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〜 おへその乱読1000本ノック #0125 ~ FGF21はタンパク質制限の内分泌シグナルである

 ようこそ第125回 おへその乱読1000本ノックへ。
 前回までは、メチオニン制限を中心に、アミノ酸不足が細胞内の栄養感知経路、代謝、ストレス応答、エピジェネティック制御を介して老化に影響する仕組みを見てきました。今回からは視点を細胞内から全身へ広げ、アミノ酸欠乏を全身応答へ変換する内分泌因子FGF21に注目します。
 Laegerら(2014)は、食餌中のタンパク質を制限すると、エネルギー摂取量とは独立して肝臓のFGF21発現と血中FGF21濃度が上昇することを示しました。細胞内で感知されたタンパク質不足が、FGF21を介して全身の代謝応答へ伝えられることを明らかにした、FGF21研究の基礎となる論文です。

要旨
 Fibroblast growth factor 21(FGF21)は、飢餓やケトジェニック食への代謝適応に関与する肝臓由来ホルモンだが、その生理的な誘導要因と栄養制限への適応応答における役割は十分明らかでなかった。本研究では、マウス、ラット、ヒトを用いて、食餌タンパク質の制限がエネルギー摂取量とは独立に肝臓のFgf21発現と血中FGF21濃度を上昇させることを示した。低タンパク質食を与えたマウスとラットでは血中FGF21が約10倍に増加し、肝臓Fgf21 mRNAは24時間以内に誘導された。一方、タンパク質摂取量を維持したままエネルギーのみを制限すると、FGF21はむしろ低下した。ヒトでも、過剰給餌条件下で28日間低タンパク質食を摂取すると、血中FGF21はベースラインから平均171%増加した。
 低タンパク質食下では肝臓のeIF2αリン酸化が増加した。Gcn2またはPparaを欠損したマウスでは、基礎条件下の血中FGF21濃度と低タンパク質食による上昇がいずれも大きく減弱し、とくにGCN2はアミノ酸不足をeIF2αリン酸化へ伝達し、肝臓のFGF21誘導に寄与する上流因子と考えられた。ただし、低タンパク質食によってPPARα活性自体が上昇する証拠は得られず、PPARαは血中FGF21の基礎値と十分な誘導応答を支える因子と考えられた。
 さらに、野生型マウスでは、低タンパク質食により摂食量とエネルギー消費が増加し、体重減少、脂肪増加の抑制、除脂肪量の低下が生じた。これに対し、Fgf21欠損マウスでは摂食量とエネルギー消費の増加がみられず、体重は維持され、脂肪量は増加する傾向を示した。以上より、FGF21はエネルギー不足ではなくタンパク質不足を反映する内分泌シグナルであり、低タンパク質摂取時の摂食行動、エネルギー消費、体重・体組成を含む全身的な適応応答を調節することが示された。

1.イントロダクション:タンパク質制限への適応を仲介するシグナルは不明であった

1.1 栄養制限は代謝と摂食行動を変化させる

 栄養摂取量の低下は、摂食行動、エネルギー消費、インスリン感受性、体重などを変化させ、限られた栄養条件へ適応するための全身応答を引き起こす。こうした応答は、とくにエネルギー制限について広く研究されてきた。タンパク質摂取も成長と生存に不可欠であり、動物は食餌中のタンパク質量に応じて摂食量や代謝を調節する。しかし、体がタンパク質不足をどう感知し、全身の適応応答へ変換するのかは十分明らかでなかった。

1.2 FGF21は栄養不足への適応に関わる内分泌因子である

 Fibroblast growth factor 21(FGF21)は主に肝臓から分泌される内分泌因子で、飢餓やケトジェニック食への代謝適応に関与すると考えられていた。FGF21の投与や血中濃度の上昇は、インスリン感受性やエネルギー消費の増加を引き起こす。FGF21は複数組織で発現するが、血中濃度の上昇は主に肝臓での産生増加による。その作用は脳、肝臓、脂肪組織に及び、摂食、エネルギー代謝、成長、生殖の調節に関わる可能性が示されていた。

1.3 FGF21を誘導する栄養要因は明確でなかった

 FGF21は飢餓応答因子として注目される一方、生理的役割には不明な点が残されていた。血中FGF21濃度は肥満やインスリン抵抗性でも上昇し、げっ歯類では絶食やケトジェニック食による上昇が報告されているが、ヒトでは同様の介入による応答は一貫していなかった。この違いは、FGF21が単純なエネルギー不足のシグナルではなく、食餌中の特定の栄養素に応答している可能性を示しており、その上流の栄養要因と生理的役割の解明が必要であった。

1.4 本研究ではFGF21がタンパク質制限への応答因子かを検証した

 FGF21によって引き起こされる代謝変化は、タンパク質制限時にみられる摂食量やエネルギー消費の変化と類似している。そこで本研究では、FGF21が食餌タンパク質制限を知らせる生理的シグナルとして機能するかを検証した。具体的には、マウス、ラット、ヒトを用いて、タンパク質制限がエネルギー制限とは独立にFGF21を誘導するかを調べた。さらに、GCN2–eIF2α経路とPPARαの関与を解析し、Fgf21欠損マウスを用いて、摂食量、エネルギー消費、体重、体組成の変化にFGF21が必要かを検証した。

2.FGF21はタンパク質制限によって誘導される

2.1 低タンパク質食は肝臓と血中のFGF21を急速に上昇させる

 食餌タンパク質制限がFGF21に及ぼす影響を調べるため、ラットとマウスに通常食または低タンパク質食を与え、血中FGF21濃度を測定した。低タンパク質食では4日後・14日後のいずれも血中FGF21が大きく上昇し、通常食と比べて約10倍に達した(図1a、b)。
 FGF21の供給源を調べるため、低タンパク質食を4日間与えたラットの肝臓、白色脂肪組織、骨格筋でFgf21 mRNAを測定したところ、発現増加は肝臓のみでみられ、白色脂肪組織と骨格筋では増加しなかった(図1c)。したがって、血中FGF21上昇は主に肝臓での産生増加に由来すると考えられた。
 肝臓Fgf21発現は食餌開始後24時間以内に約7倍へ上昇し、2日後も高値を維持した(図1d)。肝臓が食餌タンパク質の減少を早期に感知し、FGF21産生を速やかに誘導することが示された。


図1 食餌タンパク質制限はげっ歯類の血中FGF21と肝臓Fgf21発現を増加させる

ラット(a)およびマウス(b)に、エネルギー密度を等しく調製した通常食または低タンパク質食を4日間または14日間与え、血中FGF21濃度をELISAで測定した。低タンパク質食を4日間与えたラットでは、肝臓・精巣上体白色脂肪組織・骨格筋のFgf21 mRNA発現を比較し(c)、さらに食餌開始後の肝臓Fgf21 mRNA発現を経時的に測定した(d)。低タンパク質食は血中FGF21を大きく上昇させ、Fgf21発現を主に肝臓で24時間以内に誘導した。n=5~8/群。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、通常食群との比較。

2.2 タンパク質制限は肝臓のアミノ酸代謝を再編成する

 低タンパク質食によるFGF21誘導は、肝臓がアミノ酸不足に適応した代謝状態へ移行することに伴っていた。低タンパク質食を14日間与えたラットでは、血漿中の必須・非必須アミノ酸濃度が複数変化し、食餌タンパク質の減少が全身のアミノ酸組成に影響することが確認された。
 肝臓ではロイシン酸化が低下した。一方、セリン生合成経路の酵素である3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(3PGD)と、アスパラギン合成酵素(ASNS)のmRNA発現が増加した(補足図1)。これらの変化は、利用可能なアミノ酸が減少した条件で、肝臓がロイシンの分解を抑えるとともに、セリンやアスパラギンの生合成に関わる応答を高めたことを示している。
 以上より、低タンパク質食は食餌中のタンパク質量を減らすだけでなく、肝臓にアミノ酸不足を反映した代謝応答を引き起こす。この変化と並行してFgf21発現が急速に誘導されることから、FGF21は肝臓で感知されたタンパク質不足を全身へ伝える内分泌シグナルである可能性が示された。


補足図1 食餌タンパク質制限はラットの肝臓アミノ酸代謝を変化させる


ラットに低タンパク質食を14日間与え、血漿中の必須アミノ酸濃度(a)・非必須アミノ酸濃度(b)、肝臓のロイシン酸化(c)、3PGDおよびASNSのmRNA発現(d)を測定した。低タンパク質食は血漿アミノ酸組成を変化させ、肝臓のロイシン酸化を低下させる一方、3PGDとASNSの発現を増加させた。n=8/群。*P<0.05、通常食群との比較。

3.FGF21を誘導するのはエネルギー不足ではなくタンパク質不足である

3.1 タンパク質制限とエネルギー制限はFGF21を異なる方向へ変化させる

 低タンパク質食によるFGF21上昇が、タンパク質不足そのものによるのか、摂取エネルギーの変化によるのかを切り分けるため、ラットを4群に分け、タンパク質摂取量とエネルギー摂取量を独立に調節した。対照群(通常タンパク質・通常エネルギー)に加え、タンパク質のみ制限する群、エネルギーのみ制限する群、両方を制限する群を設定した。
 タンパク質のみを制限した群では、肝臓Fgf21発現と血中FGF21濃度が大きく上昇した。一方、タンパク質摂取量を維持したままエネルギーのみを制限すると、両者はいずれも低下した。両方を制限した群でもFGF21は上昇したが、タンパク質のみを制限した群より程度は小さかった(図2a、b)。
 この結果は、タンパク質不足とエネルギー不足がFGF21を独立かつ拮抗的に制御する可能性を示している。タンパク質不足はFGF21を強く誘導する一方、タンパク質供給が保たれたエネルギー不足は、むしろFGF21を抑制すると考えられた。


図2 タンパク質制限はエネルギー制限、絶食、ケトジェニック食に伴うFGF21変化を規定する


ラットに通常タンパク質・通常エネルギー食、低タンパク質・通常エネルギー食、通常タンパク質・低エネルギー食、低タンパク質・低エネルギー食を4日間与え、血中FGF21濃度(a)と肝臓Fgf21 mRNA発現(b)を比較した。別のラットでは、48時間絶食後に低タンパク質食または高タンパク質食を等エネルギーで4時間再摂食させ、血中FGF21濃度を測定した(c)。マウスには通常食、ケトジェニック食、炭水化物補充ケトジェニック食、タンパク質補充ケトジェニック食を4日間与え、血中β-ヒドロキシ酪酸(d)とFGF21(e)を測定した。タンパク質制限はFGF21を強く誘導し、ケトジェニック食によるFGF21上昇もタンパク質補充によって減弱した。n=5/群。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、対照群との比較。#P<0.05、ケトジェニック食群との比較。

 各群の摂取条件を確認すると、タンパク質のみを制限した群ではエネルギー摂取量が維持され、エネルギーのみを制限した群ではタンパク質摂取量が対照群と同程度に保たれていた。また、タンパク質制限では肝臓の3PGDとASNS発現が増加したが、エネルギー制限のみではみられず(補足図2)、両者が肝臓に異なる代謝状態を引き起こすことが確認された。


補足図2 タンパク質制限とエネルギー制限はラットの肝臓代謝に異なる影響を及ぼす

ラットを通常タンパク質・通常エネルギー群、低タンパク質・通常エネルギー群、通常タンパク質・低エネルギー群、低タンパク質・低エネルギー群に分け、4日間飼育した。エネルギー摂取量(a)、タンパク質摂取量(b)、体重(c)、肝臓における3PGD(d)、ASNS(e)、IGF-1(f)のmRNA発現を測定した。タンパク質制限では3PGDとASNSが増加したが、エネルギー制限のみでは変化がみられなかった。n=5/群。*P<0.05、対照群との比較。

3.2 等カロリー再摂食でも低タンパク質食はFGF21を強く誘導する

 タンパク質摂取量の違いがFGF21上昇を直接規定するかを検証するため、ラットを48時間絶食させた後、低タンパク質食または高タンパク質食を4時間再摂食させた。両群では摂取エネルギー量を同程度に揃え、タンパク質摂取量のみが大きく異なる条件とした。
 絶食によって血中FGF21は上昇する傾向を示したが、低タンパク質食を再摂食すると絶食のみを大きく上回る上昇が生じた。一方、高タンパク質食を同量摂取した群ではこの上昇はみられなかった(図2c)。
 補足図3では、両群の4時間のエネルギー摂取量が同程度で、タンパク質摂取量だけが大きく異なることが確認された。したがってFGF21誘導の違いは、摂取エネルギー量ではなく食餌タンパク質量によると考えられた。


補足図3 絶食後の低タンパク質食または高タンパク質食の再摂食条件

ラットを48時間絶食させた後、低タンパク質食または高タンパク質食を4時間再摂食させた。再摂食期間中のエネルギー摂取量(a)、タンパク質摂取量(b)、解剖時の体重(c)を測定した。両群のエネルギー摂取量は同程度であったが、タンパク質摂取量は高タンパク質食群で大きく増加した。n=5/群。*P<0.05、対照群との比較。

3.3 ケトジェニック食によるFGF21上昇も低タンパク質摂取に依存する

 ケトジェニック食は血中FGF21を上昇させることが知られていたが、本研究で用いたケトジェニック食は脂質が多く炭水化物が少ないだけでなく、タンパク質含量も低かった。そこでFGF21上昇がケトーシスや炭水化物不足によるのか、低タンパク質によるのかを検証した。
 マウスに通常食、ケトジェニック食、炭水化物補充ケトジェニック食、タンパク質補充ケトジェニック食を4日間与えた。ケトジェニック食ではケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸と血中FGF21がともに上昇した。炭水化物を補充するとβ-ヒドロキシ酪酸は低下したがFGF21濃度は変わらず、逆にタンパク質を補充するとβ-ヒドロキシ酪酸は高値のままFGF21上昇は約半分に抑えられた(図2d、e)。
 したがって、ケトジェニック食によるFGF21上昇はケトーシスや炭水化物制限だけでは説明できず、食餌タンパク質の少なさが主要な誘導要因と考えられた。絶食時にはタンパク質とエネルギーの両方が不足することを踏まえると、従来飢餓応答とされてきたFGF21上昇の少なくとも一部は、タンパク質供給の低下による可能性がある。

4.ヒトでもタンパク質制限はFGF21を上昇させる

4.1 28日間の低タンパク質食で血中FGF21が増加する

 げっ歯類でみられたFGF21応答がヒトでも再現されるかを検証するため、タンパク質含量の異なる食餌を28日間摂取した臨床試験の血漿試料を解析した。この試験では、被験者に必要量を約40%上回るエネルギーを与えながら、対照食または低タンパク質食を摂取させた。
 対照食群では試験開始時から28日後まで血中FGF21濃度に有意な変化はみられなかった。一方、低タンパク質食群では28日後にFGF21が上昇し、ベースラインからの変化率は平均171%に達した(図3)。したがって、エネルギー不足を伴わない条件でも、食餌タンパク質の減少がヒトの血中FGF21を上昇させることが示された。


図3 食餌タンパク質制限はヒトの血中FGF21を上昇させる

ヒト被験者に、タンパク質含量の異なる食餌を28日間摂取させ、試験開始時と28日後の血漿FGF21濃度を測定した。対照食群(a)では大きな変化はみられなかったが、低タンパク質食群(b)ではFGF21が上昇した。ベースラインからの変化率を比較すると、低タンパク質食群では平均171%増加した(c)。n=8~9/群。*P=0.01。

4.2 ヒトの血中FGF21濃度には大きな個人差がある

 ヒト試験では、対照食群・低タンパク質食群の一部に、他の被験者より著しく高いFGF21濃度を示す例がみられた。これらの高値は試験開始時と28日後の両方で確認されており、食餌介入によって新たに生じたものではなかった。
 このことは、ヒトの血中FGF21濃度には大きな個人差があり、食餌タンパク質への応答を評価する際には絶対値だけでなくベースラインからの変化をみる必要があることを示している。今回の結果は、低タンパク質食によるFGF21上昇がげっ歯類に限られないことを支持する一方、被験者数は少なく、応答の大きさや個人差の要因については今後の検討が必要である。
 以上より、FGF21はマウスやラットだけでなく、ヒトでも食餌タンパク質の減少に応答して上昇する。とくにエネルギー摂取が不足していない条件でもFGF21が増加したことは、FGF21が単なる飢餓シグナルではなく、タンパク質不足を反映する内分泌因子であるという考えを支持する。

5.GCN2–eIF2α経路はタンパク質不足をFGF21誘導へ変換する

5.1 低タンパク質食は肝臓のeIF2αリン酸化を増加させる

 タンパク質制限によるFGF21誘導の上流機構を調べるため、肝臓の栄養応答経路を解析した。アミノ酸不足時にはGCN2が活性化され、翻訳開始因子eIF2αをリン酸化する。eIF2αリン酸化は全体的な翻訳を抑える一方、アミノ酸応答に関わる転写因子の選択的翻訳を促進する。
 低タンパク質食を与えたラットでは、肝臓のeIF2αリン酸化が増加した(図4c)。さらに、低タンパク質食、絶食後の低タンパク質食再摂食、ケトジェニック食など、肝臓Fgf21発現が増加した複数の条件でeIF2αリン酸化の上昇が共通してみられた(図4d)。したがって、食餌タンパク質の減少によるFGF21誘導には、肝臓のアミノ酸応答経路が関与すると考えられた。


図4 低タンパク質食による血中FGF21上昇にはGCN2とPPARαが関与する

マウスおよびラットに低タンパク質食を14日間与え、肝臓Ppara mRNA発現(a)とPPARα標的遺伝子の発現(b)を解析した。低タンパク質食を2日間与えたラットでは肝臓のeIF2αリン酸化をウェスタンブロットで測定し(c)、複数のタンパク質制限条件におけるeIF2αリン酸化を比較した(d)。さらに、野生型、Gcn2欠損、Ppara欠損マウスに通常食または低タンパク質食を4日間与え、血中FGF21濃度(e)と肝臓eIF2αリン酸化(f)を測定した。Gcn2またはPparaの欠損はいずれも血中FGF21の基礎値と低タンパク質食による上昇を低下させ、Gcn2欠損ではeIF2αリン酸化も減弱した。n=5~8/群。*P<0.05、**P<0.01、対照食群との比較。#P<0.05、野生型対照食群との比較。

5.2 GCN2欠損はFGF21の基礎値と低タンパク質食による誘導を低下させる

 GCN2がFGF21誘導に必要かを検証するため、野生型マウスとGcn2欠損マウスに通常食または低タンパク質食を4日間与え、血中FGF21濃度と肝臓eIF2αリン酸化を比較した。
 Gcn2欠損マウスでは、通常食条件下の血中FGF21濃度が野生型より低く、低タンパク質食によるFGF21上昇も大きく減弱した(図4e)。肝臓のeIF2αリン酸化も、基礎条件下・低タンパク質食下のいずれでも低下していた(図4f)。これらの結果から、GCN2は肝臓のeIF2αリン酸化を介して、血中FGF21の基礎値とタンパク質制限への応答の両方に寄与することが示された。
 ただし、Gcn2欠損マウスでも低タンパク質食によるeIF2αリン酸化と血中FGF21上昇は完全には消失しなかった。したがって、GCN2以外のeIF2αキナーゼや別の栄養感知経路もFGF21誘導に関与する可能性がある。

5.3 ATF4/ATF5はFGF21転写を担う候補因子である

 eIF2αがリン酸化されると全体的な翻訳は抑制されるが、ATF4など一部の転写因子は選択的に翻訳される。FGF21プロモーターにはアミノ酸応答配列(amino acid response element:AARE)が存在し、アミノ酸不足や小胞体ストレス時にATF4が結合することが先行研究で示されていた。
 この知見をもとに、本研究では低タンパク質食によってGCN2–eIF2α経路が活性化され、ATF4またはATF5がFGF21プロモーターのAAREに作用して転写を誘導するモデルを提示した(図6)。
 ただし、本研究ではATF4/ATF5の発現、プロモーター結合、FGF21誘導への必要性を直接検証していない。GCN2とeIF2αの関与は実験的に支持された一方、ATF4/ATF5を介した転写誘導は、先行研究に基づく提唱モデルとして位置づけられる。


図6 タンパク質摂取量によるFGF21制御と全身応答の仮説モデル

食餌タンパク質の減少により肝臓へのアミノ酸供給が低下すると、GCN2が活性化されてeIF2αリン酸化が増加する。続いてATF4/ATF5がFGF21プロモーターのAAREに作用し、肝臓でのFGF21産生と血中への分泌を高めると考えられた。PPARαは正常な血中FGF21濃度の維持に関与する。血中FGF21の増加は摂食量とエネルギー消費を高め、体重増加と体組成を変化させる。ATF4/ATF5を介する部分は、本研究の直接的な検証結果ではなく提唱モデルである。

6.PPARαはFGF21の基礎的な産生を支える

6.1 PPARα欠損は血中FGF21の基礎値と低タンパク質食による上昇を低下させる

 FGF21は絶食やケトジェニック食に応答して肝臓で誘導され、その転写には核内受容体PPARαが関与すると報告されていた。そこで、低タンパク質食によるFGF21上昇にもPPARαが必要かを検証するため、野生型マウスとPpara欠損マウスに通常食または低タンパク質食を4日間与え、血中FGF21濃度を比較した。
 Ppara欠損マウスでは、通常食条件下の血中FGF21濃度が野生型より大きく低下し、低タンパク質食によるFGF21上昇も著しく減弱した(図4e)。この結果から、PPARαは血中FGF21の基礎値を維持するとともに、タンパク質制限時の十分な応答にも必要であると考えられた。
 ただし、Ppara欠損マウスでも低タンパク質食によるFGF21上昇は完全には消失しなかった。したがって、PPARαはFGF21誘導を単独で担う必須スイッチというより、FGF21産生を可能にする基礎的な転写環境を支える因子として作用する可能性がある。

6.2 低タンパク質食によるPPARα活性化は確認されなかった

 PPARαが低タンパク質食によるFGF21誘導を直接仲介するなら、食餌介入によってPPARα発現や下流遺伝子の発現が増加すると予想される。そこで低タンパク質食を与えたマウスとラットの肝臓でPpara mRNAを測定し、ラットではPPARα標的遺伝子の発現も解析した。
 その結果、低タンパク質食によって肝臓Ppara mRNAは増加せず、PPARα標的遺伝子にも一貫した発現上昇はみられなかった(図4a、b)。したがって、PPARα欠損によって血中FGF21が低下する一方、低タンパク質食がPPARα活性そのものを高めてFGF21を誘導する証拠は得られなかった。
 また、Ppara欠損マウスでも低タンパク質食による肝臓eIF2αリン酸化は保たれていた(図4f)。このことは、GCN2–eIF2α経路とPPARαが単純な直列関係にあるのではなく、それぞれ異なる役割でFGF21産生を支えていることを示唆する。

6.3 GCN2とPPARαは異なる役割でFGF21応答に寄与する

 Gcn2欠損とPpara欠損はいずれも、通常食条件下の血中FGF21濃度と低タンパク質食による上昇を低下させたが、両者の作用様式は同じではなかった。Gcn2欠損では肝臓eIF2αリン酸化が低下し、アミノ酸不足を細胞内シグナルへ変換する過程が弱まった。一方、Ppara欠損では低タンパク質食によるeIF2αリン酸化応答が維持されていた。
 これらの結果から、GCN2はタンパク質不足をeIF2αリン酸化へ伝える経路として働き、PPARαは正常な血中FGF21濃度とタンパク質制限時の十分な応答を基礎的に支える因子と考えられる。すなわち、低タンパク質食によるFGF21誘導には、GCN2–eIF2α経路による栄養不足への応答と、PPARαによって維持されるFGF21発現基盤の両方が寄与する可能性がある。
 ただし、Gcn2欠損・Ppara欠損のいずれでも低タンパク質食によるFGF21上昇は完全には失われず、Gcn2欠損下でもeIF2αリン酸化は一部残存した。したがって、タンパク質制限時のFGF21誘導には、GCN2やPPARα以外のeIF2αキナーゼ、転写因子、栄養感知経路も関与すると考えられる。

7.FGF21は低タンパク質食への代謝・行動適応に必要である

7.1 FGF21欠損では低タンパク質食による摂食量増加が失われる

 低タンパク質食によって誘導されたFGF21が全身の適応応答に必要かを検証するため、野生型マウスとFgf21欠損マウスに通常食または低タンパク質食を14日間与え、摂食量、エネルギー消費、体重、体組成を比較した。
 野生型マウスでは低タンパク質食への切り替えによって摂食量が増加したが、Fgf21欠損マウスではこの増加はみられなかった(図5e)。したがって、低タンパク質食に対する代償的な摂食応答にはFGF21が必要であることが示された。
 この摂食量増加は、タンパク質濃度の低い食餌から必要なタンパク質量を確保しようとする適応反応と考えられる。ただし本研究ではFGF21が作用する組織や神経回路を直接解析しておらず、摂食行動を変化させる下流機構は明らかでない。


図5 FGF21は低タンパク質食による摂食量、エネルギー消費、体重、体組成の変化に必要である

野生型(a)およびFgf21欠損マウス(b)に通常食または低タンパク質食を14日間与え、エネルギー消費を継続的に測定した。食餌開始5~7日後の平均エネルギー消費(c)と開始前からの変化量(d)、14日間の平均摂食量(e)、体重(f)、脂肪量(g)、除脂肪量(h)の変化を比較した。野生型では低タンパク質食により摂食量とエネルギー消費が増加し、体重減少、脂肪増加の抑制、除脂肪量の低下が生じたが、Fgf21欠損マウスではこれらの応答が減弱または消失した。n=10/群。*P<0.05、**P<0.01。

7.2 FGF21は低タンパク質食によるエネルギー消費増加を仲介する

 野生型マウスでは、低タンパク質食への切り替え後にエネルギー消費が徐々に増加し、5~7日後には通常食群より約15%高くなった。この増加は明期・暗期の両方でみられ、1個体当たりの値だけでなく、体重または除脂肪量で補正した場合にも確認された(図5a~d、補足図4a、b)。
 一方、Fgf21欠損マウスでは低タンパク質食を与えてもエネルギー消費は増加しなかった。体重を共変量とした共分散分析でも、エネルギー消費増加は野生型でのみ認められ、Fgf21欠損マウスではみられなかった(補足図4c、f)。
 以上から、低タンパク質食によるエネルギー消費増加は体重や除脂肪量の違いだけでは説明できず、FGF21に依存する代謝応答であることが示された。


補足図4 低タンパク質食が野生型およびFgf21欠損マウスのエネルギー代謝と体組成に及ぼす影響


野生型およびFgf21欠損マウスに通常食または低タンパク質食を与え、体重当たり(a)および除脂肪量当たり(b)のエネルギー消費を解析した。体重とエネルギー消費の関係を共分散分析で評価し(c、f)、呼吸交換比(d)、身体活動量(e)、試験終了時の体重(g)、脂肪量(h)、除脂肪量(i)を比較した。低タンパク質食によるエネルギー消費増加は、補正方法にかかわらず野生型で認められたが、Fgf21欠損マウスではみられなかった。呼吸交換比は両遺伝子型で上昇し、身体活動量には食餌による有意な変化はみられなかった。n=10/群。*P<0.05、通常食群との比較。

7.3 FGF21は低タンパク質食による体重と体組成の変化を制御する

 摂食量とエネルギー消費の違いは、体重と体組成にも反映された。野生型マウスでは、低タンパク質食を14日間与えると体重が減少し、脂肪量の増加が抑えられるとともに除脂肪量も低下した(図5f~h)。
 これに対しFgf21欠損マウスでは、低タンパク質食下でも体重が維持され、脂肪量は増加する傾向を示し、除脂肪量の低下も野生型より小さかった。したがって、FGF21は低タンパク質食に応答して成長やエネルギー貯蔵を抑え、体重と体組成を再編成するために必要であると考えられた。
 ただし、野生型でみられた除脂肪量の大きな低下にもFGF21が関与するため、FGF21の作用を単純に脂肪蓄積の抑制や代謝改善だけで説明することはできない。低タンパク質条件では、FGF21が成長抑制を含む広い適応応答を調節すると考えられる。

7.4 低タンパク質食への応答のすべてがFGF21に依存するわけではない

 低タンパク質食は、野生型とFgf21欠損マウスの両方で呼吸交換比を上昇させた(補足図4d)。この上昇は炭水化物酸化の割合が高まったことを示し、低タンパク質食による基質利用の変化はFGF21がなくても生じる応答と考えられた。
 一方、身体活動量はFgf21欠損マウスで低い傾向を示したが、食餌による有意な変化はみられなかった(補足図4e)。この結果から、野生型でみられたエネルギー消費の増加は身体活動量の増加によるものではないと考えられた。
 以上より、FGF21は低タンパク質食による摂食量増加、エネルギー消費増加、体重・体組成の変化に必要である一方、呼吸交換比の上昇など一部の代謝応答はFGF21非依存的に生じることが示された。

8.結論:FGF21はタンパク質不足を全身へ伝える内分泌シグナルである

8.1 肝臓のアミノ酸感知はFGF21を介して全身応答へ変換される

 本研究では、食餌タンパク質の減少がエネルギー制限とは独立に肝臓Fgf21発現と血中FGF21濃度を上昇させることが示された。低タンパク質食によるFGF21誘導はマウス、ラット、ヒトで確認され、げっ歯類では肝臓のeIF2αリン酸化を伴っていた。
 この結果から、食餌タンパク質の減少によって肝臓へのアミノ酸供給が低下すると、GCN2–eIF2α経路を含むアミノ酸応答系が活性化され、肝臓でFGF21の産生と分泌が誘導されると考えられた。血中へ放出されたFGF21は摂食量、エネルギー消費、体重、体組成を変化させ、低タンパク質条件への全身的な適応を仲介する(図6)。
 すなわちFGF21は、肝臓で感知されたタンパク質不足を代謝と行動の変化へ変換する内分泌シグナルとして位置づけられる。タンパク質制限は局所的なアミノ酸応答にとどまらず、FGF21を介して個体全体の栄養利用、エネルギー消費、成長を再編成すると考えられる。

8.2 FGF21が作用する組織と下流機構は明らかでない

 Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食による摂食量とエネルギー消費の増加が失われ、体重と体組成の変化も大きく減弱した。FGF21が低タンパク質食への適応に必要であることは示されたが、どの組織への作用が各表現型を引き起こすのかは本研究では直接検証されていない。
 先行研究では、FGF21の脳内投与によって摂食量とエネルギー消費が増加すること、脳でのFGF21作用が概日活動、インスリン感受性、生殖、成長に関与することが報告されていた。このため、低タンパク質食による摂食行動とエネルギー消費の変化には、FGF21の中枢作用が関与する可能性がある。
 一方、FGF21が褐色脂肪組織や白色脂肪組織へ直接作用し、熱産生やエネルギー消費を高める可能性も残されている。脳と脂肪組織のどちらが主要な標的であるのか、あるいは複数組織への作用が組み合わさって全身応答を形成するのかは、今後の検証課題である。

8.3 本研究はタンパク質制限の感知から全身適応までを結びつけた

 本研究の重要な点は、タンパク質摂取量とエネルギー摂取量を独立に操作し、FGF21がエネルギー不足ではなくタンパク質不足に強く応答することを示した点にある。絶食後の再摂食実験やケトジェニック食への栄養素補充実験でも、摂取エネルギー量やケトーシスより、タンパク質供給量がFGF21濃度を大きく左右した。
 さらにGcn2欠損とPpara欠損を用いてFGF21誘導の上流機構を解析し、Fgf21欠損マウスによって全身表現型への必要性を検証した。これにより、タンパク質不足、肝臓のアミノ酸応答、FGF21分泌、摂食・エネルギー代謝・成長の変化という一連の階層が結びつけられた。
 一方、GCN2またはPPARαを欠損してもFGF21誘導は完全には消失せず、ATF4/ATF5を介する転写機構やFGF21の標的組織も直接検証されていない。ヒト試験も被験者数が少なく、血中FGF21濃度には大きな個人差がみられた。したがって、FGF21誘導を担う他の栄養感知経路、作用組織、ヒトにおける応答差の要因を明らかにする必要がある。
 以上より、FGF21は低タンパク質摂取を全身へ伝え、摂食行動、エネルギー消費、成長、体組成を協調的に変化させる内分泌因子である。本研究は、細胞内のアミノ酸感知が肝臓由来ホルモンを介して個体レベルの適応へ拡張される仕組みを示し、FGF21をタンパク質制限応答の中心的な内分泌ノードとして位置づけた。



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