~ おへその乱読1000本ノック #0008 ~嚢胞性線維症(CF)創薬のためのiPS細胞プラットフォーム
ようこそ、第7回 おへその乱読1000本ノックへ。嚢胞性線維症は、患者ごとに遺伝子変異が異なるため、治療薬の効果にも大きな差が生じます。とくに希少な変異の場合、薬の効果を確かめるための細胞サンプルを集めること自体が難しく、患者にとって大きな負担となることが問題でした。Berical et al.(2022)は、患者由来のiPS細胞から大量の気道細胞を作り、複数の治療法を一度に試せる仕組みを示した研究です。同じ遺伝子背景をもつ細胞を使って、薬やその組み合わせを並べて比べることで、どの治療が効果的かを事前に見極めることができます。この研究は、個別化医療の現実味をぐっと引き寄せてくれる一編です。

1. イントロダクション
嚢胞性線維症(CF)は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされる単一遺伝子疾患であり、気道粘液の異常を介して重篤な呼吸器障害を生じる多臓器疾患である。CFTRは気道表面液の水分量や粘度、pHを調節する陰イオンチャネルをコードしており、その機能低下は感染の反復や気管支拡張症の進行を招き、寿命の短縮につながる。
CFTR遺伝子には2000を超える変異が存在し、分子異常の性質に応じて複数のクラスに分類されている。この多様性のため、治療薬の開発や適用は本質的に複雑である。近年はCFTRモジュレーターの登場により、多くの患者で臨床的改善が得られるようになったが、根治的治療ではなく、高価で生涯投与が前提となる。とくにナンセンス変異を含むクラス1変異では、現在承認されている治療の効果が乏しいという課題が残されている。
CF治療の発展には前臨床のin vitroモデルが不可欠である。ヒト気管支上皮細胞(HBEC)は、生体に近い気道構造とCFTR機能を再現できるゴールドスタンダードとされてきた。一方で、採取は侵襲的であり、希少変異患者からの入手は大きなボトルネックとなる。加えて、電気生理学的解析は高精度である反面、スループットが低いという制約もある。
この制約を補う方法として、直腸オルガノイドを用いたCFTR機能評価が発展してきた。しかし、主要な疾患臓器である気道を直接反映するモデルの必要性は依然として高い。こうした背景のもと、患者固有の遺伝情報を保持したまま増殖・分化可能なヒトiPS細胞が注目されている。iPS細胞から気道上皮細胞を作製でき、初代HBECに類似した形態や機能を示すことも報告されてきた。
本研究(Berical et al., 2022)では、クラス1〜3のCFTR変異*をもつ患者由来iPS細胞から気道上皮細胞を作製し、CFTR機能のベースラインおよび薬剤応答を定量評価できるかを検証した。3次元スフェロイドの膨張試験(FIS)と、極性化した粘液線毛上皮での電気生理学的解析という2つの系を用いることで、遺伝子型依存的なCFTR機能とモジュレーター応答が示され、従来治療が困難であったクラス1変異に対しても、組み合わせ治療で機能改善が得られうることが示唆された。iPSCベースの本プラットフォームは、希少変異を含む患者固有の細胞を用いた評価を可能にし、治療戦略開発を前に進める基盤となる。
* クラス1〜3CFTR変異型
クラス1:CFTR遺伝子にナンセンス変異やフレームシフト変異が生じ、mRNA上に早期終止コドンが導入され、機能的CFTRタンパク質がほとんど産生されない。→ 細胞表面に機能的CFTRチャネルが存在しない。
クラス2:CFTRタンパク質は翻訳されるものの、立体構造の異常により小胞体での品質管理機構を通過できず、細胞表面へ輸送されない変異。→ CFTRは産生されるが細胞表面に到達しない
クラス3:CFTRタンパク質は細胞表面に正常量存在するが、チャネル開閉制御(gating)が障害されている変異。→ CFTRは細胞表面にあるが開口しない
2. iPS細胞ベースプラットフォームの構築
本研究では、HBEC入手の困難さを克服するため、患者由来iPS細胞を用いたプラットフォームを構築した。
2.1 iPSCバンクの確立
複数クラスのCFTR変異を同一条件下で比較可能な解析基盤を構築するため、本研究ではまず、嚢胞性線維症(CF)患者由来iPSCバンクの確立を行った。対象として、CFTR遺伝子のクラス1〜3変異を有する患者を選定し、計9株のCF iPSCを樹立した(図1A)。CFTRモジュレーター応答の解釈を複雑にする可能性のある交絡因子を避けるため、可能な限りホモ接合変異を有する患者を優先した。クラス2変異についてはPhe508delを中心に3株、クラス1変異としてW1282XおよびG542X、クラス3変異としてG551Dを含むiPSC株を用いた。
さらに、同一遺伝的背景におけるクラス間比較を可能にする目的で、既存のiPSC株(C17)に対して遺伝子編集を施し、クラス1、2、3に対応するCFTR変異をそれぞれ導入した。これにより、遺伝背景の違いを最小化した変異クラス間比較が可能となった。対照として、非CF由来のiPSC株3株を併用した。
2.2 品質管理とレポーター導入
樹立したすべてのiPSC株について、多能性マーカーの発現およびGバンド核型解析を実施し、標準的な品質管理を行った。その結果、すべてのクローンが正常な核型を保持していることが確認された。
分化過程の追跡および特定細胞集団の精製を目的として、一部のiPSC株には肺系譜マーカーであるNKX2-1、ならびに気道基底細胞マーカーTP63の蛍光レポーターを導入した。これらのレポーターは、後続の分化効率評価および細胞選別に使用した。
2.3 分化プロトコルと品質管理フロー
CFおよび非CF iPSCは、既報の指向性分化プロトコルに従い、3次元気道上皮スフェロイドへと分化誘導した(図1B)。本プロトコルは、発生過程を模倣した4段階、すなわち胚体内胚葉誘導、前前腸パターン形成、肺規定、気道パターン形成から構成される。
各段階で分化の再現性を担保するため、フローサイトメトリーを用いた品質管理を行った。ステージ1では、C-KITおよびCXCR4を共発現する細胞の割合を指標として胚体内胚葉誘導効率を評価し、すべてのiPSC株で高効率な誘導が確認された。ステージ3終了時点では、肺系譜マーカーNKX2-1の発現を14〜16日目に定量し、株間で一定のばらつきが認められた(図1C)。
2.4 NKX2-1陽性細胞の選別と濃縮
分化効率のばらつきを補正し、均質な肺前駆細胞集団を得るため、細胞表面マーカーCD47^hi/CD26^negを用いた選別を行った。NKX2-1:GFPレポーターを有するiPSC株については、GFP陽性細胞の直接選別を代替手法として用いた。これらの選別戦略により、すべてのiPSC株においてNKX2-1陽性細胞の割合は80%以上に濃縮され、安定した肺前駆細胞集団が得られた(図1C)。選別後もNKX2-1発現は維持され、後続の分化工程に適した状態が確保された。
2.5 3次元気道上皮スフェロイドの形成
選別したNKX2-1陽性肺前駆細胞は、FGF2、FGF10、DCIおよびY-27632を含む条件下で3次元培養し、気道上皮スフェロイドを形成させた(図1B)。分化28〜30日目に得られたスフェロイドについて、標準的な気道上皮マーカーの発現を解析した。
iPSC由来スフェロイドにおけるCFTR発現量は、非CF一次気道上皮細胞由来の気液界面培養と同程度であった(図1D)。一方、NKX2-1およびSCGB3A2の発現はiPSC由来スフェロイドで相対的に高く、未成熟な近位気道上皮様状態にあることが示唆された。
2.6 免疫染色による細胞構成の解析
免疫染色解析により、CFおよび非CF iPSC由来スフェロイドはいずれもNKX2-1陽性細胞から構成され、その一部がTP63またはSCGB3A2を共発現していることが確認された(図1E)。この分化段階では成熟した繊毛細胞や分泌細胞は認められず、主として気道基底細胞様細胞および未熟な分泌系前駆細胞様集団からなることが示された。
2.7 プラットフォームの応用可能性と意義
以上より、本研究では異なるクラスのCFTR変異を有する患者由来iPSCバンクを確立し、これらのiPSCが一次気道上皮細胞と同程度のCFTRを発現する気道上皮スフェロイドへと、再現性よく分化可能であることを示した。本プラットフォームは、希少変異を含む複数のCFTR変異背景を同一条件下で比較可能な解析基盤を提供するものであり、後続のCFTR機能評価および薬剤応答解析に適した出発点となる。

3. 非嚢胞性線維症iPSC由来気道スフェロイドにおけるFISアッセイの特性評価
3.1 FISアッセイの原理と本解析の目的
本研究では、iPSC由来気道上皮スフェロイドを用いたFIS(forskolin-induced swelling)アッセイが、CFTR機能評価法として安定かつ再現性をもって測定可能かを検証した。FISアッセイは、フォルスコリン刺激によるCFTR活性化に伴うスフェロイドの膨張を指標とするものであり、本研究全体におけるCFTR機能解析の基盤となる。
フォルスコリンはアデニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内cAMP濃度を上昇させることでCFTRを刺激する。CFTRが機能していれば、イオン輸送に伴って水がスフェロイド内部に流入し、断面積が時間依存的に増大する(図2A)。
3.2 単一iPSC株におけるFIS応答の時間動態
まず、正常なCFTRをもつ非嚢胞性線維症(non-CF)iPSC株(non-CF #2)から作製した気道スフェロイドを用い、フォルスコリン刺激後の膨張動態を24時間にわたって追跡した。個々のスフェロイドでは膨張の程度にばらつきが見られたものの、ウェル内の平均膨張度は独立した実験間でよく一致していた(図2B)。
膨張は刺激後2時間以内に始まり、約20時間まで持続して増加し、その後20〜24時間でプラトーに達した。24時間後の断面積は、フォルスコリン処理群で有意に増加し、溶媒処理対照群との差が確認された。
3.3 複数の遺伝的背景におけるFIS応答の再現性
次に、FIS応答が特定のiPSC株に依存しないことを検証するため、異なる遺伝的背景をもつ3つのnon-CF iPSC株(non-CF #1〜3)から気道スフェロイドを作製し、同様の解析を行った(図2C)。
いずれの株に由来するスフェロイドも、薄い壁と中心空洞をもつ共通した形態を示し、フォルスコリン刺激後に一貫して膨張した(図2D)。自動画像解析により、1回の実験あたり数百個、各iPSC株について合計1000個以上のスフェロイドが解析対象となった(図2E)。
その結果、フォルスコリン刺激後の断面積増加は3株間で同程度であり、遺伝的背景による有意な差は認められなかった(図2F)。
3.4 非肺系細胞混入がFIS応答に与える影響の検証
分化後28〜32日目には、一部の細胞で肺系譜マーカーNKX2-1の発現が低下することが知られている。そこで、非肺系細胞の混入がFIS応答に影響していないかを評価した。
NKX2-1:GFPレポーターiPSC株を用いて、NKX2-1陽性および陰性スフェロイドを区別して解析したところ、両者のFIS応答に有意な差は認められなかった。この結果から、観測されるFIS応答は主として気道系細胞由来であり、非肺系細胞の寄与は限定的であることが示された。
3.5 FISアッセイの基盤的有効性
以上より、非CF iPSC由来気道上皮スフェロイドを用いたFISアッセイは、時間依存性、再現性、定量性を備え、遺伝的背景に依存せずCFTR機能を評価可能なプラットフォームであることが確認された。本解析は、後続のCFTR変異株およびCFTRモジュレーター応答解析における基準系として、本手法が適していることを示している。

4. CF iPSC由来気道スフェロイドにおける遺伝子型依存的CFTR機能とモジュレーター応答
正常なCFTRを有する非CF iPSC由来気道スフェロイドにおいてFISアッセイの基礎特性を確立した後、次にCF患者由来iPSCから作製した気道スフェロイドが、形態・サイズ・CFTR機能の点でどのように異なるかを検討した。
4.1 CFTR遺伝子型に依存したスフェロイドの形態と基礎サイズの違い
CF患者由来iPSCを気道スフェロイドへ分化させたところ、CFスフェロイドは非CFスフェロイドと比べて、全体に小型で、より密な構造を示した(図3A)。スフェロイドの初期断面積(フォルスコリン刺激前)はCFTR遺伝子型によって有意に異なり、非CFスフェロイドが最も大きく、次いでG551D、Phe508del、ナンセンス変異(PTC)由来スフェロイドの順に小さくなった(Fig. 3B)。この結果は、CFTR機能の低下が気道上皮スフェロイドの基礎的な構造形成にも影響している可能性を示唆している。
4.2 CFスフェロイドにおけるベースラインFIS応答
次に、CFスフェロイドにおけるベースラインのFIS応答を評価した。1実験あたり平均約670個のスフェロイドを解析したところ、G551D変異を有する一部のスフェロイドでは、フォルスコリン刺激により小さいながらも有意な膨張が認められた。一方で、Phe508del変異スフェロイドでは、ベースラインでの膨張はほとんど検出されなかった(図3D)。これらの結果は、各変異における既知のCFTR残存機能の違いと整合的である。
4.3 CFTRモジュレーターによる機能回復の遺伝子型依存性
続いて、CFTRモジュレーター処理によるCFTR機能回復をFISアッセイで評価した(図3C)。G551D変異スフェロイドでは、CFTR増強剤であるVX-770単独処理により、スフェロイド断面積が基準値の約175%まで増加し、顕著な機能回復が確認された(図3D)。
Phe508del変異スフェロイドについては、現在臨床で用いられている複数のCFTRモジュレーター併用療法を検討した。第1世代の補正薬であるVX-809またはVX-661をVX-770と併用した場合、その効果は限定的であり、3例中1例の患者由来細胞でのみ有意な膨張が認められた。一方で、第2世代補正薬VX-445をVX-661およびVX-770と組み合わせた治療では、すべてのPhe508del患者由来スフェロイドで一貫した強い膨張応答が観察された(平均約168%)。この結果は、VX-445/661/770併用療法のin vitroおよび臨床における有効性とよく一致している。
4.4 プラットフォームのスケーラビリティの検証
本プラットフォームが薬剤評価に応用可能かを検証するため、G551D #1細胞株を用いて384ウェルプレート形式での自動化実験を行った。その結果、VX-770処理によるスフェロイド膨張は対照群と比べて有意に増加し、高密度条件下でもFIS応答が安定して検出可能であることが示された。
4.5 まとめ
以上より、iPSC由来気道上皮スフェロイドを用いたFISアッセイは、CFTR遺伝子型に依存した基礎的な機能差およびCFTRモジュレーターによる機能回復を定量的に検出できることが示された。本手法は、多数の患者由来スフェロイドを用いた解析が可能であり、個別化医療に向けた薬剤応答評価や新規治療戦略開発の基盤となることが期待される。

5. 極性化したiPSC由来気道上皮におけるCFTR機能回復の電気生理学的評価
CFTR機能を正確に評価するためのゴールドスタンダードは、一次ヒト気道上皮細胞を用いた気液界面(ALI)培養におけるイオン輸送測定である。本研究では、iPSC由来気道上皮細胞が同様の解析に適用可能かを検証するため、FISアッセイに続いて電気生理学的評価によるCFTR機能回復の検出を行った。
5.1 iPSC由来気道上皮細胞のALI培養と分化特性
既に樹立したPhe508delおよびG551D iPSC由来気道上皮細胞(分化30日目)から、NGFR陽性の気道基底細胞を精製し、これを用いてALI培養を確立した(図4A)。8〜14日間のALI培養後、上皮層は乾燥した頂端面を保ち、十分なバリア機能を示した。経上皮電気抵抗(TEER)は平均約900 Ω·cm²であり、一次HBEC由来ALI培養と同等の値であった。
形態学的にも、運動性繊毛や粘液の旋回運動(mucus hurricane)が観察され、成熟した粘液線毛上皮が形成されていることが確認された。mRNA解析の結果、NKX2-1、SCGB1A1、FOXJ1、MUC5AC、MUC5Bといった主要な気道上皮マーカーは非CF一次HBEC由来ALI培養と同程度に発現しており、CFTRの発現量も一次細胞と同等であった。一方、既報どおりSCGB3A2はiPSC由来細胞で相対的に高発現していた(図4B)。
免疫染色により、iPSC由来ALI培養は、分泌細胞(MUC5AC陽性)、多繊毛細胞(アセチル化αチューブリン陽性)、および基底細胞(KRT5陽性)から構成されることが確認され、細胞組成の面でも一次気道上皮に類似していた(図4C)。
5.2 CFTR発現細胞種の同定
CFTRを発現する細胞種を明らかにするため、非CF iPSC由来粘液線毛上皮の単一細胞RNAシーケンスデータを再解析した。Louvainクラスタリングにより、基底細胞、分泌細胞、未熟および成熟多繊毛細胞など6つのクラスターが同定され、そのうちCFTR転写産物の大部分は分泌細胞クラスターに集中していた(図4D)。この結果は、一次ヒト気道上皮においてCFTRが主として分泌細胞に発現するという既報と一致している。
5.3 Phe508del iPSC由来ALI培養におけるCFTR機能回復の検出
次に、Phe508del変異を有するiPSC由来ALI培養を用いて、CFTRモジュレーターによる機能回復を電気生理学的に評価した。十分なTEERを示す培養系において、CFTR補正薬(VX-809、VX-661、VX-445/661)または溶媒対照で前処理した後、等価電流(I_eq)を測定した(図4E)。
ベースライン電流は低値であり、ENaC阻害による大きな変化は認められなかったことから、ENaC活性は低い状態にあると考えられた。フォルスコリン刺激およびCFTR増強処理によりCFTR依存性電流が誘導され、CFTR阻害剤添加によって電流が抑制された。
すべてのPhe508del iPSC株においてCFTRモジュレーター処理後に有意な電流増加が認められたが、その大きさは株間で異なっていた。特に、第2世代補正薬を含むVX-445/661/770併用処理では、最も大きなCFTR特異的電流が検出された(図4F)。これらの電気生理学的特性は、一次HBECを用いた既報の結果とよく一致している。
同様に、G551D変異を有するiPSC由来ALI培養においても、VX-770処理によりCFTR電流の有意な増加が確認された。
5.4 まとめ
以上より、iPSC由来気道上皮細胞は、ALI培養条件下で成熟した粘液線毛上皮を形成し、一次気道上皮に匹敵するCFTR発現および電気生理学的特性を示すことが明らかとなった。さらに、既知のCFTRモジュレーターによる機能回復を定量的に検出できることから、本プラットフォームはFISアッセイに加えて電気生理学的解析によるCFTR機能評価にも適用可能な実験系であることが示された。

6. CFTRクラス1 iPSC由来気道上皮細胞におけるCFTR機能評価
これまでにクラス2およびクラス3変異を有するiPSC由来気道上皮細胞において、FISアッセイおよび電気生理学的解析によるCFTR機能評価が可能であることを示してきた。次に、現在有効な標的治療法がほとんど存在しないクラス1(ナンセンス)変異を有するCFTR(W1282XおよびG542X)について、同様の解析系を用いてCFTR機能の評価を行った。
6.1 SMG1阻害によるCFTR mRNA発現量の回復
クラス1変異では、早期終止コドンの存在によりCFTR mRNAがナンセンス依存性分解(NMD)によって分解されることが知られている。そこでまず、NMD経路の阻害がCFTR発現に与える影響を検証した。W1282X iPSC由来の気道スフェロイドおよび粘液線毛ALI培養に対してSMG1阻害剤(SMG1i)を48時間処理したところ、CFTR mRNA量はそれぞれ約3〜4倍に増加した(図5A)。この結果は、SMG1阻害によってCFTR転写産物の量が回復することを示している。
6.2 クラス1変異スフェロイドにおけるFIS応答の検証
次に、3次元気道スフェロイドを用いてFISアッセイを行い、CFTR機能の回復が検出可能かを評価した。W1282X #1およびG542X由来スフェロイドに対し、CFTRモジュレーター(VX-445/VX-661/VX-770)、リードスルー薬G418、ならびにSMG1iを単独または組み合わせて処理した(図5B)。
CFTRモジュレーター単独、あるいはG418との併用では有意な膨張は認められなかった。一方で、VX-445/VX-661/VX-770、G418、SMG1iを組み合わせた処理により、W1282X #1スフェロイドでは有意なFIS応答(基準値の約117%)が検出された。対照的に、W1282X #2およびG542Xスフェロイドでは、同一条件下でも明確なFISの改善は認められなかった。これらの結果は、クラス1変異におけるCFTR機能回復が、変異や細胞株に依存して制限されることを示している。
6.3 クラス1変異iPSC由来ALI培養の形態学的特徴
続いて、W1282X #1 iPSC由来の気道基底細胞から粘液線毛ALI培養を作製した。免疫染色の結果、これらの培養は分泌細胞(MUC5AC陽性)、多繊毛細胞(アセチル化αチューブリン陽性)、および基底細胞から構成される形態学的に成熟した気道上皮を形成していた(図5C)。同様の構造はG542X由来ALI培養でも確認された(図5D)。
6.4 電気生理学的解析によるCFTR機能回復の検出
FISアッセイに加えて、極性化したALI培養を用いた電気生理学的解析により、CFTR依存性イオン輸送の回復を評価した。W1282X #1 iPSC由来ALI培養および、同一変異をホモ接合で有する患者由来一次HBECから作製した粘液線毛培養を比較解析した。
両培養系において、ENaC依存性電流は最小限であり、CFTR依存性電流が主要な成分であった。CFTRモジュレーター、G418、およびSMG1iを組み合わせた処理により、フォルスコリン刺激後およびCFTR阻害後の電流が有意に増加し、その大きさと応答パターンはiPSC由来培養と一次HBEC由来培養でよく一致していた(図5E, F)。この結果は、iPSC由来ALI培養が一次細胞と同等にCFTR機能回復を検出できることを示している。
同様の組み合わせ治療をG542X iPSC由来ALI培養に適用したところ、電気生理学的には小さいながらも統計的に有意なCFTR電流の増加が認められた(図5G, H)。
6.5 まとめ
以上より、クラス1変異を有するiPSC由来気道上皮細胞において、
SMG1阻害によるCFTR mRNA量の回復
リードスルー薬およびCFTRモジュレーターとの併用による機能回復
を、FISアッセイおよび電気生理学的解析の両面から評価可能であることが示された。特に、iPSC由来ALI培養は、一次HBECと同等のCFTR機能回復パターンを示し、クラス1変異に対する治療戦略検討の実験基盤として有用であることが示唆された。

7. 考察および結論
本研究は、クラス1〜3のCFTR変異を有する患者由来iPSCからCFTRを発現する気道上皮細胞を作製し、基礎的なCFTR機能と治療薬による回復度を評価できるプラットフォームを提示した。評価系として、(1) 3次元スフェロイドを用いたFISアッセイと、(2) 極性化した粘液線毛上皮を用いた電気生理学的解析を併用した点が核である。両系でクラス2および3変異におけるモジュレーター応答を検出でき、さらにクラス1変異に対しても実験的治療(NMD阻害やリードスルー薬を含む併用)で小さいながら機能改善を捉えられる可能性が示された。
本プラットフォームの強みは、侵襲的生検に依存せず、希少変異を含む患者由来の気道系細胞を大量に用意できる点にある。加えて、遺伝子編集を用いれば同一遺伝的背景で変異クラスを比較でき、薬剤応答の解釈が明瞭になる。FISは多数検体を扱える一方、電気生理学的解析は「ゴールドスタンダードに近い読み出し」を与えるため、両者の併用により、探索と確証を一つの枠組みでつなげられる設計になっている。
一方で、iPSC分化は工程が長く、段階ごとにばらつきが生じる点は限界である。本研究は表面マーカー選別などの品質管理で再現性を担保したが、培養条件の最適化余地は残る。また、iPSC由来培養は一次HBECと完全に同一ではなく、たとえばENaC電流の低さや培養の耐久性といった差異も観察されている。したがって、本系は一次細胞を置き換えるというより、希少変異研究の「細胞アクセスのボトルネック」を越えるための有力な補完基盤として位置づけるのが適切である。
総じて本研究は、希少変異を含むCFに対し、患者由来細胞で薬剤応答を事前に吟味しうる道筋を、気道モデルで具体化した。標的治療が乏しい変異に対する新規治療戦略の探索・前臨床評価を進めるうえで、本プラットフォームは既存モデルを補完し、研究開発を加速させるツールになりうる。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!