〜 おへその乱読1000本ノック #0024 〜 2025年最新調査 膝骨切り術の世界的トレンドと将来展望
第24回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
変形性膝関節症に対する外科治療といえば、長らく人工膝関節置換術が標準的な選択肢とされてきました。確実な疼痛軽減が期待できる一方で、人工関節は一度置換すると元に戻すことができない、不可逆的な治療でもあります。こうした中で近年、再び注目を集めているのが膝骨切り術です。骨の配列を調整することで関節内の荷重分布を変え、痛みや機能障害の改善を図るこの手術は、自身の関節を温存する治療として位置づけられています。
骨切り術の意義は、単に人工関節を先送りにする点にとどまりません。関節構造を温存することで、将来的に軟骨再生や再生医療といった新たな治療選択肢を受け入れる余地、すなわち可逆性の可能性を残す治療である点にあります。人工関節がひとつの完成形の治療であるとすれば、骨切り術は膝関節の環境を整えながら次の選択肢へとつなぐ柔軟な戦略とも言えます。
今回取り上げるKennedyら(2025)では、整形外科スポーツ医学を専門とする医師および研修医を対象に、膝骨切り術が現在どのように実践され、どのように位置づけられているのかを調査しています。

要旨
本研究では、整形外科スポーツ医学を専門とする担当医およびフェローを対象に、匿名アンケート調査を実施し、膝骨切り術の実施頻度、適応、術式、術後管理に関する近年の実臨床の動向を検討した。調査は、担当医には過去5年間の実践内容を、フェローには研修期間中および将来の実践予定を尋ねる形式で行われた。
その結果、過去5年間で多くの担当医が膝骨切り術の適応や術式の幅を拡大しており、手術件数も増加傾向にあることが示された。術式としては高位脛骨骨切り術が最も一般的であり、この傾向は担当医・フェローのいずれにおいても共通していた。一方で、術後の荷重制限やリハビリテーション方針には術者間で大きなばらつきが認められた。
以上より、術者を対象とした調査から、膝骨切り術は近年、臨床現場において適応が拡大しつつあることが明らかとなった。その一方で、術後管理を含めた実践の標準化が今後の課題であることが示された。
1 イントロダクション
膝骨切り術とは、膝関節内にかかる荷重を再配分することを目的とした外科的手技の総称である。代表的な術式として、高位脛骨骨切り術(PTO)、大腿骨遠位骨切り術(DFO)、ならびに脛骨後傾角などを調整するスロープ矯正骨切り術が含まれ、オープンウェッジ法やクローズドウェッジ法、回旋矯正、各種固定法が用いられている。適応は、単顆性変形性膝関節症に伴うアライメント異常や、靱帯再建術後のアライメント不良など多岐にわたる。
これまでの文献では、術式、治療成績、患者選択基準に関する知見は報告されてきた一方で、スポーツ整形外科領域における近年の実臨床での実践状況や、将来的な方向性を体系的に検討した研究は限られている。
また、変形性関節症の重症度、BMI、年齢といった要因が、骨切り術と部分あるいは全人工膝関節置換術の選択にどのように影響するかについては、依然として議論が分かれている。これらの要因を包括的に把握しなければ、個々の患者に最適な治療戦略を構築することは困難である。
既存の文献では、術者自身の経験や嗜好、認識といった視点が十分に反映されてこなかった。これらは実際の手術選択や治療方針に大きな影響を及ぼす要素である。
そこで本研究では、整形外科スポーツ医学を専門とする医師および研修医を対象に、過去5年間およびフェローシップ期間における膝骨切り術の実施頻度、適応、術式の傾向を調査し、現在の臨床実践の実態を明らかにすることを目的とした。
2 方法
本研究では、膝骨切り術の近年の実施動向を把握することを目的として、整形外科スポーツ医学を専門とする医師および研修医を対象に、匿名アンケート調査を実施した。調査は二種類の質問票から構成され、いずれも電子的に配布された。
2.1 調査対象
整形外科スポーツ医学を専門とする現役医師(attending surgeon)
American Orthopaedic Society for Sports Medicine
European Society of Sports Traumatology, Knee Surgery and Arthroscopy の会員
北米の整形外科スポーツ医学フェロー(研修医)
2.2 質問票の構成と配布
attending surgeon 向け:19項目の匿名質問票
フェロー向け:36項目の匿名質問票
配布期間:2023年5月〜8月
いずれも調査目的と匿名性を明記した説明文書を添付
2.3 調査内容
診療地域(国)
臨床経験年数
実施している膝骨切り術の種類と頻度
手術適応
術式
術前計画
術後の荷重制限方針
attending surgeon には直近5年間の臨床実践について、フェローには研修期間中の経験および将来の実践予定について回答を求め、膝骨切り術の現状と今後の傾向を把握することを目的とした。
2.4 対象者の選定と除外基準
現在、膝骨切り術を実施している医師を対象とした
骨切り術を行っていないと回答した場合は除外した
膝蓋大腿関節に対する骨切り術(脛骨粗面骨切り術、滑車形成術)は対象外とした
3 結果
3.1 担当医(Attending surgeon)における骨切り術の調査結果
本調査では、120名のattending surgeonに質問票を送付し、100名から回答を得た(回収率83.3%)。回答者の地域分布は、北米が44%と最多であり、次いで欧州が37%、南米が14%であった。臨床経験年数については、10年以上の経験を有する医師が62%を占め、そのうち21年以上の経験を有する医師が26%であった。一方、経験3年未満の医師は8%であった。
過去5年間に実施された骨切り術の総数(図1)
・開大・閉鎖楔状の高位脛骨骨切り術(PTO)が1068件(年間平均10.7件)
・開大・閉鎖楔状の大腿骨遠位骨切り術(DFO)が615件(年間平均6.1件)
・脛骨スロープ矯正骨切り術 267件(年間平均2.7件)

前額面アライメントの評価で用いた方法
・全下肢立位X線撮影(98%)
・身体診察(73%)
矢状面、すなわち脛骨後傾角の評価で用いた方法
・側面膝X線撮影(67%)
・下腿全長側面X線撮影(57%)
・身体診察(39%)
現在の臨床で用いられている骨切り術の内訳
・内側開大楔状PTO(96%)
・開大楔状DFO(77%)
・前方閉鎖楔状PTO(58%)
・閉鎖楔状DFO(54%)
・二平面PTO(52%)
骨切り術の主な適応症
・アライメント異常を伴う変形性膝関節症(91%)
・靱帯再建術後の前額面アライメント異常(84%)
・脛骨後傾角の増大(69%)
過去5年間における骨切り術の実施頻度の変化
・手術件数の増加(40%)
・変化なし(32%)
・減少(16%)
全体の60%が実施する骨切り術の種類を増やし適応症を拡大したと回答

DFO:大腿骨遠位骨切り術、PTO:脛骨近位骨切り術。
一言まとめ
・術者はベテランが中心
・内側開大楔状PTOが圧倒的に主流
・実施頻度より適応症と術式の幅が拡大
3.2 スポーツ整形外科フェローにおける調査結果
本調査には、フェローシップ期間中に膝骨切り術を経験した整形外科スポーツ医学フェロー26名が参加した。対象者の96%は米国所属であり、地域内訳は南東部27%、中西部23%、北東部19%、南西部15%、北西部12%であった。残る1名(4%)はカナダ所属であった。フェロー向け質問票は、研修期間中の実践内容と、将来の臨床実践予定の二部構成とされた。
3.2.1 研修期間中の実践内容
研修期間中に実施された骨切り術の総数(Figure 2)
・開大・閉鎖楔状高位脛骨骨切り術(PTO)が164件(年間平均6.3件)
・開大・閉鎖楔状大腿骨遠位骨切り術(DFO)が107件(年間平均4.1件)
・脛骨スロープ矯正骨切り術が57件(年間平均2.2件)
前額面アライメントの評価で用いた方法
・全下肢立位X線撮影(96%)
・身体診察(65%)
矢状面、すなわち脛骨後傾角の評価で用いた方法
・側面膝X線撮影(69%)
・下腿全長側面X線撮影(50%)
・身体診察(42%)
現在の臨床で用いられている骨切り術の内訳
・内側開大楔状PTO(92%)
・開大楔状DFO(69%)
・前方閉鎖楔状PTO(42%)
・閉鎖楔状DFO(31%)
・二平面PTO(35%)
骨切り術の主な適応症
・アライメント異常を伴う変形性膝関節症(73%)
・靱帯再建術後の前額面アライメント異常(65%)
・脛骨後傾角の増大(46%)
3.2.2 将来の臨床実践
前額面アライメント評価の方法
・全下肢立位X線撮影(100%)
・身体観察(69%)
矢状面評価の方法
・側面膝X線撮影(65%)
・下腿全長側面X線撮影(62%)
・身体診察(58%)
将来的に導入予定の骨切り術の内訳
・内側開大楔状PTO(92%)
・開大楔状DFO(73%)
・前方閉鎖楔状PTO(62%)
・閉鎖楔状DFO(46%)
・二平面PTO(38%)
想定される適応症
・アライメント異常を伴う変形性膝関節症(85%)
・靱帯再建術後の前額面アライメント異常(85%)
・脛骨後傾角の増大(73%)

DFO(大腿骨遠位骨切り術)、PTO(脛骨近位骨切り術)。
一言まとめ
・内側開大楔状PTOが圧倒的に主流
・適応症がより拡がる傾向
・将来像の方が数値的に攻めている
3.3 担当医における手技選択と治療標準
3.3.1 荷重軸設定の判断基準
アライメント異常を伴う変形性膝関節症
・外反矯正骨切り術: 外側脛骨隆起の頂点(53%)
・内反矯正骨切り術: 関節中心(46%)
・変形性膝関節症以外の適応症: 関節中心(54%)
3.3.2 術後の荷重制限プロトコール(Figure 3)
6週間未満の部分荷重(もっとも一般的)
・ 閉鎖楔状骨切り術(44%)
・ 開大楔状骨切り術(23%)
荷重制限方針には術式間でばらつく
3.3.3 アンローダーブレースの使用
・アンローダープレースを使用(74%)
・術前:骨切り術の有効性を評価する目的
・術後:補助的装具として使用
・使用していない(24%)

NWB:非体重負荷、PWB:部分的体重負荷、WBAT:許容範囲内での体重負荷
3.4 スポーツ整形外科フェローにおける手技選択と治療標準
3.4.1 研修期間中(During training)
3.4.1.1 荷重軸設定の判断基準
内側コンパートメントOA+アライメント異常
・外反矯正骨切り術:外側脛骨隆起の頂点(62%)
外側コンパートメントOA+アライメント異常
・内反矯正骨切り術:内側脛骨隆起の頂点(58%)
OA以外の適応症:関節中心(38%)
3.4.1.2 術後の荷重制限プロトコール
閉鎖楔状骨切り術
・6週間未満の部分荷重:23%
・矯正量に応じた荷重調整:23%
開大楔状骨切り術
・6週間未満の完全免荷:54%(最多)
3.4.1.3 アンローダーブレースの使用
アンローダーブレースを使用(81%)
・術前:骨切り術の有効性評価
・術後:補助的装具として使用
使用していない(19%)

NWB:非荷重、PWB:部分荷重、WBAT:許容範囲内での荷重
3.4.2 将来の臨床実践(Future practice)
3.4.2.1 荷重軸設定の想定
内側コンパートメントOA+アライメント異常
・外反矯正骨切り術:外側脛骨隆起の頂点(62%)
外側コンパートメントOA+アライメント異常
・内反矯正骨切り術:内側脛骨隆起の頂点(58%)
OA以外の適応症:関節中心(38%)
3.4.2.2 術後の荷重制限プロトコール(想定)
閉鎖楔状骨切り術
・6週間未満の部分荷重:38%
開大楔状骨切り術
・6週間未満の完全免荷:54%
3.4.2.3 アンローダーブレースの使用
アンローダーブレースを使用(96%)
使用予定なし(4%)
3.4,2.4 新規技術の導入意向
ナビゲーション支援・患者特異的器具の使用について
・非常に使用したい:27%
・使用したい:38%
使用しない理由
・技術への不慣れ・経験不足:44%
・コスト:39%

NWB:非体重負荷、PWB:部分的体重負荷、WBAT:許容できる範囲での体重負荷
4.考察
本研究の最も重要な知見は、過去5年間で整形外科医の60%が膝骨切り術の対象患者や術式の種類を拡大しており、40%が手術件数自体も増やしていた点である。この背景には、変形性膝関節症が進行した患者や、肥満度の高い患者、高齢患者においても良好な成績が得られるとする近年の報告がある。人工膝関節置換術の普及により1990年代以降は減少傾向にあった骨切り術だが、膝のアライメント(骨の並び方)が膝関節機能に大きく影響することへの理解が進み、関節を温存する治療として再評価されている。
手術の種類別では、担当医・フェローのいずれにおいても高位脛骨骨切り術(PTO)が最も多く、次いで大腿骨遠位骨切り術(DFO)、スロープ矯正骨切り術の順であった。これらの骨切り術は、変形性膝関節症の治療にとどまらず、半月板修復や靱帯再建術にかかる負担を軽減する目的や、軟骨治療を補助する目的でも用いられるようになっている。
手術前のアライメント評価では、O脚・X脚といった前額面の評価に下肢全体を写す立位X線撮影が、前後方向の傾きの評価には側面X線撮影が最も多く用いられていた。これらの検査により、変形の程度や矯正部位を判断することができる。特に、脛骨後傾角は前十字靱帯への負荷と関係するため、靱帯手術と併用する場合には重要な評価項目となる。
一方で、骨を開く手術(開大楔状骨切り術)と、骨を削って閉じる手術(閉鎖楔状骨切り術)では、術後の荷重制限方針に違いがあることが明らかとなった。開大楔状PTOでは、矯正量が小さくヒンジ骨折を伴わない場合には早期全荷重が可能とされているが、閉鎖楔状骨切り術やスロープ矯正骨切り術については十分な研究報告が存在しない。固定器具の種類、矯正量、骨折の有無などにより対応が分かれており、術後リハビリテーション方法の標準化が今後の課題である。
また、ベテラン医師とフェローの間で、骨切り術に対する考え方の違いが認められた。フェローは将来的に、より広い適応で骨切り術を用いる意向を示しており、アンローダーブレースの使用や新規技術の導入にも前向きであった。これらの結果は、若手世代を中心に骨切り術の役割がさらに拡大していく可能性を示唆している。
本研究の限界として、アンケート調査であるため回答者の主観に基づく情報であること、対象が主に経験豊富な膝関節専門医であり、世界全体の実態を完全に反映していない可能性がある点が挙げられる。それでも本研究は、膝骨切り術が過去の術式ではなく、関節温存戦略の中で進化を続ける治療であることを示している。その一方で、実際の臨床成績と結びついたエビデンスの蓄積が、今後の普及と標準化には不可欠である。
5.結論
本研究から、膝骨切り術は骨アライメント異常を修正する有用な手技として、近年、臨床現場で広く受け入れられつつあることが示された。担当医の間では、骨切り術の実施件数および適応が増加しており、膝関節を温存する治療戦略としての位置づけが強まっている。
調査結果から、変形性膝関節症に対する内反・外反アライメント矯正を目的とした骨切り術が最も一般的であることが示された。一方で、術後リハビリテーションの方法には術者間で大きなばらつきが認められた。
以上より、膝骨切り術は臨床現場における重要性を増しているものの、術後管理を含めた実践には統一された指針がなく、今後の検討が必要であることが示唆された。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!