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〜 おへその乱読1000本ノック #0130 ~ 加齢に伴う幹細胞の代謝変化と食事介入による再生能の調節

 第130回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
 私たちの体では、さまざまな組織に存在する幹細胞が新しい細胞をつくり、傷んだ組織を修復しています。しかし、加齢とともに幹細胞の働きも衰え、組織を再生する力はしだいに低下していきます。では、こうした幹細胞の老化を、食事によって変えることはできるのでしょうか。
 近年、カロリー制限や断食などによって栄養状態を変えると、幹細胞が利用する代謝経路も変化し、その自己更新や再生能が改善する場合があることがわかってきました。ただし、その影響はすべての幹細胞で同じではなく、組織や細胞の種類によって異なります。
 Kellerら(2021)は、腸管幹細胞を中心に、造血幹細胞、筋幹細胞、神経幹細胞について、加齢に伴う代謝の変化と食事介入との関係を整理しています。本論文は、食べるものや食べる量が幹細胞の老化と組織再生にどのように影響するのかを、代謝の視点からまとめた総説です。

要旨
 成体幹細胞は自己更新と分化を通じて組織恒常性および損傷後再生を支えるが、加齢に伴いその機能は変化・低下する。本総説では、幹細胞老化を栄養感知と代謝変化の観点から整理し、腸管幹細胞を中心に、造血幹細胞、筋幹細胞、神経幹細胞における代謝制御を概観する。
 mTORC1、AMPK、PPARを介する脂質代謝、オートファジー、ケトン体代謝は、幹細胞の静止、自己更新、分化および再生に関与する。マウスでは、24時間の短期断食がPPARδ–CPT1A依存的な脂肪酸酸化プログラムを誘導し、若齢・高齢の腸管幹細胞機能を高めることが示されている。一方、長期カロリー制限はPaneth細胞ニッチのmTORC1シグナルを介して腸管幹細胞機能を調節する。
 ただし、代謝介入の作用は幹細胞の種類、年齢、ニッチ、介入の強度・期間によって異なる。したがって、mTORC1抑制、AMPK活性化、FAO促進を普遍的な若返り機構とみなすことはできない。本稿で扱う知見の多くは動物実験およびオルガノイド研究に基づくものであり、ヒトにおける有効性と安全性の検証が今後の課題である。

1.イントロダクション:食事と代謝は成体幹細胞の機能を調節する

 食事は、寿命や健康寿命に影響を及ぼす最も身近な環境因子の一つである。摂取エネルギーを20〜40%程度減らすカロリー制限(caloric restriction; CR)や、タンパク質・炭水化物・脂質など特定栄養素を制限する食事介入により、さまざまなモデル生物で寿命や健康状態が変化することが示されてきた。近年では栄養素の量に加え、摂取タイミングも組織の成長・再生・修復を左右する要因として注目されている。
 多くの組織では、成体幹細胞が自己更新と分化を繰り返して新しい細胞を供給し、恒常性を維持している。しかし幹細胞の自己更新能・再生能は加齢とともに低下する。また幹細胞の代謝状態は組織ごとに異なり、食事や栄養状態の変化は幹細胞自身が直接感知する場合もあれば、周囲のニッチ細胞を介して間接的に伝わる場合もある。こうした栄養シグナルが、幹細胞の自己更新、分化、組織再生を左右する。
 本総説では腸管幹細胞を中心に、加齢に伴う代謝変化と幹細胞機能の関係を整理する。さらに造血幹細胞、筋幹細胞、神経幹細胞も取り上げ、CRや断食などの食事介入が幹細胞の自己更新と組織再生にどう影響するかを概観する。

2.加齢に伴って成体幹細胞の再生能は低下する

2.1 造血幹細胞では加齢により血球分化の偏りが生じる

 成体幹細胞は自己更新しながら前駆細胞を生み出し、各組織に必要な細胞を長期間供給する。代表的な成体幹細胞である造血幹細胞(HSC)は骨髄ニッチに存在し、赤血球・白血球・血小板などすべての血液細胞の供給源となる。加齢するとHSCの機能は変化し、リンパ球系産生が低下する一方で骨髄系細胞の産生が増える骨髄系への偏り(myeloid bias)が生じる。高齢マウス由来のHSCを若齢マウスへ移植してもこの偏りは維持されることから、加齢変化の少なくとも一部はHSC自身に保持されていると考えられる。

2.2 腸管幹細胞では加齢により自己更新能と組織再生能が低下する

 腸上皮では、陰窩底部の増殖性の高いLgr5陽性腸管幹細胞(ISC)が自己更新するとともに、前駆細胞を介して吸収上皮細胞、Paneth細胞、Goblet細胞、腸内分泌細胞などを生み出す。陰窩の+4領域を含む複数の細胞集団には、通常はLgr5陽性ISCとは異なる増殖・分化状態にありながら、損傷時に幹細胞性を発揮または再獲得しうる細胞が含まれる。
 加齢した腸では、陰窩の増殖速度や放射線障害後の再生能が低下し、高齢個体由来の陰窩ではオルガノイド形成能も低下する。幹細胞数そのものについては研究間で結果が一致していないが、増殖能・自己更新能・損傷後再生能の低下という機能的変化は繰り返し報告されている。加齢した陰窩では脂肪酸酸化(fatty acid oxidation:FAO)の低下やWntシグナルの変化も認められ、ISCの老化には細胞自身の変化に加え、ニッチや代謝環境の変化も関与すると考えられる。
 さらに加齢した腸では、Paneth細胞の増加や分泌系細胞への分化の偏りなど、領域によって異なる細胞構成の変化もみられる。したがって腸管幹細胞の老化は単純な幹細胞数の減少ではなく、幹細胞・ニッチ・代謝状態・分化バランスを含む腸上皮全体の機能変化として捉える必要がある。

2.3 筋幹細胞と神経幹細胞でも加齢により再生能が低下する

 加齢に伴う幹細胞機能の低下は腸や血液に限らない。骨格筋では、筋線維の基底膜下に存在する筋幹細胞(MuSC、衛星細胞)が損傷後の筋再生を担う。加齢による筋量・筋力低下(サルコペニア)は多要因性で筋幹細胞だけでは説明できないが、衛星細胞の減少や機能低下は筋組織の再生能を損なう一因となる。
 脳では神経幹細胞(NSC)が神経細胞やグリア細胞を生み出すが、この神経新生能も加齢とともに低下する。このように加齢変化の現れ方は組織によって異なるものの、成体幹細胞が新しい細胞を供給し損傷組織を再生する能力の低下は共通している。

3.栄養感知と代謝経路が幹細胞の状態を決める

3.1 mTORC1は栄養豊富な状態で成長と合成を促進する

 mTORは、アミノ酸・エネルギー状態・成長因子・酸素などの情報を統合する栄養感知系の中心分子で、mTORC1とmTORC2という2つの複合体を形成する。mTORC1は栄養が豊富なときに活性化し、タンパク質合成・脂質合成・ミトコンドリア生合成などの同化反応を促進して細胞成長を支える一方、ULK1・Atg13・FIP200からなるオートファジー開始複合体を抑制する。
 多くのモデル生物では、主としてmTORC1活性の抑制が寿命延長や老化関連表現型の改善と関連し、ラパマイシンはその代表的介入である。ただし長期投与ではmTORC2も抑制され、インスリン感受性や糖代謝に悪影響を及ぼす場合がある。したがってmTOR活性は低いほどよいわけではなく、成長・再生に必要な活性と慢性的な過剰活性化の抑制とのバランスが重要である。

3.2 AMPKはエネルギー不足に応答して異化代謝を促進する

 AMPKは細胞内のATP、ADP、AMPの比を感知するエネルギーセンサーである。栄養不足でAMPやADPが増加するとAMPKが活性化し、同化反応を抑える一方、オートファジーやエネルギー産生を促進する。AMPKはRaptorなどを介してmTORC1を抑制するとともに、脂質代謝やミトコンドリア恒常性に関わる分子を調節する。
 このためmTORC1とAMPKは栄養状態に応じて対照的な代謝状態を形成する。栄養が豊富なときはmTORC1が優位となり合成・成長が促進され、栄養が乏しいとAMPKが活性化してmTORC1が抑制され、維持・分解・エネルギー産生を優先する状態へ切り替わる。

3.3 PPARを介する脂質代謝は幹細胞の状態と機能を調節する

 栄養制限時には、AMPK活性化とmTORC1抑制に加え、PPARδを中心とするFAOやケトン体産生も促進される。脂肪酸をミトコンドリアで分解してエネルギーを得るFAOは、特に腸管幹細胞の機能維持と密接に関わる。加齢ではFAOの低下とmTORC1の過剰活性化が生じる場合があり、これらが幹細胞機能低下につながると考えられている。
 このためラパマイシンによるmTORC1抑制、PPAR作動薬、断食などによるFAO・ケトン体産生の促進は、加齢に伴う幹細胞機能低下への介入法として研究されている。ただしこれらの代謝経路が幹細胞に及ぼす影響は組織・細胞種によって異なる。mTORC1、AMPK、PPAR/FAOは独立して働くのではなく、栄養状態に応じて相互作用しながら幹細胞の自己更新、分化、再生を調節している。

図1 mTOR、AMPK、PPARによる栄養感知と幹細胞代謝の制御

栄養が豊富な状態ではmTORC1が活性化し、タンパク質・脂質合成や細胞増殖を促進する。栄養不足時にはAMPKが活性化してmTORC1を抑制し、オートファジーが促進される。同時にPPARδを中心とするFAOとケトン体産生が高まり、特に腸管幹細胞の機能維持を支える。加齢ではFAO低下やmTORC1過剰活性化が生じる場合があり、ラパマイシン、PPAR作動薬、断食などによる代謝介入が幹細胞機能改善につながる可能性がある。

4.腸管幹細胞は食事による代謝変化に応答する

4.1 短期断食はFAOを高めて腸管幹細胞機能を改善する

 腸上皮は食事による栄養変化を直接受ける組織であり、食事制限や栄養状態の変化は腸管幹細胞(ISC)の自己更新、分化、上皮再生に影響する。特に24時間の短期断食では、若齢・高齢いずれのマウスでもISC機能が高まり、放射線障害後の腸上皮再生も改善した。RNAシーケンス解析では、断食によってPPAR標的遺伝子が誘導され、ISCの代謝がFAOへ切り替わることが示された。
 ミトコンドリアへの脂肪酸取り込みを担うCPT1Aを薬理学的または遺伝学的に阻害すると、断食によるオルガノイド形成能の向上が弱まり、ISC数も減少した。一方、PPARδ作動薬GW501516は高齢マウスの腸陰窩でFAOを高め、ISC数と機能を改善した。したがって断食によるISC機能向上には、PPAR–FAO経路が重要な役割を果たす。
 ただしFAOを高めれば常に有益というわけではない。高脂肪食もPPARδ依存的にISC数や機能を増加させるが、幹細胞のニッチ依存性を低下させ、特定の遺伝的背景では腫瘍形成能を高める。代謝による幹細胞活性化は、条件によって再生促進だけでなく腫瘍形成能の増大にもつながりうる。

4.2 ケトン体は幹細胞性と分化を調節する

 ISCではケトン体合成の律速酵素HMGCS2が高発現している。HMGCS2を腸管で欠損させると陰窩内のβ-ヒドロキシ酪酸(BOHB)が低下し、幹細胞性が弱まるとともに分泌系細胞への分化が増加した。一方、高脂肪ケトン食ではHMGCS2依存的にISC機能が高まった。
 BOHBはエネルギー基質に加え、遺伝子発現や細胞内シグナルを変化させうる代謝シグナルとして働く。ISCでは、HMGCS2依存的なケトン体代謝がNotch関連の細胞運命制御と関連することが報告されている。また食事制限後の再摂食によってHMGCS2量が変化し、分泌系細胞への分化も変動することから、ケトン体代謝は食事状態を細胞運命へ伝えるシグナルの一つと考えられる。

4.3 Paneth細胞は代謝シグナルを介して腸管幹細胞を支える

 ISCの代謝応答は幹細胞自身だけで完結せず、隣接するPaneth細胞からのシグナルにも強く依存する。加齢したマウスではPaneth細胞のmTORC1活性が上昇する一方、ISCではmTORC1活性の指標であるS6リン酸化が低下する。同じ腸陰窩内でも、加齢や栄養状態へのmTORC1応答は細胞種によって異なる。
 CRではPaneth細胞のmTORC1が抑制され、NAD⁺から環状ADPリボース(cADPR)を産生する酵素Bst1が増加する。このPaneth細胞由来シグナルがISCの自己更新を促進する。一方、ISC自身でもCRによるmTORC1抑制が自己更新を高め、放射線障害への抵抗性を増加させる。すなわち、短期断食ではISC自身のFAOが高まるのに対し、CRではISC自身の代謝変化に加え、Paneth細胞を含むニッチからの代謝シグナルもISC機能を調節する。
 さらにPaneth細胞が産生する乳酸はISCに取り込まれ、ミトコンドリア酸化的リン酸化の基質として利用される。この代謝的な分業はISCの分化にも影響する。腸陰窩では栄養状態が幹細胞とニッチ細胞の双方に異なる代謝応答を引き起こし、その細胞間相互作用によって幹細胞機能が調節されている。

4.4 CRはmTORC1とAMPKを介して再生能を調節する

 CRによるISC機能改善にはmTORC1が関与するが、その作用は単純なmTORC1抑制だけでは説明できない。ラパマイシン単独ではCRに似たISC自己更新の向上がみられる一方、すでにCRを受けたマウス由来の陰窩にラパマイシンを加えると、その有益な効果が失われる場合がある。これは、適切なmTORC1活性の水準や変化のタイミングが重要であることを示す。
 また、CRでは腸陰窩、特にISCでAMPKリン酸化が上昇する。ISCでAMPKを阻害するとCRによる自己更新能の向上が失われることから、AMPK活性化もCR応答に必要である。したがってCRによる腸管幹細胞の再生促進は、mTORC1を一方向に抑える反応ではなく、AMPK、mTORC1、脂質代謝、ニッチ由来シグナルが協調して成立する代謝再編成として理解する必要がある。

5.幹細胞の代謝応答は組織によって異なる

5.1 造血幹細胞ではmTOR・オートファジー・脂質代謝が機能を左右する

 造血幹細胞(HSC)は多くが静止状態にあるが、加齢すると自己更新能の低下、骨髄系への偏り、クローン性造血などが生じる。加齢HSCでは活性酸素種(ROS)が増加し、突然変異や酸化ストレスの蓄積も機能変化に関与する。また、加齢に伴ってオートファジーが低下すると、活性の高いミトコンドリアが蓄積し、HSCはより代謝活性の高い状態へ移行する。
 mTOR活性もHSC機能を左右する。高齢HSCではラパマイシンによるmTOR抑制が幹細胞機能や自己更新を改善する一方、骨髄ニッチでmTOR活性を失うとHSCや前駆細胞に老化様変化が生じる。したがって、HSCでもmTORは単に抑えればよいわけではなく、幹細胞自身とニッチの双方で適切な活性が必要である。FAOやPPAR経路もHSCの分化や枯渇に関与するが、その作用は条件によって異なる。
 さらに、HSCの再構成能が改善しても、それが必ずしも骨髄系への偏りの是正や免疫機能全体の改善を意味するわけではない。加齢HSCでは自己更新能、分化バランス、クローン性造血など複数の異常が並行して生じるため、単一の指標だけで機能回復を評価することはできない。実際、CRによるHSC機能への効果も、マウス系統や研究条件によって一致していない。

5.2 神経幹細胞ではFAOとmTORが静止・増殖を調節する

 神経幹細胞(NSC)でも加齢に伴って再生能が低下するが、その代謝制御は腸管幹細胞とは異なる。静止状態の神経幹・前駆細胞ではCPT1AやPPARα関連遺伝子の発現が高く、FAOへの依存性が強い。FAOを阻害すると静止細胞の生存が強く損なわれることから、FAOは神経幹細胞の静止状態を維持する重要な代謝経路と考えられる。
 一方、加齢したNSCではmTORシグナルが低下し、mTOR活性化によって高齢マウスのNSC増殖が改善することが報告されている。逆に若齢マウスへのラパマイシン投与では、NSCがより老化した状態に近づく例もある。これは、腸管や造血系でみられるmTOR抑制が有利という関係が、神経幹細胞にはそのまま当てはまらないことを示す。
 ただし、これをmTOR活性化そのものがNSCの若返りをもたらすと解釈することはできない。mTORは増殖と分化を広く制御するため、過剰な活性化は分化制御の破綻や幹細胞プールの消耗、腫瘍化につながる可能性もある。重要なのはmTORを一方向に活性化または抑制することではなく、年齢や細胞状態に応じた適切な活性を維持することである。

5.3 筋幹細胞ではmTOR–AMPKバランスが静止と分化に関与する

 骨格筋ではmTOR活性が筋成長を促進する一方、過剰活性化は酸化障害や筋変性につながる場合がある。加齢した筋ではmTOR活性の亢進とAMPK応答の低下が報告されており、これらの変化はミトコンドリア機能や脂質代謝の低下と関連する。
 筋幹細胞(衛星細胞)では、AMPKを活性化するメトホルミン処理によりmTORシグナルが抑制され、終末分化が遅れるとともに静止状態が維持される。一方、CRが衛星細胞に及ぼす影響は年齢によって異なり、若齢では細胞数が増加する一方、より高齢では減少する例も報告されている。筋幹細胞でも、代謝介入の効果は年齢や条件に依存する。

5.4 同じ代謝介入でもすべての幹細胞に同じ効果を示すわけではない

 腸管幹細胞では断食によるFAO促進やmTORC1抑制が自己更新を高める一方、神経幹細胞では加齢によるmTOR低下が増殖能低下と関連し、mTOR活性化が機能回復につながる場合がある。造血幹細胞や筋幹細胞でも、mTOR、AMPK、FAOの作用は幹細胞自身、前駆細胞、ニッチ、年齢によって異なる。
 したがってmTORC1抑制、AMPK活性化、FAO促進といった代謝介入を、すべての組織に共通する若返り機構として捉えることはできない。重要なのは、それぞれの幹細胞がどの代謝状態を必要とし、その要求が加齢やニッチによってどう変化するかを理解することである。

6.結論:食事は代謝を介して幹細胞老化と組織再生を調節する

 成体幹細胞は自己更新と分化により組織の恒常性と再生を支えるが、加齢に伴いその機能は低下する。本総説では、この幹細胞老化が単なる細胞数の減少ではなく、栄養感知、エネルギー代謝、ニッチとの相互作用を含む代謝状態の変化と密接に関わることを整理した。
 mTORC1、AMPK、PPAR、FAOなどの代謝経路は、栄養状態に応じて幹細胞の自己更新、分化、静止、再生を調節する。腸管幹細胞では短期断食やCRによる代謝再編成が自己更新能や損傷後再生を高める一方、造血幹細胞、筋幹細胞、神経幹細胞では同じ代謝経路でも作用が異なる。したがってmTORC1抑制、AMPK活性化、FAO促進をすべての組織に共通する若返り機構として扱うことはできない。
 また、本稿で扱った再生促進作用の多くは、主としてマウスモデルやex vivoオルガノイド系で示された知見である。ヒトにおける有効性や安全性、さらにどの程度の介入強度や期間が適切かについては、十分に確立されていない。したがって、これらの結果をそのままヒトの食事介入へ適用することには慎重である必要がある。
 重要なのは、幹細胞自身だけでなく前駆細胞やニッチ細胞を含む組織内の代謝的不均一性を理解することである。今後は単一細胞解析、オミクス解析、オルガノイドなどを組み合わせ、加齢や栄養状態に伴う代謝変化を細胞種ごとに捉え、どの介入がどの組織で有効かを明らかにする必要がある。こうした研究は、幹細胞機能を維持しつつ過剰な増殖や腫瘍化を避ける食事・代謝介入の設計につながると期待される。



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