〜 おへその乱読1000本ノック #0126 ~ 腸内細菌叢はタンパク質制限に対するFGF21応答を媒介する
第126回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
前回は、タンパク質制限が肝臓のFGF21産生を高め、細胞内で感知されたアミノ酸不足が内分泌シグナルに変換されて、全身のエネルギー代謝を再編成する仕組みを見てきました。今回は、そのFGF21応答をさらに上流で調節する因子として腸内細菌叢に注目します。
Martinら(2021)は、タンパク質制限による肝臓FGF21応答が無菌マウスでは著しく弱まることを示しました。また、食物繊維で腸内細菌叢の構成を変えると、FGF21応答の強さも変化しました。つまり、タンパク質不足に対するFGF21応答は宿主だけで完結するものではなく、腸内細菌叢による栄養環境への適応と結びついているのです。
この研究は、「タンパク質制限→肝FGF21」という経路に、腸内細菌叢による栄養感知という新たな調節層が加わることを示しました。栄養情報が、細胞内シグナルや内分泌系だけでなく、腸内細菌叢まで含む全身ネットワークによって統合されることを示す論文です。

要旨
タンパク質制限は必須アミノ酸不足をもたらし、肝臓のFGF21産生を介して摂食量、エネルギー消費、体重などを調節する適応的な栄養ストレス応答を誘導する。本研究では、このFGF21応答に腸内細菌叢がどのように関与するかを検討した。タンパク質制限食を与えた通常マウスでは、肝Fgf21発現と血中FGF21濃度が上昇したが、無菌マウスではこれらの応答が著しく弱まり、Asnsや3pgdなどのアミノ酸代謝関連遺伝子の誘導や体重減少も抑えられた。
さらに、タンパク質制限食への食物繊維添加は腸内細菌叢とFGF21応答を異なる方向に変化させた。セルロースは用量依存的にFGF21上昇を抑え、eIF2αリン酸化やアミノ酸生合成関連遺伝子の誘導を弱めるとともに、体重や脂肪・肝重量の低下を緩和した。一方、イヌリンではFGF21高値と体重減少が維持された。
腸内細菌叢解析では、セルロース添加によりParabacteroidesやLactococcusなどが増加し、これらの菌群はFGF21濃度と負に相関した。なかでもParabacteroides distasonisはセルロース存在下で生存が維持され、ヒスチジン、リジン、メチオニン、トレオニンなどの必須アミノ酸をde novo合成する遺伝的能力をもっていた。
以上から、タンパク質制限に対する肝FGF21応答は宿主単独で成立するのではなく、食事に応じて変化する腸内細菌叢によって調節されることが示された。腸内細菌由来のアミノ酸やその他の代謝物が宿主の栄養不足シグナルを緩和する可能性が示唆されるが、その因果機構は今後の検証課題である。
1.タンパク質制限に対するFGF21応答に腸内細菌叢は関与するのか
1.1 FGF21はタンパク質不足に応答する内分泌因子である
食餌中のタンパク質やアミノ酸が不足すると、哺乳類はその栄養状態に適応するため全身代謝を変化させる。その中心的な内分泌因子の一つがfibroblast growth factor 21(FGF21)である。FGF21は複数の組織で発現するが、血中FGF21の主な供給源は肝臓であり、食餌中の総タンパク質量や個別アミノ酸の制限によって上昇する。この応答はエネルギー摂取量の低下を必要とせず、FGF21は宿主のタンパク質・アミノ酸状態を反映する栄養シグナルとして機能する。
タンパク質制限時に上昇したFGF21は、摂食量やエネルギー消費を増加させる一方、体重や脂肪量を低下させ、長期的な栄養不足に適応する代謝応答を誘導する。つまりこれまで、タンパク質不足に対する宿主応答は、栄養ストレスが肝臓でFGF21という内分泌シグナルに変換され、全身へ伝わる仕組みとして理解されてきた。
1.2 腸内細菌叢も食事中の栄養変化に適応する
一方、食事組成の変化にさらされるのは宿主だけではない。腸内細菌叢も利用可能な栄養素に応じて構成や代謝活動を変化させ、そこで生じる微生物由来代謝物は宿主の生理機能に影響する。とくに長期的な栄養不均衡は腸内環境に選択圧を与え、その条件に適応できる細菌群を増やす可能性がある。
そこで本研究では、タンパク質制限に対するFGF21応答が宿主だけで完結するのか、それとも腸内細菌叢の適応を介して調節されるのかを検証した。無菌マウスを用いて腸内細菌叢そのものの必要性を調べるとともに、タンパク質制限食にセルロースまたはイヌリンを添加して腸内細菌叢を変化させ、FGF21応答との関係を解析した。
本研究が問うのは、単に「タンパク質制限でどの細菌が増えるか」ではなく、腸内細菌叢が宿主によるタンパク質不足の感知とFGF21応答そのものに組み込まれているかという点である。この問いに答えるため、食餌介入、無菌マウス、腸内細菌叢解析、細菌の単離培養を段階的に組み合わせて検証が進められた。次章では、その研究デザインを整理する。
2.研究デザイン:食事・腸内細菌叢・FGF21の関係を段階的に検証する
2.1 タンパク質量と食物繊維を組み合わせてFGF21応答を解析する
本研究ではまず、通常飼育した6〜8週齢の雄C57BL/6マウスを用い、タンパク質量と食物繊維の種類・量を組み合わせた食餌介入を行った。タンパク質十分食(protein-sufficient:PS)はタンパク質18%、タンパク質制限食(protein-restricted:PR)は10%とし、さらにセルロースまたはイヌリンを添加した。セルロースとイヌリンはPR食では5%または15%、PS食では5%を用い、計8種類の食餌条件を設定した(図1)。各群10匹を21日間飼育し、体重と摂食量を3日ごとに測定した。実験終了時には便、血液、肝臓、骨格筋、脂肪組織を採取した。
この設計により、タンパク質制限そのものによる応答に加え、食物繊維の種類と添加量がFGF21応答や宿主の代謝表現型にどう影響するかを比較できる。各食餌は等カロリーとなるよう設計し、タンパク質量と食物繊維組成の違いを中心に評価した(図1)。

図1 研究デザイン
通常飼育マウスにPS食またはPR食を21日間与え、セルロースまたはイヌリンの添加条件を組み合わせた。体重と摂食量を経時的に測定し、実験終了時に血液、組織、便を採取してFGF21応答、代謝表現型、腸内細菌叢を解析した。
2.2 無菌マウスを用いて腸内細菌叢の必要性を検証する
次に、タンパク質制限に対するFGF21応答が腸内細菌叢を必要とするかを直接検証するため、8週齢の雄無菌(germ-free:GF)C57BL/6Jマウスを用いた。14日間の馴化後、PS食(18%タンパク質)またはPR食を自由摂取させた。GF実験ではタンパク質不足を明確にするため、PR食のタンパク質濃度を通常飼育マウスの実験より低い8%とし、28日間飼育した。体重と摂食量を毎週測定し、終了時に血液と肝臓を採取した。
通常飼育マウスとGFマウスにおけるタンパク質制限応答を比較することで、宿主固有の栄養感知だけでFGF21応答が成立するのか、それとも腸内細菌叢からの情報が必要なのかを検証した。
2.3 宿主のFGF21応答と腸内細菌叢を多層的に解析する
宿主側の応答は、血中FGF21濃度、肝臓の遺伝子発現、栄養ストレスシグナル、体重および組織重量から評価した。血中FGF21はELISAで測定し、肝Fgf21に加え、アミノ酸不足への適応に関わるAsnsと3pgdのmRNA量を定量RT-PCRで解析した。さらにWestern blotで肝臓のeIF2αリン酸化を測定し、FGF21誘導につながる栄養ストレス経路の活性化を評価した(参考図1)。
腸内細菌叢については、実験開始時と3週後の便からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子V4領域をMiSeqでシーケンスした。得られた配列をDADA2で処理し、Greengenesデータベースで分類した。菌叢全体の変化はα多様性、Bray–Curtis距離に基づくβ多様性と主座標分析(PCoA)で評価し、食餌条件間で存在量が異なる細菌群をDESeq2で抽出した。さらに、血中FGF21と細菌群の相対存在量との関係をPearson相関で解析し、FGF21応答と関連する候補菌を絞り込んだ(参考図1)。
候補菌については、15%セルロースを添加したPR食を与えたマウスの便から細菌を嫌気的に単離し、16S rRNA遺伝子配列で菌種を同定した。得られたParabacteroides distasonisについて、セルロースまたはイヌリンを含む最小培地で増殖・生存を解析し、窒素源の有無による影響も検証した。さらに全ゲノムシーケンスを行い、RASTによる機能アノテーションからアミノ酸代謝・生合成に関わる遺伝子群を解析した(参考図1)。

食餌介入で得られた血液、肝臓、便、組織試料を用い、FGF21応答、腸内細菌叢、候補菌の機能を段階的に解析した研究フローを示す。宿主側ではELISA、qRT-PCR、Western blot、表現型評価を行い、腸内細菌叢は16S rRNA遺伝子解析と多様性・差次的存在量・相関解析によって評価した。さらに候補菌Parabacteroides distasonisを単離し、培養試験と全ゲノム解析から代謝能力を検討した。
3.食物繊維はタンパク質制限によるFGF21栄養ストレス応答を変える
3.1 タンパク質制限は肝FGF21応答を誘導する
まず通常飼育マウスにタンパク質十分食(PS、18%)またはタンパク質制限食(PR、10%)を21日間与え、FGF21応答を比較した。PR食ではPS食に比べて血中FGF21濃度が上昇し、肝Fgf21発現も増加した(図2a,b)。この結果は、タンパク質制限が肝臓のFGF21産生を誘導するという既報を再現するものであり、本研究における栄養ストレス応答の基準となった。
PR食を与えたマウスでは、PS食群に比べて体重増加が抑制された一方、摂食量はむしろ増加した(図2c,d)。また、脂肪組織重量と肝重量も低下したが、骨格筋重量には明瞭な低下はみられなかった(図2e–g)。つまり、タンパク質制限では、FGF21上昇とともに、摂食量増加を伴いながら体重や脂肪量が低下する特徴的な代謝表現型がみられた。

図2 食物繊維はタンパク質制限に対するFGF21応答と代謝表現型を変化させる
a:血中FGF21濃度。b:肝Fgf21遺伝子発現。c:21日間の体重変化。d:1日あたりの平均エネルギー摂取量。e:精巣上体脂肪重量。f:肝重量。g:後肢骨格筋重量。PSはタンパク質十分食、PRはタンパク質制限食を示す。
3.2 セルロースはFGF21応答を抑え、成長低下を緩和する
次に、タンパク質制限下のFGF21応答が食物繊維によって変わるかを検討した。発酵性の高いイヌリンは腸内細菌に利用されやすく、アミノ酸やその他の代謝物の供給を通じてタンパク質不足を緩和すると予想された。しかし実際には、PR食にセルロースを添加した群で血中FGF21濃度と肝Fgf21発現が低下し、イヌリン添加群ではFGF21高値が維持された(図2a,b)。さらに、セルロースによるFGF21抑制効果は5%より15%添加で強く、用量依存的であった。
この違いは成長にも表れた。繊維を含まないPR食やイヌリン添加PR食では体重増加が抑制されたのに対し、セルロース添加PR食ではPS食群に近い成長軌道を示した(図2c)。また、PRによる脂肪組織重量と肝重量の低下もセルロースによって緩和されたが、骨格筋重量には食餌群間で大きな差はみられなかった(図2e–g)。
したがって、セルロースは単にFGF21濃度を下げるだけでなく、タンパク質制限に伴う成長抑制や脂肪・肝重量の低下まで緩和した。一方、イヌリンではFGF21高値と体重増加抑制が維持されており、食物繊維の効果は種類によって大きく異なった。
3.3 セルロースはeIF2αを介するアミノ酸不足応答も抑制する
FGF21応答の違いが、その上流にある栄養ストレス経路にも及ぶかを検証した。タンパク質不足ではGCN2を介してeIF2αがリン酸化され、肝Fgf21発現が誘導される。繊維を含まないPR食では肝eIF2αリン酸化がPS食より明瞭に上昇したが、セルロースまたはイヌリンを添加するとこのリン酸化は低下した。なかでもセルロースによる抑制が強く、血中FGF21の変化と同じ傾向を示した(図3a,b)。
さらに、アミノ酸不足への代償応答として誘導されるAsnsと3pgdの肝発現を解析した。これらはそれぞれアスパラギンとセリンの生合成に関わり、繊維を含まないPR食ではいずれも上昇した。セルロースを5%または15%添加するとAsnsと3pgdの発現は低下し、PS食群に近いレベルまで抑制された。一方、イヌリンでは3pgdはある程度低下したものの、Asnsは高値を維持した(図3c,d)。
この結果は、セルロースの作用がFGF21そのものにとどまらず、eIF2αリン酸化やアミノ酸生合成遺伝子の誘導を含む栄養ストレス応答全体を弱めることを示している。つまり、食物繊維の種類によって、タンパク質制限に対する宿主の栄養ストレス応答の強さが変化すると考えられる。

図3 食物繊維はタンパク質制限に伴うFGF21関連栄養ストレス経路を変化させる
a:タンパク質不足に応答するFGF21誘導経路の模式図。b:肝臓におけるeIF2αリン酸化のWestern blot解析。c:肝Asns遺伝子発現。d:肝3pgd遺伝子発現。PSはタンパク質十分食、PRはタンパク質制限食、Cはセルロース、Iはイヌリンを示す。
4.食物繊維はタンパク質制限下の腸内細菌叢を異なる方向へ変化させる
4.1 セルロースとイヌリンでは腸内細菌叢への影響が異なる
食物繊維によるFGF21応答の違いが腸内細菌叢の変化と関係するかを調べるため、各食餌群の3週後の便を用いて16S rRNA遺伝子解析を行った。まずBray–Curtis距離に基づく主座標分析(PCoA)で菌叢構造を比較すると、繊維を含まないPS食群とPR食群では個体間のばらつきが大きかった。一方、5%セルロースを添加するとPS食群とPR食群の分布が互いに近づき、タンパク質量の違いに伴う菌叢差が小さくなる傾向を示した(図4a)。これに対し5%イヌリンでは、PS食群とPR食群はタンパク質状態に応じて異なる分布を維持した。
α多様性については、繊維を含まないPS食群とPR食群の間に大きな差はみられなかったが、セルロースを添加するとPS、PRのいずれでも多様性が増加し、その増加はイヌリン添加群より大きかった(図4b)。つまり食物繊維は、腸内細菌叢を変化させるだけでなく、その種類によって菌叢構造と多様性に異なる変化をもたらした。

図4 食物繊維は腸内細菌叢の構成を異なる方向へ変化させる
a:Bray–Curtis距離に基づく腸内細菌叢の主座標分析(PCoA)。b:各食餌群における細菌群のα多様性。c:門レベル(上段)および属レベル(下段)の相対存在量。d:繊維を含まないPR食群とPS食群の間で存在量が異なる細菌属のDESeq2解析。e:繊維を含まないPR食群と15%セルロース添加PR食群の間で存在量が異なる細菌属のDESeq2解析。PSはタンパク質十分食、PRはタンパク質制限食、Cはセルロース、Iはイヌリンを示す。
4.2 食物繊維による菌叢変化は背景となるタンパク質量に依存する
菌叢組成を門および属レベルで解析すると、食物繊維の影響は背景となる食餌のタンパク質量によって異なった(図4c)。たとえばVerrucomicrobiaはセルロース、イヌリンのいずれでも増加し、この変化は主にAkkermansia属の増加によるものであった。しかしPS食ではイヌリンによるAkkermansiaの増加が大きかったのに対し、PR食ではセルロースによる増加がより明瞭であった。Bacteroidesも、PS食とPR食の双方で食物繊維添加によって増加した。
この結果は、セルロースやイヌリンの作用が食物繊維固有の性質だけで決まるのではなく、タンパク質制限という栄養環境との組み合わせによって変化することを示している。とくに一般に難発酵性とされるセルロースが、PR条件では腸内細菌叢を大きく変化させた点が特徴的である。
4.3 セルロースは特定の細菌群を選択的に増加させる
次にDESeq2を用いて、食餌条件間で相対存在量が異なる細菌群を抽出した。まず繊維を含まないPR食群とPS食群を比較すると、PR食群ではOscillospira、Lactobacillus、Ruminococcus、Bacteroides、Dehalobacteriumなどが増加していた(図4d)。これは、タンパク質制限そのものが腸内細菌叢の構成を変化させることを示す。
さらに、FGF21応答を最も強く抑制した15%セルロース添加PR食群と、繊維を含まないPR食群を比較した。その結果、15%セルロース添加群ではParabacteroides、Akkermansia、Turicibacter、Streptococcus、Adlercreutzia、Lactococcus、Oscillospiraなどが増加した(図4e)。
さらにセルロースとイヌリンを直接比較すると、15%添加条件ではParabacteroides、Blautia、Streptococcus、Lactococcusなどがセルロース群で多く、Sutterellaなどはイヌリン群で多かった。同様の傾向は5%添加条件でもみられ、ParabacteroidesやLactococcusはセルロース群、Sutterellaはイヌリン群で増加した(補足図1)。
したがって、第3章でみられたセルロースとイヌリンによるFGF21応答の違いには、食物繊維によって選択される腸内細菌群の違いが関与する可能性がある。ただし、この段階で示されているのは菌叢構成とFGF21応答の対応関係であり、特定の細菌がFGF21を直接制御することまでは証明されていない。

補足図1 セルロースとイヌリンでは増加する細菌群が異なる
a:15%セルロース添加PR食群と15%イヌリン添加PR食群の間で存在量が異なる細菌属のDESeq2解析。b:5%セルロース添加PR食群と5%イヌリン添加PR食群の比較。セルロース群ではParabacteroidesやLactococcusなどが、イヌリン群ではSutterellaなどが相対的に増加した。Cはセルロース、Iはイヌリンを示す。
5.腸内細菌叢がなければタンパク質制限によるFGF21応答は成立しない
5.1 無菌マウスではFGF21とアミノ酸不足応答が著しく弱まる
ここまでの解析から、タンパク質量や食物繊維によって腸内細菌叢の構成が変化し、その変化がFGF21応答と対応することが示された。そこで次に、腸内細菌叢そのものがタンパク質制限に対するFGF21応答に必要かを検証した。通常飼育マウスと無菌(GF)マウスにタンパク質十分食(PS、18%)またはタンパク質制限食(PR、8%)を28日間与え、宿主応答を比較した。
通常飼育マウスでは、PR食によって血中FGF21濃度が大きく上昇し、肝Fgf21発現も増加した。これに対しGFマウスでは、PR食を与えても血中FGF21と肝Fgf21発現の上昇は著しく弱く、PS食群に近い水準にとどまった(図5a,b)。
同様の違いは、アミノ酸不足への代償応答にもみられた。通常飼育マウスではPR食によって肝Asnsと3pgd発現が増加したが、GFマウスではこれらの誘導も弱まった(図5c,d)。つまり腸内細菌叢の欠如は、FGF21だけでなく、タンパク質不足に伴う肝臓のアミノ酸ストレス応答全体を鈍化させた。

図5 腸内細菌叢はタンパク質制限に対するFGF21応答に影響する
a:通常飼育マウスおよび無菌マウスにおける血中FGF21濃度。b:肝Fgf21遺伝子発現。c:肝Asns遺伝子発現。d:肝3pgd遺伝子発現。e:28日間の体重変化。f:1日あたりの平均エネルギー摂取量。通常飼育(Conv)および無菌(GF)マウスにPS食またはPR食(8%タンパク質)を与えた。PSはタンパク質十分食、PRはタンパク質制限食を示す。
5.2 無菌マウスではタンパク質制限による体重減少も消失する
FGF21応答の低下は個体レベルの表現型にも反映された。通常飼育マウスではPR食の開始直後から体重が低下し、その後もPS食群より低い体重で推移した。一方、GFマウスではPR食を与えてもこの体重減少はみられず、PS食群と同様に体重が増加した(図5e)。
この違いは摂食量では説明できなかった。通常飼育マウスとGFマウスの間で1日あたりのエネルギー摂取量に明瞭な差はみられず、GFマウスで体重減少が起こらなかったのは、単に多く食べたためではなかった(図5f)。
この表現型は、タンパク質制限下のFGF21欠損マウスで報告されている反応と類似している。FGF21欠損マウスでは、PRによる摂食行動、エネルギー消費、体重、代謝遺伝子発現の変化が失われることから、腸内細菌叢を欠くことでFGF21経路そのものがタンパク質不足に反応しにくくなった可能性が示された。
以上から、タンパク質制限に対するFGF21応答は宿主だけで完結するものではなく、腸内細菌叢からの情報を必要とする栄養ストレス応答であることが示された。すなわち、腸内細菌叢の存在や代謝活動が、宿主によるタンパク質不足の感知とFGF21応答の調節に組み込まれていると考えられる。
6.候補菌はどのようにFGF21応答を調節するのか
6.1 FGF21応答と関連する細菌群を絞り込む
第4章では、セルロースとイヌリンによって増加する細菌群が異なることが示された。そこで、これらの菌叢変化のうちFGF21応答と関連する細菌群を絞り込むため、血中FGF21濃度、肝Asns、3pgd発現と各細菌属の相対存在量とのPearson相関を解析した。
その結果、Sutterellaは血中FGF21濃度と正に相関した。一方、Parabacteroides、Lactococcus、Blautia、Streptococcus、AnaerofustisはFGF21と負に相関した(図6a)。さらに、Parabacteroides、Lactococcus、BlautiaはAsns、3pgdの双方と負に相関し、StreptococcusはAsnsと負に相関した。
これらのうちParabacteroidesとLactococcusは、タンパク質量にかかわらずイヌリンよりセルロース添加によって大きく増加した。一方、Sutterellaはタンパク質量にかかわらずイヌリン添加によって増加した(図6b)。すなわち、FGF21が低いセルロース条件ではParabacteroidesとLactococcusが増え、FGF21が高いイヌリン添加PR食ではSutterellaが増えるという対応関係がみられた。

図6 セルロース応答性腸内細菌とFGF21応答の関係
a:血中FGF21濃度、肝Asnsまたは3pgd発現と細菌属の相対存在量とのPearson相関。b:Lactococcus、Parabacteroides、Sutterellaの実験開始時から3週後までの相対存在量の変化。c:窒素源の有無、およびセルロースまたはイヌリンを添加した最小培地におけるP. distasonisの培養試験。d:P. distasonisの全ゲノム解析から得られたアミノ酸・誘導体関連機能の構成。PSはタンパク質十分食、PRはタンパク質制限食、Cはセルロース、Iはイヌリン、NはNH₄Clによる窒素源、ACはオートクレーブ処理を示す。
6.2 Parabacteroides distasonisはセルロース存在下で生存が維持される
セルロース添加によって増加した菌のうち、Parabacteroides属の配列を種レベルで解析すると、5%および15%セルロース添加PR食群で増加した配列はParabacteroides distasonisに分類された。そこで15%セルロース添加PR食群の便からP. distasonisを単離し、全長16S rRNA遺伝子配列で菌種を確認した。
単離したP. distasonisを最小培地、セルロース添加培地、イヌリン添加培地で培養すると、最初の12時間はいずれの条件でも増加した。しかしその後、最小培地とイヌリン添加培地では生菌数が低下したのに対し、セルロース添加培地では24時間まで生存が維持された(図6c)。セルロース添加培地をオートクレーブ処理しても結果は変わらず、加熱によって利用可能な糖質が偶発的に遊離したためではないと考えられた。
一方、培地から窒素源を除くと、セルロース存在下でもP. distasonisの生存維持は失われた。つまりP. distasonisの生育には窒素源が必要であり、窒素源が存在する条件では、セルロースによってイヌリンよりも生存・適応性が高く維持されることが示された。
6.3 P. distasonisは必須アミノ酸を合成する遺伝的能力をもつ
次に、P. distasonisがタンパク質制限下の宿主栄養状態に影響しうる代謝能力をもつかを調べるため、単離株の全ゲノムシーケンスを行った。機能アノテーションでは、検出された遺伝子機能のうち炭水化物代謝が17.0%、アミノ酸とその誘導体が14.4%、タンパク質代謝が13.9%を占め、主要な機能カテゴリーとなっていた。炭水化物代謝関連遺伝子には、グルコシダーゼやキシラナーゼなど、複雑なオリゴ糖やヘミセルロースの分解に関わる加水分解酵素も含まれていた。
さらにアミノ酸関連遺伝子を調べると、P. distasonisは、ヒスチジン、リジン、メチオニン、トレオニンをde novo合成しうる遺伝子群をもつことが示された(図6d、補足表1)。
補足表1には、これらの生合成経路を構成する酵素群を示した。たとえばメチオニン生合成系にはホモセリンデヒドロゲナーゼ、ホモセリンO-スクシニルトランスフェラーゼ、5-メチルテトラヒドロ葉酸–ホモシステインメチルトランスフェラーゼなどが含まれ、リジンではジアミノピメリン酸経路、トレオニンではアスパラギン酸からホモセリンを経る生合成系に対応する酵素群が確認された。
ただし、ゲノム上に生合成遺伝子が存在することは、タンパク質制限下の腸内でこれらの必須アミノ酸が実際に産生され、さらに宿主へ供給されたことを直接示すものではない。

6.4 微生物由来アミノ酸がFGF21応答を弱める可能性がある
以上の結果から、セルロースによって増加するP. distasonisなどの腸内細菌が、タンパク質制限下で宿主の栄養ストレスを緩和するという作業仮説が導かれる。ヒトやマウス自身はセルロースを分解できないため、セルロース添加によってFGF21応答が変化する現象には、腸内細菌叢が介在している可能性が高い。また、P. distasonisはセルロース存在下で生存が維持され、必須アミノ酸を合成しうる遺伝子群を備えていた。
そこで考えられるのが、セルロースによって選択された細菌がタンパク質制限下でも必須アミノ酸を産生し、それを宿主が利用することでアミノ酸不足が部分的に補われ、肝FGF21応答が弱まるというモデルである。微生物が産生したアミノ酸そのものだけでなく、別の微生物由来代謝物が宿主へシグナルを伝える可能性もある。
ただし本研究では、P. distasonisによる必須アミノ酸産生、宿主への移行、FGF21低下までを直接つなぐ因果関係は検証されていない。したがって、「セルロース → P. distasonis増加 → 必須アミノ酸供給 → FGF21低下」という経路は、本研究から導かれた有力な作業仮説として位置づける必要がある。
7.結論:FGF21による栄養感知は腸内細菌叢によって調節される
タンパク質制限は肝Fgf21発現と血中FGF21濃度を上昇させ、アミノ酸不足に適応する全身代謝応答を誘導する。本研究では、この応答が宿主だけで完結するのではなく、腸内細菌叢によって調節されることを示した。通常飼育マウスではタンパク質制限によってFGF21、Asns、3pgdが誘導され、体重増加が抑制されたのに対し、無菌マウスではこれらの応答が大きく弱まった。つまり腸内細菌叢は、タンパク質不足に対する宿主の栄養ストレス応答に重要な役割をもつ。
さらに、タンパク質制限食に添加する食物繊維の種類によって、腸内細菌叢とFGF21応答は異なる方向に変化した。セルロースはFGF21応答を強く抑え、PS食群に近い水準まで栄養ストレス応答を弱めたのに対し、イヌリンではFGF21高値が維持された。セルロース添加ではParabacteroidesやLactococcusなどが増加し、これらの菌群はFGF21と負に相関した。一方、イヌリンで増加したSutterellaはFGF21と正に相関した。
なかでもParabacteroides distasonisはセルロース存在下で生存が維持され、全ゲノム解析からヒスチジン、リジン、メチオニン、トレオニンをde novo合成しうる遺伝子群をもつことが示された。この結果から、セルロースによって選択された腸内細菌が必須アミノ酸やその他の代謝物を供給し、宿主が感知するアミノ酸不足を緩和することでFGF21応答を弱めるというモデルが考えられる。ただし、微生物由来アミノ酸の産生から宿主への移行、FGF21低下までの因果関係は、本研究では直接検証されていない。
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