〜 おへその乱読1000本ノック #0023 〜 膝軟骨損傷治療の最前線2024:ヒアルロン酸から再生医療へ
第23回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
前回取り上げた論文では、部分的リプログラミングによって視神経が若返り、失われた視力が回復する可能性が示されました。老化は不可逆であるという常識が、静かに揺らぐような研究でした。
ではこの発想を、今度は他の身近な組織に向けるとしたらどうでしょうか。私自身、変形性膝関節症と向き合うなかで、「すり減るともとに戻らない」軟骨の現実を日々感じています。もし膝の軟骨が若返れば、同じ症状に苦しむ人々の痛みを和らげ、生活の質を大きく改善できるはずです。
その可能性を確かめるべく、今回から数回にわたり膝軟骨再生治療をテーマに論文を読んでいきます。
今回取り上げたBrittberg (2024)は、膝軟骨治療の現在地を俯瞰する総説です。保存療法から骨髄刺激法、足場材を用いた修復、培養軟骨細胞移植(ACI)、さらには未来のiPS技術まで整理されています。軟骨再生とは単なる欠損補填ではなく、関節が本来のバランスを取り戻し、再び機能する状態を目指す試みです。
膝は若返るのか。再生医療の最前線へ、ここから踏み込んでいきます。

要旨
本総説は、2024年時点における膝関節軟骨損傷の治療戦略について、保存療法から再生医療までを包括的に整理し、病変特性や患者因子に基づく治療選択の考え方を概説するものである。軟骨修復は単独の組織再建ではなく、軟骨下骨、半月板、靱帯、アライメントを含む関節全体の恒常性を回復させる試みとして位置づけられる。
非手術的治療として用いられるヒアルロン酸、PRP、幹細胞注射は主に抗炎症的・支持的役割を担い、局所修復よりも変形性関節症治療に適している。一方、手術的治療では骨髄刺激法(BMS)が依然として基本であるが、その適応は小病変に限られ、近年はマイクロフラクチャーよりも薄径ドリリングが推奨される傾向にある。欠損サイズの増大に伴い、スキャフォールド併用修復、骨軟骨マトリックスプラグ、培養軟骨細胞移植(ACI)など段階的な治療選択が行われている。
ACIは世代を重ねる中で二期的手技から一期的手技へと進化しており、特にミンス軟骨を用いた第四世代ACIが、操作性とコスト効率の面から注目されている。また、骨髄吸引濃縮液(BMAC)や同種細胞を含む細胞治療の発展により、将来的には安定した品質の細胞供給が可能になると考えられる。
さらに、軟骨修復の成功には生物学的再建に加えて力学的除荷が不可欠であり、除荷骨切り術や関節ディストラクションが修復環境を改善する手段として位置づけられる。今後は、3Dバイオプリンティングや免疫調節を含む多層的アプローチが、軟骨再生医療の発展に寄与する可能性が示唆される。
Abbreviations
ACI 自家軟骨細胞移植
AMIC 自己マトリックス誘導軟骨形成
BMAC 骨髄穿刺濃縮物
BMS 骨髄刺激
CAFRIMA 軟骨片移植膜増強
ECM 細胞外マトリックス
HA ヒアルロン酸
MOCART 軟骨修復組織系の磁気共鳴観察
MRI 磁気共鳴画像法
MSCs 間葉系幹細胞
OA 変形性関節症
PRP 血小板豊富血漿
RCTs ランダム化臨床試験
1 イントロダクション
1.1 関節損傷と恒常性の破綻
関節の恒常性(homeostasis)は、軟骨、軟骨下骨、半月板、靱帯、腱など複数の構造が均衡を保つことで維持されている。このバランスが崩れると関節機能が損なわれ、損傷や変性へと進行する。そのため関節が傷害を受けた際には、失われた平衡を回復させることが重要である。
膝関節の損傷では、軟骨のみが単独で損なわれることは稀であり、多くの場合は半月板損傷や靱帯損傷などを併発する。実際、1000件の関節鏡検査を解析した研究では、局所的な軟骨または骨軟骨欠損が患者の19%に認められ、そのうち61%は過去の外傷に関連していた。また42%に半月板損傷、26%に前十字靱帯損傷を伴っていた。したがって関節の恒常性を回復させるためには、軟骨だけでなく周囲組織の損傷も包括的に治療する必要がある。
1.2 軟骨損傷の修復限界と治療目標
軟骨損傷が細胞外マトリックスのみに限局する場合、軟骨細胞によるマトリックス合成により修復が起こり得る。しかし損傷が軟骨細胞死を伴う場合、自発的な修復は極めて限定され、構造が変化した不完全な基質が形成される。さらに軟骨細胞が新しい基質を十分に合成できないと、プロテオグリカンが失われ、軟骨は力学的負荷への抵抗性を低下させる。
損傷軟骨の治療は、大きく間接修復と直接修復に分けられる。間接修復は、注射療法などにより炎症を抑制し修復機構を促進する方法であり、局所的な軟骨修復を支援する。直接修復は、病変部に直接介入して欠損を補う治療法である。治療の目的は、高い確率で痛みの軽減と機能回復を達成することに加え、変形性膝関節症への進展を抑制または遅延させることである。現在の軟骨修復の基本は、関節表面の欠損部を充填し、耐摩耗性を持つ修復組織によって荷重環境を整えることである。
1.3 治療選択を左右する変数
しかし万能の軟骨修復技術は存在せず、最適な治療法は複数の変数を考慮して選択されるべきである。とくに欠損サイズは最も重要な判断基準であり、欠損面積に応じた治療アルゴリズムが提案されている(図1)。重要な変数は以下の通りである。
欠損サイズ:最も重要な判断基準である。特定の軟骨損傷をどの外科的手法で治療するかを決定する上で、欠損サイズは最も重要な要素となる。例えば大腿骨内側顆の損傷を治療する際、顆部の幅を把握していれば、欠損が荷重面積に対してどれほど大きいかを認識しやすくなる。欠損サイズの正確な測定は必須であり、測定が不正確だと外科医は欠損サイズを過大評価する傾向がある。図1に、欠損面積に応じた治療アルゴリズムの提案を示す。
欠損深度:表層軟骨欠損(軟骨厚の50%未満)にはデブリドマンが適している。軟骨組織厚の50%以上の深さを持つ欠損には、欠損サイズに応じて修復技術または再建技術が適している。
周囲軟骨の質:理想的な軟骨欠損は、修復組織の成長と成熟を支える完全な壁を有している。周囲軟骨が薄すぎる場合、局所修復と併用して骨切り術による除荷を検討する必要がある。
アライメント:関節の恒常性を維持するためには、軟骨への均等な負荷が重要である。内反膝や外反膝に見られる過剰な負荷は、恒常性を乱し軟骨破壊を引き起こす。したがってアライメント不良を伴う関節の軟骨修復には、除荷骨切り術の併用が必要である。矯正骨切り術の主要な原理は、疾患部から健常な軟骨が比較的保たれている領域へ荷重を移行させることである。
併存損傷:多くの場合、軟骨損傷だけでなく靱帯や半月板の損傷も存在する。半月板の欠損は軟骨領域への負荷を増大させ、関節の不安定性は軟骨修復部に悪影響を及ぼす。
肥満:肥満は荷重関節および非荷重関節の両方において、OAの発症と進行のリスク因子である。こうした関節では慢性炎症が存在し、体重増加による異常な力学的負荷が加わり、局所修復および周囲軟骨に負の影響を与える。
遺伝的背景:遺伝性疾患は関節障害や軟骨異常のリスクを高める可能性がある。欠損部位は、不良なコラーゲン産生や骨の関与により修復が困難になる場合がある。
性差:女性は男性と比較してOAを発症するリスクが高い。軟骨の変性と再生には明確な性差が存在するが、その根底にある機序や正確な影響についてはさらなる検討が必要である。
喫煙:文献は軟骨修復に対する全体的な負の影響を示唆しており、さらなる調査が必要である。
併存疾患:他の疾患の存在は修復に影響を及ぼし得る。糖尿病、心血管疾患、関節関連免疫疾患などは、関節代謝や周囲の骨・筋肉機能に影響を与える。
本総説の目的は、2024年時点で利用可能な膝軟骨修復・再生治療の選択肢を整理し、これらを特定の変数に応じてどのように適用すべきかを概説することである。

2 間接修復:注射による修復環境の調整
間接修復とは、外科的に欠損部を直接処置するのではなく、関節内注射などを通じて修復機構を刺激し、炎症を抑制することで局所軟骨修復を促進する治療法である。滑膜、骨、周囲軟骨由来の細胞が本来有する修復ポテンシャルを活性化することで、外科的介入を伴わずに軟骨修復を支援する。
以下に示すような治療法が試みられているが、多くの研究はOA治療の文脈であり、局所軟骨欠損に対する再生治療としての確立されたエビデンスは限定的である。現時点では、間接修復は単独で欠損を再建する手段というより、外科的直接修復の補助療法としての役割が中心である。
2.1 ヒアルロン酸(HA)
ヒアルロン酸(HA)は、様々なゲル形態で細胞表面受容体と相互作用し、軟骨細胞の増殖を支援するとともに、間葉系幹細胞(MSC)の軟骨細胞への分化を促進することが示されている。しかし関節内投与されたHA製剤は、速やかにクリアランスされることで効果が限定される。そのため、持続的かつ安定した薬剤供給を可能にする安全な製剤の開発が必要とされている。
HA注射は主に変形性関節症(OA)関節で使用されるが、膝軟骨欠損に対する関節鏡下骨髄刺激法(BMS)の補助療法として幹細胞と混合したHAゲルが試験されている。比較研究では、HAで補強したBMS群において、24か月時点でMOCART(Magnetic Resonance Observation of Cartilage Repair Tissue)評価により完全な軟骨充填が36.8%で達成されたのに対し、BMS単独群では16.6%にとどまった。
2.2 成長因子治療
成長因子は細胞分裂、増殖、分化を刺激し得る生物学的活性ポリペプチドである。関節軟骨では、多数の成長因子が協調して軟骨の恒常性を調節している。臨床応用が研究されている主な因子には、transforming growth factor-β1、bone morphogenetic protein-2/7、IGF-1、fibroblast growth factor-2/18、platelet-derived growth factorなどが含まれる。
現在、複数の成長因子・サイトカイン調節療法が臨床試験段階にあるが、その対象はOAに限られている。
2.3 多血小板血漿(PRP)
多血小板血漿(PRP)は、関節内の細胞と相互作用し得る多様な化学メディエーターを供給する。PRPは局所軟骨修復の補助としても使用されているが、膝の局所欠損修復に対する直接的エビデンスは十分ではない。
OAにおけるメタ解析では、PRP注射による軟骨厚の有意な増加は認められず、現時点の文献はPRPを軟骨再生治療として支持していないと結論づけられている。ただし研究間のプロトコル差が大きく、結論の解釈には限界がある。
2.4 幹細胞・前駆細胞注射
幹細胞および前駆細胞は、多様な細胞種へ分化する独自の能力を有する。前駆細胞は幹細胞より分化が限定されており、外傷後に活性化されて組織修復と再生を促進する。幹細胞がOA関節への注射に用いられる場合、これらの細胞は継続的な慢性炎症に対抗するためのmedicinal signalling cellsとして作用する。
幹細胞・前駆細胞は局所修復改善のための注射療法としても使用されている。一つの技術として、局所注射された細胞を病変部に集積させるための磁気ターゲティングが報告されている。自家骨髄MSCを培養後に磁化し、注射後に周囲の磁石で引き寄せることで局所軟骨欠損への充填を図る。また、末梢血幹細胞をHAゲルとともに注射する方法も可能である。最近の研究では、大きな膝軟骨欠損に対して、HAと理学療法に比べて良好な転帰が示された。
おへそからヒトコト☝🏻
2章の間接修復で述べられている治療法のうち、2026年2月の時点で日本で保険診療が受けられるのは、ヒアルロン酸注射の変形性膝関節症など特定の疾患に対してのみです。
それ以外の治療法(PRP、成長因子、幹細胞注射など)は、すべて自由診療となります。ただし、ヒアルロン酸注射についても、論文で述べられているような研究的使用(骨髄刺激法との併用、幹細胞混合など)は、標準的な保険診療の範囲を超える可能性が高く、施設や使用方法によって自由診療となる場合があります。
3 直接修復:修復組織による関節表面の再建
直接修復とは、軟骨欠損部そのものに修復組織を形成し、関節表面を再建する治療である。軟骨欠損を生物学的に修復するためには、軟骨形成能をもつ細胞(chondrogeneic cells)が必要であり、その供給源は大きく内因性(intrinsic)と外因性(extrinsic)に分けられる。骨髄刺激法(BMS)や自家骨軟骨移植は、骨髄や自家骨軟骨など体内由来の細胞を活性化・利用する内因性アプローチである一方、培養軟骨細胞移植やミンス軟骨、同種骨軟骨移植は、体外操作や外部供給細胞を用いる外因性アプローチである。
3.1 骨髄刺激法(BMS)による修復
3.1.1 スキャフォールド(足場材料)を用いないBMS
骨髄刺激法(BMS)は、軟骨が欠損した部分の直下にある骨に穴を開け、出血と血餅の形成を促すことで、骨髄から軟骨を作る能力を持つ前駆細胞を損傷部に呼び込み、修復組織を形成させる治療法である。この手法の歴史は、Pridie法と呼ばれる軟骨下骨へのドリリングに始まり、その後、擦過関節形成術を経て、長らくマイクロフラクチャー(MFX)が標準的な術式として広く用いられてきた。
しかし近年の研究により、MFXとドリリングには重要な違いがあることがわかってきた。MFXでは、使用する器具の形状により穴の周囲の骨が圧迫されて骨髄との連絡が塞がれやすい。一方ドリリングでは骨片が除去されるため、骨髄と直接つながる開放的な通路が形成される。さらに、深くまでドリリングを行うと、浅い穿孔やMFXに比べてより大きな軟骨下血腫が形成され、より太い血管に到達できることから、修復組織の充填が改善する可能性も示唆されている。ただし、限局性の軟骨欠損においてMFXとドリリングを直接比較した基礎研究はまだ十分ではない。
臨床的には、BMS単独では欠損部の完全かつ均一な充填が難しい場合があり、この点がBMSの限界とされている。
3.1.2 スキャフォールド(足場材料)を併用したBMS
こうした背景から、近年は軟骨下骨に存在する間葉系幹細胞(MSC)への関心が高まっている。デブリードマン(壊死組織の除去)を行った軟骨欠損部に多孔質のスキャフォールドを移植することで、軟骨を形成する細胞がより確実かつ均一に欠損部へ侵入できるようになる。スキャフォールドは軟骨形成や骨形成を促進するよう設計されており、細胞を含まない三次元構造体として軟骨や骨軟骨の欠損部に移植されるか、あるいは液体状でBMSの補助材料として用いられる。
3.2以下は、現在使用されている様々なスキャフォールドの選択肢について述べる。
3.2 コラーゲン系スキャフォールド
コラーゲンスキャフォールドを用いた軟骨修復では、CaReS-1S®およびChondroGide®が代表的な選択肢である。CaReS-1S®は小病変では良好な成績を示すが、大きな病変では5年後の失敗率が18%と課題がある。
ChondroGide®をBMSと併用するAMIC法は、MFXとの比較試験において優れた中長期成績を示した。2年目までは両者とも改善したが、5年目にはMFX群でスコアが低下する一方、AMIC群は改善効果を維持し、MRI上の欠損充填もAMIC群が良好であった。AMIC法は、特に中〜大きさの欠損に対して有望な選択肢といえる。
3.3 HA系マトリックス
Hyalofast®などのHAベースマトリックスは、BMSと併用して骨髄細胞の侵入と修復組織形成を支援する目的で用いられる。MFX単独と比較した研究では、マトリックス併用群で疼痛やこわばり、機能が短期的に有意に改善しており、骨軟骨欠損にも応用可能である。
さらに、架橋ハイドロゲル型マトリックスは3Dバイオプリンティングの足場としても検討されている。
3.4 骨軟骨マトリックスプラグ
合成吸収性の円柱状骨軟骨プラグによる修復も試みられてきた。Trufit®は短期的には臨床改善を示したものの、長期経過で成績の悪化が報告され、市場撤退に至っている。
Agili-C®はアラゴナイト系カルシウムとHAからなる二相性インプラントであり、ランダム化試験でデブリドマン/MFXと比較して、24か月時点の症状改善と欠損充填率、failure率のいずれにおいても優れた成績を示した。
Maioregen®は二相・三相構造を有するバイオミメティックインプラントで、深い骨軟骨欠損やスポーツ活動性の高い患者では、BMS単独より良好な結果が報告されている。
3.5 Thermogelによる血餅安定化
BMSで形成される自然血餅は収縮しやすく、欠損周縁まで十分に満たせないことがある。CARGEL Bioscaffold®に代表されるThermogelは、血餅の体積と強度を高めて欠損内に安定化させることで、より完全な充填を目指す手法である。無作為化試験では、MFX単独と比べて欠損充填と組織質が良好であり、5年追跡でもこの優位性が維持されている。
3.6 軟骨形成組織による修復
1990年代には、軟骨膜や骨膜を用いた再表層化が試みられた。しかし特に軟骨膜では骨化が進行しやすく、移植片の緩みが問題となった。若年患者では良好な結果も得られたが、in situでの制御が難しく、現在ではほとんど使用されていない。
3.7 自家および同種骨軟骨移植
自家骨軟骨移植(モザイク形成術)は現在も用いられており、長期追跡でMFXより高い耐久性が示されている。同種骨軟骨移植は近年増加しており、約12年追跡で約75%の症例が良好なアウトカムを維持している一方、ドナー不足や感染・疾患伝播リスクが課題である。膝蓋大腿関節病変では改善度が低く、再手術も多い傾向にある。
同じカテゴリーに属する脱細胞化既製インプラントは、ドナー部位侵襲が不要という利点があるが、2年以内に高い失敗率が報告された製品もあり、特に女性でリスクが高いことが示されている。適応は慎重に判断すべきである。
おへそからヒトコト☝🏻
3章の直接修復で述べられている治療法のうち、2026年2月時点で日本で保険診療が受けられるのは、骨髄刺激法(BMS)の一部と自家骨軟骨移植術(モザイク形成術)です。これらは従来から保険適用されている標準的な治療法です。
3章で述べられているその他の治療法(スキャフォールド併用BMS(AMIC法、Hyalofast®など)、骨軟骨マトリックスプラグ(Agili-C®、Maioregen®など)、Thermogel、同種骨軟骨移植)は、2026年2月時点では日本国内で保険適用されておらず、実施する場合は自由診療となり、患者が全額負担する必要があります。また、BMAC(骨髄吸引液濃縮物)やミンス軟骨についても、現時点では保険診療の対象外です。
なお、保険適用されている治療法であっても、適応基準を満たさない使用や研究的使用は保険診療の範囲を超える可能性があり、施設や使用方法によって自由診療となる場合があります。
4.軟骨形成細胞移植
軟骨形成細胞移植は、修復組織形成に必要な細胞そのものを供給する治療群である。細胞供給源としては、骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を用いる方法と、軟骨細胞そのものを移植する方法が含まれる。
4.1 BMAC(骨髄吸引濃縮液)
BMACはMSCを含む細胞供給源であり、HA系スキャフォールド内で細胞接着、増殖、遊走およびECM産生を促進することが示されている。一方で、BMACの量と質は患者年齢や採取部位に依存する。若年者では単核細胞数が多く、腸骨稜由来は近位脛骨由来に比べて単核細胞数が約4倍多く、クロノジェニック能力も有意に高いことが報告されている。
4.2 自家軟骨細胞移植(ACI)
ACIは1987年に初めて実施され、その後世代を重ねて発展してきた。第一・第二世代では培養軟骨細胞懸濁液を膜下に注入する方法が、第三世代では細胞を膜や多孔質スキャフォールド上で培養して移植する方法が用いられた。ただし、動物由来マトリックスの使用は国や宗教的背景により制約を受ける場合がある。
現在は第三世代ACIが主流だが、手術を一期的に完結させる第四世代ACIの利用が増加しつつある。第五世代ACIは3Dバイオプリンティングを用いた細胞移植として位置づけられている。

4.3 ミンス軟骨を用いた一期的ACI
第四世代ACIの代表的手法が、細切軟骨片(minced cartilage)を用いた移植である。CAIS®システムでは動物実験および無作為比較試験において、2年時点でマイクロフラクチャーより優れた成績が示された。その後、Autocart®やCAFRIMAなど複数の手法が開発されている。同種由来の若年軟骨片も利用可能であり、動物モデルでは高齢ドナー軟骨との混合により修復成績が向上することが示されている。
ミンス軟骨法では、軟骨細胞がECMを分解しながら遊走し、新たなECMを産生することで欠損部を修復する。周囲軟骨への酵素処理により、細胞遊走がさらに促進される可能性も報告されている。
4.4 その他の一期的ACIおよび同種細胞治療
術中に軟骨細胞を分離し、腸骨稜由来骨髄吸引液と混合して移植する方法(INSTRUCT試験)、軟骨細胞と周囲基質を保持したchondronを同種MSCと混合する方法(IMPACT試験)が報告されている。また、死体ドナー由来の同種軟骨細胞も生体ドナー由来細胞と同等の生存率と細胞数を示すことが示されている。
おへそからヒトコト☝🏻
4章で述べた軟骨形成細胞移植のうち、2026年2月時点で日本で保険診療が可能なのは自家培養軟骨(JACC®:ジャック)を用いた自家培養軟骨細胞移植(ACI)のみです。JACC®は外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎に対して2013年から保険適用されており、2026年1月から変形性膝関節症にも適応が拡大されました。一方、BMAC、ミンス軟骨を用いた一期的ACI、同種細胞治療はすべて自由診療となります。
JACC®の適用は、厚生労働省が定める基準を満たした認定医療機関に限られており、軟骨欠損面積が2cm²以上で、運動療法などの保存的治療で症状が改善しない患者が対象です。
変形性膝関節症に対するJACC®の総費用は289万円(組織運搬セット: 100万円+培養軟骨パッケージ: 189万円)ですが、保険適用により高額療養費制度が利用でき、実際の自己負担額は月額6~25万円程度(年齢、年収、入院期間によって変動)となります。
骨切り術(HTO:高位脛骨骨切り術)との併用の場合、骨切り術の費用も別途かかりますが、同じ月内に行われる場合は高額療養費制度の合算対象となるため、月額上限額が適用されます。
5.軟骨修復における除荷
軟骨修復においては、生物学的修復に加えて力学環境の制御が重要である。変形性関節症では過剰な力学負荷が軟骨マトリックスを分解し、軟骨細胞の表現型を変化させる。軟骨細胞は機械刺激感受性受容体を介して負荷に応答し、その異常はOA進行に関与することから、病的負荷の軽減は分子レベルおよび関節バイオメカニクスの両面で重要である。
臨床的には除荷骨切り術が広く用いられている。近年では、外固定器を用いた関節ディストラクション(関節離開術)が注目されており、臨床試験では2年時点で軟骨体積の増加、軟骨下骨皮質板の菲薄化、骨梁密度の低下が認められ、10年追跡でもこれらの構造改善が維持されることが報告されている。一方、局所軟骨修復に反応しない症例に対しては、ミニメタルや合成インプラントが代替手段として用いられる。
6.今後の展望
将来的な軟骨修復戦略として、iPS細胞を用いた3Dバイオプリンティングによる層状細胞配置が検討されている。3D MRIによる欠損評価と組み合わせることで、関節鏡下での精密な細胞配置が可能になると期待されている。
また、これまで注目されてきた軟骨細胞や軟骨形成幹細胞に加え、免疫細胞、とくにマクロファージの役割が重要視されている。抗炎症型M2マクロファージは組織修復を促進し、特定のバイオマテリアルによって活性化されることで、骨形成分化にも影響を与える可能性が示されている。今後は、スキャフォールドが軟骨形成刺激と構造安定性に加え、免疫調節機能も併せ持つことが求められると考えられる。
7.総括
軟骨損傷に対する非手術的治療は、主として抗炎症作用や局所的な成長因子効果に基づくものである。PRP、ヒアルロン酸、幹細胞注射はいずれも効果の予測性が低く、作用は一過性であることが多いため、局所軟骨修復よりも変形性関節症(OA)の症状管理に適した選択肢と位置づけられる。
手術的軟骨修復では、2024年時点でも骨髄刺激法(BMS)が広く用いられている。ただし適応は小さな欠損に限られ、マイクロフラクチャーよりも薄径ドリリングが推奨される。やや大きな欠損では、BMSをスキャフォールドで補強する方法が、操作性とコスト面から実用的である。さらに大きな欠損には、第三世代の培養軟骨細胞移植(ACI)が依然として用いられている。
近年では、細切自家軟骨や同種軟骨を用いた第四世代ACIが、迅速性とコスト効率の点から普及しつつある。将来的には、若年ドナー由来の同種軟骨細胞や間葉系幹細胞を用いた大規模かつ品質安定型の細胞供給が、標準的な選択肢となる可能性がある。また、同種由来PRPや幹細胞株を用いた成長因子供給も、局所修復を補完する手段として期待されている。
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