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〜 おへその乱読1000本ノック #0060 ~DNAm GrimAge: 寿命と健康寿命の強力な予測

 第60回『おへその乱読1000本ノック』へようこそ。
 前回は、老化の状態をよりよく反映する第2世代のエピジェネティッククロックとして、DNAm PhenoAge を取り上げました。今回はその流れを引き継ぎ、Lu ATらによって提案された DNAm GrimAge をとりあげます。
 名前に “Grim” とついているだけあって、少しドキッとする指標ですが、このクロックが見ようとしているのは、単なる年齢ではありません。DNAメチル化の情報から、寿命や健康寿命に関わるリスクをどこまで読み取れるのか。そこに踏み込んだのが、この DNAm GrimAge です。
 本稿では、DNAm GrimAge がどのような発想で作られ、なぜ強力な老化指標として注目されたのかを、原著論文に沿って見ていきます。名前はちょっと怖いですが、中身はエピジェネティッククロックの進化を考えるうえで、とても大事な論文です。

要旨
 本研究では、DNAメチル化情報を用いて寿命と健康寿命を予測する新しいエピジェネティッククロック、DNAm GrimAge を開発した。本研究では、まずDNAメチル化パターンから、喫煙パック年数および死亡率・罹患率と関連する血漿タンパク質の代理バイオマーカーを作成し、それらを統合することで全死亡リスクを予測する二段階アプローチを用いた。
 DNAm GrimAge の暦年齢調整指標である AgeAccelGrim は、複数の大規模コホートにおいて全死亡までの時間を強く予測し、その性能は既存のエピジェネティック年齢加速指標を上回った。また、冠動脈疾患、併存疾患数、心不全、高血圧、2型糖尿病、身体機能、閉経年齢、疾患なし状態など、複数の加齢関連アウトカムとの関連を示した。さらに、食事、身体活動、教育歴、炎症、糖脂質代謝、BMI、内臓脂肪、脂肪肝などの生活習慣・代謝・身体組成指標との関連も示した。
 これらの結果から、DNAm GrimAge を、単なる暦年齢推定指標ではなく、死亡率、罹患率、生活習慣、炎症・代謝状態を統合的に反映する複合的な老化リスク指標として位置づけた。ただし、本研究は主に観察研究に基づくため、DNAm GrimAge の高値が疾患や死亡を直接引き起こすことを示すものではなく、死亡リスクや健康状態と強く関連するエピジェネティックバイオマーカーとして解釈する必要がある。

1. イントロダクション

 DNAメチル化レベルは、これまで暦年齢を高精度に推定するエピジェネティッククロックの構築に用いられてきた。代表的なものに、Horvath の汎組織クロックや Hannum の白血球クロックがあり、これらのDNAメチル化年齢は、暦年齢を調整した後でも寿命や加齢関連疾患と関連することが報告されている。
 近年では、暦年齢の推定にとどまらず、死亡リスクや寿命をより直接的に予測するDNAメチル化バイオマーカーも開発されている。Zhang らは死亡率と関連する CpG を組み合わせた死亡リスクスコアを作成し、Levine らは死亡リスクを反映する表現型指標に基づいて DNAm PhenoAge を開発した。
 本研究では、従来のように死亡までの時間をDNAメチル化レベルに直接回帰するのではなく、二段階の手法を用いた。第一段階では、喫煙パック年数および死亡率・罹患率と関連する血漿タンパク質について、DNAメチル化に基づく代理バイオマーカーを定義した。第二段階では、これらの代理バイオマーカーを統合し、全死亡までの時間を予測する指標を構築した。
 この死亡リスク推定値を年単位に変換したものが DNAm GrimAge である。DNAm GrimAge は、死亡率や罹患率のリスクに関して高い値が不良な予後を示唆することから名づけられた指標であり、本研究では、この指標が寿命、加齢関連疾患、臨床バイオマーカーとどのように関連するかを検証する。

2. DNAm GrimAge の構築

2.1 二段階アプローチによる設計

 DNAm GrimAge は、Framingham Heart Study Offspring Cohort のデータを用いて構築された。著者らは、データを家系単位で training set と test set に分け、70%を training set、30%を test set とした。両群は、性別、喫煙歴、年齢、追跡期間などがおおむね類似していた。このコホート分割と基本特性は Supplementary Table 1 に示されている。

Supplementary Table 1 Framingham Heart Study の training set と test set の基本特性 DNAm GrimAge の構築に用いた Framingham Heart Study Offspring Cohort の概要を示す。家系単位で70%を training set、30%を test set に分け、性別、喫煙歴、年齢、喫煙パック年数、追跡期間などを比較した。血漿タンパク質の免疫測定データは exam 7、DNAメチル化データは exam 8 で取得した。定量的な変数は、平均 ± 1標準偏差(SD)および[第25,第75]パーセンタイルの区間として示した。

 本研究の特徴は、死亡までの時間をDNAメチル化レベルに直接回帰するのではなく、二段階の手法を用いた点にある。第一段階では、DNAメチル化から血漿タンパク質および喫煙パック年数の代理バイオマーカーを作成した。第二段階では、それらを統合して全死亡までの時間を予測し、得られた死亡リスク推定値を年単位の指標へ変換した。この DNAm GrimAge 構築の全体像は Figure 1 に示されている。

Figure 1 DNAm GrimAge 構築の流れ Framingham Heart Study の training set と test set を用いて、DNAm GrimAge を二段階で構築した流れを示す。第一段階では、DNAメチル化データから喫煙パック年数および血漿タンパク質濃度の代理バイオマーカーを作成した。第二段階では、DNAm pack-years、暦年齢、性別、および選択されたDNAm血漿タンパク質代理指標を用いて全死亡までの時間を予測し、その死亡リスク推定値を年単位の DNAm GrimAge に変換した。

2.2 DNAm 代理バイオマーカーの作成

 第一段階では、88種類の血漿タンパク質と喫煙パック年数について、DNAメチル化に基づく代理バイオマーカーが作成された。各血漿タンパク質を従属変数とし、暦年齢、性別、CpGメチル化レベルを説明変数として elastic net 回帰を行い、タンパク質濃度を予測するCpGの組み合わせを選択した。

 ただし、すべての血漿タンパク質が十分に推定できたわけではない。test set において実測値とDNAm代理指標との相関が r > 0.35 を示した血漿タンパク質は12種類であり、これらが第二段階の解析に用いられた。この12種類のDNAm代理バイオマーカーについて、training set と test set における実測値との相関、および暦年齢との相関は Table 1 に示されている。喫煙パック年数についても、172個のCpGに基づく DNAm pack-years が作成され、自己申告の喫煙パック年数と相関した。

Table 1 DNAm代理バイオマーカーの再現性と年齢相関 Framingham Heart Study の training set および test set において、実測血漿タンパク質または自己申告の喫煙パック年数と、それぞれに対応するDNAm代理バイオマーカーとの相関を示す。test set で実測値との相関が r > 0.35 を示した12種類の血漿タンパク質代理指標を第二段階の解析に用いた。また、DNAm pack-years は自己申告の喫煙パック年数と比較的強く相関した。

2.3 DNAm GrimAge と AgeAccelGrim

 第二段階では、全死亡までの時間を従属変数とし、DNAm pack-years、暦年齢、性別、12種類のDNAm血漿タンパク質代理指標を説明変数として elastic net Cox 回帰モデルを構築した。その結果、最終的に DNAm pack-years、暦年齢、性別、7種類のDNAm血漿タンパク質代理指標が選択された。選択された血漿タンパク質は、adrenomedullin、β2-microglobulin、cystatin C、GDF-15、leptin、PAI-1、TIMP-1 である。

 これらのモデル構成要素、略称、回帰係数、各DNAm代理バイオマーカーを構成するCpG数は Supplementary Table 2 に示されている。DNAm pack-years と7種類のDNAm血漿タンパク質代理指標は、それぞれ200個未満のCpGから構成され、全体では1,030個のユニークなCpGが用いられた。

Supplementary Table 2. DNAm GrimAge 推定モデルの構成要素 未較正版 DNAm GrimAge を計算するための多変量回帰モデルを示す。モデルには、暦年齢、性別、DNAm pack-years、および7種類のDNAm血漿タンパク質代理指標を含む。各代理バイオマーカーについて、略称、回帰係数、構成CpG数を示した。最終的な DNAm GrimAge は、この未較正版の値を年単位の分布へ変換することで定義した。

 このCox回帰モデルから得られる死亡リスク推定値は、training set における暦年齢の平均と分散に一致するよう線形変換され、年単位で表される DNAm GrimAge として定義された。さらに、DNAm GrimAge を暦年齢に回帰した残差が AgeAccelGrim と定義された。AgeAccelGrim は、暦年齢から期待される DNAm GrimAge より高いか低いかを表す指標であり、以後の解析では主に加齢関連アウトカムとの関連評価に用いられた。

3. 寿命予測における DNAm GrimAge の性能

3.1 大規模検証データにおける寿命予測

 著者らは、DNAm GrimAge の予測性能を、Framingham Heart Study の test set に加え、Women’s Health Initiative、InCHIANTI、Jackson Heart Study などの複数コホートで検証した。解析対象は、血液由来のDNAメチル化アレイ 7,375件、6,935人であり、ヨーロッパ系、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系を含む集団で構成された。著者らは、コホートおよび人種・民族集団ごとに層別化し、全死亡までの時間に対する DNAm GrimAge 関連指標の予測性能を評価した。

3.2 AgeAccelGrim は全死亡リスクを強く予測する

 全死亡リスクの予測では、暦年齢で調整した DNAm GrimAge、すなわち AgeAccelGrim が最も強い関連を示した。Figure 3 に、AgeAccelGrim および DNAm GrimAge を構成する各DNAm代理バイオマーカーについて、全死亡までの時間を予測する Cox 回帰のメタ解析結果を示した。AgeAccelGrim は、DNAm pack-years や DNAm PAI-1 などの個別構成要素よりも強く寿命を予測し、全死亡リスクを反映する中心的な指標として位置づけられた。

Figure 3. 全死亡までの時間を予測するメタ解析 AgeAccelGrim および DNAm GrimAge を構成する各DNAm代理バイオマーカーについて、全死亡までの時間との関連を Cox 回帰モデルで評価し、複数コホート・人種集団を統合したメタ解析結果を示す。各行は、コホートおよび人種・民族集団によって層別化された解析単位におけるハザード比と95%信頼区間を示す。パネル上部には、メタ解析のP値と、効果の不均一性を評価する Cochran’s Q 検定のP値を示した。AgeAccelGrim は、全死亡リスクを最も強く予測する指標であった。 A:AgeAccelGrim と全死亡までの時間との関連を示す。ハザード比は AgeAccelGrim が1年高い場合の死亡リスクを表す。 B:年齢調整後の DNAm adrenomedullin(DNAm ADM)と全死亡までの時間との関連を示す。 C:年齢調整後の DNAm β2-microglobulin(DNAm B2M)と全死亡までの時間との関連を示す。 D:年齢調整後の DNAm cystatin C と全死亡までの時間との関連を示す。 E:年齢調整後の DNAm growth differentiation factor 15(DNAm GDF-15)と全死亡までの時間との関連を示す。 F:年齢調整後の DNAm leptin と全死亡までの時間との関連を示す。 G:年齢調整後の DNAm plasminogen activator inhibitor 1(DNAm PAI-1)と全死亡までの時間との関連を示す。 H:年齢調整後の DNAm tissue inhibitor metalloproteinases 1(DNAm TIMP-1)と全死亡までの時間との関連を示す。 I:年齢調整後の DNAm pack-years と全死亡までの時間との関連を示す。 補足として、B〜H のハザード比は各DNAm血漿タンパク質代理指標が1標準偏差高い場合、I のハザード比は DNAm pack-years が1年高い場合に対応する。最も有意なメタ解析P値となったA の AgeAccelGrim は赤字で示した。

3.3 喫煙状態で層別化しても関連は維持される

 DNAm GrimAge には DNAm pack-years が含まれるため、その寿命予測能が喫煙負荷の影響に大きく依存している可能性がある。そこで、喫煙状態で層別化し、3.2節と同様に解析を行った。非喫煙者に限定した群と、過去喫煙者および現在喫煙者に限定した群の解析をそれぞれ実施した結果、いずれの群でも AgeAccelGrim は全死亡リスクと有意に関連していた。したがって、DNAm GrimAge の寿命予測能は、喫煙歴のみを反映したものではなく、より広い死亡リスク情報を捉えていると考えられた。

3.4 既存クロックとの比較

 AgeAccelGrim を、既存のエピジェネティック年齢加速指標とも比較した。Supplementary Figure 11 に、AgeAccelGrim、Horvath クロックに基づく年齢加速指標、Hannum クロックに基づく年齢加速指標、DNAm PhenoAge に基づく年齢加速指標の相関を示した。AgeAccelGrim は既存指標と一定の相関を示したが、特に Horvath クロック由来の年齢加速指標との相関は弱く、既存クロックと完全に同じ情報を反映する指標ではなかった。

Supplementary Figure 11. エピジェネティック年齢加速指標間の相関 Framingham Heart Study の test set において、AgeAccelGrim、Horvath クロックに基づく年齢加速指標、Hannum クロックに基づく年齢加速指標、DNAm PhenoAge に基づく年齢加速指標の相関を示す。各指標はいずれも暦年齢とは独立した年齢加速指標であり、AgeAccelGrim は既存クロックと一定の相関を示しつつも、同一の情報だけを反映しているわけではないことを示す。

 さらに Supplementary Figure 15 に、各エピジェネティック年齢加速指標の上位20%を速い老化群、下位20%を遅い老化群として比較した Kaplan–Meier 生存曲線を示した。AgeAccelGrim は、速い老化群と遅い老化群の生存曲線を最も明瞭に分離し、既存クロックよりも全死亡リスクの違いを強く反映する指標であることが示された。

Supplementary Figure 15. 速く老化する群と遅く老化する群の生存曲線 各エピジェネティック年齢加速指標について、上位20%を fast epigenetic agers、下位20%を slow epigenetic agers と定義し、生存確率の推移を Kaplan–Meier 曲線で比較する。AgeAccelGrim は、速い老化群と遅い老化群の死亡リスク差を最も明瞭に分離する指標であった。

3.5 既知のリスク因子を調整しても予測能は残る

 さらに、DNAm GrimAge の予測能が既知の臨床的・生活習慣関連因子によって説明されるかを検証した。Supplementary Figure 23 に、暦年齢に加え、BMI、教育歴、飲酒、喫煙パック年数、糖尿病、がん既往、高血圧などを調整した多変量 Cox 回帰モデルの結果を示した。この解析においても、AgeAccelGrim は全死亡までの時間を有意に予測した。したがって、DNAm GrimAge は、従来のリスク因子とは独立した寿命予測情報を含むエピジェネティック指標として位置づけられる。

Supplementary Figure 23. 多変量調整後の全死亡予測 AgeAccelGrim および既存のエピジェネティック年齢加速指標について、全死亡までの時間を予測する多変量 Cox 回帰モデルのメタ解析結果を示す。解析では、暦年齢に加え、BMI、教育歴、飲酒、喫煙パック年数、糖尿病、がん既往、高血圧などの臨床的・生活習慣関連因子を調整した。各行は、コホートおよび人種・民族集団によって層別化された解析単位におけるハザード比と95%信頼区間を示す。各パネル上部には、メタ解析のP値と、効果の不均一性を評価する Cochran’s Q 検定のP値を示した。 A:AgeAccelGrim と全死亡までの時間との関連を示す。 B:DNAm PhenoAge に基づく年齢加速指標(AgeAccelPheno)と全死亡までの時間との関連を示す。 C:Hannum クロックに基づく年齢加速指標(AgeAccelHannum)と全死亡までの時間との関連を示す。 D:Horvath クロックに基づく年齢加速指標(AgeAccelerationResidual)と全死亡までの時間との関連を示す。

4. 加齢関連疾患・健康寿命指標との関連

4.1 冠動脈疾患リスクとの関連

 DNAm GrimAge が寿命だけでなく加齢関連疾患の発症リスクも反映するかを検証するため、冠動脈疾患までの時間との関連を解析した。Figure 4 に、AgeAccelGrim および DNAm GrimAge を構成する各DNAm代理バイオマーカーについて、冠動脈疾患までの時間を予測する Cox 回帰のメタ解析結果を示した。
 AgeAccelGrim は、冠動脈疾患の発症リスクと強く関連した。また、DNAm pack-years や DNAm PAI-1 などの構成要素も冠動脈疾患リスクと関連していた。この結果は、DNAm GrimAge が全死亡リスクだけでなく、血管系の加齢関連アウトカムとも結びつくことを示している。

Figure 4. 冠動脈疾患までの時間を予測するメタ解析 AgeAccelGrim および DNAm GrimAge を構成する各DNAm代理バイオマーカーについて、冠動脈疾患までの時間との関連を Cox 回帰モデルで評価し、複数コホート・人種集団を統合したメタ解析結果を示す。各行は、コホートおよび人種・民族集団によって層別化された解析単位におけるハザード比と95%信頼区間を示す。パネル上部には、メタ解析のP値と、効果の不均一性を評価する Cochran’s Q 検定のP値を示した。AgeAccelGrim は、冠動脈疾患リスクを強く予測する指標であった。 A:AgeAccelGrim と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。ハザード比は AgeAccelGrim が1年高い場合の冠動脈疾患リスクを表す。 B:年齢調整後の DNAm adrenomedullin(DNAm ADM)と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 C:年齢調整後の DNAm β2-microglobulin(DNAm B2M)と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 D:年齢調整後の DNAm cystatin C と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 E:年齢調整後の DNAm growth differentiation factor 15(DNAm GDF-15)と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 F:年齢調整後の DNAm leptin と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 G:年齢調整後の DNAm plasminogen activator inhibitor 1(DNAm PAI-1)と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 H:年齢調整後の DNAm tissue inhibitor metalloproteinases 1(DNAm TIMP-1)と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 I:年齢調整後の DNAm pack-years と冠動脈疾患までの時間との関連を示す。 補足として、B〜H のハザード比は各DNAm血漿タンパク質代理指標が1標準偏差高い場合、I のハザード比は DNAm pack-years が1年高い場合に対応する。

4.2 併存疾患数との関連

 加齢関連疾患の総体的な負荷を反映する指標として、併存疾患数との関連も解析した。Figure 5 に、AgeAccelGrim および各DNAm代理バイオマーカーと併存疾患数との関連を示した。
 AgeAccelGrim は、併存疾患数と有意に関連した。一方で、この解析では DNAm PAI-1 が特に強い関連を示し、AgeAccelGrim よりも顕著な関連を示した。したがって、DNAm GrimAge 全体は寿命や冠動脈疾患リスクの予測に優れる一方で、構成要素の一つである DNAm PAI-1 は、疾患負荷や代謝・血管系の状態を強く反映する指標として位置づけられる。

Figure 5. 併存疾患数との関連を示すメタ解析 AgeAccelGrim および DNAm GrimAge を構成する各DNAm代理バイオマーカーについて、併存疾患数との関連を回帰モデルで評価し、複数コホート・人種集団を統合したメタ解析結果を示す。各行は、コホートおよび人種・民族集団によって層別化された解析単位における回帰係数と95%信頼区間を示す。パネル上部には、メタ解析のP値と、効果の不均一性を評価する Cochran’s Q 検定のP値を示した。この解析では、DNAm PAI-1 が併存疾患数と特に強い関連があった。 A:AgeAccelGrim と併存疾患数との関連を示す。回帰係数は AgeAccelGrim が1年高い場合の併存疾患数との関連を表す。 B:年齢調整後の DNAm adrenomedullin(DNAm ADM)と併存疾患数との関連を示す。 C:年齢調整後の DNAm β2-microglobulin(DNAm B2M)と併存疾患数との関連を示す。 D:年齢調整後の DNAm cystatin C と併存疾患数との関連を示す。 E:年齢調整後の DNAm growth differentiation factor 15(DNAm GDF-15)と併存疾患数との関連を示す。 F:年齢調整後の DNAm leptin と併存疾患数との関連を示す。 G:年齢調整後の DNAm plasminogen activator inhibitor 1(DNAm PAI-1)と併存疾患数との関連を示す。 H:年齢調整後の DNAm tissue inhibitor metalloproteinases 1(DNAm TIMP-1)と併存疾患数との関連を示す。 I:年齢調整後の DNAm pack-years と併存疾患数との関連を示す。 補足として、A の効果量は AgeAccelGrim が1年高い場合、B〜H の効果量は各DNAm血漿タンパク質代理指標が1標準偏差高い場合、I の効果量は DNAm pack-years が1年高い場合に対応する。

4.3 複数の加齢関連アウトカムとの関連

 冠動脈疾患と併存疾患数に加えて、心不全、高血圧、2型糖尿病、身体機能、閉経年齢、疾患なし状態との関連も解析した。AgeAccelGrim は、心不全、高血圧、2型糖尿病と関連し、身体機能とは負の関連を示した。すなわち、AgeAccelGrim が高いほど、加齢関連疾患のリスクや疾患負荷が高く、身体機能は低い傾向にあった。
 女性を対象とした解析では、早い閉経年齢が高い AgeAccelGrim と関連した。また、疾患なし状態との解析では、AgeAccelGrim や一部のDNAm代理バイオマーカーが高いほど、疾患なし状態である可能性は低い傾向を示した。これらの結果は、DNAm GrimAge が死亡リスクや冠動脈疾患だけでなく、加齢に伴う健康状態の広い側面と結びつくことを示している。

5. DNAm GrimAge を構成する代理バイオマーカーの特徴

5.1 DNAm GrimAge は複数のリスク情報を統合する

 DNAm GrimAge は、暦年齢、性別、DNAm pack-years、および7種類のDNAm血漿タンパク質代理指標から構成された。選択された血漿タンパク質代理指標は、DNAm adrenomedullin、DNAm β2-microglobulin、DNAm cystatin C、DNAm GDF-15、DNAm leptin、DNAm PAI-1、DNAm TIMP-1 である。これらのモデル構成要素、略称、回帰係数、各DNAm代理バイオマーカーを構成するCpG数は、Supplementary Table 2 に示した。
 この構成から、DNAm GrimAge は単一の年齢推定式ではなく、喫煙負荷や血漿タンパク質に関連する生理的リスク情報をDNAメチル化から推定し、それらを統合した死亡リスク指標として設計されたことがわかる。

5.2 DNAm pack-years は喫煙負荷の生物学的痕跡を反映する

 DNAm pack-years は、自己申告された喫煙パック年数をDNAメチル化パターンから推定する指標である。Supplementary Table 3 に、自己申告の喫煙パック年数と DNAm pack-years の全死亡予測性能を比較した結果を示した。複数のデータセットにおいて、DNAm pack-years は自己申告値と同等、またはそれ以上に強く全死亡までの時間を予測した。この結果は、DNAm pack-years が単なる喫煙歴の代替指標ではなく、喫煙によって身体に残る生物学的痕跡を反映している可能性を示している。

Supplementary Table 3. 自己申告の喫煙パック年数と DNAm pack-years の全死亡予測性能の比較 自己申告による喫煙パック年数と、DNAメチル化に基づく喫煙パック年数の代理指標である DNAm pack-years について、全死亡までの時間を予測する Cox 回帰モデルの結果を比較した。各データセットについて、解析対象者数、追跡期間中の死亡数、ハザード比、P値を示す。複数のデータセットにおいて、DNAm pack-years は自己申告の喫煙パック年数と同等、またはそれ以上に有意な全死亡予測能を示した。比較では、ハザード比は変数の分布に依存するため、主にP値を用いて予測性能を評価した。

5.3 DNAm PAI-1 は疾患負荷と強く関連する

 DNAm GrimAge の構成要素の中でも、DNAm PAI-1 は加齢関連疾患や疾患負荷との関連が特に強かった。Figure 5 に示した併存疾患数との解析では、DNAm PAI-1 が AgeAccelGrim よりも強い関連を示した。また Supplementary Table 4 に、実測された血漿タンパク質濃度とDNAm代理指標の全死亡予測性能を比較した結果を示した。PAI-1、TIMP-1、cystatin C などでは、DNAm代理指標が実測値よりも有意な予測性能を示す場合があった。
 したがって、DNAm PAI-1 は、DNAm GrimAge の一構成要素でありながら、疾患負荷や代謝・血管系リスクを強く反映する代理バイオマーカーとして位置づけられる。

Supplementary Table 4. 実測血漿タンパク質と DNAm代理指標の全死亡予測性能の比較 免疫測定により実測された血漿タンパク質濃度と、それに対応するDNAメチル化に基づく代理指標について、全死亡までの時間を予測する Cox 回帰モデルの結果を比較した。解析は Framingham Heart Study の training set および test set で行われ、暦年齢、研究センター、家系構造を調整した。各タンパク質について、実測値とDNAm代理指標のハザード比およびP値を示す。PAI-1、TIMP-1、cystatin C などでは、DNAm代理指標が実測タンパク質濃度よりも有意な予測性能を示す場合があった。

6. 生活習慣・炎症・身体組成との関連

6.1 生活習慣・炎症・代謝指標との関連

 DNAm GrimAge が生活習慣や代謝状態をどのように反映するかを調べるため、Women’s Health Initiative の閉経後女性を対象に、食事、栄養バイオマーカー、代謝関連指標、中心性肥満指標、生活習慣因子との相関を解析した。Figure 6 に、AgeAccelGrim および各DNAm代理バイオマーカーと、生活習慣・臨床バイオマーカーとの横断的な相関を示した。
 AgeAccelGrim は、血中カロテノイド濃度と負に相関し、C反応性タンパク質、インスリン、グルコース、トリグリセリド、BMI、ウエスト・ヒップ比などとは正に相関した。また、教育歴、収入、身体活動量とは負の関連を示した。これらの結果は、AgeAccelGrim が炎症、糖脂質代謝、肥満、社会経済的要因、身体活動と結びつくことを示している。

Figure 6. 生活習慣・臨床バイオマーカーとDNAm指標との関連 Women’s Health Initiative の閉経後女性を対象に、AgeAccelGrim およびDNAm GrimAgeを構成する各DNAm代理バイオマーカーと、生活習慣因子、食事・栄養関連指標、代謝関連バイオマーカー、炎症マーカー、肥満関連指標との横断的な相関を示す。各行は生活習慣因子または臨床バイオマーカーを、各列は年齢調整後のDNAm指標を表す。相関係数はロバスト相関係数で示され、色によって相関の方向と強さ、およびP値の有意性が示される。 AgeAccelGrim は、血中カロテノイド濃度、教育歴、収入、身体活動量などと負に相関し、C反応性タンパク質、インスリン、グルコース、トリグリセリド、BMI、ウエスト・ヒップ比などと正に相関する。これにより、AgeAccelGrim が健康的な食事・身体活動とは低い方向に、炎症、糖脂質代謝異常、肥満とは高い方向に関連することを示す。

6.2 CT画像指標からみた脂肪肝・内臓脂肪との関連

 生活習慣・代謝指標との関連をさらに検証するため、Framingham Heart Study のCT画像データを用いて、脂肪肝や脂肪組織に関わる画像指標との関連を解析した。Figure 7 に、BMI、AgeAccelGrim、および各DNAm代理バイオマーカーと、CT由来の臓器密度または脂肪量との相関を示した。
 AgeAccelGrim は、肝臓密度の低下や内臓脂肪量の増加と関連した。CTにおける肝臓密度の低下は脂肪肝を反映するため、この結果は AgeAccelGrim が代謝的な脂肪蓄積状態とも結びつくことを示している。さらに、DNAm PAI-1 はCT由来の脂肪関連指標と特に強く関連し、内臓脂肪量とは正に、肝臓密度や内臓脂肪密度とは負に相関した。これらの結果は、DNAm GrimAge、とくに AgeAccelGrim と DNAm PAI-1 が、肥満、脂肪肝、内臓脂肪蓄積といった身体組成上の変化と関連することを示している。

Figure 7. CT画像指標とBMI・DNAm指標との関連 Framingham Heart Study において、BMI、AgeAccelGrim、および年齢調整後のDNAm血漿タンパク質代理指標と、CT画像から得られた臓器密度および脂肪量指標との関連を示す。列は BMI、AgeAccelGrim、各DNAm代理バイオマーカーを表し、行はCT由来の肝臓・脾臓・傍脊柱筋の密度、皮下脂肪量、内臓脂肪量などを表す。臓器密度は Hounsfield unit で評価され、肝臓や筋では値が低いほど脂肪蓄積が多いことを意味する。相関係数には biweight midcorrelation を用い、家系構造による交絡を避けるため、P値は家系をランダム効果とする線形混合モデルで算出した。 AgeAccelGrim は、肝臓密度の低下や内臓脂肪量の増加と関連する。DNAm PAI-1 はCT由来の脂肪関連指標と特に強く関連し、内臓脂肪量および皮下脂肪量とは正に、肝臓密度、内臓脂肪密度、脾臓密度とは負に相関する。これにより、DNAm GrimAge 関連指標、とくに AgeAccelGrim と DNAm PAI-1 が、脂肪肝や内臓脂肪蓄積といった身体組成上の変化と結びつくことを示す。

6.3 生活習慣と代謝状態を反映する指標としての位置づけ

 上述した結果から、DNAm GrimAge は死亡リスクや加齢関連疾患だけでなく、食事・身体活動・社会経済的要因・炎症・糖脂質代謝・内臓脂肪蓄積とも関連する指標であることが示された(Figure 6 および Figure 7)。特に AgeAccelGrim は、健康的な生活習慣や代謝状態と逆方向に、不健康な代謝・炎症・脂肪蓄積状態とは同方向に関連した。したがって、DNAm GrimAge は、寿命予測のためのエピジェネティック指標であると同時に、生活習慣や代謝・炎症状態が身体に残す生物学的シグナルを反映する指標として位置づけられる。

7. 本研究の意義と限界

7.1 暦年齢推定から死亡リスクの評価へ

 本研究では、DNAメチル化に基づくエピジェネティッククロックを、単なる暦年齢の推定ではなく、死亡リスクや健康寿命に関わるアウトカムの評価へと発展させた。Horvath クロックや Hannum クロックが主に暦年齢の推定を目的としていたのに対し、DNAm GrimAge は、血漿タンパク質や喫煙負荷に対応するDNAm代理バイオマーカーを統合することで、全死亡、冠動脈疾患、併存疾患数、生活習慣、代謝・炎症状態、身体組成と広く関連する指標として構築された。この点で、DNAm GrimAge は年齢を当てるクロックというよりも、老化に伴う生命予後や健康状態を反映する複合的なリスク指標として位置づけられる。

7.2 二段階アプローチの意義

 DNAm GrimAge の特徴は、死亡までの時間をDNAメチル化レベルに直接回帰するのではなく、まず血漿タンパク質や喫煙パック年数のDNAm代理バイオマーカーを作成し、それらを用いて死亡リスクを予測した点にある。一段階型の死亡リスク予測モデルと比較しても、DNAm GrimAge は全死亡および冠動脈疾患の予測において高い性能を示した。
 この結果は、DNAm GrimAge が、死亡リスクと相関するCpGを単に選択した指標ではなく、喫煙負荷や血漿タンパク質に関連する生物学的情報を介して、死亡率・罹患率に関わる情報を統合した指標であることを示している。

7.3 解釈上の注意点

 一方で、本研究の結果は主に観察研究に基づくため、DNAm GrimAge やその構成要素が加齢関連疾患や死亡リスクを直接引き起こすことを示すものではない。AgeAccelGrim と炎症、代謝異常、内臓脂肪、冠動脈疾患、併存疾患数との関連は、老化に伴う生物学的状態を反映している可能性があるが、因果関係を明らかにするには、縦断的研究や介入研究による検証が必要である。
 また、DNAm GrimAge は血液DNAメチル化データに基づいて構築・検証されている。そのため、他の組織の老化をどの程度反映するかについては慎重に解釈する必要がある。したがって、DNAm GrimAge は寿命そのものを直接示す時計ではなく、死亡率・罹患率・生活習慣・炎症・代謝状態と強く関連するエピジェネティックな老化リスク指標として扱う必要がある。



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