〜 おへその乱読1000本ノック #0081 ~ 寿命を延ばす遺伝子:線虫における age-1 変異の発見
ようこそ、第81回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Friedman and Johnson(1988)による、線虫 Caenorhabditis elegans の age-1 変異と寿命延長に関する古典的論文を取り上げます。
このところの乱読1000本ノックでは、老化研究の分野を切り開いてきたパイオニア的な論文を、あらためて読み直しています。前回は、McCay, Crowell, and Maynard(1935)の研究を通じて、カロリー制限によって成長を遅らせることが、寿命や最終的な体の大きさとどのように関係するのかを見てきました。
今回は、その流れを受けて、老化や寿命が「遺伝子」によってどこまで変わりうるのかを示した初期の研究へ進みます。age-1 変異体は、老化を遺伝学的に扱ううえで重要な出発点となった存在です。
現代では、栄養応答や成長シグナルが寿命制御に深く関わることはよく知られています。しかし、その考え方も最初から現在の形であったわけではありません。今回は、老化が栄養・成長シグナルによって制御されるという理解へ向かう道筋を、古典的な線虫研究の中からたどっていきます。

要旨
本研究では、Caenorhabditis elegans の長寿変異体系統を解析し、MK546 にみられる寿命延長が主として単一の劣性変異によって説明されることを示す。この変異を age-1(hx546) とし、Age 表現型は野生型アリルに対して劣性にふるまう。
age-1(hx546) をもつ線虫では、平均寿命と最大寿命の両方が延長する。MK546 では、20℃で平均寿命が約40%、最大寿命が約60%延長し、25℃では平均寿命が約65%、最大寿命が約110%延長する。また、寿命延長は雌雄同体だけでなく雄にも認められる。
一方で、age-1(hx546) は雌雄同体の自家受精能を大きく低下させる。再分離株の解析では、寿命延長と低自家受精能が共分離し、Age 表現型は fer-15 と強く連鎖する。これにより、age-1 は第II連鎖群上の fer-15 近傍に位置づけられる。
age-1(hx546) は、胚発生、幼虫期の脱皮、繁殖成熟の時期、摂食、運動、行動に明確な異常を示さない。したがって、寿命延長は発生期間の延長や単純な摂食低下だけでは説明されない。age-1 による寿命延長は、老化プログラムの除去というよりも、自家受精能の低下、または未知の代謝的・生理的変化と関連している可能性がある。
1.イントロダクション
1.1 寿命を規定する遺伝的要因
多細胞動物の寿命がどのように遺伝的に規定されているのかは、老化研究における主要な未解決問題である。老化や寿命には種特異的な特徴があり、遺伝型が寿命や老化関連形質に関与することは疑いにくい。一方で、老化に関する分子・生理学的な仮説は多数提案されているものの、それらを直接検証できる実験系は限られている。
老化研究では、老化速度を操作できる実験系が必要である。しかし当時、最大寿命を再現性よく延長する方法として確立していたのは、主に食餌制限であった。したがって、寿命を変化させる変異体を得ることは、老化を制限する遺伝子や生理過程を解析するうえで有用である。
1.2 長寿変異体を用いた老化研究
寿命を延長する変異体を同定できれば、野生型の寿命を制限している遺伝子や過程を調べることができる。とくに、最大寿命を延長する変異体は、単に早期死亡を減らすだけでなく、寿命の上限を決める過程に影響している可能性がある。
これまでにも、ショウジョウバエやヒトの早老症候群など、老化速度の変化に関係するモデルは報告されていた。しかし、老化が促進されたように見える表現型は、正常な老化過程全体を速めているのではなく、一部の老化様特徴を模倣している可能性がある。これに対して、最大寿命を延長する変異体は、野生型の寿命を制限する過程を解析するための手がかりとなる。
1.3 線虫長寿変異体と age-1
Klass and Hirsh * は、Caenorhabditis elegans から複数の長寿変異体系統を単離していた。しかし、それらの系統では dauer 幼虫形成、走化性、摂食低下など、寿命以外の表現型も報告されていた。そのため、寿命延長が老化制御に直接関わる変異によるものなのか、あるいは発生異常や食餌制限様の二次的効果によるものなのかを明らかにする必要があった。
本研究では、これらの長寿系統を用いて、寿命延長形質の遺伝様式を解析する。寿命延長を示す形質を Age 表現型として扱い、この表現型が単一遺伝子として分離するかどうかを検討する。さらに、寿命延長とともに観察される雌雄同体の自家受精能の低下についても解析し、これらの形質がどのように遺伝的に関連するかを調べる。
1.4 本研究で扱う問題
本研究では、長寿表現型が劣性変異として分離すること、またこの変異が雌雄同体の自家受精能低下と共分離することを示す。寿命延長に関わる遺伝子座を age-1 とし、この遺伝子座が fer-15 と連鎖して第II連鎖群に位置することを解析する。
* Klass MR, Hirsh D. (1976) Non-aging developmental variant of Caenorhabditis elegans. Nature 260:523–525.
2.材料と方法
2.1 使用した線虫系統
本研究では、野生型として Caenorhabditis elegans N2 株を用い、比較対象として温度感受性の精子形成変異をもつ DH26 株も用いた。長寿変異体系統としては、Klass and Hirshによって単離された MK7、MK31、MK542、MK546 が用いられた。これらのうち MK31、MK542、MK546 は、寿命延長に関わる変異とともに、fer-15 変異および unc-31 変異をもつ系統として扱われた。ここでは、とくに長寿表現型が明瞭な MK546 を中心に解析を進めた。
2.2 寿命の測定
寿命測定には、同調化した線虫集団を用いた。各遺伝型につき25匹または50匹の線虫を、成虫期初期に液体培地へ移し、一定濃度の E. coli を餌として培養した。線虫は繁殖期には頻繁に移され、その後は不妊になった時点で移動間隔を延ばして管理された。生存、死亡、反応性の低下、bagging、事故死、消失などが記録され、死亡個体は運動性や接触への反応、組織変性などに基づいて判定された。平均寿命は出生時の平均余命として扱われ、最大寿命は観察された最長生存個体の寿命として用いられた。
2.3 自家受精能の測定
雌雄同体の自家受精能は、L4期の個体を新しい培地へ順次移し、産卵が終わるまで追跡することで測定された。産み落とされた卵から孵化した子孫を数え、各系統の産子数を比較した。各測定値は、原則として複数個体から得られた平均値と標準誤差として示された。
2.4 交配と戻し交配による解析
Age 表現型の遺伝様式を調べるため、MK546 と野生型 N2 の交配、およびその後代を用いた戻し交配が行われた。F1 個体や、F1 を MK546 に戻し交配して得た後代集団について寿命を測定し、長寿表現型がどのように分離するかを解析した。この設計により、age-1(hx546) が野生型アリルに対してどのようにふるまうかを集団レベルで検討した(Fig. 3A)。

2.5 近交化再分離株の作製
寿命は個体ごとの遺伝型を直接その場で判定しにくい形質であるため、著者らは F2 個体をただちに評価するのではなく、各F2由来ラインを自家受精によって数世代にわたり近交化した。これにより、ほぼホモ接合化した再分離株を作製し、それぞれのラインについて寿命と自家受精能を測定した。最初の実験では5世代、ほかの実験では10〜15世代の近交化が行われ、96%以上から99.9%以上の近交化が得られたとされる(Fig. 4A)。

2.6 発生タイミングの測定
長寿が発生の遅れによって説明されるかどうかを調べるため、胚発生、幼虫期の脱皮、繁殖成熟の時期も測定された。未孵化卵を処理して同調化し、餌を与えた後の発生過程を追跡した。幼虫脱皮の時期は、咽頭ポンピングが一時的に停止する lethargus を指標として判定され、繁殖成熟は子宮内に受精卵をもつ個体の割合から評価された。
3.長寿変異体系統では平均寿命と最大寿命が延長する
3.1 長寿変異体の寿命測定
Klass and Hirsh によって単離された複数の長寿変異体系統について、本研究の寿命測定条件でも長寿表現型が確認されるかを調べた。Klass and Hirshの報告では、これらの変異体は固形培地上で長寿を示していたが、本研究では液体培地中で一定濃度の E. coli を与える条件を用いて寿命を測定した。
25℃で行った最初の実験では、MK7、MK31、MK546 の平均寿命はいずれも野生型 N2 より有意に長かった。平均寿命は N2 と比較して30〜50%延長し、最大寿命も10〜60%延長した(Fig. 1A)。
3.2 DH26 を対照とした再検討
次に、これらの変異体が単離された背景株である DH26 を対照として、MK7、MK31、MK546 の寿命を再度比較した。DH26 は野生型 N2 と寿命に明確な差を示さない株として扱われる。
この比較でも、3つの変異体系統はいずれも DH26 より有意に長寿であった。平均寿命は DH26 に対して50〜80%延長し、最大寿命は60〜150%延長した(Fig. 1B)。この結果から、本研究の測定条件でも、Klass and Hirsh 由来の長寿変異体系統において平均寿命と最大寿命の延長が確認された。

3.3 MK546 と age-1(hx546) への注目
MK31、MK542、MK546 は、長寿に関わる age-1 変異をもち、さらに unc-31 変異も含む系統であった。また、これらの系統は同じ変異体探索から得られており、変異の独立性は完全には保証されない。そのため、本研究では、長寿表現型が明瞭な MK546 を中心に遺伝学的解析を進めた。
MK546[age-1(hx546) fer-15(b26ts) II; unc-31(z1) IV]では、複数回の寿命測定を通じて、20℃で平均寿命が約40%、最大寿命が約60%延長した。25℃では、平均寿命が約65%、最大寿命が約110%延長した。N2 との戻し交配から得られた TJ401[age-1(hx546) fer-15(b26ts) II; unc-31⁺ IV]でも、平均寿命と最大寿命の延長が認められた(Table 1)。
3.4 雄における寿命延長
age-1(hx546) による寿命延長は、雌雄同体だけでなく雄にも認められた。age-1(hx546) をもつ雄では、野生型と比較して平均寿命および最大寿命が30〜50%延長した(Table 1)。このため、age-1(hx546) による長寿表現型は、雌雄同体に限定されず、雄にも現れる形質として扱われた。

4.age-1 変異は自家受精能を低下させる
4.1 長寿変異体系統における自家受精能の低下
長寿変異体系統では、野生型と比べて適応度が低いことが観察された。そこで、雌雄同体が自家受精によって産生する子孫数を定量した。
MK31、MK542、MK546 では、野生型または DH26 と比較して産子数が有意に低下した。とくに MK546 では、自家受精による産子数が野生型または DH26 の10〜20%程度まで低下した。N2 との戻し交配から得られた TJ401 でも、同様に自家受精能の低下が認められた(Table 2)。

4.2 低自家受精能は age-1(hx546) と関連する
age-1(hx546) をもつ系統では寿命が延長する一方で、自家受精能が大きく低下した。この低下は、MK546 だけでなく TJ401 にも認められたため、unc-31 変異だけによって説明されるものではない。また、低自家受精能は、後に行う再分離株の解析においても Age 表現型とともに扱われる。したがって、本研究では寿命延長と自家受精能低下を、age-1 変異に関連する主要な生命史形質として解析する。
4.3 繁殖期間の長さは大きく変化しない
自家受精能は低下したが、age-1(hx546) によって繁殖可能な期間の長さが大きく変化するわけではなかった。MK546 および TJ401 では、各時期に産生される子孫数は少ないものの、繁殖期間全体の長さは野生型や DH26 と同程度であった(Fig. 5B)。
相対的な産子時期には違いがみられた。MK546 と TJ401 では、総産子数の約80%が雌雄同体の繁殖開始後30時間以内に産生されたのに対し、N2 と DH26 では約60%であった。それでも、age-1 系統と age-1⁺ 系統のいずれにおいても、7日齢以降に少数の子孫が産生された。

4.4 低自家受精能の原因に関する検討
age-1 雌雄同体は、若い野生型雄と交配すると、より多くの子孫を産生できる。この観察は、低自家受精能が生存可能な精子の不足による可能性を示唆する。一方で、直接測定では、age-1 雌雄同体の精子数はほぼ正常であることも示唆された。したがって、この段階では、自家受精能低下の原因は単純な精子数の不足としては説明されず、別の生理的要因が関与する可能性が残された。
5.Age 表現型の安定性と死亡動態
5.1 MK546 にみられる二相性の死亡曲線
MK546 の生存曲線では、初期観察において死亡動態が二相性に見えた。すなわち、一部の個体は比較的早い時期に死亡する一方で、同じ系統内の別の個体はその数倍長く生存した(Fig. 2A)。
この死亡動態は、age-1(hx546) 変異の作用を反映している可能性がある。一方で、MK546 系統の中に遺伝的に異なる複数のサブ集団が存在しており、その混在によって見かけ上二相性の死亡曲線が生じている可能性も考えられた。
5.2 親個体の寿命と子孫集団の寿命の比較
この可能性を検討するため、個々の雌雄同体の寿命と、それぞれの親から得られた子孫集団の平均寿命を比較した。もし MK546 が遺伝的に異なる複数のサブ集団から構成されているなら、長く生きた親の子孫も長寿を示し、早く死亡した親の子孫は短命になると予測される。
親個体を早期死亡群、中間死亡群、晩期死亡群に分け、それぞれの子孫の生存曲線を比較したところ、有意な差は認められなかった(Fig. 2B)。また、個々の親の寿命と、その子孫集団の平均寿命との間にも有意な相関はみられなかった(Fig. 2C)。

5.3 Age 表現型の安定性
これらの結果から、MK546 にみられる死亡時期のばらつきは、少なくとも明確に分離する遺伝的サブ集団の混在によって説明されるものではないと考えられた。したがって、MK546 の長寿表現型は、系統内の遺伝的不均一性ではなく、age-1(hx546) を含む遺伝的背景に伴う安定した表現型として扱われた。
6.Age 表現型は単一の劣性変異として分離する
6.1 戻し交配集団による予備的解析
N2 と MK546 の寿命差が、いくつの変異によって規定されているのかを調べるため、まず MK546、N2、F1 交雑後代、および F1 を MK546 に戻し交配して得た後代集団の寿命を測定した。寿命に関わる遺伝子は個体ごとに直接追跡することが難しいため、各世代の集団としての生存曲線を比較した(Fig. 3)。
N2 雄と MK546 雌雄同体の交配から得た F1 は、age-1(hx546)/age-1⁺ のヘテロ接合体である。この F1 の平均寿命は N2 と有意に異ならず、MK546 より短かった。したがって、age-1(hx546) は野生型アリルに対して劣性にふるまうと判断された(Fig. 3C, Table 3)。
6.2 戻し交配世代における Age 表現型の分離
F1 雄を MK546 に戻し交配して得た B1 世代では、理論上、約半数が age-1(hx546) ホモ接合体となり、残りの約半数が age-1(hx546)/age-1⁺ ヘテロ接合体となる。この予測に対応して、B1 の生存曲線では一部の個体が野生型に近い寿命を示し、別の一部が MK546 に近い長寿を示した(Fig. 3C)。
さらに B1 雄を MK546 に戻し交配して得た B1,1 世代では、約4分の3が age-1(hx546) ホモ接合体、約4分の1がヘテロ接合体になると予測される。実際の生存曲線と平均寿命も、この予測に沿う傾向を示した。B1 の平均寿命は期待値14.9日に対して観察値13.9日、B1,1 の平均寿命は期待値16.0日に対して観察値15.3日であった(Table 3)。

6.3 近交化再分離株を用いた解析
戻し交配集団の結果を確認するため、F2 個体を自家受精によって数世代近交化し、ほぼホモ接合化した再分離株を作製した。この方法では、各ラインを遺伝的に均一な集団として扱いやすくなり、寿命のように個体単位で遺伝型を直接判定しにくい形質を解析しやすくなる(Fig. 4A)。
MK546 と N2 の交配から得た再分離株では、寿命の長い Age 群と、野生型に近い non-Age 群が区別された。第1実験では normal:long-lived が10:3、第2実験では12:7となり、いずれも単一遺伝子モデルと矛盾しなかった。また、MK542 を用いた同様の解析でも、2つの寿命群への分離が認められ、その分離比は単一遺伝子モデルによく適合した(Fig. 4B–D)。
6.4 単一劣性変異としての age-1
戻し交配集団では、F1 が野生型に近い寿命を示し、B1 および B1,1 世代で Age 表現型が予測される割合に近く分離した。さらに、近交化再分離株の解析でも、Age 群と non-Age 群への分離が単一遺伝子モデルに合う形で観察された。
これらの結果から、MK546 にみられる寿命延長は、主として単一の劣性変異によって規定されると考えられた。この寿命延長に関わる遺伝子座を、著者らは age-1 と呼んだ。
7.age-1 は fer-15 近傍に連鎖し、自家受精能低下と共分離する
7.1 Age 表現型と fer-15 の関係
近交化再分離株の解析では、寿命延長を示す Age 群と、野生型に近い寿命を示す non-Age 群が分離した。このとき、Age 表現型を示すラインの多くは fer-15 表現型も示した。fer-15 は第II連鎖群上の遺伝子であるため、この結果は、age-1 が fer-15 と強く連鎖していることを示す。
MK546 と N2 の交配から得た再分離株では、長寿で低自家受精能を示すラインが主に Fer として分離した。MK542 を用いた同様の解析でも、長寿ラインは Fer 表現型と対応していた(Fig. 4B–D)。したがって、age-1 は fer-15 近傍、第II連鎖群上に位置すると考えられた。
7.2 寿命延長と自家受精能低下の共分離
再分離株では、寿命延長と自家受精能低下も対応して分離した。平均寿命が野生型より長いラインでは、自家受精による産子数が低くなる傾向があり、野生型に近い寿命を示すラインでは、自家受精能も高く保たれていた。
この共分離は、age-1(hx546) が寿命延長だけでなく、自家受精能低下にも関与している可能性を示す。少なくとも、本研究で得られた再分離株の解析では、Age 表現型と低自家受精能を明確に切り離すことはできなかった。
7.3 多面発現または密接な連鎖という解釈
寿命延長と自家受精能低下がともに分離することから、著者らは、最も単純な説明として、age-1 変異が両方の形質に影響する可能性を考えた。すなわち、同じ遺伝子変異が、長寿と低自家受精能という複数の表現型をもたらす多面発現として解釈できる。
一方で、寿命延長をもたらす変異と自家受精能低下をもたらす変異が、互いに非常に近くに位置している可能性も残る。本研究の結果は、両者が強く関連して分離することを示すが、この段階では、それらが完全に同一の分子変化によるものかどうかまでは確定しない。
7.4 age-1 の遺伝的位置づけ
再分離株解析により、Age 表現型は fer-15 と強く連鎖し、第II連鎖群上に位置づけられた。また、Age 表現型は低自家受精能と共分離した。これらの結果から、age-1 は、寿命延長をもたらす単一劣性変異として扱われるとともに、生殖に関わる形質とも密接に関連する遺伝子座として解析された。
8.発生タイミングと基本的な生理・行動への影響
8.1 長寿と発生期間の関係
寿命延長は、発生過程の延長によって生じる可能性がある。線虫では、dauer 幼虫やその他の幼虫期で発生期間が延びると、その分だけ平均寿命が延長することが知られていた。したがって、Age 系統の長寿が発生期の遅れによって説明されるのかを調べる必要があった。
この点を検討するため、胚発生の長さ、各幼虫期の脱皮時期、繁殖成熟の時期を比較した。結果として、Age 系統では、胚発生、幼虫期、繁殖成熟のいずれにも明確な延長は認められなかった(Fig. 5A)。
8.2 繁殖成熟時期の変化
繁殖成熟の時期については、Klass の報告と同様にわずかな変化が観察された。しかし、その変化は小さく、age-1 と共分離しなかった。そのため、著者らは、繁殖成熟時期のわずかな差を age-1(hx546) による寿命延長の主要な原因とは扱わなかった。
8.3 運動・行動表現型との関係
もとの Age 変異体系統である MK31、MK542、MK546 には、運動や行動の変化が観察された。これらの系統は通常の移動では鈍い動きを示したが、接触刺激や飢餓条件ではよく動いた。この行動変化は、age-1 ではなく、第IV連鎖群上の unc-31 変異によるものとして扱われた。
また、後の再分離株では、age-1 をもつ系統でも正常な行動や走化性を示しうることが述べられている。したがって、もとの変異体系統でみられた運動・行動異常は、age-1 による長寿表現型そのものとは切り分けて考えられた。
8.4 摂食低下との関係
Klass and Hirsh は、MK546 の長寿を摂食低下によるものと解釈していた。しかし、本研究では、変異体系統における摂食率の低下は再現されなかった。著者らは、摂食低下を age-1 による寿命延長の直接的な説明とはせず、むしろ予備的な観察として、age-1 変異体では代謝率が低下している可能性に言及した。
以上の結果から、age-1(hx546) による寿命延長は、発生期間の延長、dauer 様の発生停止、摂食低下、または unc-31 に由来する運動・行動異常だけでは説明されないものとして整理された。
9.考察
9.1 age-1 変異体では最大寿命も延長する
Klass and Hirshが単離した長寿変異体系統について、本研究では平均寿命だけでなく最大寿命の延長も確認した。MK546 では、20℃と25℃のいずれでも平均寿命と最大寿命が延長し、age-1(hx546) をもつ雄でも寿命延長が認められた。
したがって、age-1(hx546) による寿命延長は、特定の測定条件や雌雄同体だけに限られたものではなく、複数の環境条件と性において観察される表現型として扱われる。長寿は、全体の死亡時期が遅れるだけでなく、すべての暦年齢における生存確率の上昇として現れ、最大寿命の延長も伴う。
9.2 長寿は発生期間の延長では説明されない
age-1 系統では、胚発生、幼虫期の脱皮、繁殖成熟の時期に大きな変化は認められなかった。繁殖成熟時期にはわずかな差がみられたが、その変化は小さく、age-1 と共分離しなかった。
このため、age-1(hx546) による寿命延長は、発生期間の延長や dauer 様の発生停止によって生じたものではないと考えられた。また、もとの変異体系統でみられた運動・行動の変化は unc-31 変異に由来し、age-1 による長寿表現型とは切り分けられた。Klass and Hirsh が報告した摂食低下も本研究では再現されず、寿命延長を単純な食餌制限様の効果として説明することはできなかった。
9.3 寿命延長は単一劣性変異 age-1 によって規定される
本研究では、MK546 の長寿表現型が単一の劣性変異によって主に説明されることを、複数の遺伝学的解析から示した。F1 では寿命が野生型に近く、戻し交配世代では Age 個体と non-Age 個体が予測される割合に近く分離した。また、F2由来ラインを近交化した再分離株の解析でも、寿命の長い群と野生型に近い群が分離した。
さらに、Age 表現型は fer-15 と強く連鎖し、第II連鎖群上に位置づけられた。これらの結果から、寿命延長をもたらす遺伝子座を age-1 とし、age-1(hx546) を単一劣性変異として扱った。
9.4 寿命延長と自家受精能低下の関係
age-1(hx546) は寿命を延長する一方で、雌雄同体の自家受精能を低下させた。長寿系統では自家受精による産子数が減少し、再分離株でも Age 表現型と低自家受精能が共分離した。独立に分離するという予測からは大きく外れており、著者らは、寿命延長と自家受精能低下が同じ変異による多面発現である可能性を最も単純な説明として扱った。
ただし、この時点では、寿命延長と低自家受精能が完全に同じ分子変化によるものか、あるいは非常に近接した別の変異によるものかは確定していない。また、低自家受精能は単なる精子数の不足だけでは説明されず、繁殖や生理状態に関わる別の要因が関与する可能性が残された。
9.5 age-1 の作用に関する慎重な解釈
age-1(hx546) は、よく特徴づけられた遺伝子座の変異によって寿命が延長する例として位置づけられる。一方で、著者らは、この変異が老化プログラムを取り除いたと解釈することには慎重である。
age-1 による寿命延長は、自家受精能の低下、あるいは未知の代謝的・生理的変化に由来する可能性がある。したがって、本研究では、age-1 を老化そのものを単純に止める遺伝子としてではなく、寿命を制限する生理過程に影響しうる遺伝子座として扱った。
10.結論
10.1 age-1(hx546) は寿命を延長する劣性変異である
本研究では、Caenorhabditis elegans の長寿変異体系統を解析し、MK546 にみられる寿命延長が主として単一の劣性変異によって説明されることを示した。この変異を age-1(hx546) とし、Age 表現型は野生型アリルに対して劣性にふるまった。
age-1(hx546) をもつ系統では、平均寿命だけでなく最大寿命も延長した。この寿命延長は、雌雄同体だけでなく雄にも認められ、複数の測定条件で確認された。
10.2 長寿は発生遅延や摂食低下だけでは説明されない
age-1(hx546) 変異体では、胚発生、幼虫期の脱皮、繁殖成熟の時期に大きな変化はみられなかった。また、もとの変異体系統で観察された運動・行動の異常は unc-31 変異によるものとして切り分けられた。
Klass and Hirsh が示唆した摂食低下も本研究では再現されず、age-1 による寿命延長は、単純な発生期間の延長や食餌制限様の効果だけでは説明されないものとして扱われた。
10.3 寿命延長は自家受精能低下と関連する
age-1(hx546) をもつ系統では、寿命が延びる一方で、雌雄同体の自家受精能が大きく低下した。再分離株の解析でも、Age 表現型と低自家受精能は共分離し、Age 株は多くの場合 fer-15 と連鎖して分離した。
この結果から、age-1 は fer-15 近傍の第II連鎖群上に位置づけられた。寿命延長と低自家受精能の関係については、同じ変異による多面発現が最も単純な説明として提示されたが、非常に近接した別の変異による可能性も完全には排除されなかった。
10.4 age-1 は寿命を制限する生理過程を探る手がかりとなる
age-1(hx546) は、よく特徴づけられた遺伝子座の変異によって寿命が延長する例として示された。ただし、著者らは、この変異が老化プログラムそのものを取り除いたと解釈することには慎重であった。
age-1 による寿命延長は、自家受精能の低下、または未知の代謝的・生理的変化と関連している可能性がある。したがって、本研究は、線虫の寿命を制限する遺伝的・生理的過程を解析するための基盤として、age-1 変異を位置づけるものである。
エピローグ:age-1 研究のその後
Friedman and Johnson(1988)では、age-1(hx546) は寿命延長をもたらす単一劣性変異として同定された。しかし、この時点では age-1 の分子実体は明らかではなく、寿命延長の機構についても、自家受精能の低下または未知の代謝的・生理的変化が関与する可能性として整理されていた。
その後の研究により、age-1 はホスファチジルイノシトール3キナーゼ、すなわち PI3キナーゼをコードする遺伝子であることが明らかにされた。これにより、age-1 は単独で寿命を規定する遺伝子ではなく、栄養状態や成長シグナルを細胞内へ伝えるシグナル伝達経路の構成因子として位置づけられた。
さらに、線虫の寿命制御には、インスリン/IGF-1様受容体をコードする daf-2(乱0054参照)、転写因子 daf-16/FOXO、およびその間をつなぐ複数のシグナル伝達因子が関与することが示された。age-1 はこの経路の中で、daf-2 の下流に位置する PI3キナーゼとして機能し、daf-16/FOXO を介した遺伝子発現制御と関連づけられるようになった。
この展開により、寿命は単一の長寿遺伝子によって決まる形質ではなく、栄養応答、成長制御、代謝、ストレス抵抗性、生殖を結びつける遺伝的ネットワークによって調節される形質として理解されるようになった。Friedman and Johnson(1988)による age-1 の解析は、その後のインスリン/IGF-1様シグナル伝達系を中心とする寿命制御研究へつながる出発点の一つとなった。
したがって、age-1 の発見は、老化を単なる時間依存的な機能低下としてではなく、遺伝子とシグナル伝達によって制御されうる生物学的過程として解析する基盤を与えた。線虫で見いだされたこの長寿変異は、老化の分子遺伝学を成立させるうえで重要な位置を占める。

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