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〜 おへその乱読1000本ノック #0127 ~ メチオニン制限は肝FGF21を介して全身代謝を再編成する

 第127回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
 これまで数回にわたり、アミノ酸欠乏を全身応答へ変換する内分泌ノードとしてFGF21に関する論文をとりあげてきました。今回もメチオニン制限とFGF21の関係を整理したFangら(2021)のミニレビューを読んでいきます。
 本論文は、メチオニン制限によって肝FGF21が誘導され、そのシグナルが全身の代謝応答へつながる仕組みを中心に、これまでの研究成果をまとめたミニレビューです。さらに、FGF21を薬剤として投与するのではなく、食事によって内因性FGF21を高めるという応用的な視点も示されています。

要旨
 FGF21は肝臓から分泌され、エネルギー収支、糖代謝、脂質代謝、体組成を調節する内分泌因子である。外因性FGF21は、げっ歯類や非ヒト霊長類において体重減少、エネルギー消費増加、インスリン感受性改善などの代謝作用を示すが、臨床応用には半減期、安全性、免疫原性などの課題がある。そこで本総説では、薬剤投与に代わり、食事によって内因性FGF21を持続的に誘導する戦略に注目する。
 とくにメチオニン制限は、肝Fgf21転写を速やかに活性化し、血中FGF21を持続的に上昇させる。この誘導にはGCN2–eIF2α–ATF4系などが関与し、増加したFGF21は主に中枢神経系へ作用して交感神経出力を高め、エネルギー消費、脂肪組織の熱産生・再編成、インスリン感受性改善を促す。一方、肝脂質代謝の一部にはFGF21非依存性の作用も存在する。
 メチオニン制限をヒトへ応用するには、メチオニンとシスチン量の精密な調節に加え、嗜好性、安全性、継続可能性を満たす食事設計が必要である。本総説は、FGF21を、アミノ酸不足という栄養情報を全身の代謝応答へ変換する内分泌シグナルとして位置づけ、栄養組成の操作によってその作用を引き出す可能性を示す。

1.イントロダクション:FGF21は栄養状態を全身代謝へ伝える内分泌因子である

 FGF21(fibroblast growth factor 21)は、FGFファミリーに属する内分泌性FGFである。局所で作用する一般的なFGFと異なり、FGF21を含むホルモン型FGFは血中へ分泌され、β-Klothoを補助因子としてFGF受容体に作用する。FGF21は肝臓で高発現し、エネルギー収支、体組成、糖代謝、脂質代謝を広く調節する代謝ホルモンとして注目されてきた。
 当初は絶食やケトン体上昇との関連が重視されていたが、その後の研究で、食事中のタンパク質量や必須アミノ酸の不足もFGF21を強く誘導することが明らかになった。とくにメチオニン制限では肝Fgf21の転写が速やかに活性化し、血中FGF21濃度が持続的に上昇する。これにより肝臓は、食事中のアミノ酸組成の変化を感知し、それをFGF21という内分泌シグナルへ変換する臓器として位置づけられるようになった。
 FGF21はエネルギー消費、脂肪組織の再編成、インスリン感受性などを調節することから、代謝疾患の治療標的としても期待されている。しかし本総説が注目するのは、FGF21自体を薬剤として投与する方法ではなく、食事組成の調節によって肝臓から内因性FGF21を持続的に誘導し、その代謝改善作用を利用する栄養学的アプローチである。
 本論文では、FGF21を単なる代謝ホルモンとしてではなく、食事中のアミノ酸情報を全身の代謝適応へ伝える内分泌シグナルと捉え、その代表的な栄養刺激であるメチオニン制限との関係を中心に論じる。

2.外因性FGF21は多彩な代謝改善作用を示す

2.1 FGF21は体重、糖代謝、脂質代謝を改善する

 FGF21の代謝作用は、培養細胞や肥満モデル動物への外因性投与によって明らかにされてきた。FGF21は3T3-L1脂肪細胞でGLUT1発現を増加させ、インスリン非依存的なグルコース取り込みを促進する。遺伝性肥満マウスへの投与では、体重、血糖、血中トリグリセリド、空腹時インスリンが低下し、過剰発現マウスや浸透圧ポンプによる持続投与でも同様の効果が認められた。
 FGF21投与では体重当たりの摂食量が増加するにもかかわらず、エネルギー消費も同時に高まるため体重は減少する。白色脂肪組織では熱産生関連遺伝子の発現が増加し、肝臓では脂質合成関連遺伝子が抑制される。高脂肪食マウスでは、肝糖産生の低下と脂肪組織におけるインスリン依存的グルコース取り込みの増加を伴って、全身のインスリン感受性も改善した。
 これらの作用はげっ歯類にとどまらず、糖尿病アカゲザルへの投与でも再現されており、FGF21は肥満や糖・脂質代謝異常を改善する薬理学的標的として期待されるようになった。

2.2 FGF21は中枢神経系と末梢組織の双方に作用する

 FGF21による全身代謝改善は、単一臓器への作用だけでは説明できない。中枢神経系では交感神経出力を高めてエネルギー消費を促進する一方、末梢では脂肪組織のグルコース取り込みを高め、肝臓では糖産生を抑制する。さらに、FGF21による脂肪量減少そのものが、二次的に各種代謝指標の改善につながる。
 このようにFGF21は、特定組織のみに作用する因子ではなく、中枢神経系・肝臓・脂肪組織を結びながら全身のエネルギー・糖・脂質代謝を協調的に調節する内分泌因子である。この広範な代謝作用が、FGF21を代謝疾患治療へ応用する研究の基盤となっている。

3.FGF21薬剤には限界があり、内因性FGF21誘導が代替戦略となる

3.1 FGF21アナログは臨床応用に向けて開発されてきた

 FGF21は強い代謝改善作用を示す一方、天然型は半減期が短く溶液中で不安定なため、そのまま治療薬として用いるには課題がある。そこで安定性や薬物動態を改善したFGF21アナログやFGF21受容体ミメティクスが開発され、げっ歯類や非ヒト霊長類で天然型と同様の代謝改善作用を示してきた。
 これらの薬剤は2型糖尿病患者を対象とした臨床試験にも進んだが、主要評価項目である血糖コントロールの改善は十分に達成されなかった。一方で血中脂質、肝脂肪、体重の低下は認められ、NASH患者では肝脂肪や肝線維化・肝障害マーカーの改善も報告された。

3.2 薬物療法の限界から栄養介入へ視点が移る

 FGF21アナログでは、血圧や心拍数の上昇、骨吸収マーカーの増加、抗FGF21抗体の産生なども報告されている。とくに長期投与を前提とする場合、安全性や免疫原性に加え、非ヒト霊長類とヒトで糖代謝応答が異なる可能性も課題となる。こうした問題から、FGF21製剤を慢性代謝疾患へ広く応用するには、なお検討が必要である。
 そこで本総説が提示する代替戦略が、外因性投与ではなく、肝臓での内因性FGF21の発現・分泌を持続的に高める方法である。肝臓は食事中のタンパク質や必須アミノ酸量の変化を感知し、それらが低下すると肝Fgf21転写を速やかに活性化する。このFGF21上昇は制限食を継続する間維持されることから、食事そのものを用いてFGF21の代謝作用を引き出すという発想につながる。すなわち本総説では、FGF21を投与する薬としてだけでなく、栄養組成の操作によって体内から誘導できる代謝シグナルとして捉え直す。

4.肝FGF21はアミノ酸不足によって誘導される

4.1 FGF21は絶食ホルモンからアミノ酸応答ホルモンへ再定義された

 FGF21は当初、絶食や飢餓に伴う脂肪酸・ケトン体の増加がPPARαを活性化し、肝Fgf21転写を誘導することから飢餓ホルモンとして位置づけられていた。しかしその後の研究では、極端な条件を除けば、ヒトFGF21調節における絶食やケトン体の寄与は限定的であることが示されている。
 一方、食事中のタンパク質や必須アミノ酸の不足は肝FGF21を強く誘導する。現在ではFGF21は単なる絶食応答因子ではなく、肝臓が栄養状態、とくにアミノ酸組成の変化を全身へ伝える内分泌シグナルとして捉えられている。

4.2 アミノ酸不足はeIF2α–ATF4系などを介してFgf21転写を誘導する

 Fgf21転写には多数の代謝シグナルや転写因子が入力しており、その制御は単一経路では説明できない。アミノ酸不足ではGCN2によるeIF2αリン酸化を介してATF4が活性化され、Fgf21転写が誘導される。小胞体ストレスでもPERK–eIF2α–ATF4経路を介してFgf21発現が促進されることから、異なる栄養・細胞ストレスがeIF2α–ATF4系へ収束し、肝FGF21産生を調節すると考えられる。
 ただし本総説では、Fgf21転写制御をATF4だけに単純化していない。多数の核内受容体や転写因子がFgf21プロモーターへ入力することから、肝臓の生理状態全体がFGF21発現量を規定すると考えられる。

4.3 タンパク質制限とメチオニン制限は肝FGF21を持続的に増加させる

 タンパク質制限とメチオニン制限(MR)は、いずれも肝FGF21の発現・分泌を増加させる。タンパク質制限では飼料中カゼインを20%から5%へ低下させる条件がよく用いられ、血中FGF21は24時間以内に上昇する。長期的な制限ではFGF21上昇が持続し、代謝健康の改善や寿命延長とも関連する。
 一方、MRではメチオニンを0.86%から0.17%へ低下させ、システインを除去する。これにより血中FGF21は開始後6時間以内に5〜10倍まで上昇し、MR食を継続する間その高値が維持される。タンパク質制限とMRはいずれもメチオニン・システイン摂取量を低下させることから、含硫アミノ酸の不足がFGF21誘導に重要であることが示唆される。

5.FGF21はメチオニン制限による全身代謝応答を媒介する

5.1 FGF21はエネルギー消費と脂肪組織の再編成に必要である

 タンパク質制限やメチオニン制限によって上昇するFGF21が、実際に代謝表現型を媒介するかは、Fgf21欠損マウスを用いて検証されてきた。タンパク質制限では、FGF21がエネルギー消費の増加や褐色・白色脂肪組織における熱産生関連遺伝子の誘導に必要であり、糖恒常性の改善にも関与する。
 MRでも同様に、Fgf21欠損マウスではエネルギー消費の増加や脂肪組織の熱産生応答が失われる。したがって肝臓由来のFGF21は、MRによるエネルギー代謝と脂肪組織再編成を担う主要な内分泌シグナルである。

5.2 脳内FGF21シグナルが交感神経系を介して全身応答を制御する

 FGF21によるエネルギー消費増加には中枢神経系が重要である。FGF21は脳内で作用して交感神経出力を高め、脂肪組織の熱産生やエネルギー消費を促進する。実際、脳内FGF21シグナルを欠損させると、タンパク質制限によるエネルギー消費増加は生じない。
 MRでも、中枢神経系でFGF21シグナルに必要なβ-Klothoを欠損させると、エネルギー消費の増加と脂肪組織の再編成が阻害される。これらの結果は、MRによって肝臓から分泌されたFGF21が主に脳へ作用し、交感神経系を介して全身のエネルギー代謝を調節することを示している(図1)。


図1 メチオニン制限による肝FGF21誘導と全身代謝応答


メチオニン摂取量の低下を肝臓が感知するとFGF21分泌が増加し、脳への作用を介して交感神経出力が高まる。その結果、褐色・白色脂肪組織の熱産生やベージュ化、エネルギー消費、インスリン感受性などが変化する。

5.3 メチオニン制限にはFGF21非依存性の作用も存在する

 ただし、MRによるすべての代謝変化がFGF21に依存するわけではない。Fgf21欠損マウスでも、MRによる肝臓の脂質合成関連遺伝子の抑制は維持される。したがってFGF21は、MRによるエネルギー消費増加や脂肪組織再編成には必須である一方、肝脂質代謝の一部はFGF21非依存的な経路によって制御される。
 このことからMRは、単一のFGF21経路のみで全身代謝を変化させるのではなく、FGF21依存性の内分泌応答とFGF21非依存性の肝内応答を並行して作動させる栄養介入と考えられる。

6.将来展望:食事によるFGF21誘導を代謝改善へ応用できるか

6.1 メチオニン制限食の実装には嗜好性という壁がある

 メチオニン制限(MR)を食事療法として実装するには、まずメチオニン摂取量を十分に低下させる必要がある。前臨床研究では、元素アミノ酸を用いてメチオニンを約0.17%まで低下させ、シスチンを除去した食餌が用いられてきた。しかしヒトでは、元素アミノ酸特有の苦味や金属味によって継続摂取が難しく、実用上の大きな障壁となる。
 さらに、MRの効果はメチオニン量だけでなくシスチン量にも左右される。シスチンはメチオニン要求量を低下させるため、少量の添加でもMRによるエネルギー消費増加や脂肪量減少を弱める。したがって、治療食としてMRを成立させるには、メチオニンとシスチンの総量を精密に調節する必要がある。

6.2 タンパク質中の含硫アミノ酸を操作する食事戦略が考えられる

 タンパク質制限による代謝改善の一部は、メチオニンとシスチン摂取量の低下によって説明できる。そこで、タンパク質摂取量を大きく減らすのではなく、食品タンパク質中の含硫アミノ酸量を調整する方法が検討されている。実際、カゼイン中のメチオニンとシスチンを選択的に酸化除去したタンパク質では、嗜好性を維持しながらMRと同様の代謝効果を再現できることが示されている。
 この方法は元素アミノ酸食よりも実用性が高く、軽度のタンパク質制限と特定タンパク質のメチオニン低減を組み合わせることで、MRの代謝効果を引き出す治療食へ発展する可能性がある。

6.3 FGF21作用部位の解明とヒトへの応用が今後の課題である

 MRによる代謝応答の多くはFGF21に依存するが、その作用部位は完全には明らかになっていない。たとえば脂肪組織のインスリン感受性改善が、FGF21の脂肪組織への直接作用によるのか、中枢FGF21シグナルを介した交感神経出力増加の二次的作用によるのかは、なお検証が必要である。視床下部でFGF21に応答する神経細胞集団の同定も今後の課題である。
 さらに、MRをヒトへ応用するには、FGF21を十分に誘導できる栄養組成を保ちながら、嗜好性、安全性、栄養学的妥当性を両立させなければならない。そのためには食品科学、栄養学、臨床研究を組み合わせ、実際に継続可能な食事として有効性を検証していく必要がある。



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