〜 おへその乱読1000本ノック #0132 ~ 低タンパク質食はFGF21を介して脂肪組織の老化関連変化を抑える
第132回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
加齢とともに、脂肪組織では細胞の働きが低下し、炎症や代謝異常が起こりやすくなります。こうした変化は肥満によってさらに強まり、全身の代謝機能にも影響します。
近年、食事中のタンパク質量が、FGF21というホルモンを介して代謝や老化に関わることが注目されています。低タンパク質食は、単に摂取栄養素を減らすだけでなく、全身の代謝応答を変化させる食事介入として研究されています。
Godoy-Lugoら(2025)は、低タンパク質食とFGF21に注目し、加齢や肥満に伴う脂肪組織の変化との関係を検討しました。本研究は、栄養、内分泌シグナル、脂肪組織老化をつなぐ研究です。

要旨
加齢や肥満に伴って脂肪組織では細胞老化や炎症が進み、代謝機能が低下する。食事性タンパク質制限は、カロリー摂取量を減らすことなく代謝ホルモンFGF21を誘導し、加齢に伴う代謝機能低下を改善することが知られている。本研究では、低タンパク質食が脂肪組織の老化関連変化に及ぼす影響と、その作用におけるFGF21の役割を検討した。
雄マウスに通常タンパク質食または低タンパク質食を与え、加齢および高脂肪食による肥満条件で、皮下白色脂肪組織(iWAT)、内臓白色脂肪組織(eWAT)、褐色脂肪組織(BAT)を解析した。さらにFgf21欠損マウスを用いて、低タンパク質食による脂肪組織応答のFGF21依存性を検証した。
低タンパク質食は血中FGF21およびアディポネクチンを増加させ、加齢や肥満条件でも代謝状態を改善した。また、脂肪組織ではSASP、Cdkn1a、SA-β-galなどの細胞老化関連指標や炎症・腫瘍関連シグネチャーが低下し、その変化は脂肪組織の部位によって異なっていた。
Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食による脂肪組織の改善効果の多くが失われた。以上より、食事性タンパク質制限はFGF21を介して白色・褐色脂肪組織の転写・代謝状態を再構築し、加齢や肥満に伴う老化関連応答を抑制することが示された。
1.イントロダクション:低タンパク質食とFGF21が脂肪組織老化をつなぐ
加齢と肥満は脂肪組織に慢性炎症をもたらし、細胞老化を促進する。老化細胞(SnCs)は不可逆的な細胞周期停止を特徴とし、SA-β-gal活性の上昇や、サイトカイン・ケモカイン・マトリックス分解酵素・増殖因子などからなる老化関連分泌形質(SASP)を示す。老化細胞と炎症環境の蓄積は新たな脂肪細胞の形成を妨げ、脂肪組織の機能や全身の代謝健全性を損なう。
こうした加齢性変化への介入として、食事療法が注目されている。カロリー制限や断食模倣食に加え、食事性タンパク質制限(DPR)はエネルギー摂取量を減らさずに健康寿命や寿命の改善と関連することが示されている。しかし、カロリー制限と比べ、DPRが老化細胞や脂肪組織の老化関連変化に与える影響については知見が乏しい。
タンパク質・アミノ酸制限は、mTOR、GCN2、AMPK、オートファジーなど細胞内の栄養感知経路を変化させる。加えて、低タンパク質食下では肝臓由来の内分泌ホルモンFGF21が全身性シグナルとして重要な役割を果たす。FGF21はFGF受容体と共受容体β-Klothoを介して標的組織に作用し、エネルギー消費、糖代謝、脂肪組織機能を調節する。若齢マウスでは、FGF21欠損によりタンパク質制限への適応的代謝応答が失われることが報告されている。
そこで本研究では、低タンパク質食によって増加するFGF21が、加齢・肥満に伴う脂肪組織の老化関連変化を抑制するという仮説を立てた。皮下白色脂肪組織、内臓白色脂肪組織、褐色脂肪組織を対象に、細胞周期停止関連遺伝子、SA-β-gal、SASP関連因子などを解析するとともに、Fgf21欠損マウスを用いてそのFGF21依存性を検証した。
2.研究デザイン:加齢・肥満・FGF21欠損を組み合わせて低タンパク質食の作用を検証する
2.1 3つのマウスコホートで低タンパク質食の効果を検証する
本研究では、低タンパク質食が加齢・肥満に伴う代謝変化と脂肪組織老化に与える影響を調べるとともに、その作用にFGF21が必要かを検証するため、雄マウスを用いた3つのコホートを組み合わせた。
第1のコホートでは、3か月齢のC57BL/6マウスを通常タンパク質食(CON)、低タンパク質食(LP)、高脂肪通常タンパク質食(HFCON)、高脂肪低タンパク質食(HFLP)の4群に分け、10か月齢まで飼育した(補足図1A)。体重を継続的に測定し、終了前に体組成と糖代謝を評価したうえで血清・脂肪組織を採取し、比較的若い時期から低タンパク質食を開始した場合の代謝応答と脂肪組織の老化関連変化を評価した。

補足図1 早期中年期から開始した低タンパク質食による代謝表現型の変化
A:3か月齢の雄C57BL/6マウスをCON、LP、HFCON、HFLPの4群に分け、10か月齢まで飼育した実験スケジュール。B:食餌介入開始後の体重増加量の推移。C:10か月齢時の最終体重増加量。D:脂肪量の増加。E:除脂肪量の増加。F:9か月齢時の空腹時血糖値。G:9か月齢時のGTT。H:GTTの血糖曲線下面積(AUC)。I:血清FGF21濃度。J:血清アディポネクチン濃度。
第2のコホートでは、16か月齢のC57BL/6マウスを同じ4種類の食餌群に分け、22か月齢まで約6か月間介入した(図1A)。体重・体組成を追跡し、空腹時血糖とGTTで糖代謝を評価するとともに、終了時に血清FGF21とアディポネクチンを測定し、高齢期からの低タンパク質食で代謝改善が得られるかを検証した。

図1 高齢期から開始した低タンパク質食による代謝表現型の変化
A:16か月齢の雄C57BL/6マウスをCON、LP、HFCON、HFLPの4群に分け、22か月齢まで飼育した実験スケジュール。B:食餌介入開始後の体重増加量の推移。C:22か月齢時の最終体重増加量。D:脂肪量の増加。E:除脂肪量の増加。F:21か月齢時の空腹時血糖値。G:21か月齢時のGTT。H:GTTのAUC。I:22か月齢時の血清FGF21濃度。J:22か月齢時の血清アディポネクチン濃度。
第3のコホートでは、低タンパク質食による脂肪組織応答のFGF21依存性を検証した。野生型マウスと全身性Fgf21欠損マウスに3か月齢から22か月齢までCONまたはLPを与え、22か月齢時に皮下白色脂肪組織(iWAT)、内臓白色脂肪組織(eWAT)、褐色脂肪組織(BAT)などを採取し、低タンパク質食による変化のうちFGF21に依存する応答を解析した(補足図4.1A)。

補足図4.1 低タンパク質食による白色脂肪組織の遺伝子発現変化とFGF21依存性
A:野生型およびFgf21欠損マウスに3か月齢から22か月齢までCONまたはLPを与え、iWAT、eWAT、BATを採取した実験デザイン。B:iWATにおけるCcl2およびCd68の発現。C:iWATにおけるCdkn1aの発現。D:iWATにおけるCdkn2aの発現。E:iWATにおけるTrp53の発現。F:eWATにおけるCcl2およびCcr2の発現。G:eWATにおけるCd206およびPnpla2の発現。
実験食のタンパク質量はカゼイン量で調整し、通常タンパク質食には20% casein、低タンパク質食には5% caseinを用いた。エネルギー比では、通常脂肪条件のCONとLPでタンパク質18%と4%、炭水化物60%と74%、脂肪22%、高脂肪条件のHFCONとHFLPではタンパク質18%と4%、炭水化物24%と37%、脂肪59%であった。すなわち、タンパク質を減らした分を主に炭水化物で補うことで、脂肪量を一定に保ちながら食餌を調整している(補足表1)。したがって本研究は、カロリー制限ではなく、タンパク質を炭水化物と置換する食事性タンパク質制限の影響を検討する設計である。

2.2 代謝表現型から脂肪組織トランスクリプトームまで多層的に解析する
低タンパク質食の作用は、個体レベルの代謝表現型と脂肪組織レベルの分子変化の両面から評価した。個体レベルでは体重・体組成を測定し、16時間絶食後の空腹時血糖と腹腔内グルコース投与によるGTTで糖代謝を評価した。血清FGF21とアディポネクチンはELISAで測定した。
脂肪組織では、iWATとeWATを中心に、炎症・免疫応答、細胞周期停止、細胞外マトリックス再構築、老化関連変化に関わる遺伝子をリアルタイムPCRで解析した。対象にはIl6、Il1a、Il1b、Ccl2、Timp1、Mmp3、Mmp12、Cdkn1a、Cdkn2a、Glb1などが含まれる。
また、老化関連変化を別の指標から評価するためSA-β-gal活性を測定した。さらに、iWAT、eWAT、BATについてbulk RNA-seqを行い、低タンパク質食およびFgf21欠損による転写変化を網羅的に解析した。DESeq2で差次的発現遺伝子を抽出し、Gene OntologyおよびKEGGを用いたPGSEAにより代謝、炎症、細胞老化、熱産生に関連する経路の変化を評価したうえで、主要な差次的発現遺伝子をヒートマップとして可視化した。
このように本研究では、体重や糖代謝といった全身性表現型から、血中ホルモン、老化・炎症関連遺伝子、SA-β-gal、脂肪組織全体の転写プログラムまでを段階的に解析している。さらにFgf21欠損マウスを組み合わせることで、低タンパク質食による脂肪組織の変化を記述するだけでなく、そのFGF21依存性まで検証できる設計とした。
3.低タンパク質食は高齢期や肥満条件でも代謝状態を改善する
3.1 高齢期からの低タンパク質食でも体重・脂肪蓄積が抑制される
16か月齢から22か月齢まで低タンパク質食を与えた高齢マウスでは、LP群でCON群より体重増加が抑制された(図1B、C)。高脂肪条件でもHFLP群は18か月齢頃からHFCON群の体重増加曲線から乖離し、22か月齢ではHFCON群より体重増加が小さかった。
体組成では、LP群で脂肪量の増加が抑制され、高脂肪条件でもHFLP群はHFCON群より脂肪蓄積が少なかった(図1D)。一方、通常脂肪条件ではLP群の除脂肪量はCON群と大きく変わらなかった(図1E)。早期中年群でもLP群・HFLP群で体重増加は抑制されたが、HFLP群の脂肪量はHFCON群と有意差がなく、除脂肪量もLP群・HFLP群で低下していた(補足図1B–E)。したがって、低タンパク質食の体組成への影響は年齢や食餌条件によって異なる。
3.2 低タンパク質食は加齢・肥満に伴う糖代謝悪化を改善する
高齢マウスでは、LP群・HFLP群で空腹時血糖が低下し(図1F)、GTTでも血糖クリアランスが改善した(図1G、H)。特にHFLP群ではAUCがCON群と同程度まで低下した一方、HFCON群では糖クリアランスが悪化していた。低タンパク質食は、高脂肪食に伴う糖代謝障害を大きく緩和したと考えられる。
同様の糖代謝改善は早期中年群でも認められた(補足図1F–H)。したがって、低タンパク質食による糖代謝改善は、高齢期からの介入や高脂肪食条件でも維持される。
3.3 FGF21とアディポネクチンの上昇は高齢・肥満条件でも維持される
低タンパク質食は、高齢群・早期中年群の双方で血清FGF21を増加させた(図1I、補足図1I)。アディポネクチンもLP群・HFLP群で上昇し、HFCON群でみられた低下を抑えた(図1J、補足図1J)。
以上より、低タンパク質食は高齢期から開始しても、体重・脂肪蓄積を抑え、糖代謝を改善するとともにFGF21とアディポネクチンを増加させる。これらの応答は高脂肪食条件でも認められ、低タンパク質食に対する代謝・内分泌応答は加齢によって失われない。
4.低タンパク質食は白色脂肪組織の老化関連変化を抑える
4.1 皮下白色脂肪組織では老化・炎症関連応答が選択的に低下する
22か月齢のiWATでは、Il6、Il1a、Il1b、Icam1に食餌による明確な変化はなかったが、LP群ではマクロファージ動員に関わるCcl2が低下した(図2A–E)。高脂肪食では細胞外マトリックス再構築関連遺伝子(Timp1、Mmp3、Mmp12)が増加したが、タンパク質量の影響は限定的だった(図2F)。細胞周期停止関連では、Cdkn1aがLP群・HFLP群で低下した一方、Cdkn2aとTrp53に変化はなかった(図2G)。
RNA-seqでは、高脂肪食で癌関連シグナルが強まったのに対し、HFLP群はHFCON群と比べて一部の腫瘍関連遺伝子が低下し、細胞周期制御やゲノム維持に関わる遺伝子は相対的に高かった(図2H、I)。つまりiWATでは、低タンパク質食が炎症指標を一様に下げるのではなく、Ccl2、Cdkn1a、癌関連転写シグネチャーなど特定の応答を選択的に抑えると考えられる。

図2 低タンパク質食による高齢iWATの老化関連マーカーと癌関連転写シグネチャーの変化
A:Il6。B:Il1a。C:Il1b。D:Ccl2およびCxcl10。E:Icam1。F:Timp1、Mmp3、Mmp12。G:Cdkn1a、Cdkn2a、Trp53。H:bulk RNA-seqを用いた癌関連シグナルのPGSEA解析。I:HFCON群とHFLP群の癌関連差次的発現遺伝子のヒートマップ。
4.2 内臓白色脂肪組織では複数の老化関連指標が低下する
eWATでは、22か月齢で高脂肪食によりTimp1とCcl2が増加したが、LP群ではCcl2が低下した(図3A、B)。さらにLP群・HFLP群では、Cdkn1a、Cdkn2a、Glb1など複数の老化関連遺伝子が低下した(図3C–E)。SA-β-gal染色でもLP群で染色が弱く、遺伝子発現以外の指標からも老化関連変化の減少が確認された(図3F)。
RNA-seqでも、高脂肪食で癌関連経路が強く認められた。LP群はCON群と比べて老化・癌関連遺伝子の一部が低下し、HFLP群もHFCON群に比べてMyb、Bcl11b、Kit、Slc45a3などのプロオンコジェニックなシグネチャーが低下した(図3G–J)。このようにeWATでは、iWATよりも細胞周期停止、Glb1、SA-β-gal、癌関連転写シグネチャーまで広範囲に低タンパク質食の影響が認められた。

図3 低タンパク質食による高齢eWATの老化関連マーカーと癌関連転写シグネチャーの変化
A:Timp1。B:Ccl2。C:Cdkn1a。D:Cdkn2a。E:Glb1。F:eWAT組織片のSA-β-gal染色。G:bulk RNA-seqを用いた癌関連シグナルのPGSEA解析。H:CON群とLP群の癌関連差次的発現遺伝子。I:HFCON群とHFLP群の癌関連差次的発現遺伝子。J:通常タンパク質条件と高脂肪通常タンパク質条件で異なる癌関連遺伝子群のヒートマップ。
4.3 低タンパク質食の効果は年齢と脂肪組織部位によって異なる
10か月齢の早期中年群でも、iWATではCcl2、Mmp3、Cdkn1a、Glb1などが低タンパク質食で低下し、eWATでもTimp1やCdkn1aなどに変化がみられた(補足図2)。一方、Il6、Il1a、Il1b、Icam1や一部のGlb1は変化せず、効果はすべてのマーカーに共通するわけではなかった。

補足図2 早期中年期のiWATおよびeWATにおける老化関連マーカーの変化
A:iWATのIl6。B:Il1a。C:Il1b。D:Icam1。E:Ccl2およびCxcl10。F:Timp1、Mmp3、Mmp12。G:Cdkn2a、Trp53、Cdkn1a。H:Glb1。I:eWATのCcl2。J:Timp1。K:Cdkn2a。L:Cdkn1a。M:Glb1。
以上より、低タンパク質食は白色脂肪組織の老化関連変化を抑えるが、その作用は一様ではない。iWATではCcl2やCdkn1aなど特定の指標への影響が目立つ一方、eWATでは細胞周期停止、Glb1、SA-β-gal、癌関連転写シグネチャーまで広範な変化が認められた。低タンパク質食への応答は、年齢と脂肪組織デポによって異なるといえる。
5.FGF21は低タンパク質食による白色脂肪組織リモデリングを支える
5.1 FGF21欠損により抗炎症・脂質代謝応答が弱まる
低タンパク質食が白色脂肪組織に及ぼす影響がFGF21依存的かを検証するため、22か月齢の野生型マウスとFgf21欠損マウスを比較した。iWATでは、LPによるCdkn1aの低下がFGF21欠損下でも部分的に維持され、すべての応答がFGF21に依存するわけではなかった(補足図4.1C)。一方eWATでは、LPによるCcl2の低下、抗炎症性マクロファージマーカーCd206および脂肪分解酵素Pnpla2の増加がFGF21依存的であった(補足図4.1E–G)。
以上より、FGF21は低タンパク質食による脂肪組織応答の一部のみを担うが、特にeWATの炎症抑制・脂質代謝制御において重要な役割を果たすと考えられる。
5.2 FGF21はiWATの熱産生・脂質代謝プログラムを再構築する
次にbulk RNA-seqにより、低タンパク質食による転写変化のFGF21依存性を検討した。iWATでは野生型LP群で食事誘導性熱産生経路が選択的に亢進し(図4B)、Ucp1、Cox7a1、Fabp3、Elovl3、Elovl6など熱産生・TCA回路・脂肪酸代謝関連遺伝子が増加した(図4C)。これらの変化はFgf21欠損マウスで減弱しており、FGF21がiWATの代謝的リモデリングに重要であることが示された(図4D)。

図4 低タンパク質食による白色脂肪組織のFGF21依存的転写リモデリング
A:3か月齢から22か月齢までCONまたはLPを与えた野生型およびFgf21欠損マウスからiWAT、eWAT、BATを採取した実験デザイン。B:iWATにおけるGO Biological ProcessのPGSEA解析。C:野生型CON群とLP群のiWATにおける主要な差次的発現遺伝子。D:野生型LP群とFgf21欠損LP群のiWATにおける主要な差次的発現遺伝子。E:eWATにおけるGO Biological ProcessのPGSEA解析。F:野生型CON群とLP群のeWATにおける主要な差次的発現遺伝子。G:野生型LP群とFgf21欠損LP群のeWATにおける主要な差次的発現遺伝子。
5.3 FGF21はeWATの炎症・免疫プログラムを再構築する
eWATでは、野生型LP群でIL-1産生やB細胞分化などの免疫関連経路が低下した(図4E)。また、Timp1、Hmga2、Gdf15、Lilrb4bなど炎症・SASP関連遺伝子が低下し、Nrg4、Cyp2e1、Hsd11b1など脂質代謝・インスリンシグナル・シトクロム関連遺伝子が増加した(図4F)。これらの変化もFgf21欠損マウスで減弱し、eWATの転写リモデリングにおけるFGF21の重要性が確認された(図4G)。
iWATとeWATを比較すると、FGF21依存的応答の性質は組織間で異なっていた。iWATでは熱産生・脂質代謝プログラムの活性化が主体であるのに対し、eWATでは炎症・免疫プログラムの抑制が中心であった。すなわちFGF21は脂肪組織全体に均一に作用するのではなく、脂肪デポごとに異なる転写プログラムを制御していると考えられる。
6.低タンパク質食とFGF21は褐色脂肪組織の転写プログラムも再構築する
6.1 BATの転写応答はFGF21の有無によって大きく異なる
22か月齢のBATについても、低タンパク質食による転写変化とそのFGF21依存性をbulk RNA-seqで検討した。PGSEA解析では、脂質貯蔵、心臓伝導、ホルモン分泌、物質輸送など複数の生物学的過程が、食餌条件だけでなくFgf21欠損の影響を強く受けていた(図5A)。このことから、BATにおける低タンパク質食応答にもFGF21が深く関与していると考えられる。
6.2 低タンパク質食は神経・血管・熱産生関連遺伝子を再構築する
野生型BATでは、LPによってGrip1、Bmp8b、Gabbr2など神経細胞間の情報伝達や末梢血管系に関わる遺伝子が増加し、Pon1、Eci3、Hddc3、Serpina1e、Apoc4など酸化ストレス・脂質毒性関連遺伝子が低下した(図5B)。これらの変化はFgf21欠損マウスでは異なるパターンを示し、FGF21がBATの転写リモデリングを支えることが示された(図5C)。

図5 低タンパク質食によるBATのFGF21依存的転写リモデリング
A:BATにおけるGO Biological ProcessのPGSEA解析。B:野生型CON群とLP群の主要な差次的発現遺伝子。C:野生型LP群とFgf21欠損LP群の主要な差次的発現遺伝子。
とくにBmp8bは褐色脂肪組織のエネルギー恒常性・熱産生に関わる因子であり、LPによって発現が増加した。論文ではこの結果を、低タンパク質食がBATの熱産生関連経路を再構築し、その過程にFGF21が必要であることを示すものと解釈している。
ただし、本研究でBATについて直接測定したのは遺伝子発現と経路解析であり、熱産生能やエネルギー消費そのものは直接評価していない。したがって、ここで示されたのは低タンパク質食とFGF21による熱産生・神経血管関連転写プログラムの再構築であると捉えるのが適切である。
7.低タンパク質食への応答は脂肪組織デポごとに異なる
7.1 低タンパク質食は脂肪組織を一様には変化させない
本研究では、iWAT、eWAT、BATのいずれにおいても低タンパク質食による転写変化が認められたが、その内容は脂肪組織デポごとに異なっていた。iWATでは熱産生・脂質代謝プログラムの活性化、eWATでは炎症・免疫関連遺伝子およびSASP関連遺伝子の低下、BATでは熱産生・神経血管関連プログラムの変化が目立った。したがって低タンパク質食は、脂肪組織全体に単一の応答を誘導するのではなく、各デポの機能的特性に応じて異なる転写プログラムを再構築すると考えられる。
老化関連指標についても同様の傾向がみられた。iWATではCcl2やCdkn1aなど一部の指標が低下したのに対し、eWATではCdkn1a、Cdkn2a、Glb1、SA-β-gal、SASP関連遺伝子まで、より広範な変化が認められた。すなわち低タンパク質食による老化関連応答の抑制は、脂肪組織の部位によって異なる。
7.2 FGF21はデポ特異的な適応をつなぐ全身性シグナルである
低タンパク質食により血中FGF21が増加し、その下流でiWAT、eWAT、BATそれぞれに異なる転写応答が生じた。Fgf21欠損によってこれらの変化の多くが減弱したことから、FGF21は低タンパク質食による脂肪組織リモデリングを仲介する重要な全身性シグナルと位置づけられる。一方、iWATのCdkn1a低下などFGF21欠損下でも維持される応答もあり、すべての作用をFGF21のみで説明できるわけではない。
以上より、本研究が示す重要な点は、低タンパク質食が単に脂肪量を減らすのではなく、FGF21を介して脂肪組織ごとに異なる代謝・炎症・老化関連プログラムを再構築することである。こうしたデポ特異的な適応は、高齢期や肥満条件においても認められた全身の代謝改善と関連していると考えられる。
8.限界と結論:低タンパク質食はFGF21を介して脂肪組織老化を調節する
8.1 本研究にはモデルと介入条件の限界がある
本研究にはいくつかの限界がある。使用したマウスは主にC57BL/6系統の雄に限られ、遺伝的背景や性差によって低タンパク質食への応答が異なる可能性がある。また、タンパク質制限は5%カゼインという単一条件で検討され、FGF21の役割も全身性Fgf21欠損モデルで評価された。そのため、異なるタンパク質量やアミノ酸組成、組織特異的なFGF21シグナルについては今後の検討が必要である。
さらに、本研究の中心はマウス脂肪組織の遺伝子発現と老化関連指標であり、ヒトへの外挿には慎重さが求められる。ヒトでもタンパク質制限による脂肪組織変化は報告されているが、長期的な老化抑制効果やFGF21依存性は確立していない。
8.2 低タンパク質食は脂肪組織ごとに異なる老化・代謝応答を再構築する
本研究では、低タンパク質食が高齢期や肥満条件下でも代謝状態を改善し、白色脂肪組織における細胞周期停止、SASP、炎症、癌関連シグネチャーなど複数の老化関連指標を低下させることが示された。その作用はiWAT、eWAT、BATで一様ではなく、それぞれ異なる代謝・炎症・熱産生関連の転写プログラムとして現れた。
これらの変化の多くにFGF21が関与していたが、一部の応答はFgf21欠損下でも維持された。したがってFGF21は、低タンパク質食による脂肪組織リモデリングの中心的な全身性シグナルである一方、その作用のみで全体を説明することはできない。
以上より、低タンパク質食は単なる体重減少をもたらす介入ではなく、FGF21を介して脂肪組織の代謝・炎症・老化関連プログラムをデポ特異的に再構築する食事介入であると考えられる。本研究は、栄養環境と内分泌シグナルが脂肪組織老化を結びつける分子基盤の一端を示すものである。
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