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〜 おへその乱読1000本ノック #0110 ~CASTOR1:アルギニン認識の構造基盤

 ようこそ、第110回 おへその乱読1000本ノックへ。
 前回は、CASTOR1が細胞質中のアルギニンを直接感知し、GATOR2を介してmTORC1の活性を制御する仕組みを見てきました。CASTOR1はアルギニンと結合するとGATOR2から解離し、それによって抑制が解除され、mTORC1が活性化されます。そこで今回は、CASTOR1がどのような立体構造でアルギニンを認識しているのか、そしてアルギニンとの結合がどのようにGATOR2との相互作用の解除につながるのかに焦点を当てます。
 Saxton et al.(2016)は、アルギニン結合型CASTOR1の結晶構造を1.8 Å分解能で決定し、そのアルギニン感知機構を解析しました。本論文では、アルギニン結合部位の構造や分子認識の特異性に加え、アルギニンとの結合によって生じる構造変化がGATOR2からの解離を引き起こす仕組みを明らかにしています。
 本論文を通して、CASTOR1がアルギニンという栄養情報を受け取り、GATOR2を介してmTORC1の活性化へと伝えるアロステリック機構を読み解いていきます。


1.イントロダクション:CASTOR1はどのようにアルギニンを感知するのか

1.1 アルギニンとmTORC1活性化

 mTORC1は、成長因子や栄養状態に応じて、タンパク質合成、細胞成長、代謝を制御する主要なシグナル伝達複合体である。アミノ酸はmTORC1を活性化する重要な入力であり、中でもアルギニンは、免疫細胞の活性化、インスリン分泌、筋成長などに関与することが知られている。
 アルギニンは、Rag GTPaseの上流でmTORC1の活性化を制御している。この経路には、リソソーム膜上でアルギニンを感知するSLC38A9と、細胞質中でアルギニンを感知するCASTOR1が関与する。しかし、CASTOR1がどのようにアルギニンを認識し、その情報をmTORC1経路へと伝えているのか、その構造的な仕組みはこれまで明らかになっていなかった。

1.2 CASTOR1とGATOR2の関係

 アルギニンが不足すると、CASTOR1はGATOR2に結合し、その働きを抑えることでmTORC1の活性化を阻害する。一方、アルギニンがCASTOR1に結合すると、CASTOR1はGATOR2から解離し、mTORC1が活性化可能な状態になる。
 つまりCASTOR1は、アルギニンの有無という情報を、GATOR2との結合状態の変化へと変換する栄養センサーである。しかし、アルギニンが結合する部位の構造や、その結合に伴う構造変化がどのようにGATOR2からの解離を引き起こすのかは、これまで不明であった。

1.3 本研究の目的

 本研究では、アルギニン結合型CASTOR1の結晶構造を1.8 Å分解能で決定し、CASTOR1によるアルギニン認識の構造基盤を解析した。さらに、アルギニン結合に必要な残基、GATOR2との相互作用に必要な領域、CASTOR1の二量体化が果たす役割を検証し、アルギニンの結合からmTORC1の活性化に至るアロステリック機構を明らかにすることを目的とした。

2.CASTOR1は4つのACTドメインからなるホモ二量体である

2.1 アルギニン結合型CASTOR1の結晶構造

 本研究では、CASTOR1がアルギニンをどのように認識するのかを明らかにするため、精製したヒトCASTOR1にアルギニンを加えて結晶化し、X線結晶構造解析を行った。その結果、アルギニン結合型CASTOR1の立体構造を1.8 Å分解能で決定した(Fig. 1A)。
 CASTOR1は細長い棒状のホモ二量体を形成しており、2つの単量体は互いに逆向きに配置されていた。各単量体は4つのACTドメイン(ACT1、ACT2、ACT3、ACT4)から構成され、これらが直列に並んでいた。従来の配列解析ではACTドメインを2つもつと予測されていたが、今回決定された立体構造から、CASTOR1が実際には4つのACTドメインを含むことが明らかになった。

2.2 CASTOR1の二量体化界面

 CASTOR1の二量体化界面は、主にACT1のα1ヘリックスとACT3のα5ヘリックスによって形成されていた(Fig. 1B)。界面の中心ではIle28とIle202が疎水性コアを形成し、その周囲をHis25とTyr207がπスタッキングおよび水素結合によって安定化していた。
 この二量体化がCASTOR1の機能に必要かどうかを検証するため、二量体形成を妨げるY207S変異体とI202E変異体を作製した。これらの変異体は単量体として存在していたが、アルギニンへの結合能は保持していた。この結果から、CASTOR1の二量体化そのものは、アルギニン結合には必須でないことが分かった。

2.3 二量体化はGATOR2制御とmTORC1抑制に必要である

 一方で、Y207S変異体とI202E変異体では、GATOR2との結合が著しく低下していた(Fig. 1C)。さらに、アルギニン欠乏条件においても、mTORC1活性を十分に抑制できなかった。mTORC1活性はS6K1 Thr389のリン酸化を指標として評価した。野生型CASTOR1ではアルギニン欠乏によってリン酸化が低下したのに対し、二量体化変異体ではその抑制が弱まっていた。
 以上の結果から、CASTOR1の二量体化はアルギニン結合そのものには必要ないものの、GATOR2へ強く結合し、アルギニン欠乏時にmTORC1を抑制するためには必要であることが示された。


Fig. 1 CASTOR1の全体構造と二量体化の機能


A アルギニン結合型CASTOR1の結晶構造。CASTOR1は、4つのACTドメインからなる単量体が逆向きに並んだホモ二量体を形成する。アルギニンはACT2とACT4の間に結合する。 B 二量体化界面の拡大図。Ile28とIle202が疎水性コアを形成し、His25とTyr207が界面を安定化する。 C 二量体化変異体Y207SおよびI202Eの機能解析。これらの変異体ではGATOR2との結合が低下し、アルギニン欠乏時にmTORC1を十分に抑制できなくなる。

3.アルギニンはACT2とACT4の間で認識される

3.1 アルギニン結合ポケットの位置

 CASTOR1に結合したアルギニンは、二量体化界面から離れた位置にある、ACT2とACT4の境界に収容されていた(Fig. 2A、B)。この結合ポケットは細長く狭い形状をしており、アルギニンの側鎖、α-アミノ基、カルボキシ基が、それぞれ異なる部位で認識されていた。
 アルギニンのグアニジノ基は、β15とβ16をつなぐループに向かって伸びており、Thr300、Phe301、Phe303の主鎖カルボニル基と相互作用していた。さらに、Asp304の負に帯電した側鎖が、正に帯電したグアニジノ基と塩橋を形成していた。反対側では、Ser111の側鎖とVal112の主鎖カルボニル基が、アルギニンのα-アミノ基を固定していた。

3.2 Ser111とAsp304はアルギニン結合に必須である

 これらの相互作用がアルギニン認識に必要かどうかを検証するため、Ser111またはAsp304をアラニンに置換したS111A変異体とD304A変異体を作製した。放射標識アルギニンを用いた結合解析の結果、いずれの変異体もアルギニン結合能を失っていた(Fig. 2C)。
 さらに、これらの変異体をHEK-293T細胞に発現させたところ、アルギニンが存在する条件下でもGATOR2との結合が維持され、mTORC1活性が強く抑制された(Fig. 2D)。これらの結果から、Ser111とAsp304を介したアルギニン認識は、CASTOR1がGATOR2から解離し、mTORC1の活性化を可能にするために必要であることが示された。

3.3 結合ポケットの構造がアルギニン特異性を生み出す

 CASTOR1の結合ポケットでは、Ser111がα-アミノ基の位置を固定し、β15-loopとAsp304がアルギニン側鎖の長さとグアニジノ基の配置を厳密に認識していた。この構造のため、側鎖の長さや末端の官能基が異なるアミノ酸では、結合に必要な相互作用を十分に形成できない。
 この特異性を確認するため、複数のアルギニン類縁体をCASTOR1–GATOR2複合体に加え、それぞれの解離能を比較した(Fig. 2E)。その結果、カルボキシ基を修飾したアルギニンメチルエステルはGATOR2からの解離を誘導したが、グアニジノ基、α-アミノ基、側鎖長を変化させた化合物では解離は起こらなかった。
 以上の結果から、CASTOR1はアルギニンのグアニジノ基、α-アミノ基、側鎖長を組み合わせて認識することで、高い分子特異性を獲得していることが示された。


Fig. 2 CASTOR1によるアルギニン認識の構造基盤


A ACT2とACT4の境界に形成されたアルギニン結合ポケット。アルギニンのグアニジノ基はThr300、Phe301、Phe303およびAsp304によって認識され、α-アミノ基はSer111とVal112によって固定される。 B アルギニン結合ポケットの表面構造。アルギニンは細長いポケット内に収容され、カルボキシ基側には水分子を含む空間が存在する。 C S111AおよびD304A変異体のアルギニン結合解析。両変異体ではアルギニン結合能が失われる。 D S111AおよびD304A変異体の細胞内機能解析。これらの変異体はアルギニン存在下でもGATOR2に結合し、mTORC1を抑制する。 E アルギニン類縁体によるCASTOR1–GATOR2解離試験。カルボキシ基の修飾は許容される一方、グアニジノ基、α-アミノ基、側鎖長を変化させた類縁体は、CASTOR1–GATOR2の解離を誘導しない。

4.アルギニン結合はACTドメイン間の構造を安定化する

4.1 β14-loopがアルギニン結合部位を覆う

 アルギニン結合ポケットの上部には、ACT4に属するβ14-loopが存在していた。このループはGly269からGly280付近に位置するグリシンに富む領域であり、結合したアルギニンを覆うように折りたたまれていた(Fig. 3A)。
 β14-loopは、Gly279とIle280の主鎖アミド基、ならびにGly274とGlu277の主鎖カルボニル基を介して、アルギニンと複数の水素結合を形成していた。これにより、アルギニンは結合ポケット内にほぼ完全に包み込まれた状態になっていた。

4.2 β14-loopはACT2とACT4の相互作用を安定化する

 β14-loopはアルギニンを覆うだけでなく、ACT2との間にも複数の相互作用を形成していた。Cys278はACT2側のVal110およびSer111の主鎖と水素結合を形成し、Asp276はArg126と、Glu277はHis175と、それぞれ塩橋を形成していた(Fig. 3A)。
 これらの相互作用によって、アルギニン存在下ではACT2とACT4の境界が安定化されると考えられた。実際に、β14-loop上のAsp276、Glu277、Cys278、あるいはこれらと相互作用するArg126、His175を置換すると、CASTOR1のアルギニン結合能は低下した(Fig. 3B、C)。
 さらに、CASTOR1のN末端側半分(ACT1–ACT2)と、C末端側半分(ACT3–ACT4)をそれぞれ別のポリペプチドとして発現させたところ、両者はアルギニン依存的に会合した。この会合はβ14-loopの変異によって弱まったことから、アルギニンの結合がβ14-loopを介してACT2とACT4の相互作用を安定化していることが示された(Fig. 3D)。

4.3 CASTOR1とCASTOR2のアルギニン応答の違い

 ヒト細胞にはCASTOR1に類似したCASTOR2も存在するが、CASTOR2はアルギニンに結合しない。両者の配列を比較すると、アルギニン結合部位そのものはよく保存されていた一方で、ACT2とACT4の境界付近には違いが認められた。
 CASTOR1のHis108、His109、Val110をCASTOR2型の配列に置換すると、アルギニン結合能が低下し、アルギニンが存在する条件下でもGATOR2との結合が維持された。これらの残基はSer111の直前に位置し、β14-loopのCys278と相互作用することから、ACT2とACT4の適切な配置に関与していると考えられた。
 以上の結果から、アルギニンの結合はβ14-loopを秩序化し、ACT2とACT4の相互作用を安定化することが示された。この構造変化が、CASTOR1によるアルギニン感知をGATOR2との相互作用の変化へとつなぐ基盤になっていると考えられる。


Fig. 3 β14-loopによるACT2–ACT4界面の安定化


A アルギニン結合部位を覆うβ14-loopの構造。β14-loopはアルギニンと水素結合を形成するとともに、ACT2側の残基と相互作用してACT2–ACT4界面を安定化する。 B β14-loopおよび周辺残基の変異体におけるアルギニン結合解析。Asp276、Glu277、Cys278、Arg126、His175の変異によってアルギニン結合能が低下する。 C β14-loopおよび周辺残基の変異体におけるGATOR2結合解析。これらの変異体は、アルギニン存在下でもGATOR2との結合を維持する。 D CASTOR1のN末端側半分とC末端側半分の会合解析。両者の会合はアルギニンおよびβ14-loopに依存する。

5.構造変化がGATOR2からの解離を引き起こす

5.1 GATOR2結合に必要なCASTOR1残基

 アルギニン結合による構造変化が、どのようにGATOR2からの解離につながるのかを明らかにするため、CASTOR1とGATOR2の相互作用に必要な残基を探索した。その結果、Tyr118、Gln119、Asp121、Glu261、Asp292の5残基が、GATOR2との結合に重要であることが分かった(Fig. 4A)。
 これらの残基を置換した変異体は、アルギニン結合能とホモ二量体形成能をいずれも保持していた。このことから、これらの変異によるGATOR2結合の低下は、CASTOR1全体の構造破綻やアルギニン結合能の喪失によるものではなく、GATOR2との相互作用面が直接損なわれた結果であると考えられた。

5.2 GATOR2結合面はACT2–ACT4界面に位置する

 GATOR2結合に必要な残基は、ACT2とACT4の境界に沿って集まっていた(Fig. 4B、C)。この領域はアルギニン結合ポケットに近接しているものの、ポケットとは反対側の表面に位置していた。
 Glu261とAsp292はβ14-loopに近い位置にあり、Asp121はACT2–ACT4界面の内部に埋もれていた。アルギニンが結合すると、β14-loopが秩序化され、ACT2とACT4の相互作用が強まる。この構造変化によって、GATOR2結合に必要な残基の位置や露出の程度が変化し、CASTOR1とGATOR2の相互作用が不安定になると考えられた。
 以上のことから、アルギニン結合ポケットとGATOR2結合面は別々の領域として機能しながらも、ACT2–ACT4界面の構造変化を介してアロステリックに連結されていると考えられる。

5.3 CASTOR1–GATOR2相互作用はmTORC1抑制に必要である

 CASTOR1がGATOR2との結合を介してmTORC1を抑制するかどうかを検証するため、GATOR2結合能を失ったYQ118–119AA変異体とD121A変異体をHEK-293T細胞に発現させた(Fig. 4D)。これらの変異体は、野生型CASTOR1とは異なり、アルギニン欠乏条件でもmTORC1活性を抑制できなかった。
 さらに、これらの変異体は内在性CASTOR1と二量体を形成し、優性阻害的に作用した。その結果、アルギニンを欠乏させてもmTORC1活性が低下しにくくなった。この結果は、CASTOR1とGATOR2の結合が、アルギニン欠乏の情報をmTORC1へ伝えるために必須であることを示している。
 以上の結果から、アルギニンがCASTOR1に結合すると、β14-loopを介してACT2–ACT4界面が再編成され、GATOR2結合面の構造が変化する。その結果、CASTOR1はGATOR2から解離し、CASTOR1によるGATOR2の抑制が解除されることで、mTORC1の活性化が可能になるというモデルが示された(Fig. 4E)。


Fig. 4 アルギニン結合によるCASTOR1–GATOR2相互作用の解除

A GATOR2との結合に必要なCASTOR1残基の同定。Tyr118、Gln119、Asp121、Glu261、Asp292の変異によってGATOR2結合能が低下する。 B GATOR2結合残基のCASTOR1表面上での配置。これらの残基はACT2–ACT4界面に沿って集まっている。 C アルギニン結合ポケットとGATOR2結合面の位置関係。両者は近接しているが異なる表面に位置し、ACT2–ACT4界面の構造変化を介して連結される。 D GATOR2結合欠損変異体の細胞内機能解析。YQ118–119AAおよびD121A変異体は、アルギニン欠乏時にもmTORC1を抑制できない。 E CASTOR1によるアルギニン感知モデル。アルギニン結合によってACT2–ACT4界面が安定化され、CASTOR1がGATOR2から解離する。これによりCASTOR1によるGATOR2の抑制が解除され、mTORC1の活性化が可能となる。

6.CASTOR1は古いアロステリック機構を利用した栄養センサーである

6.1 アスパラギン酸キナーゼとの構造的類似性

 ACTドメインをもつタンパク質は、配列の多様性が大きい一方で、アミノ酸などの小分子を結合してタンパク質の機能を制御するという共通した特徴をもつ。CASTOR1の立体構造を既知のACTドメイン含有タンパク質と比較したところ、細菌のアスパラギン酸キナーゼがもつアロステリック調節領域と、顕著な構造的類似性を示した(Fig. 5A)。
 アスパラギン酸キナーゼは、リジンなどのアミノ酸生合成経路の初期反応を触媒する酵素であり、最終産物であるリジンが調節領域に結合すると、酵素活性が抑制される。CASTOR1と大腸菌アスパラギン酸キナーゼの調節領域を比較すると、ACTドメインの配置だけでなく、CASTOR1のアルギニン結合ポケットと、アスパラギン酸キナーゼのリジン結合ポケットにも類似性が認められた(Fig. 5B)。

6.2 共通するアロステリック制御機構

 両タンパク質では、アミノ酸がACTドメイン間のポケットに結合し、その結合に伴う構造変化が、離れた機能部位へと伝えられる。アスパラギン酸キナーゼでは、この構造変化が触媒領域を抑制する。一方、CASTOR1では、アルギニン結合による構造変化がGATOR2との相互作用を解除する。
 さらに、アスパラギン酸キナーゼにおいてリジン依存的な酵素阻害に関与する残基は、CASTOR1でGATOR2との結合に必要な残基と、構造上対応する位置に存在していた。これらの類似性から、CASTOR1とアスパラギン酸キナーゼは、アミノ酸の結合を離れた機能部位の制御へと変換する、共通のアロステリック機構を利用していると考えられた。

6.3 CASTOR1の進化モデル

 アスパラギン酸キナーゼは、細菌、古細菌、多くの真核生物に広く存在する一方、後生動物が出現する以前に、その祖先系統から失われたと考えられている。これに対して、CASTOR1の相同タンパク質は主に動物で認められる(Fig. 5C)。
 この系統分布と構造的類似性に基づき、本論文では、CASTOR1が祖先的なアスパラギン酸キナーゼの調節領域に由来するアロステリック機構を利用している可能性を提案している。すなわち、初期の多細胞動物において、mTORC1経路が既存のリジン感知型アロステリック機構を転用し、アルギニン感知へ組み込んだというモデルである(Fig. 5D)。
 ただし、このモデルは構造的類似性と系統分布から導かれた進化仮説であり、CASTOR1がアスパラギン酸キナーゼから直接進化したことを実験的に証明したものではない。本研究は、mTORC1上流のアルギニン感知機構が、より古いアミノ酸依存的アロステリーを利用して成立した可能性を示している。


Fig. 5 CASTOR1によるアルギニン感知機構の進化モデル

A ヒトCASTOR1と大腸菌アスパラギン酸キナーゼの構造比較。CASTOR1は、アスパラギン酸キナーゼのアロステリック調節領域と類似したACTドメイン構造をもつ。 B CASTOR1のアルギニン結合ポケットとアスパラギン酸キナーゼのリジン結合ポケットの比較。両者では、ACTドメイン間でアミノ酸を認識する構造が類似している。 C アスパラギン酸キナーゼとCASTOR1相同タンパク質の系統分布。アスパラギン酸キナーゼは広い生物群に存在する一方、CASTOR1相同タンパク質は動物系統に認められる。D CASTOR1の進化モデル。祖先的なアスパラギン酸キナーゼの調節領域に由来するアロステリック機構が、動物のmTORC1経路に組み込まれ、アルギニン感知へ利用された可能性が示される。

7.結論:CASTOR1はアルギニン結合をmTORC1活性化へ変換する

 本研究では、アルギニン結合型CASTOR1の結晶構造を1.8 Å分解能で決定し、CASTOR1によるアルギニン感知の構造基盤を明らかにした。CASTOR1は4つのACTドメインからなるホモ二量体を形成しており、アルギニンをACT2とACT4の境界にある結合ポケットで認識する。
 アルギニンが結合すると、β14-loopが結合ポケットを覆い、ACT2とACT4の相互作用が安定化される。この構造変化によってGATOR2結合面を構成する残基の配置や露出の程度が変化し、CASTOR1はGATOR2から解離する。その結果、CASTOR1によるGATOR2の抑制が解除され、mTORC1の活性化が可能になる。
 また、CASTOR1は細菌のアスパラギン酸キナーゼの調節領域と構造的に類似していた。このことから、CASTOR1によるアルギニン感知は、より古いアミノ酸依存的アロステリック機構を利用して成立した可能性が示された。
 以上より、本研究は、CASTOR1がアルギニンという栄養情報を受け取り、その結合をGATOR2との相互作用の変化へと変換することで、mTORC1の活性を制御する分子機構を明らかにした。



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