〜 おへその乱読1000本ノック #0050 ~ 老化はいつ始まるのか?:胚発生に潜む 若返りの瞬間
第50回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
私たちはふつう、老化は生まれたあとに始まるものだと考えがちです。けれども近年、発生のごく初期にいったん若返りが起こり、その後にはじめて個体としての老化が始まるのではないか、という興味深い可能性が議論されるようになってきました。もしそれが本当なら、老化は生まれたあとに進む現象ではなく、発生のなかで立ち上がる現象として捉え直されることになります。どこで若返りが起こり、どこから老化が始まるのかという問いは、発生生物学と老化研究とをつなぐ、新しい視点を与えてくれます。
今回取り上げる Kerepesi et al. (2021) は、DNAメチル化に基づくエピジェネティッククロックを用いて、マウスおよびヒトの胚発生過程における生物学的年齢の変化を解析した研究です。その結果、胚発生の初期に生物学的年齢がいったん低下する若返りイベントが存在し、その後に再び上昇へ転じることが示されました。著者らはこの最小点をグラウンド・ゼロと呼び、ここが個体老化の始まりを示す可能性があると論じています。
老化の起点を探ることは、すぐに老化を止める方法を与えるわけではありません。それでも本研究は、生命がもっとも若い状態に到達する瞬間が胚発生のなかに存在する可能性を示し、老化研究の出発点そのものを静かに書き換える内容となっています。本稿ではこの論文を手がかりに、胚発生における若返り現象とは何か、そして老化の開始点をどのように捉え直せるのかを見ていきます。

要旨
老化は出生後にはじまる現象とみなされがちであるが、本研究は、その起点が胚発生のなかに存在する可能性を示した。Kerepesi et al. (2021) は、マウスおよびヒトの出生前発生データに複数のエピジェネティッククロックを適用し、初期胚発生の途中で生物学的年齢がいったん低下する若返りイベントが存在することを示した。その最小点は グラウンド・ゼロ と位置づけられ、マウスでは E6.5/E7.5 が最有力候補とされた。さらに、グラウンド・ゼロ以後にはマウスとヒトのいずれでもエピジェネティック年齢の上昇が認められ、個体老化は胚発生中期にはすでに始まっている可能性が示された。また、この若返りには TET 酵素および DNMT 群を介したエピゲノム再編成が関与し、接合子はなお若返りの途中段階にあると考えられた。本稿ではこの論文を手がかりに、胚発生における若返り現象と老化開始点の再定義という視点から、その意義を整理する。
1. イントロダクション
老化は、分子損傷の蓄積に伴って進行し、機能低下や脆弱性の増大をもたらす生物学的過程である。一方で、生殖系列は生命の連続性を担うことから、古くより老化しない系譜とみなされてきた。しかし実際には、生殖細胞も代謝的に活動しており、加齢に伴う分子的変化を蓄積しうるため、生殖系列もまた老化の影響を受ける可能性がある。
この点をふまえ、ここでは、生殖系列に蓄積した加齢性変化が受精後のどこかで若返りによってリセットされるのではないか、という仮説を提示した。もしこの仮説が正しければ、胚発生の初期には、生物学的年齢が最小となる時点、すなわちグラウンド・ゼロ(ground zero)が存在するはずである。図1Aは、この考え方を模式的に示したものであり、生殖細胞が老化を受けつつ受精後に若返り、その後もっとも若い状態を経て再び老化へ向かう、という全体像を表している。
この仮説を検証するため、DNAメチル化情報に基づいて生物学的年齢を推定するエピジェネティッククロックに着目した。エピジェネティッククロックは、加齢関連状態や寿命介入への応答を捉えるだけでなく、細胞初期化に伴う若返りも反映しうる指標である。そこで、新たに多組織型エピジェネティッククロックを構築し、既存の複数のクロックと併用することにより、マウスおよびヒトの出生前発生における生物学的年齢の推移を解析した。

2. 生殖系列は受精後に若返るのか
2.1 若返り仮説の背景
ここではまず、生殖系列が本当に老化しうるのか、そしてその加齢性変化が受精後に若返りによってリセットされるのか、という問いを立てた。生殖系列は長く老化しないと考えられてきたが、実際には代謝的に活動しており、分子損傷やエピ変異などの加齢関連変化を蓄積しうる。もしそうであるならば、新しい個体が若い状態から出発するためには、胚発生のどこかで生物学的年齢が低下する過程が必要になる。図1Aは、この考え方を模式的に示したものであり、生殖細胞は発生期から成体期にかけて老化し、その後、受精後の子孫において若返りを受け、生物学的年齢が最小となるグラウンド・ゼロに至るという仮説を示した。
2.2 初期胚発生におけるエピジェネティック年齢の低下
この仮説を検証するために、マウス初期胚のDNAメチル化データに対して複数のエピジェネティッククロックを適用した。まず、5つの独立データセットにrDNAクロックを適用したところ、胚齢 E6.5/E7.5(マウスの受精後日齢6.5日後から7.5日後)の時期の胚で、平均エピジェネティック年齢がそれ以前の段階よりも一貫して低いことが示された(図1B)。さらに、2つのマウスRRBSデータセットに4種類のゲノムワイドなエピジェネティック老化時計を適用した場合にも、同じ時期にエピジェネティック年齢の低下が確認された(図1C)。これらの結果から、初期胚発生の過程で生物学的年齢は単に維持されるのではなく、いったん低下すると考えた。
2.3 胚性幹細胞およびiPS細胞における若年状態の維持
この解釈を補強するために、初期胚様状態に対応するヒトES細胞およびiPS細胞についても解析した。Horvath のヒト多組織クロックで評価すると、これらの細胞は継代を重ねてもエピジェネティック年齢がきわめて低く、100継代を超えても大きな上昇を示さなかった(図1D)。この所見から、初期胚発生に相当する細胞状態では、少なくともエピジェネティック年齢の観点から老化がほとんど進行しないことが示唆された。
2.4 まとめ
以上より、生殖系列に蓄積した加齢性変化は、受精後の初期胚発生過程で若返りによって巻き戻される可能性が示された。すなわち、生殖系列はあらかじめ無時間的に若いのではなく、いったん老化しうるが、その後の胚発生初期に若返りを受けると考えられた。この若返りの過程には、生物学的年齢が最小となる時点が存在し、その位置づけが次の論点となる。
3. ground zero はどこにあるのか
3.1 最小生物学的年齢の探索
ここでは、生物学的年齢が最小となる時点、すなわちグラウンド・ゼロの位置を明らかにするため、初期胚発生と後期胚発生のデータを連結して解析した。具体的には、ゲノムワイドなマウスのエピジェネティッククロックによる解析結果を図4Aに、rDNAクロックによる解析結果を図4Bに示し、胚発生全体を通じたエピジェネティック年齢の推移を比較した。
3.2 胚発生全体にみられるU字型の年齢動態
この解析では、発生段階をまたいで利用可能な時計サイト数が一定でなかったため、予測年齢の絶対値にはずれが生じた。しかし、年齢動態そのものはどの解析でも明瞭なU字型を示し、いったん低下したエピジェネティック年齢がその後ふたたび上昇へ転じることが分かった。最小値は6例中4例で E6.5/E7.5、2例で E10.5 に認められ、この結果からグラウンド・ゼロはまず E4.5〜E10.5 の範囲にあると考えた(図4A, B)。

3.3 グラウンド・ゼロ候補の絞り込み
つぎに、この範囲をさらに絞り込むため、E3.5 から E11.5 までの中期胚発生段階を含む dataset 20 に対して、ゲノムワイドなエピジェネティッククロックと rDNA クロックを適用した(図4C, D)。その結果、エピジェネティック年齢の最小値は6例中5例で E6.5/E7.5、1例で E8.5 に認められた。したがって、グラウンド・ゼロは E4.5〜E10.5 の範囲に位置づけられるものの、もっとも可能性が高い時点は E6.5/E7.5 であると判断した。
3.4 E6.5/E7.5 の発生学的意義
この E6.5/E7.5 は、マウスでは原腸形成に対応する時期であり、三胚葉の形成と多能性からの離脱が進行する段階にあたる。考察では、この時期に胚が最小の生物学的年齢に到達すると位置づけ、グラウンド・ゼロが個体老化の開始点を画すると考えた。すなわち、若返りはこの時点に向かって進行し、その後にエピジェネティック年齢の再上昇が始まる、という流れである。
3.5 まとめ
以上より、グラウンド・ゼロは広くは E4.5〜E10.5 の範囲に存在すると考えられたが、複数の時計と追加データセットを統合すると、E6.5/E7.5 が最有力候補として浮かび上がった。ここは単なる年齢推定上の最小値ではなく、発生プログラムの大きな転換点と重なる時期であり、若返りの完了点であると同時に、その後の個体老化の出発点として位置づけられた。
4. 個体老化はいつ始まるのか
4.1 グラウンド・ゼロ以後の年齢上昇
ここでは、グラウンド・ゼロの後にエピジェネティック年齢が実際に上昇へ転じるかどうかを検討した。まず、初期胚と後期胚の両方を含むマウスのデータセットに rDNA クロックを適用したところ、E6.5 および E7.5 のエピジェネティック年齢は、E13.5 より有意に低いことが示された(図2A)。この結果は、グラウンド・ゼロの時点を過ぎた後、より後期の発生段階では生物学的年齢が上昇していることを示している。
4.2 マウス胚発生後期における一貫した年齢上昇
つぎに、マウス胚の E10.5 から出生までの 9 時点に対して、ゲノムワイドなメチル化クロックを適用した。その結果、全データをまとめてみた場合にも、組織ごとに分けてみた場合にも、エピジェネティック年齢は全体として一貫した上昇傾向を示した(図2B, C)。一部に有意差の出ない例外はあるものの、ほぼすべての組織で上昇方向の変化が認められたことから、少なくともマウスでは、発生中期以降に個体の生物学的年齢が増加し始めると考えた。

4.3 ヒト胎児期データにみられる同様の傾向
同様の傾向がヒトでもみられるかを調べるため、4つの独立したヒト胎児 450K メチル化アレイデータセットに Horvath の多組織 DNAm クロックを適用した。その結果、全データをまとめた解析でも、組織別の解析でも、エピジェネティック年齢は上昇、あるいは少なくとも低下しない傾向を示した(図2D, E)。図2E のキャプションでも、組織別解析では有意な上昇が5件、非有意な上昇が9件、非有意な低下が4件、有意な低下は0件であったことが示されている。したがって、ヒト胎児期においても、グラウンド・ゼロ以後には生物学的年齢の上昇が始まると考えた。
4.4 まとめ
以上より、グラウンド・ゼロののち、マウスとヒトのいずれにおいてもエピジェネティック年齢は上昇へ転じることが示された。とくにマウスでは E10.5 以降、ヒトでは胎児期データの範囲内で、年齢上昇の傾向が一貫して認められた。これらの結果から、個体老化は胚発生中期にはすでに始まっていると考えた。エピジェネティッククロックが老化過程を反映する指標であるとすれば、個体老化の開始点はグラウンド・ゼロ以後、すなわち発生の比較的早い段階に位置づけられる。
5. 若返り状態の細胞モデルとしての胚性幹細胞とiPS細胞
5.1 多能性細胞は老化するのか
ここでは、初期胚発生に対応する細胞状態が、培養下でも老化するのかどうかを検討した。まず、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)について、Horvath のヒト多組織エピジェネティッククロックを用いて年齢を評価した。その結果、これらの細胞は100回を超えて継代してもエピジェネティック年齢がきわめて低く、多くはゼロ未満の値を示した(図1D)。人工的な培養条件下で長期継代を行っても年齢上昇がほとんどみられなかったことから、初期胚発生に対応する多能性細胞は、本質的に老化しにくい状態にあると考えた。
5.2 マウスES細胞の初期継代におけるエピジェネティック年齢
つぎに、マウスES細胞について、樹立直後の段階(継代0代)と初期継代段階(継代5代)におけるエピジェネティック年齢を評価した。解析は、自己複製を支持する2種類の阻害剤であるPD0325901(分化阻害)とCHIR99021(自己複製サポート)をともに含む 2i条件、PD0325901のみを含む条件、阻害剤を含まない条件の3条件で行った(図3A, B)。その結果、2i条件ではなく、阻害剤を一部またはまったく含まない条件で培養した細胞のほうが、より低いエピジェネティック年齢を示した。また、これらのES細胞の年齢は、E3.5胚とE6.5胚のエピブラストのあいだに位置していた。

5.3 培養条件と発生段階との対応
DNAメチル化プロファイルの主成分解析では、2i条件で培養したES細胞は、E3.5胚のエピブラストおよび栄養外胚葉に近い位置に分布した一方、阻害剤を一部またはまったく含まない条件の細胞は、それらとは異なる位置を示した(図3C)。この結果から、2i条件下のES細胞は未分化状態を比較的よく維持しており、E3.5胚に近い状態のモデルとして位置づけられるのに対し、自己複製の維持が不完全な条件では分化が進み、より後期の胚発生段階に対応する状態へ移行すると考えた。さらにその過程では、生体内でみられたのと同様の若返りが進行している可能性が示唆された。
5.4 まとめ
以上より、ES細胞およびiPS細胞は、エピジェネティック年齢の観点からみて、若返り後のきわめて若い状態を長く維持しうる細胞群であることが示された。とくにヒトES細胞およびiPS細胞では、長期継代後も低いエピジェネティック年齢が保たれていた。また、マウスES細胞では、培養条件に応じて発生段階との対応が変化し、自己複製の維持が不完全な条件では、発生の進行とともに若返りの過程をたどる可能性が示された。これらの結果から、多能性細胞は、初期胚発生における若年状態を培養下で捉えるための有用なモデルであると考えた。
6. 若返りイベントを支えるエピゲノム制御機構
6.1 原腸形成期の若返りと TET 酵素
ここではまず、グラウンド・ゼロの最有力候補である E6.5/E7.5 が原腸形成期に対応することに着目し、この時期の若返りに TET 酵素が関与する可能性を検討した。TET1、TET2、TET3 は 5-メチルシトシンの酸化を介して脱メチル化を支える酵素であり、原腸形成に重要な役割をもつことが知られている。そこで、TET 欠損胚および TET 欠損 ES 細胞のデータにエピジェネティッククロックを適用し、若返りイベントとの関係を調べた。
6.2 TET 欠損でみたエピジェネティック年齢の変化
まず、E6.5 のエピブラストを用いた解析では、TET 三重欠損胚と対照胚のあいだに、rDNA クロックで評価したエピジェネティック年齢の差は認められなかった(図5A)。この時点までは、形態や全体的な DNA メチル化水準にも大きな差がないことが既報として示されており、その所見と整合的であった。
一方、より後期の原腸形成段階をみるため、ES 細胞から分化させた胚様体の単一細胞データを解析した。これらの細胞は、RNA 発現プロファイルを in vivo の原腸形成アトラスに対応づけることで系譜と発生段階が割り当てられている。そこに単一細胞用のエピジェネティック時計を適用したところ、E7 エピブラストおよび E8 中胚葉に対応づけられた TET 三重欠損胚様体では、対照よりもエピジェネティック年齢が高いことが示された(図5B)。この年齢上昇は、全体的な DNA メチル化上昇も伴っていた。以上より、TET 酵素は原腸形成期におけるエピジェネティック年齢の低下、すなわち若返りに機構的に関与する可能性が示された。

6.3 DNA メチル基転移酵素の寄与
つぎに、DNA メチル基転移酵素の役割を検討した。DNMT1 は複製後の DNA メチル化維持を主に担い、DNMT3A と DNMT3B は発生過程における de novo メチル化を担う。そこで、E8.5 胚における DNMT1 単独欠損、DNMT3A/DNMT3B 二重欠損、および対照胚のデータに対して、複数のエピジェネティッククロックを適用した(図6)。その結果、DNMT1 欠損胚および DNMT3A/DNMT3B 二重欠損胚では、エピジェネティック年齢の一貫した上昇が認められ、6種類の時計のうち5種類で同様の傾向が得られた。
この所見は、これらの欠損胚で E8.5 に発生遅延がみられ、野生型およびヘテロ接合対照に比べて全体的な DNA メチル化水準が低下しているという既報と整合していた。したがって、若返りイベントには脱メチル化だけでなく、DNA メチル化の維持と de novo メチル化の双方が重要であると考えた。

6.4 まとめ
以上より、若返りイベントは単なる受動的な年齢低下ではなく、原腸形成期に進行するエピゲノム再編成と深く結びついた現象であることが示された。TET 酵素はエピジェネティック年齢の低下に関与しうる一方、DNMT 群はその過程を適切に成立させるために必要であった。すなわち、若返りは脱メチル化と再メチル化の両側面を含む、動的なエピゲノム制御の結果として生じると考えられた。
7. 接合子・配偶子・体細胞の比較から何が見えるか
7.1 接合子はすでに最も若いのか
ここでは、生殖系列の若返りが受精の時点ですでに完了しているのか、それとも受精後の胚発生過程でさらに進行するのかを検討した。そのために、接合子、精子、卵母細胞、および成体組織を含むデータセットを用い、複数のエピジェネティッククロックによってそれぞれのエピジェネティック年齢を比較した。
7.2 配偶子・体細胞と比較した接合子の位置づけ
解析には、接合子、精子、卵母細胞に加えて、成体の心臓、脳、肝臓の試料を含む dataset 1 を用いた。6種類のエピジェネティッククロックのうち、多くの時計で、接合子と成体組織のあいだに有意な差は認められなかった。同様に、接合子と卵母細胞のあいだでも多くの場合に有意差はなく、接合子と精子のあいだでも大部分で有意差は認められなかった。具体的には、接合子と成体組織では 6時計中5時計、接合子と卵母細胞では 6時計中5時計、接合子と精子では 6時計中4時計で、有意差のない結果であった。
7.3 この結果が意味すること
これらの結果から、接合子はまだ完全には若返っていないと考えた。もし受精の時点ですでに若返りが完了しているのであれば、接合子は他の配偶子や成体組織よりも一貫して低いエピジェネティック年齢を示すはずである。しかし実際には、そのような明瞭な低下は認められなかった。したがって、若返りは受精そのものによって完了するのではなく、受精後の初期胚発生過程でさらに進行すると解釈した。これは、本論文で示した初期胚発生中の若返りイベントの存在を、別の角度から支持する結果である。
7.4 まとめ
以上より、接合子は生殖系列の若返りがすでに完了した到達点ではなく、むしろ若返りの途中段階として位置づけられた。すなわち、生殖系列に蓄積した加齢性変化は、受精後ただちに消失するのではなく、その後の初期胚発生を通じてさらに低下し、最終的にグラウンド・ゼロへと至ると考えた。
8.結論
本研究では、生殖系列はあらかじめ老化しない特別な系譜として存在するのではなく、加齢に伴う分子的変化を受けうる一方で、受精後の初期胚発生過程において若返りを受ける可能性を示した。複数のエピジェネティッククロックを用いた解析により、マウス初期胚では E6.5/E7.5 付近でエピジェネティック年齢が低下し、ヒトES細胞およびiPS細胞でもきわめて低いエピジェネティック年齢が維持されることが示された。これらの結果は、初期胚発生において生物学的年齢がいったん低下する若返りイベントが存在することを支持している。
さらに、胚発生全体を通じた解析から、生物学的年齢の最小点である グラウンド・ゼロ は E4.5〜E10.5 の範囲に位置し、とくに E6.5/E7.5 が最有力候補であると考えた。この時期は原腸形成に対応しており、若返りの完了点であると同時に、その後の個体老化の開始点として位置づけられた。実際、マウスおよびヒトの胎児データでは、グラウンド・ゼロ以後にエピジェネティック年齢の上昇が認められ、個体老化は胚発生中期にはすでに始まっている可能性が示された。
また、この若返りイベントは単なる受動的変化ではなく、原腸形成期に進行するエピゲノム再編成と深く結びついていた。TET 酵素の欠損では原腸形成後期にエピジェネティック年齢の上昇が認められ、DNMT 群の欠損でも同様に年齢上昇が生じたことから、若返りには脱メチル化だけでなく、DNA メチル化の維持および de novo メチル化も重要であると考えられた。さらに、接合子は精子、卵母細胞、成体組織と比べて一貫して低いエピジェネティック年齢を示さなかったことから、若返りは受精の時点で完了するのではなく、その後の初期胚発生過程で進行すると解釈された。
以上より、本研究は、胚発生の初期に自然な若返り現象が存在し、その最小点であるグラウンド・ゼロが個体老化の起点を画する可能性を示した。老化を出生後にはじまる現象としてではなく、発生過程のなかに位置づけて捉え直した点に、本研究の大きな意義がある。
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