〜 おへその乱読1000本ノック #0128 ~ mTORC1はp38 MAPK–p53経路を介して腸管幹細胞老化を促進する
第128回 おへその乱読1000本ノックへようこそ。
これまで、mTORC1やGCN2、FGF21などを中心に、栄養状態が細胞内シグナルや全身代謝応答へ変換されるメカニズムをみてきました。今回から視点を組織レベルへ移し、腸管幹細胞、肝臓、脂肪、筋肉が栄養シグナルにどう応答し、それが老化や組織機能にどうつながるのかをみていきます。
Heら(2020)は、加齢に伴って腸管幹細胞や前駆細胞でmTORC1が過剰に活性化し、MKK6–p38 MAPK–p53ストレス応答経路を介して幹細胞数と増殖能を低下させることを示しました。その結果、腸絨毛の大きさや密度、再生能、栄養吸収能まで低下します。
つまり本論文は、栄養感知シグナルであるmTORC1が、どのように組織幹細胞の老化へ変換されるのかを分子機構として調べています。

要旨
腸管上皮はLgr5陽性腸管幹細胞により絶えず更新されるが、加齢に伴い幹細胞数と再生能が低下し、絨毛構造や栄養吸収能も損なわれる。本研究では、老齢マウスの腸管幹細胞・前駆細胞でmTORC1が過剰活性化していることを示した。さらに、腸管幹細胞でmTORC1抑制因子Tsc1を欠損させると、若齢期には陰窩増殖が亢進するものの、その後は幹細胞数・増殖能が低下し、絨毛萎縮、栄養吸収低下、損傷後の再生不全といった早期老化表現型が現れた。
分子機構としては、mTORC1活性化はMkk6 mRNA量の増加ではなくMKK6タンパク質合成の促進を介してp38 MAPK–p53ストレス応答経路を増強し、これが腸管幹細胞・TA前駆細胞の増殖を抑制することで幹細胞機能と絨毛維持能の低下を招いていた。実際、p38αをコードするMapk14の抑制やp53欠損は、mTORC1過剰活性化による幹細胞・絨毛老化を抑制した。
また、老齢マウスへのラパマイシンまたはp38 MAPK阻害剤SB203580投与は、絨毛構造、栄養吸収能、細胞増殖、損傷後再生能を部分的に改善し、老齢マウス由来オルガノイドの増殖・陰窩形成能も回復させた。以上から、腸管幹細胞におけるmTORC1の持続的活性化はMKK6–p38 MAPK–p53経路を介してストレス応答を増幅し、幹細胞機能低下と腸管組織老化を駆動することが示された。
1.腸管幹細胞の老化とmTORC1
1.1 腸管上皮はLgr5陽性幹細胞によって絶えず更新される
小腸の絨毛は栄養吸収を担う主要構造であり、吸収能は絨毛の大きさや密度に依存する。絨毛表面の腸管上皮は約4~5日周期で更新され、その供給源は陰窩底部に存在するLgr5陽性腸管幹細胞(ISC)である。ISCは分裂して一過性増幅(TA)前駆細胞を生み、TA細胞はさらに増殖したのち吸収上皮細胞や分泌系細胞へ分化する。すなわちISCの維持と増殖こそが、絨毛構造と腸管機能を支える基盤といえる。
加齢マウスではLgr5陽性ISCの数や再生能の低下が報告されている。しかし、この幹細胞機能低下が絨毛構造・栄養吸収能の低下へどう結びつくのか、またその上流でどのシグナルが働くのかは十分解明されていなかった。
1.2 mTORC1は腸管幹細胞の増殖と老化をつなぐ候補経路である
mTORは栄養素・成長因子を感知し細胞成長と代謝を制御するキナーゼで、mTORC1・mTORC2という2つの複合体を形成する。このうちmTORC1はタンパク質合成や同化反応を促進し、腸管上皮の恒常性維持や損傷後再生にも必須である。一方でmTORC1の慢性的活性化は老化促進と関連し、食事制限やラパマイシンによる抑制は寿命・健康寿命の延長につながることが知られている。
しかし腸管幹細胞におけるmTORC1の役割は単純ではない。ISCや前駆細胞の増殖を支える一方、食事制限に対するISC応答への関与については相反する報告もある。そこで本研究では、自然老化マウスと遺伝学的mTORC1活性化モデルを組み合わせ、mTORC1が腸管幹細胞と絨毛の老化を実際に駆動するのか、またその下流でどの分子経路が働くのかを検証した。
2.研究デザイン:mTORC1と腸管老化の因果関係を段階的に検証する
本研究では、自然老化マウスの観察から出発し、Tsc1欠損によるmTORC1活性化モデル、Mapk14およびTrp53の遺伝学的検証、さらにラパマイシンとSB203580による薬理学的介入を組み合わせることで、mTORC1が腸管老化を駆動する因果関係を段階的に検証した。加えて、栄養吸収試験、放射線損傷後再生試験、オルガノイド培養、分子解析を用いて、組織機能から分子機構までを多層的に評価した(参考図1)。

自然老化モデル(若齢3.5か月齢と老齢17.5か月齢の比較)を起点に、Villin-Cre;Tsc1 f/fおよびLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスによるmTORC1活性化、Mapk14およびTrp53の遺伝学的操作、ラパマイシンとSB203580による薬理学的介入を行った。これらのモデルに対して、栄養吸収、放射線損傷後再生、オルガノイド増殖能、MKK6の翻訳制御を評価し、mTORC1–p38 MAPK–p53経路による腸管老化の仕組みを段階的に検証した。
2.1 自然老化マウスで腸管構造と機能の変化を評価する
はじめに通常飼育マウスを年齢別に比較し、自然老化に伴う腸管変化を評価した。若齢(3.5か月齢)と老齢(17.5か月齢)を主な比較対象とし、絨毛・陰窩の高さと数、Ki67・PCNA陽性増殖細胞数、Lgr5陽性ISCの数と増殖状態を解析した。さらにp-S6、p-4E-BP1、p-p70S6Kを指標にmTORC1活性を評価し、加齢に伴う腸管機能低下との関係を調べた。
機能評価では16時間絶食後にグルコース・アミノ酸・脂肪酸の吸収試験を実施した。アミノ酸は経口投与後の血中濃度をHPLCで測定し、脂肪酸は蛍光標識脂肪酸の小腸への取り込みを評価した。これにより組織像に加え、実際の栄養吸収能を定量的に把握した。
2.2 Tsc1欠損によってmTORC1を遺伝学的に活性化する
次に、mTORC1活性化が腸管老化の原因となるかを検証するため、その抑制因子TSC1を欠損させた。Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスでは腸管上皮細胞全体でTsc1を欠損させ、Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスではLgr5陽性ISCを起点として条件的に欠損させた。
Lgr5-CreERT系ではタモキシフェンを3日間投与してCreERTを活性化した。Lgr5-CreERT;tdTomatoマウスによる系譜追跡では、この操作により約65%の陰窩が標識され、その子孫細胞がほぼすべての絨毛へ広がることを確認した(補足図4a)。したがって本系では、ISCで生じたmTORC1活性化がその後の陰窩・絨毛系全体へ及ぼす長期的影響を追跡できる。

補足図4 Lgr5陽性腸管幹細胞の系譜追跡とTsc1欠損後のmTORC1活性化
a Lgr5-CreERT;Tomatoマウスを用いた系譜追跡。8週齢でタモキシフェンを3日間投与し、11週齢で解析した。約65%の陰窩がTomato陽性となり、ほぼすべての絨毛でTomato陽性細胞が認められた。Lgr5陽性ISCから生じた子孫細胞が陰窩から絨毛へ広がることを示す。 b Lgr5-EGFP-CreERT;Tsc1 f/fマウスにタモキシフェンを投与してTsc1を欠損させ、p-S6免疫染色によりmTORC1活性を評価した。タモキシフェン投与群では2か月齢ですでに広範なp-S6上昇が認められ、8か月齢ではさらに強いmTORC1活性化がみられた。対照のvehicle投与群ではこのような活性化は認められなかった。
2.3 p38 MAPKとp53を遺伝学的に操作して下流経路を検証する
mTORC1下流で老化を媒介する分子を特定するため、p38αをコードするMapk14およびTrp53をTsc1欠損モデルと組み合わせた。Mapk14の欠損または半量不全によってp38 MAPK活性を低下させ、mTORC1過剰活性化に伴う絨毛萎縮、ISC減少、栄養吸収低下、再生障害が抑制されるかを検証した。
さらにTrp53を欠損させ、p53がmTORC1–p38 MAPK経路下流で腸管幹細胞老化を実行する因子かを評価した。このようにTsc1→Mapk14→Trp53と上流から下流へ遺伝学的操作を積み重ね、経路の因果関係を段階的に検証した。
2.4 ラパマイシンとSB203580によって薬理学的な可逆性を検証する
遺伝学的解析に加え、mTORC1阻害剤ラパマイシン(RAP、3 mg/kg)とp38 MAPK阻害剤SB203580(5 mg/kg)を投与し、老齢マウスおよびTsc1欠損マウスで生じた腸管老化表現型が改善するかを調べた。長期投与後の評価では薬剤の急性作用を避けるため、最終投与から少なくとも3日間空けて実験を行った。
この薬理学的介入により、mTORC1・p38 MAPKの活性化が老化に伴い単に観察される現象なのか、それとも維持されている老化表現型に実際に必要なのかを検証した。
2.5 幹細胞機能と分子機構を複数の評価系で検証する
ISCの再生能力を評価するため、マウスに5 Gyのγ線を照射し、2、3、6日後に腸管を解析した。照射後早期にはTUNEL、PCNA、Ki67を用いて細胞死と増殖を測定し、6日後には絨毛・陰窩構造の回復から再生能を評価した。
さらに、陰窩を単離して三次元培養するminigutオルガノイド系を用い、ISC・前駆細胞の増殖能と長期維持能をex vivoで評価した。Lgr5-GFP陽性ISCはFACSで分離し、必要に応じて細胞数や増殖状態を解析した。オルガノイドはR-Spondin、Noggin、EGF含有培地で培養し、継代後の増殖維持能やラパマイシン・SB203580への応答も調べた。
また、MKK6の制御機構についてはqPCR、Western blotting、35S-メチオニン取り込み試験を組み合わせ、mTORC1活性化がMkk6転写ではなくMKK6タンパク質合成を変化させるかを検証した。35S標識後にMKK6を免疫沈降して新規合成量を測定し、翻訳レベルの制御を直接評価した。
3.自然老化では腸管幹細胞機能と栄養吸収が低下する
3.1 加齢により絨毛と陰窩が縮小する
まず通常飼育マウスを年齢別に比較し、自然老化に伴う小腸の変化を調べた。16~17.5か月齢マウスでは2~12か月齢マウスと比べ、近位・遠位空腸の絨毛高と絨毛数が低下していた。陰窩の高さと数も減少し、陰窩内のKi67陽性TA前駆細胞は減少していた(図1a、e)。加齢に伴う絨毛の縮小・密度低下には、供給源である陰窩と増殖性前駆細胞の減少が関与すると考えられた。
この変化は、上皮細胞のアポトーシスや細胞老化、分化異常の増加だけでは説明できなかった。絨毛サイズで補正すると、アポトーシス細胞、SA-β-gal陽性細胞、上皮細胞分化に明らかな加齢差はなく、陰窩・絨毛比も維持されていた。むしろ陰窩数とTA細胞の増殖低下が、絨毛構造の老化と強く結びついていた。

図1 老齢マウスでは腸管幹細胞・前駆細胞のmTORC1活性化と絨毛機能低下がみられる
a–d 17.5か月齢マウスでは若齢マウスと比較して、絨毛・陰窩構造の悪化(右パネル:定量データ)(a)、栄養吸収能の低下(b)、IR照射2日後の陰窩数・増殖細胞数減少に対する感受性増加(c)、照射6日後の絨毛・陰窩の高さ・数減少を伴う再生障害(d)が認められた。これらの変化は、16か月齢からのラパマイシン(RAP、3 mg/kg、1.5か月間投与)により部分的に改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。 e 17.5か月齢マウスでは陰窩の高さ・数、増殖性TA細胞数が減少したが、RAP投与により改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。 f 近位空腸正中切片の代表像。陰窩細胞のmTORC1活性化は加齢に伴い増加した。 g Western blottingにより、17.5か月齢マウスの陰窩は3.5か月齢マウスよりmTORC1活性が高かった(単離陰窩を直接溶解して解析)。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。 h 17.5か月齢マウス由来のLgr5陽性ISCは3.5か月齢マウス由来ISCよりmTORC1活性化細胞の割合が高く、この増加はRAP処理で抑制された。Lgr5陽性ISCはLgr5-GFP-CreERTマウス小腸からFACSで分離し、p-S6免疫染色で評価した(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 6。**P < 0.01(Studentのt検定)。
3.2 加齢により栄養吸収と損傷後再生が低下する
絨毛構造の変化は機能低下を伴っていた。16~17.5か月齢マウスではL-グルコース、アミノ酸、脂肪酸の吸収能が若齢マウスより低下しており、加齢による吸収表面の減少が実際の栄養吸収障害につながることが示された(図1b)。
さらに老齢マウスでは、5 Gyのγ線照射後に陰窩数・増殖細胞数が大きく減少し、アポトーシス細胞が増加した。照射6日後も絨毛・陰窩の高さ・数の回復は不十分で、損傷後再生能の低下が認められた(図1c、d)。すなわち腸管老化では、恒常状態での栄養吸収だけでなく、損傷後に組織を再構築する能力も低下する。
3.3 老齢腸管ではISC・TA細胞のmTORC1が過剰に活性化する
この幹細胞・前駆細胞機能低下の上流を調べたところ、mTORC1活性に明瞭な加齢変化が認められた。p-4E-BP1・p-S6の免疫染色では、加齢に伴い腸管上皮、とくに陰窩細胞でmTORC1活性が上昇していた(図1f)。単離陰窩のWestern blottingでも、17.5か月齢マウスは3.5か月齢マウスよりmTORC1活性が高かった(図1g)。
さらにLgr5-GFP-CreERTマウスからFACSで分離したLgr5陽性ISCのp-S6解析でも、老齢マウスではmTORC1活性化細胞の割合が増加していた(図1h)。したがって加齢に伴うmTORC1活性化は腸管上皮全体に一様に生じるのではなく、組織更新を担うISC・TA細胞で顕著に起こることが示された。
以上から、自然老化した腸管では、ISC・TA細胞の減少と増殖低下、絨毛構造の退縮、栄養吸収・再生能の低下と並行してmTORC1活性が上昇することが明らかとなった。ただしこの段階では、mTORC1活性化が老化の原因か結果かは区別できない。そこで次に、Tsc1欠損によりmTORC1を人為的に活性化し、両者の因果関係を検証した。
4.mTORC1の持続的活性化は腸管の早期老化を引き起こす
4.1 Lgr5陽性ISCでTsc1を欠損させると早期老化が生じる
自然老化した腸管ではISC・TA細胞のmTORC1活性が上昇していたが、これだけでは活性化が老化の原因とは言えない。そこでmTORC1抑制因子Tsc1を欠損させ、mTORC1を遺伝学的に持続活性化した。Villin-Cre;Tsc1 f/f マウスでは、若齢期に陰窩の増大がみられた後、7か月齢以降に絨毛高・絨毛数、栄養吸収能、損傷後再生能が低下し、自然老化に類似した表現型が早期に現れた。
さらにmTORC1活性化の起点をISCに限定するため、1か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスにタモキシフェンを投与した。2か月齢ではmTORC1活性化と陰窩の増大・増加がみられたが、絨毛サイズや栄養吸収能に明らかな低下はなかった。一方、7~8か月齢になると絨毛高・絨毛数が低下し、自然老化した腸管に類似した構造変化が現れた(図2a、b)。

図2 Lgr5陽性腸管幹細胞におけるTsc1欠損は絨毛の早期老化を引き起こす
a Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスにおけるTsc1条件的欠損およびラパマイシン(RAP)投与の実験スケジュール。b H/E染色・Ki67免疫染色により、Lgr5陽性ISCでのTsc1欠損は2か月齢で陰窩の過増殖を、8か月齢では近位空腸の絨毛構造悪化を引き起こすことが示された。これらの変化はRAP投与で部分的に改善した(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 8。**P < 0.01(Studentのt検定)。c 8か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスではL-グルコース、アミノ酸、脂肪酸の吸収能が低下し、RAP投与により部分的に改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。d、e 8か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、IR照射2日後の陰窩数・増殖細胞数減少に対する感受性増加(d)、6日後の絨毛・陰窩の高さ・数の回復障害(e)が認められ、いずれもRAP投与により部分的に改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。
4.2 Tsc1欠損は栄養吸収と損傷後再生を低下させる
8か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、L-グルコース、アミノ酸、脂肪酸の吸収能が低下していた(図2c)。一方、2か月齢ではmTORC1が活性化していても栄養吸収能は正常だったことから、mTORC1活性化自体が吸収機構を直接阻害するのではなく、絨毛構造の悪化を介して吸収能を低下させると考えられた。
損傷への応答も自然老化とよく似ていた。8か月齢のTsc1欠損マウスでは、5 Gyのγ線照射2日後に陰窩数・増殖細胞数がより大きく減少し、アポトーシスが増加した(図2d)。6日後にも絨毛・陰窩の再生は不十分だった(図2e)。したがって、ISCにおけるmTORC1の持続的活性化だけで、自然老化にみられる構造低下、栄養吸収障害、ストレス感受性上昇、再生不全を再現できた。
4.3 ラパマイシンはTsc1欠損による早期老化を部分的に回復させる
Tsc1欠損による早期老化がmTORC1活性に依存するかを確かめるため、6.5か月齢から1.5か月間ラパマイシンを投与した。その結果、8か月齢でみられた絨毛・陰窩構造の悪化、栄養吸収低下、IR照射後の増殖低下・再生障害はいずれも部分的に改善した(図2b~e)。
以上から、ISCにおけるmTORC1の持続的活性化は腸管老化に付随する変化ではなく、絨毛構造・機能の早期老化を実際に駆動する因子であることが示された。ただしTsc1欠損マウスでは、若齢期の陰窩過増殖が後期には萎縮へと転じる。この二相性の変化が、若齢期の過増殖によって後の幹細胞機能低下が生じた結果なのか、それとも別の機構によるのかが次の問題となった。
5.mTORC1活性化は腸管幹細胞に二相性の作用を示す
5.1 若齢期のmTORC1活性化は陰窩とISCの増殖を促進する
Tsc1欠損によるmTORC1活性化の影響は年齢によって異なっていた。Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、2か月齢に陰窩の大きさ・数、Lgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数がいずれも増加した。一方8か月齢ではこれらが逆に減少し、増殖性ISCも低下した(図3e)。すなわちmTORC1の持続的活性化は、若齢期にはISC・前駆細胞の増殖を促進するが、時間の経過とともに作用が反転する。
8か月齢では絨毛を構成する上皮細胞数とKi67陽性TA細胞数も減少していた(図3a、b)。一方、陰窩・絨毛比は変化しておらず(図3c)、絨毛密度の低下は陰窩数の減少と、絨毛高の低下はTA細胞の増殖低下と結びついていた。

図3 Tsc1欠損はオルガノイドの継代能とISC・前駆細胞機能を低下させる
a、b 8か月齢のLgr5-GFP-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは腸管上皮細胞数(a)・増殖性TA細胞数(b)が減少した。データは平均±SEM、各群N = 4。**P < 0.01(Studentのt検定)。c 同マウスで陰窩・絨毛比に変化は認められなかった。N = 4。d Villin-Cre;Tsc1 f/fマウス由来のTsc1欠損陰窩は、初期のminigutオルガノイド培養ではサイズと陰窩数が増加したが、継代を重ねると急速に増殖維持能を失った(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。e 8か月齢のLgr5-GFP-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、Lgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数、増殖性ISC数が減少した(PCNA・GFP免疫染色で評価)。データは平均±SEM、各群N = 5。**P < 0.01(Studentのt検定)。f 自然老化した17.5か月齢マウスでもISC数・増殖性ISC数が減少した。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。
5.2 Tsc1欠損オルガノイドは初期増殖後に継代能を失う
この二相性はex vivoでも再現された。2か月齢のVillin-Cre;Tsc1 f/fマウスから陰窩を単離してminigutオルガノイドを作製すると、Tsc1欠損群では初期にオルガノイドが大型化し、形成される陰窩数も増加した。しかし継代を続けると、3継代目までに増殖・維持能が急速に低下した(図3d)。
したがってmTORC1活性化は、単純にISC増殖を促進し続けるのではなく、短期的には増殖を高める一方、持続すると幹細胞・前駆細胞の長期維持能を低下させるという明瞭な二相性を示す。
5.3 早期老化は若齢期の陰窩過増殖を経なくても生じる
では、後期のISC機能低下は、若齢期に過剰増殖した幹細胞が単純に消耗した結果なのか。これを検証するため、若齢期の過増殖期を避け、6.5か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでTsc1欠損を誘導した。
その結果、7.5か月齢では陰窩過増殖は認められなかったにもかかわらず、8か月齢になると絨毛・陰窩構造の悪化と栄養吸収能の低下が生じた(補足図6)。つまりmTORC1による早期老化は、若齢期の陰窩過増殖を必須の前段階とはしない。
以上から、mTORC1の持続的活性化によるISC老化は「過剰増殖→幹細胞機能低下」という単純な経路だけでは説明できない。むしろmTORC1活性化自体が、時間依存的にISC・TA細胞の増殖能・維持能を抑える別の機構を作動させると考えられた。そこで次に、mTORC1下流でこの転換を担う分子経路を探索した。

補足図6 若齢期の陰窩過増殖を経なくてもTsc1欠損は絨毛の早期老化を引き起こす
a 6.5か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでTsc1欠損を誘導する実験スケジュール。b、c 6.5か月齢でのTsc1欠損は、8か月齢で絨毛・陰窩構造の異常(b)と栄養吸収能の低下(c)を引き起こした(図b右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。d 6.5か月齢でタモキシフェン投与したLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、7.5か月齢に陰窩過増殖は認められなかった。
6.mTORC1はMKK6タンパク質合成を高めてp38 MAPKを活性化する
6.1 Tsc1欠損ではMKK6–p38 MAPK経路が活性化する
mTORC1の持続的活性化がISC・TA細胞の増殖低下へ転じる分子機構を調べるため、Tsc1欠損腸管と対照群を204種類の抗体からなるアレイで比較した。その結果、p38 MAPK、MEK1、p53など複数のシグナル分子に変化が認められ、このうちストレス応答と老化に関与するp38 MAPKに注目した。
Western blottingでは、Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスの絨毛とTsc1欠損オルガノイドの双方で、p38 MAPK上流キナーゼMKK6のタンパク質量とp38 MAPKリン酸化が増加していた(図4a、b)。したがってmTORC1の持続的活性化は、MKK6–p38 MAPKストレス応答経路を増強すると考えられた。

図4 Tsc1欠損はmTORC1依存的にMKK6タンパク質量を増加させる
a、b Western blottingにより、Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスの絨毛(a)およびTsc1欠損オルガノイド(b)では、対照群と比べMKK6タンパク質量、p38 MAPK活性化、mTORC1活性化が増加した(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、N = 4(a)、N = 3(b)。**P < 0.01(Studentのt検定)。c Tsc1欠損は陰窩のMkk6 mRNA量を有意に変化させなかった。N = 4。d Tsc1欠損ではMKK6への放射標識メチオニン取り込みが増加し、RAP処理により抑制された。初代腸管上皮前駆細胞を35S-Met/Cysで1時間パルス標識し、MKK6を免疫沈降して新規合成量を評価した(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05(Studentのt検定)。e 8か月齢のLgr5-GFP-CreERT;Tsc1 f/fマウスの陰窩では、2か月齢と比較してMKK6発現、p38 MAPK活性化、mTORC1活性化がさらに増加していた(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05(Studentのt検定)。
6.2 mTORC1はMkk6転写ではなくMKK6タンパク質合成を促進する
MKK6増加の制御段階を調べると、Tsc1欠損陰窩ではMkk6 mRNA量に有意な変化はなかった(図4c)。一方、35S-メチオニンで新規タンパク質合成を測定すると、Tsc1欠損細胞ではMKK6への取り込みが増加し、この増加はラパマイシンにより抑制された(図4d)。したがってmTORC1は、Mkk6の転写ではなくMKK6タンパク質合成を促進すると考えられた。
この機構は補足実験でも支持された。Tsc1欠損マウス胎仔線維芽細胞(MEF)ではMKK6タンパク質・p38 MAPK活性が増加した一方、Mkk6 mRNA量に変化はなく、新規合成MKK6タンパク質が増加していた。またMKK6をsiRNAでノックダウンするとp38 MAPK活性化が低下し、MKK6増加がp38 MAPK活性化の上流にあることが確認された(補足図7a~d)。
mTORC1は、5′末端オリゴピリミジン(TOP)またはTOP-likeモチーフをもつmRNAの翻訳を促進することが知られている。マウスMkk6 mRNAの5′非翻訳領域にも複数のTOP/TOP-like配列候補が認められ(補足図7e)、MKK6がmTORC1による翻訳制御の標的となる可能性が示唆された。ただし本研究では、これらの配列自体がMKK6翻訳促進に必須であることまでは直接検証していない。

補足図7 Tsc1欠損はMKK6タンパク質合成を高めてp38 MAPKを活性化する
a Tsc1欠損MEFではMKK6発現・p38 MAPK活性化が増加し、RAP処理により抑制された。b Tsc1欠損はMkk6 mRNA量を有意に変化させなかった。N = 6。c Tsc1欠損MEFでは放射標識MKK6タンパク質量が増加した。データは平均±SD、5回の反復実験。**P < 0.01(Studentのt検定)。d MKK6のsiRNAノックダウンにより、Tsc1欠損MEFでのp38 MAPK活性化が低下した。データは平均±SD、3回の反復実験。**P < 0.01(Studentのt検定)。e マウスMkk6 mRNAの5′非翻訳領域に存在するTOP/TOP-like配列候補。f 8か月齢のLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、陰窩細胞のp38 MAPK活性化が増強していた。
6.3 加齢に伴ってmTORC1–MKK6–p38 MAPK経路はさらに増強される
Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスの陰窩を2か月齢と8か月齢で比較すると、8か月齢ではmTORC1活性の上昇に伴いMKK6タンパク質量とp38 MAPK活性もさらに増加していた(図4e)。p-p38免疫染色でも、8か月齢の陰窩細胞でp38 MAPK活性化の増強が確認された(補足図7f)。
以上から、mTORC1の持続的活性化はMkk6転写ではなくMKK6タンパク質合成を促進し、その結果p38 MAPKストレス応答を増強することが示された。若齢期に増殖を促進するmTORC1が、時間の経過とともにISC・TA細胞の増殖抑制へ転じる背景には、このMKK6–p38 MAPK経路の増強があると考えられた。次に、このp38 MAPK活性化が実際に腸管幹細胞老化を引き起こすのかを遺伝学的に検証した。
7.p38 MAPK–p53経路が腸管幹細胞老化を実行する
7.1 Mapk14の抑制はmTORC1による早期老化を防ぐ
p38 MAPK活性化がmTORC1によるISC老化の原因かを検証するため、p38αをコードするMapk14をTsc1欠損モデルで抑制した。Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスでMapk14を欠損させると、8か月齢でみられる老化様の絨毛・陰窩萎縮が抑えられ、むしろ陰窩の増大・融合が認められた。これはp38αが、mTORC1活性化下で増殖を抑える方向に働くことを示している。
さらにLgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでは、Mapk14を1アレル欠損させるだけでも、8か月齢での絨毛構造悪化、栄養吸収低下、損傷後再生障害が抑制された(図5a~c)。Lgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数、増殖性ISC数も回復した(図5d)。したがってp38α活性は、mTORC1によるISC・絨毛老化に必要であることが示された。

図5 MKK6–p38α MAPK経路はTsc1欠損による絨毛早期老化を媒介する
a~c Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでMapk14を1アレル欠損させると、8か月齢での絨毛構造の悪化(a)、栄養吸収能の低下(b)、損傷後再生障害(c)が改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。d Mapk14半量不全により、Lgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数、増殖性ISC数の低下が改善した(PCNA・GFP免疫染色で評価)。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。
7.2 p38 MAPKはp53・p16の発現を増加させる
では、p38 MAPKはどの分子を介してISC増殖を抑えるのか。自然老化した陰窩とTsc1欠損による早期老化陰窩では、p53・p16の発現がいずれも増加していた。この増加はラパマイシンにより抑制され、Mapk14欠損やp38 MAPK阻害によっても低下した。したがってmTORC1活性化は、p38 MAPKを介してp53・p16ストレス応答を増強すると考えられた。
ただし両者の重要性は同じではなかった。Cdkn2a欠損マウスでは腸管組織像はほぼ正常で、Tsc1欠損による8か月齢の老化様組織変化もほとんど改善しなかった。したがってp16は、この系ではp53より小さな役割しか担わないと考えられた。
7.3 Trp53欠損はmTORC1によるISC・絨毛老化を大きく抑制する
そこでp53の役割を直接検証した。Trp53欠損単独では2か月齢・8か月齢とも絨毛構造に大きな異常はなかった。一方、Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスにTrp53欠損を組み合わせると、Tsc1欠損による絨毛・陰窩構造の悪化、栄養吸収低下、IR感受性増加、損傷後再生障害が大きく抑制された(図7a~c)。
Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでも、Trp53欠損により増殖性TA細胞の減少が改善し、Lgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数、増殖性ISC数も回復した(図7d)。したがってp53は、mTORC1–MKK6–p38 MAPK経路の下流でISC・前駆細胞の増殖を抑え、絨毛老化を実行する主要因子である。
以上から、mTORC1の持続的活性化はMKK6タンパク質合成を高めてp38 MAPKを活性化し、その下流でp53を増加させることでISC・TA細胞の増殖を抑制することが示された。すなわちmTORC1 → MKK6 → p38 MAPK → p53というストレス応答経路が、腸管幹細胞老化を実行する中心的な分子経路である。

図7 Trp53欠損はmTORC1による絨毛老化を抑制する
a~c Villin-Cre;Tsc1 f/fマウスでTrp53を欠損させると、8か月齢での絨毛・陰窩構造の悪化(a)、栄養吸収能の低下(b)、損傷後再生障害(c)が改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。d Lgr5-CreERT;Tsc1 f/fマウスでも、Trp53欠損によりLgr5陽性ISCを含む陰窩数、陰窩当たりのISC数、増殖性ISC数の低下が改善した(PCNA・GFP免疫染色で評価)。データは平均±SEM、各群N = 5。
8.mTORC1またはp38 MAPK阻害は自然老化した腸管機能を改善する
8.1 自然老化した陰窩でもMKK6–p38 MAPK経路が活性化する
これまでTsc1欠損モデルで示した経路が自然老化でも働くかを検証するため、3.5か月齢と17.5か月齢の正常マウスの陰窩を比較した。老齢マウスではMKK6タンパク質量とp38 MAPK活性が上昇し、p53・p16も増加していた。これらの変化は、16か月齢からの1.5か月間のラパマイシン投与で抑制された(図6a)。したがって自然老化でも、mTORC1活性化に伴いMKK6–p38 MAPK–p53経路が増強していることが確認された。

図6 p38 MAPK阻害はマウス腸絨毛の自然老化を改善する
a 17.5か月齢マウスの陰窩ではMKK6発現、p38 MAPK活性化、p53・p16発現が増加し、16か月齢からの1.5か月間のRAP投与により抑制された(右パネル:定量データ)。データは平均±SEM、各群N = 3。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。b~d 17.5か月齢マウスにSB203580を1.5か月間投与すると、絨毛・陰窩構造と増殖性TA細胞の低下(b)、栄養吸収能の低下(c)、損傷後再生障害(d)が改善した。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。e 17.5か月齢マウス由来minigutオルガノイドでは増殖・陰窩形成能が低下していたが、SB203580(2 μM)またはRAP(0.5 μM)添加により部分的に改善した。データは平均±SEM、各群N = 3。**P < 0.01(Studentのt検定)。f 2か月齢でMapk14を1アレル欠損させたLgr5-CreERT;Mapk14 f/+マウスでは、16か月齢でも老化様の絨毛構造異常が認められなかった。データは平均±SEM、各群N = 5。*P < 0.05、**P < 0.01(Studentのt検定)。
8.2 p38 MAPK阻害は老齢腸管の構造と機能を改善する
次に、16か月齢の正常マウスへp38 MAPK阻害剤SB203580を1.5か月間投与した。その結果、17.5か月齢でみられる絨毛・陰窩構造の悪化が改善し、減少していたKi67陽性TA細胞も回復した(図6b)。さらにL-グルコース、アミノ酸、脂肪酸の吸収能が改善し(図6c)、γ線照射6日後の絨毛・陰窩再生も改善した(図6d)。
したがってp38 MAPK活性化は、Tsc1欠損による早期老化だけでなく、自然老化した腸管の構造・機能低下にも関与していることが示された。
8.3 老齢マウス由来オルガノイドも薬理学的に回復する
17.5か月齢マウスから作製したminigutオルガノイドでは、若齢マウス由来と比べて増殖・陰窩形成が低下していた。しかし培養開始時から低濃度のSB203580またはラパマイシンを添加すると、増殖・陰窩形成が部分的に回復した(図6e)。
この結果は、両薬剤の作用が全身性の代謝変化のみによるものではなく、陰窩細胞に直接作用して幹細胞・前駆細胞機能を改善しうることを示している。さらに、2か月齢でMapk14を1アレル欠損させたLgr5-CreERT;Mapk14 f/+マウスでは、16か月齢になっても老化様の絨毛構造異常はみられなかった(図6f)。
以上から、自然老化した腸管でもmTORC1–MKK6–p38 MAPK経路が持続的に活性化しており、mTORC1またはp38 MAPKを抑制することで、すでに低下した幹細胞機能、絨毛構造、栄養吸収、再生能を部分的に回復できることが示された。これは腸管老化が固定的な不可逆変化だけではなく、少なくとも一部は持続的なシグナル活性に依存して維持されていることを示唆する。
9.結論:mTORC1はストレス応答を介して腸管幹細胞老化を駆動する
本研究では、加齢に伴って腸管幹細胞(ISC)とTA前駆細胞でmTORC1が過剰活性化し、これが幹細胞機能低下と絨毛老化を引き起こすことを示した。自然老化マウスでは絨毛・陰窩構造の縮小、栄養吸収能の低下、放射線損傷後の再生不全が認められ、これらはISC・TA細胞の数と増殖能の低下を伴っていた。
Tsc1欠損によってmTORC1を持続的に活性化すると、若齢期には陰窩・ISCの増殖が促進されたが、その後はISC数・増殖能が低下し、自然老化に類似した早期老化表現型へ転じた。ただし若齢期の陰窩過増殖を経ずにTsc1を欠損させても早期老化が生じたことから、この現象は単純な過剰増殖による幹細胞機能低下だけでは説明できなかった。
分子機構としては、mTORC1はMkk6の転写量を増やすのではなくMKK6タンパク質合成を促進してp38 MAPKを活性化し、p38 MAPKはさらにp53発現を増加させてISC・TA細胞の増殖を抑制していた。Mapk14の遺伝学的抑制やTrp53欠損によりISC数、絨毛構造、栄養吸収能、損傷後再生能が改善したことから、mTORC1 → MKK6 → p38 MAPK → p53経路が腸管幹細胞老化を媒介する主要なストレス応答経路であることが示された。
また自然老化マウスでもMKK6–p38 MAPK経路は活性化しており、ラパマイシンまたはp38 MAPK阻害剤SB203580により絨毛構造、栄養吸収、再生能、老齢マウス由来オルガノイドの増殖能が部分的に改善した。したがって腸管老化は固定的な変化のみによるものではなく、少なくとも一部は持続的なmTORC1–p38 MAPKシグナルに依存して維持されていると考えられる。
以上から本研究は、栄養感知シグナルであるmTORC1がMKK6–p38 MAPK–p53ストレス応答経路を介して腸管幹細胞機能を低下させ、組織老化へと変換する分子機構を明らかにした。
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