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〜 おへその乱読1000本ノック #0112 ~GCN2:アミノ酸欠乏を寿命と摂食行動へつなぐ栄養センサー

 ようこそ、第112回 おへその乱読1000本ノックへ。
 これまで、Sestrin2、SAMTOR、CASTOR1などを取り上げ、アミノ酸の充足状態がmTORC1へ伝えられる仕組みを見てきました。今回からは視点をアミノ酸欠乏側へ移し、栄養不足を感知するGCN2経路と老化制御の関係を探っていきます。
 Srivastava et al.(2022)は、ショウジョウバエを用いて、GCN2が個々の必須アミノ酸の欠乏に対する発生、寿命、摂食行動をどのように制御するかを解析した研究です。アミノ酸の種類ごとに欠乏応答を比較することで、GCN2による栄養感知の共通性と多様性を明らかにしています。
 本論文を通して、細胞内のアミノ酸不足を検出する仕組みが、個体の生存や摂食行動といった生理応答へどのようにつながるのかを見ていきます。

要旨
 食餌中のアミノ酸制限は寿命や健康状態に影響するが、個々のアミノ酸欠乏がどのように感知され、個体の発生、摂食行動、代謝、寿命へ変換されるかは十分に解明されていない。本研究では、新たに作製したショウジョウバエGcn2完全欠損変異体を用い、個別アミノ酸欠乏に対するGCN2の役割を解析した。
 Gcn2欠損変異体は通常食では発生・体重に明確な異常を示さなかったが、メチオニンを除く多くの必須アミノ酸制限下で発生率が低下し、個別必須アミノ酸欠乏下では成虫寿命も短縮した。一方、全アミノ酸欠乏下では野生型との寿命差は認められなかった。摂食行動では、短期的な欠乏食回避はGcn2欠損下でも保持されたが、欠乏が持続した後の代償性摂食は、メチオニン欠乏を除いて失われた。この摂食応答の消失は、トリアシルグリセロール蓄積と飢餓耐性の低下を伴った。
 メチオニン欠乏では、Gcn2欠損変異体でも長期的な摂食増加と代謝適応が維持されたが、ロイシンとの同時欠乏ではこれらの応答が失われたことから、メチオニン依存経路とGCN2依存経路は機能的に連携すると考えられた。また、GCN2下流のATF4を過剰発現すると、ロイシンおよびトリプトファン欠乏時の表現型は部分的に回復したが、イソロイシン欠乏時には回復せず、下流応答のアミノ酸特異性が示された。
 以上より、GCN2はメチオニンを除く個別必須アミノ酸欠乏を長期的な摂食・代謝適応へ変換し、発生と生存を支える。個別アミノ酸欠乏に対する応答は単一の経路によって一様に制御されるのではなく、欠乏するアミノ酸に応じて異なる感知機構と下流応答によって形成される。


1.イントロダクション:アミノ酸欠乏を個体応答へつなぐGCN2

1.1 アミノ酸制限は健康老化を左右する

 食餌制限による健康寿命の延長には、総エネルギー摂取量だけでなく、アミノ酸組成が深く関与する。実際、特定のアミノ酸の制限により複数の生物種で寿命や健康状態が改善することが報告されている。たとえばメチオニン制限はショウジョウバエやげっ歯類の寿命を延長し、分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)の制限も寿命延長や代謝改善、フレイル軽減と関連する。
 しかし、個々のアミノ酸不足が細胞内でどのように感知され、発生・摂食行動・代謝・寿命といった個体レベルの応答に変換されるのかは、十分に解明されていない。

1.2 mTORC1は充足を、GCN2は欠乏を感知する

 アミノ酸状態を読み取る主要経路として、mTORC1とGCN2が知られる。mTORC1はSestrinなどのセンサーを介してアミノ酸の充足を感知し、細胞成長やタンパク質合成を促進する。一方GCN2は、アミノ酸欠乏時に増加する非荷電tRNAを介して欠乏を間接的に感知する。
 活性化したGCN2は翻訳開始因子eIF2αをリン酸化し、全般的なタンパク質合成を抑制する一方で、転写因子ATF4など一部のmRNAの翻訳を選択的に促進する。ATF4はアミノ酸輸送・生合成やストレス適応に関わる遺伝子群を制御し、細胞をアミノ酸欠乏から保護する。
 すなわちmTORC1は充足シグナルを成長へ、GCN2–eIF2α–ATF4経路は欠乏シグナルを翻訳抑制と適応応答へ変換する、対照的な役割を担う。

1.3 GCN2は寿命制御と摂食行動に関与する

 GCN2は、線虫やショウジョウバエの食餌制限依存的な寿命制御、マウスにおけるアミノ酸制限の有益作用への関与が示唆されている。しかし、個々の必須アミノ酸欠乏に対しGCN2が生体内でどう機能するかは不明であった。
 また高等動物は、食餌中のアミノ酸の量・質に応じて摂食行動を変化させる。必須アミノ酸欠乏食を短時間で回避する反応にGCN2が関与するとの報告がある一方、関与しない可能性を示す研究もあり、見解は一致していない。

1.4 本研究の目的

 本研究では、新たに作製したショウジョウバエGcn2完全欠損変異体を用い、個々のアミノ酸欠乏に対する発生・成虫寿命・摂食行動・代謝適応を解析した。さらに、下流転写因子ATF4による表現型回復と、アミノ酸欠乏時の遺伝子発現変化を調べ、GCN2がアミノ酸欠乏をどのように個体レベルの生理応答へ変換するかを検証した。特に、①必須アミノ酸の種類によってGCN2依存性が異なるか、②短期的な欠乏食回避と長期的な代償性摂食が同一機構で制御されるかを明らかにすることを目的とした。

2.研究デザイン:個別アミノ酸欠乏に対するGCN2依存応答を多面的に解析する

2.1 新規Gcn2完全欠損ショウジョウバエの作製

 ショウジョウバエにおけるGCN2の生体内機能を解析するため、Gcn2遺伝子の全コード領域をwhiteʰˢマーカー遺伝子で置換したGcn2¹完全欠損変異体を、ends-out相同組換えにより新たに作製した。対照にはwhite Dahomey(wᴰᵃʰ)系統を用い、実験系統はwᴰᵃʰ背景へ少なくとも6世代戻し交配した。 
 Gcn2¹変異体では、ゲノムPCRとノーザンブロットによりGcn2遺伝子および転写産物の消失を確認し、主要基質であるeIF2αのリン酸化低下も確認した。一方、通常食ではホモ接合体として生存でき、体重にも明確な異常は見られなかった。したがって本変異体は、通常食で顕著な生存・体重異常を示さず、アミノ酸欠乏時に現れるGCN2依存応答を解析する実験系となった。

2.2 化学組成既知食による個別アミノ酸操作

 個々のアミノ酸濃度を厳密に操作するため、全栄養成分が既知の化学組成既知食を用いた。基本食には酵母のアミノ酸組成に基づき設計したYaa食を使用し、アミノ酸比の異なるHUNTaa食との比較も行った。
 Yaa食から個別の必須アミノ酸を減少または完全除去し、各アミノ酸欠乏への応答を比較した。発生試験では主に各必須アミノ酸を70%制限し、トリプトファンとメチオニンについては80%・90%制限も実施した。一方、成虫の寿命、摂食行動、脂質蓄積、飢餓耐性の解析では、各必須アミノ酸を完全除去した食餌を用いた。
 さらに、HUNTaa食で制限的となるアルギニンを補充する条件と、全アミノ酸量を一括増加させる条件を設け、発生への影響が特定アミノ酸の絶対量によるものか、他のアミノ酸との比率によるものかを検証した(Fig. 1、詳細は後述)。

2.3 発生から成虫寿命までの個体応答

 発生への影響は、各食餌条件で卵を飼育し、成虫まで羽化した個体の割合(egg-to-adult viability)として評価した。各条件は25個の胚を1バイアルとし、10バイアルで解析した。
 成虫寿命試験では主に交尾後の雌を用い、各遺伝子型・食餌条件につき100~200個体を追跡した。10匹ずつバイアルに分け、2~3日ごとに新しい食餌へ移しながら死亡数を記録した。一部の代表的な食餌条件では雄も解析し、雌で得られたGCN2依存応答が雄でも認められるかを確認した。
 また、アミノ酸欠乏による寿命変化が産卵量の差によって説明されるかを検討するため、成虫期の累積産卵数も測定した。

2.4 短期および長期の摂食行動の測定

 摂食行動は、口吻伸展を指標とするproboscis-extension assayにより、同一個体群を最大7日間継続観察した。1日90分間、10分ごとに観察し、食餌開始1日目の短期応答と、4日目以降の長期応答を区別した。
 これにより、アミノ酸欠乏食を初期に避ける反応と、欠乏が長期化した後に摂食量を増やす代償性摂食をそれぞれ評価した。口吻伸展は摂食の間接指標であるため、主要な結果については青色色素を添加した食餌を与え、体内に取り込まれた色素量を測定するblue-dye feeding assayにより実際の摂食量を確認した。

2.5 脂質蓄積と飢餓耐性による代謝適応の評価

 個別アミノ酸欠乏に対する長期的な摂食変化がエネルギー貯蔵に及ぼす影響を調べるため、各食餌で7日間飼育した雌のトリアシルグリセロール量を測定した。総タンパク質量も測定し、アミノ酸欠乏に伴う脂質・タンパク質変化を比較した。
 飢餓耐性試験では、各アミノ酸欠乏食で7日間前処理した後、栄養を含まない1%アガロース培地へ移し、完全絶食下での生存時間を測定した。これにより、欠乏食への事前適応がその後のエネルギー欠乏耐性につながるかを検証した。

2.6 ATF4過剰発現による下流機構の検証

 GCN2の下流転写因子ATF4がアミノ酸欠乏時の表現型をどこまで担うかを調べるため、Gcn2¹変異体の成虫でAtf4を誘導的に過剰発現させた。GeneSwitch系とRU486を用い、発生期ではなく成虫期に限定してATF4を発現させ、ロイシン・トリプトファン・イソロイシン欠乏条件における摂食行動と飢餓耐性の回復を評価した。
 この設計により、GCN2の作用がATF4によってどこまで媒介されるか、また欠乏アミノ酸の種類によってATF4依存性が異なるかを検証した(Fig. 7、詳細は後述)。

2.7 RNA-seqによる転写応答の解析

 アミノ酸欠乏時の遺伝子発現変化とそのGCN2依存性を調べるため、野生型とGcn2¹変異体を完全食、アルギニン欠乏食、メチオニン欠乏食、全アミノ酸欠乏食で3日間飼育し、RNA-seqを行った。
 産卵・生殖組織由来の転写変化を避けるため、腹部を除いた頭部・胸部からRNAを抽出した。各条件3反復で解析し、DESeq2による発現変動遺伝子の抽出と、DAVID・REVIGOによるGO解析を行った。これにより、各アミノ酸欠乏に共通する転写応答と、アルギニン欠乏・メチオニン欠乏・全アミノ酸欠乏に固有の応答を比較するとともに、それぞれにおけるGCN2の寄与を検証した(Fig. 6、詳細は後述)。

2章まとめ
 新規Gcn2完全欠損変異体と化学組成既知食を組み合わせ、発生、寿命、摂食行動、脂質蓄積、飢餓耐性、ATF4依存性、転写応答を多面的に解析した。これにより、個別アミノ酸欠乏に対するGCN2の役割を、個体の生存から行動・代謝・遺伝子発現に至るまで一貫して検証した。

3.GCN2は個別必須アミノ酸制限下の発生を支える

3.1 HUNTaa食ではGcn2欠損変異体の発生が著しく低下する

 Yaa食では、野生型とGcn2¹変異体のegg-to-adult viabilityに明確な差は認められなかった。一方、アミノ酸組成比の異なるHUNTaa食では、野生型が高いviabilityを維持したのに対し、Gcn2¹変異体では発生が著しく低下した(Fig. 1A)。この結果から、GCN2は通常条件での発生には必須ではないが、特定のアミノ酸が制限的となる条件では発生維持に必要であることが示された。

3.2 発生不全はアルギニン量ではなくアミノ酸比に依存する

 HUNTaa食ではアルギニンが最も制限的であり、Yaa食のアルギニンを減少させるとGcn2¹変異体のviabilityが低下した。一方、HUNTaa食へアルギニンを補充すると発生は回復したが、アミノ酸比を保ったまま総アミノ酸量を増加させても回復しなかった(Fig. 1B–D)。したがって、GCN2依存的な発生維持には、制限アミノ酸の絶対量よりも他のアミノ酸との比率が重要である。 

3.3 GCN2依存性はアミノ酸の種類によって異なる

 個別の必須アミノ酸を制限すると、Gcn2¹変異体では多くの条件でviabilityが低下した。GCN2への依存度はアミノ酸ごとに異なり、ロイシンとイソロイシンで特に強く、トリプトファンでは強い制限条件下で明瞭になった。一方、メチオニン制限では野生型と変異体が同程度に影響を受けた(Fig. 1E, F)。以上より、GCN2はメチオニンを除く多くの必須アミノ酸制限下で発生を支えるが、その寄与は一様ではない。


Fig. 1 GCN2はメチオニンを除く個別必須アミノ酸制限下の発生に必要である
 
化学組成既知のYaa食およびHUNTaa食で飼育した野生型とGcn2¹変異体のegg-to-adult viability。Yaa食では両遺伝子型に差は認められなかったが、HUNTaa食ではGcn2¹変異体のviabilityが10%未満まで低下した。 Yaa食とHUNTaa食における必須アミノ酸組成の比較。HUNTaa食ではアルギニンが最も制限的であった。 Yaa食中のアルギニンを70%減少させるとGcn2¹変異体のviabilityが著しく低下し、HUNTaa食へアルギニンをYaa食と同じ水準まで補充するとviabilityは回復した。 HUNTaa食のアミノ酸比を維持したまま総アミノ酸量を50%増加させても、Gcn2¹変異体のviabilityは回復しなかった。したがって、発生維持には制限アミノ酸の絶対量より、他のアミノ酸との比率が重要である。 各必須アミノ酸を70%制限した条件でのviability。野生型では大きな低下を認めなかったが、Gcn2¹変異体ではロイシン、イソロイシン、アルギニン、リシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、スレオニン、バリンの制限でviabilityが低下した。 トリプトファンおよびメチオニンを80%または90%制限した条件でのviability。トリプトファンでは制限を強めるとGCN2依存性が明瞭になったが、メチオニンでは野生型とGcn2¹変異体が同程度に影響を受けた。各条件25胚×10バイアル。中央値、四分位範囲およびTukey法によるひげを表示。二元配置分散分析後、Bonferroni法による多重比較を行った。

3章まとめ
 GCN2は、アミノ酸組成が不均衡な条件で発生を維持する。特にメチオニン以外の多くの必須アミノ酸制限で必要となり、その応答はアミノ酸の絶対量より組成比に強く依存した。

4.GCN2は個別必須アミノ酸欠乏下の成虫寿命を支える

4.1 GCN2欠損の影響は通常食よりアミノ酸欠乏下で顕在化する

 完全食では、Gcn2¹変異体は野生型よりわずかに長寿であった。したがって、GCN2は通常の栄養条件下で成虫の生存に必須ではない。一方、個別の必須アミノ酸を完全に除去すると、Gcn2¹変異体はメチオニンを除く9種類すべての条件で野生型より短命となった(Fig. 2A–J, L)。GCN2の役割は、通常食よりも個別必須アミノ酸欠乏下で顕在化した。

4.2 寿命維持におけるGCN2依存性はアミノ酸ごとに異なる

 GCN2欠損による寿命短縮の程度は、欠乏するアミノ酸によって大きく異なった。アルギニンやフェニルアラニンの欠乏は野生型の寿命には比較的小さな影響しか与えなかったが、Gcn2¹変異体では著しい寿命短縮を引き起こした。一方、メチオニン欠乏下では、Gcn2¹変異体は野生型より長寿となった(Fig. 2A–J, L)。したがって、個別必須アミノ酸欠乏に対する生存応答は一様ではなく、メチオニン欠乏は他の必須アミノ酸とは異なる機構で処理されると考えられる。

4.3 個別アミノ酸欠乏と全アミノ酸欠乏は異なる応答を誘導する

 すべてのアミノ酸を除去すると、野生型とGcn2¹変異体の寿命に差は認められなかった(Fig. 2K)。さらに、Gcn2¹変異体は、全アミノ酸欠乏下よりもアルギニンやトリプトファンのみを欠く条件で短命であった。この結果は、個別アミノ酸欠乏と全アミノ酸欠乏が、異なる生存応答を誘導することを示す。GCN2は全面的なアミノ酸飢餓よりも、特定の必須アミノ酸だけが不足する条件への適応に重要である。


Fig. 2 GCN2はメチオニンを除く個別必須アミノ酸欠乏下の成虫生存に必要である
 

A–J 完全食Yaa、またはアルギニン(R)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、ヒスチジン(H)、リシン(K)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、メチオニン(M)を個別に完全除去した食餌で飼育した野生型およびGcn2¹変異体雌の生存曲線。野生型では、すべての個別必須アミノ酸欠乏により寿命が短縮したが、その程度はアミノ酸によって異なった。Yaa食と比べた寿命中央値の短縮は、メチオニン欠乏で60%、スレオニン欠乏で54%、イソロイシン欠乏で51%と大きく、アルギニン、リシン、フェニルアラニン欠乏ではそれぞれ13%、10%、6%にとどまった。  Gcn2¹変異体はYaa食では野生型よりわずかに長寿であったが、メチオニン以外の9種類の必須アミノ酸欠乏下では、同じ食餌で飼育した野生型より短命となった。寿命中央値は、アルギニン欠乏で78%、トリプトファン欠乏で69%、フェニルアラニン欠乏で62%、バリン欠乏で45%、ロイシン欠乏で43%、イソロイシン欠乏で40%、ヒスチジン欠乏で34%、リシン欠乏で25%、スレオニン欠乏で21%短縮した。一方、メチオニン欠乏下では、Gcn2¹変異体は野生型より長寿となった。 すべてのアミノ酸を除去した食餌では、野生型とGcn2¹変異体の寿命に差は認められなかった。 各食餌条件におけるGcn2¹変異体の寿命中央値を、同じ食餌で飼育した野生型に対する変化率として示した。各条件・遺伝子型につき150個体を解析し、生存曲線はlog-rank検定で比較した。

4章まとめ
 
GCN2は、メチオニンを除く個別必須アミノ酸欠乏下で成虫寿命を維持した。一方、全アミノ酸欠乏ではGCN2の有無による寿命差はなく、GCN2は栄養の全面的欠乏よりも、アミノ酸組成の不均衡への適応に重要であった。

5.GCN2は長期的な代償性摂食を制御する

5.1 短期的な欠乏食回避はGCN2非依存的に起こる

 個別の必須アミノ酸を除去した食餌を与えると、野生型では摂食開始1日目に摂食頻度が低下した。Gcn2¹変異体でも同様の低下傾向が認められたことから、必須アミノ酸欠乏食を短期的に回避する反応にはGCN2は必須ではない(Fig. 3A, B, D)したがって、GCN2は短期的な欠乏食回避には必須ではなく、欠乏が持続した後の行動変化に関与すると考えられる。

5.2 GCN2は欠乏食への長期的な代償性摂食に必要である

 個別必須アミノ酸の欠乏が続くと、野生型は摂食頻度を増加させた。これは、個別必須アミノ酸欠乏に対する長期的な代償性摂食と考えられる。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニンを除く多くの必須アミノ酸欠乏下で摂食頻度が増加せず、低い状態が持続した(Fig. 3A, C, E)。この結果から、GCN2は短期的な欠乏食回避ではなく、欠乏の持続に応じて摂食行動を増加方向へ切り替えるために必要であることが示された。

5.3 メチオニン欠乏と全アミノ酸欠乏は異なる摂食応答を示す

 メチオニン欠乏下では、Gcn2¹変異体でも野生型と同様に長期的な摂食増加が認められた(Fig. 3A, C)。したがって、発生および成虫寿命と同様に、メチオニン欠乏時の摂食応答もGCN2非依存的に制御される。一方、すべてのアミノ酸を除去した食餌では、野生型でも長期的な代償性摂食は起こらなかった(Fig. 3A–C)。個別アミノ酸欠乏に対する摂食増加には、食餌中に利用可能なアミノ酸が残されていることが必要であると考えられる。


Fig. 3 GCN2は個別必須アミノ酸欠乏に対する長期的な代償性摂食を制御する

A 完全食Yaa、またはアルギニン(−R)、ロイシン(−L)、メチオニン(−M)、全アミノ酸(−All)を除去した食餌を与えた野生型およびGcn2¹変異体雌について、口吻伸展を指標として7日間測定した摂食頻度。野生型では、個別必須アミノ酸欠乏により摂食頻度が初期に低下した後、数日以内に増加へ転じた。一方、Gcn2¹変異体では、アルギニンおよびロイシン欠乏下で長期的な摂食増加が認められなかったが、メチオニン欠乏下では増加した。全アミノ酸欠乏では、両遺伝子型とも長期的な摂食増加を示さなかった。 B 食餌開始1日目の摂食頻度。野生型ではアルギニンおよびロイシン欠乏により摂食頻度が有意に低下し、メチオニン欠乏でも低下傾向が認められた。Gcn2¹変異体でも短期的な欠乏食回避が概ね保持され、GCN2がこの応答に必須ではないことが示された。 C 食餌開始4日目の摂食頻度。野生型ではアルギニン、ロイシン、メチオニン欠乏下で完全食より摂食頻度が増加した。一方、Gcn2¹変異体ではアルギニンおよびロイシン欠乏下で摂食頻度が低く、長期的な代償性摂食が失われていたが、メチオニン欠乏下では摂食増加が維持された。 D,E バリン(−V)、イソロイシン(−I)、フェニルアラニン(−F)、ヒスチジン(−H)、リシン(−K)、スレオニン(−T)、トリプトファン(−W)欠乏食における1日目および4日目の摂食頻度。短期的には野生型とGcn2¹変異体の双方で摂食頻度が低下した。4日目には野生型でトリプトファンを除く多くの条件で摂食増加傾向が認められたが、Gcn2¹変異体ではすべての条件で低い摂食頻度を示した。 各条件5匹×6バイアルを解析し、平均値±標準誤差で表示した。一元配置分散分析後、Dunnett法による多重比較を行った。

5章まとめ
 
個別必須アミノ酸欠乏に対する短期的な摂食低下はGCN2非依存的に起こるが、長期的な代償性摂食にはGCN2が必要であった。メチオニン欠乏ではこの応答が維持され、GCN2とは異なる感知機構の存在が示された。

6.GCN2依存的な摂食応答は脂質蓄積と飢餓耐性を支える

6.1 個別必須アミノ酸欠乏は野生型で脂質蓄積を促す

 個別必須アミノ酸欠乏食で7日間飼育すると、野生型ではすべての条件でトリアシルグリセロール量が増加した。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン欠乏を除いて脂質蓄積が低下した(Fig. 4A)。この結果は、長期的な代償性摂食と脂質蓄積が対応しており、GCN2がアミノ酸欠乏下のエネルギー貯蔵に必要であることを示す。

6.2 GCN2はアミノ酸欠乏への事前適応による飢餓耐性を支える

 個別必須アミノ酸欠乏食で7日間前処理した後に完全絶食へ移すと、野生型ではすべての条件で飢餓耐性が上昇した。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン以外の必須アミノ酸欠乏後に飢餓耐性が低下した(Fig. 4B–K)。したがって、GCN2は個別必須アミノ酸欠乏に応じた摂食増加と脂質蓄積を介して、その後の栄養欠乏に備える適応応答を支える。

6.3 メチオニン欠乏ではGCN2非依存的な代謝適応が維持される

 メチオニン欠乏下では、Gcn2¹変異体でもトリアシルグリセロール量が増加し、その後の完全絶食に対する抵抗性も上昇した(Fig. 4A, K)。発生、寿命、摂食行動に続き、脂質蓄積と飢餓耐性においてもメチオニン欠乏は他の必須アミノ酸とは異なる応答を示した。したがって、メチオニン欠乏時の代謝適応は、GCN2とは異なる感知経路によって制御されると考えられる。


Fig. 4 GCN2は個別必須アミノ酸欠乏に伴う脂質蓄積と飢餓耐性に必要である


A 完全食Yaa、または各必須アミノ酸を個別に除去した食餌で7日間飼育した野生型およびGcn2¹変異体雌のトリアシルグリセロール(TAG)量。野生型では、すべての個別必須アミノ酸欠乏条件でYaa食よりTAG量が増加した。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン欠乏を除くすべての条件でTAG量が低下し、メチオニン欠乏下では増加した。各条件5匹を1反復として4反復を解析し、平均値±標準誤差で表示した。一元配置分散分析後、Dunnett法による多重比較を行った。  B–K 完全食Yaa、またはアルギニン(−R)、ロイシン(−L)、イソロイシン(−I)、バリン(−V)、フェニルアラニン(−F)、ヒスチジン(−H)、リシン(−K)、スレオニン(−T)、トリプトファン(−W)、メチオニン(−M)欠乏食で7日間前処理した後、完全絶食へ移した野生型およびGcn2¹変異体雌の生存曲線。野生型では、すべての個別必須アミノ酸欠乏による前処理後に、Yaa食前処理群より飢餓耐性が上昇した。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン以外の9種類の必須アミノ酸欠乏後に飢餓耐性が低下したが、メチオニン欠乏後には上昇した。各条件・遺伝子型につき100個体を解析し、生存曲線はlog-rank検定で比較した。

6章まとめ
 GCN2は、個別必須アミノ酸欠乏に応じた長期的な摂食増加、脂質蓄積、飢餓耐性をつなぐ代謝適応を支えた。一方、メチオニン欠乏ではこれらの応答がGCN2非依存的に維持された。

7.メチオニン欠乏応答はGCN2依存経路と相互接続する

7.1 メチオニン欠乏はGCN2非依存的に代償性摂食を誘導する

 これまでの解析では、メチオニン欠乏下において、Gcn2¹変異体でも長期的な摂食増加、脂質蓄積、飢餓耐性が維持された。したがって、メチオニン欠乏は、他の必須アミノ酸とは異なるGCN2非依存経路によって感知されると考えられる。そこで、メチオニン欠乏に応答する経路がGCN2依存経路とは独立に働くのか、それとも両者が相互に関係するのかを検証した。

7.2 ロイシンとの同時欠乏はメチオニン依存応答を抑制する

 メチオニンとロイシンを同時に除去した食餌を与えると、野生型では、それぞれを単独で欠乏させた場合と同様に長期的な摂食増加が認められた。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン単独欠乏時には摂食量が増加したものの、ロイシンとの同時欠乏ではこの応答が失われた(Fig. 5A)。この結果は、メチオニン欠乏を感知するGCN2非依存経路が、ロイシン欠乏が同時に生じた条件では単独で代償性摂食を維持できないことを示す。

7.3 二つの欠乏感知経路は独立並列ではない

 飢餓耐性についても、野生型ではメチオニン、ロイシン、両者の同時欠乏後にいずれも上昇した。一方、Gcn2¹変異体では、メチオニン単独欠乏後には飢餓耐性が上昇したが、ロイシン単独欠乏およびメチオニン・ロイシン同時欠乏後には低下した(Fig. 5B)。したがって、メチオニン欠乏応答とGCN2依存的な必須アミノ酸欠乏応答は、単純に独立した並列経路として働くのではなく、機能的に連携して個体の摂食行動と代謝適応を制御すると考えられる。

Fig. 5 メチオニン欠乏応答はGCN2依存的なロイシン欠乏応答から独立していない

A 完全食Yaa、ロイシン欠乏食(−L)、メチオニン欠乏食(−M)、またはロイシン・メチオニン同時欠乏食(−LM)を与えた野生型およびGcn2¹変異体雌の4日目の摂食頻度。野生型では、−L、−M、−LMのいずれでも摂食頻度が増加し、3条件間に明確な差は認められなかった。一方、Gcn2¹変異体では、−Mで摂食頻度が増加したが、−Lおよび−LMでは低下した。したがって、Gcn2¹変異体が保持していたメチオニン欠乏への代償性摂食は、ロイシンが同時に欠乏すると誘導されなかった。各条件5匹×6バイアルを解析し、平均値±標準誤差で表示した。一元配置分散分析後、Dunnett法による多重比較を行った。  B 各食餌で7日間前処理した後、完全絶食へ移した野生型およびGcn2¹変異体雌の生存曲線。野生型では、−L、−M、−LMのすべてでYaa食前処理群より飢餓耐性が上昇した。Gcn2¹変異体では、−M前処理後に飢餓耐性が上昇したが、−Lおよび−LM前処理後には低下した。各条件・遺伝子型につき100個体を解析し、生存曲線はlog-rank検定で比較した。

7章まとめ
 メチオニン欠乏はGCN2非依存的な応答を誘導するが、その作用はGCN2依存経路から完全には独立していなかった。ロイシンが同時に欠乏すると、Gcn2¹変異体ではメチオニン欠乏による代償性摂食と飢餓耐性の上昇が失われ、二つの欠乏感知経路が機能的に連携することが示された。

8.ATF4はGCN2依存応答をアミノ酸特異的に担う

8.1 ATF4過剰発現はロイシン・トリプトファン欠乏時の摂食応答を部分的に回復する

 ATF4がGCN2依存的な長期摂食応答を担うかを検証するため、Gcn2¹変異体の成虫でAtf4を誘導的に過剰発現させた。ATF4の発現誘導は完全食での摂食頻度には影響しなかったが、ロイシンおよびトリプトファン欠乏下では、Gcn2¹変異体の低下した摂食頻度を部分的に回復させた。一方、イソロイシン欠乏下では回復しなかった(Fig. 7A)。したがって、ATF4はGCN2下流の長期摂食応答に関与するが、その寄与は欠乏する必須アミノ酸によって異なる。

8.2 飢餓耐性と寿命の回復もアミノ酸ごとに異なる

 ATF4過剰発現による飢餓耐性の回復も、摂食応答と同じ傾向を示した。ロイシンおよびトリプトファン欠乏下ではGcn2¹変異体の飢餓耐性が部分的に回復したが、イソロイシン欠乏下では回復しなかった(Fig. 7B–E)。
 成虫寿命については、ロイシン欠乏下でATF4過剰発現によりGcn2¹変異体の寿命が野生型水準まで回復した。一方、イソロイシン欠乏下の寿命短縮は改善しなかった(Fig. 7F, G)。これらの結果から、ATF4による救済効果は、摂食行動、飢餓耐性、寿命に共通してアミノ酸特異的であることが示された。

8.3 GCN2下流にはATF4以外の制御因子も存在する

 ATF4過剰発現による回復は多くの条件で部分的にとどまり、イソロイシン欠乏などでは認められなかった。したがって、GCN2依存応答をATF4だけで説明することはできない。
 GCN2下流では、ATF4の活性化程度や協調する転写因子が、欠乏するアミノ酸ごとに異なる可能性がある。すなわち、GCN2は単一のATF4経路を一様に作動させるのではなく、アミノ酸の種類に応じて異なる下流応答を形成すると考えられる(Fig. 7H)。


Fig. 7 ATF4過剰発現はGCN2依存応答をアミノ酸特異的に回復させる

A Gcn2¹変異体雌において、成虫期にGeneSwitch系でAtf4を誘導的に過剰発現させ、完全食Yaa、ロイシン欠乏食(−L)、トリプトファン欠乏食(−W)、イソロイシン欠乏食(−I)で測定した摂食頻度。ATF4誘導はYaa食での摂食に影響しなかったが、−Lおよび−Wで低下した摂食頻度を部分的に回復させた。一方、−Iでは回復しなかった。 B–E 完全食、ロイシン欠乏、イソロイシン欠乏、トリプトファン欠乏で前処理した後の完全絶食下における生存曲線。ATF4過剰発現は、ロイシンおよびトリプトファン欠乏後のGcn2¹変異体の飢餓耐性を部分的に回復させたが、イソロイシン欠乏後には回復させなかった。 F, G ロイシン欠乏食およびイソロイシン欠乏食における成虫寿命。ATF4過剰発現は、ロイシン欠乏下で短縮したGcn2¹変異体の寿命を野生型水準まで回復させたが、イソロイシン欠乏下では寿命を回復させなかった。 H 本研究から導かれたモデル。ATF4はGCN2下流の主要な制御因子であるが、その救済効果は欠乏するアミノ酸によって異なる。したがって、GCN2依存応答にはATF4に加えて、アミノ酸特異的な転写因子や補助因子が関与すると考えられる。

8章まとめ
 ATF4はGCN2依存的な摂食行動、飢餓耐性、寿命の一部を担ったが、その救済効果は欠乏する必須アミノ酸によって異なった。GCN2下流にはATF4だけでなく、アミノ酸特異的に働く追加の制御因子が存在すると考えられる。

9.アミノ酸欠乏は共通応答とアミノ酸特異的応答を誘導する

9.1 欠乏するアミノ酸によって転写応答は異なる

 野生型では、アルギニン欠乏、メチオニン欠乏、全アミノ酸欠乏のいずれでも、多数の遺伝子発現が変化した(Fig. 6A)。一部の遺伝子は三つの欠乏条件に共通して調節されたが、それぞれの条件に固有の変化も認められた(Fig. 6B)。したがって、アミノ酸欠乏は一つの共通した飢餓応答を誘導するだけでなく、欠乏するアミノ酸の種類に応じた転写プログラムを形成する。

9.2 代謝経路の再編成にも欠乏条件ごとの特徴が現れる

 三つの欠乏条件に共通して発現が上昇した遺伝子には、脂質代謝、TCA回路、ヌクレオチド代謝に関わる遺伝子が含まれていた。一方、メチオニン欠乏ではミトコンドリア構成に関わる遺伝子群が特異的に増加し、アルギニン欠乏ではリボソーム生合成に関わる遺伝子群が特異的に減少した(Fig. 6C)。この結果は、個別アミノ酸欠乏に対する適応が、共通の代謝再編成とアミノ酸特異的な応答の組み合わせによって成立することを示す。

9.3 GCN2は転写応答の一部をアミノ酸依存的に制御する

 Gcn2¹変異体でも、各アミノ酸欠乏に応じて多数の遺伝子発現が変化したことから、GCN2欠損によって欠乏時の転写応答全体が失われるわけではなかった。しかし、その発現変化の規模と内容は野生型とは異なり、特にアルギニン欠乏下で顕著な差が認められた(Fig. 6A–C)。
 アルギニン欠乏下のGcn2¹変異体では、野生型で認められた脂質代謝関連遺伝子の増加がみられなかった。この違いは、GCN2欠損下で脂質蓄積と飢餓耐性が低下した結果と対応していた。一方、全アミノ酸欠乏では野生型と変異体に共通する発現変化が多く、個体寿命に差がなかった結果とも整合した。
 以上より、GCN2はアミノ酸欠乏時の転写応答を全面的に開始する因子ではなく、欠乏するアミノ酸に応じて、その一部を選択的に調節すると考えられる。


Fig. 6 アミノ酸欠乏に対する転写応答は欠乏条件とGCN2の有無によって異なる


A 野生型およびGcn2¹変異体をアルギニン欠乏食(−R)、メチオニン欠乏食(−M)、全アミノ酸欠乏食(−All)で3日間飼育し、完全食Yaaに対して発現が有意に変化した遺伝子数を示した。野生型では、−R、−M、−Allでそれぞれ1,801、2,124、3,244遺伝子が変動した。Gcn2¹変異体では、それぞれ3,354、1,703、2,007遺伝子が変動し、特にアルギニン欠乏下で野生型より多くの遺伝子が影響を受けた。棒グラフは発現上昇遺伝子と発現低下遺伝子を分けて示す。  B 各欠乏条件で発現が上昇または低下した遺伝子の重なりを示したベン図。野生型では、681個の発現上昇遺伝子と185個の発現低下遺伝子が三つの欠乏条件に共通していた。一方、アルギニン欠乏、メチオニン欠乏、全アミノ酸欠乏に固有の遺伝子群も認められ、共通応答と欠乏条件特異的応答が併存していた。Gcn2¹変異体でも共通遺伝子群と条件特異的遺伝子群がみられたが、その構成は野生型とは異なり、アルギニン欠乏に固有の発現変化が特に多かった。  C 各遺伝子型・欠乏条件で発現上昇または低下した遺伝子に対するGO解析。野生型では、脂質代謝、TCA回路、ヌクレオチド代謝に関わる遺伝子群が複数の欠乏条件で共通して増加した。メチオニン欠乏ではミトコンドリア構成に関わる遺伝子群が特異的に増加し、アルギニン欠乏ではリボソーム生合成に関わる遺伝子群が特異的に低下した。Gcn2¹変異体ではGO enrichmentのパターンが変化し、特にアルギニン欠乏下では脂質代謝関連遺伝子の増加が認められなかった。各条件・遺伝子型につき3反復を解析し、DESeq2で発現変動遺伝子を抽出した。GO解析にはDAVIDを用い、重複するGO項目をREVIGOで整理した。

9章まとめ
 アミノ酸欠乏は、共通の代謝応答と欠乏するアミノ酸に固有の転写応答を誘導した。GCN2欠損下でも転写応答全体は維持されたが、その構成は変化し、GCN2が欠乏条件に応じて特定の遺伝子群を選択的に制御することが示された。

10.結論:GCN2は個別アミノ酸欠乏を生存と行動の適応へ変換する

 本研究では、ショウジョウバエのGcn2完全欠損変異体を用い、個別アミノ酸欠乏に対する発生、寿命、摂食行動、脂質蓄積、飢餓耐性、転写応答を解析した。その結果、GCN2はメチオニンを除く多くの必須アミノ酸欠乏下で、発生と成虫生存を維持するために必要であった。
 GCN2欠損下でも、必須アミノ酸欠乏食に対する短期的な回避反応は保持されていた。一方、欠乏が持続した後に摂食量を増加させる代償性摂食は失われ、脂質蓄積と飢餓耐性も低下した。したがって、GCN2は欠乏の初期検出よりも、持続的なアミノ酸不足に応じて行動と代謝を切り替える長期適応に重要である。
 ただし、この応答はすべてのアミノ酸で一様ではなかった。メチオニン欠乏ではGCN2非依存的な応答が維持され、ATF4による表現型回復も欠乏するアミノ酸によって異なった。以上より、個別アミノ酸欠乏に対する個体応答は単一の経路で制御されるのではなく、GCN2を中心としながら、アミノ酸ごとに異なる感知機構と下流応答によって形成される。



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