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〜 おへその乱読1000本ノック #0096 ~ 中年期と高齢期で変わるタンパク質摂取と死亡リスク

 ようこそ、第96回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Levine et al.(2014)による、タンパク質摂取量、IGF-1、がん死亡リスク、全死亡リスクの関係を年齢依存的に検討した研究を取り上げます。
 これまで、カロリー制限や栄養制限が寿命・老化に与える影響を見てきました。今回はその流れを受けて、タンパク質摂取とGH/IGF-1系に焦点を移し、栄養介入の効果が中年期と高齢期でどのように変化するのかを見ていきます。
 本論文では、米国の大規模疫学データ、マウス腫瘍モデル、酵母を用いた細胞老化モデルを組み合わせ、タンパク質摂取、IGF-1、がん進展、死亡リスクの関係が検討されました。とくに重要なのは、低タンパク質摂取が50–65歳では全死亡およびがん死亡リスクの低下と関連する一方、66歳以上ではその関係が反転する可能性が示された点です。栄養戦略は年齢によって変わる。本論文は、そのことをヒト疫学と実験モデルの両面から示した研究です。

要旨
 本研究では、NHANES IIIに登録された50歳以上の6,381名を18年間追跡し、タンパク質摂取量、IGF-1、死亡リスクの関係を年齢別に分析した。
 まず疫学的解析では、50–65歳において、総摂取エネルギーに占めるタンパク質比率が中等度から高い群は、低タンパク質群と比べて全死亡リスクおよびがん死亡リスクが有意に高かった。このリスク上昇には、とくに動物性タンパク質摂取の寄与が大きい可能性が示された。一方、66歳以上では関係が逆転し、中等度から高タンパク質摂取は、低タンパク質摂取に比べて全死亡リスクおよびがん死亡リスクの低下と関連していた。
 次に実験的解析では、マウスと酵母を用いて、タンパク質・アミノ酸摂取と老化関連経路の関係が検討された。マウスでは、低タンパク質食によりIGF-1が低下し、腫瘍の形成および進展が抑制された。酵母では、高アミノ酸条件がTOR-Sch9経路およびRas/PKA経路を介して、老化に伴うゲノム不安定性を促進した。一方、老齢マウスでは、過度の低タンパク質食が体重減少を招いており、高齢期における過剰なタンパク質制限には注意が必要である。
 以上より、中年期には低タンパク質・植物性中心の食事が有利に働く一方、高齢期には低タンパク質を避け、中等度から高タンパク質摂取へ移行することが、健康維持と長寿に適した栄養戦略となりうる。

1.イントロダクション:タンパク質摂取をGH/IGF-1シグナルから問い直す

1.1 カロリー制限の効果は総カロリーだけでは説明できない

 カロリー制限は、酵母、線虫、マウスなど多くのモデル生物で寿命を延長する介入として知られている。しかし、非ヒト霊長類では寿命延長効果が一貫せず、食餌制限の効果は総摂取カロリーだけでなく、栄養組成にも左右される可能性がある。したがって、老化制御における食餌の役割を理解するには、カロリー量だけでなく、どの栄養素が成長・代謝シグナルを変化させるのかを検討する必要がある。

1.2 GH/IGF-1系は成長と老化をつなぐ中核経路である

 カロリー制限による寿命延長には、成長ホルモン受容体、IGF-1、インスリンを含む成長促進性シグナルの低下が関与すると考えられている。IGF-1はインスリン様成長因子1であり、成長ホルモン刺激に応答して主に肝臓で産生され、成長や細胞増殖を促すホルモンである。
 線虫ではインスリン/IGF-1受容体や下流のage-1変異が寿命を延長し、その後、TOR-S6K経路やRAS-cAMP-PKA経路も、複数のモデル生物で老化制御に関わることが示されてきた。
 哺乳類でも、成長ホルモン受容体欠損や成長ホルモン欠損をもつマウスでは、IGF-1およびインスリン濃度が低く、寿命延長と加齢関連疾患の減少が認められる。ヒトの成長ホルモン受容体欠損症でも、低IGF-1・低インスリン状態に加え、がん死亡や糖尿病の低頻度が報告されている。

1.3 タンパク質・アミノ酸制限はIGF-1を低下させる

 タンパク質制限、あるいはメチオニンやトリプトファンなど特定アミノ酸の制限は、カロリー制限やGH/IGF-1系低下による効果の一部を説明しうる。タンパク質制限は、カロリー摂取量とは独立にIGF-1を低下させ、モデル生物においてがん発生の抑制や寿命延長と関連することが示されてきた。

1.4 本研究はヒト疫学と実験モデルでタンパク質摂取の影響を検証する

 本研究では、NHANES IIIに登録された50歳以上の男女6,381名を対象に、タンパク質摂取量およびタンパク質源と死亡リスクの関係を検討した。さらに、マウスおよび酵母モデルを用いて、タンパク質・アミノ酸摂取がIGF-1、腫瘍進展、老化関連変化に及ぼす影響を解析した。本論文は、タンパク質摂取をGH/IGF-1系と老化関連疾患をつなぐ栄養シグナルとして検討する研究である。

2.研究デザイン:ヒト疫学と実験モデルを組み合わせた検証

 本研究では、タンパク質摂取量と死亡リスクの関係を、ヒト疫学データと実験モデルを組み合わせて検討した。まず、NHANES IIIの追跡データを用いて、タンパク質摂取量およびタンパク質源と死亡リスクの関連を年齢別に解析した。次に、血中IGF-1を測定したサブサンプルを用いて、タンパク質摂取と成長シグナルの関係を検討した。さらに、マウス腫瘍モデル、酵母モデル、老齢マウスモデルを用いて、タンパク質・アミノ酸摂取が腫瘍進展、細胞老化、老齢個体の体重維持に及ぼす影響を検証した。

2.1 ヒト疫学研究ではタンパク質摂取と死亡リスクを年齢別に解析する

 ヒト疫学解析では、NHANES IIIに登録された50歳以上の男女6,381名を解析対象とした。食事調査に基づき、総摂取エネルギーに占めるタンパク質比率から、対象者を低タンパク質群、中タンパク質群、高タンパク質群に分類した。死亡アウトカムとして、全死亡、がん死亡、心血管死亡、糖尿病死亡を評価した。
 解析では、50歳以上の対象者全体に加え、50–65歳と66歳以上に分けた年齢層別解析を行った。この設計により、タンパク質摂取と死亡リスクの関係が、年齢によって異なるかを検討した。

2.2 IGF-1サブサンプル解析では成長シグナルとの関係を検討する

 NHANES IIIの一部対象者では、血中IGF-1濃度を測定した。このサブサンプル解析では、タンパク質摂取量とIGF-1濃度の関係を調べ、さらにIGF-1がタンパク質摂取と死亡リスクの関連にどのように関与するかを検討した。この解析により、ヒト疫学で観察するタンパク質摂取と死亡リスクの関連を、GH/IGF-1系という成長促進性シグナルの観点から評価した。

2.3 マウス腫瘍モデルではタンパク質摂取と腫瘍進展の因果性を検証する

 マウス実験では、低タンパク質食と高タンパク質食を用いて、タンパク質摂取量が腫瘍形成および腫瘍進展に与える影響を検討した。腫瘍モデルとして、メラノーマモデルと乳がんモデルを用いた。さらに、GHRノックアウトマウスを用いて、GHR/IGF-1シグナルが腫瘍進展に関与するかを検証した。評価項目には、血中IGF-1、IGFBP-1、腫瘍形成、腫瘍進展を含めた。この実験系により、タンパク質摂取、IGF-1シグナル、腫瘍進展の関係を、ヒト疫学とは異なる実験条件で検討した。

2.4 酵母モデルではアミノ酸と細胞老化・ゲノム不安定性を検証する

 酵母モデルでは、出芽酵母 S. cerevisiae を用いて、アミノ酸濃度が細胞老化に与える影響を検討した。アミノ酸濃度を段階的に変化させ、生存、突然変異頻度、ストレス応答を評価した。また、TOR-Sch9経路およびRas/PKA経路を解析し、アミノ酸が栄養応答経路を介して老化関連のゲノム不安定性に関与するかを検討した。この実験系により、タンパク質摂取の影響を、アミノ酸レベルの細胞内シグナルとして評価した。

2.5 老齢マウスモデルでは高齢期におけるタンパク質制限のリスクを検証する

 老齢マウス実験では、若齢マウスと老齢マウスに低タンパク質食または高タンパク質食を与え、年齢によってタンパク質制限への反応が異なるかを検討した。主な評価項目は体重変化とした。この実験系により、低タンパク質食が高齢期にも同じように有利に働くのか、あるいは老齢個体では体重維持に不利となるのかを検討した。以上の設計により、本研究では、タンパク質摂取の影響を、ヒト集団、成長シグナル、腫瘍モデル、細胞老化モデル、老齢個体という複数の階層から解析した。

参考図 本研究の研究デザイン NHANES IIIを用いたヒト疫学解析では、50歳以上6,381名を対象に、タンパク質摂取量およびタンパク質源と死亡リスクの関係を年齢別に解析した。IGF-1サブサンプル解析では、タンパク質摂取量、血中IGF-1、死亡リスクの関係を検討した。マウス腫瘍モデルでは、低タンパク質食および高タンパク質食を用いて、IGF-1、IGFBP-1、腫瘍形成、腫瘍進展を評価した。酵母モデルでは、アミノ酸濃度、細胞生存、突然変異頻度、ストレス応答経路を検討した。老齢マウスモデルでは、年齢によるタンパク質制限への反応差を体重変化から評価した。

3.タンパク質摂取と死亡リスクは年齢によって逆転する

3.1 中年期では高タンパク質摂取が全死亡・がん死亡リスクを高める

 50–65歳では、高タンパク質摂取群で全死亡リスクが上昇し、がん死亡リスクは低タンパク質群の4倍以上に増加した。中等度タンパク質摂取群でも、がん死亡リスクの上昇を認めた。したがって、中年期では、タンパク質摂取量の増加が全死亡およびがん死亡リスクの上昇と関連した(Fig. 1, Table 1)。
 このリスク上昇には、動物性タンパク質摂取の寄与が大きい可能性がある。脂質や炭水化物の摂取比率を考慮しても結果は大きく変わらなかったが、動物性タンパク質摂取量を統計モデルに加えると、総タンパク質摂取と全死亡・がん死亡リスクとの関連は消失または減弱した。

3.2 高齢期では低タンパク質摂取が不利に転じる

 66歳以上では、中年期とは逆の関係を認めた。中等度から高タンパク質摂取群では、低タンパク質群に比べて全死亡リスクが低かった。がん死亡についても、高タンパク質摂取群でリスク低下を認めた(Fig. 1, Table 1)。
 したがって、高齢期では、低タンパク質摂取が有利とは限らない。むしろ、タンパク質摂取量の不足が、体重減少、低栄養、フレイルと結びつき、死亡リスクを高める可能性がある。

Fig. 1 タンパク質摂取量と死亡リスクの年齢依存的な関係 全死亡、心血管死亡、がん死亡、糖尿病死亡について、低・中等度・高タンパク質群ごとの予測生存期間を年齢別に示す。全死亡およびがん死亡では、年齢とタンパク質摂取群の交互作用を認め、低タンパク質摂取は66歳未満では保護的に働く一方、66歳以降では不利に転じる傾向を示した。心血管死亡および糖尿病死亡では、年齢との有意な交互作用を認めなかった。

3.3 糖尿病死亡は高タンパク質摂取と関連するが解釈には注意を要する

 糖尿病死亡については、年齢層を問わず高タンパク質摂取との関連を認めた。ベースライン時に糖尿病を有しない対象者に限定した解析でも、中等度から高タンパク質摂取群で糖尿病死亡リスクの上昇を認めた。
 ただし、糖尿病死亡数は少なく、ハザード比の信頼区間も広かった。そのため、この結果は高タンパク質摂取と糖尿病死亡の関連を示唆するものとして扱い、推定値の大きさは慎重に解釈する必要がある。

3.4 タンパク質摂取の最適量は年齢によって変化する

 以上より、タンパク質摂取の影響は一律ではない。50–65歳では、高タンパク質摂取、とくに動物性タンパク質摂取が全死亡およびがん死亡リスクの上昇と関連した。一方、66歳以上では、低タンパク質摂取が不利に働き、中等度から高タンパク質摂取が死亡リスクの低下と関連した。
 タンパク質摂取は、多いほどよい、あるいは少ないほどよい、という単純な軸では評価できない。本研究は、タンパク質摂取の最適量が年齢によって変化することを示した。

(Table 1 へのリンクはここをクリック)

4.IGF-1はタンパク質摂取と死亡リスクをつなぐ修飾因子である

4.1 高タンパク質摂取群では血中IGF-1が高い

 タンパク質摂取量が多い群ほど、血中IGF-1濃度は高い傾向を示した。50–65歳では、低タンパク質群に比べて高タンパク質群でIGF-1が有意に高かった。66歳以上でも同方向の傾向を認めたが、群間差は弱かった(Fig. 2)。

Fig. 2 タンパク質摂取量と血中IGF-1濃度の関係 50–65歳および66歳以上の対象者を、低・中等度・高タンパク質摂取群に分け、血中IGF-1濃度を比較した。50–65歳では、低タンパク質群に比べて高タンパク質群でIGF-1濃度が有意に高かった。66歳以上でも同じ方向の傾向を認めたが、群間差は弱かった。

4.2 高IGF-1は中年期の高タンパク質リスクを強める

 50–65歳では、高タンパク質摂取とがん死亡リスクの関連は、IGF-1濃度が高いほど強まった。IGF-1が10 ng/mL上昇するごとに、高タンパク質群と低タンパク質群のがん死亡リスク差はさらに拡大した。
 したがって、中年期における高タンパク質摂取のリスクは、GH/IGF-1系の活性化と結びつく可能性がある。タンパク質摂取量だけでなく、それに伴う成長促進性シグナルの高さが、がん死亡リスクを左右すると考えられる。

4.3 高齢期では低IGF-1を単純に有利とはみなせない

 66歳以上では、低タンパク質摂取が全死亡およびがん死亡リスクの上昇と関連した。この年齢層では、IGF-1の低下を中年期と同じ意味では解釈できない。低タンパク質摂取や低IGF-1は、低栄養、体重減少、フレイルの反映である可能性がある。
 IGF-1は成長や細胞増殖を促す一方で、高齢期には組織維持や身体機能にも関わる。したがって、IGF-1の望ましい水準は、年齢や栄養状態によって変化すると考えられる。

4.4 タンパク質摂取はIGF-1と年齢を含めて評価する必要がある

 以上より、IGF-1はタンパク質摂取と死亡リスクの関係を修飾する因子である。中年期では、高タンパク質摂取と高IGF-1が、がん死亡リスクを高める方向に働く。一方、高齢期では、低タンパク質摂取や低IGF-1が、低栄養や身体機能低下の指標となる可能性がある。
 タンパク質摂取の影響は、摂取量だけでは判断できない。年齢、タンパク質源、IGF-1を含む成長シグナルの状態を合わせて評価する必要がある。

5.低タンパク質食はマウス腫瘍モデルでIGF-1を低下させ腫瘍進展を抑制する

5.1 低タンパク質食はメラノーマの形成と進展を抑制する

 低タンパク質食は、メラノーマの形成率と腫瘍増大を抑制した。高タンパク質食群ではすべてのマウスに腫瘍を認めたのに対し、低タンパク質食群では腫瘍形成が一部抑えられた。さらに、腫瘍サイズも低タンパク質食群で小さく推移し、最終時点では高タンパク質食群の腫瘍サイズが低タンパク質食群より大きかった(Fig. 3A, B)。

5.2 低タンパク質食はIGF-1を低下させ、IGFBP-1を上昇させる

 低タンパク質食は、血中IGF-1を低下させ、IGF-1阻害因子であるIGFBP-1を上昇させた。メラノーマモデルでは、低タンパク質食群でIGF-1が低く、IGFBP-1が高かった。したがって、低タンパク質食による腫瘍進展抑制は、IGF-1シグナルの低下と結びついている可能性がある(Fig. 3C, D)。

5.3 GHR/IGF-1シグナルの低下はメラノーマ進展を抑制する

 GHRノックアウトマウスでは、メラノーマの進展が対照群より強く抑制された。GHRノックアウトでは、成長ホルモン受容体を介したIGF-1系の活性が低いため、この結果は、低タンパク質食による腫瘍抑制効果がGHR/IGF-1軸の低下と関係することを支持する(Fig. 3E)。

5.4 低タンパク質食は乳がんモデルでも腫瘍形成と増大を抑制する

 低タンパク質食は、乳がんモデルでも腫瘍形成率と腫瘍増大を抑制した。高タンパク質食群では腫瘍形成率が高く、腫瘍サイズも大きくなった。一方、低タンパク質食群では腫瘍形成が一部抑えられ、腫瘍増大も小さく推移した(Fig. 3F, G)。

5.5 乳がんモデルでも低タンパク質食はIGF-1系を抑制方向へ動かす

 乳がんモデルでも、低タンパク質食はIGF-1を低下させ、IGFBP-1を上昇させた。同じ方向の変化は、大豆タンパク質量を減らした条件でも認められた。一方、同じタンパク質量で動物性タンパク質と植物性タンパク質を比較した場合、その差は明確ではなかった。したがって、この実験系では、タンパク質の由来よりも摂取量の低下がIGF-1系を変化させる主要因として示された(Fig. 3H–K)。

5.6 低タンパク質食はIGF-1を介して腫瘍進展環境を変える

 以上より、低タンパク質食は、メラノーマと乳がんの両モデルで腫瘍形成と腫瘍増大を抑制した。さらに、低タンパク質食はIGF-1を低下させ、IGFBP-1を上昇させた。GHRノックアウトマウスでも腫瘍進展が抑制されたことから、タンパク質摂取量はGHR/IGF-1軸を介して腫瘍進展環境を変化させる因子であると考えられる。

Fig. 3 タンパク質・アミノ酸摂取が腫瘍進展と細胞老化に及ぼす影響 A–D メラノーマモデルでは、低タンパク質食により腫瘍形成と腫瘍増大が抑制され、血中IGF-1は低下し、IGFBP-1は上昇した。E GHRノックアウトマウスでは、対照群に比べてメラノーマ進展が抑制された。F–K 乳がんモデルでも、低タンパク質食により腫瘍形成と腫瘍増大が抑制され、IGF-1低下とIGFBP-1上昇を認めた。L–P 酵母モデルでは、高アミノ酸条件が生存低下、突然変異頻度上昇、ストレス応答低下と関連し、TOR-Sch9経路およびRas/PKA経路を介してゲノム不安定性を促進する可能性が示された。

6.高アミノ酸条件は酵母の老化とゲノム不安定性を促進する

6.1 高アミノ酸条件は老化した酵母の生存を低下させる

  高アミノ酸条件では、老化した酵母の生存率が大きく低下した。標準濃度および2倍濃度のアミノ酸条件では、培養8日目の生存細胞数が、低アミノ酸条件に比べて約10分の1まで減少した。一方、培養1日目および3日目では明確な差を認めなかった。したがって、アミノ酸過剰は若い細胞に直ちに毒性を示すというより、老化が進んだ細胞の生存維持を妨げる条件として働いた(Fig. 3L)。

6.2 高アミノ酸条件は老化に伴う突然変異頻度を増加させる

 高アミノ酸条件では、老化した酵母の突然変異頻度が増加した。培養5日目の細胞では、標準濃度および2倍濃度のアミノ酸条件により、低アミノ酸条件と比べて突然変異頻度が3〜4倍に上昇した。一方、若い細胞では同様の増加を認めなかった。したがって、アミノ酸過剰は老化した細胞でゲノム不安定性を高める方向に働く(Fig. 3M)。

6.3 高アミノ酸条件はストレス応答を低下させる

 高アミノ酸条件では、ストレス抵抗性に関わる転写応答が低下した。酵母では、アミノ酸を加えると、Ras-PKA-Msn2/4経路およびTor-Sch9-Gis1経路の下流にあるストレス応答性プロモーター活性が低下した。これは、アミノ酸が栄養応答経路を活性化し、細胞保護プログラムを抑えることを示している(Fig. 3N)。

6.4 Ras/PKA経路の抑制は酸化ストレスによるゲノム不安定性を抑える

 Ras2を欠損させると、酸化ストレスによる突然変異頻度の上昇が抑えられた。Ras2欠損酵母は長寿命化するだけでなく、加齢および酸化ストレスに伴うゲノム不安定性にも抵抗性を示した。したがって、Ras/PKA経路は、老化に伴うDNA損傷や突然変異の蓄積を促進する経路として位置づけられる(Fig. 3O)。

6.5 アミノ酸は栄養応答経路を介して細胞老化を促進する

 以上より、高アミノ酸条件は、酵母の生存低下、突然変異頻度の上昇、ストレス応答の低下を引き起こした。これらの変化は、Tor-Sch9経路およびRas/PKA経路を介して説明される。アミノ酸は単なる構成栄養素ではなく、成長促進性シグナルとして細胞保護機構を弱め、老化に伴うゲノム不安定性を促進する因子である(Fig. 3P)。

7.高齢期には低タンパク質食が体重減少を招きうる

7.1 老齢マウスでは低タンパク質食により体重が減少する

 老齢マウスでは、低タンパク質食により体重が減少した。24か月齢の老齢マウスに低タンパク質食を与えると、15日目までに体重が約10%低下した。一方、18週齢の若齢マウスでは、同じ低タンパク質食による明確な体重減少を認めなかった(Fig. 4B)。

7.2 高タンパク質食では老齢マウスも体重を維持する

 高タンパク質食では、老齢マウスも体重を維持した。24か月齢の老齢マウスは、高タンパク質食下では体重を失わず、むしろ増加傾向を示した。したがって、老齢個体では、低タンパク質食そのものが体重維持に不利となる可能性がある(Fig. 4A)。

Fig. 4 若齢および老齢マウスにおけるタンパク質摂取量と体重変化 18週齢および24か月齢のマウスに高タンパク質食または低タンパク質食を与え、体重変化を比較した。高タンパク質食では老齢マウスも体重を維持した一方、低タンパク質食では老齢マウスで体重減少を認めた。若齢マウスでは、低タンパク質食による明確な体重減少を認めなかった。

7.3 低タンパク質食の意味は年齢によって変わる

 低タンパク質食は、若齢から中年期にはIGF-1を低下させ、腫瘍進展や死亡リスクを抑える方向に働きうる。しかし、老齢個体では、同じ低タンパク質食が体重減少を招く。高齢期には、タンパク質制限が低栄養、体重減少、フレイルに結びつきやすくなると考えられる。

7.4 高齢期にはタンパク質不足を避ける必要がある

 以上より、高齢期では低タンパク質摂取を一律に有利とはみなせない。ヒト疫学では66歳以上で中等度から高タンパク質摂取が死亡リスク低下と関連し、老齢マウスでは低タンパク質食が体重減少を引き起こした。これらの結果は、高齢期にはタンパク質制限よりも、体重と身体機能を維持できる十分なタンパク質摂取が重要となることを示している。

8.結論:タンパク質摂取の最適量は年齢によって変化する

8.1 中年期では高タンパク質摂取がリスクとなる

 50–65歳では、高タンパク質摂取、とくに動物性タンパク質摂取が、全死亡およびがん死亡リスクの上昇と関連した。高タンパク質摂取群では血中IGF-1も高く、マウス腫瘍モデルでは低タンパク質食がIGF-1を低下させ、腫瘍進展を抑制した。したがって、中年期では、過剰なタンパク質摂取がGH/IGF-1系を介して老化関連疾患リスクを高める可能性がある。

8.2 高齢期では低タンパク質摂取がリスクとなる

 一方、66歳以上では関係が反転した。中等度から高タンパク質摂取は、低タンパク質摂取に比べて全死亡およびがん死亡リスクの低下と関連した。老齢マウスでも、低タンパク質食は体重減少を招いた。したがって、高齢期にはタンパク質制限よりも、低栄養、体重減少、フレイルを防ぐ十分なタンパク質摂取が重要となる。

8.3 タンパク質摂取は年齢・由来・IGF-1とともに評価する必要がある

 以上より、タンパク質摂取の影響は一律ではない。中年期には、動物性高タンパク質摂取と高IGF-1が死亡リスク上昇と結びつく一方、高齢期には低タンパク質摂取が不利に働く可能性がある。本研究は、タンパク質摂取を単純な多寡ではなく、年齢、タンパク質源、GH/IGF-1系の状態を含めて評価する必要性を示した。
 タンパク質摂取の最適量は、年齢によって変化する。中年期には低タンパク質・植物性中心の食事が有利に働き、高齢期には中等度から高タンパク質摂取へ移行することが、健康維持と長寿に適した栄養戦略となりうる。



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