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〜 おへその乱読1000本ノック #0087 ~ メチオニン制限はラットの寿命を延ばすのか

 ようこそ、第87回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Orentreichら(1993)による、食餌中メチオニンの制限がラットの寿命を延長することを示した古典的論文を取り上げます。
 前回までは、カロリー制限、絶食時間、タンパク質量、三大栄養素バランスといった視点から、食餌制限による寿命延長を見てきました。ここからは、さらに一段階細かく、アミノ酸レベルで老化制御を考えていきます。タンパク質制限の効果は、タンパク質全体の低下によるものなのか、それとも特定のアミノ酸の不足によって駆動されるのか。この問いは、栄養と老化を分子機構へ接続するうえで重要な分岐点となります。
 本論文は、必須アミノ酸であるメチオニンだけを大きく低下させることで、雄ラットの成長を強く抑制しながら寿命を延長できることを示した研究です。しかも、この効果は単なる摂食量やエネルギー摂取量の低下では説明できません。カロリー制限研究の流れを受け継ぎつつ、その中身をどの栄養素を制限していたのかという問いへ押し戻した一報として、アミノ酸制限研究の出発点を読んでいきます。

1.イントロダクション:エネルギー制限からメチオニン制限へ

 哺乳類の寿命を実験的に延長する方法として、エネルギー摂取の制限は最も広く用いられてきた。McCayらの古典的研究以降、多くの動物種でエネルギー制限が寿命を延ばすことが示されている。免疫老化の遅延、がん発生の抑制、遺伝子発現の変化、抗酸化防御の改善、DNA修復能の維持など、多様な効果も報告されてきた。しかし、その機構はなお十分には明らかでない。
 若齢期からエネルギー制限を行う場合、寿命延長効果が大きい条件では、しばしば成長抑制を伴う。この成長抑制は、発達過程あるいは老化過程に関わる基本的な変化を反映している可能性がある。そこで本研究では、エネルギー制限とは別に、毒性を伴わずに成長を抑える栄養学的手段として、必須アミノ酸であるメチオニンの制限に注目する。
 精製等カロリー食中のメチオニン濃度を低下させ、Fischer 344雄ラットの成長と生存を検討する。メチオニン制限によって成長が抑えられ、生存が改善するなら、寿命延長を総エネルギー摂取量だけではなく、特定栄養素の制限から捉え直す手がかりとなる。

2.実験設計:メチオニンだけを低下させた精製食モデル

 本研究では、Fischer 344雄ラットを用い、食餌中メチオニン濃度の低下が成長と寿命に及ぼす影響を検討した。ラットは4週齢で入手され、2週間の予備飼育後、42日齢から試験食に切り替えられた。主試験では、通常量のメチオニンを含む0.86%メチオニン食と、低メチオニン条件である0.17%メチオニン食を比較し、各群30匹で生存、成長、摂食量を評価した(参考図1)。
 食餌には精製等カロリー食を用いた。通常食ではL-メチオニンを8.6 g/kg含み、低メチオニン食ではメチオニン低下分をグルタミン酸で等量置換した。これにより、他のアミノ酸組成や窒素量の違いをできるだけ抑え、メチオニンという単一必須アミノ酸の低下に焦点を合わせた(Table 1)。

 さらに、低メチオニン食でみられる変化が単なるエネルギー摂取量の低下で説明できるかを検討するため、追加の摂食対照実験を行った。ひとつは0.17%メチオニン食のエネルギー密度を高める実験であり、もうひとつは0.17%メチオニン食群の摂食量に合わせて、0.86%メチオニン食群へ同量の餌を与えるpair-feeding実験である。これにより、メチオニン制限の効果を、総エネルギー摂取量や摂食量低下の影響から切り分けて評価する構成になっている(参考図1)。

参考図1 実験設計 メチオニンだけを低下させた精製食モデル

3.メチオニン制限は寿命を延長する

 42日齢から低メチオニン食を与えられたラットでは、通常量のメチオニンを含む食餌を与えられたラットに比べて、生存期間が明らかに延長した。0.86%メチオニン食群の中央値寿命は818日、最大寿命は1116日であったのに対し、0.17%メチオニン食群では中央値寿命が1059日、最大寿命が1252日まで延びた(Fig. 1)。

Fig. 1 低メチオニン食によるFischer 344雄ラットの生存率の変化  42日齢から0.86%メチオニン食または0.17%メチオニン食を与えた各群30匹の生存曲線を示す。0.17%メチオニン食群では、0.86%メチオニン食群に比べて生存曲線が右方へ移動し、中央値寿命は818日から1059日へ、最大寿命は1116日から1252日へ延長した。

 この結果は、総エネルギー摂取量を直接制限しなくても、食餌中の単一成分であるメチオニンを低下させるだけで、ラットの寿命を延長できることを示している。寿命延長の大きさは中央値で約30%に達し、低メチオニン食は単なる成長抑制食にとどまらず、生存曲線全体を右方へ移動させる栄養条件として作用した。
 一方で、メチオニンをさらに低下させればよいわけではなかった。食餌中メチオニン濃度を0.12%未満に下げると、ラットは1か月を超えて生存しなかった。したがって、寿命延長をもたらすメチオニン制限には、生存を維持できる下限があり、0.17%メチオニン食は成長を強く抑えながらも長期生存を可能にする条件であった。

4.メチオニン制限は成長をほぼ停止させる

 低メチオニン食による寿命延長は、著しい成長抑制を伴っていた。42日齢から0.86%メチオニン食を与えられたラットは、その後50週間で約350 gの体重増加を示した。一方、0.17%メチオニン食を与えられたラットでは、試験期間を通じて体重増加がほとんどみられなかった(Fig. 2)。

Fig. 2 低メチオニン食によるFischer 344雄ラットの成長抑制  42日齢から0.86%メチオニン食または0.17%メチオニン食を与えた各群30匹の体重推移を示す。0.86%メチオニン食群では体重が大きく増加したのに対し、0.17%メチオニン食群では体重増加がほとんどみられず、低メチオニン食が成長を強く抑制した。

 この成長抑制は、90日間の摂食後の体重にも明確に反映された。0.86%メチオニン食群の体重は258 gであったのに対し、0.17%メチオニン食群では118 gにとどまった。エネルギー密度を高めた0.17%メチオニン食群でも体重は123 gであり、エネルギー摂取量を増やしても成長は回復しなかった(Table 2)。
 臓器重量にも選択的な変化がみられた。0.17%メチオニン食群では、体重あたりの精巣重量が1.61から1.03 g/100 g体重へ、精嚢重量が0.29から0.10 g/100 g体重へ低下した。脂肪パッド重量も、右側で1.26から0.58 g/100 g体重へ、左側で1.37から0.61 g/100 g体重へ低下した。一方、肺は0.42から0.53 g/100 g体重へ、心臓は0.28から0.38 g/100 g体重へ相対的に増加した。肝臓、前立腺、脾臓では大きな変化はみられなかった(Table 2)。

 したがって、0.17%メチオニン食は、単に体重増加をわずかに遅らせる条件ではなく、成長そのものを強く抑える栄養条件であった。前章で示した寿命延長は、この強い成長抑制を伴う状態で観察されたものであり、メチオニン制限は成長を許す栄養状態と、長期生存を可能にする栄養状態を切り分ける実験条件として位置づけられる。

5.寿命延長は単なる摂食量低下では説明できない

 低メチオニン食群では、個体あたりの摂食量は通常食群より少なかった。0.17%メチオニン食群の摂食量は、最初の2か月で通常食群より約10%少なく、3か月時点で約12%少なかった。24か月齢では、この差は約24.5%に広がった。しかし、この比較だけでは、体格差の影響を十分に評価できない。低メチオニン食群は成長が強く抑えられ、通常食群よりはるかに小さいため
である。
 体重あたりで摂食量を評価すると、見え方は逆転した。3か月時点で、0.17%メチオニン食群は体重100 gあたり1日8.3 gの餌を摂取していたのに対し、0.86%メチオニン食群は体重100 gあたり1日4.3 gであった。すなわち、低メチオニン食群は、個体あたりでは少なく食べていたが、体重あたりでは通常食群より93%多く食べていた(Fig. 3)。この結果は、低メチオニン食群を単純な摂食制限群として扱うことができないことを示している。

Fig. 3 低メチオニン食摂取時の成長と摂食量  6週齢のFischer 344雄ラットに15日間0.86%メチオニン食を与えた後、0.86%または0.17%メチオニン食へ切り替え、90日間の体重、個体あたり摂食量、体重あたり摂食量を比較した。0.17%メチオニン食群では体重増加が抑制され、個体あたりの摂食量は通常食群より少なかったが、体重あたりの摂食量は通常食群より高かった。

 エネルギー摂取量そのものの影響も追加実験で検討された。0.17%メチオニン食のエネルギー密度を17.9 kJ/gから19.7 kJ/gへ高め、低メチオニン食群のエネルギー摂取不足を補う条件を設定しても、3か月間の摂食で体重増加は回復しなかった。臓器重量の変化も、通常の0.17%メチオニン食群と大きく変わらなかった。したがって、低メチオニン食による成長抑制は、単にエネルギー摂取量が不足したためには説明しにくい。
 さらに、0.86%メチオニン食群に、0.17%メチオニン食群と同量の餌を与えるpair-feeding実験を行った。この条件では、通常メチオニン食を制限量で与えられたラットは、初期に一時的な成長の遅れを示したものの、その後は急速に成長し、2か月後には自由摂食の0.86%メチオニン食群とほぼ同じ体重に達した(Fig. 4)。つまり、低メチオニン食群で観察された程度の個体あたり摂食量の低下だけでは、成長停止を再現できなかった。

Fig. 4 pair-feedingによる摂食量低下の検証  0.17%メチオニン食を自由摂食した群、0.86%メチオニン食を自由摂食した群、0.17%メチオニン食群と同量の0.86%メチオニン食を与えたpair-fed群の体重推移を比較した。pair-fed群では初期に成長の遅れがみられたが、その後は0.86%メチオニン食自由摂食群と同程度まで成長し、低メチオニン食群の成長停止は摂食量低下だけでは再現されなかった。

 以上の結果から、0.17%メチオニン食による成長抑制と寿命延長は、単なる摂食量低下や総エネルギー摂取量の低下では説明できない。重要なのは、摂取エネルギーの不足ではなく、食餌中メチオニン濃度の低下そのものである。ここに、本研究が従来のエネルギー制限研究と異なる、単一必須アミノ酸制限モデルとしての意義がある。

6.結論:メチオニン制限は寿命延長モデルになりうる

 本研究では、食餌中のメチオニン濃度を0.86%から0.17%へ低下させることで、Fischer 344雄ラットの寿命が延長することを示した。低メチオニン食群では成長がほぼ停止したが、寿命中央値は818日から1059日へ延び、最大寿命も1116日から1252日へ延長した。
 この効果は、単なる摂食量低下やエネルギー摂取量の不足では説明できない。低メチオニン食群は個体あたりでは通常食群より少なく食べていたが、体重あたりではむしろ多く摂食していた。さらに、エネルギー密度を高めた低メチオニン食でも成長は回復せず、低メチオニン食群と同量の餌を与えられた通常メチオニン食群は成長した。したがって、寿命延長と成長抑制の主因は、総エネルギー摂取量の低下ではなく、メチオニン制限そのものにあると考えられる。
 脂肪やミネラルの制限では、エネルギー摂取量を一定にした条件でラットの生存を大きく変えなかった。一方、タンパク質制限やトリプトファン制限では寿命延長が報告されている。本研究の結果は、生存は可能だが成長には不十分な水準で単一必須アミノ酸を制限することが、寿命延長をもたらしうる可能性を示す。ただし、この性質が必須アミノ酸制限に一般的なものなのか、メチオニンに固有のものなのかは、まだ明らかではない。
 メチオニン制限による寿命延長の機構は、この時点では特定されていない。それでも、メチオニン代謝は生化学的に比較的よく定義された経路であり、エネルギー制限よりも解析対象を絞りやすい。低メチオニン食モデルは、エネルギー制限と共通する経路、あるいはメチオニン制限に特有の経路を区別し、寿命延長の機構を探るための有用な実験系となる。


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