも大半の予備ISCはmTORC1-lowの状態にあったが、一部にmTORC1-highの細胞が存在した。これは、恒常状態でも予備ISCの約25〜30%が活動性を保ち、細胞周期に入っていることと一致する。CR群では予備ISC集団全体がさらに低活性なmTORC1-low状態へ移行し、mTORC1-high細胞は少数にとどまった(図2d)。
したがって、CRは予備ISCを一律に不活性化するのではなく、集団全体をより低mTORC1・低活動性の状態へシフトさせると考えられた。
4.3 放射線損傷後には予備ISCのmTORC1が再活性化する
基礎状態ではmTORC1が抑制されていた一方、放射線損傷後には異なる応答が観察された。照射3日後の再生フォーカスでは、CR群でもpS6が強く誘導され、その活性化の程度はAL群を上回った(図2c)。
さらに、FACS分取した予備ISCを免疫ブロットで解析すると、照射前には低かったpS6が照射48時間後に著しく増加した(図2e)。この時期は、予備ISCが最初の細胞分裂を開始する時期と一致する。
以上より、CRは損傷前には予備ISCのmTORC1活性を低く保つ一方、損傷後にはその活性化能を損なわず、必要な時点でmTORC1を再活性化させることが示された。この動的なmTORC1制御が、CRによる腸上皮再生能の亢進に関与すると考えられた。
5.mTORC1は予備腸管幹細胞を細胞自律的に活性化する
5.1 ロイシンとラパマイシンは予備ISC活性を逆方向に変える
CRによるmTORC1抑制と予備ISCの状態変化との因果関係を検証するため、まず栄養・薬理学的にmTORC1活性を操作した。ロイシンはmTORC1を強く活性化するアミノ酸であり、16時間絶食後のマウスに1.5%ロイシンを6時間飲水投与すると、腸上皮のpS6が増加しmTORC1活性化が確認された(図3a)。
次にHopx陽性予備ISCの系譜追跡を行い、ロイシンによるmTORC1活性化とラパマイシンによるmTORC1阻害の影響を比較した。ロイシン投与では予備ISCからの系譜追跡イベントが大きく増加したのに対し、ラパマイシン投与では減少した(図3b)。この結果から、mTORC1活性は予備ISCが休止状態から活性化するために必要であり、その活性化を促進することが示された。

図3 mTORC1は予備腸管幹細胞を細胞自律的に活性化する
a:16時間絶食後に1.5%ロイシンを6時間投与したマウス腸上皮のpS6免疫ブロット。ロイシンによりmTORC1活性が上昇した。b:Hopx陽性予備ISCからの系譜追跡。ロイシン投与では追跡イベントが増加し、ラパマイシン投与では減少した。c:FACS分取したHopx陽性予備ISCのオルガノイド形成能。ロイシン添加で形成効率が上昇し、ラパマイシン添加で低下した。d:Hopx陽性予備ISC特異的Tsc1欠損マウスの系譜追跡。mTORC1活性化により予備ISCからの追跡イベントが増加した。
5.2 mTORC1による予備ISC活性化は細胞自律的に起こる
ロイシンやラパマイシンの作用が予備ISC自身のmTORC1活性によるものかを調べるため、Hopx陽性予備ISCをFACS分取してオルガノイド形成能を解析した。
培養液へのロイシン添加でオルガノイド形成効率は上昇し、ラパマイシン添加で低下した(図3c)。in vivoでの系譜追跡と同じ方向の変化が培養系でも再現されたことから、mTORC1は予備ISC自身に作用してその活性化を制御すると考えられた。
5.3 Tsc1とRaptorの遺伝学的操作でmTORC1依存性を確認する
さらに予備ISC特異的にmTORC1を操作し、細胞自律的な制御を遺伝学的に検証した。Hopx陽性予備ISCでmTORC1抑制因子Tsc1を欠損させるとmTORC1が活性化し、2週間後の系譜追跡イベントが増加した(図3d)。これはロイシン投与による結果と一致した。
一方、mTORC1構成因子RaptorをHopx陽性予備ISCで欠損させると、予備ISCからの系譜追跡は大きく低下した。したがって、予備ISCの活性化には細胞自身のmTORC1活性が必要であることが確認された。
以上より、mTORC1は予備腸管幹細胞の休止状態と活性化状態を切り替える主要な制御因子であり、その作用は予備ISCに細胞自律的に働くことが示された。
6.損傷前のmTORC1活性化は予備腸管幹細胞を放射線に脆弱にする
6.1 損傷前のmTORC1抑制は予備ISCをアポトーシスから保護する
これまでの結果から、CRでは損傷前の予備ISCでmTORC1活性が低下していることが示された。そこで、この低mTORC1状態そのものが放射線損傷に対する保護作用をもつかを検証した。放射線照射3日前からロイシンまたはラパマイシンを投与し、照射2時間後の予備ISCにおけるcleaved caspase-3を測定した。
ラパマイシンでmTORC1を抑制すると放射線照射後のアポトーシスは減少したのに対し、ロイシンでmTORC1を活性化するとアポトーシスは増加した(図4a)。したがって、損傷前の低mTORC1状態は予備ISCを放射線誘導性細胞死から保護し、逆にmTORC1の早期活性化は放射線感受性を高めることが示された。

図4 mTORC1の早期活性化は予備腸管幹細胞を放射線損傷に感受性化し、再生不全を引き起こす
a:12 Gy γ線照射2時間後の予備ISCにおけるcleaved caspase-3解析結果。ラパマイシンによるmTORC1抑制はアポトーシスを減少させ、ロイシンによるmTORC1活性化は増加させた。b:放射線照射後の腸上皮再生。照射前からロイシンを投与すると、Ki67陽性再生フォーカスが減少した。c:食事条件とmTORC1状態による予備ISCの損傷耐性と再生を示す統合モデル。CRではmTORC1-lowの予備ISCが多く維持され、放射線照射後にも多く生存して再生に寄与する。一方、ロイシンによりmTORC1-highとなった予備ISCは放射線照射後に細胞死を起こしやすく、生き残る細胞が減少して再生不全につながる。
6.2 mTORC1の早期活性化は損傷後の腸上皮再生を低下させる
次に、損傷前のmTORC1活性化がその後の腸上皮再生にどう影響するかを調べた。放射線照射3日前からロイシンを投与してmTORC1を活性化すると、照射後の再生フォーカス形成は有意に低下した(図4b)。
この結果は、損傷前に予備ISCがmTORC1-high状態へ移行すると放射線による細胞死が増加し、その後の再生に利用できる幹細胞数が減少することを示唆する。すなわち、mTORC1活性化そのものが有害なのではなく、損傷を受ける前に活性化していることが問題となる。
6.3 mTORC1は抑制し続けても再生できない
一方、mTORC1を低く保てば常に再生に有利というわけではない。予備ISC特異的にRaptorを欠損させてmTORC1を抑制すると、通常時の腸上皮恒常性には明らかな異常を生じなかったが、放射線損傷後の再生は低下した。
この結果は、損傷時の予備ISC保護にはmTORC1抑制が有利である一方、損傷後に細胞増殖を開始して腸上皮を再構築する段階ではmTORC1活性化が必要であることを示している。したがって予備ISCの再生機能には、mTORC1を単純に抑制するのではなく損傷前後で適切に切り替えることが重要である。
6.4 CRは損傷に強い予備ISCプールを維持する
以上の結果をもとに、本研究ではCRとmTORC1による予備ISC制御の統合モデルを提示した(図4c)。CRではmTORC1-lowの休止性予備ISCが多く維持されるため、放射線損傷を受けても生き残る細胞が多い。これらの細胞は損傷後にmTORC1を活性化して増殖し、腸上皮再生に寄与する。
一方、ロイシン投与などにより損傷前からmTORC1が活性化すると、予備ISCは放射線に感受性となり、照射後に生き残る細胞が減少する。その結果、再生に利用できる予備ISCプールが小さくなり、腸上皮再生は低下する。
以上より、予備腸管幹細胞では、損傷前にmTORC1を低く保つことが細胞を保護し、損傷後にmTORC1を再活性化することが組織再生を促す。CRはこの時間的なmTORC1制御を通じて、損傷耐性と再生能を両立させると考えられる。
7.結論:mTORC1の時間的制御が予備腸管幹細胞の損傷耐性と再生を両立させる
本研究では、CRが放射線損傷に抵抗性をもつ予備腸管幹細胞プールを拡大し、損傷後の腸上皮再生を高めることを示した。CRによって増加した予備ISCは低増殖状態にありながら幹細胞機能を維持しており、その一部を除去するとCRによる再生亢進が低下したことから、これらの細胞が組織再生に機能的に寄与することが明らかとなった。
その分子基盤として重要なのがmTORC1である。CRでは基礎状態の予備ISCでmTORC1活性が低下し、細胞はよりmTORC1-lowな状態へ移行する。この状態では放射線によるアポトーシスが抑えられ、損傷後に生き残る予備ISCが多く維持される。一方、ロイシンやTsc1欠損によって損傷前からmTORC1を活性化すると、予備ISCの放射線感受性が高まり、その後の腸上皮再生も低下した。
しかし、mTORC1は単に抑制すればよいわけではない。放射線損傷後には予備ISCでmTORC1が再活性化し、細胞分裂と組織再生を支える。実際、Raptor欠損によってmTORC1活性を抑制すると、通常時の腸上皮恒常性には大きな影響がないものの、損傷後の再生は低下した。
したがって、CRによる腸上皮再生亢進には、損傷前はmTORC1を低く保って予備ISCを保護し、損傷後はmTORC1を活性化して再生へ切り替える時間的制御が重要である。本研究は、栄養状態に応答するmTORC1が予備腸管幹細胞の損傷耐性と再生能を細胞自律的に調節し、腸上皮再生を支える仕組みを明らかにした。
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