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〜 おへその乱読1000本ノック #0029 ~ 眠っている間は、時間は止められる? 冬眠するコウモリと老いの話

 第29回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
 もし、眠っている間は老いがほとんど進まないとしたら・・・。そんなSFのような話を、生きものたちは現実の戦略として使っています。その代表例が冬眠です。
 今回登場するのはコウモリ。小さな体で、驚くほど長く生きる哺乳類です。彼らは冬のあいだ、体温と代謝を大きく下げて過ごしますが、その時間は単なる省エネ期間ではないかもしれません。取り上げる研究では、冬眠しているコウモリと活動しているコウモリを比べることで、老いの進み方が季節によってどう変わるのかを調べています。
 結果が示したのは、寿命が伸びるかどうかではなく、老いのペースがゆっくりになるという可能性でした。時間を止める魔法ではないけれど、老い方を少し変えるような生きものの知恵を、コウモリから学んでいきます。

要約
 冬眠や日内休眠(トーパー)は、エネルギー消費を抑えるための生理状態として知られてきたが、近年では老化の進行そのものに影響しうる可能性が注目されている。本研究では、小型哺乳類でありながら長寿を示すオオクビワコウモリを対象に、冬眠がエピジェネティックな老化に与える影響を検証した。
 同一個体から夏(活動期)と冬(冬眠期)に採取した組織を用い、DNAメチル化に基づく多種対応エピジェネティック・クロックを適用した結果、冬眠期にはエピジェネティック年齢の進行が有意に抑制されていることが示された。これは、冬眠が老化を逆転させるのではなく、老化の進行速度を低下させる生理状態であることを示唆している。
 さらに、ゲノム全体のDNAメチル化解析により、冬眠期には多数のCpG部位でメチル化の上昇が観察され、転写抑制的な不活性クロマチン状態が広範に形成されていることが明らかとなった。一方で、エンハンサー領域に濃縮された部位でのメチル化低下が認められ、冬眠中にも特定の転写プログラムが維持・調整されている可能性が示された。
 機能解析の結果、冬眠に関連するDNAメチル化変化は、代謝制御、自然免疫、そしてコウモリの長寿と関連する遺伝子群と有意に重なっていた。これらの知見は、周期的な代謝低下と免疫抑制を伴う冬眠という生理状態が、エピジェネティックな制御を通じて老化の進行と結びついている可能性を示している。
 本研究は、非致死的サンプリングとDNAメチル化解析を組み合わせることで、動的な生理状態における老化制御を分子レベルで捉えられることを示した。冬眠は時間を止める仕組みではないが、生きものが老いの進み方を調整するために獲得してきた、生理戦略の一端を明らかにしている。

1. イントロダクション

 哺乳類におけるトーパーおよび冬眠は、体温と代謝を低下させることでエネルギー消費を抑える生理状態として広く知られている。冬眠は単なる省エネルギー機構にとどまらず、代謝抑制、骨格筋萎縮の回避、免疫機能の抑制など、全身レベルでの生理的再編成を伴うことが、これまでの遺伝子発現解析から示されてきた。しかし、その分子制御機構、とくに老化との関係については、多くの哺乳類で未解明のままである。
 近年、DNAメチル化(DNAm)は、環境応答に伴う転写制御状態を反映するエピジェネティック指標として注目されている。DNAmは転写抑制やクロマチン状態の変化を介して遺伝子発現を調節し、組織や生理状態に応じた転写プログラムの変化を捉えることが可能である。これまで、冬眠性げっ歯類を中心に、組織特異的なDNAm変化が報告されてきたが、その方向性や機能的帰結は一様ではなく、老化との関係を直接検証した研究は限られている。
 一方、コウモリは小型哺乳類でありながら例外的に長寿であり、冬眠と寿命進化の関連が指摘されてきた系統である。近年開発された哺乳類共通のエピジェネティック・クロックにより、DNAmプロファイルは暦年齢のみならず、老化の進行速度を反映しうる指標として機能することが示されている。これにより、冬眠という生理状態が、個体レベルのエピジェネティック老化に与える影響を直接検証することが可能になった。

 本研究では、自然な季節性冬眠を行うオオクビワコウモリ (Eptesicus fuscus) を対象に、冬眠期と活動期に採取した同一個体の組織を用い、DNAメチル化プロファイルを網羅的に解析した。多種対応型エピジェネティック・クロックを用いて冬眠期と活動期のエピジェネティック年齢を比較するとともに、年齢の影響を統計的に調整した上で、冬眠に特異的なDNAm変化部位を同定することを目的とした。
 ここでは、冬眠期にはエピジェネティック老化の進行が抑制され、あわせて代謝および免疫制御に関連する遺伝子近傍で特徴的なDNAm変化が生じるという仮説を検証する。また、これらの冬眠関連DNAm変化が、既報のコウモリ長寿関連エピジェネティック部位と独立か、あるいは重なりをもつかについても検討している。

2.結果

2.1 冬眠はエピジェネティックな老化を遅らせる

 本研究では、自然な季節性冬眠を行うオオクビワコウモリを対象に、同一個体から夏(活動期)と冬(冬眠期)に採取した組織を用いて、DNAメチル化に基づくエピジェネティック年齢を比較した。翼膜組織から得られたDNAメチル化データに対し、26種・712個体のコウモリから構築された多種対応エピジェネティック・クロックを適用することで、各サンプルのエピジェネティック年齢(DNAmAge)を推定した。
 推定されたエピジェネティック年齢は暦年齢と高い相関を示し(R² = 0.941、MAE = 0.531)、本研究において用いたエピジェネティック・クロックが、オオクビワコウモリに対しても妥当な年齢推定能を有することが確認された(図1a)。一方で、多くの個体において、推定されたエピジェネティック年齢は暦年齢と同等か、やや高く見積もられる傾向が認められた。
 そこで著者らは、暦年齢の影響を統計的に補正するため、エピジェネティック年齢を暦年齢で回帰し、その残差を用いて季節間の比較を行った。個体IDをランダム効果に含む線形混合モデルを用いた解析の結果、出生地(野生・飼育)の影響は認められなかった一方で、季節による有意な差が検出された。具体的には、冬眠期の個体では、活動期に比べてエピジェネティック年齢の残差が平均で 0.77 ± 0.25 年低下しており、冬眠中にはエピジェネティックな老化の進行が有意に抑制されていることが示された(p = 0.0097、図1b)。
 これらの結果は、冬眠が若返りを引き起こすというよりも、老化の進行速度そのものを一時的に低下させる生理状態である可能性を示唆している。

図1 夏と冬に採取したオオクビワコウモリにおけるエピジェネティック年齢の比較 (a) 26種のコウモリから構築された多種対応エピジェネティック・クロックを用いて推定したエピジェネティック年齢(DNAmAge)と暦年齢との関係。実線は最小二乗回帰直線、点線は暦年齢とエピジェネティック年齢が一致する場合(y = x)を示す。夏(活動期)に採取したサンプルを橙色、冬(冬眠期)に採取したサンプルを青色で示す。 (b) エピジェネティック年齢を暦年齢で回帰した後の残差を、同一個体について夏と冬で比較したもの。線で結ばれた点は同一個体を示し、黒色は野生由来個体を示す。破線は季節間の平均値の差を示しており、冬眠期にはエピジェネティック年齢の残差が有意に低下している。

2.2 冬眠期にはゲノム全体でDNAメチル化が上昇する

 冬眠がエピジェネティック老化の進行速度を低下させることが示されたことを受け、著者らは次に、冬眠期にどのようなDNAメチル化変化がゲノム全体で生じているのかを検討した。各CpG部位について暦年齢の影響を回帰によって除去した後、同一個体における夏(活動期)と冬(冬眠期)のDNAメチル化残差を比較することで、冬眠に特異的なDNAメチル化変化部位(differentially methylated positions, DMPs)を同定した。
 その結果、オオクビワコウモリのゲノム上で合計3002のCpG部位(加えて78の未マップ部位)が季節間で有意なDNAメチル化変化を示した。これらのDMPsのうち、冬眠期にDNAメチル化が上昇する部位(winter-up)が全体の77.5%を占め、冬眠期に低下する部位(winter-down)を大きく上回っていた。このことから、冬眠期にはゲノム全体としてDNAメチル化が上昇する傾向が支配的であることが示された。
 DMPsはゲノム全体に広く分布していたが、その分布はランダムではなく、イントロンおよび遺伝子間領域に有意に多く存在していた。一方で、エクソン、プロモーター領域、5′UTRではDMPsは有意に少なかった。また、DMPsは非有意なCpG部位と比較して転写開始点(TSS)からより離れた位置に存在する傾向を示し、とくに winter-up DMPs は winter-down DMPs よりもTSSから遠い位置に分布していた。
 一方、冬眠期と活動期の間に生じるDNAメチル化変化の大きさ自体は、ゲノム領域間で大きくは異ならなかった。統計的には一部の領域間で差が検出されたものの、効果量の違いは限定的であり、冬眠に伴うDNAメチル化変化は、特定の遺伝子領域に局在するというよりも、ゲノム全体に広く及ぶ現象であることが示唆された(図2)。
 これらの結果は、冬眠期において転写活性が抑制された、より不活性型のクロマチン状態が全体として形成されている可能性を示しており、次節で扱われる機能的注釈解析への重要な前提となる。

図2 冬眠に伴うDNAメチル化変化のゲノム領域別分布と効果量 (a) 冬眠期に有意なDNAメチル化変化を示したCpG部位(DMPs)について、ゲノム領域別に標準化回帰係数の分布を示した箱ひげ図。冬眠期にDNAメチル化が上昇した部位(winter-up)を青、低下した部位(winter-down)を赤で示す。文字は Tukey の多重比較検定(α = 0.05)による有意差を示す。 (b–e) 代表的な winter-up および winter-down DMPs における、同一個体の夏(活動期)と冬(冬眠期)のDNAメチル化残差の変化。線は同一個体を結んでいる。

2.3 冬眠に関連するDNAメチル化変化は、代謝・免疫・寿命に関わる遺伝子群と結びつく

 冬眠期に観察された広範なDNAメチル化変化が、どのような機能的文脈に位置づけられるのかを明らかにするため、著者らはまず、冬眠関連DMPsが既知のエピゲノム制御要素とどのように重なっているかを検討した。そこでeFORGE解析を用いて、ヒト由来の複数の細胞株におけるヒストン修飾およびクロマチン状態との重なりを評価した。
 その結果、冬眠期にDNAメチル化が低下する winter-down DMPs は、血液・筋肉・皮膚のいずれの組織由来細胞株においても、活性またはプライミングされたエンハンサーと関連するヒストンマークである H3K4me1 と有意に重なっていた。一方で、winter-up DMPs と有意に関連する特定のヒストンマークは検出されなかった。クロマチン状態に基づく解析では、winter-down DMPs がエンハンサー状態に富むのに対し、winter-up DMPs は3組織すべてで静止状態(quiescent/low)に強く濃縮されていた(図3)。

Figure 3|冬眠関連DMPsのエピゲノム制御要素への濃縮解析 (a) 冬眠期にDNAメチル化が低下(winter-down)または上昇(winter-up)したDMPsについて、eFORGE解析により評価したヒストン修飾との重なり。血液・筋肉・皮膚由来の細胞株を対象とし、有意水準は BY 補正後 p < 0.01(破線)とした。 (b) 同様に、15種類のクロマチン状態との重なりを評価した結果。winter-down DMPs はエンハンサー関連状態に、winter-up DMPs は静止状態(quiescent/low)に有意に濃縮されている。

 次に、冬眠関連DMPsの近傍遺伝子に基づく機能解析が行われた。winter-up DMPs は739遺伝子、winter-down DMPs は219遺伝子に最も近接しており、いずれの遺伝子群においても、クロマチン関連遺伝子が細胞成分カテゴリで有意にエンリッチされていた。とくに winter-down 遺伝子では、核、染色体、非膜結合型オルガネラといった転写制御と密接に関わる細胞成分が顕著であった。
 さらに、タンパク質クラスおよび生物学的プロセスに基づく遺伝子オントロジー解析により、winter-down および winter-up の両遺伝子群が、転写因子および遺伝子特異的転写制御因子で有意にエンリッチされていることが示された。とくに winter-down 遺伝子に関連する上位の生物学的プロセスの多くは、代謝および転写制御の調節に関与しており、冬眠期における転写プログラムの再編成を反映していると考えられる(図4)。

Figure 4|冬眠関連DMPs近傍遺伝子の機能的特徴 (a) 冬眠関連遺伝子に対するタンパク質クラスの遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析。 (b) 生物学的プロセスに基づくGOエンリッチメント解析。色は Fisher の正確確率検定による有意性(−log10 p)を示し、1% FDR に相当する閾値を示す。 (c) 冬眠関連遺伝子、自然免疫遺伝子、長寿関連遺伝子の重なりを示すベン図。

 加えて、冬眠関連DMPsに最も近い遺伝子は、自然免疫遺伝子および既報のコウモリ長寿関連遺伝子と有意に重複していた。自然免疫遺伝子では、アレイ上に存在する1071遺伝子のうち23.2%に冬眠関連のDNAメチル化変化が認められ、その大半は冬眠期のDNAメチル化上昇と関連していた。また、700の長寿関連遺伝子のうち306遺伝子が冬眠関連遺伝子と共通しており、これは偶然の期待値を大きく上回るものであった。
 これらの結果は、冬眠に伴うDNAメチル化変化が、代謝抑制や免疫調節といった冬眠生理の特徴にとどまらず、長寿と関連する遺伝子ネットワークとも深く結びついていることを示している。 

3. 考察

3.1 冬眠はエピジェネティックな老化の進行を遅らせる

 本研究では、多種対応エピジェネティック・クロックを用いることで、オオクビワコウモリにおいて冬眠がエピジェネティックな老化の進行と関連することを直接的に示した。エピジェネティック年齢は、冬眠期と非冬眠期のいずれにおいても暦年齢と高い相関を示したが、全体として推定年齢は暦年齢と同等か、やや高く見積もられる傾向が認められた。これは、オオクビワコウモリが他のコウモリ種と比較して、特に活動期においてやや速い老化ペースを示す可能性を示唆している。
 一方で、暦年齢の影響を補正した解析により、冬眠期の個体ではエピジェネティック年齢が非冬眠期よりも約1年分若く推定されることが明らかとなった。この結果は、冬眠が老化を逆転させるのではなく、老化の進行速度を低下させる生理状態であることを示しており、げっ歯類で報告された先行研究とも整合的である。

3.2 冬眠期にはゲノム全体で転写抑制的な状態が形成される

 多種対応エピジェネティック・クロックは限られたCpG部位に基づく指標であるため、冬眠がゲノム全体のDNAメチル化に与える影響を直接示すものではない。そこで本研究では、年齢の影響を補正した上で、3万以上のCpG部位を対象とした包括的な解析が行われた。冬眠期には3000を超える部位でDNAメチル化が変化し、その大部分はメチル化の上昇として観察された。DNAメチル化の上昇は一般に転写抑制と関連することから、この結果は、冬眠期において多くの遺伝子の転写活性が全体として低下していることを示唆している。

3.3 冬眠に伴うエピゲノム再編成の二面性:静止化と選択的活性化

 eFORGE解析により、冬眠期にDNAメチル化が上昇する部位は、血液・筋肉・皮膚由来の細胞株において、一貫して静止状態(quiescent chromatin)と関連していることが示された。細胞の静止状態は、代謝や免疫などの多くのプロセスを停止・休止させた、ストレス耐性の高い状態として知られており、この結果は冬眠期に観察される代謝抑制や免疫機能低下とよく一致する。
 一方で、冬眠期にDNAメチル化が低下する部位は、エンハンサー関連ヒストンマークであるH3K4me1やエンハンサー型クロマチン状態に富んでいた。これは、冬眠期においてもすべての転写が抑制されるわけではなく、特定の遺伝子群ではむしろ転写活性が維持あるいは促進されていることを示している。このような「全体としての静止化」と「選択的な活性化」の併存は、冬眠という極端な生理状態を支えるエピゲノム制御の特徴と考えられる。

3.4 代謝制御に関わる転写ネットワークの再構築

 遺伝子オントロジー解析により、冬眠期にDNAメチル化が低下する遺伝子群では、DNA結合型転写因子や遺伝子特異的転写制御因子が有意にエンリッチされていた。これらの遺伝子の多くは、代謝プロセスや転写調節に関与しており、冬眠期に必要な代謝再編成を担う転写ネットワークが選択的に維持・制御されている可能性を示唆している。この結果は、他の冬眠哺乳類でも報告された低温耐性代謝やタンパク質更新、凍結耐性に関わる遺伝子発現の変化とも整合的であり、冬眠に共通する分子戦略の存在を支持する。

3.5 冬眠・免疫抑制・長寿を結ぶエピジェネティックな接点

 冬眠関連DNAメチル化変化を示す遺伝子は、自然免疫遺伝子やコウモリの長寿と関連する遺伝子と有意に重複していた。特に、自然免疫遺伝子では冬眠期にDNAメチル化が上昇する傾向が強く、免疫応答の抑制がエピジェネティックに制御されている可能性が示唆される。また、冬眠関連DMPsに近接する長寿関連遺伝子の多くは、他の哺乳類における冬眠やトーパー状態で発現変化を示すことが知られている。
 これらの結果は、コウモリの長寿が、周期的な代謝低下と免疫抑制を伴う生理状態と結びついている可能性を支持する。



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