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〜 おへその乱読1000本ノック #0069~ 核ゲノムの不安定性と老化

 ようこそ、第69回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、核ゲノム不安定性と老化の関係を論じた Niedernhofer et al.(2018)を取り上げます。
 前回は、DNA損傷が老化過程の中心に位置づけられることを見てきました。今回は、そのDNA損傷がどのように蓄積し、どのような経路を通じて細胞・組織・個体レベルの機能低下へつながるのかを、核ゲノム不安定性の視点から整理します。
 本論文では、加齢に伴うDNA損傷や変異の増加、DNA修復能力の低下、DNA修復異常をもつ早老症候群の知見をもとに、ゲノム維持機構の破綻が老化を加速しうることが論じられます。さらに、DNA損傷応答を介した細胞老化、再生能力の枯渇、ミトコンドリア機能やタンパク質恒常性への影響も重要な経路として整理されています。
 DNAという生命情報の傷が、どのように老化という全身性の変化へつながっていくのかを読み解いていきます。

要旨
 Niedernhofer et al.(2018)は、核ゲノム不安定性が老化にどのように関与するのかを整理したレビューである。DNA損傷は、突然変異や転写・複製の阻害を引き起こすだけでなく、DNA損傷応答を介して細胞周期停止、アポトーシス、細胞老化を誘導する。著者らは、DNA修復異常をもつ早老症候群や、遺伝毒性のあるがん治療後にみられる老化促進を、DNA損傷が老化を駆動しうる強い証拠として位置づける。
 通常の加齢過程においても、酸化DNA損傷やDNA鎖切断、体細胞変異は増加することが示されている。また、一部のDNA修復経路では加齢に伴う修復能力の低下が報告されており、ゲノム維持機構の衰えがDNA損傷の蓄積に関与する可能性がある。一方で、DNA修復能力と長寿との関係については、相関を示す知見はあるものの、因果関係についてはなお慎重な検討が必要である。
 DNA損傷は、細胞老化とSASP、幹細胞機能の低下、ミトコンドリア機能障害、オートファジーやプロテオスタシスの破綻を通じて、細胞・組織・個体レベルの老化表現型へ波及する。したがって、核ゲノム不安定性は老化の一側面にとどまらず、複数の老化メカニズムをつなぐ基盤的な要因として捉えられる。

1. はじめに:DNA損傷は老化とどう関係するのか

 DNA損傷は、突然変異を生じさせるだけでなく、転写や複製を妨げ、DNA損傷応答を活性化する。DNA損傷応答は細胞周期を停止させ、修復を促す一方で、損傷が重度または修復不能な場合には、アポトーシスや細胞老化を誘導する。
 DNA損傷は、活性酸素種、加水分解、複製や修復の過程で生じる内因性因子に加え、紫外線、放射線、アルキル化剤などの外因性因子によっても生じる。1つの核ゲノムには1日に10,000〜100,000件の変化が起こるとされるが、その多くは塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、非相同末端結合、相同組換えなどの修復経路によって処理される。図1では、老化に関与する代表的なDNA損傷として、酸化塩基損傷、一本鎖切断、二本鎖切断、塩基ミスマッチなどが示され、それぞれに対応する修復経路が整理されている。
 DNA損傷は従来、主に発がんの原因として理解されてきた。しかし現在では、核ゲノムの損傷が細胞老化、組織再生能の低下、代謝異常、炎症性シグナルの活性化を通じて、老化および加齢関連疾患にも関与することが示されている。本論文は、核ゲノム不安定性が老化を駆動しうるという視点から、DNA損傷の蓄積、修復能力の変化、体細胞変異、そして損傷応答が老化表現型へつながる機構を整理する。

図1 老化に関与するDNA損傷と対応する修復経路 酸化損傷である8-oxodG、cdG、cdA、一本鎖切断、二本鎖切断、塩基ミスマッチなどの代表的なDNA損傷と、それらを処理する塩基除去修復、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、非相同末端結合、相同組換えなどの修復経路を示す。

2. DNA損傷が老化を駆動しうる決定的な証拠

2.1 DNA修復異常は老化を加速する

 DNA損傷が老化の原因となりうることを示す最も強い証拠の一つは、DNA修復やゲノム維持機構に異常をもつ早老症候群の存在である。これらの疾患では、特定のDNA修復経路や染色体維持機構が破綻し、複数の臓器系に老化様表現型が早期に現れる。
 代表的な疾患と、影響を受けるゲノム維持機構、老化関連症状を表1に示した。ゲノム維持機構の異常は、神経系、皮膚、骨、血管、造血系、代謝系など、多様な臓器の老化様変化と結びついている。ウェルナー症候群、コケイン症候群、XFE早老症候群、ファンコニ貧血、運動失調毛細血管拡張症などは、DNA修復やDNA損傷応答の破綻が、ヒトにおいて加速老化を引き起こしうることを示す代表例である。
 さらに、これらの疾患を模倣した動物モデルでも加速老化が再現されることから、DNA損傷は老化の近接要因として働くことが強く支持される。

表1 加速老化疾患とゲノム不安定性との関連 DNA修復、DNA損傷応答、クロマチン構築、テロメア維持、DNA複製などのゲノム維持機構に異常をもつヒト疾患と、それぞれにみられる老化関連症状。DNA修復異常症の多くで、神経変性、骨粗鬆症、動脈硬化、糖代謝異常、サルコペニアなどの早老性変化がみられる。

2.2 遺伝毒性のあるがん治療は老化を加速する

  DNA損傷が老化を促進しうることは、がん治療後の長期生存者にみられる早期老化からも示される。放射線療法や一部の化学療法は、腫瘍細胞だけでなく正常細胞にもDNA損傷を与え、アポトーシス、細胞老化、変異蓄積を引き起こす。
 特に小児がんサバイバーでは、同胞と比べて重篤な加齢関連疾患の発症リスクが高く、フレイルや心血管疾患、神経認知機能低下などが早期に現れることが報告されている。これらの知見は、外因的にDNA損傷を増加させることが、老化様変化を加速しうることを示している。この関係を模式的に補足図1に示す。

補足図1 遺伝毒性のあるがん治療が加速老化につながる模式図 小児がん治療では、放射線療法やプラチナ系抗がん剤などの遺伝子毒性エージェントが用いられる。これらの治療は腫瘍細胞だけでなく正常細胞のDNAにも損傷を与え、その巻き添え被害が長期的には加速老化につながる。小児がんサバイバーでは、50歳までに重篤な加齢関連疾患を発症するリスクが同胞と比べて2.5倍以上高いことが報告されている。

3. DNA損傷は加齢とともに増えるのか

3.1 DNA損傷の発生源は加齢とともに増える

 DNA損傷が通常の老化過程に関与するためには、加齢に伴ってDNA損傷の原因となる要因が増加する、DNA損傷そのものが増加する、修復能力が低下する、あるいは修復能力の高さが長寿と関係する、という条件のいずれかが成り立つ必要がある。著者らはまず、DNA損傷の発生源として、活性酸素種を中心とする酸化ストレスに注目する。
 活性酸素種は、ミトコンドリアの電子伝達系などから生じ、DNA、タンパク質、脂質などの細胞内分子を酸化する。加齢に伴って酸化損傷が増加することは多くの研究で示されており、DNAもその主要な標的の一つである。特に、ミトコンドリア機能の低下により活性酸素種の発生が増えると、さらなる酸化損傷とミトコンドリア機能低下を招く悪循環が生じうる。

3.2 DNA損傷レベルは加齢とともに増加する

 加齢に伴うDNA損傷の増加を示す代表的な指標として、酸化塩基損傷である 8-oxodG がよく用いられる。8-oxodG の絶対量は測定法によってばらつきが大きいものの、同一条件で若齢個体と老齢個体を比較した研究では、肝臓、心臓、脳、腎臓、骨格筋、脾臓など複数の組織で加齢に伴う増加が報告されている。ヒトでも、高齢者の骨格筋や末梢血単核細胞で 8-oxodG の増加が示されている。
 また、8-oxodG 以外にも、酸化的に生じる cdA や cdG といった損傷は、老齢マウスの腎臓、脳、肝臓で高くなる。これらは化学的に比較的安定であり、酸化DNA損傷の信頼性の高い指標として扱われる。さらに、DNA二本鎖切断の代理指標である γH2AX foci も、老齢マウスや高齢者由来の細胞で増加することが報告されている。
 ただし、DNA損傷の測定には方法ごとの限界がある。代表的なDNA損傷と測定法、各手法の特異性・感度を Table 2 に示した。γH2AX foci やコメットアッセイは単一細胞レベルで使いやすい一方、必ずしもDNA二本鎖切断だけを特異的に反映するわけではない。したがって、加齢に伴うDNA損傷の増加は多くの研究で支持されるものの、損傷の種類、組織、測定法によって解釈には幅がある。

表2 DNA損傷およびDNA修復能の測定法 8-oxodG、cdA、cdG、DNA二本鎖切断、DNA一本鎖切断などの損傷を測定する方法と、それぞれの特異性及び感度。損傷量そのものを測定する方法に加えて、損傷の消失速度や修復基質を用いた解析など、DNA修復能力を間接的または機能的に評価する方法も含む。DNA損傷量やDNA修復能力の加齢変化を評価する際には、どの損傷を、どの方法で測定しているか、またその測定値が損傷の蓄積を反映するのか修復能の変化を反映するのかを考慮しなければならない。

略語: cdA、8,5′-シクロ-2′-デオキシアデノシン; cdG、8,5′-シクロ-2′-デオキシグアノシン; DSBs、二本鎖切断; ELISA、酵素結合免疫吸着アッセイ; γH2AX、リン酸化ヒストンバリアント2AXフォーカス; HPLC-EC、電気化学検出付き高速液体クロマトグラフィー; LC-MS/MS、タンデム質量分析付き液体クロマトグラフィー; 8-oxodG、8-オキソ-7,8-ジヒドロ-2′-デオキシグアノシン; PCR、ポリメラーゼ連鎖反応; SSBs、一本鎖切断; TUNEL、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング。

4. DNA修復能力は加齢とともに低下するのか

 加齢に伴ってDNA損傷が増加する背景には、損傷の発生源が増えるだけでなく、DNA修復能力の低下も関与している可能性がある。ただし、DNA損傷量やDNA修復能力の評価には複数の方法があり(表2)、それぞれ特異性や感度が異なる。とくにDNA修復能力の測定では、修復関連遺伝子やタンパク質の発現量だけでは機能低下を直接示したことにはならず、損傷の消失速度や人工基質を用いた修復活性の測定など、評価法ごとの限界を考慮する必要がある。
 ヌクレオチド除去修復では、ヒトの末梢血単核細胞や線維芽細胞を用いた解析から、加齢に伴う修復能の低下が報告されている。塩基除去修復についても、老齢マウスや老齢ラットの脳・肝臓などで修復活性の低下が示されている。さらに、二本鎖切断修復についても、神経細胞、線維芽細胞、マウス組織などを用いた研究で、非相同末端結合や相同組換えの効率が加齢とともに低下する可能性が示されている。
 一方で、すべての修復経路が一様に低下するわけではない。例えば、末梢血単核細胞を用いた一本鎖切断修復の研究では、加齢による明確な低下が示されない例もある。また、老化個体では細胞老化細胞が増加するため、組織全体で測定された修復能力の低下が、すべての細胞に共通する変化なのか、老化細胞の割合増加を反映しているのかを区別する必要がある。
 したがって、DNA修復能力は少なくとも一部の修復経路で加齢に伴い低下することが示唆される。しかし、その程度や組織差、細胞種差、測定法の影響は大きい。DNA修復能力の加齢変化を理解するためには、生体内でDNA修復をより直接的に評価する手法が必要である。
 ここまで見てきたように、加齢に伴う核ゲノム不安定性は、DNA損傷量の増加、DNA修復能力の低下、そして修復されなかった損傷や修復・複製時のエラーが体細胞変異として蓄積する過程として捉えられる。この流れを補足図2に示す。

補足図2 加齢に伴うDNA損傷の増加、修復能力の低下、体細胞変異の蓄積 加齢に伴って、8-oxodG、cdA、cdG などの酸化DNA損傷が増加し、一部のDNA修復経路では修復能力の低下が示唆される。修復されなかった損傷や修復・複製時のエラーは、不可逆的な体細胞変異として残り、核ゲノム不安定性の進行に寄与する。

5. 体細胞変異は加齢とともに蓄積する

 DNA損傷の多くは修復されるが、修復や複製の過程でエラーが生じると、塩基置換、小さな挿入・欠失、大きなゲノム再編成などの体細胞変異として残る。DNA損傷そのものは一過性であるのに対し、体細胞変異は不可逆的な分子痕跡であり、加齢に伴うゲノム不安定性を評価する重要な指標となる。
 ヒトやマウスでは、リンパ球における染色体異常の頻度が加齢とともに増加することが示されている。また、HGPRT 遺伝子などを用いた変異検出系では、ヒト末梢血単核細胞や腎上皮細胞、マウスやラットの組織で、年齢とともに変異頻度が上昇することが報告されている。これらの変異には、塩基置換だけでなく、小欠失やゲノム再編成も含まれる。
 近年では、単一細胞解析やクローン化した細胞集団の全ゲノム解析により、加齢に伴う体細胞変異の蓄積がより直接的に評価されている。ヒトの複数組織に由来する幹細胞クローンの解析では、各臓器で年間およそ40個の新規変異が蓄積することが示されている。さらに、老齢細胞では数千の塩基置換や染色体異常が存在しうると推定される。
 一方で、体細胞変異がどの程度まで蓄積すれば、実際に組織機能の低下を引き起こすのかは明確ではない。ゲノムには二倍体性や機能的冗長性があり、一定量の変異には耐えられる。しかし、加齢とともに多数のランダムな変異が蓄積すると、細胞機能の統合性が徐々に損なわれ、老化に伴う臓器機能低下へつながる可能性がある。
 したがって、体細胞変異の蓄積は、DNA損傷が生涯にわたって繰り返し生じ、その一部がゲノムに不可逆的な痕跡として残ることを示している。これは、核ゲノム不安定性と老化との強い相関を支持する重要な証拠である。

6. DNA修復能力の高さは長寿と関係するのか

 DNA損傷が老化を促進するなら、反対にDNA損傷を抑える能力やDNA修復能力の高さは、長寿と関係する可能性がある。著者らはこの仮説について、線虫、哺乳類、長寿種、百寿者、カロリー制限などの知見を整理している。
 線虫では、寿命を延長する複数の遺伝子変異が、遺伝毒性ストレスへの抵抗性とも関連することが示されている。また、哺乳類でも、種間比較においてヌクレオチド除去修復能力と寿命の間に相関がみられるという報告がある。ただし、長寿種と短命種を厳密に比較した研究では、明確な相関が得られない場合もあり、種間比較の結果は一貫していない。
 ヒトでは、百寿者由来の細胞が酸化ストレスに対して高い応答性を示すことや、長寿に関連するゲノムワイド関連解析で、ゲノム維持に関わる遺伝子が多く検出されることが報告されている。また、閉経年齢に関連する遺伝的変異の多くがDNA修復経路と結びついていることも、ゲノム維持と健康長寿との関連を示唆している。
 介入研究としては、カロリー制限が注目される。老齢ラットでは低下したヌクレオチド除去修復能力がカロリー制限によって若齢レベルに近づくことが示されており、ヒトでも短期間のカロリー制限により、もともと修復能力が低い人でヌクレオチド除去修復能が改善する可能性が報告されている。
 したがって、DNA修復能力の高さやゲノム維持機構の強さは、長寿や健康老化と関連する可能性がある。ただし、現時点では、DNA修復能力の向上が寿命延長を直接引き起こすと断定するには証拠が十分ではない。著者らは、ゲノム安定性と長寿の関係を支持する知見はあるものの、その因果性を明らかにするにはさらなる研究が必要であると位置づけている。

7. DNA損傷はどのように老化を引き起こすのか

 DNA損傷が老化を駆動するなら、損傷そのものがどのように細胞や組織の機能低下へつながるのかを説明する機構が必要である。著者らはその主要経路として、細胞老化、組織再生能力の枯渇、ミトコンドリア機能への影響、オートファジーとプロテオスタシスの破綻を挙げている(図2)。

図2 DNA損傷が老化を駆動する機構 DNA損傷は、細胞老化の誘導、組織再生能力の枯渇、ミトコンドリア機能の変化、タンパク質凝集やプロテオスタシスの障害を通じて、老化表現型へつながる。細胞老化では、代謝変化や炎症性因子の分泌が組織環境を変化させ、幹細胞機能の低下やミトコンドリア機能障害とも連動する。

7.1 DNA損傷は細胞老化を誘導する

 DNA損傷は、DNA損傷応答を介して細胞周期を停止させ、損傷が持続する場合には細胞老化を誘導する。細胞老化は、もともと腫瘍抑制機構として働く一方で、加齢組織では機能低下を促進する要因にもなる。
 老化細胞は増殖を停止しているだけでなく、代謝状態を変化させ、炎症性サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼなどを分泌する。この分泌性表現型はSASPと呼ばれ、周囲の細胞や組織環境に影響を及ぼす。SASPは、損傷細胞の除去や組織修復に役立つ場面もあるが、加齢に伴って老化細胞が蓄積すると、慢性的な炎症や組織恒常性の破綻につながる。
 実際、老化細胞は動脈硬化、変形性関節症、サルコペニア、神経変性疾患など、複数の加齢関連疾患の病変部位に認められる。また、老化細胞を除去する遺伝学的・薬理学的介入により、組織機能の低下が抑えられ、健康寿命が延びることも示されている。したがって、DNA損傷による細胞老化の誘導は、老化表現型へつながる中心的経路の一つである。

7.2 DNA損傷は組織再生能力を消耗させる

 組織の維持には、幹細胞や前駆細胞による再生能力が必要である。しかし、DNA損傷が蓄積すると、これらの細胞は細胞周期停止、細胞老化、アポトーシスへ誘導され、自己複製能や分化能が低下する。その結果、損傷後の修復や組織更新が十分に行われにくくなる。
 この影響は、幹細胞自身に生じる細胞自律的な障害だけでなく、周囲の組織環境を介した非細胞自律的な障害によっても進行する。すなわち、幹細胞自身のDNA損傷に加えて、老化細胞の蓄積、炎症性シグナル、ニッチ環境の変化も、幹細胞の維持・分化・組織修復を妨げる(補足図3)。
 この視点では、DNA損傷は単に個々の細胞を傷つけるだけではなく、組織全体の再生システムを疲弊させる要因として位置づけられる。幹細胞機能の低下は、加齢に伴う組織修復力の衰えや機能低下へとつながる重要な経路である。

補足図3 DNA損傷による幹細胞機能低下の二つの経路 DNA損傷は、幹細胞自身に蓄積して細胞周期停止、細胞老化、アポトーシスを誘導する細胞自律的経路と、老化細胞の蓄積、炎症性シグナル、ニッチ環境の変化を介して幹細胞の維持や組織修復を妨げる非細胞自律的経路の両方から、組織再生能力を低下させる。

7.3 DNA損傷はミトコンドリア機能と代謝を変化させる

 DNA損傷応答は、細胞周期や修復だけでなく、代謝制御にも影響を及ぼす。核ゲノムの損傷が持続すると、ミトコンドリア機能、エネルギー代謝、酸化ストレス応答が変化し、細胞の恒常性が乱れる。
 この関係は一方向ではない。ミトコンドリア機能の低下は活性酸素種の増加を介してDNA損傷を増やし、DNA損傷はさらにミトコンドリア機能や代謝を障害する可能性がある。したがって、DNA損傷とミトコンドリア機能低下は、互いに増幅し合う悪循環を形成しうる。
 この悪循環は、老化細胞の代謝変化、組織のエネルギー産生低下、炎症性シグナルの活性化と結びつき、老化表現型の進行に寄与すると考えられる。

7.4 DNA損傷はオートファジーとプロテオスタシスにも影響する

 老化では、損傷タンパク質や凝集タンパク質の蓄積も重要な特徴である。著者らは、DNA損傷応答とオートファジー、プロテオスタシスの間にも相互作用があることを指摘している。
 DNA損傷が持続すると、細胞内ストレス応答や代謝制御が変化し、オートファジーやタンパク質品質管理機構に影響する。その結果、異常タンパク質や損傷細胞小器官の除去が不十分になり、細胞機能の低下が進む可能性がある。一方で、タンパク質凝集やプロテオスタシスの破綻も、DNA修復や細胞内ストレス応答に影響し、核ゲノム不安定性をさらに増幅しうる(補足図4)。
 したがって、核ゲノム不安定性の影響は、遺伝情報の損傷にとどまらない。DNA損傷は、細胞内の品質管理システム全体に波及し、タンパク質恒常性の低下を介して老化表現型の進行に関与する。

補足図4 DNA損傷とプロテオスタシス破綻の悪循環 DNA損傷と持続的なDNA損傷応答は、オートファジーやタンパク質品質管理機構に影響し、異常タンパク質の蓄積や凝集を促進する。一方で、プロテオスタシスの破綻はDNA修復や細胞内ストレス応答をさらに妨げ、核ゲノム不安定性と細胞機能低下を増幅する可能性がある。

7.5 DNA損傷は複数の老化経路をつなぐ起点となる

 以上のように、DNA損傷は細胞老化、幹細胞機能低下、ミトコンドリア機能障害、プロテオスタシスの破綻という複数の経路を介して老化表現型に結びつく。これらの経路は独立して働くのではなく、SASP、炎症、代謝変化、組織再生能力の低下を通じて相互に連動する(補足図5)。
  したがって、核ゲノム不安定性は、老化の一側面ではなく、複数の老化メカニズムをつなぐ基盤的な要因として捉えられる。DNA損傷は、細胞の運命決定を変え、組織環境を変化させ、個体レベルの機能低下へと波及することで、老化を駆動する中核的なメカニズムとなりうる。

補足図5 DNA損傷を起点とする老化表現型の統合図 DNA損傷は、細胞老化と炎症、幹細胞機能低下、ミトコンドリア機能障害、タンパク質恒常性の喪失、ストレス応答の変化、エピジェネティクス変化など、複数の老化関連経路に波及する。核ゲノム不安定性は、これらの変化を個別に引き起こすだけでなく、相互に連結した老化ネットワークの起点として機能する。

8. まとめ:核ゲノム不安定性は老化の基盤的メカニズムである

 著者らは、核ゲノムの損傷が加齢とともに増加し、その一部が体細胞変異として不可逆的に残ること、また少なくとも一部のDNA修復経路では加齢に伴う機能低下が示唆されることを整理した。さらに、DNA修復異常をもつ早老症候群や、遺伝毒性のあるがん治療後にみられる老化促進は、DNA損傷が老化様表現型を引き起こしうることを示す強い証拠である。
 DNA損傷は、単に遺伝情報を傷つけるだけではない。DNA損傷応答を介して細胞老化を誘導し、SASPによる炎症性環境を形成し、幹細胞機能や組織再生能力を低下させる。また、ミトコンドリア機能、代謝制御、オートファジー、プロテオスタシスにも影響し、細胞内外の恒常性を広く変化させる。これらの証拠と経路を統合した全体像を補足図6に示す。
 一方で、DNA損傷が通常老化のすべてを説明するわけではない。損傷の種類、組織差、細胞種差、修復能力、細胞応答の違いによって、その影響は大きく変わる。また、DNA修復能力と長寿の関係についても、相関を支持する知見はあるものの、因果関係を明確に示すにはさらなる研究が必要である。
 それでも、本論文が示す全体像は明確である。核ゲノム不安定性は、細胞老化、炎症、幹細胞枯渇、ミトコンドリア機能低下、タンパク質恒常性の破綻といった老化の主要な特徴をつなぐ基盤的なメカニズムである。DNA損傷は老化の単なる副産物ではなく、老化を駆動する中核的要因の一つとして位置づけられる。

補足図6 DNA損傷を起点とする老化の統合モデル 早老症候群、がん治療後の早期老化、加齢に伴うDNA損傷の増加、修復能力低下と体細胞変異の蓄積は、核ゲノム不安定性が老化に関与することを支持する。DNA損傷は、細胞老化とSASP、幹細胞機能低下、ミトコンドリア機能障害、タンパク質恒常性の破綻を介して、組織機能低下、加齢関連疾患、個体レベルの老化進行へと波及する。したがって、DNA損傷は老化を駆動する中核的要因の一つである。


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