〜 おへその乱読1000本ノック #0114 ~ 統合ストレス応答(ISR)による老化制御と加齢に伴う疾患の改善
ようこそ、第114回 おへその乱読1000本ノックへ。
前回は、GCN2がアミノ酸欠乏を感知し、eIF2αのリン酸化とATF4の誘導を通じて、栄養ストレスへの適応や加齢関連疾患に関わる仕組みを見ました。今回は、その視野をGCN2から統合ストレス応答全体へ広げていきます。
Derisbourg et al.(2021)は、アミノ酸欠乏やERストレス、ウイルス感染、ミトコンドリア障害など、異なるストレスが共通の翻訳制御機構へ収束し、老化や加齢関連病態に影響する仕組みをまとめた総説です。
本稿では、統合ストレス応答の基本構造、加齢に伴う変化、寿命制御との関係、さらに薬理学的介入の可能性を見ていきます。

要旨
健康な老化には、多様なストレス応答経路を連携させ、タンパク質恒常性を維持することが必要である。統合ストレス応答(ISR)は、アミノ酸欠乏、小胞体ストレス、ウイルス感染、ヘム欠乏、ミトコンドリアストレスなどによって活性化され、eIF2αのリン酸化を介して全体的なタンパク質合成を抑制する一方、ATF4などのストレス応答因子を選択的に誘導する。
ISR活性は加齢に伴って上昇することが報告されているが、その老化への影響は一方向ではない。翻訳抑制やストレス適応は寿命延長経路に関与する一方、慢性的なISR活性化は、組織機能低下や加齢関連病態に関与する可能性がある。また、線虫ではISRの遺伝学的・薬理学的抑制によって寿命が延長し、老齢マウスではISR阻害薬ISRIBにより認知機能が改善することが示されている。
本論文では、加齢に伴うISRの変化、ISR操作が寿命に及ぼす影響、神経変性疾患やがんなどの加齢関連病態における役割を整理し、ISR活性化薬および抑制薬による治療的介入の可能性を検討する。ISRは単純に活性化または抑制すべき経路ではなく、組織、病態、介入時期、ストレスの強度や持続時間に応じて適切に調節することが重要である。
1.イントロダクション:統合ストレス応答と老化
老化に伴い、細胞はさまざまなストレスへの適応能力を失い、タンパク質の合成・折りたたみ・分解を適切に制御することが難しくなる。このタンパク質恒常性の低下は細胞・組織機能の低下を招き、多くの加齢関連疾患の一因となっている。
統合ストレス応答(integrated stress response:ISR)は、細胞内外の多様なストレスを翻訳制御へと集約する仕組みである。アミノ酸欠乏、小胞体ストレス、ウイルス感染、ヘム欠乏、ミトコンドリアストレスといった刺激は、それぞれ異なるセンサーによって感知されるものの、最終的にはいずれもeIF2αのリン酸化へと収束する。これにより全体的なタンパク質合成は抑制される一方、ATF4をはじめとするストレス応答因子が選択的に誘導され、細胞は恒常性の回復を図る。
ISRは本来、細胞をストレスから保護する適応機構であるが、その活性は加齢に伴って上昇することが報告されている。この変化が老化に対する防御反応なのか、それとも組織機能低下を促進する要因なのかは、いまだ明らかになっていない。そこで本論文では、加齢に伴うISRの変化、ISRの遺伝学的操作が寿命に及ぼす影響、そして薬理学的なISR調節が加齢関連病態に与える作用を整理し、ISRを老化介入の標的とする可能性について検討する。
2.ISRはeIF2αリン酸化を介して翻訳を再編成する
統合ストレス応答(ISR)は、HRI、GCN2、PKR、PERKという4種類のeIF2αキナーゼによって活性化される。これらはそれぞれヘム欠乏、アミノ酸欠乏、ウイルス感染、小胞体ストレスを感知するが、いずれも最終的にはeIF2αのSer51をリン酸化する点で収束する(図1)。
通常、eIF2はGTPおよび開始メチオニルtRNAとともに三者複合体を形成し、開始tRNAを40Sリボソーム小サブユニットへ運搬する。開始コドンが認識されるとGTPが加水分解され、GDP結合型となったeIF2は翻訳開始複合体から解離する。その後、eIF2BがGDPをGTPへ交換することでeIF2は再生され、次の翻訳開始に利用可能となる。
eIF2αがリン酸化されると、eIF2はeIF2Bの働きを阻害し、三者複合体の再形成が低下する。これにより全体的なタンパク質合成は抑制される。一方、ATF4のように上流オープンリーディングフレームをもつ一部のmRNAはむしろ選択的に翻訳が促進され、アミノ酸輸送、抗酸化応答、オートファジーといったストレス適応反応を活性化する。ストレスが強い、あるいは長期にわたる場合には、CHOPを介して細胞死へと移行することもある。
ISRは、eIF2αの脱リン酸化によって終結する。プロテインホスファターゼ1は、恒常的に発現するCReP、あるいはISRによって誘導されるGADD34と複合体を形成し、リン酸化eIF2αを脱リン酸化する。とくにGADD34は、ISR活性化後に誘導されることで翻訳を回復させる負のフィードバック機構を担う。
さらに、ISRは他のストレス応答経路とも連携している。PERKは小胞体ストレス応答を構成する因子の一つであり、ミトコンドリアストレスはOMA1–DELE1–HRI経路を介して細胞質のISRへ伝達される。またATF4は、ISRだけでなくmTORC1の下流でも誘導され、アミノ酸の合成や取り込みを制御する。このようにISRは、多様なストレス入力を翻訳開始の調節へと集約し、細胞の合成活動をストレス適応の方向へ切り替える仕組みとして機能している。

図1 統合ストレス応答による翻訳開始の制御
eIF2はGTPおよび開始メチオニルtRNAと三者複合体を形成し、翻訳開始に働く。HRI、GCN2、PKR、PERKはそれぞれ異なるストレスを感知し、eIF2αをリン酸化する。リン酸化eIF2αはeIF2Bを阻害して三者複合体の再形成を抑え、全体的なタンパク質合成を低下させる一方で、ATF4の選択的翻訳を促進する。ATF4はアミノ酸代謝、抗酸化応答、オートファジーなどに関わる遺伝子群を誘導する。CRePまたはGADD34と結合したプロテインホスファターゼ1は、eIF2αを脱リン酸化してISRを終結させる。図中には、ISR活性化薬および抑制薬の主な作用点もあわせて示す。
3.ISRは加齢に伴って活性化する
加齢に伴い、ISRを構成する複数の因子に変化が生じる。老齢マウスでは膵臓のPERKリン酸化が増加し、PKRタンパク質量も腎臓、肝臓、脳、心臓など広範な組織で上昇する。ヒト骨格筋においてもPKR量は加齢とともに増加し、老齢マウスの脳ではGCN2のリン酸化亢進が報告されている。一方、HRIが加齢によってどのように変化するかについては、ほとんど明らかになっていない(表1)。
4種類のキナーゼが共通して作用する下流反応であるeIF2αリン酸化も、複数の生物種において加齢に伴い増加する。老齢マウスでは骨格筋、肝臓、腎臓で、老齢ラットでは大脳皮質で、リン酸化eIF2αの上昇が確認されている。同様の変化はショウジョウバエや線虫でも観察されており、ISR活性化は、加齢に広く伴う可能性が示されている。ただし、げっ歯類を用いた研究の多くは雄を対象としており、性差については十分に検討されていない。
ISRの下流因子であるATF4も、加齢に伴って増加する。老齢ラットの黒質ニューロンや老齢マウスの脳ではATF4の上昇が認められる一方、カロリー制限やメチオニン制限、ラパマイシンやアカルボース投与によって寿命が延長したマウスにおいても、ATF4やCHOPの増加が報告されている。このことから、加齢に伴うISR活性化は組織機能低下に伴って生じる可能性がある一方で、長寿介入に伴う適応応答として生じている場合もあると考えられる。
ISRは、タンパク質恒常性の喪失にとどまらず、老化を特徴づける他の変化とも関連している。紫外線によるリボソーム衝突はGCN2を活性化し、DNA損傷はPKRを介してeIF2αをリン酸化する。さらに、必須アミノ酸の欠乏、肥満に伴う小胞体ストレス、腫瘍内における栄養不足や低酸素状態も、GCN2またはPERKを介してISRを誘導することが知られている。
以上より、ISRは加齢した個体において全体として活性化する傾向を示す。しかし、この活性化が老化による損傷に対抗する防御反応なのか、それとも組織機能低下を促進する要因なのかは、依然として明確ではない。加えて、その変化のパターンは組織や細胞種によって異なる可能性があり、加齢に伴うISRの役割を正確に理解するためには、組織特異的・細胞種特異的な解析が今後必要である。

4.ISRの遺伝学的操作は老化と寿命に影響する
ISRと老化の因果関係を明らかにするため、酵母、線虫、ショウジョウバエを用いてISR関連因子を遺伝学的に操作した研究が進められている。酵母では、複製老化に伴ってGCN2とeIF2αリン酸化が活性化し、翻訳速度が低下する。一方、ATF4の相同因子であるGCN4を人為的に活性化すると、オートファジーが誘導され、寿命が延長することが示されている。
線虫にも、gcn-2、pek-1、eIF2α、eIF2B、atf-4など、ISRの主要因子が保存されている。gcn-2は、ミトコンドリア機能障害、食餌制限、TOR抑制による寿命延長に必須であり、GCN2の阻害因子であるIMPACTを抑制してISRを活性化すると、寿命とストレス耐性がともに向上する。その一方で、eIF2Bγ変異、gcn-2またはpek-1の機能喪失、あるいはリン酸化を受けないeIF2α S51A変異によってISRを抑制した場合にも、寿命は延長する。この寿命延長は全体的な翻訳低下を伴うものではなく、特定のmRNAにおける翻訳変化によって生じることが示されている。
ショウジョウバエにおいても、GCN2、PERK、eIF2BなどのISR因子が保存されている。腸管幹細胞ではPERKが組織再生を支える一方、加齢に伴ってその活性が長期化すると、かえって腸管恒常性を損なうことが分かっている。実際、PERKを部分的に抑制すると腸管バリア機能が改善し、寿命が延長する。他方で、食餌制限による寿命延長にはGCN2が必要であり、ISRの活性化と抑制のいずれが有益に働くかは、生理条件や組織によって異なると考えられる。
哺乳類では、ISRを強く操作する遺伝学的介入は発生や生存に重大な影響を及ぼす。eIF2α S51Aのホモ接合変異は新生仔致死をもたらし、PERK欠損は胎生期死亡、成長障害、高血糖を引き起こす。さらに、GADD34とCRePを同時に欠損させ、ISRを持続的に活性化させた場合も致死的となる。こうした制約から、ISRの遺伝学的操作が哺乳類の老化や寿命に及ぼす影響については、いまだ明らかになっていない。
以上より、ISRは寿命制御に関与するものの、その作用の方向は一様ではない。GCN2を含むISR依存的な適応応答が寿命延長に必要となる場合がある一方で、慢性的なISRを抑制することで寿命が延びる場合もある。したがってISRの効果は、その活性の強さや持続時間、対象組織、そして介入条件に依存すると考えられる。
5.ISRの薬理学的調節は加齢関連病態を改善しうる
ISRを標的とする化合物には、eIF2αリン酸化を高めて応答を持続させるものと、リン酸化eIF2αによる翻訳抑制を弱めるものがある。興味深いことに、ISRの活性化・抑制のいずれも、病態によっては有益な作用をもたらすことが分かっている。
ISRを活性化する化合物としては、Salubrinal、Guanabenz、Sephin1、Raphin1などが知られている。これらは主にeIF2αの脱リン酸化を抑制し、ISRを延長する方向に作用する。動物モデルでは、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病などにおいて、神経障害や疾患進行を軽減する効果が報告されている。ただし、Salubrinal、Guanabenz、Sephin1については、想定された標的への直接作用を裏付けない結果も存在し、詳細な作用機序についてはなお議論の余地がある。
一方、ISRを抑制する化合物には、PERK阻害薬GSK2606414や、eIF2Bを活性化するISRIBおよび2BActがある。ISRIBはeIF2Bに結合してその複合体を安定化し、リン酸化eIF2による阻害をアロステリックに弱めることで、全体的な翻訳低下やATF4誘導を軽減する。老齢マウスでは、ISRIB投与によって神経細胞の構造と機能が改善し、空間記憶、作業記憶、エピソード記憶の低下が回復することが確認されている。
ISR抑制は、Down症候群、外傷性脳損傷、白質消失病、アルツハイマー病、プリオン病、前頭側頭型認知症といった疾患モデルにおいても改善効果を示している。また、Trazodoneおよびdibenzoylmethaneは、eIF2αのリン酸化そのものを阻害することなく、その下流でATF4の増加と翻訳抑制を軽減し、プリオン病モデルにおける神経変性を抑制した。ただし、ISRIBが効果を示さないアルツハイマー病やタウオパチーのモデルも報告されており、その作用は疾患モデルによって一様ではない。
ISRの薬理学的操作にあたっては、副作用にも留意する必要がある。たとえばPERK阻害薬GSK2606414は神経変性を抑制する一方で、膵臓障害や体重減少、高血糖を引き起こす可能性がある。したがって、ISRを一律に活性化あるいは抑制するのではなく、病態、標的組織、投与時期、用量に応じて介入の方向性を選択することが求められる。主なISR調節薬と各疾患モデルにおける作用は、表2に整理した。

6.結論:ISRの調節は老化介入の新たな可能性を開く
ISRの活性化と抑制は、いずれも病態によって有益な作用を示しうる。したがって、ISRを治療標的とするためには、活性化薬と抑制薬を並行して比較検討し、組織、遺伝的背景、介入時期、投与量などによる効果の違いを慎重に評価する必要がある。
線虫では、ISRの遺伝学的または薬理学的抑制によって寿命が延長し、中年期から介入を開始した場合でも、生涯にわたって介入した場合と同程度の効果が得られている。この結果は、ISR抑制は成体期を通じて継続する必要はなく、老化がある程度進行した段階からの介入でも生存を改善しうることを示唆している。一方、哺乳類においてはISR調節薬が寿命そのものに及ぼす影響はまだ検証されておらず、ISRIBや2BActといった抑制薬、Raphin1などの活性化薬を用いた寿命試験が今後必要である。
ISR抑制による寿命延長は、ストレス応答の活性化や成長シグナルの抑制によって長寿がもたらされるという従来の枠組みとは異なる現象である。ISRを抑制しても全体的な翻訳量は低下せず、むしろ特定のmRNAの翻訳が再編成されることによって寿命延長がもたらされる可能性が示されている。
以上より、ISRは単純に活性化あるいは抑制すべき単一方向の経路ではなく、老化の段階、組織、病態に応じて適切に調節されるべき介入標的であるといえる。今後は、哺乳類を用いた寿命試験に加え、プロテオーム解析、リン酸化プロテオーム解析、単一細胞RNA解析などを組み合わせることで、加齢に伴うISRの変化と、その調節が健康寿命に及ぼす影響を明らかにしていくことが求められる。
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